【仁德紀】

藤原國經　002

　日本書紀者，一品舍人親王、從四位下太朝臣安滿等，奉敕所撰也。神代上下紀、帝世廿八紀，總三十卷。筆削成功，其勤至矣。此紀元慶，鼓篋以來，二十餘年，倚席不講，時人竊歎：「師說將墮。」甲子歲，降綸旨，令大學頭藤大夫說之。大夫下意之問，上口而答，舉前儒之干矛，鑿後生之耳目。況亦教而無倦，勤以傾懷。始於四年秋八月廿一日，終於六年冬十月廿二日。即閏十二月十七日，聊屈師禮，以成竟宴。干時在朝公卿大夫，莫不畢會焉。數巡酒候，座人耳熱，宜歌舊史，各述緣情。其詞云：

　此天皇(すめら)，皇子(みこ)手研耳命(たきしみみのみこと)。及年卌五歲，詔曰(のたまはく)：「我天祖(あがあまつみおや)養正(ただしきみちをおこなひ)，治此西偏(にしのほとり)。其後(そののち)，遼遙之地(はるかなるくに)，猶未霑於王澤(なほみうつくしみにうるほはぬがごとく)。邑君村長(むらむらのきみ)，各相凌躒(あひきしろへり)。又鹽土老翁(しほつちのおきな)曰：『東有乘天磐船(あまのいはふね)飛降(とびくだれる)者，有美地(よきくに)矣。』彼地足以始造宮都(はじめてみやつくり)，恢弘天業(あまつひつぎをひろめむ)，蓋六合之中心乎(あめのしたのもなかなるべし)。」諸皇子對曰：「理實(ことわり)灼然。」其年，皇(すめら)率師(いくさ)東征。又皇輿巡幸(すめらみこといでまし)，登丘(をかにのぼり)詔曰：「此國之狀(すがた)，猶如蜻蛉(あきづ)之臀呫(となめせる)焉。」由是始有秋津洲之號(あきづしまのな)也。蜻蛉(あきづ)，蟲名(むしのな)也。【神武紀】

從五位下大內記兼周防權介三統宿禰理平　【三統理平】　003

　開闢之初(あめつちのひらくるはじめ)，浮漂之中(うかびただよへるなか)生一物，狀(かたち)如葦芽(あしかび)，便化為神(かみ)。號之國常立尊(くにとこたちのみこと)。葦牙(あしかび)者，葦(あし)之角組(つのぐめる)之狀(かたち)矣。【神代紀】

從五位下守大學頭藤原朝臣春海　【藤原春海】　004

　神日本磐余彥天皇(かみやまといはれびこのすめらみこと)，既率(ひきゐて)皇師，欲趣(おもむき)中洲時，山中嶮絕(やまのうちさがしく)，無復行路(ゆくべきみちもしらで)，棲遑嗟嘆(なげき)。時夜夢天照大神(あまてるおほかみ)訓：「朕(われ)今遣八咫烏(やたがらす)，宜以為鄉導者(みちびきとせよ)。」果有烏自空翔降(そらよりとびくだれり)。天皇(すめら)悅其夢驗(かなへる)。時日臣命(ひのおみのみこと)率軍(つはもの)，尋烏所向(むかふ)，仰(あふぎ)視而追之。天皇敕譽曰(ほめてのたまはく)：「汝(なむぢ)忠且勇(いさをしく)，而能嚮導(よくみちびけり)。故改汝名(なをあらためて)，為道臣(みちのおみ)矣。」【神武紀】

學生蔭子從八位下葛井宿禰清鑒　【葛井清鑒】　005

　素盞鳴尊(すさのをのみこと)，取右髻所纏五百箇御統(みきのみづらにまつへるいほつすばる)之玉(たま)，著於右手(みぎのて)，化生天穗日命(あまのほひのみこと)。【神代紀】

學生蔭孫從七位下矢田部宿禰公望　【矢田部公望】　007

　天照大神皇孫(あまてるおほかみのすべみま)欲為葦原中國(あしはらのなかつくに)之主(きみ)，時彼地(そのくに)多有螢火光神，及蠅聲邪神(さばへなすあしきかみ)，復有草木咸能言語(またくさきみなものいふ)。高皇產靈尊(たかむすびのみこと)集八百萬神(やほよろづのかみ)，問曰(とひたまはく)：「吾欲令撥平(はらひ)葦原中國之邪鬼(なかつくにのあしきもの)，當遣(つかはす)誰者宜也？」僉曰(みないはく)：「天穗日命(あまほひのみこと)。是神之傑(これかみのいさを)也。」即遣(つかはし)以平(たひらけ)之云。【神代紀】

矢田部公望　008

　神日本磐余彥天皇(かみやまといはれびこのすめらみこと)討(うちたまふ)長髓彥時，長髓彥(ながすねびこ)遣使曰：「嘗(むかし)有天神之子(あまつかみのみこ)，乘天磐船(あまのいはぶね)自天降止(そらよりくだりませり)。號(な)曰櫛玉饒速日尊(くしたまにぎはやひのみこと)。吾奉(つかへまつり)為君(きみ)焉。夫天神之子(あまつかみのみこ)，豈有兩種(ふたはしらあり)乎？奈何(いかでか)更稱天神子，可奪人地(ひとのところをばふべき)乎？」天皇詔曰：「天神子(あまつかみのみこ)亦多耳(おほし)。汝所為君(なむぢがきみとするところ)，實(まこと)天神子者，必有表物(しるしもの)，可相示(みせ)之。」長髓彥(ながすねびこ)奉天羽羽矢(あまのははや)、鞬(ゆき)等。天皇覽之(すめらみそなはして)曰：「事不虛也(まことなりけり)。」還以所御天羽羽矢(あまのははや)、鞬(ゆき)賜示。長髓彥(ながすねびこ)見其天表(あまつしるし)，益懷踧踖(つつしみかしこまる)云。又饒速日尊(にぎはやひのみこと)，乘天磐船(あまのいはぶね)，巡幸大虛(おほそらにめぐりあるく)也。故(ゆへ)稱此國：「虛空見日本國(そらみつやまとのくに)矣。」【神武紀】

學生蔭孫從七位上藤原朝臣忠紀　【藤原忠紀】　009

　高麗(こま)上表疏，文字(もじ)書于烏羽(からすのは)。以其羽黑(はくろ)，字不能識(しりがたき)。王辰爾乃蒸羽於飯氣(はをいひのけにむし)，以白絹押印(しろききぬにおしうつし)，遂得辨讀(わきまへよめり)。【敏達紀】

少內記從六位上藤原朝臣博文　【藤原博文】　011

　天照大神(あまてるおほかみ)欲立皇孫(すめみま)為葦原中國之主(あしはらのなかつくにのきみ)，遣眾神至出雲國(いづものくに)，驅除鎮平(はらひしつめ)大己貴神。大己貴神(おほなむぢのかみ)曰：「當問我子(わがこにとひ)，然後將報(かへりことまうさん)。」是時事代主神(ことしろぬしのかみ)釣三穗之碕(みほのさき)，故以熊野諸手船(くまののもろたふね)載使者稻背脛(いなせはぎ)遣之，且問將報之詞(かへりこと)。事代主神(ことしろぬしのかみ)曰：「我父宜當奉避(わがかぞさりまつるべし)。」因於海中(わたのなか)造八重蒼柴籬(やへのあをふしかき)而避之(さりぬ)云。父祖(かぞ)者，父(ちち)之謂也。柴(ふし)者，柴木(しば)之謂矣。【神代紀】

式部少丞正七位下藤原朝臣佐高　【藤原佐高】　012

　天照大神(あまてるおほかみ)，以素盞鳴尊(すさのをのみこと)為行(しわざ)甚無狀(あぢきなし)， 乃入于天石窟(あまのいはや)。閉磐戶(いはと)而幽居(かくれ)焉。時六合之內(くにのうち)常闇(とこやみ)，而不知晝夜之相代(ひるよるのかはるをもしらぬ)。思兼神(おもひかねのかみ)深謀遠慮(ふかくおもひはかり)，遂聚(あつめ)常世之長鳴鳥(とこよのながなきのとり)，使互長鳴(なかせ)。亦以手力雄神(たちからをのかみ)，立磐戶(いはと)之側(わき)。天照大神(あまてるおほかみ)細開窟窺之(ほそめにあけてみそなはす)，手力雄神(たちからをのかみ)奉承大神(おほんかみ)之手，引而奉出(ひきいだしたてまつれり)。於是中臣(なかとみ)、忌部(いむべ)神等，界(ひきわたし)以端出之繩(しりくべなは)曰：「勿復還幸(またなかへりましぞ)。」【神代紀】

左大史正六位上兼行算博士阿保朝臣經覽　【阿保經覽】　013

　思兼神之事(おもひかねのかみのこと)，已見於上(かみにみえたり)。

外從五位下大外記阿刀宿禰春正【阿刀春正】　014

　天照大神御子(あまてるおほかみのみこ)，且(まさむ)降瑞穗國(みづほのくに)之間(とき)，先驅者還白(さいはらひかへりまうさく)：「天八達之衢有神(あまのやちまたにかみあり)。」大神(ほむかみ)遣天鈿女(あまのうずめ)問之。衢神對曰(ちまたのかみこたへていはく)：「聞天照大神之子(あまてるおほかみのみこ)，今當降行(くだりますべし)。故奉迎相待(むかへまちたてまつる)也。吾名(わがな)是猿田彥神(さるだひこのかみ)。」天鈿女(あまのうずめ)還詣報狀(よしをます)，皇孫(すべみま)於是離天磐座(あまのいはくらをおしはなち)，排分(ふりわけて)天八重雲(あまのやへくも)，稜威道別道別(いつのちわきにちわき)而天降之(あまくだります)也。【神代紀】

刑部少輔從五位下紀朝臣淑望　【紀淑望】　015

　玉依姬(たまよりひめ)者，海神之女(わたつみのむすめ)云爾。【神代紀】

刑部大輔從五位下大江朝臣千古　【大江千古】　016

　日神(ひのかみ)幽居(こもります)天磐戶(あまのいはや)時，天兒屋命(あまのちごやのみこと)以木綿(ゆふ)懸真榊木(まさかき)，太玉命(ふとたまのみこと)執取稱詞祈啟(いのりまうさしむ)矣。日神(ひのかみ)聞言辭麗美(ことばのうるはしき)，乃細開磐戸而窺之(ほそめにいはとをあけてみそなはす)。手力雄(たちからを)神匿侍(かくれさぶらひ)於側(わき)，則引開(おしあけ)之者，日神之光(ひのかみのひかり)，滿於六合(くにのうちにみちぬ)云。【神代紀】

諸陵頭從五位下物部宿禰安興　【物部安興】　017

　巴提便(はすひ)被遣使百濟(くだら)，還詣報曰(かへりてまうさく)：「臣被遣使(つかひにつかはされ)，妻子等相逐去(めこもろどもにまかりし)。行至百濟濱(くだらのはま)，日暮停宿(ひくれてとどまれる)，吾兒忽亡(わがこにはかにうせて)，不知所之(ゆけるどころをしらず)。其夜大雪(そのよおほきにゆきふれり)，天曉(あけ)始求(もとむる)。有虎連跡(とらのつづけるあと)。臣(やつかれ)乃帶刀擐甲(かたなとりよろひをきて)，尋至巖岫(いはほのくきにたつねいたり)曰：『敬受絲綸(つつしみてみことのりをうけ)，追蹤覓至者(このみちにたしなむ)，為愛其子(こをめぐみ)，令紹父業(おやのわざをつかしめむ)也。惟汝(なんぢ)威神，愛子一也(こをめぐむことはおなじ)。今宵兒亡(こよひわがこうせにたり)，不畏亡命(いのちをうしなはんことをおぢず)。欲報(むくいせん)故來。』虎開口欲噬(とらくちをあいてくはんとす)，巴提便(はすひ)忽申左手(ひだりのて)，執其虎舌(とらのしたをとり)，右手刺殺(みぎのてしてさしころし)，剝取皮還(かはをはいてかへれり)。」【欽明紀】

從五位下守左兵衛權佐藤原朝臣忠房　【藤原忠房】　018

　百濟(くだら)奉五經博士(いつとものふみよむひと)，請代(かへんとまうせれば)博士段楊爾(はかせたにやうに)。依請返遣(かへつかはす)。【繼体紀】

從五位上博士兼備中權介惟宗朝臣具範　【惟宗具範】　019

　此天皇(このすめら)，遷宮(みやこうつり)難波長柄豐碕(なにはのながらのよろさき)。其後定諸司(つかさつかさをさだめ)。【孝德紀】

從五位上行少納言兼侍從播磨權介藤原朝臣玄上　【藤原玄上】　020

　大鷦鷯(おほさざき)天皇生日(むまれますひ)，木菟(つく)飛入產殿(うぶやにとびいれり)。明旦(あした)，譽田(ほんだ)天皇喚大臣武內宿禰(たけうちのすくね)曰：「是何瑞也(いかなるしるしぞ)？」對言(こたへまうさく)：「吉兆(よきしるし)也。復當昨日(きのふ)，臣妻產子時(おのがつまこうむときに)，鷦鷯入于產屋(さざきうぶやにとびいれり)，是亦異(これもあやし)焉。」天皇曰：「今朕之子(わがこ)與大臣子，同日共產(おなじひむまれ)，亦兼有瑞(とみにしるしあり)。取其鳥名相易(とりのなをかへて)，御子(みこ)云大鷦鷯(おほさざき)皇子，大臣子云木菟宿禰(つくのすくね)，以為後葉之契(のちのよのしるし)也。」【仁德紀】

散位從五位上源朝臣兼似　【源兼似】　021

　大鷦鷯天皇御世(おほさざきのすめらみことのみよ)，土倉阿弭古(つちくらのあびこ)捕鳥(とりをとらへ)獻之曰：「臣每張網(つねにあみをはり)捕鳥，未曾得如是之類(かかるをばえざりつ)。」天皇(すめら)問酒君(さけのきみ)：「是何鳥矣(これなにとりぞ)？」對言(こたへまうさく)：「此鳥多在百濟(このとりくだらにおほし)。得馴(ならしえて)而能掠鳥(とりをとらしむ)。彼國人(かのくにのひと)謂之鷙(くち)。」乃授酒君(さけのきみにたまひ)，令養馴(かひならさしめたまふ)。未幾時(いくばくのほどをもへず)而得馴。以韋緡(をしかはのを)著其足(あし)，以小鈴(ちひさきすず)著其尾(を)，居腕上(たたむぎのうへ)，獻于天皇。是日(そのひ)，幸百舌鳥野(もずのの)，多獲雌雉(あまたのきじをとらしめたまへり)。此鳥是今鷹也(これいまのたかなり)。【仁德紀】

前刑部大輔從五位上紀朝臣有世　【紀有世】　022

　天照太神(あまてるおほかみ)曰：「葦原中國(あしはらのなかつくに)有保食神(うけもちのかみ)。」嚮國則(くににむかへば)自口出飯(くちよりいひいで)，又嚮海則(わたにむかへば)鰭廣鰭狹(はたのひろきはたのさき)自口出(くちよりいで)，嚮山則(やまにむかへば)毛麤毛柔(けのあらきけのにこき)亦自口出。其神亡(そのかみうせて)，化為牛馬(うしむま)，又種種物(くさぐさのもの)自其身出(みよりいだす)。【神代紀】

從五位上行神祇大副大中臣朝臣安則　【大中臣安則】　023

　王辰爾所讀文字(よめるもじ)，此天皇御世(このすめらのみよ)之事也。【敏達紀】

正五位下守右中辨兼行勘解由次官藤原朝臣道明　【藤原道明】　024

　此帝御世(このみかどのみよ)，百濟王(くだらのきみ)獻釋迦佛金銅像一軀(しゃかほとけのかねのみかたひとはしら)、經論(きやうろん)若干卷。【欽明紀】

從五位位上行文章博士兼備中守三善朝臣清行　【三善清行】　025

　同帝御時(おなじみかどのおほむとき)，大和國今來郡(やまとのくにいまきのこほり)申(まうせる)：「檜隈邑人(ひのくまのむらのひと)登樓聘望(たかどのにのぼりてのぞむ)，乃見良駒(よきこま)。睨影高鳴(かげをみてたかくいばえ)，輕超母脊(かろくおもをこゆ)。是紀伊國漁者負贄草馬之子(きのくにのあまのにへおほせたるめむまのこ)也。買取歷年(かひとりてとしをへて)，後服御龍翥(のちのりもちゐるにたつのごとくにひひり)，超渡壑(たにをこえわたる)十八丈焉。」伏抑(そもそも)，召翫此馬矣(このうまをめしもてあそぶとみえたり)。【欽明紀】

三善清行　026

　下照姬(したてるひめ)者，天稚彥妻(あめわかひこのめ)也。其夫(そのを)伏死時，哭泣悲哀(かなしふ)，聲(こゑ)達于天(そらにきこゆ)。又漢文(からのふみ)云：「鶴唳沖天(つるさはにないてこゑそらにきこゆ)。」連其文云也(それをつらねいへるなるべし)。【神代紀】

從四位下行左中辨兼木工頭源朝臣當時　【源當時】　027

　伊弉諾尊(いざなぎのみこと)、伊弉冉尊(いざなみのみこと)，立於天浮橋(あまのうきはし)之上，共計(ともにはからひ)曰：「底下豈無國歟(したつそこにくになからんや)？」乃以天之瓊矛(あまのたまぼこ)，指下(さしくだし)而探(さくる)之。是獲滄溟(あをうなばら)。其矛鋒(ほこのさき)滴瀝之潮(したたるしほ)，凝(こり)成一島(しま)。是曰磬馭慮島(おのごろしま)。二神(ふたりのかみ)於是降居(くだりまし)彼島，共為夫婦(めをふと)，產生八洲國(くにくにやつ)。其中先以淡路(あはぢ)為胞(え)。雙生(ふたごにむめり)億岐(おき)、佐度(さど)。由是始起大八洲國之號焉(おほやじまのなははじまれる)。次生海(うみ)、川(かは)、山(やま)。次生木祖句句迺馳(きのおやくくのち)、草祖草野姬(くさのおやかやのひめ)。議曰：「吾已生大八洲國及山川草木，何不生天下之主(あめのしたのきみ)者歟？」於是共生日神(ひのかみ)、月神(つきのかみ)。又生蛭兒(ひるこ)，雖已三歲(みとせまで)，腳猶不立(あしたたず)。【神代紀】

從四位上行式部大輔兼春宮亮備前守藤原朝臣菅根　【藤原菅根】　028

　此天皇(このすめら)，即位(くらゐにつきたまへり)豐浦宮(とよらのみや)。同御時(おなじきおほむとき)，聖德太子奏曰：「眾生之命(ひとのいのちは)，事據水田(たつくることによる)。水田之本(たつくることは)，在於池堤(いけのつつみによる)。儻當亢早(もしひでりにあひぬれば)，眾生恨天(たみそらをうらみて)，天默而知，禍降于國(とがくににくだる)。望命諸國(くにくににみことのりして)，興民築池(いけをつかしめん)。」天皇(すめら)大悅(よろこび)，敕築眾池(あまたのいけをつかしめ)。其後天下(あめのした)無亢害之憂(ひでりのうれへなく)，百姓有富饒之謠(おほむたからゆたかなることあり)。【太子傳曆】

右大辨從四位上兼行侍從備前守藤原朝臣忠平　【藤原忠平】　029

　此帝御世(このみかどのみよ)六年(むとせ)，遷都(みやこうつり)近江國(あふみのくに)。【天智紀】

參議左大辨從四位上兼行讚岐守紀朝臣長谷雄　【紀長谷雄】　030

　此天皇有事入東國時(ことありてあづまにいりまししとき)，將及橫河(よこかは)，有黑雲(くろきくも)，廣十餘丈(ひろさとつゑあまり)經天(そらにわたれる)。天皇異之(すめらあやしみて)，親秉式占(みづからうらなひ)曰：「天下兩分之祥(あめのしたのふたつにわかるるしるし)也。然朕遂得天下(われつひにあめのしたをえてむ)歟。」【天武紀】

參議正四位上行左兵衛督兼修理大夫近江權守在原朝臣友于　【在原友于】　0031

　此天皇向新羅時(しらぎにむかひたまふとき)，其國王戰慄(おぢわななき)，降於王船之前(みふねのまへにくだり)曰：「從今以後(いまよりのち)，長與乾坤(あめつちとともに)，伏為飼部(みむまかひとならん)。不乾船柂(ふねかぢかわかさず)，獻馬梳(むまのくし)、馬鞭(むまのむち)。」復誓曰(またちかひていはく)：「非東日更為西出(ひむかしのひのにしにいで)，及河石昇為星辰(かはのいしののぼりてあまつほしにならずより)，怠闕春秋朝貢(としごとのみつぎものをばかかじ)。」【神功紀】

參議大藏卿正四位下平朝臣惟範　【平朝範】　032

　此天皇惱病(みやまひ)時，鞍部多須奈(くらつくりのたすな)奏曰(まうしていはく)：「臣(やつかれ)奉為天皇(すめらのおほむため)，出家修道(いへでしておこなはん)。又奉造佛像(ほとけのみかた)及寺(てら)。」今阪田寺(さかたでら)丈六佛是也(ほとけこれなり)。【用明紀】

參議正四位下行右兵衛督兼播磨守藤原朝臣清經　【藤原清經】　033

　此天皇御宇七年(ななとせ)，國內不靜(くにのうちしづかならず)。天皇乃沐浴齋戒(ゆかはあみものいみ)，潔淨殿內(おほどののうちをきよめ)而祈曰(いのしたまはく)：「朕禮神尚未盡耶(かみをゐやまひたてまつるとのおそろかなるか)？冀(ながはく)亦夢裏教之(ゆめにをしへたまへ)。」是夜夢一貴人，對立戶殿(おほどののうちにむかひたち)，自稱大物主神(おほものぬしのかみ)曰：「天皇勿復為愁(またなうれへぞ)。國之不治(くにのをさまらざる)，是吾意也(わがこころなり)。若以吾兒大田田根子令祭吾者(もしわがこのおほたたねこをしてわれをまつらば)，則立平矣(すみやかにたひらきなむ)。」天皇得夢辭(ゆめのことば)，益歡(よろこび)於心。布告天下(あめのした)，求大田田根子(おほたたねこをもとめたまふ)。即於陶邑(すゑのむら)得大田田根子(おほたたねこ)而貢之(たてまつれり)。天皇幸淺茅原(あさぢはらにいで)，集諸王卿(おほきみたちをつどへ)而問大田田根子(おほたたねこ)曰：「汝其誰子(なんぢはだれがこぞ)？」對曰：「大物主之子也(おほものぬしのこなり)。」天皇曰：「朕當榮樂(われさかえなむ)。」即以大田田根子(おほたたねこ)，以物部八十手所作祭物(もののべのやそてがつくれるまつりもの)，祭大物主(おほものぬしをまつらしむる)。於是疫病始息(えのやまひはじめてやみ)，國內漸謐(くにのうちしづまりぬ)。【崇神紀】

參議正四位下行宮內卿兼伊勢權守十世王　【十世王】　034

　大足彥忍代別(おほたらしひこおしろわけ)天皇遣日本武尊(やまとたけのみこと)討熊襲(くまおそひ)，遂得鎮西國(にしのくにしづまれり)云。【景行紀】

參議正三位行左衛門督伊豫守藤原朝臣有實　【藤原有實】　035

　此天皇射獵於葛城山(かつらぎやまにかりしたまふ)，忽見長人(たきたかきひと)，面貌容儀相似天皇(かほすがたすめらににたてまつれり)。天皇知是神(かみとしろしめ)，猶故問曰：「何處公也(いづこのきみぞ)？」對曰：「現人神也(あらひとかみなり)。先稱王諱(まづみなをなのりたまへ)，然後應道(のちにわれといはむ)。」天皇答曰(すめらこたへてのたまはく)：「朕是幼武尊也(われはわかたけのみことなり)。」神次(つぎ)稱曰：「僕(やつかれ)是一言主神(ひとことぬしのかみ)也。」遂與盤于遊田(ともにかりのあそびして)，驅逐一鹿(ししをおひて)，相辭發矢(やはなつことをゆづり)，並轡馳騁(むまのくちをならべはしらしめて)。言詞恭恪(ことばゐやまへり)。日晚田罷(ひぐれかりやみてかへりますに)，此神(このかみ)侍送(おくりたてまつれり)天皇至來目水(くめかはまでに)。【雄略紀】

中納言從三位兼行民部卿春宮大夫藤原朝臣有穗　【藤原有穗】　036

　坐雙槻宮(なみきのみや)橘豐日(たちばなのとよひ)天皇，太子之親(みおや)矣。推古帝九年，太子(みこ)興斑鳩宮(いかるがのみや)。十二年，太子親肇作憲法十七條奏之(みづからいつくしきみのりとをちあまりななをちをつくりてたてまつり)。【推古紀】

中納言從三位兼行右衛門督源朝臣貞恒　【源貞恒】　037

　譽田(ほむだ)天皇遣武內宿禰(たけうちすくね)於筑紫(つくし)，以監察(かむがへみしめ)百姓(おほむたから)。時武內宿禰弟(たけうちのすくねのおとうと)甘美內宿禰(むましうちのすくね)，讒于天皇(すめら)：「武內宿禰有望天下之情(あめのしたをねがふこころあり)。」武內宿禰聞之大悲(これをききておほきにうれへて)，浮海逮朝(ふねよりまうでいたり)，乃辨無罪(つみなきよしをまうす)。天皇推問(すめらかむがへとびたまふ)，各爭難決(おのおのあらそひてさだめがたし)。遂出磯城川濱(しきのかはのほとり)，共令探湯(ともにくかたちをせしむる)。武內宿禰勝之(かちぬ)云。盟神探湯(くかたち)者，探湯之謂也(ゆをさぐるなるべし)。【應神紀】

大納言正三位藤原朝臣國經　【藤原國經】　038

　此天皇曰：「官船(おほやけふね)名枯野(かれの)者，伊豆國所貢也(いづのくにのたてまつれるなり)。今朽不堪用(いまはくちてもちゐがたし)。然久為官用(ひさしくおほやけものたれば)，功不可忘(いさみわすれかたし)。何其船名勿絕(いかでかこのふねのなをして)，而得傳後葉焉(のちのよまでつたふべき)？」取其船材(ふねのき)，為薪(たきぎ)而燒鹽(しほをやき)，周賜諸國(あまねくにぐににたまひ)，因令造船(ふねをつくらしめたまふ)。又為鹽薪燒時(しほのたきぎとしてたくとき)，有餘燼(もえぐひのやけぬあり)。則奇(あやしみ)其不燒而獻之(たてまつれり)。天皇以令作琴(ことにつくらしめたまへる)，其音鏗鏘而遠聆(そのこゑさやかにとほくきこゆ)。【應神紀】

右大臣從二位兼行皇太子傅右近衛大將源朝臣光　【源光】　039

　此天皇御宇四年(くにしろしめすよとせ)，登高台(たかどのにのぼり)以遠望(とほくのぞみ)，煙氣不起(けぶりたたざり)於域中(さかひのうち)，以為(おもほし)：「百姓既貧(たみのまづしき)而家無炊者。」故賜恩澤(めぐみたまへり)，至于三載(みとせ)，不納貢物(つきものはたらず)，悉除課役(つかふことなくし)。亦不修造宮闕(みやつくりもせられざり)，風雨入隙(あめかぜいり)而沾衣被(おほむぞをうるほし)，星辰漏壞(ほしのひかりもり)而露床蓐(みゆかもあらはなり)。是後(そののち)，風雨順時(あめかぜときにしたがひ)，百姓富饒(たみとみゆたかなり)。御宇七年(ななとせ)，居台遠望(たかどのにましてのぞみたまふ)，見煙氣多起(けぶりおほくたてれば)曰：「朕既富矣(われすでにとみぬ)。」坐高津宮(たかつのみや)，在位(くらゐにます)凡(おほよそ)八十七年云。【仁德紀】

左大臣從二位兼行左近衛大將藤原朝臣時平　【藤原時平】　040

　此天皇詔曰(たまはく)：「上古之治(いにしへのくにををさむること)，人民得所(おほむたからどころをえて)，姓名勿錯(かばねたがふことなし)。今朕踐祚(われあまつひつぎ)，於茲四年(よとせ)矣。上下相爭(かみしもあひあらそひて)，百姓不安(おほむたからやすからず)。或誤失己姓(あやまちておのがかばねをうしなひ)，或故認高氏(ことさらにたかきうぢをもとむ)。朕雖不賢(われをさなしといへども)，豈非正其錯乎(そのたがへるをたださざらむや)。」故使諸氏姓人等(もろもろのうぢのひとども)，沐浴齋戒(ゆかはあみものいみせしめ)，於味橿丘坐探湯瓮(あまかしのをかにくかべをすゑ)，令盟神探湯(くかたちせしめ)。曰：「得實則全(まことならんひとはまたく)，偽者必害(いつはれらんひとはやぶれよ)。」自是以後(それよりのち)，氏姓自定(うぢかばねさだまり)，更無詐人(いつはるものなし)。百姓(おほむたから)者，民(たみ)之謂也。探湯瓮(くかべ)者，探湯缶之謂也(ゆをさくるほとぎなるべし)。【允恭紀】

式部卿是忠　【是忠親王】　041

　此天皇，初生于淡路宮(あはぢのみや)。容姿美麗(みかたちはうるはしうし)，齒如一骨(みはわかれず)。於茲有井(このどころにゐあり)，曰瑞井(みづのゐ)，則汲之洗太子(くみてみこにあむしたてまつる)。時多遲花落井中(たぢはなゐのうちにちりいれり)，因為太子名也(それによりてみこのみなとす)。多遲花(たぢはな)者，今虎杖(いたどり)也。故謂多遲比瑞齒別(たぢひのみづはわけ)天皇云。【反正紀】

兵部卿貞保　【貞保親王】　042






• 元慶六年歌　　　大納言國經卿　　　一人二首
  
• 延喜六年歌　　　三十六人　【此中四人各詠二首。】　　　合四十首
  上卷合四十二首　【三十七人。】
  　序一首　三統理平