日本巫女史 第三篇:退化咒法時代


  • 第二章、當代に於ける巫女と其呪法

     室町期の末葉から江戶期を通じて、巫女に關する文獻は、決して尠い物では無い。古文書、寺社關係の記錄、地誌、隨筆、稗史、小說、川柳等を數へると、私の披閲しただけでも、寧ろ其の多きに驚く程である。
     併しながら、文獻のみで、巫女及び其呪術の總てを知る事は、絕對に出來無い。秘密を尚んでゐた彼等は、常に語る事を避けてゐたし、それに文字に乏しい彼等にあつては、自身で書き殘した物等は、只の一片すらも傳はつてゐ無いのである。
     從つて、彼等の全體を知るには、各地方に存してゐる民間傳承なり、巫女の實際の生活なりを見聞した報告に由る必要が有るので、私は前にも言つた如く、全國の未見曾識の學友に對して、此事情を告げて、報告を煩した。然る所、私の期待は(ヤヤ)成功して、文獻よりは報告の方に、卻つて學問としての價值も有り、併せて實際の呪術や生活を知る事が出來た。而して茲に、當代の巫女と其呪術を記述するに際し、文獻と報告との二つに區別して、筆を執る事とした。

  • [久遠の絆] [再臨ノ詔]