續古今和歌集 卷第二十 賀歌
【賀歌】 【異本】 【補遺】
1858 後朱雀院生賜ひて御百日夜、詠ませ給ける
二葉より 松齡を 思ふには 今日ぞ千歲の 始めとは見る
一條院御歌
1859 上東門院入內御屏風に
吹風の 枝も鳴らさぬ 此頃は 花も靜かに 匂ふなるべし
華山院御歌 花山天皇
1860 同院后宮と申ける時、硯瓶に櫻花を插置かれて侍けるが、久しく散らざりけるを見て詠侍ける
盡きもせず 齡久しき 龜山の 櫻は風に 散らさざりけり
伊勢大輔
1861 弘長三年二月、龜山仙洞に行幸有りて、花契遐年と云ふ事を講せられし時
尋來て 飽かぬ心に 任せなば 千歲や花の 蔭に過ぐさん
今上御歌 龜山院
1862 【○承前。弘長三年二月,會龜山仙洞行幸,講花契遐年之時。】
花見ても 長閑けかりけり 幾千代と 限りも知らぬ 春心は
中納言 藤原親子【典侍親子朝臣】
1863 御歸日の御贈物に、御本を鶯居たる梅枝に付けて奉しに書付侍し
梅枝に 代代之昔の 春掛けて 變らず來居る 鶯聲
太上天皇 後嵯峨院
1864 正元元年三月、大宮院西園寺にて一切經供養せられし日、行幸侍しに、東宮同じく行啟有りて、次日、人人翫花歌詠侍しに
色色に 枝を連ねて 咲きにけり 花も我世も 今盛哉
後嵯峨院
1865 【○承前。正元元年三月,大宮院於西園寺供養一切經之日,侍行幸而東宮同有行啟。次日,人人侍詠翫花歌。】
色色に 榮へて匂へ 櫻花 我君君の 千代髻首に
入道前太政大臣 西園寺實氏色
1866 【○承前。正元元年三月,大宮院於西園寺供養一切經之日,侍行幸而東宮同有行啟。次日,人人侍詠翫花歌。】
諸人の 手每に髻首す 櫻花 數多千歲の 春ぞ知らるる
前內大臣 三條公親【公干時右近大將】
1867 御歸りの後朝、花を見て詠侍ける
此春ぞ 心色は 開けぬる 六十餘りの 花は見しかど
入道前太政大臣 西園寺實氏
1868 富家入道前關白、少將にて石清水臨時祭舞人務侍ける時、京極前關白家に誰と無くて差置かせ侍ける
咲始むる 髻首花の 千世を經て 木高く為らん 陰をこそ待て
源賴綱朝臣
1869 嘉永二年三月、鳥羽に行幸侍ける時、池上花と云へる事を講せられ侍けるに
千代を經て 底迄澄める 池水に 深くも映る 花色哉
中御門右大臣 藤原宗忠
1870 建長六年三月西園寺にて三首歌合に、櫻を
年年の 御幸重なる 山櫻 花處は 春も限らじ
前左大臣 洞院實雄
1871 內裏百首に、禁中花
幾春も 散らでぞ花は 匂ふべき 風靜かなる 雲上とて
左大臣 近衛基平【兼經男】
1872 三月三日、廉義公許に詠みて遣はしける
三千代經て 為る云ふ桃の 末代の 花盛は 君のみぞ見む
紀時文
1873 左右大將を相具して、最勝講に參侍ける時、言遣はしける
藤浪の 蔭差並ぶ 三笠山 人に越えたる 木末をぞ見る
後鳥羽院下野
1874 返し
思遣れ 三笠山の 藤花 咲並べつつ 見つる心は
入道前太政大臣 西園寺實氏
1875 法成寺入道前攝政に始めて御文賜はせたりける御返事に、君ぞ水莖流れては見ん、と詠みて奏し侍ければ、復遣はされける 【○補遺1932。】
流れての 行末遠き 水莖は 君が住むべき 數をこそ掛け
後朱雀院御歌 後朱雀院
1876 郁芳門院根合歌
鶴居る 岩垣沼の 菖蒲草 契りて引かん 君が為には
春宮大夫 源師賴
1877 建保六年八月十三日、中殿宴に、池月久明と云へる事を
池水に 巖と為らん 細石の 數も顯に 澄める月影
參議 藤原雅經
1878 【○承前。建保六年八月十三日,於中殿宴詠池月久明。】
君が代の 千歲蔭を 差添へて 月宿れとや 澄める池水
醍醐入道前太政大臣 藤原良平
1879 建長二年九月十三夜歌合に
世を照らす 蓬洞の 月影は 秋津島根の 外も曇らじ
前中納言 源雅具
1880 崇德院御時、法金剛院に行幸有りて、菊契千秋と云ふ事を講せられ侍けるに
雲上の 星かと見ゆる 菊為れば 空にぞ千代の 秋は知らるる
待賢門院堀河
1881 九月許、菊花を
百敷に 移渡る 菊花 匂ひぞ勝る 萬世秋
聖武天皇御歌 聖武天皇
1882 雪甚降りて侍けるを山形に作らせ給けるに、殿上人歌仕奉侍ければ詠ませ給ける
天地も 受けたる年の 兆にや 降る白雪も 山と為るらん
後朱雀院御歌 後朱雀院
1883 左大臣表奉りて年月經て後、更に太政大臣に任て侍ける時、入道前太政大臣家にて歲暮歌詠侍けるに
雪積る 松は老木と 思ひしに 更に花咲く 年暮哉
前太政大臣 西園寺公相
1884 祝歌詠侍ける中に
神風や 御裳濯川の 流れこそ 月日と共に 澄むべかりけれ
後京極攝政前太政大臣 九條良經【兼實男】
1885 後一條院生れさせ給ひての御五十日時、法成寺入道前攝政、歌詠めと申侍ければ
如何に如何 數遣るべき 八千歲の 餘り久しき 君が御代をば
紫式部
1886 洞院攝政人人に百首歌詠ませ侍けるに
君を祈る 今日之尊さ 如是しこそ 治まれる世は 樂しきを積め
前中納言 藤原定家
1887 【○承前。洞院攝政令人人侍詠百首歌時。】
霜雪の 白髮迄に 仕來ぬ 君八千代を 祝置くとて
前中納言 藤原定家
1888 【○承前。洞院攝政令人人侍詠百首歌時。】
繰返し 君をぞ祝ふ 老いぬれば 同事のみ 倭文苧環
源家長朝臣【時長男】
1889 題不知
古りぬとて 何歎きけん 君が世に 老と云ふ物ぞ 身は榮えける
入道前太政大臣 西園寺實氏
1890 文永二年九月十三夜歌合に、河月を
萬代に 仕へてぞ見む 月も猶 影を留むる 關藤川
前關白左大臣 二條良實
1891 詩を造らせて歌に合せ侍しに、仙家秋興と云ふ事を
幾千世の 秋を經ぬらん 斧柄の 朽ちし所の 山端月
左近中將 藤原公雄
1892 崇德院百首歌に
君が代は 斧柄朽ちし 山人の 千度歸らん 時も變らじ
皇太后宮大夫 藤原俊成【俊忠男】
1893 承保二年二月、大井川行幸に仕奉て詠侍ける
大井川 千代に一度 澄水の 今日行幸に 逢ひにける哉
前中納言 大江匡房
1894 此集書きて奉るとて、包紙に書付侍し
此度と 波寄せ盡す 玉津島 研く御言を 神は受くらし
前內大臣 藤原基家
1895 返し
和歌浦に 波寄せ掛くる 藻鹽草 搔集めてぞ 玉も見えける
太上天皇 後嵯峨院
1896 元久二年三月廿六日、新古今集竟宴興はれけるに詠ませ給ける
石上 古きを今に 並來し 昔跡を 復尋ねつつ
後鳥羽院御歌
1897 【○承前。元久二年三月廿六日,興新古今集竟宴時賜詠。】
敷島や 大和言葉の 海にして 拾ひし玉は 研かれにけり
後京極攝政前太政大臣 九條良經【兼實男】
1898 後法性寺入道前關白家百首歌に
君が代は 津守浦に 天降る 神も千歲を 待つとこそ見れ
俊惠法師
1899 石に海松生たるを見て
動無き 巖に根指す 海松の 千歲を誰に 波寄すらん
惠慶法師
1900 建保三年六月、和歌所の五首歌合に、松經年
限無き 時しも君に 近江為る 志賀濱松 幾世經ぬらん
權大納言 藤原忠信
1901 祝歌中に
君が代も 我世も盡きじ 石川や 瀨見小川の 絕えじと思へば
鎌倉右大臣 源實朝
1902 【○承前。祝歌中。】
宮柱 太敷立てて 萬代に 今ぞ榮へん 鎌倉里
鎌倉右大臣 源實朝
1903 【○承前。祝歌中。】
君が代は 長柄橋を 千度迄 造替ても 猶や經りなん
從三位 源賴政
1904 題不知
神奈備の 山上為る 石清水 齋てぞ汲む 萬代之為
佚名 讀人不知
1905 大峰通るとて詠侍ける
七度の 吉野川の 澪標 君が八千代の 驗とも為れ
僧正行意
1906 題不知
八百萬 神もさこそは 守るらめ 照日下の 國都を
前大納言 藤原為家
1907 正元二年大嘗會頃、詠侍ける
皇の 位山の 小松原 今年や千代の 始成るらん
中務卿 宗尊親王
1908 日本紀竟宴歌、活目入彥五十狹茅天皇 【○日本紀竟宴0080。】
池水に 國榮へける 纏向の 珠城風は 今も殘れり
清慎公 藤原實賴
1909 後朱雀院御時、大嘗會御屏風歌
照月の 桂山に 家居して 曇無き世に 逢へる秋哉
贈參議 藤原義忠【為久男】
1910 承保元年大嘗會主基方御屏風歌、石坂山
石坂の 山岩根の 動無く 常磐堅磐に 苔生す哉
前中納言 大江匡房
1911 久壽二年大嘗會歌
治まれる 時に近江の 野洲川は 幾度御代に 澄まんとすらん
宮內卿 藤原永範
1912 建曆二年大嘗會悠紀方屏風歌、長等山
菅根の 長等山の 嶺松 吹來る風も 萬代聲
前中納言 藤原資實
1913 仁治三年大嘗會御屏風歌
今日よりぞ 千千松原 契置く 花は十返り 君は萬代
大藏卿 菅原為長【長守男】
1914 千五百番歌合に
百敷は 龜上為る 山為れば 千世を重ねよ 鶴毛衣
土御門內大臣 源通親
1915 【○承前。千五百番歌合中。】
久堅の 天香具山 空晴れて 出る月日も 我君之為
從二位 藤原家隆
異本歌
卷第三 夏歌
1916 題不知 【〇拾遺集0375。異本繫0274後。】
古道に 我や迷はん 古の 野中草は 茂生ひけり
柿本人丸 柿本人麻呂
卷第四 秋歌上
1917 題不知 【〇後拾遺0319。齋宮女御集0009。異本繫0305後。】
秋夜の 恠き程の 黃昏に 荻吹風の 音を聞哉
女御徽子女王 齋宮女御
卷第五 秋歌下
1918 題不知 【〇後撰集0373。異本繫0452後。】
誰聞けと 聲高砂に 小壯鹿の 長長し夜を 獨鳴くらん
紀友則
卷第六 冬歌
1919 題不知 【〇異本繫0629後。】
冬寒み 忍山の 谷水は 音にも立てず 嘸冰るらん
中納言 藤原親子【典侍親子朝臣】
卷第七 神祇歌
1920 日吉百首歌中に 【○續後撰0571。異本繫0743後。】
鷲山 有明月は 巡來て 我立杣の 麓にぞ棲む
慈鎮大僧正 慈圓
卷第八 釋教歌
1921 平常心是道 【〇異本繫0762後。】
寔しく 佛道を 尋ぬれば 唯世常の 心也けり
權大納言 九條教家
1922 同仙洞にて、重ねて如法寫經し侍し時、普賢大士乘白象夢之心を詠侍ける 【〇異本繫0791後。】
見る夢の 面影迄や 浮かぶらん 象小川の 有明月
權大僧都憲實
卷第十 羈旅歌
1923 題不知 【〇萬葉集0265。新敕撰0500。異本繫0924後。】
苦しくも 降來る雨か 三輪崎 狹野渡に 家も有ら無くに
生憎令人苦 此雨零來不逢時 紀洲三輪崎 神崎佐野渡之邊 無宿無家無親族
讀人不知
卷第十八 雜歌中
1924 述懷之心を 【〇異本繫1709後。】
飛鳥川 變る淵瀨は 有物を 何ど憂きながら 年經ぬらん
藻壁門院少將
卷第十九 雜歌下
1925 題不知 【〇異本繫1750後。】
昔思ふ 淚雨の 晴遣らで 月都に 住む甲斐も無し
西音法師
卷第二十 賀歌
1926 延喜十五年御屏風歌 【○新古今0731。異本繫1858後。】
千世を經る 松に懸れる 苔為れば 年緒長く 成にける哉
凡河內躬恒
補遺歌
1927 業平朝臣、八千夜し寢ばや、と言ひける返事に 【〇1157再揭。】
秋夜の 千夜を一夜に 為すらべて 八千夜知ねばや 明く時有らむ
佚名 讀人不知
1928 衣通姬の、蜘蛛振舞と詠侍る歌 【○日本書紀s0066。1162題詞。】
我兄子が 來べき夕也 細蟹の 蜘蛛の振舞ひ 豫て兆も
此宵當何夕 妾兄子兮將來夕 細根細蟹兮 蜘蛛張網碎動者 豫兆佳人將訪矣
衣通姬
1929 題不知 【○續後撰0792。1660題詞。】
世世を經て 絕えじとぞ思ふ 吉野川 流れて落る 瀧白絲
亭子院 宇多帝
1930 題不知 【○千載集0990。1667題詞。】
濱千鳥 吹飯浦に 訪れて 繪島磯に 月傾きぬ
素覺法師
1931 題不知 【○古今和歌六帖。1781題詞。】
玉笹の 葉分けに宿る 露許 今幾世經ん 我為ら無くに
中務
1932 題不知 【○御堂關白記。1875題詞。】
千歲經て 棲む川霧に 搔始むる 君ぞ水莖 流れては見ん
法成寺入道前攝政 藤原道長
1933 寶治二年百首に、九月盡 【○被除歌。續後撰0450。異本繫0542後。】
幾秋か 暮れぬと許 惜しむらん 霜降果つる 身をも忘れて
前大納言 藤原基良
1934 百首歌召しける次に、於無量國中乃至不可得聞之心を 【○被除歌。異本繫0817後,以0774重出也。】
名をだにも 聞かぬ御法を 保つ迄 如何で契を 結置きけん
崇德院御歌
1935 題不知 【○被除歌。異本繫0839後,以1462重出也。】
心にも 非ぬ別は ありやせん 惟もしる世の 命為らねば
清原深養父
1936 別心を 【○被除歌。續千載0772、新後拾遺0862。異本繫0839後。】
朝霧に 淀渡を 行舟の 知らぬ別も 袖濡らしけり
土御門院御歌
1937 千五百番歌合に 【○被除歌。續拾遺0842。異本繫1192後。】
現こそ 寢る宵宵も 難からめ 其をだに赦せ 夢之關守
後鳥羽院御歌
1938 物言渡りける人に、程無く別れて詠める 【○被除歌。異本繫1371後,以詞花集異本歌 0420 既出出也。】
前世の 淺契を 知らずして 人を辛しと 思ひける哉
前中納言 大江匡房