詞花和歌集卷第四 冬
0140 題不知
何事も 行て祈らむと 思しに 神無月にも 成りにける哉
曾禰好忠
0141 題不知
楸生る 澤邊茅原 冬暮れば 雲雀床ぞ 現れにける
曾禰好忠
0142 家に歌合し侍けるに、落葉を詠める
梢にて 飽かざりしかば 紅葉の 散敷く庭を 掃はでぞ見る
大貳 源資通
0143 題不知
色色に 染むる時雨に 紅葉は 爭兼ねて 散果にけり
左衛門督 藤原家成
0144 題不知 【○金葉集三奏本0264。】
山深み 落ちて積れる 紅葉の 乾ける上に 時雨降る也
大江嘉言
0145 落葉埋水と云ふ事を詠める
今更に 己が住處を 立たじとて 木葉下に 鴛ぞ鳴くなる
惟宗隆賴
0146 落葉有聲と云ふ事を詠める
風吹けば 楢枯葉の 戰戰と 云合せつつ 何處散るらむ
惟宗隆賴
0147 題不知
外山なる 柴立枝に 吹風の 音聞く折ぞ 冬は物憂き
曾禰好忠
0148 題不知
秋は尚 木下蔭も 暗かりき 月は冬こそ 見るべかりけれ
佚名
0149 東山に百寺拜侍けるに、時雨のしければ詠める 【○金葉集三奏本0263。】
諸共に 山迴りする 時雨哉 降るに甲斐無き 身とは知らずや
左京太夫 藤原道雅
0150 旅宿時雨と云ふ事を詠める
庵射す 楢木蔭に 漏月の 曇ると見れば 時雨降る也
瞻西上人
0151 天暦御時、御屏風に、網代に紅葉多く寄りたる形描きける所に詠める
深山には 嵐や甚く 吹きぬらむ 網代も渡に 紅葉積れり
平兼盛
0152 鷹狩を詠める 【○金葉集三奏本0295。】
霰降る 交野御野の 狩衣 濡れぬ宿貸す 人し無ければ
藤原長能
0153 堀河院御時、百首歌奉けるに詠める
山深み 燒炭窯の 烟こそ 頓て雪氣の 雲と成けれ
大藏卿 大江匡房
0154 大和守にて侍ける時、入道前太政大臣許にて、初雪を見て詠める 【○金葉集三奏本0280。】
年を經て 吉野山に 見慣れたる 目に珍らしき 今朝初雪
藤原義忠朝臣
0155 題不知 【○金葉集三奏本0265。】
日暮に 山路昨日 時雨しは 富士高嶺の 雪にぞ在ける
大江嘉言
0156 題不知
奥山の 岩垣紅葉 散果て 朽葉上に 雪ぞ積れる
大藏卿 大江匡房
0157 新院位に坐しし時、雪中眺望と云ふ事を詠ませ賜けるに詠侍ける
紅に 見えし梢も 雪降れば 白木綿懸くる 神奈備森
關白前太政大臣
0158 題不知 【○金葉集三奏本0285。】
待人の 今も來らば 如何為む 踏ままく惜しき 庭雪哉
和泉式部
0159 歳暮之心を詠める
數為らぬ 身にさへ年の 積る哉 老は人をも 嫌はざりけり
成尋法師
0160 題不知
魂祭る 年終に 成りにけり 今日にや又も 逢はむとすらむ
曾禰好忠