相聞、挽歌
真字萬葉集 卷第二 相聞、挽歌


相聞

  •  難波高津宮御宇天皇代 大鷦鷯天皇,諡曰仁德天皇。【仁德】

    0085 磐姬皇后思天皇御作歌四首

       君之行 氣長成奴 山多都禰 迎加將行 待爾可將待

       (きみ)()き 日長(けなが)()りぬ 山尋(やまたづ)ね (むか)へか()かむ (まち)にか()たむ

         君出行幸久 妾守空閨待日長 故尋山野間 妾當躬出參迎歟 或應徒然待復待

        磐姬皇后 0085

           右一首歌,山上憶良臣類聚歌林載焉。



    0086 【承前。】
       如此許 戀乍不有者 高山之 磐根四卷手 死奈麻死物呼

       如此許(かくばか)り (こひ)つつ()らずは 高山(たかやま)の 岩根(いはね)()きて ()益物(ましもの)

         戀慕如此許 思念之情苦難堪 不若遁高山 枕彼岩根永長眠 一死百了遏慕情

        磐姬皇后 0086


    0087 【承前。】
       在管裳 君乎者將待 打靡 吾黑髪爾 霜乃置萬代日

       (あり)つつも (きみ)をば()たむ 打靡(うちなび)く ()黑髮(くろかみ)に (しも)()(まで)

         亙長猶如此 不動待君俟伊人 垂髮千緒靡 直至烏玉吾黑髮 霜降置兮覆皓白

        磐姬皇后 0087


    0088 【承前。】

       秋田之 穗上爾霧相 朝霞 何時邊乃方二 我戀將息

       秋田(あきのた)の 穗上(ほのうへ)()らふ 朝霞(あさがすみ) 何時(いつ)への(かた)に ()戀止(こひや)まむ

         其若秋田間 穗上彌漫霧籠焉 朝霞不消散 吾戀何時方可止 能解憂慕晴霧哉

        磐姬皇后 0088


    0089 或本歌曰 【承前。】

       居明而 君乎者將待 奴婆珠能 吾黑髮爾 霜者零騰文

       居明(ゐあ)かして (きみ)をば()たむ 烏玉(ぬばたま)の ()黑髮(くろかみ)に (しも)()るとも

         徹夜通天明 妾身待君終此宵 縱令烏玉之 吾人青絲黑髮者 為霜降置覆皓白

        磐姬皇后 0089

           右一首,古歌集中出。



    0090 古事記曰:「輕太子姦輕太郎女,故其太子流於伊豫湯也。」此時衣通王,不堪戀慕而追徃時歌曰



  •  近江大津宮御宇天皇代 天命開別天皇,諡曰天智天皇。【天智】

    0091 天皇賜鏡王女御歌一首

       妹之家毛 繼而見麻思乎 山跡有 大嶋嶺爾 家母有猿尾【一云,妹之當,繼而毛見武爾。一云,家居麻之乎。】

       (いも)(いへ)も ()ぎて()ましを 大和(やまと)なる 大島(おほしま)()に (いへ)()(まし)一云(またいはく)(いも)(あたり)()ぎても()むに。一云(またいはく)家居(いへを)(まし)を。】

         親親吾妹家 若得繼見當何善 磯輪大和國 山跡大島之嶺間 此若有家則善矣【一云,吾妻妹之邊,吾欲常觀願繼見。一云,還願建家居此處。】

        天智天皇 0091


    0092 鏡王女奉和御歌一首 【承前。】

       秋山之 樹下隱 逝水乃 吾許曾益目 御念從者

       秋山(あきやま)の 木下隱(このしたがく)り 行水(ゆくみづ)の (あれ)こそ()さめ 御思(おもほ)すよりは

         其猶秋山間 木下行水流幽隱 水表無波瀾 水底深邃莫盡窮 吾念慕者勝御思

        鏡王女 0092


    0093 內大臣藤原卿娉鏡王女時,鏡王女贈內大臣歌一首

       玉匣 覆乎安美 開而行者 君名者雖有 吾名之惜裳

       玉匣(たまくしげ) (おほ)ふを(やす)み ()けて()なば (きみ)()はあれど ()()()しも

         玉匣麗櫛笥 覆隱安之雖容易 天明後歸者 縱汝不懼浮名立 妾恐蜚語惜身名

        鏡王女 0093


    0094 內大臣藤原卿報贈鏡王女歌一首 【承前。○續古今1146。】

       玉匣 將見圓山乃 狹名葛 佐不寐者遂爾 有勝麻之自【或本歌曰,玉匣,三室戶山乃。】

       玉匣(たまくしげ) 御室山(みむろのやま)の 真葛(さなかづら) 小寢(さね)ずは(つひ)に 有克(ありかつ)ましじ或本歌(あるふみのうた)(いは)く,玉匣(たまくしげ)三室戶山(みむろとやま)の。】

         玉匣麗櫛笥 御室三輪神山之 真葛喚小寢 吾若不遂共寐者 慕情難克欲不欲生【或本歌曰,玉匣麗櫛笥,三輪御室戶山之。】

        藤原鎌足 0094


    0095 內大臣藤原卿娶釆女安見兒時作歌一首

       吾者毛也 安見兒得有 皆人乃 得難爾為云 安見兒衣多利

       (あれ)はもや 安見兒得(やすみこえ)たり 皆人(みなひと)の 得難(えかて)にすと()ふ 安見兒得(やすみこえ)たり

         高嶺之花兮 吾娶采女安見兒 眾人云難得 人咸云彼難親近 吾獲采女安見兒

        藤原鎌足 0095


    0096 久米禪師娉石川郎女時歌五首

       水薦苅 信濃乃真弓 吾引者 宇真人佐備而 不欲常将言可聞 【禪師】

       水薦刈(みこもか)る 信濃真弓(しなぬのまゆみ) ()()かば 貴人(うまひと)さびて (いな)()はむ(かも) 禪師(ぜんじ)

         水薦苅薙兮 信濃真弓吾引者 窕汝猶引弓 可汝端莊若貴人 雖受吾窕云否哉

        久米禪師 0096


    0097 【承前。】

       三薦苅 信濃乃真弓 不引為而 強作留行事乎 知跡言莫君二 【郎女】

       水薦刈(みこもか)る 信濃真弓(しなぬのまゆみ) ()かずして 強作留業(しひさるわざ)を ()ると()()くに 郎女(いらつめ)

         水薦苅薙兮 信濃真弓不引者 強作留技者 欲擒故縱著絃業 莫云君知此技矣

        石川郎女 0097


    0098 【承前。】

       梓弓 引者隨意 依目友 後心乎 知勝奴鴨 【郎女】

       梓弓(あづさゆみ) ()かば(まにま)に ()らめども 後心(のちのこころ)を 知克(しりか)てぬかも 郎女(いらつめ)

         麗嚴梓弓矣 實為所引則隨性 依之從兮矣 然以不知其後心 何得輕許朦朧情

        石川郎女 0098


    0099 【承前。】

       梓弓 都良絃取波氣 引人者 後心乎 知人曾引 【禪師】

       梓弓(あづさゆみ) 弦緒取佩(つらをとりは)け 引人(ひくひと)は 後心(のちのこころ)を ()(ひと)()く 禪師(ぜんじ)

         麗嚴梓弓矣 取佩弦緒待勢發 引弓上弦者 知己後心誠真意 方引彼弓向伊人

        久米禪師 0099


    0100 【承前。】

       東人之 荷向篋乃 荷之緒爾毛 妹情爾 乘爾家留香問 【禪師】

       東人(あづまと)の 荷前箱(のさきのはこ)の 荷緒(にのを)にも (いも)(こころ)に ()りにける(かも) 禪師(ぜんじ)

         吾嬬東國之 東人貢調荷前箱 荷緒堅而結 伊人猶彼荷物緒 牢結堅乘繫吾心

        久米禪師 0100


    0101 大伴宿禰娉巨勢郎女時歌一首 【大伴宿禰,諱曰安麻呂也。難波(孝德)朝右大臣大紫大伴長德卿之第六子。平城(元明)朝,任大納言兼大將軍,薨也。】

       玉葛 實不成樹爾波 千磐破 神曾著常云 不成樹別爾

       玉葛(たまかづら) 實成(みな)らぬ()には 千早振(ちはやぶ)る (かみ)()くと()ふ ()らぬ木如(きごと)

         玉葛真葛兮 人云不結實木者 千早振神威 荒神憑談著其間 汝何絕情猶彼木

        大伴安麻呂 0101


    0102 巨勢郎女報贈歌一首 即近江(天智)朝大納言巨勢人卿之女也。【承前。】

       玉葛 花耳開而 不成有者 誰戀爾有目 吾孤悲念乎

       玉葛(たまかづら) (はな)のみ()きて ()らざるは ()(こひ)ならめ ()戀思(こひおも)ふを

         玉葛真葛兮 惟開花咲不結實 絕情如是者 蓋為誰之戀也歟 妾實戀慕寄思情

        巨勢郎女 0102


  •  明日香清御原宮御宇天皇代 天渟中原瀛真人天皇,諡曰天武天皇。【天武】

    0103 天皇賜藤原夫人御歌一首

       吾里爾 大雪落有 大原乃 古爾之鄉爾 落卷者後

       ()(さと)に 大雪降(おほゆきふ)れり 大原(おほはら)の ()りにし(さと)に ()らまくは(のち)

         吾里清御原 豪雪已降飛鳥地 今思大原之 故里何時零雨雪 蓋在往後須時日

        天武天皇 0103


    0104 藤原夫人奉和歌一首 【承前。】

       吾岡之 於可美爾言而 令落 雪之摧之 彼所爾塵家武

       ()(をか)の (おかみ)()ひて ()らしめし (ゆき)(くだ)けし 其處(そこ)()りけむ

         蓋為吾岡地 岡之龗神聞我訴 所澍霖雪者 彼雪摧兮碎霰華 散落其處令雪落

        藤原夫人 0104


  •  藤原宮御宇天皇代 高天原廣野姬天皇,諡曰持統天皇。元年丁亥。十一年,讓位輕太子(文武),尊號曰太上天皇也。【持統】

    0105 大津皇子竊下於伊勢神宮上來時,大伯皇女御作歌二首

       吾勢怙乎 倭邊遺登 佐夜深而 雞鳴露爾 吾立所霑之

       ()背子(せこ)を 大和(やまと)()ると 小夜更(さよふ)けて 曉露(あかときつゆ)に ()立濡(たちぬ)れし

         今送吾兄子 還歸磯輪大和國 徹夜終宵而 吾為曉露沾襟濕 淚漬露濡難辨分

        大伯皇女 0105


    0106 【承前。】

       二人行杼 去過難寸 秋山乎 如何君之 獨越武

       二人行(ふたりゆ)けど 行過難(ゆきすぎがた)き 秋山(あきやま)を 如何(いか)にか(きみ)が 獨越(ひとりこ)ゆらむ

         縱為結伴行 倆人相攜亦難越 險峻秋山者 如何兄子吾君矣 隻身獨越萬重山

        大伯皇女 0106


    0107 大津皇子贈石川郎女御歌一首

       足日木乃 山之四付二 妹待跡 吾立所沾 山之四附二

       足引(あしひき)の 山雫(やまのしづく)に 妹待(いもま)つと 我立濡(われたちぬ)れぬ 山雫(やまのしづく)

         嶮峻滯足兮 深山露滴雫之中 我妹待吾幸 翻山越嶺欲相見 我為山雫漬身濡

        大津皇子 0107


    0108 石川郎女奉和歌一首 【承前。】

       吾乎待跡 君之沾計武 足日木能 山之四附二 成益物乎

       ()()つと (きみ)()れけむ 足引(あしひ)きの 山雫(やまのしづく)に ()益物(ましもの)

         妾身孤苦待 汝云君襟沾雫濕 聽聞此言者 妾還欲化峻山雫 沾君衣裳濡君身

        大石川郎女 0108


    0109 大津皇子竊婚石川女郎時,津守連通占露其事,皇子御作歌一首 【未詳。】
       大船之 津守之占爾 將告登波 益為爾知而 我二人宿之

       大船(おほぶね)の 津守(つもり)(うら)に ()らむとは (まさ)しに()りて ()二人寢(ふたりね)

         大船出著兮 津守之徒所卜占 竟得占露矣 其占正也承知矣 我倆確已共相寢

        大津皇子 0109


    0110 日並(草壁)皇子尊贈賜石川女郎御歌一首 【女郎,字曰大名兒也。】
       大名兒 彼方野邊爾 苅草乃 束之間毛 吾忘目八

       大名兒(おほなこ)を 彼方野邊(をちかたのへ)に ()(かや)の 束間(つかのま)も 我忘(あれわす)れめや

         石川大名兒 彼方野邊刈萱草 汝猶刈草束 縱在束間片刻矣 轉瞬豈得忘吾耶

        日並皇子 0110


    0111 幸于吉野宮時,弓削皇子贈與額田王歌一首

       古爾 戀流鳥鴨 弓絃葉乃 三井能上從 鳴濟遊久

       (いにしへ)に ()ふる(とり)かも 弓絃葉(ゆづるは)の 御井上(みゐのうへ)より 鳴渡行(なきわたりゆ)

         此蓋懷故人 眷戀先帝飛鳥哉 其自弓絃葉 御井之上劃大虛 鳴渡翱翔越飛去

        弓削皇子 0111


    0112 額田王奉和歌一首 【從倭京進入。】
       古爾 戀良武鳥者 霍公鳥 蓋哉鳴之 吾念流碁騰

       (いにしへ)に ()ふらむ(とり)は 霍公鳥(ほととぎす) (けだ)しや()きし ()(おも)へる(ごと)

         所謂戀故人 眷懷亡者之鳥者 杜若霍公鳥 彼鳥蓋哉鳴念慕 猶吾追思憶父君

        額田王 0112


    0113 從吉野折取蘿生松柯遣時,額田王奉入歌一首

       三吉野乃 玉松之枝者 波思吉香聞 君之御言乎 持而加欲波久

       御吉野(みよしの)の 玉松(たままつ)()は ()しき(かも) (きみ)御言(みこと)を ()ちて(かよ)はく

         大和御吉野 苔生玉松之枝者 愛也令憐哉 玉枝寓傳君御言 捎來持通臻吾所

        額田王 0113


    0114 但馬皇女在高市皇子宮時,思穗積皇子御作歌一首

       秋田之 穗向乃所緣 異所緣 君爾因奈名 事痛有登母

       秋田(あきのた)の 穗向(ほむき)()れる 片寄(かたよ)りに (きみ)()りなな 言痛(こちた)くありとも

         禾稼秋田之 稻穗撓靡寄一方 吾欲如穗傾 但冀傾依緣君命 縱為蜚語傷不惜

        但馬皇女 0114


    0115 敕穗積皇子遣近江志賀山寺時,但馬皇女御作歌一首

       遺居而 戀管不有者 追及武 道之阿迴爾 標結吾勢

       (おく)()て ()ひつつ(あら)ずは 追及(おひし)かむ 道隈迴(みちのくまみ)に 標結(しめゆ)()()

         與其遺思慕 難堪戀念情苦者 莫若追及矣 還願兄子在道隈 每迴結標留識誌

        但馬皇女 0115


    0116 但馬皇女在高市皇子宮時,竊接穗積皇子,事既形而御作歌一首

       人事乎 繁美許知痛美 己世爾 未渡 朝川渡

       人言(ひとごと)を (しげ)言痛(こちた)み (おの)()に (いま)(わた)らぬ 朝川渡(あさかはわた)

         至今畏人言 以恐流言蜚語繁 己在此世間 未渡彼川避浮名 今則渡此朝川矣

        但馬皇女 0116


    0117 舍人皇子御歌一首

       大夫哉 片戀將為跡 嘆友 鬼乃益卜雄 尚戀二家里

       大夫(ますらを)や 片戀為(かたこひせ)むと (なげ)けども 醜大夫(しこのますらを) 尚戀(なほこ)ひにけり

         益荒大丈夫 雖嘆將為片戀哉 如此自省而 無奈己乃醜丈夫 雖疑尚戀難捨情

        舍人皇子 0117


    0118 舍人娘子奉和歌一首

       嘆管 大夫之 戀禮許曾 吾髮結乃 漬而奴禮計禮

       (なげ)きつつ 大夫(ますらを)(この) 戀觸(こふ)れこそ ()結髮(ゆふかみ)の ()ちて()れけれ

         汝雖作愁嘆 荒益丈夫情如斯 以汝戀觸者 妾身結髮漬而緩 濡烏黑髮自解矣

        舍人娘子 0118


    0119 弓削皇子思紀皇女御歌四首

       芳野河 逝瀨之早見 須臾毛 不通事無 有巨勢濃香問

       吉野川(よしのがは) 行瀨(ゆくせ)(はや)み (しま)しくも (よど)事無(ことな)く ()りこせぬかも

         濤濤吉野川 行瀨且速逝水急 片刻無梢淀 還願逢瀨無絕時 相通相守無阻滯

        弓削皇子 0119


    0120 【承前。】

       吾妹兒爾 戀乍不有者 秋芽之 咲而散去流 花爾有猿尾

       我妹子(わぎもこ)に (こひ)つつ()らずは 秋萩(あきはぎ)の (さき)(ちり)ぬる (はな)にあら(まし)

         吾戀妹兒矣 思慕之情苦難堪 與其戀煎熬 未若一猶秋荻花 咲而早散速零落

        弓削皇子 0120


    0121 【承前。】

       暮去者 鹽滿來奈武 住吉乃 淺鹿乃浦爾 玉藻苅手名

       夕去(ゆふさ)らば 潮滿來(しほみちき)なむ 住吉(すみよし)の 淺香浦(あさかのうら)に 玉藻刈(たまもか)りてな

         時至夕暮者 潮滿將來汐將盈 故惜當今時 墨江住吉淺香浦 刈來玉藻納吾懷

        弓削皇子 0121


    0122 【承前。】

       大船之 泊流登麻里能 絕多日二 物念瘦奴 人能兒故爾

       大船(おほぶね)の ()つる(とまり)の 搖蕩(たゆた)ひに 物思(ものおも)()せぬ 人兒故(ひとのこゆゑ)

         大船泊湊邊 隨浪搖蕩莫安寧 吾思猶彼船 身陷憂思姿形瘦 只為伊人是他妻

        弓削皇子 0121


    0123 三方沙彌娶園臣生羽之女,未經幾時臥病作歌三首

       多氣婆奴禮 多香根者長寸 妹之髮 比來不見爾 搔入津良武香 【三方沙彌。】

       ()けば()れ ()かねば(なが)き (いも)(かみ) 此頃見(このころみ)ぬに 搔入(かきい)()らむか 【三方沙彌(みかたのさみ)。】

         綰髮結而濡 解之垂髮兮則長 吾妹之髮矣 比來相離不見間 蓋以櫛立搔詰乎

        三方沙彌 0123


    0124 【承前。】

       人皆者 今波長跡 多計登雖言 君之見師髮 亂有等母 【娘子。】

       人皆(ひとみな)は (いま)(なが)しと ()けと()へど (きみ)()(かみ) (みだ)れたりとも 【娘子(をとめ)。】

         人皆論吾髮 云今髮長當結綰 然妾有所思 此髮只為君所見 青絲亂靡亦無妨

        園生羽女 0124


    0125 【承前。異傳歌 6-1027。】

       橘之 蔭履路乃 八衢爾 物乎曾念 妹爾不相而 【三方沙彌。】

       (たちばな)の 蔭踏(かげふ)(みち)の 八衢(やちまた)に (もの)をぞ(おも)ふ (いも)()はずして 【三方沙彌(みかたのさみ)。】

         非時香菓兮 今行橘蔭斑駁道 八衢路分別 吾人不覺沉憂思 只哀不得與妹逢

        三方沙彌 0125


    0126 石川女郎贈大伴宿禰田主歌一首 【即佐保大納言大伴卿之第二子。母曰巨勢朝臣也。】

       遊士跡 吾者聞流乎 屋戶不借 吾乎還利 於曾能風流士

       風流士(みやびを)と (われ)()けるを 宿貸(やどか)さず (われ)(かへ)せり (おそ)風流士(みやびを)

         吾聞君浮名 人云汝為風流士 然今不貸宿 不令我泊令歸去 可誠遲愚風流士

        石川女郎 0126

           大伴田主,字曰仲郎。容姿佳艷,風流秀絕。見人聞者,靡不歎息也。時有石川女郎,自成雙栖之感,恒悲獨守之難。意欲寄書,未逢良信。爰作方便,而似賤嫗。己提堝子,而到寢側,哽音蹢足,叩戶諮曰:「東隣貧女,將取火來矣。」於是仲郎,暗裏非識冒隱之形,慮外不堪拘接之計。任念取火,就跡歸去也。明後女郎,既恥自媒之可愧,復恨心契之弗果。因作斯歌,以贈謔戲焉。



    0127 大伴宿禰田主報贈歌一首 【承前。】

       遊士爾 吾者有家里 屋戶不借 令還吾曾 風流士者有

       風流士(みやびを)に (われ)()りけり 宿貸(やどか)さず (かへ)しし(われ)そ 風流士(みやびを)にはある

         遊士非俗矣 風流士者吾是也 不貸宿令歸 吾人高邁恪言行 方為正銘風流士

        大伴田主 0127


    0128 同石川女郎更贈大伴田主中郎歌一首 【承前。】

       吾聞之 耳爾好似 葦若末乃 足痛吾勢 勤多扶倍思

       ()()きし (みみ)()()る 葦末(あしのうれ)の 足引(あしひ)()() 勉給(つとめた)ぶべし

         其似吾耳聞 傳聞實矣誠不虛 葦末足疾兮 足引罹病吾兄子 汝當勉兮勤療養

        石川女郎 0128

           右,依中郎足疾,贈此歌問訊也。



    0129 大津皇子宮侍(みやのまかだち)石川女郎贈大伴宿禰宿奈麻呂歌一首 【女郎,字曰山田郎女也。宿奈麻呂宿禰者,大納言兼大將軍卿(大伴安麻呂)之第三子也。】
       古之 嫗爾為而也 如此許 戀爾將沈 如手童兒【一云,戀乎大爾,忍金手武,多和良波乃如。】

       ()りにし (おみな)にしてや 如此許(かくばか)り (こひ)(しづ)まむ 手童(たわらは)(ごと)一云(またにいふ)(こひ)をだに,忍兼(しのびか)ねてむ,手童(たわらは)(ごと)。】

         歲月摧人老 年華不再化嫗為 然以如此許 溺戀沉慕情不止 一猶手弱幼童矣【一云,如今逢戀者,竟不能忍焦為情,一猶手弱幼童矣。】

        石川女郎山田郎女 0129


    0130 長皇子與皇弟(弓削皇子)御歌一首

       丹生乃河 瀨者不渡而 由久遊久登 戀痛吾弟 乞通來禰

       丹生川(にふのかは) ()(わた)らずて ()()くと 戀痛(こひいた)()() いで通來(かよひこ)

         丹生川且急 遍尋淺瀨莫得渡 願勿顧瀨深 甚慕吾弟情難抑 冀速直行通來矣

        長皇子 0130


    0131 柿本朝臣人麻呂從石見國別妻上來時歌二首 【并短歌。時歌第ㄧ。

       石見乃海 角乃浦迴乎 浦無等 人社見良目 滷無等【一云,礒無登。】 人社見良目 能咲八師 浦者無友 縱畫屋師 滷者無鞆【一云,礒者】 鯨魚取 海邊乎指而 和多豆乃 有礒乃上爾 香青生 玉藻息津藻 朝羽振 風社依米 夕羽振流 浪社來緣 浪之共 彼緣此依 玉藻成 依宿之妹乎【一云,波之伎余思,妹之手本乎。】 露霜乃 置而之來者 此道乃 八十隈毎 萬段 顧為騰 彌遠爾 里者放奴 益高爾 山毛越來奴 夏草之 念思奈要而 志怒布良武 妹之門將見 靡此山

       石見海(いはみのうみ) 角浦迴(つののうらみ)を 浦無(うらな)しと (ひと)こそ()らめ 潟無(かたな)しと一云(なたにいふ)磯無(いそな)しと。】 (ひと)こそ()らめ (よし)ゑやし (うら)()くとも (よし)ゑやし (かた)()くとも一云(またにいふ)(いそ)は。】 鯨魚取(いさなと)り 海邊(うみへ)()して 熟田津(にきたづ)の 荒礒上(ありそのうへ)に か(あを)()ふる 玉藻沖藻(たまもおきつも) 朝羽振(あさはふ)る (かざ)こそ()せめ 夕羽振(ゆふはふ)る (なみ)こそ來寄(きよ)れ (なみ)(むた) か()如是寄(かくよ)り 玉藻(たまも)なす 寄寢(よりね)(いも)一云(またはいふ)()しき()し,(いも)手本(たもと)を。】 露霜(つゆしも)の ()きてし()れば 此道(このみち)の 八十隈每(やそくまごと)に 萬度(よろづたび) 返見(かへりみ)すれど 彌遠(いやとほ)に (さと)(さか)りぬ 彌高(いやたか)に (たま)越來(こえき)ぬ 夏草(なつくさ)の 思萎(おもひしな)えて (しの)ふらむ (いも)門見(かどみ)む (なび)此山(このやま)

         蔦這石見海 角地浦迴灣岸邊 若無浦岸者 人蓋有興觀之耶 若無潟岸者【一云,若無磯岸者。】 人蓋有興觀之耶 縱橫任隨矣 縱令彼地無浦岸 縱橫任隨矣 縱令彼地無潟岸【一云,縱令彼地無磯岸。】 鯨魚獵取兮 指岸而去向海邊 道後熟田津 荒磯之上岩岸邊 蒼翠茂繁漫生兮 玉藻也矣沖津藻 朝晨振羽拂 疾風吹兮寄來矣 夕暮振羽搏 駭浪湧兮寄來矣 相共與彼浪 寄矣如是寄來兮 如彼玉藻而 寄來相寢吾妹妻【一云,愛也令憐兮,妹妻上膊纖手腕。】 露凝霜降兮 吾置愛妻來此者 漫步此道間 每至諸曲八十隈 千度復萬度 迴首顧見觀故地 益遙更彌遠 吾離故里至于此 益險更彌高 吾越群山來于此 靡綯夏草兮 妹妻慕吾心念萎 慕吾佇家門 我亦欲見妹妻門 唯恨此山未靡平

        柿本人麻呂 0131


    0132 反歌二首 【承前,反歌其一。】

       石見乃也 高角山之 木際從 我振袖乎 妹見都良武香

       石見(いはみ)のや 高角山(たかつのやま)の 木間(このま)より ()振袖(ふるそで)を 妹見(いもみ)つらむか

         蔦這石見國 高角山之木際間 越彼林間隙 吾揮振袖惜別者 愛妻吾妹可見歟

        柿本人麻呂 0132


    0133 【承前,反歌其二。○新古今0900。】

       小竹之葉者 三山毛清爾 亂友 吾者妹思 別來禮婆

       笹葉(ささのは)は 御山(みやま)(さや)に (さや)げども (あれ)妹思(いもおも)ふ 別來(わかれき)ぬれば

         山間笹葉者 風吹小竹發響鳴 此地雖騷騷 然吾執意無他念 一心思妻別來矣

        柿本人麻呂 0133


    0134 或本反歌曰 【承前,或本反歌。】

       石見爾有 高角山乃 木間從文 吾袂振乎 妹見監鴨

       石見(いはみ)なる 高角山(たかつのやま)の 木間(このま)ゆも ()袖振(そでふ)るを 妹見(いもみ)けむかも

         蔦這石見國 自其高角山林中 越彼木際間 吾揮振袖惜別者 愛妻可嘗見得哉

        柿本人麻呂 0134


    0135 【承前,時歌第二。】

       角障經 石見之海乃 言佐敝久 辛乃埼有 伊久里爾曾 深海松生流 荒礒爾曾 玉藻者生流 玉藻成 靡寐之兒乎 深海松乃 深目手思騰 左宿夜者 幾毛不有 延都多乃 別之來者 肝向 心乎痛 念乍 顧為騰 大舟之 渡乃山之 黃葉乃 散之亂爾 妹袖 清爾毛不見 嬬隱有 屋上乃山【一云,室上山。】乃 自雲間 渡相月乃 雖惜 隱比來者 天傳 入日刺奴禮 大夫跡 念有吾毛 敷妙乃 衣袖者 通而沾奴

       (つの)()ふ 石見海(いはみのうみ)の 言騷(ことさへ)く 韓崎(からのさき)なる 海石(いくり)にそ 深海松生(ふかみるお)ふる 荒礒(ありそ)にそ 玉藻(たまも)()ふる 玉藻(たまも)なす 靡寢(なびきね)()を 深海松(ふかみる)の (ふか)めて(おも)へど 小寢(さね)()は 幾許(いく)()らず 延蔦(はふつた)の (わか)れし()れば 肝向(きもむか)ふ (こころ)(いた)み (おも)ひつつ 返見(かへりみ)すれど 大船(おほぶね)の 渡山(わたりのやま)の 黃葉(もみちば)の ()りの(まが)ひに (いも)(そで) (さや)にも()えず 妻隱(つまごも)る 屋上山(やかみのやま)一云(みたにいふ)室上山(むろかみやま)。】の 雲間(くもま)より (わた)らふ(つき)の ()しけども (かく)らひ()れば 天傳(あまづた)ふ 入日射(いりひさ)しぬれ 大夫(ますらを)と (おも)へる(あれ)も 敷栲(しきたへ)の 衣袖(ころものそで)は (とほ)りて()れぬ

         蔦蔓攀岩兮 蔦這石見國之海 言騷且喧雜 韓崎辛岬之所在 暗礁海石上 深海松藻生息焉 荒磯礒礁上 珠藻玉藻生息焉 一猶彼玉藻 臥身靡寢吾妻矣 吾雖念愛妻 其思邃如深海松 然顧相寢夜 寥寥可數莫幾許 延蔦枝岐兮 相別相分而來者 肝腑相向兮 吾心苦痛傷離情 如此沉憂思 迴首顧見望來處 大船湊渡兮 渡津之山葉黃變 黃葉俄遷落 零兮舞降散紛亂 故吾妻振袖 無以清見難晰賭 與妻相隱籠 其猶屋上山之巔【一云,其猶室上山之巔。】 自山上雲間 行渡大虛蔽月者 惋惜情難捨 其姿隱蔽不見時 天傳普照下 沒日餘暉今已盡 吾雖大丈夫 身雖壯士見此景 興感何能抑 白妙敷栲衣袖漬 涓然淚下濡裳濕

        柿本人麻呂 0135


    0136 反歌二首 【承前,反歌其一。】

       青駒之 足搔乎速 雲居曾 妹之當乎 過而來計類【一云,當者,隱來計留。】

       青駒(あをこま)が 足搔(あが)きを(はや)み 雲居(くるゐ)にそ (いも)(あたり)を ()ぎて()にける一云(またにいふ)(あたり)は,隱來(かくりき)にける。】

          青駒千里馬 足騷且速馳且疾 遙遙雲居處 吾妻在所轉瞬過 來此已位九霄外【一云,吾妻在所轉瞬過 隱兮不見九霄外。】

        柿本人麻呂 0136


    0137 【承前,反歌其二。】

       秋山爾 落黃葉 須臾者 勿散亂曾 妹之當將見【一云,知里勿亂曾。】

       秋山(あきやま)に ()つる黃葉(もみちば) (しま)しくは 勿散亂(なちりまが)ひそ (いも)(あた)()一云(またにいふ)()勿亂(なまが)ひそ。】

         蕭瑟秋山間 俄遷零落黃葉矣 願暫留稍時 還勿散亂紛吾目 吾仍欲見妻在所【一云,汝雖散兮莫紛亂。】

        柿本人麻呂 0137


    0138 或本歌一首 【并短歌。承前,或本時歌。

       石見之海 津乃浦乎無美 浦無跡 人社見良米 滷無跡 人社見良目 吉咲八師 浦者雖無 縱惠夜思 滷者雖無 勇魚取 海邊乎指而 柔田津乃 荒礒之上爾 蚊青生 玉藻息都藻 明來者 浪己曾來依 夕去者 風己曾來依 浪之共 彼依此依 玉藻成 靡吾宿之 敷妙之 妹之手本乎 露霜乃 置而之來者 此道之 八十隈毎 萬段 顧雖為 彌遠爾 里放來奴 益高爾 山毛超來奴 早敷屋師 吾嬬乃兒我 夏草乃 思志萎而 將嘆 角里將見 靡此山

       石見海(いはみのうみ) 津浦(つのうら)()み 浦無(うらな)しと (ひと)こそ()らめ 潟無(かたな)しと (ひと)こそ()らめ (よし)ゑやし (うら)()くとも (よし)ゑやし (かた)()くとも 鯨魚取(いさなと)り 海邊(うみへ)()して 熟田津(にきたつ)の 荒礒上(ありそのうへ)に か(あを)()ふる 玉藻沖藻(たまもおきつも) 明來(あけく)れば (なみ)こそ來寄(きよ)れ 夕去(ゆふさ)れば (かぜ)こそ來寄(きよ)れ (なみ)(むた) か()如是寄(かくよ)り 玉藻(たまも)なす (なび)()()し 敷栲(しきたへ)の (いも)手本(たもと)を 露霜(つゆしも)の ()きてし()れば 此道(このみち)の 八十隈每(やそくまごと)に 萬度(よろづたび) 返見(かへりみ)すれど 彌遠(いやとほ)に 里離來(さとさかりき)ぬ 彌高(いやたか)に (やま)越來(こ來き)ぬ ()しきやし ()妻兒(つまのこ)が 夏草(なつくさ)の 思萎(おもひな)えて (なげ)くらむ 角里見(つののさとみ)む (なび)此山(このやま)

         蔦這石見海 津之浦迴灣岸邊 若無浦岸者 人蓋有興觀之耶 若無潟岸者 人蓋有興觀之耶 縱橫任隨矣 縱令彼地無浦岸 縱橫任隨矣 縱令彼地無潟岸 鯨魚獵取兮 指岸而去向海邊 道後熟田津 荒磯之上岩岸邊 蒼翠茂繁漫生兮 玉藻也矣沖津藻 朝晨天方明 疾風吹兮寄來矣 夕暮昏近晚 駭浪湧兮寄來矣 相共與彼浪 四方寄來如是兮 猶彼玉藻而 靡躺與吾相寢之 白妙敷栲兮 妹妻纖手玉腕上 露凝霜降兮 吾置愛妻來此者 漫步此道間 每至諸曲八十隈 千度復萬度 迴首顧見啟行處 益遙更彌遠 吾離故里至于此 益嶮更彌高 吾越群山來于此 愛也甚憐兮 親親吾妻我妻兒 靡綯夏草兮 妹妻慕吾心念萎 津浦角里吾欲見 恨欲靡兮平此山

        柿本人麻呂 0138


    0139 反歌一首 【承前,或本反歌。】

       石見之海 打歌山乃 木際從 吾振袖乎 妹將見香

       石見海(いはみのうみ) 打歌山(うつたのやま)の 木間(このま)より ()()(そで)を 妹見(いもみ)つらむか

         蔦這石見海 自其打歌山林中 越彼木際間 吾所惜別揮袖姿 愛妻可嘗見得歟

        柿本人麻呂 0139

           右,歌軆雖同,句句相替。因此重載。



    0140 柿本朝臣人麻呂妻依羅娘子與人麻呂相別歌一首 【承前。】

       勿念跡 君者雖言 相時 何時跡知而加 吾不戀有牟

       勿思(なおも)ひそと (きみ)()ふとも ()はむ(とき) 何時(いつ)()りてか ()()ひざらむ

         君籲勿掛心 雖聞汝言莫念者 然此一去者 若知何日得再逢 吾豈焦戀至如此

        伊羅娘子 0140






    挽歌

  •  後岡本宮御宇天皇代 天豐財重日足姬天皇,讓位後,即後岡本宮。【齊明】

    0141 有間皇子自傷結松枝歌二首

       磐白乃 濱松之枝乎 引結 真幸有者 亦還見武

       岩代(いはしろ)の 濱松(はままつ)()を 引結(ひきむす)び 真幸(まさき)()らば 復歸見(またかへりみ)

         熊野岩代之 斷崖岸上聳濱松 引結祈松枝 若得真幸旅無恙 歸來復見此結松

        有間皇子 0141


    0142 【承前。】

       家有者 笥爾盛飯乎 草枕 旅爾之有者 椎之葉爾盛

       (いへ)()れば ()()(いひ)を 草枕(くさまくら) (たび)にしあれば 椎葉(しひのは)()

         若在家居者 盛飯笥中為膳而 草枕羈旅間 人在異處無食器 徑取椎葉盛飯饗

        有間皇子 0142


    0143 長忌寸意吉麻呂見結松哀咽歌二首 【承前。】

       磐代乃 崖之松枝 將結 人者反而 復將見鴨

       岩代(いはしろ)の 岸松(きしのまつ)() (むす)びけむ (ひと)(かへ)りて 復見(またみ)けむかも

         熊野岩代之 斷崖岸上濱松枝 相傳結彼枝 有間皇子蓋得歸 復見結松還願歟

        長意吉麻呂 0143


    0144 【承前。】

       磐代之 野中爾立有 結松 情毛不解 古所念 【未詳。古傳意吉麻呂所著而有疑矣。

       岩代(いはしろ)の 野中(のなか)()てる 結松(むすびまつ) (こころ)()けず 古思(いにしへおも)ほゆ

         熊野岩代之 野中聳立古松者 猶比松結目 結枝仍在心不解 感慨思古慕幽情

        長意吉麻呂 0144


    0145 山上臣憶良追和歌一首 【承前。】

       鳥翔成 有我欲比管 見良目杼母 人社不知 松者知良武

       翼成(つばさな)す 蟻通(ありがよ)ひつつ ()らめども (ひと)こそ()らね (まつ)()るらむ

         汝御靈化鳥 往來蟻通翔虛空 俯瞰憂世哉 人無從知身後事 唯有結松能知悉

        山上憶良 0145

           右件歌等,雖不挽柩之時所作,准擬歌意。故以載于挽歌類焉。翼成(つばさな)す,或訓鳥翔成(あまかけり)。】



    0146 大寶元年辛丑,幸于紀伊國時,見結松歌一首 【柿本朝臣人麻呂歌集中出也。】

       後將見跡 君之結有 磐代乃 子松之宇禮乎 又將見香聞

       後見(のちみ)むと (きみ)(むす)べる 岩代(いはしろ)の 小松(こまつ)(うれ)を (また)()(かも)

         君所以結松 乃為後日得再見 熊野岩代之 崖岸濱松枝末梢 其後蓋得復睹哉

        柿本人麻呂 0146


  •  近江大津宮御宇天皇代 天命開別天皇,諡曰天智天皇。【天智】

    0147 天皇聖躬不豫(みやまひ)之時,太后(倭姬王)奉御歌一首

       天原 振放見者 大王乃 御壽者長久 天足有

       天原(あまのはら) 振放見(ふりさけみ)れば 大君(おほきみ)の 御壽(みいのち)(なが)く 天足(あまた)らしたり

         久方高天原 振放昂首仰見者 英明我聖皇 寶壽久長比南山 御命盈天滿大虛

        倭皇后 0147


    0148 一書曰,近江天皇聖軆不豫,御病急時,太后(倭姬王)奉獻御歌一首 【承前。】

       青旗乃 木旗能上乎 賀欲布跡羽 目爾者雖視 直爾不相香裳

       青旗(あをはた)の 木幡上(こはたのうへ)を (かよ)ふとは ()には()れども (ただ)()はぬかも

         青旗儀仗之 木幡之上御靈過 翔天歸故京 此情此景雖歷目 然恨不復直相逢

        倭皇后 0148


    0149 天皇崩後之時,倭太后(倭姬王)御作歌一首 【○續古今1392。】

       人者縱 念息登母 玉縵 影爾所見乍 不所忘鴨

       (ひと)(よし) 思止(おもひや)むとも 玉葛(たまかづら) (かげ)()えつつ (わす)らえぬかも

         人縱能止思 縱令一旦抑悲嘆 玉葛御蔭冠 吾每觸景更生情 輒見面影不能忘

        倭皇后 0149


    0150 天皇崩時,婦人作歌一首 姓氏未詳

       空蟬師 神爾不勝者 離居而 朝嘆君 放居而 吾戀君 玉有者 手爾卷持而 衣有者 脫時毛無 吾戀 君曾伎賊乃夜 夢所見鶴

       ()つせ()し (かみ)()へねば 離居(はなれゐ)て 朝嘆(あさなげ)(きみ) 放居(さかりゐ)て ()()ふる(きみ) (たま)ならば ()卷持(まきも)ちて (きぬ)ならば ()(とき)()く ()()ふる (きみ)昨夜(きぞのよ) (いめ)見得(みえ)つる

         空蟬浮身者 隨命莫得逆神意 分別離居而 吾朝嘆慕我大君 捨置放居而 吾心所戀我大君 汝若為玉者 還願手纏不離身 汝若為衣者 只冀肌身無刻褪 如此吾癡戀 礭如明達我大君 昨夜得見在夢中

        婦人 0150


    0151 天皇大殯之時歌二首

       如是有乃 懷知勢婆 大御船 泊之登萬里人 標結麻思乎 【額田王。】

       如是(かか)らむと ()ねて()りせば 大御船(おほみふね) ()てし(とま)りに 標結(しめゆ)(まし) 【額田王(めかたのおほきみ)。】

         後悔總莫及 若得豫知事如此 絢爛大御船 吾君御船所泊湊 結標護之祈神貺

        額田王 0151


    0152 【承前,時歌第二。】

       八隅知之 吾期大王乃 大御船 待可將戀 四賀乃辛埼 【舍人吉年。】

       八隅治(やすみし)し ()大君(おほきみ)の 大御船(おほみふね) ()ちか()ふらむ 志賀唐崎(しがのからさき) 【舍人吉年(とねりよしとし)。】

         八隅治天下 經綸恢弘我大君 志賀之唐崎 待君御船歸岸者 焦戀遙遙無盡期

        舍人吉年 0152


    0153 太后御歌一首 【承前。】

       鯨魚取 淡海乃海乎 奧放而 榜來船 邊附而 榜來船 奧津加伊 痛勿波禰曾 邊津加伊 痛莫波禰曾 若草乃 嬬之 念鳥立

       鯨魚取(いさなと)り 近江海(あふみのうみ)を 沖離(おきさ)けて 漕來(こぎく)(ふね) ()()きて 漕來(こぎく)(ふね) 沖櫂(おきつかい) (いた)勿撥(なは)ねそ 邊櫂(へつかい) (いた)勿撥(なは)ねそ 若草(わかくさ)の (つま)の (おも)鳥立(とりた)

         鯨魚獵取兮 淡海近江之海矣 離彼海沖津 划槳漕來之船矣 向海岸邊津 划槳漕來之船矣 沖津舸船櫂 願勿荒撥櫂甚矣 邊津舸船櫂 願勿荒撥櫂甚矣 親親若草吾夫之 所慈思翫鳥飛立

        倭皇后 0153


    0154 石川夫人歌一首 【承前。】

       神樂浪乃 大山守者 為誰可 山爾標結 君毛不有國

       樂浪(ささなみ)の 大山守(おほやまもり)は ()(ため)か (やま)標結(しめゆ)ふ (きみ)()()くに

         碎波樂浪之 大山守人番尉者 汝奉為何人 張繩結標此山歟 殊知大君不復在

        石川夫人 0154


    0155 從山科御陵退散之時,額田王作歌一首

       八隅知之 和期大王之 恐也 御陵奉仕流 山科乃 鏡山爾 夜者毛 夜之盡 晝者母 日之盡 哭耳呼 泣乍在而哉 百礒城乃 大宮人者 去別南

       八隅治(やすみし)し ()大君(おほきみ)の (かしこ)きや 御陵仕(みはかつか)ふる 山科(やましな)の 鏡山(かがみのやま)に (よる)はも ()(ことごと) (ひる)はも ()(ことごと) ()のみを ()きつつありてや 百敷(ももしき)の 大宮人(おほみやひと)は 行別(ゆきわか)れなむ

         八隅治天下 經綸恢弘我大君 誠惶亦誠恐 奉公仕造大御陵 山背山科之 山城國間鏡山上 時值黑夜者 徹夜通宵至未明 時值白晝者 終日盡明至西斜 發聲痛哀啼 號泣哭鳴無絕時 百敷大宮人 汝棄悲絕大宮人 撒手人間獨別去

        額田王 0155


  •  明日香清御原宮御宇天皇代 天渟中原瀛真人天皇,諡曰天武天皇。【天武】

    0156 十市皇女薨時,高市皇子尊御作歌三首

       三諸之 神之神須疑 已具耳矣 自得見監乍共 不寢夜敘多

       三諸(みもろ)の 三輪神杉(みわのかむすぎ) 已具耳矣(未詳) 自得見監乍共(未詳) ()ねぬ()(おお)

         御室三諸之 美和三輪神杉矣 惜彼逝去而 難捨顧念雖凝視 不寢難眠長夜多

        高市皇子 0156


    0157 【承前,其二。】

       神山之 山邊真蘇木綿 短木綿 如此耳故爾 長等思伎

       三輪山(みわやま)の 山邊真麻木綿(やまへまそゆふ) (みじ)木綿(ゆふ) 如此(かく)のみ(ゆゑ)に (なが)くと(おも)ひき

         大神三輪山 山邊真麻木綿矣 真木綿且短 雖彼命緒短如此 吾念其長願稀齡

        高市皇子 0157


    0158 【承前,其三。】

       山振之 立儀足 山清水 酌爾雖行 道之白鳴

       山吹(やまぶき)の 立裝(たちちよそ)ひたる 山清水(やましみづ) ()みに()かめど (みち)()()

         晚春山吹花 黃儀盛開飾一面 泉湧山清水 吾欲汲之與相晤 無奈莫知黃泉路

        高市皇子 0158

           紀曰,七年戊寅夏四月丁亥朔癸巳,十市皇女卒然病發,薨於宮中。



    0159 天皇(天武)崩之時,大后御作歌一首

       八隅知之 我大王之 暮去者 召賜良之 明來者 問賜良志 神岳乃 山之黃葉乎 今日毛鴨 問給麻思 明日毛鴨 召賜萬旨 其山乎 振放見乍 暮去者 綾哀 明來者 裏佐備晚 荒妙乃 衣之袖者 乾時文無

       八隅治(やすみし)し ()大君(おほきみ)の 夕去(ゆふさ)れば ()(たま)ふらし 明來(あけく)れば 訪賜(とひたま)ふらし 神丘(かみをか)の (やま)黃葉(もむち)を 今日(けふ)もかも 訪賜(とひたま)はまし 明日(あす)もかも ()(たま)はまし 其山(そのやま)を 振放見(ふりさけみ)つつ 夕去(ゆふさ)れば (あや)(かな)しみ 明來(あけく)れば 衷寂暮(うらさびく)らし 荒栲(あらたへ)の 衣袖(ころものそで)は ()(とき)()

         八隅治天下 經綸恢弘我大君 時值夕暮者 大君御魂所觀覽 時值曦明者 大君御魂所造訪 神丘神奈備 神奈備山黃葉矣 或在於今日 吾君御魂訪此地 或在於明日 吾君御魂見此地 今吾振昂首 舉頭仰觀視其山 時值夕暮者 悲從衷來情哀切 時值曦明者 心寂衷寞暮呆然 藤織荒妙之 喪衣之袖每淚濕 霑襟漬濡無乾時

        持統天皇 0159


    0160 一書曰,天皇崩之時,太上(持統)天皇御製歌二首 【承前。】

       燃火物 取而裹而 福路庭 入澄不言八面 智男雲

       ()ゆる()も ()りて(つつ)みて (ふくろ)には ()ると()はずやも 智男雲(未詳)

         汝命長方術 雖為燃火能取之 裹而入袋中 人云汝能行奇跡 蘇生法之可曾聞

        持統天皇 0160


    0161 【承前,其二。】

       向南山 陳雲之 青雲之 星離去 月矣離而

       北山(きたやま)に 棚引(たなび)(くも)の 青雲(あをくも)の 星離行(ほしはなれゆ)き (つき)(はな)れて

         北岳南首山 天高棚引陳雲之 離俗青雲者 汝離星行又離月 留置妻子逕行去

        持統天皇 0161


    0162 天皇(天武)崩之後八年九月九日,奉為御齋會之夜,夢裏習賜御歌一首 【古歌集中出。】

       明日香能 清御原乃宮爾 天下 所知食之 八隅知之 吾大王 高照 日之皇子 何方爾 所念食可 神風乃 伊勢能國者 奧津藻毛 靡足波爾 鹽氣能味 香乎禮流國爾 味凝 文爾乏寸 高照 日之御子

       明日香(あすか)の 清御原宮(きよみのみや)に 天下(あめのした) 知召(しらしめ)しし 八隅治(やすみし)し ()大君(おほきみ) 高照(たかて)らす 日皇子(ひのみこ) 何方(いかさま)に (おも)ほし()せか 神風(かむかせ)の 伊勢國(いせのくに)は 沖藻(おきつも)も ()みたる(なみ)に 鹽氣(いほけ)のみ (かを)れる(くに)に 味凝(うまこ)り (あや)(とも)しき 高照(たかて)らす 日皇子(ひのみこ)

         寓宇明日香 飛鳥淨御原宮間 經緯天之下 八紘四海所知馭 八隅治社稷 經綸恢弘我大君 空高輝曜照 日嗣諸皇子 彼等想如何 皇子念君情依依 其自神風之 浪重浪歸伊勢國 靡盪沖津藻 濤湧濤擊白浪間 鹽器潮香之 海味薰滿可怜國 味凝味凍兮 心思所引難自己 高照日皇子 遠歸來詣君

        持統天皇 0162


  •  藤原宮御宇天皇代 高天原廣野姬天皇。天皇元年丁亥十一年,讓位輕太子。尊號曰太上天皇。【持統】

    0163 大津皇子薨之後,大來皇女從伊勢齋宮上京之時,御作歌二首

       神風乃 伊勢能國爾母 有益乎 奈何可來計武 君毛不有爾

       神風(かむかぜ)の 伊勢國(いせのくに)にも ()(まし)を (なに)しか()けむ (きみ)()()くに

         迅風神風之 傍國可怜伊勢國 不若留彼國 今何徒勞來京畿 君已斷魂不復在

        大伯皇女 0163


    0164 【承前,其二。】

       欲見 吾為君毛 不有爾 奈何可來計武 馬疲爾

       ()まく()り ()がする(きみ)も ()()くに (なに)しか()けむ 馬疲(うまつか)るるに

         妾之欲晤逢 吾君斷魂赴泉路 君既不在此 今何枉費來京畿 徒令馬疲增虛歎

        大伯皇女 0164


    0165 移葬大津皇子屍於葛城二上山之時,大來皇女哀傷御作歌二首

       宇都曾見乃 人爾有吾哉 從明日者 二上山乎 弟世登吾將見

       ()つそ()の (ひと)なる(われ)や 明日(あす)よりは 二上山(ふたがみやま)を 弟背(いろせ)()()

         空蟬憂世間 浮身凡人吾是耶 自於明日起 當眺河內二上山 如視胞弟化生姿

        大伯皇女 0165


    0166 【承前,其二。】

       礒之於爾 生流馬醉木乎 手折目杼 令視倍吉君之 在常不言爾

       磯上(いそのうへ)に ()ふる馬醉木(あしび)を 手折(たを)らめど ()すべき(きみ)が (あり)()()くに

         水畔岩磯上 茂然叢生馬醉木 吾雖欲折枝 然歎當翫君不在 無人能賞徒欷歔

        大伯皇女 0166

           右一首,今案不似移葬之歌。蓋疑從伊勢神宮還京之時,路上見花,感傷哀咽作此歌乎。



    0167 日並皇子尊(草壁皇子)殯宮之時,柿本朝臣人麻呂作歌一首 【并短歌。】

       天地之 初時 久堅之 天河原爾 八百萬 千萬神之 神集 集座而 神分 分之時爾 天照 日女之命【一云,指上,日女之命。】 天乎婆 所知食登 葦原乃 水穗之國乎 天地之 依相之極 所知行 神之命等 天雲之 八重搔別而【一云,天雲之,八重雲別而。】 神下 座奉之 高照 日之皇子波 飛鳥之 淨之宮爾 神隨 太布座而 天皇之 敷座國等 天原 石門乎開 神上 上座奴【一云,神登,座爾之可婆。】 吾王 皇子之命乃 天下 所知食世者 春花之 貴在等 望月乃 滿波之計武跡 天下【一云,食國。】 四方之人乃 大船之 思憑而 天水 仰而待爾 何方爾 御念食可 由緣母無 真弓乃岡爾 宮柱 太布座 御在香乎 高知座而 明言爾 御言不御問 日月之 數多成塗 其故 皇子之宮人 行方不知毛【一云,刺竹之,皇子宮人,歸邊不知爾為。】

       天地(あめつち)の (はじ)めの(とき)の 久方(ひさかた)の 天河原(あまのかはら)に 八百萬(やほよろづ) 千萬神(ちよろづかみ)の 神集(かむつど)ひ 座集(つどひいま)して 神謀(かむはか)り (はか)りし(とき)に 天照(あまで)らす 日女尊(ひるめのみこと)一云(またにいふ)指上(さしあ)がる,日女尊(ひるめのみこと)。】 (あめ)をば ()らしめすと 葦原(あしはら)の 瑞穗國(みづほのくに)を 天地(あめつち)の 寄合(よりあ)ひの(きは)み ()らしめす 神尊(かみのみこと)と 天雲(あまくも)の 八重搔(やへか)()けて一云(またにいふ)天雲(あまくも)の,八重雲分(やへくもわ)けて。】 神下(かむくだ)し 座奉(いませまつ)りし 高照(たかて)らす 日皇子(ひのみこ)は 飛鳥(とぶとり)の 清御原宮(きよみのみや)に 隨神(かむながら) 太敷(ふとし)きまして 天皇(すめろき)の ()きます(くに)と 天原(あまのはら) 石門(いはと)(ひら)き 神上(かむあが)り 上座(あがりいま)しぬ一云(またにいふ)神登(かむのぼ)り,(いま)しにしかば。】 ()大君(おほきみ) 皇子尊(みこのみこと)の 天下(あめのした) ()らしめしせば 春花(あるはな)の (たふと)からむと 望月(もちづき)の 滿(たたは)しけむと 天下(あめのした)一云(またはいふ)食國(をすくに)。】 四方人(よものひと)の 大船(おほぶね)の 思賴(おもひたの)みて 天水(あまつみづ) (あふ)ぎて()つに 何方(いかさま)に (おも)ほし()せか 由緣(つれ)()き 真弓岡(まゆみのをか)に 宮柱(みやばしら) 太敷(ふとし)(いま)し 殯宮(みあらか)を 高知(たかし)りまして 朝言(あさこと)に 御言問(みことと)はさず 日月(ひつき)の 數多(まね)くなりぬれ 其事故(そこゆゑ)に 皇子(みこ)宮人(みやひと) 行方知(ゆくへし)らずも一云(またにいふ)刺竹(さすたけ)の,皇子(みこ)宮人(みやひと)行方知(ゆくへ)らにす。】

         古陰陽渾沌 天地初分開闢時 久方高天原 天安河原百磐間 眾數八百萬 千萬神祇諸神矣 神集集於斯 諸神會合集座而 神謀計禱方 謀計可禱之方時 天照徹六合 大日孁貴日女尊【一云,日輝射上兮,大日孁貴日女尊。】 御高天之原 馭治久方天上事 葦原千五百 秋之水穗瑞穗國 天壤無窮盡 天地相依合極處 照臨天下之 彼神尊天孫 搔分天雲之 八重雲道別道別【一云,分天八重雲,稜威之道別道別。】 天降高千穗 座奉葦原中津國 空高照輝曜 日胤皇子誰 飛鳥明日香 偉哉清御原宮矣 唯神隨神兮 造宮太敷營御殿 為代代天皇 顯人之神所治國 瀛真人天皇 今開天原岩屋戶 登天神上矣 幽隱常世退去矣【一云,登神歸天原,幽隱御座常世者。】 弘宇我大君 草壁日並皇子尊 汝若治天下 度其治世想如何 必猶春花茂 繁榮艷貴美不絕 復如望月盈 凡事圓滿無遺憾 八紘天之下【一云,所治食國間。】 六合四方蒼生者 猶乘大船兮 思賴囑託寄安寧 待望天甘霖 仰首苦冀澍恩澤 然吾大君者 宸思如何念何方 薄情無緣由 徑在真弓之岡上 宮柱高豎矣 太敷座兮板廣厚 如是築殯宮 營宮高聳居其上 朝言不賜下 御言不語亦不問 日經月累之 積日數多光陰逝 以其事之故 皇子宮人手無措 不知何去又何從【一云,刺竹根芽盛,皇子宮人手無措,不知何去又何從。】

        柿本人麻呂 0167


    0168 反歌二首 【承前,反歌。】

       久堅乃 天見如久 仰見之 皇子乃御門之 荒卷惜毛

       久方(ひさかた)の 天見(あめみ)(ごと)く 仰見(あふぎみ)し 皇子(みこ)御門(まかど)の ()れまく()しも

         其高聳何如 猶見遙遙久方天 昂首仰見兮 皇子御門雖宏偉 日漸荒廢令人惜

        柿本人麻呂 0168


    0169 【承前,反歌第二。】

       茜刺 日者雖照者 烏玉之 夜渡月之 隱良久惜毛

       茜刺(あかねさ)す ()()らせれど 烏玉(ぬばたま)の 夜渡(よわた)(つき)の (かく)らく()しも

         暉曜緋茜射 雖與日並照天下 然惜烏玉之 漆黑晚夜所渡月 為雲所蔽莫得見

        柿本人麻呂 0169

           或本,以件歌為後皇子尊(高市皇子)殯宮之時歌反也。



    0170 或本歌一首 【承前,或本歌。】

       嶋宮 勾乃池之 放鳥 人目爾戀而 池爾不潛

       嶋宮(しまのみや) 勾池(まがりのいけ)の 放鳥(はなちどり) 人目(ひとめ)()ひて (いけ)(かづ)かず

         飛鳥川之畔 嶋宮庭園勾池間 放飼禽鳥者 其悲君王慕故人 不潛池下不為獵

        柿本人麻呂 0170


    0171 皇子尊(草壁)宮舍人等慟傷作歌廿三首

       高光 我日皇子乃 萬代爾 國所知麻之 嶋宮波母

       高光(たかひか)る ()日皇子(ひのみこ)の 萬代(よろづよ)に 國知(くにし)らさまし 島宮(しまのみや)はも

         空高輝光曜 吾君日並皇子尊 天不從人願 汝本應坐此島宮 御宇天下治萬代

        舍人 0171


    0172 【承前,第二。】

       嶋宮 上池有 放鳥 荒備勿行 君不座十方

       島宮(しまのみや) 上池(かみのいけ)なる 放鳥(はなちとり) (あら)勿行(なゆ)きそ 君座(きみいま)さずとも

         飛鳥川之畔 嶋宮庭園上池間 放飼禽鳥者 汝莫心慌情意亂 縱使明君不復在

        舍人 0172


    0173 【承前,第三。】

       高光 吾日皇子乃 伊座世者 嶋御門者 不荒有益乎

       高光(たかひか)る ()日皇子(ひのみこ)の い(まし)せば 島御門(しまのみかど)は ()れざら(まし)

         空高輝光曜 吾君日並皇子尊  汝若存命者 飛鳥嶋宮華御門 不致荒廢仍欣榮

        舍人 0173


    0174 【承前,第四。】

       外爾見之 檀乃岡毛 君座者 常都御門跡 侍宿為鴨

       (よそ)()し 真弓岡(まゆみのをか)も 君座(きみま)せば 常御門(とこつみかど)と 侍宿(とのゐ)する(かも)

         本思無由緣 不值瞥見真弓綱 以君今座者 視之常宮亙御門 侍宿其邊守殯宮

        舍人 0174


    0175 【承前,第五。】

       夢爾谷 不見在之物乎 欝悒 宮出毛為鹿 佐日之隈迴乎

       (いめ)にだに ()ざりし(もの)を 欝悒(おほほ)しく 宮出(みやで)もするか 佐檜隈迴(さひのくまみ)

         縱令在夢中 莫有見在此物者 欝悒喪垂首 參上出仕殯宮哉 步此佐日檜隈迴

        舍人 0175


    0176 【承前,第六。】

       天地與 共將終登 念乍 奉仕之 情違奴

       天地(あめつち)と (とも)()へむと (おも)ひつつ 仕奉(つかへまつ)りし 心違(こころたが)ひぬ

         吾思與天地 相共終極永事君 雖念茲在茲 然奉仕者不如願 此情相違不得叶

        舍人 0176


    0177 【承前,第七。】

       朝日弖流 佐太乃岡邊爾 群居乍 吾等哭淚 息時毛無

       朝日照(あさひて)る 佐田岡邊(さだのをかへ)に 群居(むれゐ)つつ ()泣淚(なくなみた) ()(とき)()

         朝日照臨下 高市佐田之岡邊 宮人群聚居 吾等哭淚號泣者 永無息時莫有歇

        舍人 0177


    0178 【承前,第八。】

       御立為之 嶋乎見時 庭多泉 流淚 止曾金鶴

       御立(みた)たしの (しま)()(とき) (にはたづみ) (なが)るる(なみた) ()めそ()ねつる

         顧見日並尊 皇子屬意島庭時 潦兮溢水流 吾等流淚霑襟濕 欲止無方淚泣下

        舍人 0178


    0179 【承前,第九。】

       橘之 嶋宮爾者 不飽鴨 佐田乃岡邊爾 侍宿為爾徃

       (たちばな)の 島宮(しまのみや)には ()かぬかも 佐田岡邊(さだのをかへ)に 侍宿(とのゐ)しに()

         侍衛飛鳥之 橘地島宮不足哉 蓋是意未盡 今至佐田岡邊處 侍宿其邊守殯宮

        舍人 0179


    0180 【承前,第十。】

       御立為之 嶋乎母家跡 住鳥毛 荒備勿行 年替左右

       御立(みた)たしの (しま)をも(いへ)と 棲鳥(すむとり)も (あら)勿行(なゆ)きそ 年替(としか)はる(まで)

         以彼日並尊 皇子常佇島宮者 為家棲鳥矣 汝莫心荒情意亂 守喪直至歲易時

        舍人 0180


    0181 【承前,十一。】

       御立為之 嶋之荒礒乎 今見者 不生有之草 生爾來鴨

       御立(みた)たしの 島荒礒(しまのありそ)を 今見(いまみ)れば ()ひざりし(くさ) ()ひにける(かも)

         今見日並尊 皇子常佇島宮庭 庭池荒礒間 過往未嘗生之草 今日生來荒漫焉

        舍人 0181


    0182 【承前,十二。】

       鳥桖立 飼之鴈之兒 栖立去者 檀岡爾 飛反來年

       鳥座立(とぐらた)て (かひ)雁子(かりのこ) 巢立(すだ)ちなば 真弓岡(まゆみのをか)に 飛歸來(とびかへりこ)

         鳥座禽屋間 所飼雁之雛子矣 汝若離巢者 還願飛去真弓岡 翱翔顧念復歸來

        舍人 0182


    0183 【承前,十三。】

       吾御門 千代常登婆爾 將榮等 念而有之 吾志悲毛

       ()御門(みかど) 千代常(ちよとこ)とばに (さか)えむと (おも)ひてありし (われ)(かな)しも

         吾度日並尊 皇子玉門常容華 屹立迄千代 誰知事與己願違 徒有空悲更唏噓

        舍人 0183


    0184 【承前,十四。】

       東乃 多藝能御門爾 雖伺侍 昨日毛今日毛 召言毛無

       (ひむがし)の 多藝御門(たぎのみかど)に (さもら)へど 昨日(きのふ)今日(けふ)も 召言(めすこと)()

         雖居東宮之 島庄多藝激御門 陪侍待君命 然昨日去今日終 徒然空待無召言

        舍人 0184


    0185 【承前,十五。】

       水傳 礒乃浦迴乃 石上乍自 木丘開道乎 又將見鴨

       水傳(みなつた)ふ 礒浦迴(いそのうらみ)の 石躑躅(いはつつじ) 茂咲(もくさ)(みち)を (また)()(かも)

         遣水傳流矣 島宮磯邊浦迴間 繁生石躑躅 孰知躑躅茂咲道 今後仍得復見哉

        舍人 0185


    0186 【承前,十六。】

       一日者 千遍參入之 東乃 大寸御門乎 入不勝鴨

       一日(ひとひ)には 千度參(ちたびまゐ)りし (ひむがし)の (おほ)御門(みかど)を 入難(いりかて)(かも)

         顧念往昔者 一日參詣百千度 東宮大御門 今後明君不復在 御門羅雀難入哉

        舍人 0186


    0187 【承前,十七。】

       所由無 佐太乃岡邊爾 反居者 嶋御橋爾 誰加住儛無

       由緣(つれ)()き 佐田岡邊(さだのをかへ)に 歸居(かへりゐ)ば 島御橋(しまのみはし)に (たれ)()まはむ

         漠漠無由緣 佐田真弓岡之邊 吾今歸居者 島宮御橋迴廊間 往後荒漫誰人住

        舍人 0187


    0188 【承前,十八。】

       旦覆 日之入去者 御立之 嶋爾下座而 嘆鶴鴨

       朝曇(あさぐも)り ()入行(いりゆ)けば 御立(みた)たしの (しま)下居(おりゐ)て (なげ)きつる(かも)

         朝晨天蔭曇 旦日蔽入浮雲後 皇子總佇立 屬意島庭下居者 徒然悲歎哀欷歔

        舍人 0188


    0189 【承前,十九。】

       旦日照 嶋乃御門爾 欝悒 人音毛不為者 真浦悲毛

       朝日照(あさひて)る 島御門(しまのみかど)に 欝悒(おほほ)しく 人音(ひとおと)もせねば 真衷悲(まうらかな)しも

         朝日照明朗 島庭御門景光耀 然人心欝悒 肅然寂寥無人音 吾心由衷真傷悲

        舍人 0189


    0190 【承前,二十。】

       真木柱 太心者 有之香杼 此吾心 鎮目金津毛

       真木柱(まきばしら) 太心(ふときこころ)は ()りしかど 此我(このあ)(こころ) 鎮兼(しづめか)ねつも

         吾負真木柱 情雖堅太氣宏遠 泰山崩不亂 然在此時居此刻 難鎮吾心怠毀滅

        舍人 0190


    0191 【承前,廿一。】

       毛許呂裳遠 春冬片設而 幸之 宇陁乃大野者 所念武鴨

       褻衣(けころも)を 時片設(ときかたま)けて ()でましし 宇陀大野(うだのおほの)は (おも)ほえむ(かも)

         私時褻衣兮 時日備設狩節至 不覺發思憶 昔日宇陀大野間 御狩之日情更甦

        舍人 0191


    0192 【承前,廿二。】

       朝日照 佐太乃岡邊爾 鳴鳥之 夜鳴變布 此年己呂乎

       朝日照(あさひて)る 佐田岡邊(さだのをかへ)に 鳴鳥(なくとり)の 夜泣(よな)(かへ)らふ 此年頃(このとしころ)

         朝日普照耀 佐田真弓岡之邊 鳴鳥泣血啼 吾若彼鳥終夜哭 此年此頃無息時

        舍人 0192


    0193 【承前,廿三。】



    0194 柿本朝臣人麻呂獻泊瀨部皇女、忍坂部皇子歌一首 【并短歌。】

       飛鳥 明日香乃河之 上瀨爾 生玉藻者 下瀨爾 流觸經 玉藻成 彼依此依 靡相之 嬬乃命乃 多田名附 柔膚尚乎 劍刀 於身副不寐者 烏玉乃 夜床母荒良無【一云,阿禮奈牟。】 所虛故 名具鮫兼天 氣田敷藻 相屋常念而【一云,公毛相哉登。】 玉垂乃 越能大野之 旦露爾 玉裳者埿打 夕霧爾 衣者沾而 草枕 旅宿鴨為留 不相君故

       飛鳥(とぶとり)の 明日香川(あすかのかは)の 上瀨(かみつせ)に ()ふる玉藻(たまも)は 下瀨(しもつせ)に (なが)()らばふ 玉藻如(たまもな)す 彼寄(かよ)此寄(かくよ)り (なび)かひし 夫命(つまのみこと)の (たた)なづく 柔肌(にきはだ)すらを 劍太刀(つるぎたち) ()副寢(そへね)ねば 烏玉(ぬばたま)の 夜床(よとこ)()るらむ一云(またにいふ)()れなむ。】 其處故(そこゆゑ)に (なぐさ)()ねて (けだ)しくも ()ふやと(おも)ひて一云(またにいふ)(きみ)()ふやと。】 玉垂(たまだれ)の 越智大野(をちのおほの)の 朝露(あさつゆ)に 玉裳(たまも)(ひづ)ち 夕霧(ゆふぎり)に (ころも)()れて 草枕(くさまくら) 旅寢(たびね)かもする ()はぬ君故(きみゆゑ)

         飛鳥朱鳥兮 明日香河飛鳥川 於其上瀨間 所棲生息玉藻者 至於其下瀨 隨波逐流觸下矣 如比玉藻者 寄彼依此偎岸邊 靡靡漂浮者 川島皇子吾夫命 肌膚疊寢矣 依偎柔肌欲纏綿 隨身劍大刀 不得副身添寢矣 烏干黑玉兮 夜床荒涼亦棄廢【一云,荒兮將棄廢。】 以彼之故而 欲慰吾心苦無術 究其所以者 蓋思或能逢夫君【一云,蓋思或能與君會。】 珠貫玉垂之 玉緒越智大野間 佇身朝露中 玉裳為露沾漬濕 佇身夕霧中 衣襟為霧悉所濡 異鄉草枕兮 吾人旅寢耐孤獨 只為無由逢夫君

        柿本人麻呂 0194


    0195 反歌一首 【承前。】



    0196 明日香皇女木缻殯宮之時,柿本朝臣人麻呂作歌一首 【并短歌。】

       飛鳥 明日香乃河之 上瀨 石橋渡【一云,石浪。】 下瀨 打橋渡 石橋【一云,石浪。】 生靡留 玉藻毛敘 絕者生流 打橋 生乎為禮流 川藻毛敘 干者波由流 何然毛 吾王能 立者 玉藻之母許呂 臥者 川藻之如久 靡相之 宜君之 朝宮乎 忘賜哉 夕宮乎 背賜哉 宇都曾臣跡 念之時 春部者 花折插頭 秋立者 黃葉插頭 敷妙之 袖攜 鏡成 雖見不猒 三五月之 益目頰染 所念之 君與時時 幸而 遊賜之 御食向 木缻之宮乎 常宮跡 定賜 味澤相 目辭毛絕奴 然有鴨【一云,所己乎之毛。】 綾爾憐 宿兄鳥之 片戀嬬【一云,為乍。】 朝鳥【一云,朝霧。】 徃來為君之 夏草乃 念之萎而 夕星之 彼徃此去 大船 猶預不定見者 遣悶流 情毛不在 其故 為便知之也 音耳母 名耳毛不絕 天地之 彌遠長久 思將徃 御名爾懸世流 明日香河 及萬代 早布屋師 吾王乃 形見何此焉

       飛鳥(とぶとり)の 明日香川(あすかのかは)の 上瀨(かみつせ)に 石橋渡(いしばしわた)一云(またにいふ)石並(いしなみ)。】 下瀨(しもつせ)に 打橋渡(うちはしわた)す 石橋(いしばし)一云(またにいふ)石並(いしなみ)に。】 生靡(おひなび)ける 玉藻(たまも)もぞ ()ゆれば()ふる 打橋(うちはし)に 生覆(おひをを)れる 川藻(かはも)もぞ ()るれば()ゆる (なに)しかも ()大君(おほきみ)の ()たせば 玉藻(たまも)(もころ) ()やせば 川藻(かはも)(ごと)く (なび)かひし (よろ)しき(きみ)が 朝宮(あさみや)を 忘賜(わすれたま)() 夕宮(ゆふみや)を 背賜(そむきたま)() ()つそ()と (おも)ひし(とき)に 春經(はるへ)には 花折飾(はなをりかざ)し 秋立(あきた)てば 黃葉飾(もみちかざ)し 敷栲(しきたへ)の 袖攜(そでたづさ)はり (かがみ)なす ()れども()かず 望月(もちづき)の 彌珍(いやめづら)しみ (おも)ほしし (きみ)時時(ときどき) ()でまして 遊賜(あそびたま)ひし 御食向(みけむか)ふ 城上宮(きのへのみや)を 常宮(とこみや)と 定賜(さだめたま)ひて 味障(あぢさは)ふ 目言(めこと)()えぬ (しか)(かも)一云(またにいふ)(そこ)をしも。】 (あや)(かな)しみ 鵺鳥(ぬえどり)の 片戀夫(かたこひづま)一云(またにいふ),しつつ。】 朝鳥(あさとり)一云(またにいふ)朝霧(あさぎり)の。】 (かよ)はす(きみ)が 夏草(なつくさ)の 思萎(おもひな)えて 夕星(つふつづ)の 彼行(かゆ)此行(かくゆ)き 大船(おほぶね)の 猶豫不定見(たゆたふみ)れば (なぐさ)もる (こころ)()らず 其故(そこゆゑ)に 為術知(せむすべし)れや (おと)のみも ()のみも()えず 天地(あめつち)の 彌遠長(いやとほなが)く 偲行(しのひい)かむ 御名(みな)()かせる 明日香川(あすかがは) 萬代迄(よろづまで)に ()しきやし ()大君(おほきみ)の 形見(かたみ)此處(ここ)

         飛鳥朱鳥兮 明日香河飛鳥川 於其上瀨間 石橋並兮渡溪豁【一云,石列。】 於其下瀨間 板橋輕設渡溪豁 點點石橋上【一云,石列間。】 漫生棲息靡披之 珠藻玉藻矣 玉藻縱絕瞬又生 輕設板橋上 漫棲披覆生息之 青青川藻矣 川藻縱枯瞬又生 何以吾主君 嗚呼明日香皇女 每每佇立者 柔弱漂蕩猶玉藻 每每橫臥者 靡然生魅猶川藻 如此美姿儀 汝之良人夫君之 朝宮留追憶 汝忘彼宮擅逝哉 夕宮存昔往 汝離彼宮擅去哉 浮生命苦短 思其在世難久長 時值春日者 折花髻首飾髮上 時至秋日者 手取黃葉插首上 白妙敷栲之 攜袖相執子之手 相對倆相看 猶如觀鏡久不厭 更如望月兮 彌珍更益生愛情 如此思召而 與汝夫君輒時時 出遊相步迴 遊翫作樂故地之 御食所向兮 城上之宮於今後 定賜為常宮 永久居兮亙萬代 味障多合兮 相見相言機已絕 蓋以其然哉【一云,事今如是焉。】 莫名由衷更哀切 鵺鳥虎鶇兮 孤身單戀零丁夫【一云,憶故人。】 曦晨朝鳥兮【一云,薄露朝霧兮。】 夜訪來通汝夫君 其猶夏草兮 枯撓思萎心憔悴 又如夕星兮 彼徃此去莫安寧 復若大船兮 漂蕩猶預無可寄 見彼雖欲慰 然苦無方暮徒然 是以其故兮 舉手無措施無術 為願音不絕 更冀御名永流傳 猶如天與地 彌遠彌長恒永久 銘心永為人追念 故以御名所懸河 飛鳥明日香之川 長久迄萬代 愛之不絕常觀翫 吾君明日香皇女 汝形姿見此處矣

        柿本人麻呂 0196


    0197 短歌二首 【承前。】

       明日香川 四我良美渡之 塞益者 進留水母 能杼爾賀有萬思【一云,水乃,與杼爾加有益。】

       明日香川(あすかがは) 柵渡(しがらみわた)し ()かませば (なが)るる(みづ)も (のど)にかあらまし一云(みたにいふ)(みづ)の、(よど)にかあらまし。】

         明日香之川 若得架柵渡彼水 柵塞川水者 流去不返逝水矣 蓋得長閑存細流【一云,逝水之,蓋得淀之稍停歇。】

        柿本人麻呂 0197


    0198 【承前,其二。】

       明日香川 明日谷【一云,左倍。】將見等 念八方【一云,念香毛。】 吾王 御名忘世奴【一云,御名不所忘。】

       明日香川(あすかがは) 明日(あす)だに一云(またにいふ)、さへ。】()むと (おも)へやも一云(またにいふ)(おも)へかも。】 ()大君(おほきみ)の 御名忘(みなわす)れせぬ一云(またにいふ)御名忘(みなわす)らえぬ。】

         明日香之川 明日誠欲與汝會【一云,仍欲。】 蓋以吾慕念【一云,蓋因吾慕念。】 吾君明日香皇女 尊名永懷莫得忘【一云,尊名永懷不得忘。】

        柿本人麻呂 0198


    0199 高市皇子尊城上殯宮之時,柿本朝臣人麻呂作歌一首 【并短歌。】

       挂文 忌之伎鴨【一云,由遊志計禮抒母。】 言久母 綾爾畏伎 明日香乃 真神之原爾 久堅能 天都御門乎 懼母 定賜而 神佐扶跡 磐隱座 八隅知之 吾大王乃 所聞見為 背友乃國之 真木立 不破山越而 狛劍 和射見我原乃 行宮爾 安母理座而 天下 治賜【一云,掃賜而。】 食國乎 定賜等 雞之鳴 吾妻乃國之 御軍士乎 喚賜而 千磐破 人乎和為跡 不奉仕 國乎治跡【一云,掃部等。】 皇子隨 任賜者 大御身爾 大刀取帶之 大御手爾 弓取持之 御軍士乎 安騰毛比賜 齊流 鼓之音者 雷之 聲登聞麻弖 吹響流 小角乃音母【一云,笛乃音波。】 敵見有 虎可嘯吼登 諸人之 恊流麻弖爾【一云,聞或麻弖。】 指舉有 幡之靡者 冬木成 春去來者 野毎 著而有火之【一云,冬木成,春野燒火乃。】 風之共 靡如久 取持流 弓波受乃驟 三雪落 冬乃林爾【一云,由布乃林。】 飄可毛 伊卷渡等 念麻弖 聞之恐久【一云,諸人,見或麻弖爾。】 引放 箭之繁計久 大雪乃 亂而來禮【一云,霰成,曾知余里久禮婆。】 不奉仕 立向之毛 露霜之 消者消倍久 去鳥乃 相競端爾【一云,朝霜之,消者消言爾,打蟬等,安良蘇布波之爾。】 渡會之 齋宮從 神風爾 伊吹或之 天雲乎 日之目毛不令見 常闇爾 覆賜而 定之 水穗之國乎 神髓 太敷座而 八隅知之 吾大王之 天下 申賜者 萬代爾 然之毛將有登【一云,如是毛安良無等。】 木綿花乃 榮時爾 吾大王 皇子之御門乎【一云,刺竹,皇子御門乎。】 神宮爾 裝束奉而 遣使 御門之人毛 白妙乃 麻衣著 埴安乃 門之原爾 赤根刺 日之盡 鹿自物 伊波比伏管 烏玉能 暮爾至者 大殿乎 振放見乍 鶉成 伊波比迴 雖侍候 佐母良比不得者 春鳥之 佐麻欲比奴禮者 嘆毛 未過爾 憶毛 未不盡者 言左敝久 百濟之原從 神葬 葬伊座而 朝毛吉 木上宮乎 常宮等 高之奉而 神隨 安定座奴 雖然 吾大王之 萬代跡 所念食而 作良志之 香來山之宮 萬代爾 過牟登念哉 天之如 振放見乍 玉手次 懸而將偲 恐有騰文

       ()けまくも 忌忌(ゆゆ)しき(かも)一云(またにいふ)忌忌(ゆゆ)しけれども。】 ()はまくも (あや)(かしこ)き 明日香(あすか)の 真神原(まかみのはら)に 久方(ひさかた)の 天御門(あまつみかど)を (かし)くも 定賜(さだめたま)ひて (かむ)さぶと 岩隱(いはがく)ります 八隅治(やすみし)し ()大君(おほきみ)の 聞見(きこしめ)す 背面國(そとものくに)の 真木立(まきた)つ 不破山越(ふはやまこ)えて 高麗劍(こまつるぎ) 和射見原(わざみがはら)の 行宮(かりみや)に 天降坐(あもりいま)して 天下(あめのした) 治賜(をさめたま)一云(またにいふ)払賜(はらひたま)ひて。】 食國(をすくに)を 定賜(さだめたま)ふと (とり)()く 東國(あづまのくに)の 御軍(みいくさ)を 召賜(めしたま)ひて 千早振(ちはやぶ)る (ひと)(やは)せと (まつろ)はぬ (くに)(をさ)めと一云(またにいふ)(はら)へと。】 皇子(みこ)ながら 任賜(まけたま)へば 大御身(おほみみ)に 大刀取佩(たちとりは)かし 大御手(おほみて)に 弓取持(ゆみとりも)たし 御軍士(みいくさ)を 率賜(あどもひたま)ひ (ととの)ふる 鼓音(つづみのおと)は (いかづち)の (こゑ)()(まで) 吹鳴(ふきな)せる 小角(くだ)(おと)一云(またにいふ)笛音(ふえのおと)は。】 敵見(あたみ)たる (とら)()ゆると 諸人(もろひと)の (おびゆ)(まで)一云(またにいふ)聞惑(ききまと)(まで)。】 (ささ)げたる 旗麾(はたのまねき)は 冬籠(ふゆごも)り 春去來(はるさりく)れば 野每(のごと)に ()きてある()一云(またにいふ)冬籠(ふゆごも)り、春野燒(はるのや)()の。】 風共(かせのむた) (なび)かふ(ごと)く 取持(とりも)てる 弓弭(ゆはず)(さわ)き 御雪降(みゆきふ)る 冬林(ふゆのはやし)一云(またにいふ)木綿林(ゆふのはやし)。】 (つむ)(かも) い卷渡(まきわた)ると (おも)(まで) ()きの(かしこ)一云(またにいふ)諸人(もとひと)の、見惑(みまと)(まで)に。】 引放(ひきはな)つ ()(しげ)けく 大雪(おほゆき)の (みだ)れて(きた)一云(またにいふ)(あられ)なす、そち寄來(よりく)れば。】 (まつろ)はず 立向(たちむか)ひしも 露霜(つゆしも)の ()なば()ぬべく 行鳥(ゆくとり)の (あらそ)(はし)一云(またにいふ)朝霜(あさしも)の、()なば()()ふに、()つせ()と、(あらそ)(はし)に。】 渡會(わたらひ)の 齋宮(いつきのみや)ゆ 神風(かむかぜ)に い吹惑(ふきまと)はし 天雲(あまくも)を ()()()せず 常闇(とこやみ)に 覆賜(おほひたま)ひて (さだ)めてし 瑞穗國(みづほのくに)を 惟神(かむながら) 太敷坐(ふとしきま)して 八隅治(やすみし)し ()大君(おほきみ)の 天下(あめのした) 奉賜(まうしたま)へば 萬代(よろづよ)に (しか)しもあらむと一云(またにいふ)()くしもあらむと。】 木綿花(ゆふはな)の (さか)ゆる(とき)に ()大君(おほきみ) 皇子御門(みこのみかど)一云(またにいふ)刺竹(さすたけ)の、皇子御門(みこのみかど)を。】 神宮(かむみや)に 裝奉(よそひまつ)りて 使(つか)はしし 御門(みかど)(ひと)も 白栲(しろたへ)の 麻衣著(あさごもろき)て 埴安(はにやす)の 御門原(みかどのはら)に 茜刺(あかねさ)す ()(ことごと) 鹿(しし)(もの) い匍伏(はひふ)しつつ 烏玉(ぬばたま)の (ゆふへ)(いた)れば 大殿(おほとの)を 振放見(ふりさけみ)つつ 鶉如(うづらな)す い匍迴(はひもとほ)り (さもら)へど 侍得(さもらひえ)ねば 春鳥(はるとり)の 彷徨(さまよ)ひぬれば (なげ)きも 未過(いまだす)ぎぬに (おも)ひも 未盡(いまだつ)きねば 言騷(ことさへ)く 百濟原(くだらのはら)ゆ 神葬(かむはぶ)り 葬坐(はぶりいま)して 麻裳良(あさもよ)し 城上宮(きのへのみや)を 常宮(とこみや)と (たか)くし(たて)て 惟神(かむながら) 鎮坐(しづまりま)しぬ (しか)れども ()大君(おほきみ)の 萬代(よろづよ)と (おも)ほし()して (つく)らしし 香具山宮(かぐやまのみや) 萬代(よろづよ)に ()ぎむと(おも)へや (あめ)(ごと) 振放(ふりさ)()つつ 玉襷(たまだすき) ()けて(しの)はむ (かしこ)かれとも

         僭述掛尊諱 忌懼如臨履冰哉【一云,雖忌懼如臨履冰。】 冒言申斯事 實乃誠惶復誠恐 飛鳥明日香 高市真神原之間 遙遙久方兮 天御門淨御原宮 戒慎亦惶恐 聖慮定治在此地 其後登仙籍 退坐岩戶隱幽世 八隅治天下 經綸恢弘我大君 其所聞見治御宇 背面北國美濃之 真木茂且立 不破山嶺翻越過 環頭高麗劍 和射見原駐仙蹕 假設行宮而 自天降坐臨於此 掩八紘為宇 平治天下馭海內【一云,鎮御天下治海內。】 定賜治食國 以令久安長靖寧 雞鳴迎晨曦 東國三河信濃地 召集御軍卒 運籌帷幄率官軍 千早振神威 荒亂之眾令臣服 不從順諸國 使納治下披皇澤【一云,鎮之平兮披皇化。】 高市御皇子 隨情悉委任軍事 皇子大御身 取佩大刀繫璽劍 皇子大御手 取持弓矢發弦上 號令御軍士 統率身先士卒前 整列布軍陣 鼓聲震天憾六合 震耳將欲聾 鼓音響徹轟猶雷 號角更吹鳴 小角之音貫八方【一云,角笛之音貫八方。】 敵軍聞此者 蓋疑猛虎嘯獅吼 賊徒諸敵眾 咸皆顫慄悉怖怯【一云,聞之忐忑心慌亂。】 旌旗高揭揚 赤幟紅麾兮豎大虛 其狀凜如河 籠冬過兮春來者 遍遍春野間 叢生野火燃絢麗【一云,籠冬日已遠,春野焚生野火之。】 伴風共飄逸 靡靡盪漾差可擬 手取持弓弭 其鳴動音騷如何 白雪降紛紛 嶺冽嚴冬林木間【一云,皓皓木綿楮林間。】 飄迴旋風哉 一面拂捲越深林 聞之沁骨寒 思之愈覺更怖懼【一云,賊徒見之者,心慌甚惑更懦慄。】 張弓急放絃 射矢繁兮鏃無間 其一猶猛雪 紛飛亂零豪霰降【一云,其如雹霰降,四處逼來亂射者。】 不從皇澤化 干戈相向逆賊徒 洽如露猶霜 消逝殄滅墮自棄 行鳥渡大虛 爭戰之端其時兮【一云,朝霜不久長,此命將消則當逝,浮身憂世短,爭戰鬩牆其端間。】 其自渡會之 五十鈴川上齋宮 神風振稜威 勁風吹拂惑賊徒 天雲助官軍 蔽日遮翳賊徒目 令天下常闇 不分晝夜覆六合 所以鎮平兮 豐葦原之瑞穗國 惟神隨神意 太敷坐兮御社稷 八隅治天下 經綸恢弘我大君 奏申天下事 總轄朝政護仕者 吾願至萬代 一如此然莫更迭【一云,永久如斯莫有易。】 彌盛木棉花 榮華極盛此繁時 聖明我大君 高市皇子大御門【一云,刺竹根芽盛 ,高市皇子尊宮殿。】 以為神殯宮 儀裝勢兮奉幽事 生時所奉仕 皇子御門宮人等 身易白栲衣 改著麻衣服君喪 聚埴安池畔 御門之原舉哀思 斜暉茜日射 日復一日盡哀禮 其等雖非鹿 匍匐野間失茫然 漆黑烏玉之 時至夕暮昏闇時 昂首望宮闕 凝視大殿無息時 其姿如鶉鳥 匍迴徘徊伴軀邊 雖侍奉如斯 盡心侍之徒空虛 又猶春鳥之 彷徨嗚咽哀鳴者 悲嘆復悲嘆 悲嘆未息又傷感 哀惜復哀惜 哀惜未盡殯期終 言騷且喧雜 百濟之原今已過 奉吾君為神 神葬坐兮奉永眠 麻裳良且秀 城上之宮於今後 定賜為常宮 奉造高聳入雲霄 吾君惟神矣 鎮坐永居亙萬代 誠然如此者 吾君高市皇子尊 千代復萬代 永奉鎮居為常宮 如此奉造而 此香具山之大宮 縱然過萬代 吾度其必常永存 高聳如天際 昂首振見望幽宮 玉襷掛手繦 吾僭越伸託此偲 誠惶誠恐畏頓首

        柿本人麻呂 0199


    0200 短歌二首 【承前。○新古今0849。】

       久堅之 天所知流 君故爾 日月毛不知 戀渡鴨

       久方(ひさかた)の 天知(あめし)らしぬる 君故(きみゆゑ)に 日月(ひつき)()らず 戀渡(こひわた)るかも

         遙遙久方兮 君登高天離世遠 以君薨御故 不知日月光蔭逝 朝思暮想戀故人

        柿本人麻呂 0200


    0201 【承前,其二。】

       埴安乃 池之堤之 隱沼乃 去方乎不知 舍人者迷惑

       埴安(はにやす)の 池堤(いけのつつみ)の 隱沼(こもりぬ)の 行方(ゆくへ)()らに 舍人(とねり)(まと)

         驟聞噩耗至 其猶埴安池堤之 隱沼無瀉口 不知何去又何從 舍人幻惑陷迷惘

        柿本人麻呂 0201


    0202 或書反歌一首 【承前。】



    0203 但馬皇女薨後,穗積皇子,冬日雪落,遙望御墓,悲傷流涕御作歌一首

       零雪者 安播爾勿落 吉隱之 豬養乃岡之 寒有卷爾

       降雪(ふるゆき)は あはに勿降(なふ)りそ 吉隱(よなばり)の 豬養岡(ゐかひのをか)の (さむ)からまくに

         還願零雪者 切莫豪降落紛紛 但馬皇女之 吉隱豬養岡御墓 天寒只顯更悲戚

        穗積皇子 0203


    0204 弓削皇子薨時,置始東人作歌一首 【并短歌。】

       安見知之 吾王 高光 日之皇子 久堅乃 天宮爾 神隨 神等座者 其乎霜 文爾恐美 晝波毛 日之盡 夜羽毛 夜之盡 臥居雖嘆 飽不足香裳

       八隅治(やすみし)し ()大君(おほきみ) 高光(たかひか)る 日皇子(ひのみこ) 久方(ひさかた)の 天宮(あまつみや)に 惟神(かむながら) (かみ)(いま)せば (そこ)をしも (あや)(かしこ)み (ひる)はも 日悉(ひのことごと) (よる)はも 夜悉(よるのことごと) 臥居嘆(ふしゐなげ)けど 飽足(あきだ)らぬ(かも)

         八隅治天下 經綸恢弘我大君 空高輝光曜 日之皇子弓削王 遙遙久方兮 天上宮庭今登殿 惟神入仙籍 鎮坐天宮入神列 今云此事者 誠惶誠恐畏怖多 吾等於晝時 終日沉浸悉茫茫 吾等於闇時 徹夜間哀慟還自失 不捨晝夜臥居歎 雖如此兮不飽足

        置始東人 0204


    0205 反歌一首 【承前。】

       王者 神西座者 天雲之 五百重之下爾 隱賜奴

       大君(おほきみ)は (かみ)(しま)せば 天雲(あまくも)の 五百重下(いほへのした)に 隱賜(かくりたま)ひぬ

         大君吾主者 以其化神治幽世 故離人世間 天雲五百重之下 隱身幽冥不復見

        置始東人 0205


    0206 又短歌一首 【承前。】

       神樂浪之 志賀左射禮浪 敷布爾 常丹跡君之 所念有計類

       樂浪(ささなみ)の 志賀細波(しかさざれなみ) 頻頻(しくしく)に (つね)にと(きみ)が (おも)ほえたりける

         冀猶樂浪兮 志賀細波漣漪起 頻頻無間斷 吾祈君如漣恒常 還恨世事與願違

        置始東人 0206


    0207 柿本朝臣人麻呂,妻死之後,泣血哀慟作歌二首 【并短歌。】

       天飛也 輕路者 吾妹兒之 里爾思有者 懃 欲見騰 不已行者 人目乎多見 真根久徃者 人應知見 狹根葛 後毛將相等 大船之 思憑而 玉蜻 磐垣淵之 隱耳 戀管在爾 度日乃 晚去之如 照月乃 雲隱如 奧津藻之 名延之妹者 黃葉乃 過伊去等 玉梓之 使乃言者 梓弓 聲爾聞而【一云,聲耳聞而。】 將言為便 世武為便不知爾 聲耳乎 聞而有不得者 吾戀 千重之一隔毛 遣悶流 情毛有八等 吾妹子之 不止出見之 輕市爾 吾立聞者 玉手次 畝火乃山爾 喧鳥之 音母不所聞 玉桙 道行人毛 獨谷 似之不去者 為便乎無見 妹之名喚而 袖曾振鶴【或本,有謂之:「名耳,聞而有不得者。」句。】

       天飛(あまと)ぶや 輕道(かるのみち)は 我妹子(わぎもこ)が (さと)にしあれば (ねもころ)に ()まく()しけど ()まず()かば 人目(ひとめ)(おほ)み 數多(まね)()かば 人知(ひとし)りぬべみ 真葛(さねかづら) (のち)()はむと 大船(おほぶね)の 思賴(おもひたの)みて 玉限(たまかぎ)る 磐垣淵(いはかきふち)の (こも)りのみ ()ひつつあるに 渡日(わたるひ)の ()れぬるが(ごと) 照月(てるつき)の 雲隱(くもがく)(ごと) 沖藻(おきつも)の (なび)きし(いも)は 黃葉(もみちば)の ()ぎて()にきと 玉梓(たまづさ)の 使(つかひ)()へば 梓弓(あづさゆみ) (おと)()きて一云(またにいふ)(おと)のみ()きて。】 ()はむ(すべ) 為術知(せむすべし)らに (おと)のみを ()きて有得(ありえ)ねば ()()ふる 千重一重(ちへのひとへ)も (なぐさ)もる (こころ)もありやと 我妹子(わぎもこ)が ()まず出見(いでみ)し 輕市(かるのいち)に ()立聞(たちき)けば 玉襷(たまだすき) 畝傍山(うねびのやま)に 鳴鳥(なくとり)の (こゑ)(きこ)えず 玉桙(たまほこ)の 道行(みちゆ)(びと)も 一人(ひとり)だに ()てし()かねば (すべ)()み (いも)名呼(なよ)びて (そで)()りつる或本(あるふみに):「()のみを、()きて有得(ありえ)ねば。」と()句有(ことばあ)り。】

         雁翔天高飛 山城橿原輕之道 此為吾妹子 愛妻所住故里矣 故欲懃深情 顧見幾度復詳觀 然以不斷繁行者 人目多兮為人見 數回幾番去顧者 耳目繁兮為人知 真葛蔓末絡 今雖相離後欲逢 猶乘大船兮 思賴囑託寄所念 玉極輝耀兮 其如磐垣石墻淵 唯有避人目 竊戀隱慕常繫心 一猶渡日之 劃虛西斜暮沒地 又若照月之 雲隱不見蔽曇間 沖津珠玉藻 靡來相寢吾妹者 移落如黃葉 儚俄遷轉衰逝去 玉梓華杖兮 使人述言聽聞者 梓弓發振鳴 耳聞口寄託宣音【一云,唯聞口寄之音聲。】 不知和所言 無術不知和所措 縱欲聞汝聲 些細此欲不得償 吾戀慕欲逢 縱令千重唯一遇 情欣念得慰 吾心切望抱此情 親親吾妹子 生前繁往常出見 橿原輕地市集間 吾立此市豎耳聞 玉襷掛手繦 大和國中畝傍山 山中喧鳥之 鳴音妻聲亦不聞 玉桙石柱兮 行道眾間尋伊人 觀面千百度 莫有容似影類者 茫然手無措 唯有放聲喚妹名 徒然揮袖憂世間【或本,有謂之:「縱為噂消息,戚戚聞之莫可得。」句。】

        柿本人麻呂 0207


    0208 短歌二首 【承前,短歌第一。】

       秋山之 黃葉乎茂 迷流 妹乎將求 山道不知母【一云,路不知而。】

       秋山(あきやま)の 黃葉(もみち)(しげ)み (まと)ひぬる (いも)(もと)めむ 山道知(やまぢし)らずも一云(またにいふ)路知(みちし)らずして。】

         蕭瑟秋山之 黃葉茂然遍道間 惑妻迷歸途 吾為覓妻入林中 不闇山道心茫然【一云,不知往路佇山間。】

        柿本人麻呂 0208


    0209 【承前,短歌第二。】

       黃葉之 落去奈倍爾 玉梓之 使乎見者 相日所念

       黃葉(もみちば)の 散行(ちりゆ)くなへに 玉梓(たまづさ)の 使(つかひ)()れば ()ひし日思(ひおも)ほゆ

         黃葉俄遷移 翩然零落舞散際 玉梓華杖兮 使人來兮見之者 更念相逢往故日

        柿本人麻呂 0209


    0210 【承前,作歌第二。】

       打蟬等 念之時爾【一云,宇都曾臣等,念之。】 取持而 吾二人見之 趍出之 堤爾立有 槻木之 己知碁知乃枝之 春葉之 茂之如久 念有之 妹者雖有 憑有之 兒等爾者雖有 世間乎 背之不得者 蜻火之 燎流荒野爾 白妙之 天領巾隱 鳥自物 朝立伊麻之弖 入日成 隱去之鹿齒 吾妹子之 形見爾置有 若兒乃 乞泣毎 取與 物之無者 烏德自物 腋挾持 吾妹子與 二人吾宿之 枕付 嬬屋之內爾 晝羽裳 浦不樂晚之 夜者裳 氣衝明之 嘆友 世武為便不知爾 戀友 相因乎無見 大鳥乃 羽易乃山爾 吾戀流 妹者伊座等 人云者 石根左久見手 名積來之 吉雲曾無寸 打蟬跡 念之妹之 珠蜻 髣髴谷裳 不見思者

       空蟬(うつせみ)と (おも)ひし(とき)一云(またにいふ)現身(うつそみ)と、(おも)ひし。】 取持(とりも)ちて ()二人見(ふたりみ)し 走出(はしりで)の (つつみ)()てる 槻木(つきのき)の 此方此方(こちごち)()の 春葉(はるのは)の (しげ)きが(ごと)く (おも)へりし (いも)にはあれど (たの)めりし 兒等(こら)にはあれど 世中(よのなか)を (そむ)きし()ねば 陽炎(かぎろひ)の ()ゆる荒野(あらの)に 白栲(しらたへ)の 天領巾隱(あまひれがく)り (とり)(もの) 朝立坐(あさだちいま)して 入日如(いりひな)す (かく)りにしかば 我妹子(わぎもこ)が 形見(かたみ)()ける 若兒(みどりこ)の 乞泣(こひな)(ごと)に 取與(とりあた)ふる (もの)()ければ (をとこ)じもの 脇挾持(わきばさみも)ち 我妹子(わぎもこ)と 二人我(ふたりわ)()し 枕付(まくらづ)く 妻屋內(つまやのうち)に (ひる)はも 心寂暮(らさびく)らし (よる)はも 息衝明(いきづきあ)かし (なげ)けども 為術知(せむすべし)らに ()ふれども 逢由(あふよし)()み 大鳥(おほとり)の 羽易山(はがひのやま)に ()()ふる (いも)(いま)すと (ひと)()へば 岩根裂(いはねさ)くみて 滯來(なづみこ)し ()けくもぞ()き 空蟬(うつせみ)と (おも)ひし(いも)が 玉限(たまかぎ)る 髣髴(ほのか)にだにも ()()(おも)へば

         時吾度妹妻 空蟬浮身此世人【一云,吾念吾妹妻,空蟬憂世現身人。】 取執槻木枝 我倆並肩遠眺望 山勢趍走出 趍出堤間吾等立 槻木盛青青 此方彼方枝生長 春葉繁而茂 吾思妹健猶槻盛 年猶春葉青 吾念吾妻雖如此 吾賴吾妹妻 吾念娘子雖如此 無奈此世中 諸行無常理難背 震盪耀陽炎 赫赫所燃荒野中 身為白栲之 素妙天領巾所隱 其身雖非鳥 朝晨離家翔天際 如日入雲間 隱身幽世不見故 親親吾妹妻 所置形見唯稚子 每當吾幼兒 乞泣哭號求慈母 所得取與之 平所念物不有之 吾雖為男子 脇挾抱慰失恃兒 顧念往昔日 吾與妹妻共相寢 枕付共衾兮 妻屋之內今清寂 白晝值日時 鬱鬱心寂至日暮 暗闇值夜時 悲哀嘆息至夜明 縱悲嘆渡日 不知所措鎮無方 雖戀吾愛妻 更恨相隔逢無由 鴻禽大鳥兮 疊翼交翅羽易山 人言吾所戀 朝思夜慕妹居彼 吾聽聞此言 千里涉嶮裂磐根 翻山越嶺來 欲再逢兮空徒然 吾曾度妹妻 空蟬憂世此世人 玉限魂極矣 縱欲髣髴與君會 今知實亦不可得

        柿本人麻呂 0210


    0211 短歌二首 【承前,短歌第一。】

       去年見而之 秋乃月夜者 雖照 相見之妹者 彌年放

       去年見(こぞみ)てし 秋月夜(あきのつくよ)は ()らせれども 相見(あひみ)(いも)は 彌年離(いやとしさか)

         去年所觀見 秋月夜者今亦照 然時與相伴 共翫秋月吾妻者 年月彌離相遠去

        柿本人麻呂 0211


    0212 【承前,短歌第二。】

       衾道乎 引手乃山爾 妹乎置而 山徑徃者 生跡毛無

       衾道(ふすまぢ)を 引手山(ひきでのやま)に (いも)()きて 山道(やまぢ)()けば ()けり()()

         山邊衾道矣 置妻引手羽易山 孤伶獨歸去 足步山徑踏復路 不覺此身有生時

        柿本人麻呂 0212


    0213 或本歌曰 【承前,或本歌。】

       宇都曾臣等 念之時 攜手 吾二見之 出立 百足槻木 虛知期知爾 枝刺有如 春葉 茂如 念有之 妹庭雖有 恃有之 妹庭雖有 世中 背不得者 香切火之 燎流荒野爾 白栲 天領巾隱 鳥自物 朝立伊行而 入日成 隱西加婆 吾妹子之 形見爾置有 綠兒之 乞哭別 取委 物之無者 男自物 腋挾持 吾妹子與 二吾宿之 枕附 嬬屋內爾 日者 浦不怜晚之 夜者 息衝明之 雖嘆 為便不知 雖眷 相緣無 大鳥 羽易山爾 汝戀 妹座等 人云者 石根割見而 奈積來之 好雲敘無 宇都曾臣 念之妹我 灰而座者

       現身(うつそみ)と (おも)ひし(とき)に (たづさ)はり ()二人見(ふたりみ)し 出立(いでたち)の 百足(ももだ)槻木(つきのき) 此方此方(こちごち)に 枝刺(えださ)せる(ごと) 春葉(はるのは)の (しげ)きが(ごと)く (おも)へりし (いも)にはあれど (たの)めりし (いも)にはあれど 世中(よのなか)を (そむ)きし()ねば 陽炎(かぎるひ)の ()ゆる荒野(あらの)に 白栲(しらたへ)の 天領巾隱(あまひれがく)り (とり)(もの) 朝立(あさだ)ちい()きて 入日如(いりひな)す (かく)りにしかば 我妹子(わぎもこ)が 形見(かたみ)()ける 綠子(みどりこ)の 乞泣(こひな)(ごと)に 取委(とりまか)す (もの)しなければ (をとこ)じもの 脇挾持(わきばさみも)ち 我妹子(わぎもこ)と 二人我(ふたりわ)()し 枕付(まくらづ)く 妻屋內(つまやのうち)に (ひる)は 心寂暮(うらさびく)らし (よる)は 息衝明(いきづきあ)かし (なげ)けども 為術知(せむすべし)らに ()ふれども 逢由(あふよし)()み 大鳥(おほとり)の 羽易山(はがひのやま)に ()()ふる (いも)(いま)すと (ひと)()へば 岩根裂(いはねさ)くみて 滯來(なづみこ)し ()けくもぞ()き 現身(うつそみ)と (おも)ひし(いも)が (はひ)にて(いま)せば

         時吾念妹妻,空蟬憂世現身人 攜手執子手 我倆並肩遠眺望 山林聳出立 百足陣容勢槻木 此方又彼方 茂枝生長之所如 春葉發新枝 欣欣繁衍之所如 吾思妻年稚 年健繁盛猶槻葉 吾念妻可賴 體健恃如春新枝 無奈此世間 諸行無常理難背 震盪耀陽炎 赫赫所燃荒野中 身為白栲之 素妙天領巾所隱 其身雖非鳥 朝晨離家翔天際 如日入雲間 隱身幽世不見故 親親吾妹妻 所置形見唯稚子 每當吾幼兒 乞泣哭號求慈母 所得取委之 息所欲物不有之 吾雖為男子 脇挾抱慰失恃兒 顧念往昔日 吾與妹妻共相寢 枕付共衾兮 妻屋之內今清寂 白晝值日時 鬱鬱心寂至日暮 暗闇值夜時 悲哀嘆息至夜明 縱悲嘆渡日 不知所措鎮無方 雖眷吾愛妻 更恨兩隔逢無由 鴻禽大鳥兮 疊翼交翅羽易山 人言汝癡戀 朝思暮想妹居彼 吾聽聞此言 不惜千里裂磐根 涉嶮越嶺來 雖欲再逢盡徒然 吾曾度妹妻 仍為憂世現身人 今知實已化燼矣

        柿本人麻呂 0213


    0214 短歌三首 【承前,短歌第一。】

       去年見而之 秋月夜者 雖渡 相見之妹者 益年離

       去年見(こぞみ)てし 秋月夜(あきのつくよ)は (わた)れども 相見(あひみ)(いも)は 益年離(いやとしさか)

         去年見秋月 月夜今日同渡虛 月同去年月 然與相翫彼月之 吾妹益年更相離

        柿本人麻呂 0214


    0215 【承前,短歌第二。】

       衾路 引出山 妹置 山路念邇 生刀毛無

       衾道(ふすまぢ)を 引出山(ひきでのやま)に (いも)()きて 山道思(やまぢおも)ふに ()ける()()

         山邊衾道矣 置妻引出羽易山 驀然情哀淒 故念置妻深山路 徒留此生又何益

        柿本人麻呂 0215


    0216 【承前,短歌第三。】

       家來而 吾屋乎見者 玉床之 外向來 妹木枕

       (いへ)()て ()()()れば 玉床(たまどこ)の (よそ)()きけり (いも)木枕(こまくら)

         歸來至家中 顧見共度吾屋者 昔日相寢兮 玉床亡妻木枕者 向外轉兮訴魂離

        柿本人麻呂 0216


    0217 吉備津釆女死時,柿本朝臣人麻呂作歌一首 【并短歌。】

       秋山 下部留妹 奈用竹乃 騰遠依子等者 何方爾 念居可 栲紲之 長命乎 露己曾婆 朝爾置而 夕者 消等言 霧己曾婆 夕立而 明者 失等言 梓弓 音聞吾母 髣髴見之 事悔敷乎 布栲乃 手枕纏而 劍刀 身二副寐價牟 若草 其嬬子者 不怜彌可 念而寐良武 悔彌可 念戀良武 時不在 過去子等我 朝露乃如也 夕霧乃如也

       秋山(あきやま)の したへる(いも) 弱竹(なよたけ)の (とを)よる兒等(こら)は 何方(いかさま)に 思居(おもひを)れか 栲繩(たくなは)の 長命(ながきいのち)を (つゆ)こそば (あさ)()きて (ゆふへ)には ()ゆと()へ (きり)こそば (ゆふへ)()ちて (あさ)は ()すと()へ 梓弓(あづさゆみ) 音聞(おとき)(われ)も (おほ)()し 事悔(ことくや)しきを 敷栲(しきたへ)の 手枕纏(たまくらま)きて 劍大刀(つるぎたち) ()副寢(そへね)けむ 若草(わかくさ)の 其夫子(そのつまのこ)は (さぶ)しみか (おも)ひて()らむ (くや)しみか 思戀(おもひこ)ふらむ (とき)ならず ()ぎにし兒等(こら)が 朝露(あさつゆ)(ごと) 夕霧(ゆふぎり)(ごと)

         楓紅秋山兮 赩容妍貌娘子矣 纖細弱竹兮 窈窕橈然淑女矣 是懷何所思 又懷何所念也歟 其命如栲繩 本當長壽健長青 然卻如朝露 晨分置兮不久長 時至夕方者 朝露消散去無蹤 然卻猶夕霧 暮時起兮存續短 時至翌朝者 夕霧失散徒飄渺 梓弓發振鳴 耳聞死訊方寸亂 後悔已莫及 只恨當初凡視之 敷栲衾褥兮 交袖共枕相纏綿 華劍大刀兮 副身共寢不離身 親親若草兮 其夫子者意如何 方寸寂且寞 掛念伊人獨孤寢 哀悼悔且恨 思慕故人度終日 其命不當絕 非時殞命娘子矣 香消朝露所如也 玉殞夕霧所如也

        柿本人麻呂 0217


    0218 短歌二首 【承前。】

       樂浪之 志我津子等何【一云,志我乃津之子我。】 罷道之 川瀨道 見者不怜毛

       樂浪(ささなみ)の 志賀津(しかつ)兒等(こら)一云(またにいふ)志賀津兒(しかのつのこ)が。】 罷道(まかりぢ)の 川瀨道(かはせのみち)を ()れば(さぶ)しも

         碎波樂浪之 志賀津之采女矣【一云,志賀之津娘子矣。】 觀其身罷道 離世涉水川瀨道 見之心怜寂寥生

        柿本人麻呂 0218


    0219 【承前,第二。】

       天數 凡津子之 相日 於保爾見敷者 今敘悔

       天數(そらかぞ)ふ 大津兒(おほつのこ)が ()ひし()に (おほ)()しくは (いま)(くや)しき

         天數漫計空 凡兮大津采女矣 往日相逢時 不經視之凡漫然 今日追慕悔不及

        柿本人麻呂 0219


    0220 讚岐狹岑嶋,視石中死人,柿本朝臣人麻呂作歌一首 【并短歌。】

       玉藻吉 讚岐國者 國柄加 雖見不飽 神柄加 幾許貴寸 天地 日月與共 滿將行 神乃御面跡 次來 中乃水門從 船浮而 吾榜來者 時風 雲居爾吹爾 奧見者 跡位浪立 邊見者 白浪散動 鯨魚取 海乎恐 行船乃 梶引折而 彼此之 嶋者雖多 名細之 狹岑之嶋乃 荒礒面爾 廬作而見者 浪音乃 茂濱邊乎 敷妙乃 枕爾為而 荒床 自伏君之 家知者 徃而毛將告 妻知者 來毛問益乎 玉桙之 道大爾不知 鬱悒久 待加戀良武 愛伎妻等者

       玉藻良(たまもよ)し 讚岐國(さぬきのくに)は 國柄(くにから)か ()れども()かぬ 神柄(かむから)か 幾許貴(ここだたふと)き 天地(あめつち) 日月(ひつき)(とも)に 足行(たりゆ)かむ 神御面(かみのみおも)と 繼來(つぎきた)る 那珂湊(なかのみなと)ゆ 船浮(ふねう)けて ()漕來(こぎく)れば 時風(ときつかせ) 雲居(くもゐ)()くに 沖見(おきみ)れば 撓波立(とゐなみた)ち 邊見(へりみ)れば 白波騷(しらなみさわ)く 鯨魚取(いさなとり)り (うみ)(かしこ)み 行船(ゆくふね)の 梶引折(かぢひきを)りて 彼此(をちこち)の (しま)(おほ)けど 名美(なぐは)し 狹岑島(さみねのしま)の 荒磯面(ありそも)に (いほ)りて()れば 波音(なみのおと)の (しげ)濱邊(はまへ)を 敷栲(しきたへ)の (まくら)()して 荒床(あらとこに)に 自臥(ころふ)(きみ)が 家知(いへし)らば ()きても()げむ 妻知(つまし)らば ()()はましを 玉桙(たまほこ)の (みち)だに()らず 鬱悒(おほほ)しく ()ちか()ふらむ ()しき妻等(つまら)

         玉藻良且秀 南海讚岐之國者 蓋其國體耶 見之千遍仍不厭 蓋由神意耶 幾許尊貴珍如斯 其與天地間 日月星象相與共 足滿將行矣 言傳伊豫神御面 飯依彥謂也 自彼讚岐那珂湊 乘船浮蒼溟 我等划槳漕來者 時風突風疾 雲居頂上吹拂過 眺望沖津者 撓波駭浪興湧起 顧見邊岸者 白浪碎波振騷鳴 鯨魚獵取兮 滄海恐兮令人懼 行船徃舸之 樯傾楫摧舳梶折 彼方此方之 點點島嶼雖多在 其名秀美兮 沙彌島根狹岑島 島上荒磯面 權設廬屋見之者 潮音響不絕 浪濤聲繁濱邊上 敷栲衾褥兮 以此濱邊為褥枕 倒伏荒床上 見得自臥之君矣 若知汝棲家 吾當行去告消息 妻若知此事 當來奔赴尋訪矣 可惜與願違 玉桙之道無由知 鬱悒愁寡歡 獨守空閨焦心急 汝之愛妻誠可哀

        柿本人麻呂 0220


    0221 短歌二首 【承前。】

       妻毛有者 採而多宜麻之 作美乃山 野上乃宇波疑 過去計良受也

       (つま)()らば ()みて()げまし 沙彌山(さみのやま) 野上薺蒿(ののうへのうはぎ) ()ぎにけらずや

         妻女若在此 當同摘採共食之 沙彌島之山 野上薺蒿嫁菜矣 旬時已過十日菊

        柿本人麻呂 0221


    0222 【承前,第二。】

       奧波 來依荒礒乎 色妙乃 枕等卷而 奈世流君香聞

       沖波(おきつなみ) 來寄(きよ)する荒礒(ありそ)を 敷栲(しきたへ)の (まくら)()きて ()せる(きみ)かも

         奧浪沖津波 來依寄岸荒礒矣 敷栲衾褥兮 以濱為枕陷長寢 永眠不寤汝君哉

        柿本人麻呂 0222


    0223 柿本朝臣人麻呂在石見國臨死時,自傷作歌一首

       鴨山之 磐根之卷有 吾乎鴨 不知等妹之 待乍將有

       鴨山(かもやま)の 岩根(いはね)()ける (あれ)をかも ()らにと(いも)が ()ちつつあるらむ

         石見鴨山之 磐根之上吾枕之 伏臥將臨死 然妹居家無由知 徒守空閨待吾返

        柿本人麻呂 0223


    0224 柿本朝臣人麻呂死時,妻依羅娘子作歌二首

       且今日且今日 吾待君者 石水之 貝爾【一云,谷爾。】交而 有登不言八方

       今日今日(けふけふ)と ()()(きみ)は 石川(いしかは)の (かひ)一云(またにいふ)(たに)に。】(まじ)りて ()りと()はずやも

         今日且今日 妾所引領苦待君 遲遲未歸矣 蓋是混於石川貝【一云,谷。】 交淆也歟吾夫矣

        依羅娘子 0224


    0225 【承前,其二。】

       直相者 相不勝 石川爾 雲立渡禮 見乍將偲

       (ただ)()はば 逢克(あひかつ)ましじ 石川(いしかは)に 雲立渡(くもたちわた)れ ()つつ(しの)はむ

         雖欲直逢晤 不克相逢難相會 唯有朝彼方 眺望石川雲湧渡 追偲良人舉哀悼

        依羅娘子 0225


    0226 丹比真人【名闕。】擬柿本朝臣人麻呂之意,報歌一首

       荒浪爾 緣來玉乎 枕爾置 吾此間有跡 誰將告

       荒波(あらなみ)に 寄來(よりく)(たま)を (まくら)()き 我此間(あれここ)(あり)と (たれ)()げけむ

         隨荒濤駭浪 緣來寄岸玉石矣 置茲洽為枕 吾人命絕在此間 是誰先知告悉矣

        丹比真人 0226


    0227 或本歌曰 【承前,擬人麻呂妻之意所詠。】

       天離 夷之荒野爾 君乎置而 念乍有者 生刀毛無

       天離(あまざか)る 鄙荒野(ひなのあらの)に (きみ)()きて (おも)ひつつ()れば ()ける()()

         天離日已遠 鄙夷遠國荒野間 置夫在異地 每思君客死他鄉 徒留此生又何益

        佚名 0227

           右一首歌,作者未詳。但古本以此歌載於此次也。



  •  寧樂宮御宇天皇之代 日本根子高瑞淨足姬天皇。【元正】○按底本僅書寧樂宮三字。

    0228 和銅四年,歲次辛亥,河邊宮人姬嶋松原見孃子屍,悲嘆作歌二首

       妹之名者 千代爾將流 姬嶋之 子松之末爾 蘿生萬代爾

       (いも)()は 千代(ちよ)(なが)れむ 姬島(ひめしま)の 小松(こまつ)(うれ)に 苔生(こけむ)(まで)

         吾願妹之名 流傳不絕千代後 直至姬嶋之 小松末梢生苔蘚 物換星移仍不息

        河邊宮人 0228


    0229 【承前,其二。】

       難波方 鹽干勿有曾禰 沈之 妹之光儀乎 見卷苦流思母

       難波潟(なにはがた) 潮干勿有(しほひなあ)りそね (しづ)みにし (いも)姿(すがた)を ()まく(くる)しも

         澪標難波瀉 願潮常滿勿潮乾 沉海沒滄溟 娘子光儀遷化姿 見之惟苦苛身心

        河邊宮人 0229


    0230 靈龜元年,歲次乙卯秋九月,志貴親王薨時作歌一首 【并短歌。】

       梓弓 手取持而 大夫之 得物矢手挾 立向 高圓山爾 春野燒 野火登見左右 燎火乎 何如問者 玉桙之 道來人乃 泣淚 霢霂爾落者 白妙之 衣埿漬而 立留 吾爾語久 何鴨 本名唁 聞者 泣耳師所哭 語者 心曾痛 天皇之 神之御子之 御駕之 手火之光曾 幾許照而有

       梓弓(あづさゆみ) ()取持(とりも)ちて 大夫(ますらを)の 幸矢手挾(さつやたばさ)み 立向(たちむか)ふ 高圓山(たかまとやま)に 春野燒(はるのや)く 野火(のび)()(まで) ()ゆる()を (なに)かと()へば 玉桙(たまほこ)の 道來人(みちくるひと)の 泣淚(なくなみた) 小雨(こさめ)()れば 白栲(しろたへ)の 衣埿漬(こもろひづち)て 立留(たちと)まり (われ)(かた)らく (なに)しかも 本無尋(もとなとぶら)ふ ()けば ()のみし()かゆ (かた)れば (こころ)(いた)き 天皇(すめろき)の 神皇子(かみのみこ)の 御駕(いでまし)の 手火(たひ)(ひかり)そ 幾許(そこ)()りたる

         麗嚴梓弓矣 手取執之嚴陣待 壯士荒益男 指挾幸矢張弓弦 立向蓄勢發 所狙之的高圓山 山間春野燎 見彼野火燃熾熾 問其燎火者 野間所燃是何如 玉桙石柱兮 行道來人聞我訊 一時淚泣下 泪如霢霂降瀟淅 白妙素織服 衣為淚霑埿漬濡 立留止行步 責吾何以輕言問 吾所訊問者 奈何輕妄若如斯 若夫聞此事 發音哀嚎泣由衷 若夫訴此事 哀悼心痛欲毀滅 此乃天皇之 神尊皇子志貴王 葬列御駕兮 送殯秉炬松明矣 如此輝熾照幾許

        笠金村 0230


    0231 短歌二首 【承前,短歌其一。】

       高圓之 野邊秋芽子 徒 開香將散 見人無爾

       高圓(たかまと)の 野邊秋萩(のへのあきはぎ) (いたづら)に ()きか()るらむ ()人無(ひとな)しに

         大和高圓山 山間野邊秋萩矣 空虛復徒然 徒咲綻兮徒謝散 無人翫賞獨孤芳

        笠金村 0231


    0232 【承前,短歌其二。】

       御笠山 野邊徃道者 己伎太雲 繁荒有可 久爾有勿國

       三笠山(みかさやま) 野邊行道(のへゆくみち)は 幾許甚(こきだ)くも (しげ)()れたるか (ひさ)にあら()くに

         御笠三笠山 山野行道甚淒涼 何以蘩幾許 荒煙漫草茂如此 分明時過當未久

        笠金村 0232

           右歌,笠朝臣金村歌集出。



    0233 或本歌曰 【承前,或本短歌其一。】

       高圓之 野邊乃秋芽子 勿散禰 君之形見爾 見管思奴播武

       高圓(たかまと)の 野邊秋萩(のへのあきはぎ) 勿散(なち)りそね (きみ)形見(かたみ)に ()つつ(しぬ)はむ

          大和高圓山 山間野邊秋萩矣 勿散莫零落 見彼落花猶形見 見之偲君更哀愁

        笠金村 0233


    0234 【承前,或本短歌其二。】

       三笠山 野邊從遊久道 己伎太久母 荒爾計類鴨 久爾有名國

       三笠山(みかさやま) 野邊(のへ)行道(ゆくみち) 幾許甚(こきだ)くも ()れにける(かも) (ひさ)にあら()くに

         御笠三笠山 野邊所經行道者 淒涼甚幾許 何以荒廢如此哉 時過分明仍未久

        笠金村 0234


    真字萬葉集 卷第二 相聞、挽歌 終