新後撰和歌集 卷第七 離別歌
0532 題知らず
心とや 行くも歸るも 嘆くらむ 人遣りならぬ 鄙別路
後嵯峨院御製
0533 藤原仲實朝臣、備中守に罷りけるに遣はしける
君が邊り 見つつ偲ばむ 天離る 鄙中山 雲莫隔てそ
藤原基俊
0534 東に罷りける人に
行人の 復逢坂の 關為らば 手向之神を 猶や賴まむ
前中納言 藤原定家
0535 返し
逢坂の 關守る神に 任せても 名こそ手向の 賴也けれ
蓮生法師
0536 題知らず
遙遙と 行末知らぬ 別路は 留まる人の 惑ふ也けり
藤原隆信朝臣
0537 前大僧正隆辨、三月晦日、東へ罷侍りけるに遣はしける
如何に為む 留まらぬ春の 別にも 勝りて惜しき 人名殘は
中務卿 宗尊親王
0538 返し
巡來む 程を待つこそ 悲しけれ 明かぬ都の 春別は
前大僧正隆辨
0539 遠き所へ罷りけるに、人名殘惜しみ侍りければ
思遣れ 定無き世の 別路は 玆を限りと 言はぬ許ぞ
佚名 讀人知らず
0540 吾妻方に罷れりける時、藤原為顯に尋逢ひて、「歸途は必伴はむ。」と契りて侍りけるに、障る事有りければ遣はしける
同世の 命內の 道だにも 後先立つ 程ぞ悲しき
津守國助
0541 返し
契有りて 巡逢ひぬる 同世に 命中の 道は隔つ莫
藤原為顯
0542 題知らず
永らへて 在果てぬ世の 程をだに 生きて別の 道ぞ悲しき
從三位 藤原忠兼
0543 【○承前。無題。】
存命て 復逢ふ迄の 命こそ 飽かぬ別に 添へて惜しけれ
佚名 讀人知らず
0544 遠所へ親遣はしける人に
辛しとも 言はぬさへこそ 悲しけれ 別れも人の 心為らねば
前大納言 藤原實冬 滋野井實冬
0545 靜仁法親王、師子岩屋に籠侍りける、送りに罷りて歸るとて詠侍りける
終夜 分けつる道の 露よりも 思置くにぞ 袖は濡れける
前權僧正教範
0546 返し
立歸り 山路も深き 白露の 置くるる袖は 濡增さりけり
靜仁法親王
0547 藤原景綱、高野山に詣でける次に、住江月見ける事等申し遣すとて
月許 送ると人や 思ひけむ 我が心をも そへし山路に
津守國助
0548 吾妻方へ罷りける人に遣はしける
都だに 遠しと思ひし 山端を 幾重隔てむ 嶺白雲
高辨上人
0549 題知らず
旅衣 餘所に立つ日は 辛くとも 契りし中に 心隔つ莫
大藏卿 藤原隆博 九條隆博
0550 久安百首歌に
歸來む 程は其日と 契れども 立ち別るるは 如何に悲しき
前參議 藤原教長
0551 別之心を
歸來む 世儚なさを 思はずば 今宵や人に 契置かまし
前大納言 藤原光賴 葉室光賴
0552 修行し侍りける時、同行の都に歸上りければ
歸行く 人心を 思ふにも 離難きは 都也けり
西行法師 佐藤義清