續後撰和歌集 卷二十 賀歌
【賀歌】 【異本】
1330 寶治二年、前太政大臣西園寺家に御幸有りて、歸らせ給ふ御贈り物に代代帝の御本奉るとて、包紙に書付侍ける
傳聞く 聖代代の 跡を見て 古きを映す 道習はなむ
前太政大臣 西園寺實氏
1331 御返し
知らざりし 昔に今や 歸りなむ 畏き世世の 跡習ひなば
太上天皇 後嵯峨院
1332 今上始めて鳥羽殿に朝覲行幸時、更に仕へて兩院御拜之儀目邊見奉りて、思續け侍ける
例無き 我が身よ如何に 年長けて 斯かる御幸に 出仕へつる
前太政大臣 西園寺實氏
1333 鳥羽殿に始めて渡らせ給うて、池邊松と云ふ事を講せられし時、序奉るとて
祝置く 始めと今日を 松枝の 千歲蔭に 澄める池水
前太政大臣 西園寺實氏
1334 【○承前。始渡鳥羽殿,講池邊松時、奉序。】
影映す 松にも千世の 色見えて 今日澄始むる 宿池水
太上天皇 後嵯峨院
1335 【○承前。始渡鳥羽殿,講池邊松時、奉序。】
色變へぬ 常磐松の 掛添へて 千世に八千世に 澄める池水
大納言典侍
1336 百首歌奉し時、嶺松
君が代は 千千に枝插せ 峰高き 藐姑射山の 松之行末
前太政大臣 西園寺實氏
1337 亭子院位に御座ける時、未だ親王にて正月初子日、破籠調じて后宮の御方に奉らせ給ふとて書付けさせ給ける
二葉より 今日を待つとは 引かるとも 久しき程を 較べても見よ
延喜御製 醍醐帝
1338 子日之心を
去來今日は 小松原に 子日して 千世之例に 我も引かれむ
太上天皇 後嵯峨院
1339 吹田にて十首歌召されし次に、祝
來てみれば 千世も經ぬべし 高濱の 松に群居る 鶴毛衣
太上天皇 後嵯峨院
1340 建永元年八月十五夜、鳥羽殿に御幸有りて、御舟にて御遊等有ける月夜、和歌所殿上人參れりける由聞召して、出ださせ給うける
古も 心儘に 見し月の 跡を尋ぬる 秋池水
後鳥羽院御製
1341 今上位に就かせ給うて、太政大臣の悅奏し侍ける日、牛車聽りて其頃西園寺之花を見て
朽果てぬ 老木に咲ける 花櫻 身に寄へても 今日は餝さむ
前太政大臣 西園寺實氏
1342 寬喜元年女御入內屏風に
我が君の 千世御蔭に 櫻花 長閑けき風は 枝も為らさず
入道前攝政左大臣 九條道家
1343 鳥羽院位に御座ける時、內裏にて花を見て詠侍ける
情有りて 長閑けき風の 景色哉 九重匂ふ 花邊に
富家入道前關白太政大臣 藤原忠實
1344 應德元年三月、中殿にて、花契多春と云ふ事を講せられけるに
君が代の 春に契れる 花為れば 復行末の 限無き哉
大納言 源俊明
1345 永長元年三月、同花契千年と云ふ事を、序奉りて
言はねども 色にぞ著き 櫻花 君か千歲の 春初めは
前中納言 大江匡房
1346 天曆七年十月、后宮御方に菊植ゑさせ給ける日、殿上人歌仕奉ける序に
心して 霜置きける 菊花 千世に變らぬ 色とこそ見れ
天曆御製 村上帝
1347 同じき十三日庚申夜、女藏人御前に菊花奉けるに、親王達上達部參仕奉りて徹夜御遊有りて祿給はせける時、未だ侍從にて侍ひけるが、菊を簪て詠侍ける
時雨にも 霜にも枯れぬ 菊花 今日簪に 插してこそ知れ
大納言 源重光
1348 延喜十七年十月菊宴之日、御簪とて奏し侍ける
誰が為に 長冬迄 匂ふらむ 問はば千歲と 君ぞ答へむ
三條右大臣 藤原定方
1349 承保三年大井川に行幸之日、內より召されける歌
移ろはで 久しかるべき 匂哉 盛りに見ゆる 白菊花
辨乳母 藤原明子
1350 題知らず
見え渡る 濱真砂や 蘆鶴の 千世を數ふる 數と成るらむ
佚名 讀人知らず
1351 【○承前。無題。】
真鶴の 久しき友と 成りぬべし 住む山水に 影を並べは
祭主 大中臣輔親
1352 堀河院に百首歌奉ける時、祝歌
君が世の 數に較べば 何為らし 千尋濱の 真砂也とも
權大納言 藤原公實
1353 月次屏風繪を歌に詠侍ける
千歲經る 松と云ふとも 植ゑて見る 人ぞ數へて 知るべかりける
清原元輔
1354 右近大將定國四十賀屏風に
植ゑて見る 松と竹とは 君が代に 千歲行交ふ 色も變らじ
素性法師
1355 延喜御時、女一宮裳著侍けるに裝束調じて遣はすとて、裳に掛かるべき歌召されけるに詠みて奉ける
澤田川 瀨瀨白絲 繰返し 君打延へて 萬代や經む
凡河内躬恒
1356 貞元二年初、齋宮侍從廚御座しけるに、庚申夜人人參りて遊びける序に詠侍ける
昔より 色も變らぬ 河竹の 夜夜をば君ぞ 數渡む
源順
1357 承保三年十月、大井川に行幸之日、序奉りて
大井川 常より異に 見ゆる哉 君が御幸を 待つにぞ有ける
土御門院右大臣 源師房
1358 建仁二年、鳥羽院殿にて、池上松風と云ふ事を始めて講せられけるに
君住めば 長閑に通ふ 松風に 千歲を映す 庭池水
源具親朝臣
1359 祝歌に
千早振る 伊豆御山の 玉椿 八百萬世も 色は變らじ
鎌倉右大臣 源實朝
1360 題不知
水上に 光清けき 秋月 萬世迄の 鏡為るべし
藤原為賴朝臣
1361 寄月祝と云へる心を
四方海 風靜かなる 浪上に 曇無き夜の 月を見る哉
後京極攝政前太政大臣 藤原良經 九條良經
1362 月多秋友と云ふ題を講せられ侍し時
幾秋も 變らぬ夜半の 月に復 萬世掛けて 猶契る哉
左衛門督 源通成
1363 九月十三夜十首歌合に、名所月
神も見よ 曇無き世の 鏡山 祈る甲斐有る 月ぞ清けき
祝部成茂
1364 建仁三年、和歌所にて釋阿に九十賀給はせける時、銀杖の竹葉に書付くべき歌召されけるに
百歲の 近付く坂に 突初めて 今行末も 掛かれとぞ思ふ
大藏卿 藤原有家
1365 彼杖を給はりて後に奏侍ける
此杖は 我がには非ず 我が君の 八百萬代の 御世の為也
皇太后宮大夫 藤原俊成
1366 天仁元年大嘗會悠紀御屏風に、三神山
淺綠 三神山の 春霞 立つや千歲の 初め為るらむ
前中納言 大江匡房
1367 鏡山
曇無き 君か御代には 鏡山 長閑けき月の 影も見えけり
前中納言 大江匡房
1368 仁治三年悠紀風俗歌、三神山
古に 名をのみ聞きて 求めけむ 三神山は 玆ぞ其山
前參議 菅原為長 高辻為長
1369 同じき主基風俗歌、石崎
末遠き 千世蔭こそ 久しけれ 復二葉為る 石崎松
前中納言 藤原經光
1370 寬元四年主基風俗歌、神山
神山の 日陰蔓 餝す云ふ 豐明ぞ 別きて隈無き
正三位 藤原成實
1371 同じき御屏風に、藤坂山
紫の 藤坂山に 咲花の 千世簪首は 君が為かも
正三位 藤原成實
異本歌、拾遺歌
1372 櫻花散るを見て 【○後撰集0132。】
何時間に 誰眺むらむ 櫻花 面影にのみ 色を見せつつ
凡河内躬恒
1373 述懷歌 【○續後撰0550題詞。】
春日野の 棘道の 埋水 末だに神の 驗顯はせ
皇太后宮大夫 藤原俊成