新後撰和歌集 卷十六 戀歌六
1166 絕經年戀と云ふ事を
徒に 年のみ越えて 逢坂の 關は昔の 道と成りにき
中務卿 宗尊親王
1167 家六百番歌合に
休らひに 出でにし人の 通路を 深き野原と 今日は見る哉
後京極攝政前太政大臣 藤原良經 九條良經
1168 【○承前。家六百番歌合中。】
言はざりき 我身古屋の 忍草 思違へて 種を蒔けとは
前中納言 藤原定家
1169 題知らず
枯果てし 人は昔の 忘草 忘れず袖に 殘る露哉
佚名 讀人知らず
1170 【○承前。無題。】
辛かりし 心秋も 昔にて 我身に殘る 葛裏風
院御製 伏見帝
1171 弘安元年百首歌奉りし時
思へ唯 野邊真葛も 秋風の 吹かぬ夕は 恨みやはする
權中納言 藤原公雄 小倉公雄
1172 戀歌之中に
昔見し 布留野澤の 忘水 何今更に 思出らむ
寂超法師
1173 從二位行家、住吉社にて歌合し侍りけるに、恨絕戀
我ながら 辛く鳴海の 潮干潟 恨みし末ぞ 遠離りぬる
津守國平
1174 後京極攝政家六百番歌合に
思ふには 類為るべき 伊勢海人も 人を恨みぬ 袖ぞ濡れける
從二位 藤原家隆
1175 百首歌詠ませ給ひける時、恨戀
問はばやな 恨馴れたる 里海人も 衣干す間は 無き思ひかと
法皇御製 龜山院
1176 寳治百首歌奉りける時、寄衣戀
何時迄の 辛さ成りけむ 唐衣 中に隔てし 夜半恨みは
藤原光俊朝臣 葉室光俊
1177 戀歌之中に
辛くとも 然のみは如何 唐衣 憂身を知らで 人を恨みむ
左近大將 藤原家平 近衛家平
1178 【○承前。戀歌之中。】
山賤の 倭文機帶の 幾歸り 辛恨みに 結ぼほるらむ
從三位 藤原行能 世尊寺行能
1179 【○承前。戀歌之中。】
道理と 戀しき迄は 思ひしか 辛きにだにも 濡るる袖哉
道倶法師
1180 【○承前。戀歌之中。】
恨來し 心も今は 無き物を 唯戀しさの 音のみ泣かれて
中務卿 宗尊親王
1181 【○承前。戀歌之中。】
恨みての 後さへ人の 戀しきや 辛さに懲りぬ 心為るらむ
藤原忠資朝臣
1182 【○承前。戀歌之中。】
如何に為む 思絕えたる 此頃は 恨みし程の 慰めも無し
前大納言 藤原教良 二條教良
1183 【○承前。戀歌之中。】
厭はるる 憂身程を 忍ばずば 辛類ひも 人に問はまし
中臣祐春
1184 【○承前。戀歌之中。】
身を詰まば 思知らずも 無からまし 人は恨みに 習はざりけり
三條入道左大臣 藤原實房 三條實房
1185 【○承前。戀歌之中。】
我さへに 忘ると人や 思ふらむ 餘りに成れば 言はぬ辛さを
平行氏
1186 【○承前。戀歌之中。】
一筋に 身を恨むべき 契哉 人やは言ひし 物思へとは
津守經國
1187 【○承前。戀歌之中。】
今は復 如何に言はまし 恨みての 後さへ辛き 人心を
大江賴重
1188 【○承前。戀歌之中。】
憂きを猶 忍ぶ我が身の 強面さは 人辛さに 劣りやはする
入道二品親王性助
1189 百首歌召されし次に、人傳恨戀
人傳に 云へども甚 由緣無きは 我が思ふ程や 恨みざるらむ
今上御製 後二條帝
1190 恨戀心を
儚くも 思ひも果てぬ 我身かな恨むる迄の賴み殘して
今上御製 後二條帝
1191 百首歌奉りし時、忘戀
盡きもせず 恨みざらまし 憂人に 忘らるる身の 思知られば
左大臣 藤原師教 九條師教
1192 題知らず
縱然らば 恨は果てじ 數為らぬ 身咎にこそ 思作すとも
佚名 讀人知らず
1193 院に三十首歌奉りし時、恨戀
人をのみ 猶恨むとや 思ふらむ 身を託ちても 墮つる淚を
前大僧正實承
1194 百首歌奉りし時、同心を
辛くとも 是を限と 言遣らむ 實に身を捨てば 人や惜しむと
前大納言 藤原為世 二條為世
1195 【○承前。奉百首歌時,詠同心。】
命だに 辛さに堪へぬ 身也せば 此世乍は 恨みざらまし
前中納言 源有房
1196 戀歌之中に
逢事に 返し命の 儘為らば 人辛さも 復は歎かじ
院御製 伏見帝
1197 【○承前。戀歌之中。】
縱然らば 人辛さも 有りて憂き 命咎と 為して恨みじ
右大臣家讚岐 前關白太政大臣家讚岐
1198 【○承前。戀歌之中。】
然のみやは 辛さに堪へて 存らへむ 限有る世の 命成れとも
平宣時朝臣
1199 【○承前。戀歌之中。】
恨むとも 責めて知らする 中為らば 哀を掛くる 折も有らまし
佚名 讀人知らず
1200 【○承前。戀歌之中。】
問はれぬを 憂しとも責めて 言ひてまし 唯等閑の 辛さ成為ば
權中納言 藤原經平女
1201 【○承前。戀歌之中。】
斯許 思ふに負けぬ 辛さこそ 身を知る中も 恨みられけれ
藤原為宗朝臣
1202 【○承前。戀歌之中。】
辛しとて 思捨つるも 叶はぬを 易くぞ人の 忘果てける
後嵯峨院大納言典侍 藤原為子
1203 白河殿七百首歌に、恨不逢戀と云事いふことを
年月としつきは 逢あはぬ恨うらみと 思おもひしに 恨うらみて逢あはず 何時成いつなりにけむ
後嵯峨院御製
1204 百首歌奉ひゃくしゅのうたたてまつりし時とき、恨戀うらみこひ
行末ゆくすゑを 契ちぎりしよりぞ 恨うらみまし 斯かかるべしとも 兼かねて知しりせば
前關白太政大臣 藤原基忠 鷹司基忠
1205 【○承前。奉百首歌時,恨戀。】
恨うらみても 猶同世なほおなじよに 在古ありふるや 辛つらさを知しらぬ 命為いのちなるらむ
右大臣 藤原冬平 鷹司冬平
1206 題知だいしらず
憂乍うきながら 慣なれぬる物ものは 年月としつきの 辛つらさを託かこつ 淚也なみだなりけり
近衛關白左大臣 藤原基平 近衛基平