0955 後京極攝政家六百番歌合に
偖も猶 人心を 知らぬ間は 契るさへこそ 思ひなりけれ
從二位 藤原家隆
0956 忍契戀と云ふ事を詠ませ賜ひける
誠かと 復押返し 問ふ程の 人目隙も 無き契り哉
今上御製 後二條帝
0957 山階入道左大臣家十首歌に、寄心戀
偽の 有る世悲しき 心こそ 賴まじとだに 思定めね
前大納言 藤原為家
0958 中務卿宗尊親王家百首歌に
賴置く 人契ぞ 有果てぬ 命待つ間も 疑はれける
鷹司院帥 葉室光俊女
0959 戀心を
逢事を 知らぬ賴みは 甲斐無くて 契許に 身をや換へてむ
院御製 伏見帝
0960 後京極攝政家六百番歌合に
味氣無し 誰も儚き 命以て 賴めば今日の 暮を賴めよ
前中納言 藤原定家
0961 題知らず
人傳ての 偽りにだに 己づから 哀を書くる 言葉欲得
從一位 藤原禖子 洞院禖子
0962 內裏に百首歌奉りし時、切戀
契しも 有らぬ世にとは 聞かざりき 戀死なで待つ 命と欲得
遊義門院權大納言 二條為子
0963 契戀
然ならでは 賴めも置かじ 偽の 在る世ぞ人の 情也ける
法印定圓
0964 【○承前。契戀。】
偽を 賴までも復 如何為む 兼ねて知らるる 誠ならねば
藤原光盛
0965 【○承前。契戀。】
偽と 思ひながらや 契るらむ 知らばや人の 下心を
素暹法師
0966 中務卿宗尊親王家百首歌に
己づから 偽為らぬ 契りをも 我が心とや 賴まざるらむ
前參議 藤原能清 一條能清
0967 題知らず
賴むるを 命に為して 過ぐす身は 偽りかとも 縱や思はじ
平宗宣
0968 【○承前。無題。】
然のみ復 人心を 疑はば 我が偽りの 程や知られむ
高階成朝
0969 【○承前。無題。】
偽りの 言葉ぞとて 賴まずば 憂身に契る 人や無からむ
前中納言 藤原資高
0970 【○承前。無題。】
實に思ふ 心底の 知られねば 契る儘にも 得やは賴まむ
前中納言 藤原俊光 日野俊光
0971 【○承前。無題。】
然りともと 思乍らも 待程は 猶身憂さに 疑はれつつ
按察使 藤原實泰 洞院實泰
0972 【○承前。無題。】
偽を 賴むにこそは 成りもせめ 待たずと如何で 人に聞かれむ
津守國道
0973 【○承前。無題。】
契りしを 人の誠と 賴みても 復如何ならむ 夕暮空
近衛關白左大臣 藤原基平 近衛基平
0974 【○承前。無題。】
待見ばや 世も偽に 為果てじ 強ひて賴めし 夕暮空
安嘉門院大貳
0975 【○承前。無題。】
然りともと 此夕暮を 待たるるや 言ひしを賴む 心為るらむ
賀茂久世
0976 【○承前。無題。】
戶無瀨川 越す筏士の 水馴棹 指して賴めし 暮ぞ待たるる
法眼源承
0977 【○承前。無題。】
暮るる間を 儚く急ぐ 心哉 逢ふに返むと 誓ふ命に
前大納言 藤原實冬 滋野井實冬
0978 【○承前。無題。】
忘れても 訪はずもぞなる 契置きし 暮ぞと人に 驚かさばや
院御製 伏見帝
0979 【○承前。無題。】
思へ唯 賴めぬだにも 待たるるに 今宵と言ひし 心盡しは
前僧正道性
0980 【○承前。無題。】
偽を 思知らぬに 成し果てて 復等閑の 暮を待つ哉
大藏卿 藤原隆博 九條隆博
0981 【○承前。無題。】
契りしは 唯等閑の 夕とも 知らで待ちける 程ぞ儚き
賀茂經久
0982 百首歌奉りし時、待戀
今宵だに 如何に夕占の 占ぞとも 聞定めてや 人を待たまし
法印定為
0983 戀歌中に
更けにける 恨みや猶も 殘るべき 偽為らぬ 今宵也とも
佚名 讀人知らず
0984 【○承前。戀歌之中。】
人目良く 道は然こそと 思へども 慰難く 更くる夜半哉
津守國助
0985 【○承前。戀歌之中。】
思遣れ 空賴めせぬ 月だにも 待つは心を 盡す物とは
前參議 藤原實時
0986 【○承前。戀歌之中。】
待侘びて 更行く月の 影のみや 寐ぬ夜の袖の 淚問ふらむ
法眼兼譽
0987 【○承前。戀歌之中。】
更けぬるは 來ぬ人故に 憂物を 待たれ顏にも 出づる月哉
平宗泰
0988 【○承前。戀歌之中。】
搔暮す 淚し無くば 來ぬ人の 辛さに替へて 月も見てまし
藤原親方
0989 百首歌奉りし時、待戀
更けぬとも 暫しは待たむ 山端の 月見て後も 思出やと
昭慶門院一條
0990 題知らず
賴めても 來ぬ人辛き 宵宵に 偽知らで 出づる月哉
九條左大臣二條道良女
0991 月前待戀と云へる心を
偽に 更行く程の 知らるれば 待夜月の 影は眺めじ
今上御製 後二條帝
0992 同心を
0993 千五百番歌合に
山端に 入る迄月を 眺むとも 知らでや人の 有明空
參議 藤原雅經 飛鳥井雅經
0994 寄月戀を
歸途の 別のみかは 待人の 由緣無きも憂き 有明空
後嵯峨院御製
0995 百首歌奉りし時、待戀
更けぬれば 責めて賴みの 無き儘に 今宵も明日の 暮ぞ待たるる
藤原為藤朝臣
0996 弘長三年內裏百首歌奉りける時、寄戶戀
訪はるべき 其麤ましに 槙戶を 賴めぬ夜半も 鎖さで明けぬる
前大納言 藤原資季
0997 寄鳥戀
待侘びて 來ぬ夜空しく 明行けば 淚數添ふ 鴫羽搔き
參議 藤原雅經 飛鳥井雅經
0998 久安百首歌に
賴めずば 憂身の咎と 歎きつつ 人心を 恨みざらまし
待賢門院堀河
0999 題知らず
賴めぬを 我心より 待兼ねて 人憂きにや 思作すべき
前大僧正道瑜
1000 【○承前。無題。】
賴まじと 思ひなりても 偽に 變らで待つは 心也けり
平時常
1001 【○承前。無題。】
憂かりける 人言葉 歎けとて 何ど偽の 有る世なるらむ
左近中將 源具氏
1002 【○承前。無題。】
契しに 變ると聞くも 辛からず 偖も問はるる 習無ければ
左近中將 藤原冬基 鷹司冬基
1003 【○承前。無題。】
恨みじよ 思へば人の 來ぬ迄も 情にこそは 契置きけめ
法印圓伊
1004 百首歌奉りし時、待戀
慰むる 我が麤ましに 待慣れて 然のみ寢ぬ夜の 數や重ねむ
按察使 藤原實泰 洞院實泰
1005 寳治百首歌召しける序に、寄關戀
聞く度に 勿來關の 名も辛し 行きては歸る 身に知られつつ
後嵯峨院御製
1006 五首歌合に、來不留戀
待得ても 軈て別の 夕こそ 問ふさへ辛き 契也けれ
權大納言 源師重
1007 月前逢戀と云ふ事を
獨寐の 牀に馴來し 月影を 諸共に見る 夜半も有りけり
前大納言 藤原經任
1008 戀歌之中に
辛かりし 時こそ有らめ 逢見ての 後さへ物は 何どや悲しき
中務卿宗尊親王家小督
1009 【○承前。戀歌之中。】
歎侘び 逢ふに返むと 思ひしは 憂かりし迄の 命也けり
前大僧正深惠
1010 忍會戀を
現とも 思定めぬ 逢事を 夢に紛へて 人に語る莫
前大僧正聖兼
1011 題知らず
君も復 逢ふと見る夜の 夢為らば 誰か別れの 先挾むらむ
從二位 藤原家隆
1012 【○承前。無題。】
嬉しさを 今夜裹まむ 為とてや 袖は淚に 口殘りけむ
前大僧正慈鎮
1013 【○承前。無題。】
忘られむ 後浮名を 思ふにも 逢ふとは餘所の 人に知られじ
中臣祐賢
1014 前大納言為家、日吉社にて歌合し侍りけるに、寄枕忍戀
忍山 岩根枕 交すとも 下行水の 漏さず欲得
藤原光俊朝臣 葉室光俊
1015 戀歌之中に
如何為む 待程過ぎて 更くる夜に 頓て名殘の 惜しき別を
大藏卿 高階重經
1016 五首歌合に、來不逢戀
通來る 名のみ荒磯の 濱千鳥 跡は暫しも 何どか止めぬ
尚侍 藤原頊子朝臣
1017 別戀之心を
心有る 鳥音為らば 如何許 今一時も 嬉しからまし
權中納言 源國信
1018 【○承前。別戀之心。】
別るれば 同心に 憂しとのみ 木綿附鳥の 音をぞ恨むる
佚名 讀人知らず
1019 【○承前。別戀之心。】
曉の 別れも知らぬ 鳥音は 何辛さに 鳴始めけむ
大江賴重
1020 【○承前。別戀之心。】
責めて猶 後世をこそ 賴めつれ 存らへぬべき 別為らねば
法眼源承
1021 【○承前。別戀之心。】
徒になど 思初めけむ 朝露の 置別れても 消えぬ命を
平盛房
1022 千五百番歌合に
曉の 床は草葉の 何為れや 露に別れの 淚添ふらむ
大納言 源通具
1023 後京極攝政家六百番歌合に
逢迄の 思ひは事の 數為らで 別れぞ戀の 始也ける
寂蓮法師
1024 題知らず
味氣無く 復有明や 辛からむ 玆を限の 別為らずば
源親長朝臣
1025 【○承前。無題。】
歸途の 忘形見の 袖の月 其も止らず 明くる空哉
大江茂重
1026 洞院攝政家百首歌に、後朝戀
有明の 月は形見に 賴まれず 暮待つ迄の 身にも添はねば
藻璧門院少將 藤原信實女
1027 題知らず
存らへて 復逢事も 知らぬ身は 是や形見の 有明月
前大納言 藤原教良 二條教良
1028 【○承前。無題。】
形見とて 我こそ見つれ 面影を 人は殘さぬ 有明月
前大納言 藤原實教 小倉實教
1029 【○承前。無題。】
現こそ 今朝は中中 悲しけれ 歸る恨みは 夢に見ざりき
前大僧正慈鎮
1030 【○承前。無題。】
我為らぬ 葛裏葉も 今朝見れば 歸るとてこそ 露も零るれ
俊惠法師
1031 【○承前。無題。】
分侘びぬ 袖別の 東雲に 淚墮添ふ 道芝露
式乾門院御匣 安嘉門院三條 太政大臣久我通光女
1032 【○承前。無題。】
洩す莫よ 道の笹原 踏分けし 一夜蒼の 露手枕
祝部成良
1033 【○承前。無題。】
在し夜の 後は互ひに 忍來て 通ふ心も 知らぬ中哉
平久時
1034 弘長三年內裏百首歌奉りける時、寄水戀
逢見ても 儚き物は 行水に 數搔止めぬ 契也けり
近衛關白左大臣 藤原基平 近衛基平
1035 戀歌之中に
一筋に 賴む心の 無く欲得 變らば辛き 身ともこそ為れ
尚侍 藤原頊子朝臣
1036 文永七年九月盡、內裏三首歌に、契戀
代代掛けて 浪越さじとは 契るとも いさや心の 末松山
前大納言 藤原為氏 二條為氏
1037 題知らず
淺くとも 賴みこそせめ 淚川 然ても逢瀨の 變果てずば
從三位 藤原隆教
1038 【○承前。無題。】
逢事を 猶や賴まむ 片絲の 繰る夜稀れなる 契也とも
藤原泰基
1039 【○承前。無題。】
誰が方に 心を掛けて 下紐の 稀に逢夜も 結ぼほるらむ
從三位 藤原光成 大炊御門光成
1040 遠戀之心を
思遣る 人心を 隔てずば 幾重も懸かれ 峯白雲
內大臣 藤原內實 一條內實
1041 【○承前。詠遠戀之心。】
尋ねても 行方知るべき 契りかは 唐土舟の 跡白浪
藤原為信朝臣
1042 戀歌之中に
大海の 底と知りても 如何為む 海松布は己が 心為らねば
從三位 賀茂氏久
1043 後京極攝政家六百番歌合に
面影は 教へし宿に 先立ちて 答へぬ風の 松に吹く聲
前中納言 藤原定家
1044 題知らず
徒に 消歸るとも 知らせばや 行きては來ぬる 道芝露
源有長朝臣
1045 【○承前。無題。】
徒に 待見る人も 無かりけり 問ひて苦しき 三輪山本
權大納言 藤原師信
1046 前參議範長家歌合に、隔河戀
妹が住む 宿此方の 衣川 渡らぬ折も 袖濡らしけり
藤原親盛
1047 題知らず
住吉の 岸徒浪 掛けてだに 忘るる草は 有りと知らす莫
權中納言 藤原經平
1047b 【○承前。無題。】
濱千鳥 通許の 跡は有れど 敏馬浦に 音をのみぞ鳴く
順德院御製
1047c 【○承前。無題。】
我が兄子を 松浦山の 葛蔓 邂逅にだに 來る由も無し
鎌倉右大臣 源實朝
1048 【○承前。無題。】
里海人の 假初成りし 契りより 頓て海松布の 便りをぞ問ふ
藤原雅顯
1049 晩風催戀と云ふ事を
驚ろかす 風に付けても 來ぬ人の 辛さぞ增さる 秋夕暮
平時村朝臣
1050 始めて物申しける女の、「跡無き夢に為してよ。」と申しければ、遣はしける
行末を 掛けて契りし 現をば 跡無き夢と 如何為すべき
太宰權帥 藤原為經 吉田為經
1051 返し
見し夢の 忘られぬだに 憂物を 何か現に 為して歎かむ
佚名 讀人知らず