0476 宇佐使の餞しける所にて詠侍ける
昔見し 心許を 標にて 思ぞ送る 生松原
藤原實方朝臣
0477 有國、大貳に成りて下りける時、詠侍ける
別より 勝りて惜しき 命哉 君に二度 逢はむと思へば
前大納言 藤原公任
0478 遠所へ罷りける人の詣來て、曉歸りけるに、九月盡日、蟲音も哀也ければ詠侍ける
鳴弱る 籬蟲も 留難き 秋別や 悲しかるらむ
紫式部
0479 堀川院御時百首歌奉りける時、別之心を詠侍ける
歸來む 程も定めぬ 別路は 都手振り 思出に為よ
大納言 藤原公實
0480 【○承前。堀川院御時奉百首歌之際,詠別之趣。】
行末を 待つべき身こそ 老いにけれ 別は路の 遠きのみかは
前中納言 大江匡房
0481 【○承前。堀川院御時奉百首歌之際,詠別之趣。】
忘る莫よ 歸る山路に 跡絕えて 日數は雪の 降積るとも
源俊賴朝臣
0482 修行に出立侍ける時、何時程にか歸詣來べきと人言侍ければ詠める
歸來む 程をば何時と 言置かじ 定無き身は 人賴め也
大僧正行尊
0483 百首歌奉りける時、別之心を詠める
賴むれど 心變りて 歸來ば 玆ぞ軈ての 別為るべき
左京大夫 藤原顯輔
0484 【○承前。奉百首歌之際,詠別之趣。】
限有らむ 道こそ有らめ 此世にて 別るべしとは 思はざりしを
上西門院兵衞
0485 參議資通、大貳果て上りけるに、筑前守にて侍ける時、遣はしける
行く君を 留め貞欲しく 思哉 我も戀しき 都為れども
藤原經衡
0486 返し
年經たる 人心を 思遣れ 君だに戀ふる 花都を
太宰大貳 源資通
0487 修行に出て熊野に詣ける時、人に遣はしける
諸共に 行人も無き 別路に 淚許ぞ 止らざりける
道命法師
0488 人の法會行ける導師に越前國に罷りて、上りなむとする時、彼國願主別惜みけるに詠める
存へて 在るべき身とし 思はねば 忘る莫とだに 得こそ契らね
天台座主源心
0489 筑紫に罷れりける男、京に上るとて、門出所より女許に、上るべき心地なむ為ぬ等言へりける返事に遣はしける
哀とし 思はむ人は 別しを 心は身より 外物かは
佚名
0490 離れにける男の遠程に行くを、如何思ふと言ひて侍ければ遣はしける
別れても 同都に 在しかは 甚此度の 心地やは為し
和泉式部
0491 成尋法師入唐し侍ける時詠侍ける
忍べども 此別道を 思ふには 唐紅の 淚こそ降れ
成尋法師母
0492 百首歌詠侍ける時、別之心を詠める
心をも 君をも宿に 留置きて 淚と共に 出る旅哉
僧都覺雅
0493 夏頃、越國に罷りける人の、秋は必上りなむ、待てと言ひけれど、冬に成る迄上詣來ざりければ、遣はしける
待てと云て 賴めし秋も 過ぬれば 歸る山路の 名ぞ甲斐も無き
西住法師
0494 源惟盛、年頃侍物にて、箏等教侍けるを、土佐國に罷りける時、川尻迄送りに詣來けるに、青海波秘曲の琴柱立つる事等教侍て、其由譜書きて給ふとて、奥に書付けて侍ける
0495 王昭君之心を詠侍ける
非ずのみ 成行く旅の 別道に 手馴し琴の 音こそ變らね
右大臣 藤原實定
0496 人に餞侍ける曉、詠侍ける
忘る莫よ 姨捨山の 月見ても 都を出る 有明空
右衛門督 藤原賴實
0497 百首歌詠侍ける時、別之心を詠侍ける
別ても 心隔つ勿 旅衣 幾重襲なる 山道也とも
藤原定家