詞華和歌集卷第六 別
0172 參議廣業、絕えて後、伊豫守にて下りけるに、言遣はしける 【○金葉集三奏本0349。】
都にて 覺束無さを 習はずば 旅寢を如何に 思遣らまし
民部內侍
0173 道貞、忘れて後、陸奥國にて下けるに、遣はしける 【○金葉集三奏本0340。】
諸共に 立た益物を 陸奥の 衣關を 餘所に聞哉
和泉式部
0174 左京大夫顯輔、加賀守にて下侍けるに言遣はしける
喜賀を 加へに急ぐ 旅是れば 思へど得こそ 止めざりけれ
源俊賴朝臣
0175 橘則光朝臣陸奥國守にて下侍けるに、餞侍るとて詠める 【○金葉集三奏本0345。】
留居て 待つべき身こそ 老いにけれ 哀別は 人の為かは
藤原輔尹朝臣
0176 物申しける女の、齋宮下侍ける供に罷けるに、言遣はしける
歸來む 程をば知らず 悲しきは 夜を長月の 別也けり
藤原道經
0177 大納言經信、太宰帥にて下りけるに、河尻に罷會て詠める
六年にぞ 君は來坐さむ 住吉の 待つべき身こそ 甚老いぬれ
津守國基
0178 恒に侍ける女房の日向國へ下侍けるに、餞賜とて詠賜ける 【○金葉集三奏本0351。】
茜射す 日に向ひても 思出よ 都は晴れぬ 眺めすらむと
一條院皇后宮 藤原定子
0179 弟子に侍ける童の親に具して人の國へ罷けるに、裝束遣はすとて
別路の 草葉を別けむ 旅衣 裁より豫て 濡るる袖哉
法橋有禪
0180 月頃人許に宿侍けるが歸りける日、主に會て詠める
復來むと 誰にも得こそ 言置かね 心に叶ふ 命為らねば
玄範法師
0181 唐土へ渡侍けるを人諫侍ければ詠める 【○金葉集三奏本0344。】
留らむ 留らじとも 思ほえず 何處も遂の 住處為らねば
寂照法師
0182 人許に日頃侍て、歸日、主に言侍ける
二無き 心を君に 留置きて 我さへ我に 別ぬる哉
僧都清胤
0183 大納言經信、太宰帥にて下侍けるに、俊賴朝臣罷ければ、言遣はしける
暮れば先 其方をのみぞ 眺むべき 出む日每に 思起せよ
太皇太后宮甲斐
0184 橘為仲朝臣、陸奥國守にて下けるに、太皇太后宮臺盤所よりとて、誰とは無くて
東道の 遙けき道を 行迴り 何時解くべき 下紐關
太皇太后宮甲斐
0185 修理大夫顯季、太宰大貳にて下らむとし侍けるに、馬に具して遣はしける
立別 遙かに生きの 松是れば 戀しかるべき 千代蔭哉
權僧正永緣
0186 東へ罷りける人の宿て侍けるが、曉に立ちけるに詠める
儚くも 今朝之別の 惜しき哉 何時は人を 長らへて見む
傀儡靡