新敕撰和歌集 卷第九 神祇歌
0540 延喜六年日本紀竟宴歌、下照姬 【○日本紀竟宴0027。】
唐裳 下照姬の 夫戀ぞ 天に聞ゆる 鶴唳らぬ音は
中納言 源當時
0541 天慶六年同竟宴歌、國常立尊 【○日本紀竟宴0068。】
天下 修る肇め 結置きて 萬代迄に 絕えぬ也けり
中納言 大江維時
0542 月夜見尊 【○日本紀竟宴0069。】
月夜見の 天に昇りて 闇も無く 明けき世を 見るぞ樂しき
源公忠朝臣
0543 天兒屋根尊 【○日本紀竟宴0049。】
朝な朝な 照日之光 增每に 兒屋根尊 何時か忘れむ
橘仲遠
0544 神樂採物歌
笹分けば 袖こそ破れめ 利根川の 石は踏むとも 去來河原より
橘仲遠
0545 【○承前。神樂採物歌。】
弓と云へば 品無き物を 梓弓 檀弓槻弓 一品も無し
橘仲遠
0546 堀河院御時、宮出させ給へりける頃、殿上人參りて態と為らぬ物音等聞え侍けるに、內御遊に宮人詠はせ給ひけるを思出て詠侍ける
木綿紙垂や 神宮人 偶然に 守出し夜半は 猶ぞ戀しき
二條太皇太后宮大貳
0547 庚申夜、御神樂の次に女房歌合し侍けるに 【○齋宮齋院百人一首0044。】
木綿垂て 祝齋の 宮人は 世世に枯れせぬ 榊をぞ採る
木綿紙垂而 奉以祝齋御神樂 百敷大宮人 恭採萬世不曾枯 嚴榊真賢木枝矣
禖子內親王家宣旨
0548 閏三月侍ける年、齋院に參りて長官召出て、女房中に遣しける
春は尚 殘れる物を 櫻花 標內には 散果てにけり
京極前關白 九條道家太政大臣
0549 賀茂臨時祭を詠侍ける
如何為れば 插頭花は 春ながら 小忌衣に 霜置くらむ
法成寺入道前攝政太政大臣 藤原師實
0550 同心を詠侍ける
山藍以て 摺れる衣の 赤紐の 長くぞ我は 神に使ふる
紀貫之
0551 道因が勸侍ける廣田社歌合に、社頭雪を詠侍ける
山藍以て 摺れる衣に 降雪は 髻首櫻の 散るかとぞ見る
三條入道左大臣 藤原實房
0552 臨時祭還立の御神樂を詠侍ける
立返る 雲居月も 影添へて 庭火映ろふ 山藍袖
兵部卿 藤原成實
0553 神樂を詠侍ける
有明の 空未深く 置霜に 月影冴ゆる 朝倉聲
大納言 源通具
0554 建保三年百首歌奉けるに、三室山
榊採り 懸けし三室の 真澄鏡 其山端と 月も曇らず
正三位 藤原家隆
0555 百首歌詠侍けるに
鈴鹿川 八十瀨白浪 別過ぎて 神路山の 春を見し哉
後京極攝政前太政大臣 九條良經
0556 【○承前。侍詠百首歌。】
春日山 森下道 踏分けて 幾度なれぬ 小壯鹿聲
後京極攝政前太政大臣 九條良經
0557 建保六年內裏歌合、秋歌
春日山 山高からし 秋霧の 上にぞ鹿の 聲は聞ゆる
僧正行意
0558 日吉社垂跡之心を詠侍ける
志賀浦に 五色の 浪立てて 天降りける 古跡
前大僧正慈圓
0559 【○承前。侍詠日吉社垂跡之趣。】
朝日射す 其方空の 光こそ 山陰照す 主也けれ
前大僧正慈圓
0560 【○承前。侍詠日吉社垂跡之趣。】
受取りき 憂身なりとも 惑はす莫 御法の月の 入方空
前大僧正慈圓
0561 述懷之歌詠侍けるに
我賴む 神もや袖を 濡らすらむ 儚落つる 人の淚に
前大僧正慈圓
0562 社頭にて、八十賀仕奉るに詠侍ける
數ふれば 八十春に 成りにけり 標內なる 花を髻首して
祝部成仲
0563 千五百番歌合に
八百萬 神誓も 誠には 三世佛の 惠也けり
土御門內大臣 源通親
0564 葵を詠侍ける
懸けて祈る 其神山の 山人と 人も御阿禮の 諸鬘せり
參議 飛鳥井雅經
0565 社頭に奉ける、述懷歌
霜八度 置けど綠の 榊葉に 木綿紙垂懸けて 世を祈る哉
祝部忠成
0566 題知らず
紅葉の 朱玉垣 幾秋の 時雨雨に 年經りぬらむ
寂延法師
0567 祝心を詠侍ける
神山の 榊も松も 茂りつつ 常磐堅磐の 色ぞ久しき
賀茂重政
0568 述懷歌詠侍けるに
八重榊 茂き惠の 數添へて 彌年端に 君を祈らむ
荒木田延成
0569 駿河國に神拜侍けるに、富士宮に詠みて奉ける
千早振る 神代月の 冴えぬれば 御手洗河も 濁らざりけり
平泰時
0570 寬喜三年、伊勢敕使立てられ侍ける當日迄、雨晴難く侍けるに、宣旨承りて本宮に籠りて祈請し侍けるに詠侍ける
天風 天八重雲 吹拂へ 早明けき 日御影見む
午時より雨晴侍りにけり。
卜部兼直
0571 神樂を詠侍ける
里神樂 嵐遙かに 音づれて 餘所寢覺も 神古にけり
法印慶算
0572 題知らず
霜枯や 楢廣葉を 八枚手に 差すとぞ急ぐ 神造
惠慶法師
0573 【○承前。無題。】
瑞垣に 梔子染めの 衣著て 紅葉に雜る 人や祝子
能因法師