新敕撰和歌集 卷第七 賀歌
0443 貞永元年六月、后宮御方にて、始めて鶴契遐年と云ふ題を講ぜられ侍りけるに
鶴子の 復玄孫の 末迄も 古例を 我世とや見む
前關白 九條道家
0444 【○承前。貞永元年六月,於后宮御方,始講鶴契遐年之題。】
久方の 天飛ぶ鶴の 契置きし 千代之例の 今日にも有哉
關白左大臣 九條教實
0445 寬治八年八月、高陽院家歌合に、月歌
常よりも 三笠山の 月影の 光射添ふ 天下哉
周防內侍 平仲子
0446 祝心を詠める
天下 久しき御代の 兆には 三笠山の 榊をぞ插す
藤原行家朝臣
0447 百首歌詠ませ侍りける時、祝歌
八千代經む 君が為とや 玉椿 葉變をすべき 程は定めじ
後法性寺入道前關白太政大臣 九條兼實
0448 【○承前。侍詠百首歌時,祝歌。】
莚田に 群居る鶴の 千世も皆 君が齡に 及じとぞ思ふ
太宰大貳 藤原重家
0449 堀川院御時,竹不改色と云へる心を詠ませ給うけるに
色變へぬ 竹景色に 著哉 萬代經べき 君が齡は
富家入道前關白太政大臣 藤原忠實
0450 長德五年左大臣家歌合に
君が世の 千歲松の 深碧 騷ぬ水に 影は見えつつ
藤原長能
0451 題知らず
枝交す 春日原の 姬小松 祈心は 神ぞ知るらむ
藤原實方朝臣
0452 天德二年右大臣五十賀屏風
我宿の 千代川竹 節遠み 然も行末の 遙かなる哉
清原元輔
0453 敕使にて、齋宮に參りて詠侍ける
吳竹の 代代之都と 聞くからに 君は千歲の 疑ひも無し
中納言 藤原兼輔
0454 一品康子內親王、裳著侍りけるに
皆人の 如何でと思ふ 萬代の 例と君を 祈る今日哉
源公忠朝臣
0455 天曆御時、御子達袴著侍りけるに
大原や 小鹽小松 葉を茂み 甚千歲の 影と為らなむ
中納言 藤原朝忠
0456 題知らず
嬉しさを 昔は袖に 包みけり 今宵は身にも 餘りぬる哉
佚名 讀人知らず
0457 長元六年、關白白川にて子日し侍りけるに
千歲迄 色や增さらむ 君が為 祝初めつる 松綠は
權中納言 源顯基
0458 永治二年、崇德院、攝政法性寺家に渡らせ給ひて、松契千年と云へる心を詠ませ給うけるに
移植ゑて 標結宿の 姬小松 幾千代經べき 梢為るらむ
大炊御門左大臣 藤原經宗
0459 後白河院御時、八十島祭に住吉に罷りて詠侍ける
神垣や 磯部松に 事問はむ 今日をば世世の 例とや見る
權中納言 藤原長方
0460 仁安三年、攝政閑院家にて、對松爭齡と云へる心を詠侍ける
移植うる 松綠も 君が代も 今日こそ千代の 始也けれ
權中納言 藤原兼光
0461 建仁三年正月、松有春色と云へる心を殿上人仕奉にけるに
常磐なる 玉松枝も 春來れば 千代之光や 磨添ふらむ
前左大臣 九條良平
0462 御祈仕奉て思を述侍りける
俯して思ひ 仰ぎて祈る 我君の 御世は千歲に 限らざるべし
權大僧都良算
0463 老後、春始に詠侍ける
春は先づ 子日松に 非ず共 例に我を 人や引くべき
入道前太政大臣 西園寺公經
0464 天喜四年閏三月、中殿に、翫新成櫻花歌
今日ぞ見る 玉台の 櫻花 長閑けき春に 餘る匂を
堀河右大臣 藤原賴宗
0465 【○承前。天喜四年閏三月,於中殿,翫新成櫻花歌 。】
常よりも 春も長閑けき 君が代に 散らぬ例の 花を見る哉
權大納言 藤原信家
0466 寬喜元年十一月女御入內屏風、京華人家元日かきたる所
初春の 花都に 松を植ゑて 民戶とめる 千代ぞ知らるる
前關白 九條道家
0467 江山人家柳ある所
名にし負はば しくや汀の 玉柳 入江浪に 御舟漕ぐ迄
入道前太政大臣 西園寺公經
0468 池邊藤花
春日咲く 藤下影 色見えて 在しに勝る 宿池水
正三位 藤原知家
0469 四月、山田早苗
御田屋守 急ぐ早苗に 同じくば 千世數とれ 我君の為
內大臣 西園寺實氏
0470 八月、山野に鹿立てる所
今ぞ是 祈りし甲斐よ 春日山 思へば嬉し 小壯鹿聲
前關白 九條道家
0471 人家翫月
我宿の 光を見ても 雲上の 月をぞ祈る 長閑為れとは
前關白 九條道家
0472 田家西收興
年有れば 秋の雲為す 稻莚 苅敷く民の 立たぬ日ぞ無き
前關白 九條道家
0473 【○承前。田家西收興。】
秋を經て 君が齡の 有數に 苅田の稻も 千束積む也
入道前太政大臣 西園寺公經
0474 圓融院御時、中將公任と碁仕奉て負態に、銀籠に蟲入れて弘徽殿に奉らせ侍りける
萬代の 秋を待ちつつ 鳴渡れ 巖に根刺す 松蟲聲
小野宮右大臣 藤原實資
0475 九月九日從一位倫子、菊綿を給ひて、老拭棄てよと侍りければ
菊露 分ゆ許に 袖振れて 花主に 千世は讓らむ
紫式部
0476 菊を詠侍ける
我宿の 菊白露 萬世の 秋立に 置きてこそ見め
清原元輔
0477 【○承前。侍詠菊。】
長月に 匂始めにし 菊為れば 霜も久しく 置ける也けり
康資王母
0478 後冷泉院御時、殘菊映水と云へる心を人人仕奉けるに
神無月 殘る汀の 白菊は 久しき秋の 徵也けり
權大納言 藤原長家
0479 承保三年、大井河に行幸日、詠侍ける
大井川 古き御幸の 流にて 戶無瀨水も 今日ぞ澄みける
大宮右大臣 藤原俊家
0480 【○承前。承保三年,行幸大井河之日侍詠。】
大井川 今日御幸の 驗にや 千代に一度 澄渡るらむ
前中納言 藤原伊房
0481 寬喜元年女御入內屏風、十一月、江邊寒蘆鶴立
千代經べき 難波蘆の 夜を累ね 霜降羽の 鶴毛衣
入道前太政大臣 西園寺公經
0482 泥繪屏風、石清水臨時祭
散りもせじ 衣に摺れる 笹竹の 大宮人の 髻首櫻は
權中納言 藤原定家
0483 承保元年大嘗會主基歌、丹波國桂山
久方の 月桂の 山人も 豐明に 逢ひにける哉
前中納言 大江匡房
0484 寬治元年悠紀歌、近江國三村山
時雨降る 三村山の 紅葉は 誰が折掛けし 錦為るらむ
前中納言 大江匡房
0485 仁安三年悠紀風俗歌
天地を 照らす鏡の 山為れば 久しかるべき 影ぞ見えける
宮內卿 藤原永範
0486 貞應元年悠紀歌、玉野
色色の 草葉露を 押並て 玉野原に 月ぞ磨ける
正三位 藤原家衡
0487 同主基風俗歌、岩屋山
深綠 玉松枝の 千世迄も 岩屋山ぞ 動かざるべき
權中納言 藤原賴資
0488 御屏風歌、岩倉山
足引の 岩倉山の 日蔭草 髻首や神の 御言為るらむ
權中納言 藤原賴資
0489 題知らず
月も日も 變行けども 久に經る 三室山の 常宮所
佚名 讀人知らず
0490 延喜六年、日本紀竟宴歌、譽田天皇 【○日本紀竟宴0039。】
年經たる 古き浮木を 棄てねばぞ 鏗鏘けき光 遠聞ゆる
西三條右大臣 藤原良相
0491 豐御食炊屋姬天皇 【○日本紀竟宴0029。】
堤をば 豐浦宮に 築初て 世世を經ぬれど 水は洩らさず
貞信公 藤原忠平
0492 天平十八年正月、雪深積りて侍りける朝、皇子達上達部率ゐて、太上天皇の中宮西院に參りて、雪拂はせ侍りける、御前に召して大御酒給ひける次に奏し侍りける
降雪の 白髮迄に 大君に 仕奉れば 貴くも有哉
井手左大臣 橘諸兄
0493 右大臣佐保家に御幸せさせ給うける日
青丹善し 奈良都の 黑木以て 造れる宿は 居れど飽かぬ哉
聖武天皇御製