續拾遺和歌集 卷第八 雜秋歌
0559 初秋之心を詠侍りける
深夜の 老いの寐覺の 枕より 露置初めて 秋は來にけり
前左兵衛督 藤原教定 飛鳥井教定
0560 【○承前。侍詠初秋之趣。】
眺めつつ 復如何樣に 嘆けとて 夕空に 秋來ぬらむ
藤原光俊朝臣 葉室光俊
0561 【○承前。侍詠初秋之趣。】
袖上に 何時とも判かぬ 白露の 草葉に結ぶ 秋は來にけり
藤原季宗朝臣
0562 初秋風と云ふ事を
今よりは 涼しく成りぬ 片岡の 篠葉分けの 秋初風
僧正聖兼
0563 【○承前。詠初秋風。】
色每に 移行かば 如何為む 靡く淺茅の 秋初風
荒木田延成
0564 文永十二年七月七日、內裏に七首歌奉りし時
天川 八十に掛かる 老いの浪 復立歸り 今日に逢ひぬる
前大納言 藤原為家
0565 【○承前。文永十二年七月七日,奉內裏七首歌時。】
搔流す 淚ながらぞ 手向けつる 物思ふ袖の 露玉章
醍醐入道前太政大臣九條良平女
0566 題知らず
荻葉の 露外なる 淚さへ 袖に碎けて 秋風ぞ吹く
靜仁法親王
0567 弘長元年百首歌奉りける時、荻を
荻葉に 昔は掛かる 風も無し 老いは如何なる 夕なるらむ
前內大臣 藤原基家 九條基家
0568 【○承前。奉弘長元年百首歌,詠荻。】
古は 驚かされし 荻葉に 吹來る風を 寐覺めにぞ待つ
前大納言 藤原為家
0569 荻風驚夢と云へる心を
秋夜の 露より外の 夢をだに 結びも果てぬ 荻上風
高階宗成
0570 弘長元年百首歌奉りける時、露
假寢する 草枕の 秋風に 淚より散る 野邊白露
常磐井入道前太政大臣 藤原實氏 西園寺實氏
0571 秋歌中に
思置く 淚露は 幾秋か 言葉每に 數積るらむ
前大納言 藤原基良
0572 常磐井入道前太政大臣家十五首歌に
如何なりし 秋に淚の 落初めて 身は習と 袖のぬるらむ
山階入道左大臣 藤原實雄 洞院實雄
0573 中務卿宗尊親王家歌合に、秋夕
身憂さを 知らずば秋の 習とて 夕許や 袖濡らさまし
左近中將 源具氏
0574 題知らず
置露は 色も變らぬ 夕哉 我身一つの 墨染袖
後嵯峨院御製
0575 【○承前。無題。】
數增さる 愁は秋の 夕とて 千千に碎くる 袖露哉
前攝政左大臣 藤原家經 一條家經
0576 【○承前。無題。】
何時迄と 思ふに物の 悲しきは 命待間の 秋夕暮
從三位 藤原忠兼 楊梅忠兼
0577 【○承前。無題。】
何故に 斯かる露ぞと 思ふにも 袖さへ辛き 秋夕暮
平親清女妹
0578 【○承前。無題。】
草葉のみ 露けかるべき 秋ぞとは 我袖知らで 思ひける哉
藤原景綱
0579 【○承前。無題。】
夕去れば 玉貫く野邊の 露ながら 風に且散る 秋萩花
佚名 讀人知らず
0580 【○承前。無題。】
夕去れば 淚や餘る 小壯鹿の 入野尾花 袖ぞ露けき
源親行
0581 【○承前。無題。】
餘所に聞く 鴈雲居の 玉章も 我が淚にをや 懸けて來つらむ
安嘉門院四條
0582 【○承前。無題。】
河水に 戶渡る鴈の 影見えて 書流したる 秋玉章
前內大臣 藤原基家 九條基家
0583 建長三年九月十三夜十首歌合に、霧間雁
知るらめや 霧立つ空に 鳴く雁も 晴れぬ思の 類有る身を
土御門院小宰相
0584 同心を
晴れず立つ 峯秋霧 別來ても 思付きずや 雁鳴くらむ
藤原隆博朝臣
0585 海邊霧
今は復 田子浦浪 打添へて 立たぬ日も無き 秋夕霧
中原行實
0586 三井寺にて月歌詠侍りけるに
雲霽るる 三上山の 秋風に 碎浪遠く 出る月影
淨助法親王
0587 田家月と云ふ事を
庵結ぶ 伏見小田は 名のみして 寢られぬ月に 秋風ぞ吹く
藤原時明
0588 月前述懷と云ふ心を
身憂さを 月に慰む 秋夜に 誰が為曇る 淚になるらむ
藤原長景
0589 【○承前。詠月前述懷之趣。】
せめてなど 月見る夜はも 身程の 憂きは數添ふ 泪なるらむ
法印禪助
0590 【○承前。詠月前述懷之趣。】
身憂さの 忘れやすると 眺めつつ 今宵も月の 更けにける哉
澄覺法親王
0591 弘長元年百首歌奉りける時、月を
身憂さの 然のみは如何 增さるぞと 復巡逢ふ 月や見るらむ
前大納言 藤原為家
0592 秋歌中に
月だにも 老いの淚の 隔てずは 昔秋の 友ともと見みてまし
前關白左大臣 藤原實經 一條實經
0593 建保二年けんぽうにねん、秋十首歌奉あきのしっじゅのうたたてまつりける時とき
物思ものおもふ 秋あきは如何いかなる 秋あきならむ 嵐あらしも月つきも 變かはる物ものかは
如願法師
0594 題知だいしらず
見みし事ことの 皆變行みなかはりゆく 老おいの身みに 心長こころながきは 秋夜月あきのよのつき
前大納言 藤原為家
0595 【○承前。無題。】
何事なにごとも 變かはりのみ行ゆく 世中よのなかに 同影おなじかげにて 澄すめる月哉つきかな
西行法師 佐藤義清
0596 【○承前。無題。】
秋夜あきのよも 常つねなるべしと 思おもひせば 長閑のどかに見みまし 山端月やまのはのつき
高辨上人
0597 【○承前。無題。】
身憂みのうさも 變かはらぬ空そらの 月つきを見みて 何なにか昔むかしの 秋あきは戀こひしき
法印公朝
0598 建長三年九月十三夜十首歌合けんちゃうさんねんののちのつきのじっしゅのうたあはせに、名所月めいしょのつき
年としを經へて 見みしも昔むかしに 成なりにけり 里さとは水無瀨みなせの 秋夜月あきのよのつき
兵部卿 藤原隆親
0599 月歌つきのうたとて
月為つきならで 復誰またたれにかは 言問こととはむ 見みぬ世秋よのあきの 昔語むかしかたりを
鷹司院帥
0600 【○承前。詠月歌。】
眺ながむれば 空そらやは變かはる 秋月あきのつき 見みし世よを映うつせ 袖そでの淚なみだに
皇太后宮大夫藤原俊成女
0601 【○承前。詠月歌。】
秋每あきごとの 月つきを雲居くもゐの 形見かたみにて 見みし世人よのひとの 變かはる面影おもかげ
皇太后宮大夫藤原俊成女
0602 【○承前。詠月歌。】
諸共もろともに 慣なれし雲居くもゐは 忘わすれぬに 月つきは我われをぞ 知しらず顏かほなる
二條院讚岐
0603 藏人降くらうとおりて後詠のちよみける
雲上くものうへの 月見つきみし秋あきを 思おもふには 緋衣あけのころもの 色いろも恨うらめし
藤原長綱
0604 常磐井入道前太政大臣家ときはゐにふだうさきのだいじゃうだいじんのいへにて、月歌詠侍つきのうたよみはべりける中なかに
仕つかふとて 見みる夜無よなかりし 我宿わがやどの 月つきには獨ひとり 音ねぞ泣なかれける
前大納言 藤原為家
0605 洞院攝政家百首歌とうゐんせっしゃうのいへのひゃくしゅのうたに、月つき
昔思むかしおもふ 草くさに瘦やつるる 軒端のきばより 有ありしながらの 秋夜月あきのよのつき
前中納言 藤原定家
0606 松門到曉月徘徊まつのとにあかつきいたりてはいくわいすと云いふ事ことを詠よめる
松戶まつのとの 明方近あけがたちかき 山端やまのはに 如何いかで休やすらふ 秋夜月あきのよのつき
和氣種成朝臣
0607 圓明寺えんみゃうじにて、山月やまつきと云いふ事ことを
山深やまふかく 心中こころのうちに 契ちぎりても 變かはらで見みつる 秋夜月あきのよのつき
前關白左大臣 藤原實經 一條實經
0608 題知だいしらず
世よをばさて 何故捨なにゆゑすてし 我為われなれば 憂うきに止とまりて 月つきを見みるらむ
藤原光俊朝臣 葉室光俊
0609 【○承前。無題。】
背そむきても 憂世うきよは慣なれぬ 秋あきを經へて 同おなじ淚なみだに 月つきを見みる哉かな
法眼源承
0610 世よを背そむきて後のち、月つきを見みて詠よめる
月つきは猶なほ 見みしに變かはらぬ 秋あきながら 身みこそ憂世うきよの 外ほかに出いでぬれ
道洪法師
0611 本山之事もとやまのことを思出おもひいでて詠侍よみはべりける
復住またすまむ 山里有やまざとありと 思おもひきや 我わが立たつ杣そまの 秋月影あきのつきかげ
定修法師
0612 月歌中つきのうたのなかに
今いまは復また 身みに餘所よそへても 慕哉したふかな 半過行なかばすぎゆく 秋夜月あきのよのつき
法印覺宗
0613 【○承前。月歌之中。】
暫しばし猶なほ 月つきをも見みむと 思おもへども 老おいて殘のこりの 秋あきぞ少すくなき
藤原信實朝臣
0614 【○承前。月歌之中。】
月つきを見みる 山路秋やまぢのあきの 苔袖こけのそで 濡ぬれて干ほすべき 露見つゆのまも無なし
前大僧正道玄
0615 名所百首歌召めいしょのひゃくしゅのうためしける序ついでに
伊駒山いこまやま 雲莫隔くもなへだてそ 秋月あきのつき 邊空あたりのそらは 時雨也しぐれなりとも
順德院御製
0616 題知だいしらず
晴行はれゆけば 光ひかりぞ增まさる 秋月あきのつき 暫しばし時雨しぐるる 程ほどは憂うけれど
良暹法師
0617 建保二年けんぽうにねん、秋十首歌奉あきのしっじゅのうたたてまつりけるに
數かぞふれば 四十餘よそぢあまりの 秋霜あきのしも 身古行みのふりゆかむ 果はてを知しらばや
源家長朝臣
0618 百首歌中ひゃくしゅのうたのなかに
靜しづかなる 秋寐覺あきのねさめの 身みに無なくば 老辛おいのつらさも 知しられざらまし
前內大臣 藤原基家 九條基家
0619 題知だいしらず
長夜ながきよの 寐覺床ねさめのとこの 蟋蟀きりぎりす 同枕おなじまくらに 音ねをのみぞ啼なく
佚名 讀人知よみひとしらず
0620 【○承前。無題。】
住慣すみなるる 床とこは草葉くさばの 蛬きりぎりす 霜しもに枯行かれゆく 音ねをや鳴なくらむ
平忠時
0621 【○承前。無題。】
蛬きりぎりす 鳴なくを我身わがみの 類たぐひにて 知しらぬ思おもひを 哀あはれとぞ聞きく
法印公朝
0622 【○承前。無題。】
微睡まどろまぬ 程ほどを知しらせて 徹夜よもすがら 物思ものおもふ人ひとや 衣擣ころもうつらむ
覺助法親王
0623 百首歌奉ひゃくしゅのうたたてまつりし時とき
老おいが世よの 寐覺重ねさめかさなる 恨うらみとも 思知おもひしらでや 衣擣ころもうつらむ
前大納言 藤原良教 粟田口良教
0624 少將せうしゃうに侍はべりける頃ころ、詠侍よみはべりける
幾歲いくとせか 餝來かざしきぬらむ 三笠山みかさやま 同麓おなじふもとの 秋紅葉あきのもみぢば
藤原隆博朝臣
0625 長月例幣ながつきのれいへいに神祇官かむづかさに參まゐりて侍はべりけるに、錦にしきを織出おりいでぬ由申よしまをしける折おりしも時雨降しぐれのふりければ
夕時雨ゆふしぐれ 木葉このはを染そむる 時ときしも有あれ 何など織堪おりあへぬ 錦成にしきなるらむ
院辨內侍
0626 ○
0627 ○
0628 ○
0629 ○
0630 ○
0631 ○
0632 ○
0633 ○
0634 ○
0635 ○
0636 ○
0637 ○
0638 ○
0639 ○
0640 ○
0641 ○
0642 ○
0643 ○
0644 ○
0645 ○
0646 ○
0647 ○
0648 ○
0649 ○
0650 ○
0651 ○
0652 ○
0653 ○
0654 ○
0655 ○
0656 ○
0657 ○
0658 ○
0659 ○
0660 ○
0661 ○