0606 御子にて御座しましける時、鳥羽殿に渡らせ賜へりける頃、八條院內親王と申しける時、彼御方にて、竹遐年友と言へる心を講ぜられけるに、詠ませ賜うける
幾千世と 限らざりける 吳竹や 君が齡の 類為るらむ
後白河院御製
0607 【○承前。後白河院猶為親王時,渡鳥羽殿之際,時八條院暲子內親王,於彼御方講竹遐年友之心而賜詠。】
植ゑて見る 籬竹の 節每に 籠れる千世は 君ぞ數へむ
後三條內大臣 藤原公教
0608 【○承前。後白河院猶為親王時,渡鳥羽殿之際,時八條院暲子內親王,於彼御方講竹遐年友之心而賜詠。】
我が友に 君が御垣の 吳竹は 千世に幾世の 影を添ふらむ
皇太后宮大夫 藤原俊成
0609 祝之心を詠侍ける
君が代は 天香久山 出る日の 照らむ限は 盡きじとぞ思ふ
大宮前太政大臣 藤原伊通
0610 堀川院御時、立春朝に今日之心仕奉るべき由侍ければ、奏し侍ける
君が為 御手洗川を 若水に 掬ぶや千代の 始為るらむ
源俊賴朝臣
0611 同御時后宮にて、花契遐年と言へる心を、殿上人仕奉けるに詠ませ賜うける
千歲迄 折りて見るべき 櫻花 梢遙に 咲始めにけり
堀川院御製
0612 鳥羽院位降させ賜うての頃、庭花年久と言へる心を彼此仕奉けるに詠侍ける
掘植ゑし 稚木梅に 咲花は 年も限らぬ 匂也けり
大納言 藤原忠教
0613 堀川院御時鳥羽殿行幸日、池上藤と言へる心を詠侍ける
千歲住む 池汀の 八重櫻 影さへ底に 重ねてぞ見る
權中納言 藤原俊忠
0614 白川院御時、鳥羽殿に御座しましける時、松契遐年と云ふ心を詠める
神代より 久しかれとや 動無き 岩根に松の 種を蒔きけむ
源俊賴朝臣
0615 京極前太政大臣高陽院家歌合に、祝之心を詠侍ける
落激つ 八十宇治川の 速瀨に 岩越す浪は 千世之數哉
源俊賴朝臣
0616 二條太皇太后宮、賀茂齋院と申しける時、本院にて、松枝映水と言へる心を詠侍ける 【○齋宮齋院百人一首0063。】
千早振る 齋院宮の 有栖川 松と共にぞ 影は澄むべき
千早振稜威 賀茂齋院宮闕東 嵯峨有栖川 潺潺流水映松影 兩相共澄幾星霜
京極前太政大臣 藤原師實
0617 堀川院御時、百首歌奉りける時、子日之心を詠める
行末を 待つぞ久しき 君が經む 千代始の 子日と思へば
二條太皇太后宮肥後
0618 祝之心を詠める
奥山の 八峰椿 君が代に 幾度蔭を 變へむとすらむ
藤原基俊
0619 保延二年、法金剛院に行幸有りて、菊契多秋と言へる心を詠侍ける
君が代を 長月にしも 白菊の 咲くや千歳の 徵也るらむ
法性寺入道前太政大臣 藤原忠通
0620 【○承前。保延二年,有法金剛院行幸,侍詠菊契多秋之趣。】
八重菊の 匂に著し 君が代は 千歲之秋を 重ぬべしとは
花薗左大臣 源有仁
0621 【○承前。保延二年,有法金剛院行幸,侍詠菊契多秋之趣。】
千早振る 神代之事も 人為らば 尋はまし物を 白菊花
八條前太政大臣 藤原實行
0622 百首歌召しける時、祝之心を詠ませ賜うける
吹風も 木木之枝をば 鳴らさねど 山は久しき 聲聞ゆ也
崇德院御製
0623 二條院御時、大內に御座しまして始めて、花有喜色と言へる心を詠ませ給ひけるに詠侍ける
千世經べき 初春と 知顏に 氣色異なる 花櫻哉
左大臣 藤原經宗
0624 殿上人百首歌奉りける時、祝之心を詠ませ賜うける
白雲に 羽搏付けて 飛鶴の 遙に千代の 思ほゆる哉
二條院御製
0625 百首歌詠賜ひける時の祝歌
動無く 猶萬世ぞ 賴むべき 藐姑射山の 峰松蔭
式子內親王
0626 攝政、右大臣に侍ける時、百首歌詠ませ給ひけるに、祝歌五首中に詠侍ける
百千度 浦島子は 歸るとも 藐姑射山は 常磐為るべし
皇太后宮大夫 藤原俊成
0627 二條院御時、大炊御門高倉內裏に侍けるに、同西町家にて、初めて詩歌講ぜられ侍けるに、鶴契遐年と言へる心を詠侍ける
0628 閑院家にて初めて、對松爭齡と言へる心を詠侍ける
千歲經る 尾上小松 移植ゑて 萬世迄の 友とこそ見め
入道前關白太政大臣 藤原基房
0629 【○承前。於閑院家,初詠對松爭齡之趣。】
萬世も 住むべき宿に 植ゑつれば 松こそ君が 影を賴まめ
源通能朝臣
0630 高倉院御時、內裏に參侍けるに、上御笛に萬歳樂吹かせ給けるを、初めて承りて又日、女房中に申侍ける
笛音の 萬代迄と 聞えしを 山も答ふる 心地せし哉
右大臣 藤原實定
0631 入道右大臣、初めて中院家に住侍ける時、祝之心を詠める
群れて居る 鶴之氣色に 著哉 千歲住むべき 宿池水
修理大夫 藤原顯季
0632 橘俊綱朝臣伏見家に、桂を掘植ゑさせ侍けるに詠める
瑞垣の 桂を移す 宿為れば 月見む事ぞ 久しかるべき
賀茂成助
0633 俊綱朝臣、讚岐守に罷りける時、祝之心を詠める
君が代に 較べて云はば 松山の 松葉數は 少なかりけり
藤原孝善
0634 後一條院御時、長和五年大嘗會主基方御屏風に、備中國長田山麓に琴彈遊びしたる所を詠める
千世とのみ 同事をぞ 調ぶなる 長田山の 峰松風
善滋為政朝臣
0635 白河院御時、承保元年大嘗會主基方稻舂歌、神田鄉を詠める
千早振る 神田鄉の 稻為れば 月日と共に 久しかるべし
前中納言 大江匡房
0636 院御時、久壽二年大嘗會悠紀方風俗歌、近江國若松森を詠める
皇の 末榮ゆべき 徵には 木高くぞ為る 稚松森
宮內卿 藤原永範
0637 平治元年大嘗會悠紀方風俗歌、近江國千坂浦を詠める
君か代の 數には及じ 限無き 千坂浦の 真砂也とも
參議 藤原俊憲
0638 同御時大嘗會主基方稻舂歌、丹波國雲田村を詠める
天地の 極めも知らぬ 御代為れば 雲田村の 稻をこそ付け
刑部卿 藤原範兼
0639 高倉院御時、仁安三年大嘗會悠紀方御屏風歌
霜降れど 榮えこそ增せ 君が代に 逢坂山の 關杉森
宮內卿 藤原永範
0640 今上御時、元曆元年大嘗會悠紀方風俗歌、三神山を詠める
常磐為る 三神山の 杉村や 八百萬代の 徵為るらむ
藤原季經朝臣