新古今和歌集　卷第八　哀傷歌


 0757　題知(だいし)らず　【○和漢朗詠0782。】


0758　【○承前。無題。】


0759　醍醐帝隱賜(だいごのみかどかくれたま)ひて後(のち)、彌生晦(やよひのつごもり)に、三條右大臣(さんでううだいじん)に遣(つか)はしける


0760　正曆二年(しゃうりゃくのふたとせ)、諒闇之春(りゃうあんのはる)、櫻枝(さくらのえだ)に付(つ)けて、道信朝臣(みちのぶのあそん)に遣(つか)はしける


0761　返(かへ)し


0762　彌生頃(やよひのころ)、人(ひと)に後(おく)れて嘆(なげ)きける人許(ひとのもと)へ遣(つか)はしける


0763　人(ひと)の、櫻(さくら)を植置(うゑを)きて、其年四月(そのとしのうづき)に亡(な)く成(な)りにける、又年初(またのとしはじ)めて花咲(はなさ)きたるを見(み)て


0764　年頃住侍(としごろすみはべり)ける女(をみな)の、身罷(みまか)りにける四十九日果(しじふくにちはて)て、猶山里(なほやまざと)に籠居(こもりゐ)て詠侍(よみはべり)ける


0765　公守朝臣母(きみもりのあそんのはは)、身罷(みまか)りて後(のち)の春(はる)、法金剛院花(ほふこんごうゐんのはな)を見(み)て


0766　定家朝臣(さだいへのあそん)、母思(ははのおもひ)に侍(はべり)ける春暮(はるのくれ)に遣(つか)はしける


0767　前大納言光賴(さきのだいなごんみつより)、春身罷(はるみまか)りにけるを、桂為(かつらな)る所(ところ)にて左右(とかく)して歸侍(かへりはべり)けるに


0768　六條攝政隱侍(ろくでうのせっしゃうかくれはべ)りて後(のち)、植置(うゑを)きて侍(はべり)ける牡丹咲(ぼたんのさ)きて侍(はべり)けるを折(を)りて、女房許(にょうばうのもと)より遣(つか)はして侍(はべり)ければ


0769　幼子失(おさなきこのう)せにけるが植置(うゑを)きたりける菖蒲(さうぶ)を見(み)て、詠侍(よみはべり)ける


0770　嘆事侍(なげくことはべり)ける頃(ころ)、五月五日(さつきいつか)、人許(ひとのもと)へ申遣(まうしつか)はしける


0771　近衛院隱賜(このゑのゐんかくれたま)ひにければ、世(よ)を背(そむ)きて後(のち)、五月五日(さつきいつか)、皇嘉門院(くわうかもんゐん)に奉(たてまつ)られける


0772　返(かへ)し


0773　住侍(すみはべり)ける女亡(をみなな)く成(な)りにける頃(ころ)、藤原為賴朝臣(ふぢはらのためよりのあそん)、妻身罷(つまみまか)りにけるに遣(つか)はしける


0774　返(かへ)し


0775　小式部內侍(こしきぶのないし)、露置(つゆを)きたる萩織(はぎをり)たる唐衣(からぎぬ)を著(き)て侍(はべり)けるを、身罷(みまか)りて後(のち)、上東門院(じゃうとうもんゐん)より尋(たづ)ねさせ賜(たま)ひける、奉(たてまつ)るとて


0776　御返(みかへ)し


0777　白河院御時(しらかはのゐんのおほむとき)、中宮御座(ちゅうぐうおは)しまさで後(のち)、其御方(そのみがた)は草(くさ)のみ茂(しげ)りて侍(はべり)けるに、七月七日(たなばた)、童部露取侍(わらはべのつゆとりはべり)けるを見(み)て


0778　一品資子內親王(いっぽんししないしんわう)に逢(あ)ひて、昔事(むかしのこと)ども申出(まうしいだ)して詠侍(よみはべり)ける　【○齋宮女御集0103。】


0779　例為(れいな)らぬ事重(ことおも)く成(な)りて、御髮落賜(みぐしおろしたま)ひける日(ひ)、上東門院(じゃうとうもんゐん)、中宮(ちゅうぐう)と申(まうし)ける時(とき)、遣(つか)はしける


0780　秋頃(あきのころ)、幼子(をさなきこ)に後(おく)れたる人(ひと)に


0781　返(かへ)し


0782　廉義公母亡(れんぎこうのははな)く成(な)りて後(のち)、女郎花(をみなへし)を見(み)て　【○和漢朗詠0274。】


0783　彈正尹為尊親王(だんじゃうのかみためたかしんわう)に後(おく)れて、嘆侍(なげきはべり)ける頃(ころ)


0784　從一位源師子(じゅいちゐみなもとのもろこ)隱侍(かくれはべり)て、宇治(うぢ)より新少將許(しんせうしゃうがもと)に遣(つか)はしける


0785　法輪寺(ほふりんじ)に詣侍(まうではべり)とて、嵯峨野(さがの)に大納言忠家墓(だいなごんただいへがはか)の侍(はべり)ける程(ほど)に、罷(まか)りて詠侍(よみはべり)ける


0786　公時卿母(きみとききゃうのはは)、身罷(みまか)りて嘆侍(なげきはべり)ける頃(ころ)、大納言實國許(だいなごんさねくにがもと)に申遣(まうしつか)はしける


0787　母身罷(ははのみまか)りにけるを、嵯峨野邊(さがのへん)に納侍(をさめはべり)ける夜(よ)、詠侍(よみはべり)ける


0788　母身罷(ははのみまか)りにける秋(あき)、野分(のわき)しける日(ひ)、元住侍(もとすみはべり)ける所(ところ)に罷(まか)りて


0789　父秀宗身罷(ちちひでむねみまか)りての秋(あき)、寄風懷舊(かぜによするくわいきう)と云(い)ふ事(こと)を詠侍(よみはべり)ける


0790　久我內大臣(くがのないだいじん)、春頃失(はるごろう)せて侍(はべり)ける年秋(としのあき)、土御門內大臣(つちみかどのないだいじん)、中將(ちゅうじゃう)に侍(はべり)ける時(とき)、遣(つか)はしける


0791　返(かへ)し


0792　忍(しの)びて物申(ものまうし)ける女(をみな)、身罷(みまか)りて後(のち)、其家(そのいへ)に泊(とま)りて詠侍(よみはべり)ける


0793　陸奧國(みちのくに)へ罷(まか)れりけるに、野中(のなか)に、目(め)に立(た)つ樣(さま)なる塚(つか)の侍(はべり)けるを、問(と)はせ侍(はべり)ければ、「茲(これ)なむ中將塚(ちゅうじゃうのつか)と申(まう)す。」と答(こた)へければ、「中將(ちゅうじゃう)とは孰人(いづれのひと)ぞ？」ととひ侍(はべり)ければ、「實方朝臣之事(さねかたあそんのこと)。」となむ申(まうし)けるに、冬事(ふゆのこと)にて、霜枯芒仄仄見渡(しもがれのすすきほのぼのみえわた)りて、折節物悲(をりふしものがな)しう覺侍(おぼえはべり)ければ


0794　どうぎゃう(同行為)りける人(ひと)、打續(うちつづ)き儚(はかな)く成(な)りにければ、思出(おもひいで)て詠(よ)める


0795　母思(ははのおもひ)に侍(はべり)ける秋(あき)、法輪寺(ほふりんじ)に籠(こも)りて、嵐甚吹(あらしのいたくふ)きければ


0796　定家朝臣母(さだいへのあそんのはは)、身罷(みまか)りて後(のち)、秋頃(あきのころ)、むしょちか(墓所近)き堂(だう)に泊(とま)りて詠侍(よみはべり)ける


0797　堀河院隱賜(ほりかはゐんかくれたま)て後(のち)、神無月(かみなづき)、風音哀(かぜのおとあはれ)に聞(きこ)えければ


0798　藤原定通身罷(ふぢはらのさだみちみまか)りて後(のち)、月明(つきあか)き夜(よ)、人夢(ひとのゆめ)に、「殿上(てんじゃう)になむ侍(はべ)る。」とて、詠侍(よみはべり)ける歌(うた)


0799　源為善朝臣身罷(みなもとのためよしみまか)りにける又年(またのとし)、月(つき)を見(み)て


0800　世中儚(よのなかはかな)く、人人多亡(ひとびとおほくな)く成侍(なりはべり)ける頃(ころ)、中將宣方朝臣(ちゅうじゃうのぶかたのあそん)身罷(みまか)りて、十月許(かみなづきばかり)、白河家(しらかはのいへ)に罷(まか)れりけるに、紅葉一葉殘(もみぢのひとはのこ)れるを見侍(みはべ)りて


0801　十月許(かみなづきばかり)、水無瀨(みなせ)に侍(はべり)し頃(ころ)、前大僧正慈圓許(さきのだいそうじゃうじゑんのもと)へ、「濡(ぬ)れて時雨(しぐれ)の。」等申遣(などまうしつか)はして、次年神無月(つぎのとしのかみなづき)に、無常歌數多詠(むじゃうのうたあまたよ)みて遣(つか)はし侍(はべり)し中(なか)に


0802　返(かへ)し


0803　雨中無常(うちゅうのむじゃう)と云(い)ふ事(こと)を


0804　枇杷皇太后宮隱(びはくわたいごうぐうかく)れて後(のち)、十月許(かみなづきばかり)、彼家人人中(かのいへのひとびとのなか)に、誰(たれ)とも無(な)くて、差置(さしを)かせける


0805　右大將通房身罷(うだいしゃうみちふさみまか)りて後(のち)、手習遊(てならひすさび)て侍(はべり)ける扇(あふぎ)を見出(みいだ)して、詠侍(よみはべり)ける


0806　齋宮女御許(さいぐうのにょうごのもと)にて、先帝書(さきのみかどのか)かせ賜(たま)へりける草子(さうし)を見侍(みはべり)て　【○齋宮女御集0041。】


0807　返(かへ)し　【○齋宮女御集0044】


0808　恒德公隱(こうとくこうかく)れて後(のち)、女許(をみなのもと)に、月明(つきあか)き夜(よ)、忍(しの)びて罷(まか)りて詠侍(よみはべり)ける


0809　入道攝政(にふだうせっしゃう)の為(ため)に、萬燈會興(まんどうゑをこ)なはれ侍(はべり)けるに


0810　公忠朝臣身罷(きみただのあそんみまか)りにける頃(ころ)、詠侍(よみはべり)ける


0811　一條院隱賜(いちでうゐんかくれたま)ひにければ、其御事(そのおほむこと)をのみ戀嘆賜(こひなげきたま)ひて、夢(ゆめ)に髣髴(ほのか)に見(み)え賜(たま)ひければ


0812　後朱雀院隱賜(ごすざくのゐんかくれたま)て、上東門院(じゃうとうもんゐん)、白川(しらかは)に籠賜(こもりたまひ)にけるを聞(き)きて


0813　幼(をさな)かりける子(こ)の身罷(みまか)りにけるに


0814　後一條院中宮(おいちでうゐんのちゅうぐう)、隱賜(かくれたま)て後(のち)、人(ひと)の夢(ゆめ)に


0815　小野宮右大臣身罷(をのみやのうだいじんみまか)りぬと聞(き)きて詠(よ)める


0816　小式部內侍身罷(こしきぶのないしみまか)りて後(のち)、常(つね)に持(も)ちて侍(はべり)ける手箱(てばこ)を誦經(ずきゃう)にせさすとて、詠侍(よみはべり)ける


0817　上東門院小少將身罷(じゃうとうもんゐんのこせうしゃうみまか)りて後(のち)、常(つね)に打解(うちと)けて書交(かきかは)しける文(ふみ)の、()ものの中に侍(はべり)けるを()見いでて、加賀少納言が許(もと)へ遣(つか)はしける


0818　返(かへ)し


0819　僧正明尊隱(そうじゃうみゃうそんかく)れて後(のち)、久(ひさ)しく成(な)りて、房等(ばうなど)も、石藏(いはくら)に取渡(とりわた)して、草生茂(くさおひしげ)りて、異樣(ことざま)に成(な)りにけるを見(み)て


0820　世(よ)の儚(はかな)き事(こと)を嘆(なげ)く頃(ころ)、陸奧國(みちのくに)に名有(なあ)る所所描(ところどころか)きたる繪(ゑ)を見侍(みはべり)て


0821　後朱雀院隱賜(ごずざくのゐんかくれたま)ひて、源三位許(げんさんゐがもと)に遣(つか)はしける


0822　返(かへ)し


0823　大江嘉言(おほえのよしとき)、對馬守(つしまのかみ)に成(な)りて下(くだ)るとて、「難波掘江(なにはほりえ)の、盧裏葉(あしのうらば)に。」と詠(よ)みて下侍(くだりはべり)にける程(ほど)に、國(くに)にて亡(な)く成(な)りにけりと聞(き)きて


0824　題知(だいし)らず


0825　俊賴朝臣身罷(としよりのあそんみまか)りて後(のち)、常(つね)に見(み)ける鏡(かがみ)を佛(ほとけ)に作(つく)らせ侍(はべり)とて詠(よ)める


0826　通(かよ)ひける女(をみな)の儚(はかな)く成侍(なりはべり)にける頃(ころ)、書置(かきを)きたる文(ふみ)ども、經(きゃう)の料子(れうし)になさむとて、取出(とりいで)て見侍(みはべり)けるに


0827　禎子內親王隱侍(ていしないしんわうかくれはべり)て後(のち)、悰子內親王代居侍(そうしないしんわうかはりゐはべり)ぬと聞(き)きて、罷(まか)りて見(み)ければ、何事(なにこと)も變(かは)らぬ樣(やう)に侍(はべり)けるも、甚昔思出(いとどむかしおもひいで)られて、女房(にょうばう)に申侍(まうしはべり)ける


0828　權中納言道家母(ごんちゅうなごんみちへのはは)、隱侍(かくれはべり)にける秋(あき)、攝政太政大臣許(せっしゃうだいじゃうだいじんのもと)に遣(つか)はしける


0829　返(かへ)し


0830　母思(ははのおもひ)に侍(はべり)ける頃(ころ)、又亡(またな)く成(な)りにける人邊(ひとのあたり)より問(と)ひて侍(はべり)ければ、遣(つか)はしける


0831　無常之心(むじゃうのこころ)を


0832　【○承前。詠無常之趣。】


0833　【○承前。詠無常之趣。】


0834　【○承前。詠無常之趣。】


0835　【○承前。詠無常之趣。】


0836　前參議教長(さきのさんぎのりなが)、高野(かうや)に籠居(こもりゐ)て侍(はべり)けるが、病限(やまひかぎ)りに成侍(なりはべり)ぬと聞(き)きて、賴輔卿(よりすけきゃう)罷(まか)りける程(ほど)に、身罷(みまか)りぬと聞(き)きて、遣(つか)はしける


0837　人(ひと)に後(おく)れて嘆(なげ)きける人(ひと)に遣(つか)はしける


0838　嘆(なげ)く事侍(ことはべり)ける人(ひと)、「問(と)はず。」と恨侍(うらみはべり)ければ


0839　無常之心(むじゃうのこころ)を


0840　左近中將通宗(さこんのちゅうじゃうみちむね)が墓所(むしょ)に罷(まか)りて、詠侍(よみはべり)ける


0841　覺快法親王(かくくわいほふしんわう)隱侍(かくれはべり)て、周忌果(しうきのはて)に墓所(むしょ)に罷(まか)りて、詠侍(よみはべり)ける


0842　母(はは)の為(ため)に、粟田口家(あはたぐちのいへ)にて佛供養(ほとけくやう)し侍(はべり)ける時(とき)、同胞皆詣來逢(はらからみなまうできあ)ひて、古面影等(ふるきおもかげなど)、更(さら)に偲侍(しのびはべり)ける折節(おりふし)しも、雨搔暗(あめかきくら)し降侍(ふりはべり)ければ、歸(かへ)るとて、彼堂障子(かのだうのしゃうじ)に書付(かきつ)け侍(はべり)ける


0843　亡(な)く成(な)りたる人數(ひとのかず)を卒塔婆(そとば)に書(か)きて、歌詠侍(うたよみはべり)けるに


0844　子身罷(このみまか)りにける次年夏(つぎのとしのなつ)、彼家(かのいへ)に罷(まか)りたりけるに、花橘之薰(はなたちばなのかほり)ければ詠(よ)める


0845　能因法師身罷(のういんほふしみまか)りて後(のち)、詠侍(よみはべり)ける


0846　妻亡(つまな)く成(な)りて、又年秋頃(またのとしのあきごろ)、周防內侍許(すはうのないしがもと)へ遣(つか)はしける


0847　堀河院隱賜(ほりかはのゐんかくれたま)ひて後(のち)、詠(よ)める


0848　通(かよ)ひける女(をみな)、山里(やまざと)にて儚(はかな)く成(な)りにければ、徒然(つれづれ)と籠居(こもりゐ)て侍(はべり)けるが、顯然(あからさま)に京(きゃう)へ罷(まか)りて、曉歸(あかつきかへ)るに、「鳥鳴(とりな)きぬ。」と人人急(ひとびといそ)がし侍(はべり)ければ


0849　平城帝(ならのみかど)を納奉(をさめたてまつ)りけるを見(み)て　【○萬葉集0200。】


0850　題知(だいし)らず


0851　【○承前。無題。】


0852　更衣(かうい)の服(ぶく)にて參(まゐ)れりけるを見賜(みたま)ひて


0853　思(おも)ひにて人家(ひとのいへ)に宿(やど)れりけるを、其家(そのいへ)に忘草(わすれぐさ)の多侍(おほくはべり)ければ、主(あるじ)に遣(つか)はしける


0854　病(やまひ)に沉(しづ)みて、久籠居(ひさしくこもりゐ)て侍(はべり)けるが、偶宜(たまたまよろ)しく成(な)りて、內(うち)に參(まゐ)りて、右大辨公忠(うだいべんきみただ)、藏人(くらうと)に侍(はべり)けるに逢(あ)ひて、復明後日許參(またあさてばかりまゐ)るべき由申(よしまう)して罷出(まかりいで)にける儘(まま)に、病重(やまひおも)く成(な)りて、限(かぎ)りに侍(はべり)ければ、公忠朝臣(きみただのあそん)に遣(つか)はしける


0855　母女御(ははのにょうご)隱侍(かくれはべり)て、七月七日詠侍(ふづきなぬかよみはべり)ける


0856　失(う)せにける人(ひと)の文(ふみ)の、物中(もののなか)なるを見出(みいで)て、其緣(そのゆかり)なる人許(ひとのもと)に遣(つか)はしける