拾遺和歌集 卷第五 賀歌
0263 天曆御時、齋宮下侍ける時の長奉送使にて罷歸らむとて
萬代の 始と今日を 祈置きて 今行く末は 神ぞ知るらむ
千秋萬代兮 盛世之始今日吉 潔齋置祈禱 其後未然行末者 唯有神祇能知之
中納言 藤原朝忠
0264 初て平野祭に男使立てし時、詠ふべき歌詠坐せしに
千早振る 平野松の 枝繁み 千代も八千代も 色は變らじ
大中臣能宣
0265 仁和御時、大嘗會歌
蒲生野の 玉緒山に 棲鶴の 千年は君が 御代數也
佚名
0266 贈皇后宮の御產屋の七夜に、兵部卿致平親王の雉形を作りて誰とも無くて歌を付けて侍ける
朝夙 桐生岡に 立つ雉は 千世日嗣の 始也けり
清原元輔
0267 藤氏の產屋に罷りて
二葉より 賴もしき哉 春日山 木高き松の 種ぞと思へば
大中臣能宣
0268 產屋の七夜に罷りて
君が經む 八百萬世を 數ふれば 且且つ今日ぞ 七日也ける
大中臣能宣
0269 右大將藤原實資產屋の七夜に
今年生ひの 松は七日に 成りにけり 殘りの程を 思ひこそ遣れ
平兼盛
0270 或人の產屋に罷りて
千歲とも 數は定めず 世中に 限無き身と 人も云ふべく
大中臣能宣
0271 藤原誠信元服し侍ける夜詠みける
老ぬれば 同じ事こそ 為られけれ 君は千世坐せ 君は千世坐せ
源順
0272 三善佐忠冠し侍ける時
結初むる 初元結の 濃紫 衣色に 移れとぞ思ふ
大中臣能宣
0273 天曆帝四十に成御座しましける時、山階寺に金泥壽命經四十八卷を書供養し奉りて、御卷數鶴に加せて州濱に立てたりけり。其州濱敷物に數多歌葦手に書ける中に
山階の 山岩根に 松植ゑて 常磐堅磐に 祈りつる哉
平兼盛
0274 【○承前。天曆帝四十筭時,書寫供養金泥壽命經四十八卷,奉山階寺。御卷數加鶴,立於洲濱。其洲濱敷物,手書數多歌於葦。】
聲高く 三笠山ぞ 呼ばふなる 天下こそ 樂しかるらし
仲算法師
0275 承平四年中宮の賀し侍ける時の屏風に
色變へぬ 松と竹との 末世を 何れ久しと 君のみぞ見む
齋宮內侍
0276 同賀に、竹杖作りて侍けるに
一節に 千代を込めたる 杖為れば 突くとも盡きじ 君が齡は
大中臣賴基
0277 清慎公五十賀し侍ける時の屏風に 【○後拾遺0432。】
君が代を 何に譬へむ 細石の 巖と成らむ 程も飽かねば
清原元輔
0278 【○承前。賀清慎公五十筭時屏風。】
青柳の 綠絲を 繰返し 幾許の 春を經ぬらむ
清原元輔
0279 【○承前。賀清慎公五十筭時屏風。】
我が宿に 咲ける櫻の 花盛り 千歲見るとも 飽かじとぞ思ふ
平兼盛
0280 同人の七十賀し侍けるに、竹杖を作りて
君が為 今日筏る竹の 杖為れば 又も盡きせぬ 世世ぞ籠れる
大中臣能宣
0281 【○承前。賀同人七十筭,付於竹杖。】
位山 峰迄突ける 杖為れば 今萬代の 坂為也
大中臣能宣
0282 一條攝政、中將に侍ける時、父大臣の五十賀し侍ける屏風に
吹風に 餘所紅葉は 散來れど 君が常磐の 影ぞ長閑き
小野好古朝臣
0283 權中納言敦忠母の賀し侍けるに
萬代も 猶こそ飽かね 君が為 思ふ心の 限無ければ
源公忠朝臣
0284 五條內侍督の賀、民部卿清貫し侍ける時、屏風に
大空に 群立る賀の 指しながら 思心の 有氣なる哉
伊勢
0285 【○承前。民部卿清貫侍賀五條典侍時屏風。】
春野の 若菜為らねど 君が為 年數をも 摘まむとぞ思ふ
伊勢
0286 天德三年、內裏に花宴せさせ給ひけるに
櫻花 今宵髻首に 插しながら 如是て千歲の 春をこそ經め
九條右大臣 藤原師輔
0287 題知らず
克見つつ 千歲春を 過ぐすとも 何時かは花の 色に飽くべき
佚名
0288 亭子院歌合に
三千歲に 成る云ふ桃の 今年より 花咲く春に 逢ひにける哉
凡河內躬恒
0289 康保三年、內裏にて子日せさせ給ひけるに、殿上人和歌仕奉りけるに
珍しき 千世始の 子日には 先づ今日をこそ 引くべかりけれ
藤原信賢
0290 小野宮太政大臣家にて子日し侍けるに、下﨟に侍ける時、詠侍ける
行末も 子日松の 例には 君が千歲を 引かむとぞ思ふ
三條太政大臣廉義公 藤原賴忠
0291 延喜御時、御屏風に
松をのみ ときはと思ふに 夜と共に 流す泉も 綠也けり
紀貫之
0292 題知らず
水無月の 夏越祓 する人は 千歲命 延ぶと云也
佚名
0293 承平四年、中宮賀し侍ける屏風に
禊して 思ふ事をぞ 祈りつる 八百萬世の 神隨に
參議 藤原伊衡
0294 天曆御時、前栽宴せさせ給ひける時
萬代に 變らぬ花の 色為れば 何れの秋か 君は見ざらむ
小野宮太政大臣 藤原實賴
0295 廉義公家にて人人に歌詠ませ侍けるに、叢中の夜蟲と云ふ題を
千歲とぞ 叢每に 聞ゆなる 此や松蟲の 聲には有るらむ
平兼盛
0296 右大臣源光家に前栽合し侍ける負態を內舍人橘助道がし侍ける、千鳥形作りて侍けるに詠ませ侍ける
誰が年の 數とかは見む 行返り 千鳥鳴くなる 濱真砂を
紀貫之
0297 天曆御時、清慎公御笛奉るとて詠ませ侍ければ
生初むる 根よりぞ著き 笛竹の 末世長く 成らむ物とは
大中臣能宣
0298 鏡鑄させ侍ける裏に鶴形を鑄付けさせ侍て
千歲とも 何か祈らむ 浦に棲む 鶴上をぞ 見るべかりける
伊勢
0299 題知らず
君が代は 天羽衣 稀に來て 撫づとも盡きぬ 巖成らなむ
佚名
0300 賀屏風に
動き無き 巖果も 君ぞ見む 少女袖の 撫盡す迄
清原元輔