新後撰和歌集 卷十七 雜歌上
1207 千五百番歌合に
幾歲の 髻首折りけむ 古の 三輪檜原の 苔通路
前中納言 藤原定家
1208 【○承前。千五百番歌合中。】
幾代とも 知られぬ物は 白雲の 上より落つる 布引瀧
從二位 藤原家隆
1209 野中清水を見て
汲む人は 復古に 成りぬとも 野中清水 思忘る莫
寂蓮法師
1210 弘安元年百首歌奉りし時
在し世を 戀ふる淚の 露ぞ置く 今も嵯峨野の 道笹原
土御門入道內大臣 源通成 中院通成
1211 住江にて詠める
住吉の 松吹く風も 變らねば 岸打つ浪や 昔為るらむ
如願法師
1212 題知らず
如何にして 思ふ方には 通ふらむ 風に從ふ 海人釣舟
權中納言 藤原公雄 小倉公雄
1213 【○承前。無題。】
暮れぬとて 我が住む方に 歸る也 蘆屋沖の 海人釣舟
前內大臣 藤原實重 三條實重
1214 海邊夕と云ふ事を
海人棲む 里導や 茲為らむ 暮るれば見ゆる 漁火影
今上御製 後二條帝
1215 題知らず
風吹けば 浪越す磯の 岩根松 幾入染むる 綠為るらむ
佚名 讀人知らず
1216 白川殿七百首歌に、子日松
子日とて 今日引初むる 小松原 木高き迄を 見る由欲得
後嵯峨院御製
1217 春歌中に
影茂き 園生竹の 其儘に 去年降積みし 雪ぞ殘れる
前大僧正良覺
1218 雪山造られて侍りける雪を、睦月廿日頃に萬里小路右大臣申して侍りけるに
消殘る 雪に付けてや 我宿を 花より先に 人問ふらむ
月花門院 綜子內親王
1219 梅花に付けて、藤原為道朝臣許に遣はしける
色香をも 知る人見よと 咲梅の 花心に 任せてぞ祈る
院大納言典侍 京極為子
1220 返し
色香をも 知る人為らぬ 我為に 折る甲斐無しと 花や思はむ
藤原為道朝臣
1221 題知らず
心有る 人は訪來で 我袖に 梅香惜しき 春夕風
平時高
1222 春歌中に
明けぬとて 誰名は立たじ 歸鴈 夜深き空を 何急ぐらむ
平義政
1223 【○承前。春歌之中。】
迷はじ莫 越路空は 霞むとも 歸りなれたる 春の雁音
前大僧正禪助
1224 【○承前。春歌之中。】
志賀海士の 釣する袖は 見え分かで 霞む浪路に 歸雁音
津守國助
1225 【○承前。春歌之中。】
行先も 跡も霞の 中空に 暫しは見えて 歸雁音
前大僧正源惠
1226 院に三十首歌奉りし時、庭春雨
世を捨つる 身隱家の 故鄉に 音さへ忍ぶ 庭春雨
入道前太政大臣 藤原實兼 西園寺實兼
1227 題知らず
我許 待つとは言はじ 山櫻 花も憂身を 厭ひもぞする
正三位 藤原經朝 世尊寺經朝
1228 【○承前。無題。】
雲とだに 定かには見ず 山櫻 遠梢や 猶霞むらむ
平時直
1229 中務卿宗尊親王家歌合に、閑居花
在りとだに 人に知られぬ 宿為れば 花咲きぬとも 誰か問來む
前參議 藤原能清 一條能清
1230 卅首歌召されし次に、見花
哀れ今は 身を徒の 眺めして 我世古行く 花下蔭
院御製 伏見帝
1231 雨降りける朝、人許に花を遣すとて
思遣れ 老いて慰む 花だにも 萎るる今朝の 雨辛さを
二品法親王覺助
1232 花歌中に
咲花の 盛りを見ても 山陰に ふりはてぬべき 身を歎く哉
藤原為綱朝臣
1233 【○承前。花歌之中。】
眺めつつ 我身も降りぬ山櫻 四十餘りの 春を重ねて
藤原宗泰
1234 正治百首歌に
年每に 花は咲けども 人知れぬ 我身一つに 春無かりけり
源師光
1235 題知らず
徒に 散りなば惜しき 花故に 我為ならず 人を待つ哉
權律師玄覺
1236 山里に住侍りける頃、花散りて後に詣來べき由申して侍りける人の返事に
散果てて 後は何せむ 山里の 花見よとてぞ 人は待たれし
平親世
1237 花盛りに山寺に罷りて詠める
辛しとて 背く憂世の 外迄も 花も我身を 猶誘ひける
道供法師
1238 題知らず
命をも 惜しむ心や 無からまし 花に此世を 思置かずば
源光行
1239 【○承前。無題。】
櫻花 散らずば軈て 御吉野の 山や厭はぬ 栖為らまし
津守國平
1240 【○承前。無題。】
幾春も 我が立つ杣に 庵しめて 山甲斐有る 花をこそ見め
前大僧正公澄
1241 院、東宮と申しける時、御持僧に加はりて程無く位に就かせ給ひて後、天台座主に成りて、內裏にて春の頃、七佛藥師法を行侍りける時、思續侍ける
春宮に 仕へし儘の 年を經て 今は雲居の 月を見る哉
前大僧正源惠
1242 正安三年春、櫻枝に付けて內裏へ奏し侍りける
九重に 色を重ねて 匂ふらし 花も時知る 御代に逢ひつつ
良助法親王
1243 御返し
今ぞ見る 君が心も 折を得て 春時知る 花の一枝
今上御製 後二條帝
1244 弘安三年三月、日吉社に始めて御幸侍りける時、天台座主にて詠侍りける
年每の 御幸を契る 春為れば 色を添へてや 花も咲くらむ
前大僧正公豪
1245 春歌中に
哀とて 花見し事を 數ふれば 幾許年の 春ぞ經にける
源兼朝
1246 花頃、詣來て侍りける人許に遣はしける
今よりの 心通はば 思出でよ 必ず花の 折為らずとも
漸空上人
1247 道助法親王家に、八重櫻有る由聞きて申し遣はしける
敕為らで 復掘移す 宿欲得 例に許るせ 八重櫻木
西園寺入道前太政大臣 藤原公經 西園寺公經
1248 返し
櫻花 折知る人の 宿に植ゑて 幾返りとも 春ぞ限らぬ
入道二品親王道助
1249 題知らず
咲けば且 散るも絕間の 見えぬ哉 花より外の 色し無ければ
源淑氏
1250 【○承前。無題。】
咲花の 心づからの 色をだに 見果てぬ程に 春風ぞ吹く
前左兵衛督 藤原範藤
1251 【○承前。無題。】
此春も 復散花を 先立てて 惜しからぬ身の 猶殘りつつ
澄覺法親王
1252 【○承前。無題。】
永らへて 生けらば後の 春とだに 契らぬ先に 花ぞ散りぬる
辨內侍 後深草院辨內侍 藤原信實女
1253 【○承前。無題。】
人訪はぬ 宿櫻の 如何にして 風に辛くは 知られ始めけむ
祝部國長
1254 【○承前。無題。】
咲きなばと 花に賴めし 人は來で 訪ふに辛さの 春風ぞ吹く
僧正範兼
1255 【○承前。無題。】
雨霽るる 雲返しの 山風に 雫乍らや 花散るらむ
平時村朝臣
1256 【○承前。無題。】
水上や 花木蔭を 流れけむ 櫻を誘ふ 春川浪
平貞時朝臣
1257 【○承前。無題。】
散易き 花心を 知ればこそ 嵐も徒に 誘始めけめ
中臣祐春
1258 【○承前。無題。】
散りぬれば 吹くも梢の 寂しさに 風もや花を 思出らむ
法印雲雅
1259 中務卿宗尊親王家歌合に
淚にぞ 復宿しつる 春月 憂きは變らぬ 元身にして
源時清
1260 春歌中に
迴逢ふ 春は五十の 老いが世に 理過ぎて 霞む月哉
前關白太政大臣 藤原基忠 鷹司基忠
1261 春頃、月蝕を祈りて思續侍ける
霞むだに 心盡しの 春月 曇れと祈る 夜半も有りけり
法印能海
1262 山階入道左大臣家十首歌に、田家水
苗代の 春門田に 堰水の 道有方に 身をや任せむ
源兼氏朝臣
1263 題知らず
憂事も 云ふにぞ辛き 山吹は 心有りける 花色哉
平宣時朝臣
1264 【○承前。無題。】
忘れめや 春日野邊に 黑木以て 作れる宿の 軒藤浪
前關白太政大臣 藤原基忠 鷹司基忠
1265 【○承前。無題。】
春日山 木高峰の 藤花 末葉も春に 逢はざらめやは
前大僧正行尊
1266 諸共に花見むと契りて後、久しく音連れざりける人許に、三月晦に遣はしける
花見むと 契りし人を 待程に 文無く春の 暮れにける哉
中原師尚朝臣
1267 三月に閏月有りける年、詠める
散殘る 後彌生の 八重櫻 重なる春の 花とこそ見れ
藤原景房朝臣
1268 同じき晦日、詠侍りける
慣れて猶 飽かぬ名殘の 悲しきは 重なる春の 別也けり
天台座主道玄
1269 述懷之心を
神山に 其名を懸けよ 二葉草 三位の 跡を尋ねて
賀茂經久
1270 祖父忠久、檢非違使にて祭主たりける事を思ひて、賀茂社に詠みて奉りける
懸けて祈る 兆顯せよ 葵草 重なる跡は 神も忘れじ
惟宗忠景
1271 題知らず
待事を 習ひになして 郭公 鳴くべき頃も 由緣無かりけり
大江貞重
1272 【○承前。無題。】
侘人の 心に習へ 郭公 憂きにぞ易く 音は泣かれける
佚名 讀人知らず
1273 【○承前。無題。】
有明の 月にも鳴かず 郭公 由緣無き程の 限知らせて
權大僧都覺守
1274 【○承前。無題。】
短夜も 猶寐覺めして 郭公 初音も老の 後にこそ聞け
平時遠
1275 【○承前。無題。】
年を經て 我が神山の 郭公 同じ初音を 今も聞く哉
賀茂遠久
1276 無言之行し侍りける頃、郭公を聞きて
時鳥 人に語らぬ 折にしも 初音聞くこそ 甲斐無かりけれ
西行法師 佐藤義清
1277 羈中郭公
鳴く方に 先づ憧れて 郭公 越ゆる山路の 末も急がず
平時藤
1278 夏歌中に
何時迄か 哀と聞かむ 時鳥 思へば誰も 音こそ泣かるれ
藤原光俊朝臣 葉室光俊
1279 【○承前。夏歌之中。】
色深き 淚を借りて 郭公 我が衣手の 杜に啼くなり
雅成親王
1280 菖蒲を
何時迄か 菖蒲許の 長根を 淚も知らぬ 袖に掛けけむ
中務卿 宗尊親王
1281 前中納言俊定許へ、代代遣はしける橘を遣すとて
今も復 五月待ちける 橘に 昔忘れぬ 程は知らなむ
中原師宗
1282 返し
家風 變らず共に 傳來て 昔跡に 匂ふ橘
前中納言 藤原俊定
1283 題知らず
水增さる 淀川瀨を 指棹の 末も及ばぬ 五月雨頃
觀意法師
1284 【○承前。無題。】
搔暗し 漂雲の 行方も 見えず成りぬる 五月雨頃
大江茂重
1285 【○承前。無題。】
風渡る 葦末葉に 置露の 堪らず見えて 飛螢哉
源季茂
1286 螢を裹みて姉許に遣すとて
戀しさの 身より餘れる 思ひをば 夜半螢に 餘所へても見よ
平親清女妹
1287 返し
我は復 晝も思ひの 消えばこそ 夜半螢に 身をも類へめ
平親清女
1288 蟬を詠侍りける
思事 空しきからに 空蟬の 木隱果つる 身こそ辛けれ
前參議 藤原忠定 中山忠定
1289 夕顏を
甚復 光や添はむ 白露に 月待出づる 夕顏花
津守國助
1290 題知らず
風音は 未吹翻へぬ 草葉の 露にぞ秋の 色は見えける
藤原朝宗
1291 【○承前。無題。】
慣れぬれば 辛心も 有るやとて 織女の 稀に逢ふらむ
空人法師
1292 【○承前。無題。】
忘られぬ 昔秋を 思寢の 夢をば遺せ 庭松風
式乾門院御匣 安嘉門院三條 太政大臣久我通光女
1293 寄風述懷と云へる心を
露身の 置き所こそ 無かりけれ 野にも山にも 秋風ぞ吹く
雅成親王
1294 秋歌中に
結置く 露も雫も 化野の 蓬許を 拂ふ秋風
前權僧正通海
1295 弘長元年百首歌奉りける時、露
夜な夜なの 淚し無くば 苔衣 秋置露の 程は見てまし
前大納言 藤原為家
1296 題知らず
我袖の 類ひと見るも 悲しきは 置いて露けき 森下草
前僧正公朝
1297 【○承前。無題。】
今は世に 誰かは我を 招くべき 情有りける 花薄哉
前左衛門督 藤原基顯 園基顯
1298 【○承前。無題。】
人ぞ憂き 本心は 變れども 古枝萩は 今も咲くなり
惟宗忠景
1299 【○承前。無題。】
何に我が 老淚の 掛かるらむ 古枝萩も 露ぞ零るる
權中納言 藤原公雄 小倉公雄
1300 【○承前。無題。】
年を經て 脆く成行く 淚哉 何時限の 秋夕暮
前大僧正實承
1301 【○承前。無題。】
關戶を 鎖さでも道や 隔つらむ 逢坂山の 秋夕霧
藤原秀長
1302 弘安元年百首歌奉りし時
雨霽るる 高嶺は空に 現れて 山本登る 富士川ぎり
入道二品親王性助
1303 秋歌中に
住慣れし 月は昔の 秋風に 古鄉寒き 庭淺茅生
法印定意
1304 【○承前。秋歌之中。】
我われながら 何時いつを淚なみだの 絕間たえまとて 身程知みのほどしらず 月つきを見みるらむ
後九條內大臣 藤原基家 九條基家
1305 【○承前。秋歌之中。】
如何為いかなれば 眺ながむる袖そでの 時雨しぐるらむ 雲くもも懸かからぬ 山端月やまのはのつき
入道前關白左大臣 藤原師忠 二條師忠
1306 【○承前。秋歌之中。】
情なさけとや 淚懸なみだのかかる 袖そでにしも 長夜徹ながきよすがら 月宿つきやどるらむ
遊義門院 姈子內親王
1307 【○承前。秋歌之中。】
思おもふ事こと 實げに慰なぐさむる 月為つきならば 苔袂こけのたもとは 秋あきや干ほさまし
藤原光俊朝臣 葉室光俊
1308 【○承前。秋歌之中。】
身憂みのうさの 忘わするる月つきの 影為かげならば 秋心あきのこころは 慰なぐさみなまし
源季廣
1309 【○承前。秋歌之中。】
秋あきを經へて 慣行なれゆく月つきの 真澄鏡ますかがみ 積つもれば老おいの 影かげを見みる哉かな
津守國平
1310 【○承前。秋歌之中。】
長ながらへて 今幾歲いまいくとせか 月つきを見みむ 今年ことしも秋あきは 半なかば過すぐなり
法印良守
1311 【○承前。秋歌之中。】
定さだかなる 夢ゆめか現か 七十ななそぢの 秋あきを待得まちえて 見みつる月影つきかげ
常磐井入道前太政大臣 藤原實氏 西園寺實氏
1312 月夜つきのよ、昔むかしを思出おもひいでて、中うちに侍さぶらひける人許ひとのもとに遣つかはしける
忘わすれずよ 思おもひや出いづる 雲居くもゐにて 共ともに見みし夜よの 秋月影あきのつきかげ
辨內侍 後深草院辨內侍 藤原信實女
1313 文永五年九月十三夜ぶんえいごねんののちのつき、白河殿五首歌合しらかはどののごしゅのうたあはせに、河水澄月かはみづにすみつき
我われのみや 影かげも變かはらむ 飛鳥川あすかがは 淵瀨ふちせも同おなじ 月つきは澄すめども
後嵯峨院御製
1314 題知だいしらず
大方おほかたの 名なこそ吹飯ふけひの 浦うらならめ 傾かたぶかで澄すめ 秋夜月あきのよのつき
佚名 讀人知よむひとしらず
1315 【○承前。無題。】
入いる迄までも 月見つきみむとてぞ 住始すみそめし 名なに負おふ秋あきの 西山里にしのやまざと
入道二品親王性助
1316 【○承前。無題。】
由緣無つれなくも 巡逢めぐりあひぬる 命哉いのちかな 六十秋むそぢのあきの 有明月ありあけのつき
靜仁法親王
1317 【○承前。無題。】
秋日あきのひの 山端遠やまのはとほく 為なる儘ままに 麓松ふもとのまつの 影かげぞ少すくなき
順德院御製
1318 【○承前。無題。】
都人みやこびと 思起おもひおこせよ 苔深こけふかき 松樞まつのとぼその 秋哀あきのあはれを
典侍光子
1319 【○承前。無題。】
聞きかざりし 嵐風あらしのかぜも 身みに添そひぬ 今いまは棲家すみかの 秋山里あきのやまざと
藤原信實朝臣
1320 里擣衣さとにころもうつを
秋深あきふかく 成行なりゆく儘ままに 衣搗ころもうつ 音羽里おとはのさとや 夜寒成よさむなるらむ
平賴泰
1321 秋歌中あきのうたのなかに
我わが庵いほは 嵐儘あらしのままに 住成すみなして 露つゆも時雨しぐれも 漏もらぬ間まぞ無なき
入道二品親王性助
1322 文永五年九月十三夜ぶんえいごねんののちのつき、白河殿五首歌合しらかはどののごしゅのうたあはせに、暮山紅葉くれやまのもみぢ
豫かねてより 袖そでも時雨しぐれて 墨染すみぞめの 夕色增ゆふべいろます 山紅葉やまのもみぢば
後嵯峨院御製
1323 題知だいしらず
夜よを遺のこす 老淚おいのなみだの 我袖わがそでに 猶干難なほほしがたく 降ふる時雨哉しぐれかな
權中納言 藤原公雄 小倉公雄
1324 【○承前。無題。】
年としを經へて 降ふりぬる身みとは 知しる物ものを 何故袖なにゆゑそでの 復時雨またしぐるらむ
前權僧正教範
1325 【○承前。無題。】
餘所よそに見みし 高嶺雲たかねのくもの 何時間いつのまに 此里懸このさとかけて 時雨しぐれきぬらむ
大江宗秀
1326 神無月かむなづきの頃ころ、歌合うたあはせのまけわざせさせ給たまひける時とき、法皇御幸ほふわうみゆきし侍はべりけるに、紅葉もみぢの舟ふねに付つけらるべき歌うたとて仕奉つかうまつりける
紅葉もみぢばの 朱赭舟あけのそほぶね 漕寄こぎよせよ 茲ここを泊とまりと 君きみも見みる迄まで
藤原為道朝臣
1327 冬歌中ふゆのうたのなかに
吹立ふきたつる 木葉下このはのしたも 木葉このはにて 風かぜだに分わけぬ 庭通路にはのかよひぢ
寂惠法師
1328 【○承前。冬歌之中。】
冬川ふゆがはの 冰隙こほりのひまを 行水ゆくみづの 復淀またよどむこそ 木葉成このはなりけれ
藤原親範
1329 【○承前。冬歌之中。】
薄冰うすこほり 危あやふき身みとは 思おもへども 踏見ふみみて世よをも 渡わたりける哉かな
前大僧正忠源
1330 百首歌奉ひゃくしゅのうたたてまつりし時とき、千鳥ちどり
和歌浦わかのうらや 五代重いつよかさねて 濱千鳥はまちどり 七度同ななたびおなじ 跡あとを付つけぬる
前大納言 藤原為世 二條為世
1331 三十首歌召さんじっしゅのうためされし次ついでに、浦千鳥うらちどり
我世わがよには 集あつめぬ和歌わかの 浦千鳥うらちどり 虛むなしき名なをや 跡あとに殘のこさむ
院御製 伏見帝
1332 【○承前。召三十首歌之際,浦千鳥。】
浦千鳥うらちどり 何事なにはのことの 立居たちゐにも 老浪おいのなみには 音ねぞ泣なかれける
入道前太政大臣 藤原實兼 西園寺實兼
1333 中務卿宗尊親王家歌合なかつかさきゃうむねたかしんわうのいへのうたあはせに、千鳥ちどり
哀あはれにも 老おいの寐覺ねざめの 友千鳥ともちどり 我わが夜更よふけぬる 月つきに鳴なく也なり
前僧正公朝
1334 未いまだ殿上許てんじゃうゆるされざりける時とき、雪降侍ゆきのふりはべりける日ひ、清涼殿せいりゃうでんに差置さしおかせ侍はべりける
如何為いかなれば 雲上くものうへには 散乍ちりながら 庭にはにのみ降ふる 雪ゆきを見みるらむ
從三位 源賴政
1335 返かへし
志こころざし 深ふかくも庭にはに 積つもりなば 何などか雲居くもゐの 雪ゆきも見みざらむ
佚名 讀人知よむひとしらず
1336 前中納言定家さきのちゅうなごんさだいへ早はやう住侍すみはべりける所ところに、前大納言為家さきのだいなごんためいへ患わづらふ事侍ことはべりける時とき、雪朝ゆきのあしたに申まをし遣つかはしける
消きえもせで 年としを累かさねよ 今いまも世よに 降ふりて殘のこれる 宿白雪やどのしらゆき
權中納言 藤原公雄 小倉公雄
1337 返かへし
消殘きえのこる 跡あととて人ひとに 問とはるるも 猶憑無なほたのみなき 庭白雪にはのしらゆき
前大納言 藤原為家
1338 野外雪やぐわいのゆきを
過來すぎきつる 跡あとに任まかせむ 春日野かすがのの 荊棘道おどろのみちは 雪深ゆきふかくとも
按察使 藤原實泰 洞院實泰
1339 山家雪さんかのゆきと云いふ事ことを詠よめる
春はるは先まづ 問とはれし物ものを 山深やまふかみ 雪降ゆきふりにける 身みこそ辛つらけれ
如願法師
1340 題知だいしらず
今更いまさらに 何なにとか雪ゆきの 埋うづむらむ 我わが身世みよに降ふる 道みちは絕たえにき
藤原光俊朝臣 葉室光俊
1341 【○承前。無題。】
降積ふりつもる 雪ゆきに付つけても 我わが身世みよに 埋うづもれてのみ 積つもる年哉としかな
法眼慶融
1342 【○承前。無題。】
冬寒ふゆさむみ 嵐あらしに靡なびく 炭窯すみがまの 煙けぶりに混まじる 嶺浮雲みねのうきくも
藤原信顯朝臣
1343 中務卿宗尊親王家百首歌なかつかさきゃうむねたかしんわうのいへのひゃくしゅのうたに
明日知あすしらぬ 世儚よのはかなさを 思おもふにも 惜をしかるまじき 年暮としのくれかは
中務卿宗尊親王家小督
1344 弘安三年百首歌奉こうあんさんねんのひゃくしゅのうたたてまつりし時とき
何なにと復また 暮行くれゆく年としを 急いそぐらむ 春はるに逢あふべき 身みとも知しらぬに
土御門入道內大臣 源通成 中院通成
1345 百首歌奉ひゃくしゅのうたたてまつりし時とき、年暮としのくれ
我わが身世みよに 憂うきも果はてある 年為としならば 近付ちかづく春はるも 急いそがれや為せむ
藤原為相朝臣
1346 題知だいしらず
程ほども無なく 五十年いそぢのとしも 小餘綾こゆるぎの 急成いそぎなれたる 年暮哉としのくれかな
佚名 讀人知よむひとしらず