續拾遺和歌集 卷第九 羈旅歌
0662 旅に罷りける人に遣はしける
理に 君こそ急ぐ 道為らめ 惜しむ淚は 何どか止らぬ
二條太皇太后宮大貳 藤原宗子
0663 筑紫に罷りける人に
止らじと 思ふ物から 別路の 心盡しに 嘆かるる哉
藤原顯綱朝臣
0664 題知らず
惜しみかね 淚を幣と 手向けなば 旅行く人の 袖や萎れむ
藤原光俊朝臣 葉室光俊
0665 越に罷りける人に遣はしける
逢事を 何時とか待たむ 歸山 有と許の 名を賴めども
津守國經
0666 源光行東に罷りけるに遣はしける
旅衣 著ても止らぬ 物故に 人賴めなる 逢坂關
如願法師
0667 都に上りて程無く歸り侍りける時、詠める
且越えて 今日は別の 道為れど 復逢坂の 名をや賴まむ
藤原景綱
0668 不破關屋に書付けて侍りける歌
都をば 其方と許 顧て 關越えかぬる 美濃中山
佚名 讀人知らず
0669 物へ罷りける道にて詠める
行末の 空は一つに 霞めども 山本著く 立つ煙哉
藤原賴景
0670 道助法親王家五十首歌中に、旅春雨
忘れずば 萎れて出でし 春雨の 故鄉人も 袖濡らすらむ
如願法師
0671 旅心を
息長鳥 豬名笹屋の 假枕 短夜はも 臥憂かりけり
前大納言 藤原資季
0672 羈中秋と云ふ事を
移行く 日數知られて 夏草の 露分け衣 秋風ぞ吹く
前大納言 藤原為家
0673 東方に罷れりけるに、思外に日數積りて秋にも成りにければ詠める
白河の 關迄行かぬ 東路も 日數經ぬれば 秋風ぞ吹く
津守國助
0674 題知らず
夕暮は 衣手寒き 秋風に 獨や越えむ 白河關
觀意法師
0675 【○承前。無題。】
立別れ 都隔つる 衣手に 曉置きの 露ぞ重なる
權中納言 源具房 久我具房
0676 【○承前。無題。】
露深き 山別衣 干詫びぬ 日影少なき 槙下道
法印最信
0677 【○承前。無題。】
行暮す 野原秋の 草枕 我より先に 結ぶ露哉
前大僧正道玄
0678 【○承前。無題。】
草枕 假寢袖に 露散りて 尾花吹頻く 野邊秋風
大江賴重
0679 寳治元年十首歌合に、旅宿嵐
露けさを 契りや置きし 草枕 嵐吹添ふ 秋旅寢に
皇太后宮大夫 藤原俊成女
0680 小夜中山にて詠侍りける
露拂ふ 朝明袖は 一重にて 秋風寒し 小夜中山
中務卿 宗尊親王
0681 題知らず
眺めつつ 思へば同じ 月だにも 都に變る 小夜中山
前大納言 藤原為家
0682 【○承前。無題。】
越掛かる 山路末は 知らねども 長きを賴む 秋夜月
藤原泰綱
0683 【○承前。無題。】
露結ぶ 野原庵の 篠枕 幾夜か月の 影に為るらむ
平時村
0684 旅宿月と云ふ事を
宵宵の 旅寢床は 變れども 同月こそ 袖に馴れぬれ
權大納言 藤原實家
0685 修行し侍りけるに、月を見て
月見れば 先故鄉ぞ 忘られぬ 思出も無き 都為れども
前大僧正行尊
0686 家に五十首歌詠侍りけるに、野旅
草枕 一夜露を 契りにて 袖に別かるる 野邊月影
入道二品親王道助
0687 羈旅之心を
然らぬだに 夜深く急ぐ 旅人を 誘ひて出る 有明月
從三位 藤原為繼
0688 濱名橋を過ぐとて詠侍りける
立迷ふ 湊霧の 明方に 松原見えて 月ぞ殘れる
中務卿 宗尊親王
0689 題知らず
明けぬとて 山路に懸かる 月影に 變りて出る 秋旅人
光明峯寺入道前攝政左大臣 藤原道家 九條道家
0690 【○承前。無題。】
朝霧の 立ちにし日より 旅衣 稍肌寒く 雁も鳴くなり
祝部成茂
0691 秋暮方、修行に出侍りける道より、權大納言成通許に遣はしける
嵐吹く 峯木葉に 伴ひて 何方浮るる 心為るらむ
西行法師 佐藤義清
0692 寳治元年十首歌合に、旅宿嵐
假枕 夢も結ばず 笹屋の 伏憂程の 夜半嵐に
前右兵衞督 藤原為教 京極為教
0693 物へ罷りける道にて九月晦日に詠侍りける
草枕 今宵許の 秋風に 理為れや 露零るる
民部卿 藤原成範
0694 題知らず
濡れて干す 山路末の 旅衣 時雨るる袖に 秋風ぞ吹く
正親町院右京大夫
0695 【○承前。無題。】
時雨行く 山分衣 今日も復 濡れて干すべき 宿や無からむ
行圓法師
0696 十月晦日、物へ罷りけるに時雨のしければ
時雨する 今宵許ぞ 神無月 袖にも掛かる 淚也ける
藤原道信朝臣
0697 羈中夕と云へる心を
旅人の 宿借衣 袖冴えて 夕霜結ぶ 小野篠原
權律師定為
0698 建保五年內裏歌合に、冬夕旅
冬日の 行く程も無き 夕暮に 猶里遠き 武藏野原
正三位 藤原知家
0699 行路初雪と云ふ事を
初雪に 我とは跡を 付けじとて 先朝立たむ 人を待つ哉
藤原清輔朝臣
0700 旅歌中に
別暮す 木曾梯 絕絕に 行末遠き 峯白雲
後京極攝政前太政大臣 藤原良經 九條良經
0701 家歌合に羈中松風
天原 日も夕汐の 唐衣 遙遙來ぬる 浦松風
光明峯寺入道前攝政左大臣 藤原道家 九條道家
0702 守覺法親王家五十首歌に、旅を
夕汐の 磯越す浪を 枕とて 風に留りの 日數をぞ經る
野宮左大臣 藤原公繼 德大寺公繼
0703 旅泊之心を
瀛浪 寄する磯邊の 浮枕 遠離るなり 鹽や滿つらむ
從二位 藤原家隆
0704 寳治百首歌奉りける時、同心を
問へかしな 由良湊の 梶枕 行方も知らぬ 浪浮寢を
大藏卿 源有教
0705 題知らず
漕暮るる 浮寢床の 浪枕 寄るとて夢も えやは見えける
祝部成賢
0706 洞院攝政家百首歌に、旅
道遠み 思ひしよりも 日は暮れて 更行く宿は 貸す人も無し
藤原信實朝臣
0707 羈中途遠と云へる心を
越遣らで 今日は暮しつ 足柄の 山蔭遠き 岩懸道
從三位 藤原光成 大炊御門光成
0708 題知らず
足柄の 山麓に 行暮れて 一夜宿かる 竹下道
平長時
0709 東方に罷りける時よみける
行末を 急ぐ心に 寢覺めして 鳥音待たぬ 曉も無し
權律師玄覺
0710 室八島見に罷りける人の誘侍りけるに、障る事有りて申し遣はしける
煙無き 室八島と 思ひせば 君が導に 我ぞ立たまし
藤原親朝
0711 素暹法師物へ罷り侍りけるに遣はしける
瀛浪 八十島掛けて 住む千鳥 心一つに 如何賴まむ
鎌倉右大臣 源實朝
0712 返し
濱千鳥 八十島掛けて 通ふとも 住來し浦を 如何忘れむ
素暹法師
0713 昔葛城修行しける時の卒塔婆の殘りたりけるを見て、詠侍りける
分過ぎし 昔跡の 絕えせねば 今見る道の 末も賴もし
覺仁法親王
0714 大峯にて詠侍りける
今も猶 昔跡を 導にて 復尋入る 御吉野山
法印良寳
0715 題知らず
顧る 跡に重なる 山端の 遠き雲居や 都為るらむ
平行氏
0716 白河殿七百首歌に、羈中山
都出し 日數のみかは 旅衣 越行く山も 重成りにけり
權大納言 藤原經任
0717 旅歌中に
都出て 立歸るべき 程遠み 衣關を 今日ぞ越行く
大藏卿 源行宗
0718 【○承前。旅歌之中。】
旅人の 衣關の 遙遙と 都隔てて 幾日來ぬらむ
衣笠內大臣 藤原家良 衣笠家良
0719 旅夢と云へる心を
立別れ 都を偲ぶ 草枕 結許の 夢だにも無し
普光園入道前關白左大臣 藤原良實 二條良實
0720 鈴鹿河にて詠侍りける
七十の 年經る儘に 鈴鹿川 老いの浪寄る 掛げぞ悲しき
前大僧正隆辨
0721 伊勢に罷りける人に
降延へて 斯くぞ尋ぬる 鈴鹿山 越ゆる人だに 音信ねども
小辨
0722 遠所に罷りける人の、歸りて後とはず侍りけるに遣はしける
來ても猶 甲斐こそ無けれ 旅衣 立ちし別を 何恨みけむ
安嘉門院甲斐
0723 題知らず
急ぎつる 事をば知らで 古鄉に 待つらむ人や 心盡くさむ
左近大將 藤原朝光
0724 家に百首歌詠侍りけるに、旅心を
都人 月日を空に 數へても 幾迴りとか 我を待つらむ
洞院攝政前左大臣 藤原教實 九條教實