日本巫女史 第一篇:固有咒法時代


  • 第七章、精神文化に於ける巫女の職務

     巫女の職務を說くに當り、私は其を精神文化と物質文化の二つに區分して記述する事とした。勿論、此區分は、自分ながらも、決して學術的であると考へてゐる物では無い。全體、私が改めて言ふ迄も無く、巫女の職務と云へば、其悉くが信仰に基調を置いてゐるのであるから、精神文化を離れた物質文化等の在り樣筈は無いのであるが、併し同じ信仰に根差してゐる物の中でも、其間には直接的の物が有り、間接的の物が有る樣に、多少の相違の有る事は、又否定する事の出來ぬ事實である。神其の者としての巫女と、御陣女臈としての巫女とは、如何にするも、其間に職務の相違有るを認め無ければ成らず、更に、豫言者として巫女の職務と、收稅者としての巫女の職務とは、其對象に於いても、態度に於いても、徑庭の有る事を沒する譯には往かぬのである。其に、斯うして二つに區分する事が、讀んで貰うにも會得し易く、且つ記すにも便宜が有ると信じたので、非學術的であるとは知りながらも、試みて見たのである。而して茲に、精神文化とは、巫女の職務の中で、信仰と文學と藝術とに、特に交涉の深い物を抽出したのである。


  • [久遠の絆] [再臨ノ詔]