千載和歌集 卷二十 神祇歌
1256 後一條院御時、初めて春日社に行幸有りけるに、一條院御時之例を思出させ賜うて詠ませ賜うける
三笠山 指して來にけり 石上 古御幸の 跡を尋ねて
上東門院 藤原彰子
1257 長元八年關白左大臣歌合し侍ける後、左方方人喜びに住吉に詣でて歌詠侍けるに、左頭にて詠侍ける
住吉の 浪も心を 寄せければ 宜ぞ汀に 立勝りける
大納言 藤原經輔
1258 白河法皇熊野へ參らせ賜うける御供にて、鹽屋王子御前にて人人歌詠侍けるに詠侍ける
思事 汲みて叶ふる 神為れば 鹽屋に跡を 垂るる也けり
後三條內大臣 藤原公教
1259 百首歌召しける時、神祇歌とて詠ませ賜うける
道邊の 塵に光を 和げて 神も佛の 名告る也けり
崇德院御製
1260 【○承前。召百首歌時,賜詠神祇歌。】
天下 長閑けかれとや 榊葉を 三笠山に 插始めけむ
藤原清輔朝臣
1261 中納言家成、住吉に詣でて歌詠侍ける時、詠める
神代より 津守浦に 宮居して 經ぬらむ年の 限知らずも
大納言 藤原隆季
1262 大納言辭申て出仕へず侍ける時、住吉社歌合とて人人詠みにけるに、述懷歌とて詠侍ける
數ふれば 八年經にけり 哀我が 沈みし事は 昨日と思ふに
其後神感有る樣に夢想有りて、大納言にも還任して侍けるとなむ。
右大臣 藤原實定
1263 同歌合に
徒に 古りぬる身をも 住吉の 松は然りとも 哀知るらむ
皇太后宮大夫 藤原俊成
1264 同歌合に、社頭月と言へる心を詠侍ける
古りにける 松物言はば 問ひてまし 昔も如是や 住江月
右大臣 藤原實定
1265 【○承前。同歌合,侍詠社頭月之趣。】
住吉の 松行合の 隙よりも 月冴えぬれば 霜は置きけり
俊惠法師
1266 廣田社歌合とて人人歌詠侍ける時、社頭雪と言へる心を詠侍ける
押並て 雪白木綿 懸けてけり 孰榊の 梢為るらむ
權大納言 藤原實國
1267 有馬湯に忍びて御幸侍ける御供に侍けるに、湯明神をば三輪明神となむ申侍なる、物に書付侍ける
珍しく 御幸を三輪の 神為らば 驗有馬の 出湯為るべし
按察使 源資賢
1268 熊野に詣侍ける時、發心門王子にて詠侍ける
嬉しくも 神誓を 導にて 心を發す 門に入りぬる
權中納言 藤原經房
1269 三輪社にて霞を詠める
杉枝を 霞籠むれど 三輪山 神驗は 隱れざりけり
僧都範玄
1270 藏人に成らぬ事を歎きて年頃賀茂社に詣侍けるを、二千三百度にも餘侍ける時、貴布禰社に詣て柱に書付けける
今迄に 何ど沈むらむ 貴舟川 斯許早き 神を賴むに
如是て後なむ程無く藏人に成侍りにける。近衛院御時也。
平實重
1271 片岡祝にて侍けるを、同社禰宜に渡らむと申ける頃、詠みて書付侍ける
然りともと 賴みぞ懸くる 木綿襷 我が片岡の 神と思へば
其後なむ禰宜に罷なりにける。
賀茂政平
1272 百首歌中に神祇歌とて詠賜ける
然りともと 賴む心は 神古て 久しく成りぬ 賀茂瑞垣
式子內親王
1273 賀茂社歌合とて人人勸めて詠侍ける時、述懷歌に詠める
君を祈る 願を空に 滿て賜へ 別雷の 神為らば神
賀茂重保
1274 同社後番歌合時、月歌とて詠める
貴舟川 玉散る瀨瀨の 岩浪に 冰を碎く 秋夜月
皇太后宮大夫 藤原俊成
1275 述懷歌中に詠侍ける
我が憑む 日吉影は 奥山の 柴戶迄も 射さざらめやは
法印慈圓
1276 日吉大宮の本地を思ひて詠侍ける
何時と無く 鷲高嶺に 澄月の 光を宿す 志賀唐崎
法橋性憲
1277 日吉社に御幸侍ける時、雨降侍けるが、其時に成りて晴にければ詠侍ける
御幸する 高嶺方に 雲晴て 空に日吉の 驗をぞ見る
中原師尚
1278 高野山を住浮かれて後、伊勢國二見浦の山寺に侍けるに、大神宮御山をば神路山と申、大日如來御垂跡を思ひて詠侍ける
深入りて 神路奥を 尋ぬれば 復上も無き 峯之松風
圓位法師 釋西行
1279 治承四年遷都時、伊勢太神宮に歸參りて君の御祈念し申侍て詠侍ける
月讀の 神し照らさば 浮雲の 懸かる憂世も 晴ざらめやは
其後世中直侍けるとなむ。
大中臣為定朝臣
1280 石清水社に歌合とて人人詠侍ける時、社頭月と言へる心を詠める
石清水 清流の 絕えせねば 宿る月さへ 隈無かりけり
能蓮法師 藤原能盛
1281 長元九年後朱雀院御時、大嘗會主基方の神遊歌、丹波國神奈備山を詠める
常磐為る 神奈備山の 榊葉を 插してぞ祈る 萬世之為
藤原義忠朝臣
1282 治曆四年後三條院の御時、大嘗會主基方の神樂歌、岩屋山を詠める
動無く 千代をぞ祈る 岩屋山 採る榊葉の 色變へずして
藤原經衡
1283 寬治元年堀川院御時、大嘗會悠紀方の神遊歌、諸神鄉を詠める
古の 神御代より 諸神の 祈る祝は 君世の為
前中納言 大江匡房
1284 久壽二年院御時、大嘗會悠紀方の神樂歌、近江國木綿園を詠める
神受くる 豐明に 木綿園の 日影葛ぞ 映增さりける
宮內卿 藤原永範
1285 嘉應元年高倉院御時、大嘗會悠紀方の神遊歌、近江國守山を詠める
皇を 八百萬代の 神も皆 常磐に守る 山名ぞ玆
宮內卿 藤原永範
1286 壽永元年大嘗會主基方の歌詠みて奉ける時、神樂歌、丹波國神奈備山を詠める
三嶋木綿 肩に取懸け 神奈備の 山榊を 髻首にぞする
權中納言 藤原兼光
1287 元曆元年今上御時、大嘗會悠紀方の歌奉ける神遊歌、近江國諸神鄉を詠める
諸神の 心に今ぞ 叶ふらし 君を八千代と 祈る壽詞は
藤原季經朝臣
1288 同大嘗會主基方の歌詠奉りける神樂歌、丹後國千年山を詠める
千年山 神代插せる 榊葉の 榮增さるは 君が為とか
藤原光範朝臣