續後撰和歌集 卷第九 神祇歌
0531 百首歌奉し時、寄社祝
蜻蛉羽の 姿國に 垂跡し 神護りや 我君為
前太政大臣 西園寺實氏
0532 神祇之心を詠ませ給うける
光をば 玉串葉に 和らげて 神國とも 定めてし哉
土御門院御製
0533 太神宮に詠みて奉ける百首歌中に
宮柱 下つ岩根の 五十鈴川 萬代澄まむ 末ぞ遙けき
皇太后宮大夫 藤原俊成
0534 十首歌合に、社頭祝
我が末の 絕えず澄まなむ 五十鈴川 底に深めて 清き心を
太上天皇 後嵯峨院
0535 九月十三夜十首歌合に、名所月
神路山 然こそ此世を 照すらめ 曇らぬ空に 澄める月影
前太政大臣 西園寺實氏
0536 入道前攝政家歌合に、同心を
五十鈴川 神代鏡 懸指めて 今も曇らぬ 秋夜月
前大納言 藤原為家
0537 社頭月と云へる心を
千早振る 神代も同じ 影為れや 御裳濯川の 秋夜月
權大納言 藤原公基 西園寺公基
0538 太神宮に詠みて奉ける歌中に
賴むぞよ 天照神の 春日に 契りし末の 曇無ければ
前大僧正慈鎮
0539 題知らず
神路山 峯朝日の 限無く 照す誓ひや 我君為
荒木田延季
0540 太神宮の一禰宜にて年久しく仕奉る事を思ひて詠める
暫しだに 立ちも離れず 瑞籬の 久しかるべき 御代祈るとて
荒木田延季
0541 神祇歌中に
鈴鹿川 振放見れば 神路山 榊葉分けて 出る月影
僧正行意
0542 【○承前。神祇歌中。】
久堅の 天露霜 幾世へぬ 御裳濯川の 千木片削
後鳥羽院御製
0543 社頭月
如何許 曇無き世を 照すらむ 名に顯はるる 月讀杜
西園寺入道前太政大臣 西園寺公經
0544 題知らず
石清水 賴みを掛くる 人は皆 久しく世にも <住むとこそ聞け
前右近大將 源賴朝
0545 【○承前。無題。】
猶照らせ 世世に變らず 男山 仰ぐ峰より 出る月影
後久我太政大臣 源通光
0546 石清水社に詠みて奉ける
神も見よ 姿許ぞ 男山 心は深き 道に入りにき
後土御門內大臣 土御門定通
0547 大納言通方、人人薦めて八幡宮にて歌合し侍ける時、社頭月を詠める
瑞垣の 久しき世より 懸止めて 仰ぐ御山に 月ぞ曇らぬ
法眼榮禪
0548 賀茂社に詣でて、暫籠りて侍ける時、下社に詠みて奉ける
遡る 賀茂羽川の 其上を 思へば久し 世世瑞籬
前太政大臣 西園寺實氏
0549 後一條院位に御座ける時、賀茂社に行幸有りける又日朝、選子內親王の御返事の序に
立歸り 賀茂川浪 餘所にても 見しや行幸の 徵成るらむ
上東門院 藤原彰子
0550 皇太后宮大夫俊成、昔述懷歌に、「春日野の、棘道の、埋水、末だに神の、驗顯はせ。」と詠みて侍けるを、前中納言定家計らざるに參議に任ぜられ侍し朝、斯歌を思出て悦申遣はすとて 【○續後撰1373拾遺。】
古の 棘道の 言葉を 今日こそ神の 驗とは見れ
六條入道前太政大臣 藤原賴實 大炊御門賴實
0551 權僧正圓經、人人に詠ませ侍し名所十首歌中に、神祇
春日為る 三笠山の 宮柱 立てし誓は 今も古りせず
素俊法師
0552 住吉社に詠ふべき求子歌とて、神主經國詠ませ侍けるに
住吉の 松根滌ふ 頻浪に 祈る御影は 千世も變らじ
前中納言 藤原定家
0553 同社に詣でて詠侍ける
松根に 浪越す浦の 宮所 何時住吉と 跡を垂れけむ
前太政大臣 西園寺實氏
0554 本社に侍ひて詠侍ける
我君を 松千歲と 祈る哉 世世をに積りの 神宮子
津守國平
0555 後三條院、住吉に御幸有ける日、詠侍ける
古も 今日御幸の 為とてや 天降りけむ 住吉神
太宰權帥 藤原伊房【于時參議。】
0556 【○承前。後三條院行幸住吉之日,侍詠。】
遙かなる 君が御幸は 住吉の 松に花咲く 旅人こそ見れ
太宰大貳 藤原實政【于時左中辨。】
0557 題知らず
住吉の 松下枝は 神古て 木綿四手懸くる 瀛白浪
前大納言 藤原光賴 葉室光賴
0558 【○承前。無題。】
行末も 限りは知らず 住吉の 松に幾世の 年か經ぬらむ
鎌倉右大臣 源實朝
0559 建保三年五首歌合に、松經年
片削の 行交霜の 幾返り 契か結ぶ 住吉松
後鳥羽院御製
0560 後法性寺入道前關白家百首歌に
神代より 植始めけむ 住吉の 松は千歲や 限らざるらむ
宜秋門院丹後
0561 住吉に詣でて詠める
跡垂るる 神や植ゑけむ 住吉の 松翠は 變る世も無し
權大僧都珍覺
0562 三輪社に詣でて書付侍し
御標引く 三輪杉群 古りにけり 茲や神代の 徵成るらむ
前大納言 藤原為家
0563 建長二年三月、熊野に御幸有りし時、參りて岩代松に昔を思出て書付侍ける
年を經て 復逢見ける 契をも 結びや置きし 岩代松
前太政大臣 西園寺實氏
0564 東三條院の四十賀屏風に
神代より 祝始めてし 足引の 山榊葉 色も變らず
源道濟
0565 神樂を詠ませ給うける
榊採る 八十氏人の 袖上に 神代を懸けて 殘る月影
土御門院御製
0566 百首歌奉し時、寄社祝
神垣や 御室榊 木綿懸けて 祈る八千世も 我君為
權大納言 洞院實雄
0567 題知らず
年經れど 色も變らぬ 君が世を 長閑に指して 祈る榊葉
相模
0568 日吉社に詠みて奉ける歌中に、大宮
古の 鶴林に 散華の 匂ひを寄する 志賀浦風
後京極攝政前太政大臣 藤原良經 九條良經
0569 十禪師宮
木本に 憂世を照す 光こそ 黯道にも 有明月
後京極攝政前太政大臣 藤原良經 九條良經
0570 同社に詠みて奉ける
鷲山 有明月は 巡來て 我が立杣の 麓にぞ棲む
前大僧正慈鎮
0571 【○承前。於同社奉詠。】
和らぐる 光にも復 契る哉 闇路晴れなむ 曉空
入道親王尊快
0572 聖真子宮に詠みて奉ける
和らぐる 光は隔て あらじかし 西雲居の 秋夜月
權少僧都良仙
0573 大納言に成りて悅申しに、日吉社に參りて詠侍し
老いらくの 親の見る世と 祈來し 我があらましを 神や承けけむ
前大納言 藤原為家
0574 思はぬ事によりて、東方に罷れりけるに、本社事のみ心に懸かりて淚零れければ
捨果てず 塵に混はる 影添はば 神も旅寢の 床や露けき
祝部成茂
0575 如是て罷付きたりけれど、過無き事にて、程無く限有る神事に逢ふべしとて、歸上りける道にて詠める
契置きし 神代事を 忘れずは 待つらむ物を 志賀唐崎
祝部成茂
0576 北野宮に詠みて奉ける
曇るべき 憂世末を 照してや 顯人神は 天降りける
前大僧正慈鎮
0577 理有る事を愁申して、同じく奉ける
千早振る 神北野に 跡垂れて 後さへ掛かる 物や思はむ
前中納言 藤原定家
0578 元慶二年日本紀竟宴、彥波瀲武鸕鶿羽葺不合尊 【○日本紀竟宴0085。】
渡海 波搔分けて 現れし 武鸕鶿尊 幾世經ぬらむ
兵部卿 本康親王
0579 同六年同竟宴、思兼神 【○日本紀竟宴0052。】
常世為る 鳥聲にて 磐戶閉ぢ 光無き世は 明始めける
三統公忠
0580 天兒屋根命 【○日本紀竟宴0048。】
常闇に 天照神を 祈りてぞ 月日と共に 後は榮ゆる
橘仲遠
0581 神樂籠取物歌
足引の 山を嶮しみ 木綿付くる 榊枝を 杖に切付く
橘仲遠
0582 【○承前。神樂籠取物歌。】
大比叡や 小比叡杣に 宮木引き 孰禰宜か 祝始めけむ
此歌は、日吉祭に先立ちて、午日御占歌と為む、昔より言傳へたる。
橘仲遠