0498 題不知 【○金葉集三奏本0211。】
有明の 月も清水に 宿けり 今宵は越えじ 逢坂關
藤原範永朝臣
0499 法性寺入道太政大臣、內大臣に侍ける時、關路月と言へる心を
播磨道や 須磨關屋の 板廂 月漏れとてや 踈為るらむ
中納言 源師俊
0500 月前旅宿と言へる心を詠める
可惜夜を 伊勢濱萩 折敷きて 妹戀しらに 見つる月哉
藤原基俊
0501 堀川院御時百首歌奉りける時、旅歌とて詠める
浪上に 有明月を 見ましやは 須磨關屋に 宿らざり為ば
中納言 源國信
0502 行路雪と言へる心を詠侍ける
夜な夜なの 旅寢床に 風冴えて 初雪降れる 佐夜中山
八條前太政大臣 藤原實行
0503 海面に船ながら明かして詠める
水上に 浮寢をしてぞ 思知る 斯れば鴛も 鳴くにぞ有ける
和泉式部
0504 丹波國に罷りける時、詠める 【○千載集0504。】
思ふ事 無くてや見まし 與謝海の 天橋立 都也為ば
赤染衛門
0505 攝津國に住侍けるを、美濃國に下る事有りて、梓山にて詠侍ける
宮木引く 梓杣を 搔別けて 難波浦を 遠ざかりぬる
能因法師
0506 大隅國任果て上らむとしけるを、大貳沙汰する事未しとて留めければ詠める
住江に 待つらむとのみ 歎きつつ 心盡しに 年を經る哉
津守有基
0507 天仁元年齋宮群行時、忘井と云ふ所にて詠める 【○齋宮齋院百人一首0067。】
別行く 都方の 戀しきに 去來結見む 忘井水
離別而行去 總念故鄉都之方 慕情滿溢時 去來相率以結見 所謂解憂忘井水
齋宮甲斐
0508 法性寺入道內大臣時歌合に、旅宿雁と言へる心を
小夜深き 雲居に雁も 音すなり 我獨やは 旅空なる
源雅光
0509 百首歌召しける時、旅歌とて詠ませ賜うける
狩衣 袖淚に 宿る夜は 月も旅寢の 心地こそすれ
崇德院御製
0510 【○承前。召百首歌時,賜詠旅歌。】
松根の 枕も何か 徒為らむ 玉牀とて 常床かは
崇德院御製
0511 【○承前。召百首歌時,賜詠旅歌。】
0512 【○承前。召百首歌時,賜詠旅歌。】
更級や 姨捨山に 月見むと 都に誰か 我を知るらむ
藤原季通朝臣
0513 【○承前。召百首歌時,賜詠旅歌。】
途次 心も空に 眺遣る 都山の 雲隱れぬる
待賢門院堀川
0514 【○承前。召百首歌時,賜詠旅歌。】
笹葉を 夕露ながら 折りしけば 玉散る旅の 草枕哉
待賢門院安藝
0515 【○承前。召百首歌時,賜詠旅歌。】
浦傳ふ 磯苫屋の 梶枕 聞きも慣らはぬ 浪音哉
皇太后宮大夫 藤原俊成
0516 世を背きて後、修行し侍けるに、海路にて月を見て詠める
海原 遙に浪を 隔て來て 都に出し 月を見る哉
圓位法師
0517 高野に詣侍ける道にて詠侍ける
定無き 憂世中と 知りぬれば 何處も旅の 心地こそすれ
高野法親王覺法
0518 下野國に罷りける時、尾張國鳴海と云ふ所にて詠侍ける
覺束無 如何に成身の 果為らむ 行方も知らぬ 旅悲しさ
前中納言 源師仲
0519 東方に罷りける時、行先遙に侍ければ詠める4
日を經つつ 行に遙けき 道為れど 末を都と 思はましかば
左京大夫 藤原脩範
0520 海邊時雨と言へる心を詠侍ける
如是迄は 哀為らじを 時雨るとも 磯松根 枕為らずば
佚名
0521 尾張國に知由有て暫侍ける頃、人許より都事は忘れぬると言ひて侍ければ遣はしける
月見れば 先都こそ 戀しけれ 待つらむと思ふ 人は無けれど
道因法師【俗名藤原敦賴。】
0522 夜過逢坂關とて詠める
逢坂の 關には人も 無かりけり 岩間水の 洩るに任せて
祝部成仲
0523 中院右大臣家にて、獨行關路と言へる心を詠侍ける
越えて行く 友や無からむ 逢坂の 關清水の 影離れなば
大納言 源定房
0524 客衣露重と言へる心を詠侍ける
旅衣 朝立つ小野の 露重み 絞りも堪へず 忍捩摺
前大僧正覺忠
0525 住吉社歌合とて人人詠侍ける時、旅宿時雨と言へる心を詠侍ける
風音に 分きぞ兼まし 松根の 枕に洩らぬ 時雨也せば
右近大將 藤原實房
0526 【○承前。人人侍詠住吉社歌合時,詠旅宿時雨之趣。】
藻鹽草 敷津浦の 寢覺には 時雨にのみや 袖は濡れける
俊惠法師
0527 【○承前。人人侍詠住吉社歌合時,詠旅宿時雨之趣。】
玉藻葺く 磯屋が下に 洩る時雨 旅寢袖も 潮垂よとや
源仲綱
0528 【○承前。人人侍詠住吉社歌合時,詠旅宿時雨之趣。】
草枕 同旅寢の 袖に又 夜半時雨も 宿は借けり
太皇太后宮小侍從
0529 家に百首歌詠ませ侍ける時、旅歌とて詠侍ける
遙遙と 津守沖を 漕行けば 岸松風 遠離る也
攝政前右大臣 藤原兼實
0530 【○承前。於家詠百首歌時,訟旅歌。】
海原 潮路遙に 見渡せば 雲と浪とは 一つ也けり
刑部卿 藤原賴輔
0531 【○承前。於家詠百首歌時,訟旅歌。】
哀為る 野島崎の 庵哉 露置く袖に 浪も掛けけり
皇太后宮大夫 藤原俊成
0532 旅宿之心を詠侍ける
縱然らば 磯苫屋に 旅寢為む 浪懸けずとて 濡れぬ袖かは
仁和寺二品法親王守覺
0533 旅歌とて詠侍ける
旅世に 復旅寢して 草枕 夢中にも 夢を見る哉
法印慈圓
0534 【○承前。侍詠旅歌。】
草枕 假寢夢に 幾度か 馴れし都に 行歸るらむ
右兵衛督 藤原隆房
0535 關路曉月と言へる心を詠める
何時も如是 有明月の 明方は 物や悲しき 須磨關守
法眼兼覺
0536 百首歌詠侍ける時、旅歌とて詠める
旅寢する 須磨浦路の 小夜千鳥 聲こそ袖の 浪は掛けけれ
藤原家隆
0537 修行に罷步きけるに、野中に宿して侍ける夜、旅枕露繁く侍けるに詠める
如是しつつ 遂に止らむ 蓬生の 思知らるる 草枕哉
圓玄法師
0538 旅歌とて詠める
旅寢する 木下露の 袖に復 時雨降るなり 佐夜中山
律師覺辨
0539 攝政右大臣家歌合に旅歌とて詠める
旅寢する 庵を過ぐる 叢時雨 名殘迄こそ 袖は濡れけれ
藤原資忠
0540 旅歌とて詠める
霰洩る 不破關屋に 旅寢して 夢をも得こそ 通さざりけれ
大中臣親守
0541 心外なる事有りて、不知國に侍ける時、詠める
如此許 憂身程も 忘られて 猶戀しきは 都也けり
平康賴【法名性照。】
0542 【○承前。丁意外之事,侍不知國時所詠。】
薩摩潟 沖小島に 我は在と 親には告げよ 八重潮風
平康賴【法名性照。】
0543 覊中歳暮と言へる心を詠める
東道も 年も末にや 成りぬらむ 雪降りにける 白河關
僧都印性
0544 圓位法師が詠ませける百首歌中に、旅歌とて詠める
岩根踏み 峰椎柴 折敷きて 雪に宿かる 夕暮空
寂蓮法師