拾遺和歌集 卷第十 神樂歌
0576 神樂歌
榊葉に 木綿紙垂掛て 誰が世にか 神御前に 祝始めけむ
佚名
0577 【○承前。神樂歌。】
榊葉の 香を馨しみ 尋來れば 八十氏人ぞ 圓居為りける
佚名
0578 【○承前。神樂歌。】
御幣に 成ら益物を 皇神の 御手に取られて 昵さはましを
佚名
0579 【○承前。神樂歌。】
御幣は 我がには非ず 天に坐す 豐岡姫の 宮御幣
佚名
0580 【○承前。神樂歌。】
逢坂を 今朝越來れば 山人の 千歲突けとて 切れる杖也
佚名
0581 【○承前。神樂歌。】
四方山の 人寶と する弓を 神御前に 今日奉る
佚名
0582 【○承前。神樂歌。】
石上 布留や漢の 太刀欲得 組緒紙垂て 宮路通はむ
佚名
0583 【○承前。神樂歌。】
銀の 目貫太刀を 提佩きて 奈良京を 練るは誰が子ぞ
佚名
0584 【○承前。神樂歌。】
我が駒は 早行かなむ 朝日子が 八重射す岡の 玉笹上に
佚名
0585 【○承前。神樂歌。】
榛に 衣は染めむ 雨降れど 移難し 深染めては
佚名
0586 【○承前。神樂歌。】
息長鳥 豬名柴原 飛渡る 鴫が羽音 面白き哉
佚名
0587 【○承前。神樂歌。】
住吉の 岸も為ざらむ 物故に 妬くや人に 待つと言はれむ
或人云く:「住吉明神の託宣とぞ」。
住吉明神
0588 左兵衛督高遠、賀茂に七日詣でける果の夢に、御社よりとて千早著たる嫗文を持詣來けるを、開けて見侍ければ、如是書きて侍ける、其後、大貳に成りて侍ける
木綿襷 掛くる袂は 煩はし 豐けに解けて 有らむとを知れ
賀茂明神
0589 住吉に詣でて
天下る 顯人神の 相生ひを 思へば久し 住吉松
安法法師
0590 【○承前。詣住吉。】
我問はば 神代事も 答へなむ 昔を知れる 住吉松
惠慶法師
0591 筥崎を見侍て
幾世にか 語傳へむ 筥崎の 松千歲の 一つ成らねば
源重之
0592 源遠古朝臣、子生ませて侍けるに
生ひしげれ 平野原の 綾杉よ 濃紫に 立重ぬべく
清原元輔
0593 日吉社にて詠侍ける
願懸くる 日吉社の 木綿襷 草片葉も 言止めて聞け
僧都實因
0594 恒德公家障子
大淀の 禊幾世に 成りぬらむ 神古にたる 浦姫松
源兼澄
0595 粟田右大臣家障子に、唐崎に祓したる所に網引形描けたる所
御禊する 今日唐崎に 下す網は 神承引く 驗也けり
平祐襷
0596 題知らず 【○萬葉集2416。】
千早振る 神保てる 命をば 誰が為にか 永くと思はむ
千早振稜威 神靈所授此命者 三界如火宅 吾耐無常不如意 苟延憂世所為誰
人麿 柿本人麻呂
0597 【○承前。無題。】
千早振る 神も思火の 有ればこそ 年經て富士の 山も燃ゆらめ
人麿 柿本人麻呂
0598 安和元年、大嘗會風俗、長柄山
君が代の 長柄山の 甲斐有と 長閑雲の 居る時ぞ見る
大中臣能宣
0599 【○承前。安和元年大嘗會風俗,長柄山。】
細浪の 長柄山の 長らへて 樂しかるべき 君が御代哉
大中臣能宣
0600 岩藏山
動無き 岩藏山に 君が代を 運置きつつ 千代をこそ積め
佚名
0601 三上山
千早振る 三上山の 榊葉は 榮えぞ增さる 末世迄に
大中臣能宣
0602 【○承前。三上山。】
萬代の 色も變らぬ 榊葉は 三上山に 生ふる也けり
佚名
0603 【○承前。三上山。】
萬代を 三上山の 響くには 野洲川水 澄みぞ逢ひにける
清原元輔
0604 大藏山
貢積む 大倉山は 常磐にて 色も變らず 萬代ぞ經む
大中臣能宣
0605 水尾山
高島や 水尾中山 杣立てて 作重ねよ 千代並藏
佚名
0606 鏡山
磨きける 心も著く 鏡山 曇無き世に 逢ふが樂しさ
大中臣能宣
0607 松崎
千歲經る 松崎には 群居つつ 鶴さへ遊ぶ 心有るらし
清原元輔
0608 御物濱
滯る 時も非じな 近江なる 御物濱の 天日嗣は
平兼盛
0609 天祿元年、大嘗會風俗、千世能山
今年より 千歲山は 聲絕えず 君が御代をぞ 祈るべらなる
大中臣能宣
0610 彌高山
近江なる 彌高山の 榊にて 君が千代をば 祈髻さむ
平兼盛
0611 三上山
祈來る 三上山の 峽し有れば 千歲影に 斯て仕へむ
大中臣能宣
0612 岩藏山
今日よりは 岩藏山に 萬代を 動無くのみ 積まむとぞ思ふ
大中臣能宣
0613 鏡山
萬代を 明らけく見む 鏡山 千歲程は 塵も曇らじ
中務
0614 大國里
稔も良し 蠶飼も得たり 大國の 里賴もしく 覺ほゆる哉
平兼盛
0615 吉田里
名に立てる 吉田里の 杖為れば 突くとも盡きじ 君が萬世
平兼盛
0616 泉川
泉川 長閑水の 底見れば 今年は影ぞ 澄增りける
平兼盛
0617 松崎
鶴棲む 松崎には 並べたる 千代例を 見する也けり
平兼盛
0618 延長四年八月廿四日、民部卿清貫が六十賀、中納言恒佐妻し侍ける時の屏風に、神樂する所の歌 【○古今集1075。】
足引の 山榊葉 常磐為る 蔭に榮行く 神巫覡哉
足曳勢險峻 巖峰高嶺山榊葉 亙久為常磐 長榮庇蔭真榊葉 赫奕嚴神巫覡哉
紀貫之
0619 旅にて詠侍ける 【○萬葉集1247。】
大己貴 少御神の 作れりし 妹背山を 見るぞ嬉しき
大穴牟遲神 少彥名神相與共 攜手所造之 妹背之山誠秀麗 見之心曠復神怡
人麿 柿本人麻呂
0620 延喜廿年亭子院の春日に御幸侍けるに、國官廿一首の歌詠みて奉けるに
珍しき 今日春日の 八稚女を 神も嬉しと 偲ばざらめや
藤原忠房