真字萬葉集 卷二十 防人歌、大伴家持錄歌


防人歌、大伴家持作歌

4293 幸行於山村之時歌二首

    先太上天皇詔陪從王臣曰:「夫諸王卿等,宣賦和歌而奏。」即御口號曰

     安之比奇能 山行之可婆 山人乃 和禮爾依志米之 夜麻都刀曾許禮

     足引(あしひき)の 山行(やまゆ)きしかば 山人(やまびと)の (われ)()しめし 山苞(やまづと)(これ)

       足曳勢險峻 幸行深邃高山者 人跡罕至處 朕身獲贈於山人 土產山苞茲是也

      元正天皇 4293


4294 舍人親王應詔奉和歌一首 【承前。】

     安之比奇能 山爾由伎家牟 夜麻妣等能 情母之良受 山人夜多禮

     足引(あしひき)の (やま)()きけむ 山人(やまびと)の (こころ)()らず 山人(やまびと)(たれ)

       足曳勢險峻 幸行高山越峻嶺 宸慮深莫測 不知山人大御心 山人逸仙誰是哉

      舍人親王 4294

         右,天平勝寶五年五月,在於大納言藤原朝臣之家時,依奏事而請問之間,少主鈴山田史土麻呂語少納言大伴宿禰家持曰:「昔聞此言。」即誦此歌也。



4295 八月十二日,二三大夫等各提壺酒,登高圓野,聊述所心作歌三首

     多可麻刀能 乎婆奈布伎故須 秋風爾 比毛等伎安氣奈 多太奈良受等母

     高圓(たかまと)の 尾花吹越(をばなふきこ)す 秋風(あきかぜ)に 紐解開(ひもときあ)けな (ただ)ならずとも

       吹越高圓野 山上尾花為所偃 蕭蕭秋風矣 不若解紐迎彼風 縱令無人與逢瀨

      大伴池主 4295

         右一首,左京少進大伴宿禰池主。



4296 【承前。】

     安麻久母爾 可里曾奈久奈流 多加麻刀能 波疑乃之多婆波 毛美知安倍牟可聞

     天雲(あまくも)に (かり)()くなる 高圓(たかまと)の 萩下葉(はぎのしたば)は 黃葉堪(もみちあ)へむ(かも)

       久方天雲上 初雁鳴啼聲可聞 高圓野之間 秋萩芽子花也者 下葉可堪黃葉哉

      中臣清麻呂 4296

         右一首,左中辨中臣清麻呂朝臣。



4297 【承前。】

     乎美奈弊之 安伎波疑之努藝 左乎之可能 都由和氣奈加牟 多加麻刀能野曾

     女郎花(をみなへし) 秋萩凌(あきはぎしの)ぎ 小壯鹿(さをしか)の 露別鳴(つゆわけな)かむ 高圓野(たかまとのの)

       腳踐女郎花 押凌踏平秋萩而 牡雄小壯鹿 排開草葉露霑濕 鳴啼迴盪高圓野

      大伴家持 4297

         右一首,少納言大伴宿禰家持。



4298 六年正月四日,氏族人等賀集于少納言大伴宿禰家持之宅宴飲歌三首

     霜上爾 安良禮多婆之里 伊夜麻之爾 安禮波麻為許牟 年緒奈我久 【古今未詳。】

     霜上(しものうへ)に (あられ)(ばし)り 彌增(いやま)しに (あれ)參來(まゐこ)む 年緒長(としのをなが) 【古今未詳(こきんしらず)。】

       洽猶冰霜上 蹴散雹霰之所如 幾重彌增而 吾等賀集而參來 經時日久年緒長 【古今未詳。】

      大伴千室 4298

         右一首,左兵衛督大伴宿禰千室。



4299 【承前。】

     年月波 安良多安良多爾 安比美禮騰 安我毛布伎美波 安伎太良奴可母 【古今未詳。】

     年月(としつき)は 新新(あらたあら)たに 相見(あひみ)れど ()()(きみ)は 飽足(あきだ)らぬかも 【古今未詳(こきんしらず)。】

       雖然年月者 更迭改易歲歲新 邂逅迴逢者 然吾朝思且暮想 我君相看永不厭 【古今未詳。】

      大伴村上 4299

         右一首,民部少丞大伴宿禰村上。



4300 【承前。】

     可須美多都 春初乎 家布能其等 見牟登於毛倍波 多努之等曾毛布

     霞立(かすみた)つ 春初(はるのはじめ)を 今日如(けふのごと) ()むと(おも)へば (たの)しとそ()

       每逢雲霞之 層層湧立春初時 若得如今日 相見宴飲盡酣者 吾度必然歡愉哉

      大伴池主 4300

         右一首,左京少進大伴宿禰池主。



4301 七日,天皇、太上天皇、皇大后,在於東常宮南大殿肆宴歌一首

     伊奈美野乃 安可良我之波波 等伎波安禮騰 伎美乎安我毛布 登伎波佐禰奈之

     印南野(いなみの)の (あか)(がしは)は (とき)はあれど (きみ)()()ふ (とき)實無(さねな)

       雖然印南野 群生赤柏干葉者 四季有所別 然而吾等慕大君 誠心四時皆無異

      安宿王 4301

         右一首,播磨國守安宿王奏。 【古今未詳。】



4302 三月十九日,家持之庄門槻樹下宴飲歌二首

     夜麻夫伎波 奈埿都都於保佐牟 安里都都母 伎美伎麻之都都  可射之多里家利

     山吹(やまぶき)は (なで)つつ()ほさむ (あり)つつも 君來坐(きみきま)しつつ 髻首(かざ)したりけり

       將此山吹花 慈祥撫育令生之 恆常如是而 每逢吾君復來坐 可以插頭餝髻首

      置始長谷 4302

         右一首,置始連長谷。



4303 【承前。】

     和我勢故我 夜度乃也麻夫伎 佐吉弖安良婆 也麻受可欲波牟 伊夜登之能波爾

     ()背子(せこ)が 宿山吹(やどのやまぶき) ()きてあらば (やま)(かよ)はむ 彌年每(いやとしのは)

       每逢吾兄子 邸宿苑間山吹花 咲華時節者 必然不止常通來 年年每每彌流連

      大伴家持 4303

         右一首,長谷攀花提壺到來。因是大伴宿禰家持作此歌和之。



4304 同月廿五日,左大臣橘卿(橘諸兄)宴于山田御母之宅歌一首

     夜麻夫伎乃 花能左香利爾 可久乃其等 伎美乎見麻久波 知登世爾母我母

     山吹(やまぶき)の 花盛(はなのさか)りに 如是如(かくのごと) (きみ)()まくは 千年(ちとせ)欲得(もがも)

       每逢山吹之 棣棠妍花咲盛時 冀能總如是 與君相見共賞翫 願得千秋共嬋娟

      大伴家持 4304

         右一首,少納言大伴宿禰家持矚時花作。但未出之間,大臣罷宴而,不舉誦耳。



4305 詠霍公鳥歌一首

     許乃久禮能 之氣伎乎乃倍乎 保等登藝須 奈伎弖故由奈理 伊麻之久良之母

     木暗(このくれ)の 茂尾上(しげきをのへ)を 霍公鳥(ほととぎす) ()きて()(なり) (いま)()らしも

       木蔭下闇之 叢林繁茂山尾上 杜鵑霍公鳥 鳴越高啼聲可聞 蓋是方今正來哉

      大伴家持 4305

         右一首,四月大伴宿禰家持作。



4306 七夕歌八首 【八首第一。】

     波都秋風 須受之伎由布弊 等香武等曾 比毛波牟須妣之 伊母爾安波牟多米

     初秋風(はつあきかぜ) (すず)しき(ゆふへ) ()かむとそ (ひも)(むす)びし (いも)()はむ(ため)

       初秋風蕭瑟 寒涼清冷此七夕 將別去之際 相繫衣紐期解時 冀貺將來與妹逢

      大伴家持 4306


4307 【承前,八首第二。】

     秋等伊閇婆 許己呂曾伊多伎 宇多弖家爾 花仁奈蘇倍弖 見麻久保里香聞

     (あき)()へば (こころ)(いた)き 別樣異(うたてけ)に (はな)(なそ)へて ()まく欲哉(ほりかも)

       每聞初秋至 心痛迫切誠難耐 難以名狀之 擬作妍花心如焚 焦心欲見求若渴

      大伴家持 4307


4308 【承前,八首第三。】

     波都乎婆奈 婆奈爾見牟登之 安麻乃可波 弊奈里爾家良之 年緒奈我久

     初尾花(はつをばな) (はな)()むとし 天川(あまのがは) (へな)りにけらし 年緒長(としのをなが)

       初尾花也哉 欲見伊人猶初華 故隔天之川 相去一水別二地 朝暮思念年緒長

      大伴家持 4308


4309 【承前,八首第四。】

     秋風爾 奈妣久可波備能 爾故具左能 爾古餘可爾之母 於毛保由流香母

     秋風(あきかぜ)に (なび)川邊(かはび)の 柔草(にこぐさ)の (にこ)よかにしも (おも)ほゆるかも

       蕭瑟秋風吹 靡撓草偃彼川邊 柔草之所如 莞爾微笑氣和煦 心頭欣慰所思矣

      大伴家持 4309


4310 【承前,八首第五。】

     安吉佐禮婆 奇里多知和多流 安麻能河波 伊之奈彌於可婆 都藝弖見牟可母

     秋去(あきさ)れば 霧立渡(きりたちわた)る 天川(あまのがは) 石並置(いしなみお)かば (つぎ)()(かも)

       每逢秋至時 迷霧籠罩蔽人目 銀漢天之川 若有飛石置期間 可常相會繼見哉

      大伴家持 4310


4311 【承前,八首第六。】

     秋風爾 伊麻香伊麻可等 比母等伎弖 宇良麻知乎流爾 月可多夫伎奴

     秋風(あきかぜ)に (いま)(いま)かと 紐解(ひもと)きて 衷待居(うらまちを)るに 月傾(つきかたぶ)きぬ

       蕭瑟秋風間 引領期盼伊人至 解紐寬衣而 由衷俟居守空閨 不覺月傾天將明

      大伴家持 4311


4312 【承前,八首第七。】

     秋草爾 於久之良都由能 安可受能未 安比見流毛乃乎 月乎之麻多牟

     秋草(あきくさ)に ()白露(しらつゆ)の ()かずのみ 相見(あひみ)(もの)を (つき)をし()たむ

       洽猶秋草上 所置白露之所如 百遍看不厭 年年逢瀨相見者 更待翌年七夕時

      大伴家持 4312


4313 【承前,八首第八。】

     安乎奈美爾 蘇弖佐閇奴禮弖 許具布禰乃 可之布流保刀爾 左欲布氣奈武可

     青波(あをなみ)に (そで)さへ()れて 漕舟(こぐふね)の 樫振(かしふ)(ほと)に 小夜更(さよふ)けなむか

       銀河天之川 青浪駭湧濡袖濕 榜船漕舟而 疾振樫槳渡河間 不覺夜深天將曙

      大伴家持 4313

         右,大伴宿禰家持獨仰天漢作之。



4314 【同月廿八日大伴家持歌。】

     八千種爾 久佐奇乎宇惠弖 等伎其等爾 佐加牟波奈乎之 見都追思努波奈

     八千種(やちくさ)に 草木(くさき)()ゑて 時每(ときごと)に ()かむ(はな)をし ()つつ(しの)はな

       吾宿庭苑間 手植草木八千種 隨四時遞嬗 相繼咲華開也落 眼觀賞翫偲妍花

      大伴家持 4314

         右一首,同月廿八日,大伴宿禰家持作之。



4315 【兵部少輔大伴家持獨憶秋野聊述拙懷作歌 ,六首第一。】

     宮人乃 蘇泥都氣其呂母 安伎波疑爾 仁保比與呂之伎 多加麻刀能美夜

     宮人(みやひと)の 袖付衣(そでつけごろも) 秋萩(あきはぎ)に (にほ)(よろ)しき 高圓宮(たかまとのみや)

       百敷宮闈間 宮人所襲付袖衣 相映與秋萩 繽紛爭艷欣向榮 嗚呼高圓離宮矣

      大伴家持 4315


4316 【承前,六首第二。】

     多可麻刀能 宮乃須蘇未乃 努都可佐爾 伊麻左家流良武 乎美奈弊之波母

     高圓(たかまと)の 宮裾迴(みやのすそみ)の 野丘(のづかさ)に 今咲(いまさ)けるらむ 女郎花(をみなへし)はも

       吾度高圓之 離宮裾迴山麓間 點點野丘上 今蓋綻放盛咲哉 妍哉女郎花也矣

      大伴家持 4316


4317 【承前,六首第三。】

     秋野爾波 伊麻己曾由可米 母能乃布能 乎等古乎美奈能 波奈爾保比見爾

     秋野(あきの)には (いま)こそ()かめ 文武百官(もののふ)の 男女(をとこをみな)の 花匂見(はなにほひみ)

       金風送爽兮 今當來去遊秋野 文武百官之 宮仕男女伴緒等 一同賞見翫花匂

      大伴家持 4317


4318 【承前,六首第四。】

     安伎能野爾 都由於弊流波疑乎 多乎良受弖 安多良佐可里乎 須具之弖牟登香

     秋野(あきのの)に 露負(つゆお)へる(はぎ)を 手折(たを)らずて 可惜盛(あたらさか)りを ()ぐしてむとか

       蕭瑟秋野間 負露秋萩芽子花 今若不折枝 蓋要令其盛徒然 孤芳自賞凋零哉

      大伴家持 4318


4319 【承前,六首第五。】

     多可麻刀能 秋野乃宇倍能 安佐疑里爾 都麻欲夫乎之可 伊泥多都良牟可

     高圓(たかまと)の 秋野上(あきののうへ)の 朝霧(あさぎり)に 妻呼(つまよ)壯鹿(をしか) 出立(いでた)つらむか

       玉露生寒兮 尾上高圓秋野上 朦朧朝霧中 雄鹿喚妻聲可聞 其蓋佇足野間哉

      大伴家持 4319


4320 【承前,六首第六。】

     麻須良男乃 欲妣多天思加婆 左乎之加能 牟奈和氣由加牟 安伎野波疑波良

     大夫(ますらを)の 呼立(よびた)てしかば 小壯鹿(さをしか)の 胸別行(むなわけゆ)かむ 秋野萩原(あきのはぎはら)

       大夫壯士等 揚聲呼立遊獵者 驚愕小壯鹿 胸押草木別奔之 高圓秋野萩原也

      大伴家持 4320

         右歌六首,兵部少輔大伴宿禰家持獨憶秋野,聊述拙懷作之。



  •  天平勝寶七歲乙未二月,相替遣筑紫諸國防人等歌

    4321 【防人部領使遠江國史生坂本人上進歌,七首其一。】

       可之古伎夜 美許等加我布理 阿須由利也 加曳我牟多禰牟 伊牟奈之爾志弖

       (かしこ)きや 命被(みことかがふ)り 明日(あす)ゆりや (かえ)共寢(むたね)む 妹無(いむな)しにして

         誠惶復誠恐 肩負君命敕令而 自於明日起 將與萱草相共枕 無妻相伴孤寢矣

        物部秋持 4321

           右一首,國造丁長下郡物部秋持。



    4322 【承前,七首第二。】

       和我都麻波 伊多久古非良之 乃牟美豆爾 加其佐倍美曳弖 余爾和須良禮受

       ()(つま)は 甚戀(いたくこひ)らし 飲水(のむみづ)に (かご)さへ()えて よに(わす)られず

         吾度吾妻者 相思甚戀情不止 縱令所飲水 姿影光儀映其中 恒常懸心不能忘

        若倭部身麻呂 4322

           右一首,主帳丁麤玉郡若倭部身麻呂。



    4323 【承前,七首第三。】

       等伎騰吉乃 波奈波佐家登母 奈爾須禮曾 波波登布波奈乃 佐吉泥己受祁牟

       時時(ときどき)の (はな)()けども (なに)すれそ (はは)とふ(はな)の ()出來(でこ)ずけむ

         春夏秋冬之 雖然四時花繼咲 然顧遞嬗者 未有名喚慈母者 身列其間共咲華

        丈部真麻呂 4323

           右一首,防人山名郡丈部真麻呂。



    4324 【承前,七首第四。】

       等倍多保美 志留波乃伊宗等 爾閇乃宇良等 安比弖之阿良婆 己等母加由波牟

       遠江(とへたほみ) 白羽礒(しるはのいそ)と 贄浦(にへのうら)と ()ひてしあらば (こと)(かゆ)はむ

         東海遠江國 若得繼縫白羽礒 鑲嵌與贄浦 合兩離處為一者 魚雁往返可通哉

        丈部川相 4324

           右一首,同郡丈部川相。



    4325 【承前,七首第五。】

       知知波波母 波奈爾母我毛夜 久佐麻久良 多妣波由久等母 佐佐己弖由加牟

       父母(ちちはは)も (はな)欲得(もがも)や 草枕(くさまくら) (たび)()くとも (ささ)ごて()かむ

         吾人有所思 還願父母為妍花 若得如此者 雖然草枕羈旅間 可以捧持以伴行

        丈部黑當 4325

           右一首,佐野郡丈部黑當。



    4326 【承前,七首第六。】

       父母我 等能能志利弊乃 母母余具佐 母母與伊弖麻勢 和我伎多流麻弖

       父母(ちちはは)が 殿後方(とののしりへ)の 百代草(ももよぐさ) 百代出坐(ももよいでま)せ ()()(まで)

         父母雙親之 所居殿後裏庭間 生息百代草 願汝長青亘百世 直至我復歸來日

        生玉部足國 4326

           右一首,同郡生玉部足國。



    4327 【承前,七首第七。】

       和我都麻母 畫爾可伎等良無 伊豆麻母加 多妣由久阿禮波 美都都志努波牟

       ()(つま)も ()描取(かきと)らむ 暇欲得(いつまもが) 旅行(たびゆ)(あれ)は ()つつ(しの)はむ

         願吾能有暇 可繪我妻在紙上 攜而為形見 旅行遠去吾身者 可睹光儀常偲翫

        物部古麻呂 4327

           右一首,長下郡物部古麻呂。

           二月六日,防人部領使遠江國史生坂本朝臣人上進歌數十八首。但有拙劣歌十一首不取載之。



    4328 【相模國防人部領使守藤原宿奈麻呂進歌三首。】

       於保吉美能 美許等可之古美 伊蘇爾布理 宇乃波良和多流 知知波波乎於伎弖

       大君(おほきみ)の 命恐(みことかしこ)み (いそ)()り 海原渡(うのはらわた)る 父母(ちちはは)()きて

         大君敕命重 誠惶誠恐遵宸旨 觸磯傳荒礁 九死一生渡海原 留置父母居故鄉

        丈部人麻呂 4328

           右一首,助丁丈部造人麻呂。



    4329 【承前。】

       夜蘇久爾波 那爾波爾都度比 布奈可射里 安我世武比呂乎 美毛比等母我毛

       八十國(やそくに)は 難波(なには)(つど)ひ 船飾(ふなかざ)り ()()()ろを ()人欲得(ひともがも)

         天下八十國 防人聚集難波津 餝船以備發 吾人艤裝英姿者 願得來見知音矣

        丹比部國足 4329

           右一首,足下郡上丁丹比部國足。



    4330 【承前。】

       奈爾波都爾 余曾比余曾比弖 氣布能比夜 伊田弖麻可良武 美流波波奈之爾

       難波津(なにはつ)に 裝裝(よそひよそ)ひて 今日日(けふのひ)や (いで)(まか)らむ ()母無(ははな)しに

         押照難波津 整裝餝船以備發 就在此今日 啟程蹈越滄溟哉 無奈慈母不來見

        丸子多麻呂 4330

           右一首,鎌倉郡上丁丸子連多麻呂。

           二月七日,相模國防人部領使守從五位下藤原朝臣宿奈麻呂進歌數八首。但拙劣歌五首者不取載之。



    4331 追痛防人悲別之心作歌一首 并短歌。

       天皇乃 等保能朝廷等 之良奴日 筑紫國波 安多麻毛流 於佐倍乃城曾等 聞食 四方國爾波 比等佐波爾 美知弖波安禮杼 登利我奈久 安豆麻乎能故波 伊田牟可比 加敝里見世受弖 伊佐美多流 多家吉軍卒等 禰疑多麻比 麻氣乃麻爾麻爾 多良知禰乃 波波我目可禮弖 若草能 都麻乎母麻可受 安良多麻能 月日餘美都都 安之我知流 難波能美津爾 大船爾 末加伊之自奴伎 安佐奈藝爾 可故等登能倍 由布思保爾 可知比伎乎里 安騰母比弖 許藝由久伎美波 奈美乃間乎 伊由伎佐具久美 麻佐吉久母 波夜久伊多里弖 大王乃 美許等能麻爾末 麻須良男乃 許己呂乎母知弖 安里米具理 事之乎波良婆 都都麻波受 可敝理伎麻勢登 伊波比倍乎 等許敝爾須惠弖 之路多倍能 蘇田遠利加敝之 奴婆多麻乃 久路加美之伎弖 奈我伎氣遠 麻知可母戀牟 波之伎都麻良波

       大君(おほきみ)の 遠朝廷(とほのみかど)と 不知火(しらぬひ) 筑紫國(つくしのくに)は 敵守(あたまも)る (おさ)への()そと 聞食(きこしを)す 四方國(よものくに)には 人澤(ひとさは)に 滿()ちては(あれ)ど (とり)()く 東男(あづまをのこ)は 出向(いでむか)ひ 顧見(かへりみ)せずて (いさ)みたる 猛軍士(たけきいくさ)と 犒賜(ねぎたま)ひ ()けの(まにま)に 垂乳根(たらちね)の (はは)目離(めか)れて 若草(わかくさ)の (つま)をも()かず (あらたま)の 月日數(つきひよ)みつつ (あし)()る 難波御津(なにはのみつ)に 大船(おほぶね)に 真櫂繁貫(まかいしじぬ)き 朝凪(あさなぎ)に 水手整(かこととの)へ 夕潮(ゆふしほ)に 梶引折(かぢひきを)り (あども)ひて 漕行君(こぎゆくきみ)は 波間(なみのま)を い行拆(ゆきさ)ぐくみ 真幸(まさき)くも 早至(はやくいた)りて 大君(おほきみ)の 命隨(みことのまにま) 大夫(ますらを)の (こころ)()ちて 蟻迴(ありめぐ)り (こと)(をは)らば (つつ)まはず 歸來坐(かへりきま)せと 齋瓮(いはひへ)を 床邊(とこへ)()ゑて 白栲(しろたへ)の 袖折返(そでをりかへ)し 烏玉(ぬばたま)の 黑髮敷(くろかみし)きて 長日(ながきけ)を ()ちかも()ひむ ()しき妻等(つまら)

         聖明大君之 遙遙天邊遠朝庭 化外不領靈 不知火兮筑紫國 守敵峙賊徒 鎮西城砦要塞也 大君所聞食 六合天下四方國 雖然人多在 豪傑輩出不讓者 然以雞啼曉 吾妻東國壯士者 出向迎敵虜 奮不顧身不畏死 勇壯強健兮 功勳赫奕猛軍士 犒賞褒賜而 遵命隨任從宸旨 恩育垂乳根 離於慈母遠家鄉 若草稚卉兮 孤身無妻共相枕 朝朝夕夕新 折指屈數歷月日 蘆葦散亂兮 押照難波御津間 大船艫與舳 真楫繁貫櫂重重 晨曦朝凪時 整揃水手操舟人 夕潮漲溢時 引折檝梶領舩船 率聲同吐息 榜舟漕行諸君者 驚滔駭浪間 乘風破浪拆行去 冀得獲多幸 無恙早臻筑紫洲 鞠躬復盡瘁 順隨聖皇大君命 大夫壯士之 赤心堅志無懈時 戍守蟻迴而 終遂重任復命時 亦寄得無障 一帆風順來歸坐 奉持祝齋瓮 慎矣齋掘据床邊 白妙栲栲兮 折返衣手求冥貺 漆黑烏玉兮 敷其青絲黑髮而 久日俟苦長 獨守空閨待戀哉 愛也懸心吾妻矣

        大伴家持 4331


    4332 【承前,短歌其一。】

       麻須良男能 由伎等里於比弖 伊田弖伊氣婆 和可禮乎乎之美 奈氣伎家牟都麻

       大夫(ますらを)の 靫取負(ゆきとりお)ひて (いで)()けば (わか)れを()しみ (なげ)きけむ(つま)

         大夫壯士之 取負失靫胡籙而 啟程將去者 悲哀惜別淚泣下 喟然長嘆嬌妻矣

        大伴家持 4332


    4333 【承前,短歌其二。】

       等里我奈久 安豆麻乎等故能 都麻和可禮 可奈之久安里家牟 等之能乎奈我美

       (とり)()く 東男(あづまをとこ)の 妻別(つまわか)れ (かな)しく(あり)けむ 年緒長(としのをなが)

         雄雞啼曉兮 赫奕東國壯士之 與妻離別者 嗚呼愴然可悲哉 以其日久年緒長

        大伴家持 4333

           右,二月八日,兵部使少輔大伴宿禰家持。



    4334 【大伴家持作歌三首。】

       海原乎 等保久和多里弖 等之布等母 兒良我牟須敝流 比毛等久奈由米

       海原(うなはら)を 遠渡(とほくわた)りて 年經(としふ)とも 子等(こら)(むす)べる 紐解(ひもと)莫努(なゆめ)

         銜命赴東國 遠渡海原蹈滄溟 雖然經年久 結髮愛妻所手結 祝呪衣紐切莫解

        大伴家持 4334


    4335 【承前。】

       今替 爾比佐伎母利我 布奈弖須流 宇奈波良乃宇倍爾 奈美那佐伎曾禰

       今替(いまかは)る 新防人(にひさきもり)が 船出(ふなで)する 海原上(うなはらのうへ)に 波莫咲(なみなさ)きそね

         今日始更迭 新任戍衛防人等 乘船將啟航 還願滄溟海原上 風濤駭浪莫湧咲

        大伴家持 4335


    4336 【承前。】

       佐吉母利能 保理江己藝豆流 伊豆手夫禰 可治登流間奈久 戀波思氣家牟

       防人(さきもり)の 堀江漕出(ほりえこぎづ)る 伊豆手船(いづてぶね) 梶取(かぢと)間無(まな)く (こひ)(しげ)けむ

         赫奕防人等 漕出難波堀江而 伊豆手船間 執梶無間之所如 相思戀繁無歇時

        大伴家持 4336

           右,九日大伴宿禰家持作之。



    4337 【駿河國防人部領使守布勢人主進歌,十首第一。】

       美豆等利乃 多知能已蘇岐爾 父母爾 毛能波須價爾弖 已麻敘久夜志伎

       水鳥(みづとり)の ()ちの(いそ)ぎに 父母(ちちはは)に 物言(もの)はず()にて (いま)(くや)しき

         群鴨水鳥兮 倉促整裝發向時 未得與父母 委細道別而來此 今日顧念甚追悔

        有度部牛麻呂 4337

           右一首,上丁有度部牛麻呂。



    4338 【承前,十首第二。】

       多多美氣米 牟良自加已蘇乃 波奈利蘇乃 波波乎波奈例弖 由久我加奈之佐

       疊薦(たたみけめ) 牟良自(むらじ)(いそ)の 離磯(はなりそ)の (はは)(はな)れて ()くが(かな)しさ

         層層疊薦兮 牟良自地荒礒間 離磯之所如 今與慈母相別去 離而遠行我心悲

        生部道麻呂 4338

           右一首,助丁生部道麻呂。



    4339 【承前,十首第三。】

       久爾米具留 阿等利加麻氣利 由伎米具利 加比利久麻弖爾 已波比弖麻多禰

       國巡(くにめぐ)る 獦子鳥鴨鳧(あとりかまけり) 行巡(ゆきめぐ)り 歸來迄(かひりくまで)に (いは)ひて()たね

         周迴巡諸國 獦子鳥鴨鳧之所如 自我行巡去 直至有朝歸來時 還願齋祈俟逢日

        刑部蟲麻呂 4339

           右一首,刑部蟲麻呂。



    4340 【承前,十首第四。】

       等知波波江 已波比弖麻多禰 豆久志奈流 美豆久白玉 等里弖久麻弖爾

       父母(とちはは)え (いは)ひて()たね 筑紫(つくし)なる 水漬(みづ)白玉(しらたま) ()りて來迄(くまで)

         嚴父慈母矣 還願齋祈俟吾返 直至有一朝 攜來日向筑紫之 水漬白玉而歸時

        川原虫麻呂 4340

           右一首,川原虫麻呂。



    4341 【承前,十首第五。】

       多知波奈能 美袁利乃佐刀爾 父乎於伎弖 道乃長道波 由伎加弖努加毛

       (たちばな)の 美袁利里(みをりのさと)に (ちち)()きて 道長道(みちのながち)は 行難(ゆきかて)(かも)

         東海駿河之 有渡立花橘里間 留父置此而 逕自遠赴長途者 惜別難分叵啟程

        丈部足麻呂 4341

           右一首,丈部足麻呂。



    4342 【承前,十首第六。】

       麻氣波之良 寶米弖豆久禮留 等乃能其等 已麻勢波波刀自 於米加波利勢受

       真木柱(まけばしら) ()めて(つく)れる 殿如(とののごと) (いま)母刀自(ははとじ) 面變(おめがは)りせず

         譽祝真木柱 敷之太高而所造 宮殿之所如 願母刀自幸無恙 光儀不改比南山

        坂田部首麻呂 4342

           右一首,坂田部首麻呂。



    4343 【承前,十首第七。】

       和呂多比波 多比等於米保等 已比爾志弖 古米知夜須良牟 和加美可奈志母

       ()(たび)は (たび)思程(おめほど) (いひ)にして 子持瘦(こめちや)すらむ ()妻愛(みかな)しも

         吾所赴遠旅 雖艱辛者旅是矣 然故居家中 分身乏術育子而 羸瘦吾妻可怜也

        玉作部廣目 4343

           右一首,玉作部廣目。



    4344 【承前,十首第八。】

       和須良牟弖 努由伎夜麻由伎 和例久禮等 和我知知波波波 和須例勢努加毛

       (わす)らむて 野行山行(のゆきやまゆ)き 我來(われく)れど ()父母(ちちはは)は (わす)れせぬかも

         冀能忘憂情 雖然翻山復越嶺 銜命而來此 然而嚴父與慈母 依然懸心不能忘

        商長首麻呂 4344

           右一首,商長首麻呂。



    4345 【承前,十首第九。】

       和伎米故等 不多利和我見之 宇知江須流 須流河乃禰良波 苦不志久米阿流可

       我妹子(わぎめこ)と 二人我(ふたりわ)()し 打寄(うちえ)する 駿河嶺(するがのね)らは (くふ)しくめ(ある)

         嘗與吾妹妻 相依相偎共遠眺 打寄緣來兮 壯麗巍峨駿河嶺 令人偲戀慕幾許

        春日部麻呂 4345

           右一首,春日部麻呂。



    4346 【承前,十首第十。】

       知知波波我 可之良加伎奈弖 佐久安例天 伊比之氣等婆是 和須禮加禰豆流

       父母(ちちはは)が 頭搔撫(かしらかきな)で 幸有(さくあ)れて ()ひし言葉(けとば)ぜ 忘兼(わすれか)ねつる

         嚴父與慈母 搔撫吾首以餞別 無恙有幸矣 所以惠賜祈言者 仍懸心頭甚難忘

        丈部稻麻呂 4346

           右一首,丈部稻麻呂。

           二月七日,駿河國防人部領使守從五位下布勢朝臣人主,實進九日,歌數廿首。但拙劣歌者不取載之。



    4347 【上總國防人部領使少目茨田沙彌麻呂進歌 ,十三第一。】

       伊閇爾之弖 古非都都安良受波 奈我波氣流 多知爾奈里弖母 伊波非弖之加母

       (いへ)にして (こひ)ひつつ()らずは ()()ける 大刀(たち)(なり)ても (いは)ひてしかも

         與其在家中 難堪思念憂愁苦 願能化此身 為汝所佩大刀而 隨時齋護戍身側

        日下部三中父 4347

           右一首,國造丁日下部使主三中之父歌。



    4348 【承前,十三第二。】

       多良知禰乃 波波乎和加例弖 麻許等和例 多非乃加里保爾 夜須久禰牟加母

       垂乳根(たらちね)の (はは)(わか)れて 誠我(まことわれ) 旅假廬(たびのかりほ)に 安寢(やすくね)むかも

         恩育垂乳根 一旦今朝與母別 隻身羈旅者 我在異地宿假廬 誠可安寢入眠哉

        日下部三中 4348

           右一首,國造丁日下部使主三中。



    4349 【承前,十三第三。】

       毛母久麻能 美知波紀爾志乎 麻多佐良爾 夜蘇志麻須義弖 和加例加由可牟

       百隈(ももくま)の (みち)()にしを 亦更(またさら)に 八十島過(やそします)ぎて (わか)れか()かむ

         雖踏百隈道 長途跋涉而來此 此亦更發向 將過瀨戶八十島 徑而遠別行去哉

        刑部三野 4349

           右一首,助丁刑部直三野。



    4350 【承前,十三第四。】

       爾波奈加能 阿須波乃可美爾 古志波佐之 阿例波伊波波牟 加倍理久麻泥爾

       庭中(にはなか)の 阿須波神(あすはのかみ)に 小柴差(こしばさ)し (あれ)(いは)はむ 歸來迄(かへりくまで)

         鎮座於庭中 葦葉阿須波之神 豎立小柴而 吾謹齋祭祈安平 直至無恙復歸來

        若麻續部諸人 4350

           右一首,帳丁若麻續部諸人。



    4351 【承前,十三第五。】

       多妣己呂母 夜倍伎可佐禰弖 伊努禮等母 奈保波太佐牟志 伊母爾志阿良禰婆

       旅衣(たびころも) 八重著重(やへきかさ)ねて ()のれども 尚肌寒(なほはださむ)し (いも)にし()らねば

         雖然以旅衣 襲之八重累著而 暖衾褥寢者 依然肌寒沁骨涼 以其非吾妻故也

        玉作部國忍 4351

           右一首,望陀郡上丁玉作部國忍。



    4352 【承前,十三第六。】

       美知乃倍乃 宇萬良能宇禮爾 波保麻米乃 可良麻流伎美乎 波可禮加由加牟

       道邊(みちのへ)の 茨末(うまらのうれ)に ()(まめ)の (から)まる(きみ)を (はか)れか()かむ

         洽猶於道邊 蔓生荊茨末梢上 延豆之所如 膠漆相絡不嘗分 吾君今當與別哉

        丈部鳥 4352

           右一首,天羽郡上丁丈部鳥。



    4353 【承前,十三第七。】

       伊倍加是波 比爾比爾布氣等 和伎母古賀 伊倍其登母遲弖 久流比等母奈之

       家風(いへかぜ)は ()()()けど 我妹子(わぎもこ)が 家言持(いへごとも)ちて ()(ひと)()

         雖然家風者 日日吹拂不曾歇 然而為我妻 持來家書慰情者 至今未嘗有之也

        丸子大歲 4353

           右一首,朝夷郡上丁丸子連大歲。



    4354 【承前,十三第八。】

       多知許毛乃 多知乃佐和伎爾 阿比美弖之 伊母加己己呂波 和須禮世奴可母

       立鴨(たちこも)の ()ちの(さわ)きに 相見(あひみ)てし (いも)(こころ)は (わす)れせぬかも

         立鴨搏翅兮 兵荒馬亂啟程日 交枕共寢之 吾妻真誠鍾情者 雖然遠別必不忘

        丈部與呂麻呂 4354

           右一首,長狹郡上丁丈部與呂麻呂。



    4355 【承前,十三第九。】

       余曾爾能美 美弖夜和多良毛 奈爾波我多 久毛為爾美由流 志麻奈良奈久爾

       餘所(よそ)にのみ ()てや(わた)らも 難波潟(なにはがた) 雲居(くもゐ)()ゆる (しま)なら()くに

         唯得在餘所 眺望遠觀而渡哉 嗚呼難波潟 分明其非天際邊 雲居渺遠離島矣

        丈部山代 4355

           右一首,武射郡上丁丈部山代。



    4356 【承前,十三第十。】

       和我波波能 蘇弖母知奈弖氐 和我可良爾 奈伎之許己呂乎 和須良延努可毛

       ()(はは)の 袖以(そでも)()でて ()(から)に ()きし(こころ)を (わす)らえのかも

         恩育垂乳根 慈母以袖輕撫而 心疼吾身故 所以愴然淚下者 縱令遠離不能忘

        物部乎刀良 4356

           右一首,山邊郡上丁物部乎刀良。



    4357 【承前,十三十一。】

       阿之可伎能 久麻刀爾多知弖 和藝毛古我 蘇弖母志保保爾 奈伎志曾母波由

       葦垣(あしかき)の 隈處(くまと)()ちて 我妹子(わぎもこ)が (そで)もしほほに ()きしそ()はゆ

         閉目沉思者 立身葦垣蔭隈處 愛也吾妻之 愴然淚下沾袖濕 涕泣之狀映眼簾

        刑部千國 4357

           右一首,市原郡上丁刑部直千國。



    4358 【承前,十三十二。】

       於保伎美乃 美許等加志古美 伊弖久禮婆 和努等里都伎弖 伊比之古奈波毛

       大君(おほきみ)の 命恐(みことかしこ)み 出來(いでく)れば 我取付(わぬとりつ)きて ()ひし()なはも

         大君敕命重 誠惶誠恐遵聖慮 啟程將發向 緊攫吾身淚涕下 哀嘆惜別娘子矣

        物部龍 4358

           右一首,種淮郡上丁物部龍。



    4359 【承前,十三十三。】

       都久之閇爾 敝牟加流布禰乃 伊都之加毛 都加敝麻都里弖 久爾爾閇牟可毛

       筑紫邊(つくしへ)に 舳向(へむ)かる(ふね)の 何時(いつ)しかも 仕奉(つかへまつ)りて (くに)舳向(へむ)かも

         今指筑紫處 舳向赴任此船者 當至於何時 可以遂其所仕侍奉 舳向本國復命哉

        若麻續部羊 4359

           右一首,長柄部上丁若麻續部羊。

           二月九日,上總國防人部領使少目從七位下茨田連沙彌麻呂進歌數十九首。但拙劣歌者不取載之。



    4360 陳私拙懷一首 并短歌。

       天皇乃 等保伎美與爾毛 於之弖流 難波乃久爾爾 阿米能之多 之良志賣之伎等 伊麻能乎爾 多要受伊比都都 可氣麻久毛 安夜爾可之古志 可武奈我良 和其大王乃 宇知奈妣久 春初波 夜知久佐爾 波奈佐伎爾保比 夜麻美禮婆 見能等母之久 可波美禮婆 見乃佐夜氣久 母能其等爾 佐可由流等伎登 賣之多麻比 安伎良米多麻比 之伎麻世流 難波宮者 伎己之乎須 四方乃久爾欲里 多弖麻都流 美都奇能船者 保理江欲里 美乎妣伎之都都  安佐奈藝爾 可治比伎能保理 由布之保爾 佐乎佐之久太理 安治牟良能 佐和伎伎保比弖 波麻爾伊泥弖 海原見禮婆 之良奈美乃 夜敝乎流我宇倍爾 安麻乎夫禰 波良良爾宇伎弖 於保美氣爾 都加倍麻都流等 乎知許知爾 伊射里都利家理 曾伎太久毛 於藝呂奈伎可毛 己伎婆久母 由多氣伎可母 許己見禮婆 宇倍之神代由 波自米家良思母

       皇祖(すめろき)の 遠御代(とほきみよ)にも 押照(おして)る 難波國(なにはのくに)に 天下(あめのした) 治食(しらしめ)しきと 今緒(いまのを)に ()えず()ひつつ 掛幕(かけまく)も (あや)(かしこ)し 惟神(かむながら) ()大君(おほきみ)の 打靡(うちなび)く 春初(はるのはじめ)は 八千種(やちくさ)に 花咲匂(はなさきにほ)ひ 山見(やまみ)れば 見羨(みのとも)しく 川見(かはみ)れば 見清(みのさや)けく 物每(ものごと)に (さか)ゆる(とき)と ()(たま)ひ (あき)らめ(たま)ひ 敷坐(しきま)せる 難波宮(なにはのみや)は ()こし()す 四方國(よものくに)より (たてまつ)る 御調舟(みつきのふね)は 堀江(ほりえ)より 水脈引(みをび)きしつつ 朝凪(あさなぎ)に 楫引上(かぢひきのぼ)り 夕潮(ゆふしほ)に 棹差下(さをさしくだ)り 味鴨群(あぢむら)の 騷競(さわききほ)ひて (はま)(いで)て 海原見(うなはらみ)れば 白波(しらなみ)の 八重折(やへを)るが(うへ)に 海人小舟(あまをぶね) (はらら)()きて 大御食(おほみけ)に 仕奉(つかへまつ)ると 彼方此方(をちこち)に 漁釣(いざりつ)りけり 爾許(そきだく)も 甚大(おぎろな)きかも 此許(こきばく)も (ゆた)けきかも 此處見(ここみ)れば (うべ)神代(かむよ)ゆ (はじ)めけらしも

         無論太古之 皇祖皇宗遠御代 抑或於今日 鎮座押照難波國 天下六合間 御宇治賜統八紘 時值至今緒 口耳相傳不絕言 僭述冒揚言 忌懼誠惶復誠恐 惟神隨神性 稜威聖嚴我大君 搖曳隨風動 向榮新春初來者 撩亂八千種 百花爭咲匂綻矣 若望見山者 見之此情更羨矣 若眺覽川者 覽之此情更清矣 森羅萬象之 物物欣欣向榮時 可以觀覽矣 可以玩味慰情矣 掩八紘為宇 敷坐押照難波宮 聞食治天下 自於六合四方國 赤誠所恭奉 貢進御調舟者也 發船自堀江 依循水脈順澪而 每當朝凪間 引划楫檝操梶上 又於夕潮中 指刺篙棹執竿下 洽猶味鴨群 競相騷鬧盡喧囂 一旦出濱而 覽望凔溟海原者 白浪濤不盡 八重折兮寄岸邊 海人小舟之 點點散浮泛水上 奉為大御食 將呈御膳以仕奉 彼方此方間 勞碌漁釣奮不懈 無論於爾許 所獲望外甚大哉 抑或於此許 所收繁盛甚豐哉 詳觀此處者 理宜遠自遠神代 曩古肇京傳今世

        大伴家持 4360


    4361 【承前,短歌其一。】

       櫻花 伊麻佐可里奈里 難波乃海 於之弖流宮爾 伎許之賣須奈倍

       櫻花(さくらばな) 今盛也(いまさかりなり) 難波海(なにはのうみ) 押照(おして)(みや)に 聞食(きこしめ)(なへ)

         木花開耶兮 櫻花於今盛咲也 押照難波海 美輪美奐此宮闕 統御天下治六合

        大伴家持 4361


    4362 【承前,短歌其二。】

       海原乃 由多氣伎見都都 安之我知流 奈爾波爾等之波 倍奴倍久於毛保由

       海原(うなはら)の (ゆた)けき()つつ (あし)()る 難波(なには)(とし)は ()ぬべく(おも)ほゆ

         每望綿津見 滄溟海原有所思 蘆葦散亂兮 押照難波此美地 願能久居滯經年

        大伴家持 4362

           右,二月十三日,兵部少輔大伴宿禰家持。



    4363 【常陸國部領防人使大目息長國嶋進歌,十首第一。】

       奈爾波都爾 美布禰於呂須惠 夜蘇加奴伎 伊麻波許伎奴等 伊母爾都氣許曾

       難波津(なにはつ)に 御船下据(みふねおろす)ゑ 八十梶貫(やそかぬ)き (いま)()ぎぬと (いも)()げこそ

         難波御津間 御船進据泛水上 八十真梶貫 今將榜之槽船去 願傳茲事予吾妻

        若舍人部廣足 4363


    4364 【承前,十首第二。】

       佐伎牟理爾 多多牟佐和伎爾 伊敝能伊牟何 奈流弊伎己等乎 伊波須伎奴可母

       防人(さきむり)に ()たむ(さわ)きに 家妹(いへのいむ)が ()るべき(こと)を ()はず()ぬかも

         將赴任防人 發向之日慌忙故 未得與家妻 細說農桑生業而 倉促啟程來此矣

        若舍人部廣足 4364

           右二首,茨城郡若舍人部廣足。



    4365 【承前,十首第三。】

       於之弖流夜 奈爾波能都由利 布奈與曾比 阿例波許藝奴等 伊母爾都岐許曾

       押照(おして)るや 難波津(なにはのつ)ゆり 船裝(ふなよそ)ひ (あれ)()ぎぬと (いも)()ぎこそ

         日光押照兮 自於難波御津間 艤裝備發而 今將榜之槽而去 願傳茲事予吾妻

        物部道足 4365


    4366 【承前,十首第四。】

       比多知散思 由可牟加里母我 阿我古比乎 志留志弖都祁弖 伊母爾志良世牟

       常陸指(ひたちさ)し ()かむ雁欲得(かりもが) ()(こひ)を (しる)して()けて (いも)()らせむ

         欲得指常陸 翱翔馳去飛雁矣 冀將吾戀慕 託誌雁書歸故土 令妻知悉此熾情

        物部道足 4366

           右二首,信太郡物部道足。



    4367 【承前,十首第五。】

       阿我母弖能 和須例母之太波 都久波尼乎 布利佐氣美都都 伊母波之奴波尼

       ()()の (わす)れも(しだ)は 筑波嶺(つくはね)を 振放見(ふりさけみ)つつ (いも)(しぬ)はね

         愛也吾妻哉 若有忘我面容時 可以翹汝首 仰望足曳筑波嶺 以為緣物偲懷也

        占部子龍 4367

           右一首,茨城郡占部子龍。



    4368 【承前,十首第六。】

       久自我波波 佐氣久阿利麻弖 志富夫禰爾 麻可知之自奴伎 和波可敝里許牟

       久慈川(くじがは)は 幸有(さけくあ)()て 潮船(しほぶね)に 真梶繁貫(まかぢしじぬ)き ()歸來(かへりこ)

         常陸久慈川 願恒長久以相待 直至乘潮船 真梶繁貫榜不懈 我命有朝歸來時

        丸子部佐壯 4368

           右一首,久慈郡丸子部佐壯。



    4369 【承前,十首第七。】

       都久波禰乃 佐由流能波奈能 由等許爾母 可奈之家伊母曾 比留毛可奈之祁

       筑波嶺(つくはね)の 小百合花(さゆるのはな)の 夜床(ゆとこ)にも (かな)しけ(いも)そ (ひる)(かな)しけ

         洽猶筑波嶺 小百合花之所如 每晚在夜床 可人憐愛吾妻者 其於白晝亦可怜

        大舍人部千文 4369


    4370 【承前,十首第八。】

       阿良例布理 可志麻能可美乎 伊能利都都 須米良美久佐爾 和例波伎爾之乎

       霰降(あられふ)り 鹿島神(かしまのかみ)を (いの)りつつ 皇御軍(すめらみくさ)に (われ)()にしを

         霰零雹降兮 鹿嶋嚴神武甕槌 誠心祈禱而 身為防人皇御軍 吾身負命來此矣

        大舍人部千文 4370

           右二首,那賀郡上丁大舍人部千文。



    4371 【承前,十首第九。】

       多知波奈乃 之多布久可是乃 可具波志伎 都久波能夜麻乎 古比須安良米可毛

       (たちばな)の 下吹(したふ)(かぜ)の (かぐは)しき 筑波山(つくはのやま)を ()ひずあらめかも

         非時香菓兮 橘樹下蔭所吹風 芳馨巍峨矣 常陸高嶺筑波山 豈不神往戀慕哉

        占部廣方 4371

           右一首,助丁占部廣方。



    4372 【承前,十首第十。】

       阿志加良能 美佐可多麻波理 可閇理美須 阿例波久江由久 阿良志乎母 多志夜波婆可流 不破乃世伎 久江弖和波由久 牟麻能都米 都久志能佐伎爾 知麻利為弖 阿例波伊波波牟 母呂母呂波 佐祁久等麻乎須 可閇利久麻弖爾

       足柄(あしがら)の 御坂賜(みさかたまは)り 顧見(かへりみ)ず (あれ)越行(くえゆ)く 荒男(あらしを)も ()しや(はばか)る 不破關(ふはのせき) ()えて()()く 馬爪(むまのつめ) 筑紫崎(つくしのさき)に 留居(ちまりゐ)て (あれ)(いは)はむ 諸諸(もろもろ)は (さけ)くと(まを)す 歸來迄(かへりくまで)

         相模足柄之 巖神御坂賜吾通 直進不顧見 我今登越行去矣 縱令益荒男 勇健壯士所忌憚 艱嶮不破關 跋涉攀越吾徃矣 馬爪耗損兮 西海筑紫御崎間 留居鎮守而 我將齋祈求冥貺 願故鄉諸人 得以多幸復無恙 直至有朝歸來時

        倭文部可良麻呂 4372

           右一首,倭文部可良麻呂。

           二月十四日,常陸國部領防人使大目正七位上息長真人國嶋進歌數十七首。但拙劣歌者不取載之。



    4373 【下野國防人部領使田口大戶進歌,十一第一。】

       祁布與利波 可敝里見奈久弖 意富伎美乃 之許乃美多弖等 伊埿多都和例波

       今日(けふ)よりは 顧見無(かへりみな)くて 大君(おほきみ)の 醜御楯(しこのみたて)と 出立(いでた)(われ)

         自於今日起 義無反顧徃赴任 以為大君之 嚴防堅守醜御楯 毅然啟程我命矣

        今奉部與曾布 4373

           右一首,火長今奉部與曾布。



    4374 【承前,十一第二。】

       阿米都知乃 可美乎伊乃里弖 佐都夜奴伎 都久之乃之麻乎 佐之弖伊久和例波

       天地(あめつち)の (かみ)(いの)りて 獵矢貫(さつやぬ)き 筑紫島(つくしのしま)を ()して()(われ)

         敬拜天地間 祈禱八百萬神祇 背負獵矢靫 指向海西筑紫洲 毅然啟程我命也

        大田部荒耳 4374

           右一首,火長大田部荒耳。



    4375 【承前,十一第三。】

       麻都能氣乃 奈美多流美禮波 伊波妣等乃 和例乎美於久流等 多多理之母己呂

       松木(まつのけ)の ()みたる()れば 家人(いはびと)の (われ)見送(みおく)ると ()たりし(もころ)

         今望松樹之 成群並立叢生者 不覺有所思 其姿其形洽猶似 家人佇列餞行矣

        物部真嶋 4375

           右一首,火長物部真嶋。



    4376 【承前,十一第四。】

       多妣由岐爾 由久等之良受弖 阿母志志爾 己等麻乎佐受弖 伊麻敘久夜之氣

       旅行(たびゆ)きに ()くと()らずて 母父(あもしし)に 言申(ことまを)さずて (いま)(くや)しけ

         出旅啟程際 不知此去是遠行 未得與母父 相告餞別而來茲 如今懊惱甚追悔

        川上老 4376

           右一首,寒川郡上丁川上臣老。



    4377 【承前,十一第五。】

       阿母刀自母 多麻爾母賀母夜 伊多太伎弖 美都良乃奈可爾 阿敝麻可麻久母

       母刀自(あもとじ)も (たま)欲得(もがも)や (いただ)きて 髻中(みづらのなか)に 合卷(あへま)かまくも

         還願母刀自 可以化身為珠玉 若得為然者 則可戴之飾髻中 常佩身上不相離

        津守小黑栖 4377

           右一首,津守宿禰小黑栖。



    4378 【承前,十一第六。】

       都久比夜波 須具波由氣等毛 阿母志志可 多麻乃須我多波 和須例西奈布母

       月日夜(つくひや)は ()ぐは()けども 母父(あもしし)が 玉姿(たまのすがた)は (わす)れせ()ふも

         雖然月與日 夜夜流逝不復返 然而母父之 堂堂光儀玉姿者 永銘心頭未嘗忘

        中臣部足國 4378

           右一首,都賀郡上丁中臣部足國。



    4379 【承前,十一第七。】

       之良奈美乃 與曾流波麻倍爾 和可例奈波 伊刀毛須倍奈美 夜多妣蘇弖布流

       白波(しらなみ)の ()そる濱邊(はまへ)に (わか)れなば (いと)術無(すべな)み 八度袖振(やたびそでふ)

         白浪滔滔而 浪重浪歸此濱邊 相別離去者 手足無措無依故 八度揮袖以惜別

        大舍人部禰麻呂 4379

           右一首,足利郡上丁大舍人部禰麻呂。



    4380 【承前,十一第八。】

       奈爾波刀乎 己岐埿弖美例婆 可美佐夫流 伊古麻多可禰爾 久毛曾多奈妣久

       難波津(なにはと)を 漕出(こぎで)()れば 神古(かみさぶ)る 生駒高嶺(いこまたかね)に (くも)棚引(たなびく)

         押照難波津 漕出船舳而見者 神古蘊稜威 大和生駒高嶺上 雲霞棚引飄霏霺

        大田部三成 4380

           右一首,梁田郡上丁大田部三成。



    4381 【承前,十一第九。】

       久爾具爾乃 佐岐毛利都度比 布奈能里弖 和可流乎美禮婆 伊刀母須敝奈之

       國國(くにぐに)の 防人集(さきもりつど)ひ 船乘(ふなの)りて (わか)るを()れば (いと)術無(すべな)

         天下諸國之 防人戍衛集於茲 乘船赴海路 見彼別離將遠去 不勝感慨甚無術

        神麻續部嶋麻呂 4381

           右一首,河內郡上丁神麻續部嶋麻呂。



    4382 【承前,十一第十。】

       布多富我美 阿志氣比等奈里 阿多由麻比 和我須流等伎爾 佐伎母里爾佐須

       太小腹(ふたほがみ) ()しけ人也(ひとなり) 疝病(あたゆまひ) ()がする(とき)に 防人(さきもり)()

         其蓋太小腹 心懷二心悪人也 當我患急疝 臥病在床不振時 指名任命防人矣

        大伴部廣成 4382

           右一首,那須郡上丁大伴部廣成。



    4383 【承前,十一十一。】

       都乃久爾乃 宇美能奈伎佐爾 布奈餘曾比 多志埿毛等伎爾 阿母我米母我母

       津國(つのくに)の 海渚(うみのなぎさ)に 船裝(ふなよそ)ひ ()()(とき)に (あも)目欲得(めもがも)

         身居攝津國 聚集海渚汀岸處 餝船艤裝而 吾人備發啟程時 願會母面以餞別

        丈部足人 4383

           右一首,鹽屋郡上丁丈部足人。

           二月十四日,下野國防人部領使正六位上田口朝臣大戶進歌數十八首。但拙劣歌者不取載之。



    4384 【下總國防人部領使少目縣犬養淨人進歌,十一第一。】

       阿加等伎乃 加波多例等枳爾 之麻加枳乎 己枳爾之布禰乃 他都枳之良須母

       (あかとき)の ()誰時(たれとき)に 島蔭(しまかぎ)を 漕去(こぎに)(ふね)の 方便知(たづきし)らずも

         黎明拂曉間 薄闇朦朧彼誰時 迴繞越島蔭 漕去榜行浮船者 不知去向今何如

        他田日奉得大理 4384

           右一首,助丁海上郡海上國造他田日奉直得大理。



    4385 【承前,十一第二。】

       由古作枳爾 奈美奈等惠良比 志流敝爾波 古乎等都麻乎等 於枳弖等母枳奴

       行先(ゆこさき)に 波莫撓(なみなとゑら)ひ (しるへ)には ()をと(つま)をと ()きてとも()

         還願此行去 駭浪勿撓波莫湧 在此身之後 留置吾子與吾妻 離鄉隻身來此矣

        私部石嶋 4385

           右一首,葛餝郡私部石嶋。



    4386 【承前,十一第三。】

       和加加都乃 以都母等夜奈枳 以都母以都母 於母加古比須須 奈理麻之都之母

       ()(かづ)の 五本柳(いつもとやなぎ) 何時(いつ)何時(いつ) (おも)(こひ)すす ()りましつしも

         其猶吾戶前 五本楊柳之所如 每每往往而 慈母朝朝暮暮間 偲慕吾身働農桑

        矢作部真長 4386

           右一首,結城郡矢作部真長。



    4387 【承前,十一第四。】

       知波乃奴乃 古乃弖加之波能 保保麻例等 阿夜爾加奈之美 於枳弖他加枳奴

       千葉野(ちばのぬ)の 兒手柏(このてかしは)の (ほほ)まれど (あや)(かな)しみ ()きて高來(たかき)

         洽猶千葉野 兒手柏之含苞者 伊人年雖稚 相隔異地甚可怜 置之故鄉高來矣

        大田部足人 4387

           右一首,千葉郡大田部足人。



    4388 【承前,十一第五。】

       多妣等弊等 麻多妣爾奈理奴 以弊乃母加 枳世之己呂母爾 阿加都枳爾迦理

       旅云(たびとへ)ど 真旅(またび)(なり)ぬ 家妹(いへのも)が ()せし(ころも)に 垢付(あかつ)きにかり

         雖云皆出旅 此去途長羈旅矣 居家伊人之 為我所襲此衣裳 已然付垢染風塵

        占部虫麻呂 4388

           右一首,占部虫麻呂。



    4389 【承前,十一第六。】

       志保不尼乃 弊古祖志良奈美 爾波志久母 於不世他麻保加 於母波弊奈久爾

       潮船(しほふね)の 舳越(へこ)白波(しらなみ) (には)しくも ()ふせ(たま)ほか (おも)はへ()くに

         若猶越潮舟 船舳白浪之所如 俄然意外而 倏忽受命負此任 誠然始料所未及

        丈部大麻呂 4389

           右一首,印波郡丈部直大麻呂。



    4390 【承前,十一第七。】

       牟浪他麻乃 久留爾久枳作之 加多米等之 以母加去去里波 阿用久奈米加母

       群玉(むらたま)の (くる)釘刺(くぎさ)し (かた)めとし (いも)(こころ)は (あよ)くなめかも

         群玉落珠兮 釘刺樞戶不令轉 緊固之所如 愛也吾妻堅心者 貞志豈曾動搖哉

        刑部志可麻呂 4390

           右一首,猿島郡刑部志可麻呂。



    4391 【承前,十一第八。】

       久爾具爾乃 夜之呂乃加美爾 奴佐麻都理 阿加古比須奈牟 伊母賀加奈志作

       國國(くにぐに)の 社神(やしろのかみ)に 幣奉(ぬさまつ)り 我戀(あがこひ)すなむ (いも)(かな)しさ

         五畿七道之 諸國明神大社間 奉幣祈冥貺 懸戀我身朝慕想 吾妻貞志可怜也

        忍海部五百麻呂 4391

           右一首,結城郡忍海部五百麻呂。



    3438 【承前,十一第九。】

       阿米都之乃 以都例乃可美乎 以乃良波加 有都久之波波爾 麻多己等刀波牟

       天地(あめつし)の (いづ)れの(かみ)を (いの)らばか (うつく)(はは)に 復言問(またことと)はむ

         宇宙六合間 天神地祇八百萬 其數不可計 吾當祈於孰靈而 可復與母相語哉

        大伴部麻與佐 3438

           右一首,埴生郡大伴部麻與佐。



    4393 【承前,十一第十。】

       於保伎美能 美許等爾作例波 知知波波乎 以波比弊等於枳弖 麻為弖枳爾之乎

       大君(おほきみ)の (みこと)にされば 父母(ちちはは)を 齋瓮(いはひへ)()きて 參出來(まゐでき)にしを

         吾皇大君之 聖慮宸旨敕命重 故置父與母 與齋瓮同留家鄉 隻身參出來赴命

        雀部廣嶋 4393

           右一首,結城郡雀部廣嶋。



    4394 【承前,十一十一。】

       於保伎美能 美己等加之古美 由美乃美他 佐尼加和多良牟 奈賀氣己乃用乎

       大君(おほきみ)の 命恐(みことかしこ)み 弓共(ゆみのみた) 小寢(さね)(わた)らむ (なが)此夜(このよ)

         大君敕命重 誠惶誠恐遵宸旨 唯得擁弓弭 相與小寢至天明 漫漫長兮此夜矣

        大伴部子羊 4394

           右一首,相馬郡大伴部子羊。

           二月十六日,下總國防人部領使少目從七位下縣犬養宿禰淨人進歌數廿二首。但拙劣歌者不取載之。



    4395 獨惜龍田山櫻花歌一首

       多都多夜麻 見都都古要許之 佐久良波奈 知利加須疑奈牟 和我可敝流刀爾

       龍田山(たつたやま) ()つつ越來(こえこ)し 櫻花(さくらばな) ()りか()ぎなむ ()(かへ)るとに

         巍峨龍田山 翻山越嶺而來時 所見櫻花者 蓋將凋零散盡哉 在我復命歸來頃

        大伴家持 4395


    4396 獨見江水浮漂(こつみ),怨恨貝玉不依作歌一首 【承前。】

       保理江欲利 安佐之保美知爾 與流許都美 可比爾安里世波 都刀爾勢麻之乎

       堀江(ほりえ)より 朝潮滿(あさしほみ)ちに ()塵芥(こつみ) (かひ)在為(ありせ)ば (つと)にせましを

         自押照難波 堀江漲來朝潮間 緣來木屑矣 汝若可為貝玉者 可以裹而攜身伴

        大伴家持 4396


    4397 在館門見江南美女作歌一首 【承前。】

       見和多世婆 牟加都乎能倍乃 波奈爾保比 弖里氐多弖流波 波之伎多我都麻

       見渡(みわた)せば 向峰上(むかつをのへ)の 花匂(はなにほ)ひ ()りて()てるは ()しき()(つま)

         放眼望去者 猶若向峰山頂上 咲花之所如 光儀華艷天香者 窈窕淑女誰妻哉

        大伴家持 4397

           右三首,二月十七日兵部少輔大伴家持作之。



    4398 為防人情陳思作歌一首 并短歌。

       大王乃 美己等可之古美 都麻和可禮 可奈之久波安禮特 大夫 情布里於許之 等里與曾比 門出乎須禮婆 多良知禰乃 波波可伎奈埿 若草乃 都麻波等里都吉 平久 和禮波伊波波牟 好去而 早還來等 麻蘇埿毛知 奈美太乎能其比 牟世比都都 言語須禮婆 群鳥乃 伊埿多知加弖爾 等騰己保里 可弊里美之都都  伊也等保爾 國乎伎波奈例 伊夜多可爾 山乎故要須疑 安之我知流 難波爾伎為弖 由布之保爾 船乎宇氣須惠 安佐奈藝爾 倍牟氣許我牟等 佐毛良布等 和我乎流等伎爾 春霞 之麻未爾多知弖 多頭我禰乃 悲鳴婆 波呂婆呂爾 伊弊乎於毛比埿 於比曾箭乃 曾與等奈流麻埿 奈氣吉都流香母

       大君(おほきみ)の 命恐(みことかしこ)み 妻別(つまわか)れ (かな)しくはあれど 大夫(ますらを)の 心振起(こころふりおこ)し 取裝(とりよそ)ひ 門出(かどで)をすれば 垂乳根(たらちね)の 母搔撫(ははかきな)で 若草(わかくさ)の (つま)取付(とりつ)き (たひら)けく (われ)(いは)はむ 真幸(まさき)くて 早歸來(はやかへりこ)と 真袖以(まそでも)ち (なみだ)(のご)ひ (むせ)ひつつ 言問(ことど)ひすれば 群鳥(むらとり)の 出立難(いでたちかて)に (とどこほ)り 顧見(かへりみ)しつつ 彌遠(いやとほ)に (くに)來離(きはな)れ 彌高(いやたか)に (やま)越過(こえす)ぎ (あし)()る 難波(なには)來居(きゐ)て 夕潮(ゆふしほ)に (ふね)浮据(うけす)ゑ 朝凪(あさなぎ)に 舳向漕(へむけこ)がむと (さもら)ふと ()()(とき)に 春霞(はるかすみ) 島迴(しまみ)()ちて (たづ)()の (かな)しく()けば 遙遙(はろばろ)に (いへ)思出(おもひで) 負征箭(おひそや)の (そよ)()(まで) (なげ)きつるかも

         大君敕命重 誠惶誠恐遵宸旨 與妻相別離 雖然悲傷哀難抑 大夫壯士之 振起心神奮彪情 整裝取笈而 毅然決然出門者 恩育垂乳根 慈母搔撫慰離情 若草稚卉兮 愛妻緊攫難分捨 願此行無恙 吾等齋戒祈冥貺 冀得真幸而 早日歸來復聖命 更以兩真袖 拭去涕淚拂泪泫 嗚咽啜泣而 強行發聲言問者 群鳥搏翅兮 離情依依啟程難 滯足叵前而 一再回首顧見者 彌遙彌遠而 遠離故土來此矣 彌高彌峭而 越過足曳勢險山 蘆葦散亂兮 來居押照難波地 黃昏夕潮間 身据浮船泛海上 晨曦朝凪間 將指舳向漕出矣 候風俟時而 我等留居此時頃 春霞層湧出 瀰漫籠罩覆島迴 耳聞鶴音之 悲傷哀鳴虛空者 遙遙渺遠兮 不覺懷土念家鄉 殆似負征箭 颯然發鳴聲與共 憂愁傷感嘆欷歔

        大伴家持 4398


    4399 【承前,短歌其一。】

       宇奈波良爾 霞多奈妣伎 多頭我禰乃 可奈之伎與比波 久爾弊之於毛保由

       海原(うなはら)に 霞棚引(かすみたなびき) (たづ)()の (かな)しき(よひ)は 國邊(くにへ)(おも)ほゆ

         滄溟海原間 霞霧瀰漫飄霏霺 鶴音盪哀愁 悲情更催此宵晚 不覺懷土偲家鄉

        大伴家持 4399


    4400 【承前,短歌其二。】

       伊弊於毛負等 伊乎禰受乎禮婆 多頭我奈久 安之弊毛美要受 波流乃可須美爾

       家思(いへおも)ふと ()()()れば (たづ)()く 葦邊(あしへ)()えず 春霞(はるのかすみ)

         每逢思故土 哀傷輾轉不得眠 憂鶴雖悲鳴 所啼葦邊不得見 匿在瀰漫春霞中

        大伴家持 4400

           右十九日,兵部少輔大伴宿禰家持作之。



    4401 【信濃國防人部領使進歌。】

       可良己呂武 須宗爾等里都伎 奈苦古良乎 意伎弖曾伎怒也 意母奈之爾志弖

       韓衣(からころむ) (すそ)取付(とりつ)き 泣子等(なくこら)を ()きてそ()ぬや 母無(おもな)しにして

         韓服軍衣袴 緊攫其袖淚涕下 哭喊泣子等 吾置其身獨自來 無母可怙父又離

        他田舍人大嶋 4401

           右一首,國造小縣郡他田舍人大嶋。



    4402 【承前。】

       知波夜布留 賀美乃美佐賀爾 奴佐麻都里 伊波布伊能知波 意毛知知我多米

       千早振(ちはやふ)る 神御坂(かみのみさか)に 幣奉(ぬさまつ)り 齋命(いはふいのち)は 母父(おもちち)(ため)

         千早振稜威 嚴神御坂嶮峠間 恭奉獻幣帛 戒慎潔齋此命者 全為所慕父母也

        神人部子忍男 4402

           右一首,主帳埴科郡神人部子忍男。



    4403 【承前。】

       意保枳美能 美己等可之古美 阿乎久牟乃 等能妣久夜麻乎 古與弖伎怒加牟

       大君(おほきみ)の 命恐(みことかしこ)み 青雲(あをくむ)の 棚引(とのび)(やま)を ()よて()ぬかむ

         大君敕命重 誠惶誠恐遵宸旨 晴空青雲之 霏霺棚引峻山嶺 跋涉翻越而來矣

        小長谷部笠麻呂 4403

           右一首,小長谷部笠麻呂。

           二月廿二日,信濃國防人部領使上道,得病不來,進歌數十二首。但拙劣歌者不取載之。



    4404 【上野國防人部領使大目上毛野駿河進歌,四首第一。】

       奈爾波治乎 由伎弖久麻弖等 和藝毛古賀 都氣之非毛我乎 多延爾氣流可母

       難波道(なにはぢ)を ()きて來迄(くまで)と 我妹子(わぎもこ)が ()けし(ひも)() ()えにけるかも

         此去難波道 往返歸來莫解之 愛也吾妹妻 手結下衣紐緒者 跋涉之間已絕矣

        上毛野牛甘 4404

           右一首,助丁上毛野牛甘。



    4405 【承前,四首第二。】

       和我伊母古我 志濃比爾西餘等 都氣志非毛 伊刀爾奈流等毛 和波等可自等余

       ()妹子(いもこ)が (しぬ)ひに()よと ()けし(ひも) (いと)(なる)とも ()()かじとよ

         愛也吾妹妻 以為形見信物而 手結付紐矣 縱令襤褸為碎絲 我亦常繫豈解之

        朝倉益人 4405

           右一首,朝倉益人。



    4406 【承前,四首第三。】

       和我伊波呂爾 由加毛比等母我 久佐麻久良 多妣波久流之等 都氣夜良麻久母

       ()(いは)ろに ()かも人欲得(ひともが) 草枕(くさまくら) (たび)(くる)しと 告遣(つげや)らまくも

         欲得徃行人 將去吾家故鄉者 轉述帶口信 告諸草枕在異地 羈旅跋涉艱辛矣

        大伴部節麻呂 4406

           右一首,大伴部節麻呂。



    4407 【承前,四首第四。】

       比奈久母理 宇須比乃佐可乎 古延志太爾 伊毛賀古比之久 和須良延奴加母

       ()(くも)り 碓冰坂(うすひのさか)を 越時(こえしだ)に (いも)(こひ)しく (わす)らえぬかも

         陽曇薄日兮 翻越東山碓冰坂 艱辛跋涉時 惜別之際妻哀毀 戀慕愁情不能忘

        他田部子磐前 4407

           右一首,他田部子磐前。

           二月廿三日,上野國防人部領使大目正六位下上毛野君駿河進歌數十二首。但拙劣歌者不取載之。



    4408 陳防人悲別之情歌一首 并短歌。

       大王乃 麻氣乃麻爾麻爾 嶋守爾 和我多知久禮婆 波波蘇婆能 波波能美許等波 美母乃須蘇 都美安氣可伎奈埿 知知能未乃 知知能美許等波 多久頭努能 之良比氣乃宇倍由 奈美太多利 奈氣伎乃多婆久 可胡自母乃 多太比等里之氐 安佐刀埿乃 可奈之伎吾子 安良多麻乃 等之能乎奈我久 安比美受波 古非之久安流倍之 今日太爾母 許等騰比勢武等 乎之美都都 可奈之備麻勢婆 若草之 都麻母古騰母毛 乎知己知爾 左波爾可久美為 春鳥乃 己惠乃佐麻欲比 之路多倍乃 蘇埿奈伎奴良之 多豆佐波里 和可禮加弖爾等 比伎等騰米 之多比之毛能乎 天皇乃 美許等可之古美 多麻保己乃 美知爾出立 乎可乃佐伎 伊多牟流其等爾 與呂頭多妣 可弊里見之都追 波呂波呂爾 和可禮之久禮婆 於毛布蘇良 夜須久母安良受 古布流蘇良 久流之伎毛乃乎 宇都世美乃 與能比等奈禮婆 多麻伎波流 伊能知母之良受 海原乃 可之古伎美知乎 之麻豆多比 伊己藝和多利弖 安里米具利 和我久流麻埿爾 多比良氣久 於夜波伊麻佐禰 都都美奈久 都麻波麻多世等 須美乃延能 安我須賣可未爾 奴佐麻都利 伊能里麻乎之弖 奈爾波都爾 船乎宇氣須惠 夜蘇加奴伎 可古等登能倍弖 安佐婢良伎 和波己藝埿奴等 伊弊爾都氣己曾

       大君(おほきみ)の 任隨(まけのまにま)に 島守(しまもり)に ()立來(たちく)れば 柞葉(ははそば)の 母命(ははのみこと)は 御裳裾(みものすそ) 摘上搔撫(つみあげかきな)で 乳實(ちちのみ)の 父命(ちちのみこと)は 栲角(たくづの)の 白髭上(しらひげのうへ)ゆ 淚垂(なみだた)り 嘆給(なげきのたば)く 鹿子(かこ)(もの) 唯獨(ただひとり)して 朝戶出(あさとで)の (かな)しき()() (あらたま)の 年緒長(としのをなが)く 相見(あひみ)ずは (こひ)しくあるべし 今日(けふ)だにも 言問為(ことどひせ)むと ()しみつつ (かな)しびませば 若草(わかくさ)の (つま)子供(こども)も 彼方此方(をちこち)に (さは)圍居(かくみゐ) 春鳥(はるとり)の 聲吟(こゑのさまよ)ひ 白栲(しろたへ)の 袖泣濡(そでなきぬ)らし (たづさは)り 別難(わかれかて)にと 引留(ひきとど)め (した)ひし(もの)を 大君(おほきみ)の 命恐(みことかしこ)み 玉桙(たまほこ)の (みち)出立(いでた)ち 岡岬(をかのさき) い()むる(ごと)に 萬度(よろづたび) 顧見(かへりみ)しつつ 遙遙(はろはろ)に (わか)れし()れば 思空(おもふそら) (やす)くも(あら)ず ()ふる(そら) (くる)しき(もの)を 空蟬(うつせみ)の 世人是(よのひとな)れば 玉限(たまきは)る (いのち)()らず 海原(うなはら)の 恐道(かしこきみち)を 島傳(しまづた)ひ い漕渡(いこぎわた)りて 蟻迴(ありめぐ)り ()()(まで)に (たひら)けく (おや)居坐(いま)さね 障無(つつみな)く (つま)()たせと 住吉(すみのえ)の ()皇神(すめかみ)に 幣奉(ぬさまつ)り 祈申(いのりまう)して 難波津(なにはつ)に (ふね)浮据(うけす)ゑ 八十梶貫(やそかぬ)き 水手整(かこととの)へて 朝開(あさびら)き ()漕出(こぎで)ぬと (いへ)()げこそ

         大君敕命重 戒慎恐懼循其任 以為島守而 我命出立來此矣 祥和柞葉兮 慧慈賢淑母命者 手繫御裳裾 摘上搔撫祈無恙 威嚴乳實兮 明道宏倫父命者 栲綱皎如月 斑駁虬髯白髭上 淚垂復涕下 憂傷哀愁嘳嘆矣 似鹿非鹿子 唯有隻身獨一人 晨曦出朝戶 可人憐愛我子矣 物換星移兮 日新月異年緒長 久久不相見 相思難止慕情盛 至少在今日 願為言問得相語 離情依依而 悲傷憂愁惜別者 若草稚卉兮 可怜少妻與稚子 彼方與此方 叢聚圍居相依偎 春鳥鶯啼兮 哭號淒厲呻吟矣 白妙敷栲兮 涕泣滂沱濡袖矣 相攜執子手 難分難捨別離難 慰留不令訣 慕往遠隨追行矣 大君敕命重 誠惶誠恐遵宸旨 玉桙石柱兮 啟程旅路康莊道 岡岬丘前處 每每巡迴各隈時 千遍萬度兮 回首顧見望故土 渺渺遙遙兮 離別遠行而來者 胸中所想念 方寸忐忑無所安 內心之所戀 鏤骨虐心哀苦者 空蟬憂世間 浮生凡俗世人也 玉限魂極兮 須臾身命誠難計 滄溟海原之 路途艱險恐道也 繼島越嶼兮 榜舟漕渡而上陸 直至我蟻迴 全任復命歸來日 還願雙親矣 安平無恙常居坐 亦冀吾愛妻 別來無障待吾歸 墨江住吉之 鎮座統御我社神 奉獻呈幣帛 齋戒恭祈申心願 難波御津間 浮据船上泛蒼海 繁貫八十梶 統率水手白水郎 朝明晨曦時 我負重任漕出者 誰來傳語告吾家

        大伴家持 4408


    4409 【承前,短歌其一。】

       伊弊婢等乃 伊波倍爾可安良牟 多比良氣久 布奈埿波之奴等 於夜爾麻乎佐禰

       家人(いへびと)の (いは)へにかあらむ (たひら)けく 船出(ふなで)はしぬと (おや)(まを)さね

         蓋是家人之 戒慎齋禱祈功哉 無恙且無障 一帆風順出航矣 誰來傳語告吾親

        大伴家持 4409


    4410 【承前,短歌其二。】

       美蘇良由久 久母母都可比等 比等波伊倍等 伊弊頭刀夜良武 多豆伎之良受母

       御空行(みそらゆ)く (くも)使(つかひ)と (ひと)()へど 家苞遣(いへづとや)らむ 方便知(たづきし)らずも

         縱然人常道 翱行御空天雲者 可為信使矣 雖欲託贈致家裹 唯有愁苦不知方

        大伴家持 4410


    4411 【承前,短歌其三。】

       伊弊都刀爾 可比曾比里弊流 波麻奈美波 伊也之久之久二 多可久與須禮騰

       家苞(いへづと)に (かひ)(ひり)へる 濱波(はまなみ)は 彌頻頻(いやしくしく)に (たか)()すれど

         欲送於家人 俯拾珠貝作贈物 濱浪能濤天 頻頻捲起湧不斷 狂瀾高波而寄來

        大伴家持 4411


    4412 【承前,短歌其四。】

       之麻可氣爾 和我布禰波弖氐 都氣也良牟 都可比乎奈美也 古非都都由加牟

       島蔭(しまかげ)に ()船泊(ふねは)てて 告遣(つげや)らむ 使(つかひ)()みや (こひ)つつ()かむ

         羈旅泛海路 我泊船舩島蔭間 雖欲告家人 苦無信使可遣者 戀慕不只仍徃矣

        大伴家持 4412

           二月廿三日,兵部少輔大伴宿禰家持。



    4413 【武藏國部領防人使掾安曇三國進歌,十二第一。】

       麻久良多之 己志爾等里波伎 麻可奈之伎 西呂我馬伎己無 都久乃之良奈久

       枕太刀(まくらたし) (こし)取佩(とりは)き 真愛(まかな)しき ()ろが罷來(まきこ)む (つく)()()

         願猶枕太刀 取佩腰間不離身 真愛吾夫子 有朝汝命歸罷來 所期月日無由知

        檜前舍人石前妻大伴部真足女 4413

           右一首,上丁那珂郡檜前舍人石前之妻大伴部真足女。



    4414 【承前,十二第二。】

       於保伎美乃 美己等可之古美 宇都久之氣 麻古我弖波奈利 之末豆多比由久

       大君(おほきみ)の 命恐(みことかしこ)み (うつく)しけ 真子(まこ)手離(てはな)り 島傳行(しまづたひゆ)

         大君敕命重 誠惶誠恐遵宸旨 惜也愛憐兮 今離愛妻手別去 泛海傳島渡西偏

        大伴部小歲 4414

           右一首,助丁秩父郡大伴部小歲。



    4415 【承前,十二第三。】

       志良多麻乎 弖爾刀里母之弖 美流乃須母 伊弊奈流伊母乎 麻多美弖毛母也

       白玉(しらたま)を ()取持(とりも)して ()るのすも (いへ)なる(いも)を 復見(またみ)てももや

         持取白玉而 手中觀翫之所如 功成覆命後 欲與留家吾妹妻 相逢端詳彼光儀

        物部歲德 4415

           右一首,主帳荏原郡物部歲德。



    4416 【承前,十二第四。】

       久佐麻久良 多比由苦世奈我 麻流禰世婆 伊波奈流和禮波 比毛等加受禰牟

       草枕(くさまくら) 旅行(たびゆ)()なが 丸寢為(まるねせ)ば (いは)なる(われ)は 紐解(ひもと)かず()

         草枕在異地 羈旅他鄉吾夫子 汝若丸寢者 吾雖在家亦相隨 不解衣紐以寢矣

        妻椋椅部刀自賣 4416

           右一首,妻椋椅部刀自賣。



    4417 【承前,十二第五。】

       阿加胡麻乎 夜麻努爾波賀志 刀里加爾弖 多麻能余許夜麻 加志由加也良牟

       赤駒(あかごま)を 山野(やまの)(はかし) 捕難(とりか)にて 多摩橫山(たまのよこやま) 徒歩(かし)ゆか()らむ

         栗毛赤駒之 逃逸山野奔毀畔 亡失難捕矣 武藏多摩嶮橫山 唯有徒歩翻越哉

        椋椅部荒蟲妻宇遲部黑女 4417

           右一首,豐嶋郡上丁椋椅部荒蟲之妻宇遲部黑女。



    4418 【承前,十二第六。】

       和我可度乃 可多夜麻都婆伎 麻己等奈禮 和我弖布禮奈奈 都知爾於知母加毛

       ()(かど)の 片山椿(かたやまつばき) 誠汝(まことなれ) ()手觸(てふ)()な (つち)()ちも(かも)

         吾戶家門前 片山所生海石榴 誠兮椿花矣 我手無由觸之間 汝將散華落土哉

        物部廣足 4418

           右一首,荏原郡上丁物部廣足。



    4419 【承前,十二第七。】

       伊波呂爾波 安之布多氣騰母 須美與氣乎 都久之爾伊多里弖 古布志氣毛波母

       (いは)ろには 葦火焚(あしふた)けども 住良(すみよ)けを 筑紫(つくし)(いた)りて (こふ)しけ()はも

         在鄉居家時 雖焚葦火多煤污 宜居宜住矣 至來東國筑紫地 必然戀慕懷故土

        物部真根 4419

           右一首,橘樹郡上丁物部真根。



    4420 【承前,十二第八。】

       久佐麻久良 多妣乃麻流禰乃 比毛多要婆 安我弖等都氣呂 許禮乃波流母志

       草枕(くさまくら) 旅丸寢(たびのまるね)の 紐絕(ひもた)えば ()()()けろ 此針持(これのはるも)

         草枕在異地 羈旅他鄉丸寢時 衣紐若絕者 以之為我所手付 可持此針續斷紐

        椋椅部弟女 4420

           右一首,椋椅部弟女。



    4421 【承前,十二第九。】

       和我由伎乃 伊伎都久之可婆 安之我良乃 美禰波保久毛乎 美等登志努波禰

       ()()きの 息衝(いきづ)くしかば 足柄(あしがら)の 峰這(みねは)(くも)を ()とと(しの)はね

         我之此去而 若感別離息苦者 可望足柄之 峰上蟠踞白雲而 以為形見偲吾身

        服部於由 4421

           右一首,都筑郡上丁服部於由。



    4422 【承前,十二第十。】

       和我世奈乎 都久之倍夜里弖 宇都久之美 於妣波等可奈奈 阿也爾加母禰毛

       ()()なを 筑紫(つくし)()りて (うつく)しみ (おび)()()な (あや)にかも()

         愛也吾夫子 許汝遣去筑紫洲 惜也哀憐兮 堅守信誓不解帶 輾轉難眠獨寢哉

        妻服部呰女 4422

           右一首,妻服部呰女。



    4423 【承前,十二十一。】

       安之我良乃 美佐可爾多志弖 蘇埿布良波 伊波奈流伊毛波 佐夜爾美毛可母

       足柄(あしがら)の 御坂(みさか)()して 袖振(そでふ)らば (いは)なる(いも)は (さや)()もかも

         相模關門之 佇立足柄御坂上 振袖揮手者 居家留守吾妹妻 可以清楚望見哉

        藤原部等母麻呂 4423

           右一首,埼玉郡上丁藤原部等母麻呂。



    4424 【承前,十二十二。】

       伊呂夫可久 世奈我許呂母波 曾米麻之乎 美佐可多婆良婆 麻佐夜可爾美無

       色深(いろぶか)く ()なが(ころも)は ()めましを 御坂給(みさかたば)らば 真清(まさや)かに()

         早知如此者 當將吾夫所著裳 八鹽折染矣 若摺彼衣色深濃 過御坂時可顯見

        妻物部刀自賣 4424

           右一首,妻物部刀自賣。

           二月廿九日,武藏國部領防人使掾正六位上安曇宿禰三國進歌數廿首。但拙劣歌者不取載之。



    4425 【昔年防人歌,八首第一。】

       佐伎毛利爾 由久波多我世登 刀布比登乎 美流我登毛之佐 毛乃母比毛世受

       防人(さきもり)に ()くは()()と ()(ひと)を ()るが(とも)しさ 物思(ものもひ)もせず

         每見閒人問 此去防人誰夫哉 言者雖無意 聽者有心我稱羨 妒其無須憂別離

        防人妻 4425


    4426 【承前,八首第二。】

       阿米都之乃 可未爾奴佐於伎 伊波比都都 伊麻世和我世奈 阿禮乎之毛波婆

       天地(あめつし)の (かみ)幣置(ぬさお)き (いは)ひつつ (いま)()()な (あれ)をし()はば

         宇宙六合間 天神地祇八百萬 奉幣禱無恙 啟行可去吾夫子 只須常念偲妾身

        防人妻 4426


    4427 【承前,八首第三。】

       伊波乃伊毛呂 和乎之乃布良之 麻由須比爾 由須比之比毛乃 登久良久毛倍婆

       家妹(いはのいも)ろ ()(しの)ふらし 真結(まゆす)ひに (ゆす)ひし(ひも)の ()くらく()へば

         居家吾愛妻 蓋沉相思念吾哉 每見堅真結 所繫衣紐自解者 不覺如是有所思

        防人 4427


    4428 【承前,八首第四。】

       和我世奈乎 都久志波夜利弖 宇都久之美 叡比波登加奈奈 阿夜爾可毛禰牟

       ()()なを 筑紫(つくし)()りて (うつく)しみ (えひ)()()な あやにかも()

         愛也吾夫子 許汝遣去筑紫洲 惜也哀憐兮 不解結紐守信誓 輾轉難眠獨寢哉

        防人妻 4428


    4429 【承前,八首第五。】

       宇麻夜奈流 奈波多都古麻乃 於久流我弁 伊毛我伊比之乎 於岐弖可奈之毛

       (うまや)なる 繩立(なはた)(こま)の (おく)るがへ (いも)()ひしを ()きて(かな)しも

         洽猶廄繩斷 脫韁野馬之所如 啟徒留居哉 雖然愛妻訴此言 仍留故土悲來矣

        防人 4429


    4430 【承前,八首第六。】

       阿良之乎乃 伊乎佐太波佐美 牟可比多知 可奈流麻之都美 伊埿弖登阿我久流

       (あら)()の いを矢手挾(さたはさ)み 向立(むかひた)ち かなるま(しづ)み (いで)てと()()

         壯士荒益男 手執弓弭夾箭矢 指的之所如 喧囂聲響沉靜後 離於家門來此矣

        防人 4430


    4431 【承前,八首第七。】

       佐左賀波乃 佐也久志毛用爾 奈奈弁加流 去呂毛爾麻世流 古侶賀波太波毛

       (ささ)()の (さや)霜夜(しもよ)に 七重著(ななへか)る (ころも)()せる ()ろが(はだ)はも

         小竹笹葉之 嘈嘈騷鳴霜夜間 較襲著七重 衣裳之疇暖更勝 愛妻柔肌令人慕

        防人 4431


    4432 【承前,八首第八。】

       佐弁奈弁奴 美許登爾阿禮婆 可奈之伊毛我 多麻久良波奈禮 阿夜爾可奈之毛

       ()へなへぬ (みこと)()れば (かな)(いも)が 手枕離(たまくらはな)れ (あや)(かな)しも

         宸旨不得違 恪遵如山聖命故 憐也吾愛妻 離汝手枕負任去 遠道來此甚傷悲

        防人 4432

           右八首,昔年防人歌矣。主典刑部少錄正七位上磐余伊美吉諸君抄寫,贈兵部少輔大伴宿禰家持。



    4433 三月三日,檢校防人敕使并兵部使人等同集飲宴作歌三首

       阿佐奈佐奈 安我流比婆理爾 奈里弖之可 美也古爾由伎弖 波夜加弊里許牟

       (あさ)()な (あが)雲雀(ひばり)に (なり)てしか (みやこ)()きて 早歸來(はやかへりこ)

         朝朝拂曉時 舞上大空雲雀矣 吾人有所思 若得身化其雀者 可赴都城早歸來

        安倍沙美麻呂 4433

           右一首,敕使紫微大弼安倍沙美麻呂朝臣。



    4434 【承前。】

       比婆里安我流 波流弊等佐夜爾 奈理奴禮波 美夜古母美要受 可須美多奈妣久

       雲雀上(ひばりあが)る (はる)へと(さや)に (なり)ぬれば (みやこ)()えず 霞棚引(かすみたなびく)

         每逢雲雀之 舞上大空新春日 顯然臨來者 望眼不得見都城 春霞籠罩迷濛矣

        大伴家持 4434


    4435 【承前。】

       布敷賣里之 波奈乃波自米爾 許之和禮夜 知里奈牟能知爾 美夜古敝由可無

       (ふふ)めりし 花初(はなのはじめ)に ()(われ)や ()りなむ(のち)に (みやこ)()かむ

         當其妍花之 含苞未放當初時 遠道來此矣 蓋在散華零落後 方得還都再覽哉

        大伴家持 4435

           右二首,兵部使少輔大伴宿禰家持。



    4436 昔年相替防人歌一首

       夜未乃欲能 由久左伎之良受 由久和禮乎 伊都伎麻佐牟等 登比之古良波母

       闇夜(やみのよ)の 行先知(ゆくさきし)らず ()(われ)を 何時來坐(いつきま)さむと ()ひし子等(こら)はも

         黯淡夜無光 昏天黑地道難辨 啟程赴遠任 此君一去何時還 臨別相問吾妻矣

        防人 4436


    4437 先太上天皇御製霍公鳥歌一首 【日本根子高瑞日清足姬天皇也。】

       富等登藝須 奈保毛奈賀那牟 母等都比等 可氣都都母等奈 安乎禰之奈久母

       霍公鳥(ほととぎす) (なほ)()かなむ (もと)(ひと) ()けつつ元無(もとな) ()()()くも

         杜鵑霍公鳥 冀汝尚鳴更高啼 令心懸故人 不覺聲喚往逝者 我命嚎啕哭泣矣

        元正天皇 4437


    4438 薩妙觀應詔奉和歌一首

       保等登藝須 許許爾知可久乎 伎奈伎弖余 須疑奈无能知爾 之流志安良米夜母

       霍公鳥(ほととぎす) 此處(ここ)(ちか)くを 來鳴(きな)きてよ ()ぎなむ(のち)に 驗有(しるしあ)らめやも

         杜鵑霍公鳥 冀汝在吾應詔時 可以來鳴矣 待汝離此而去後 縱令高鳴豈有驗

        薩妙觀 4438


    4439 冬日幸于靱負御井之時,內命婦石川朝臣應詔賦雪歌一首 【諱曰邑婆。】

       麻都我延乃 都知爾都久麻埿 布流由伎乎 美受弖也伊毛我 許母里乎流良牟

       松枝(まつがえ)の (つち)()(まで) 降雪(ふるゆき)を ()ずてや(いも)が 隱居(こもりを)るらむ

         縱然松枝者 不堪重荷著於土 零雪如此許 愛也吾妹未見之 隱居深窗閉戶哉

        石川郎女 4439

           于時,水主內親王寢膳不安,累日不參。因以此日,太上天皇(元正帝)敕侍嬬等曰:「為遣水主內親王,賦雪作歌奉獻。」者。於是,諸命婦等不堪作歌,而此石川命婦,獨此歌奏之。

           右件四首,上總國大掾正六位上大原真人今城傳誦云爾。【年月未詳。】



    4440 上總國朝集使大掾大原真人今城向京之時,郡司妻女等餞之歌二首

       安之我良乃 夜敝也麻故要弖 伊麻之奈波 多禮乎可伎美等 彌都都志努波牟

       足柄(あしがら)の 八重山越(やへやまこ)えて いましなば (たれ)をか(きみ)と ()つつ(しの)はむ

         一旦越相模 足柄八重山之後 相隔兩異地 當以誰人為緣物 睹之騁偲戀汝哉

        上總國郡司妻 4440


    4441 【承前。】

       多知之奈布 伎美我須我多乎 和須禮受波 與能可藝里爾夜 故非和多里奈無

       立撓(たちしな)ふ (きみ)姿(すがた)を (わす)れずは 世限(よのかぎ)りにや 戀渡(こひわた)りなむ

         溫柔且婉約 愛也吾君光儀矣 若不能忘之 必然刻骨永銘心 戀至海枯石爛時

        上總國郡司妻 4441


    4442 五月九日,兵部少輔大伴宿禰家持之宅集宴歌四首 【四首第一。】

       和我勢故我 夜度乃奈弖之故 比奈良倍弖 安米波布禮杼母 伊呂毛可波良受

       ()背子(せこ)が 宿撫子(やどのなでしこ) 日並(ひなら)べて (あめ)()れども (いろ)(かは)らず

         愛也吾兄子 其苑所植撫子矣 雖然霪雨者 日以繼日降綿綿 依然如故不改色

        大原今城 4442

           右一首,大原真人今城。



    4443 【承前,四首第二。】

       比佐可多能 安米波布里之久 奈弖之故我 伊夜波都波奈爾 故非之伎和我勢

       久方(ひさかた)の (あめ)降頻(ふりし)く 撫子(なでしこ)が 彌初花(いやはつはな)に (こひ)しき()()

         雖然久方兮 霪雨不斷降綿綿 然猶撫子之 初花彌更增鮮感 令人仰慕吾兄矣

        大伴家持 4443

           右一首,大伴宿禰家持。



    4444 【承前,四首第三。】

       和我世故我 夜度奈流波疑乃 波奈佐可牟 安伎能由布敝波 和禮乎之努波世

       ()背子(せこ)が 宿(やど)なる(はぎ)の 花咲(はなさ)かむ 秋夕(あきのゆふへ)は (われ)(しの)はせ

         愛也吾兄子 苑中秋萩芽子花 所以盛咲之 金風玉露秋夕間 可以翫華偲吾身

        大原今城 4444

           右一首,大原真人今城。



    4445 即聞鸎哢作歌一首 【承前,四首第四。】

       宇具比須乃 許惠波須疑奴等 於毛倍杼母 之美爾之許己呂 奈保古非爾家里

       (うぐひす)の (こゑ)()ぎぬと (おも)へども (しみ)にし(こころ) 猶戀(なほこ)ひにけり

         雖念黃鶯之 交相爭鳴時已過 然返省諸己 此情難忘沁身心 猶戀不止慕無盡

        大伴家持 4445

           右一首,大伴宿禰家持。



    4446 同月十一日,左大臣橘卿宴右大辨丹比國人真人之宅歌三首

       和我夜度爾 佐家流奈弖之故 麻比波勢牟 由米波奈知流奈 伊也乎知爾左家

       ()宿(やど)に ()ける撫子(なでしこ) (まひ)はせむ 努花散(ゆめはなち)() 彌若返(いやをち)()

         吾庭屋戶間 所咲石竹撫子花 我賂無所惜 冀汝常盛莫零落 返老還茂更咲華

        丹比國人 4446

           右一首,丹比國人真人壽左大臣歌。



    4447 【承前。】

       麻比之都都 伎美我於保世流 奈弖之故我 波奈乃未等波無 伎美奈良奈久爾

       (まひ)しつつ (きみ)()ほせる 撫子(なでしこ)が (はな)のみ()はむ (きみ)なら()くに

         無微不至而 吾君細心之所育 石竹撫子花 雖然木花易移落 吾身情誼堅不渝

        橘諸兄 4447

           右一首,左大臣和歌。



    4448 【承前。】

       安治佐為能 夜敝佐久其等久 夜都與爾乎 伊麻世和我勢故 美都都思努波牟

       紫陽花(あぢさゐ)の 八重咲(やへさ)(ごと)く 八代(やつよ)にを 居坐我(いませわ)背子(せこ) ()つつ(しの)はむ

         洽猶紫陽花 盛咲八重之所如 榮華亙八代 無恙長生吾兄子 每見彼花偲吾君

        橘諸兄 4448

           右一首,左大臣寄味狹藍花詠也。



    4449 十八日,左大臣宴於兵部卿橘奈良麻呂朝臣之宅歌三首

       奈弖之故我 波奈等里母知弖 宇都良宇都良 美麻久能富之伎 吉美爾母安流加母

       撫子(なでしこ)が 花取持(はなとりも)ちて 驗驗(うつらうつら) ()まくの()しき (きみ)にもあるかも

         洽猶手折枝 取持石竹撫子花 賞翫之所如 願能仔細以端詳 愛也兄子吾君矣

        船王 4449

           右一首,治部卿船王。



    4450 【承前。】

       和我勢故我 夜度能奈弖之故 知良米也母 伊夜波都波奈爾 佐伎波麻須等母

       ()背子(せこ)が 宿撫子(やどのなでしこ) ()らめやも 彌初花(いやはつはな)に ()きは()すとも

         愛也吾兄子 苑中石竹撫子花 豈將凋零哉 初花彌更增鮮感 絢爛咲華更盛矣

        大伴家持 4450


    4451 【承前。】

       宇流波之美 安我毛布伎美波 奈弖之故我 波奈爾奈蘇倍弖 美禮杼安可奴香母

       (うるは)しみ ()()(きみ)は 撫子(なでしこ)が (はな)(なそ)へて ()れど()かぬかも

         心懸愛憐兮 朝思暮想所思君 今以石竹之 撫子之華擬汝姿 翫之思人未嘗厭

        大伴家持 4451

           右二首,兵部少輔大伴宿禰家持追作。



    4452 八月十三日,在內南安殿,肆宴歌二首

       乎等賣良我 多麻毛須蘇婢久 許能爾波爾 安伎可是不吉弖 波奈波知里都都

       娘子等(をとめら)が 玉裳裾引(たまもすそび)く 此庭(このには)に 秋風吹(あきかぜふ)きて (はな)()りつつ

         窈窕娘子等 身披晶瑩玉裳裾 拖曳此庭間 蕭瑟秋風拂不斷 摧花零落凋散華

        安宿王 4452

           右一首,內匠頭兼播磨守正四位下安宿王奏之。



    4453 【承前。】

       安吉加是能 布伎古吉之家流 波奈能爾波 伎欲伎都久欲仁 美禮杼安賀奴香母

       秋風(あきかぜ)の 吹扱敷(ふきこきし)ける 花庭(はなのには) 清月夜(きよきつくよ)に ()れど()かぬかも

         蕭瑟秋風之 所以拂落散一地 散華花庭矣 清朗月夜映照而 見之百遍亦不厭

        大伴家持 4453

           右一首,兵部少輔從五位上大伴宿禰家持。【未奏。】



    4454 十一月廿八日,左大臣集於兵部卿橘奈良麻呂朝臣宅宴歌一首

       高山乃 伊波保爾於布流 須我乃根能 禰母許呂其呂爾 布里於久白雪

       高山(たかやま)の (いはほ)()ふる (すがのね)の (ねもころごろ)に 降置(ふりお)白雪(しらゆき)

         足曳勢險峻 高山巖磐所叢生 菅根之所如 慇懃誠懇無餘處 零落降置白雪矣

        橘諸兄 4454

           右一首,左大臣作。



    4455 天平元年班田之時,使葛城王從山背國贈薩妙觀命婦等所歌一首 【副芹子裹。】

       安可禰左須 比流波多多婢弖 奴婆多麻乃 欲流乃伊刀末仁 都賣流芹子許禮

       茜日射(あかねさ)す (ひる)田賜(たた)びて 烏玉(ぬばたま)の 夜暇(よるのいとま)に ()める芹此(せりこ)

         斜暉茜日射 晝間忙於班田事 漆黑烏玉兮 夜晚人靜閒暇時 所摘芹子此是也

        橘諸兄 4455


    4456 薩妙觀命婦報贈歌一首

       麻須良乎等 於毛敝流母能乎 多知波吉弖 可爾波乃多為爾 世理曾都美家流

       大夫(ますらを)と (おも)へる(もの)を 太刀佩(たちは)きて 可爾波田居(かにはのたゐ)に (せり)()みける

         喜出望外矣 未料大夫壯士者 竟佩劍太刀 入可爾波田居間 躬身以摘芹子也

        薩妙觀 4456

           右二首,左大臣讀之云爾。【左大臣是葛城王,後賜橘姓也。】



    4457 天平勝寶八歲丙申二月朔乙酉廿四日戊申,太上天皇、天皇、大后幸行於河內離宮,經信以壬子傳幸於難波宮也。三月七日,於河內國伎人鄉馬國人之家宴歌三首

       須美乃江能 波麻末都我根乃 之多婆倍弖 和我見流乎努能 久佐奈加利曾禰

       住吉(すみのえ)の 濱松(はままつ)()の 下延(したは)へて ()()小野(をの)の 草莫刈(くさなか)りそね

         墨江住吉之 濱松深根之所如 下延繫赤心 吾人觀望小野之 所生草者莫苅矣

        大伴家持 4457

           右一首,兵部少輔大伴宿禰家持。



    4458 【承前。○新敕撰0938。】

       爾保杼里乃 於吉奈我河波半 多延奴等母 伎美爾可多良武 己等都奇米也母 【古新未詳。】

       鳰鳥(にほどり)の 息長川(おきながかは)は ()えぬとも (きみ)(かた)らむ 言盡(ことつ)きめやも 【古新未詳(ふるいましらず)。】

         鸊鷉鳰鳥兮 縱然天野息長川 或有涸絕日 然吾與君所相語 字句豈有言盡時 【古新未詳。】

        馬國人 4458

           右一首,主人散位寮散位馬史國人。



    4459 【承前。】

       蘆苅爾 保里江許具奈流 可治能於等波 於保美也比等能 未奈伎久麻泥爾

       葦苅(あしか)りに 堀江漕(ほりえこ)ぐなる 梶音(かぢのおと)は 大宮人(おほみやひと)の 皆聞(みなき)(まで)

         奉為苅蘆葦 漕舟浮水溯堀江 榜船梶音者 縱令百敷御殿上 大宮人等皆可聞

        大伴池主 4459

           右一首,式部少丞大伴宿禰池主讀之。即云:「兵部大丞大原真人今城,先日他所讀歌者也。」



    4460 【大伴家持依興作歌,五首第一。】

       保利江己具 伊豆手乃船乃 可治都久米 於等之婆多知奴 美乎波也美加母

       堀江漕(ほりえこ)ぐ 伊豆手舟(いづてのふね)の 梶付目(かぢつくめ) (おと)しば()ちぬ 水脈早(みをはや)みかも

         榜船漕堀江 浮水伊豆手舟之 速緒付目矣 其音頻立何所以 蓋是水脈澪速哉

        大伴家持 4460


    4461 【承前,五首第二。】

       保里江欲利 美乎左香能保流 梶音乃 麻奈久曾奈良波 古非之可利家留

       堀江(ほりえ)より 水脈溯(みをさかのぼ)る 梶音(かぢのおと)の 間無(まな)くそ奈良(なら)は (こひ)しかりける

         自難波堀江 循其水脈而溯上 浮水榜船之 梶音無間之所如 吾戀奈良情寔繁

        大伴家持 4461


    4462 【承前,五首第三。】

       布奈藝保布 保利江乃可波乃 美奈伎波爾 伎為都都奈久波 美夜故杼里香蒙

       舟競(ふなぎほ)ふ 堀江川(ほりえのかは)の 水際(みなきは)に 來居(きゐ)つつ()くは 都鳥(みやこどり)かも

         爭先恐後兮 輕泛疾行馳競舟 堀江水際間 所以來居鳴啼者 蓋是鷖鷗都鳥矣

        大伴家持 4462

           右三首,江邊作之。



    4463 【承前,五首第四。】

       保等登藝須 麻豆奈久安佐氣 伊可爾世婆 和我加度須疑自 可多利都具麻埿

       霍公鳥(ほととぎす) 先鳴(まづな)朝明(あさけ) 如何(いか)()ば ()門過(かどす)ぎじ 語繼(かたりつ)(まで)

         杜鵑霍公鳥 率先高啼朝明時 應為何如者 得莫過門不入哉 傳詠語繼至萬代

        大伴家持 4463


    4464 【承前,五首第五。】

       保等登藝須 可氣都都伎美我 麻都可氣爾 比毛等伎佐久流 都奇知可都伎奴

       霍公鳥(ほととぎす) ()けつつ(きみ)が 松蔭(まつかげ)に 紐解放(ひもときさ)くる 月近付(つきちかづ)きぬ

         心懸霍公鳥 朝思暮想吾君者 久待松蔭下 寬衣解紐欲酣飲 遊樂宴月將近矣

        大伴家持 4464

           右二首,廿日大伴宿禰家持依興作之。



    4465 喻族歌一首 【并短歌。】

       比左加多能 安麻能刀比良伎 多可知保乃 多氣爾阿毛理之 須賣呂伎能 可未能御代欲利 波自由美乎 多爾藝利母多之 麻可胡也乎 多婆左美蘇倍弖 於保久米能 麻須良多祁乎乎 佐吉爾多弖 由伎登利於保世 山河乎 伊波禰左久美弖 布美等保利 久爾麻藝之都都 知波夜夫流 神乎許等牟氣 麻都呂倍奴 比等乎母夜波之 波吉伎欲米 都可倍麻都里弖 安吉豆之萬 夜萬登能久爾乃 可之波良能 宇禰備乃宮爾 美也婆之良 布刀之利多弖氐 安米能之多 之良志賣之祁流 須賣呂伎能 安麻能日繼等 都藝弖久流 伎美能御代御代 加久左波奴 安加吉許己呂乎 須賣良弊爾 伎波米都久之弖 都加倍久流 於夜能都可佐等 許等太弖氐 佐豆氣多麻敝流 宇美乃古能 伊也都藝都岐爾 美流比等乃 可多里都藝弖氐 伎久比等能 可我見爾世武乎 安多良之伎 吉用伎曾乃名曾 於煩呂加爾 己許呂於母比弖 牟奈許等母 於夜乃名多都奈 大伴乃 宇治等名爾於敝流 麻須良乎能等母

       久方(ひさかた)の 天門開(あまのとひら)き 高千穗(たかちほ)の (たけ)天降(あもり)し 皇祖(すめろき)の 神御代(かみのみよ)より 黃櫨弓(はじゆみ)を 手握持(たにぎりも)たし 真鹿兒矢(まかごや)を 手挾添(たばさみそ)へて 大久米(おほくめ)の 壯士健男(ますらたけを)を (さき)()て 靫取負(ゆきとりおほ)せ 山川(やまかは)を 岩根踏分(いはねさく)みて 踏通(ふみとほ)り 國求(くにま)ぎしつつ 千早振(ちはやぶ)る (かみ)言向(ことむ)け (まつろ)はぬ (ひと)をも(やは)し 掃清(はききよ)め 仕奉(つかへまつ)りて 蜻蛉島(あきづしま) 大和國(やまとのくに)の 橿原(かしはら)の 畝傍宮(うねびのみや)に 宮柱(みやばしら) 太知立(ふとしりた)てて 天下(あめのした) 知召(しらしめ)しける 天皇(すめろき)の 天日繼(あまのひつぎ)と (つぎ)()る 君御代御代(きみのみよみよ) (かく)さはぬ 明心(あかきこころ)を 皇邊(すめらへ)に 極盡(きはめつく)して 仕來(つかへく)る 祖職(おやのつかさ)と 言立(ことだ)てて 授賜(さづけたま)へる 子孫(うみのこ)の 彌繼繼(いやつぎつぎ)に 見人(みるひと)の 語次(かたりつぎ)てて 聞人(きくひと)の (かがみ)()むを (あたら)しき 清其名(きよきそのな)そ (おぼろ)かに 心思(こころおも)ひて 空言(むなこと)も 祖名絕(おやのなた)() 大伴(おほとも)の (うぢ)()(おへ)る 大夫伴(ますらをのとも)

         遙遙久方兮 引開天磐戶門扉 天降筑紫洲 日向高千穗之嶽 皇祖與皇宗 自於嚴神御代起 先取黃櫨弓 手握持起蹈堅庭 復抽真鹿兒矢 手挾添彇接弦上 來目大久米 益荒壯士健男矣 先驅立於前 取負千五百箭靫 更將山川之 岩磐踏裂而陷股 蹈通以蹴散 尋求可安住國矣 千早振稜威 平伏宣撫荒惡神 不從皇化兮 弭和逆君眾人等 掃討靡千軍 鞠躬盡瘁恭奉仕 蜻蛉秋津島 虛空見兮大和國 在於畝傍之 峻峙搏風橿原宮 於底磐之根 太立宮柱弘大業 天下六合間 八紘為宇馭乾坤 天皇顯人神 天津日繼續皇統 繼承傳來之 聖君綿延御代矣 無曇亦無瑕 清澈明淨赤誠心 堅守戍皇邊 死而後已盡其極 如是奉仕來 源遠流傳祖職也 明言告天下 依囑授賜託重任 子子孫孫之 八十聯綿胤此職 凡所見人者 口耳相傳語繼矣 凡所聞人者 永銘方寸為殷鑑 赫奕榮耀之 可敬清譽彼家名 縱令朦朧而 稍微忖量心思而 縱令為空言 千萬莫令祖名絕 名負天忍日 神別裔胤大伴氏 大夫壯士伴緒矣

        大伴家持 4465


    4466 【承前,反歌其一。】

       之奇志麻乃 夜末等能久爾爾 安伎良氣伎 名爾於布等毛能乎 己許呂都刀米與

       磯城島(しきしま)の 大和國(やまとのくに)に (あき)らけき ()()伴緒(とものを) 心努(こころつと)めよ

         秋津磯城島 細戈千足大和國 公明無私心 名負大伴氏緒者 汝當慎之莫怠矣

        大伴家持 4466


    4467 【承前,反歌其二。】

       都流藝多知 伊與餘刀具倍之 伊爾之敝由 佐夜氣久於比弖 伎爾之曾乃名曾

       劍太刀(つるぎたち) 愈研(いよよと)ぐべし (いにしへ)ゆ (さや)けく()ひて ()にし其名(そのな)

         韴稜劍太刀 琢磨砥礪愈研澄 自古曩昔時 肩負清冽大伴氏 聯綿而來祖名矣

        大伴家持 4467

           右,緣淡海真人三船讒言,出雲守大伴古慈斐宿禰解任。是以家持作此歌也。



    4468 臥病悲無常,欲脩道作歌二首

       宇都世美波 加受奈吉身奈利 夜麻加波乃 佐夜氣吉見都都 美知乎多豆禰奈

       空蟬(うつせみ)は 數無(かずな)身也(みなり) 山川(やまかは)の (さや)けき()つつ (みち)(たづ)ねな

         空蟬凡軀者 石火光中俗身也 須臾此命短 當離喧囂遁山川 覽清勝景求道矣

        大伴家持 4468


    4469 【承前。】

       和多流日能 加氣爾伎保比弖 多豆禰弖奈 伎欲吉曾能美知 末多母安波無多米

       渡日(わたるひ)の (かげ)(きほ)ひて (たづ)ねてな 清其道(きよきそのみち) (また)()はむ(ため)

         常惜光陰逝 競與渡日月影而 誠心尋求矣 委身澄明其佛道 奉為來世復相逢

        大伴家持 4469


    4470 願壽作歌一首

       美都煩奈須 可禮流身曾等波 之禮禮杼母 奈保之禰我比都 知等世能伊乃知乎

       水泡為(みつぼな)す ()れる()そとは ()れれども (なほ)(ねが)ひつ 千年命(ちとせのいのち)

         水沫之所如 虛無飄渺此俗身 雖知命須臾 猶願延年得益壽 謹乞松鶴千齡命

        大伴家持 4470

           以前歌六首,六月十七日大伴宿禰家持作。



    4471 冬十一月五日夜,小雷起鳴,雪落覆庭。忽懷感憐,聊作短歌一首

       氣能己里能 由伎爾安倍弖流 安之比奇乃 夜麻多知婆奈乎 都刀爾通彌許奈

       消殘(けのこ)りの (ゆき)合照(あへて)る 足引(あしひき)の 山橘(やまたちばな)を (つと)摘來(つみこ)

         消融仍未盡 斑駁殘雪相照映 足曳勢險峻 暉耀透紅山橘者 摘來為裹以饋贈

        大伴家持 4471

           右一首,兵部少輔大伴宿禰家持。



    4472 八日,讚岐守安宿王等集於出雲掾安宿奈杼麻呂之家宴歌二首

       於保吉美乃 美許登加之古美 於保乃宇良乎 曾我比爾美都都 美也古敝能保流

       大君(おほきみ)の 命恐(みことかしこ)み 大浦(おほのうら)を 背向(そがひ)()つつ (みやこ)(のぼ)

         大君敕命重 誠惶誠恐遵宸旨 心懸伊人而 背向大浦遙望而 遠赴都城蹈滄溟

        安宿奈杼麻呂 4472

           右,掾安宿奈杼麻呂。



    4473 【承前。】

       宇知比左須 美也古乃比等爾 都氣麻久波 美之比乃其等久 安里等都氣己曾

       內日射(うちひさ)す 都人(みやこのひと)に ()げまくは ()()(ごと)く (あり)()げこそ

         內日照臨兮 欲告皇城都中人 令其能知悉 相去以來享清平 我身無恙猶別日

        山背王 4473

           右一首,守山背王歌也。主人安宿奈杼麻呂語云:「奈杼麻呂被差朝集使,擬入京師,因此餞之日,各作歌,聊陳所心也。」



    4474 【兵部少輔大伴家持後日追和出雲守山背王歌。】

       武良等里乃 安佐太知伊爾之 伎美我宇倍波 左夜加爾伎吉都 於毛比之其等久【一云,於毛比之母乃乎。】

       群鳥(むらどり)の 朝立去(あさだちい)にし (きみ)(うへ)は (さや)かに()きつ (おも)ひし(ごと)一云(またにいふ)(おも)ひし(もの)を。】

         群鳥搏翅兮 晨曦啟程飛去矣 君身消息者 清晰嘹亮聲可聞 與吾所思無異也【一云,欣慰無足掛心矣。】

        大伴家持 4474

           右一首,兵部少輔大伴宿禰家持後日追和出雲守山背王歌作之。



    4475 廿三日,集於式部少丞大伴宿禰池主之宅飲宴歌二首

       波都由伎波 知敝爾布里之家 故非之久能 於保加流和禮波 美都都之努波牟

       初雪(はつゆき)は 千重(ちへ)()りしけ (こひ)しくの (おほ)かる(われ)は ()つつ(しの)はむ

         細沫初雪者 紛紛降置敷千重 戀慕情泉湧 相思不止積深邃 望彼積雪騁所偲

        大原今城 4475


    4476 【承前。】

       於久夜麻能 之伎美我波奈能 奈能其等也 之久之久伎美爾 故非和多利奈無

       奧山(おくやま)の (しきみ)(はな)の 名如(なのごと)や 頻頻君(しくしくきみ)に 戀渡(こひわた)りなむ

         深邃奧山間 所咲木蓮樒華矣 洽猶其花名 吾身頻頻情泉湧 思君戀慕渡終日

        大原今城 4476

           右二首,兵部大丞大原真人今城。



    4477 智努女王卒後,圓方女王悲傷作歌一首

       由布義理爾 知杼里乃奈吉志 佐保治乎婆 安良之也之弖牟 美流與之乎奈美

       夕霧(ゆふぎり)に 千鳥鳴(ちどりのな)きし 佐保路(さほぢ)をば (あら)しやしてむ 見由(みるよし)()

         夕霧瀰漫間 千鳥喧囂爭鳴啼 佐保道也者 自當益加荒廢哉 以我無由得訪矣

        圓方女王 4477


    4478 大原櫻井真人行佐保川邊之時作歌一首

       佐保河波爾 許保里和多禮流 宇須良婢乃 宇須伎許己呂乎 和我於毛波奈久爾

       佐保川(さほがは)に 凍渡(こほりわた)れる 薄冰(うすらび)の 薄心(うすきこころ)を ()(おも)()くに

         大和佐保川 河上凍結渡一面 薄冰之所如 猶是薄心豈有哉 吾人慕情甚深切

        大原櫻井 4478


    4479 藤原夫人歌一首 【淨御原宮御宇(天武)天皇之夫人也。字曰冰上大刀自也。】

       安佐欲比爾 禰能未之奈氣婆 夜伎多知能 刀其己呂毛安禮波 於母比加禰都毛

       朝夕(あさよひ)に ()のみし()けば 燒太刀(やきたち)の 利心(とごころ)(あれ)は 思兼(おもひか)ねつも

         朝朝暮暮間 放聲號哭泣不斷 百鍊燒大刀 利心盡失理性喪 哀傷不已殆毀滅

        藤原冰上夫人 4479


    4480 【作者未詳歌。】

       可之故伎也 安米乃美加度乎 可氣都禮婆 禰能未之奈加由 安佐欲比爾之弖 【作者未詳。】

       (かしこ)きや 天御門(あめのみかど)を ()けつれば ()のみし()かゆ 朝夕(あさよひ)にして 【作者未詳(よみひとしらず)。】

         誠惶誠恐兮 每逢心懸天御門 吾皇聖君者 放聲號哭泣不斷 朝夕哀愁渡終日 【作者未詳。】

        佚名 4480

           右件四首,傳讀兵部大丞大原今城。



    4481 三月四日,於兵部大丞大原真人今城之宅宴歌一首

       安之比奇能 夜都乎乃都婆吉 都良都良爾 美等母安可米也 宇惠弖家流伎美

       足引(あしひき)の 八峰椿(やつをのつばき) (つらつら)に ()とも()かめや ()ゑてける(きみ)

         足曳勢險峻 重巒八峰海石榴 瞗然熟視而 見之百遍未嘗厭 植此椿華吾君矣

        大伴家持 4481

           右,兵部少輔大伴家持屬植椿作。



    4482 【播磨介藤原朝臣執弓赴任悲別歌。】

       保里延故要 等保伎佐刀麻弖 於久利家流 伎美我許己呂波 和須良由麻之自

       堀江越(ほりえこ)え 遠里迄(とほきさとまで) 送來(おくりけ)る (きみ)(こころ)は (わす)らゆましじ

         渡越堀江而 跋涉來到此遠里 懇意餞別而 為吾送行君心者 必然無所忘矣哉

        藤原執弓 4482

           右一首,播磨介藤原朝臣執弓赴任悲別也。主人大原今城傳讀云爾。



    4483 勝寶九歲六月廿三日,於大監物三形王之宅宴歌一首

       宇都里由久 時見其登爾 許己呂伊多久 牟可之能比等之 於毛保由流加母

       移行(うつりゆ)く 時見(ときみ)(ごと)に 心痛(こころいた)く 昔人(むかしのひと)し (おも)ほゆるかも

         每見光陰之 時節遞嬗總無常 不覺心甚痛 何以哀愁至如此 憶及往昔故人也

        大伴家持 4483

           右,兵部大輔大伴宿禰家持作。



    4484 【大伴家持作歌二首。】

       佐久波奈波 宇都呂布等伎安里 安之比奇乃 夜麻須我乃禰之 奈我久波安利家里

       咲花(さくはな)は (うつ)ろふ時有(ときあり) 足引(あしひき)の 山菅根(やますがのね)し (なが)くはありけり

         妍哉咲花者 雖有凋謝移落時 足曳勢險峻 山菅貌雖非華美 其根長延久不斷

        大伴家持 4484

           右一首,大伴宿禰家持悲怜物色變化作之也。



    4485 【承前。】

       時花 伊夜米豆良之母 加久之許曾 賣之安伎良米晚 阿伎多都其等爾

       時花(ときのはな) 彌珍(いやめづ)らしも 如是(かく)しこそ ()(あき)らめめ 秋立(あきた)(ごと)

         四季時花矣 百變遞嬗惹人憐 不妨如是而 寬心賞翫盡歡愉 每逢氣爽立秋時

        大伴家持 4485

           右,大伴宿禰家持作之。



    4486 天平寶字元年十一月十八日,於內裏肆宴歌二首

       天地乎 弖良須日月乃 極奈久 阿流倍伎母能乎 奈爾乎加於毛波牟

       天地(あめつち)を ()らす日月(ひつき)の 極無(きはみな)く ()るべき(もの)を (なに)をか(おも)はむ

         天地六合間 普照日月之所如 理當無極限 九五之尊此身也 何不如意猶是哉

        大炊王 4486

           右一首,皇太子(淳仁帝)御歌。



    4487 【承前。】

       伊射子等毛 多波和射奈世曾 天地能 加多米之久爾曾 夜麻登之麻禰波

       去來子共(いざこども) 狂業莫為(たはわざなせ)そ 天地(あめつち)の (かた)めし(くに)そ 大和島根(やまとしまね)

         去來子等矣 莫為大逆狂業矣 天神地祇之 所以堅造此國矣 大和島根秀真國

        藤原仲麻呂 4487

           右一首,內相藤原朝臣(仲麻呂)奏之。



    4488 十二月十八日,於大監物三形王之宅宴歌三首

       三雪布流 布由波祁布能未 鸎乃 奈加牟春敝波 安須爾之安流良之

       御雪降(みゆきふ)る (ふゆ)今日(けふ)のみ (うぐひす)の ()かむ春邊(はるへ)は 明日(あす)にしあるらし

         御雪降紛紛 嚴冬迄於今日矣 黃鶯出谷兮 所以來鳴春日者 蓋於明日當臨也

        三形王 4488

           右一首,主人三形王。



    4489 【承前。】

       宇知奈婢久 波流乎知可美加 奴婆玉乃 己與比能都久欲 可須美多流良牟

       打靡(うちなび)く (はる)(ちか)みか 烏玉(ぬばたま)の 今宵月夜(こよひのつくよ) (かす)みたるらむ

         搖曳隨風動 向榮新春將近哉 漆黑烏玉兮 今宵玄天高掛者 雲霞所蔽朧月矣

        甘南備伊香 4489

           右一首,大藏大輔甘南備伊香真人。



    4490 【承前。】

       安良多末能 等之由伎我敝理 波流多多婆 末豆和我夜度爾 宇具比須波奈家

       (あらたま)の 年行返(としゆきがへ)り 春立(はるた)たば ()()宿(やど)に (うぐひす)()

         日新月異兮 一元復始年行返 若值立春時 冀汝率先來我宿 鳥囀高鳴黃鶯矣

        大伴家持 4490

           右一首,右中辨大伴宿禰家持。



    4491 【年月未詳歌。】

       於保吉宇美能 美奈曾己布可久 於毛比都都 毛婢伎奈良之思 須我波良能佐刀

       大海(おほきうみ)の 水底深(みなそこふか)く (おも)ひつつ 裳引平(もびきなら)しし 菅原里(すがはらのさと)

         洽猶大海之 水底深邃越千尋 賴慕情不止 拖曳裳裾通不絕 寧樂菅原里也矣

        石川女郎 4491

           右一首,藤原宿奈麻呂朝臣之妻石川女郎薄愛離別,悲恨作歌也。【年月未詳。】



    4492 廿三日,於治部少輔大原今城真人之宅宴歌一首

       都奇餘米婆 伊麻太冬奈里 之可須我爾 霞多奈婢久 波流多知奴等可

       月數(つきよ)めば (いま)冬也(ふゆなり) (しか)すがに 霞棚引(かすみたなびく) 春立(はるた)ちぬとか

         若讀曆法者 今日尚為歲內冬 然觀大塊者 雲霞棚引飄霏霺 實則已然立春哉

        大伴家持 4492

           右一首,右中辨大伴宿禰家持作。



    4493 二年春正月三日,召侍從豎子王臣等,令侍於內裏之東屋垣下,即賜玉箒肆宴。于時,內相藤原朝臣奉敕宣:「諸王卿等隨堪任意作歌并賦詩。」仍應詔旨,各陳心緒,作歌賦詩。【未得諸人之賦詩并作歌也。○新古今0708

       始春乃 波都禰乃家布能 多麻婆波伎 手爾等流可良爾 由良久多麻能乎

       初春(はつはる)の 初子今日(はつねのけふ)の 玉箒(たまばはき) ()()るからに ()らく玉緒(たまのを)

         初春正月間 初子今日侍垣下 受賜玉箒者 一旦稍觸手執而 玲瓏發響玉緒矣

        大伴家持 4493

           右一首,右中辨大伴宿禰家持作。但依大藏政,不堪奏之也。



    4494 【承前。】

       水鳥乃 可毛能羽能伊呂乃 青馬乎 家布美流比等波 可藝利奈之等伊布

       水鳥(みづとり)の 鴨羽色(かものはのいろ)の 青馬(あをうま)を 今日見(けふみ)(ひと)は 限無(かぎりな)しと()

         游弋水鳥兮 鴨之羽色耀濃綠 驄駒青馬矣 今日有幸得見者 萬壽無疆能長久

        大伴家持 4494

           右一首,為七日侍宴,右中辨大伴宿禰家持預作此歌。但依仁王會事,卻以六日於內裏召諸王卿等賜酒,肆宴給祿。因斯不奏也。



    4495 六日,內庭假植樹木以作林帷而,為肆宴歌一首

       打奈婢久 波流等毛之流久 宇具比須波 宇惠木之樹間乎 奈枳和多良奈牟

       打靡(うちなび)く (はる)とも(しる)く (うぐひす)は 植木木間(うゑきのこま)を 鳴渡(なきわた)らなむ

         搖曳隨風動 春光明媚甚灼然 出谷黃鶯者 林帷植樹彼木間 願汝臨來鳴渡矣

        大伴家持 4495

           右一首,右中辨大伴宿禰家持。【不奏。】



    4496 二月,於式部大輔中臣清麻呂朝臣之宅宴歌十五首 【十五第一。】

       宇良賣之久 伎美波母安流加 夜度乃烏梅能 知利須具流麻埿 美之米受安利家流

       (うら)めしく (きみ)はもあるか 宿梅(やどのうめ)の 散過(ちりす)ぐる(まで) ()しめずありける

         嗚呼哀哉兮 君是可恨無情郎 迄於汝宿間 庭梅凋零散盡止 未嘗延吾來見矣

        大原今城 4496

           右一首,治部少輔大原今城真人。



    4497 【承前,十五第二。】

       美牟等伊波婆 伊奈等伊波米也 宇梅乃波奈 知利須具流麻弖 伎美我伎麻左奴

       ()むと()はば (いな)()はめや 梅花(うめのはな) 散過(ちりす)ぐる(まで) (きみ)來坐(きま)さぬ

         若云欲見者 吾豈言否回絕哉 迄於吾宿間 庭梅凋零散盡時 君仍未曾來翫矣

        中臣清麻呂 4497

           右一首,主人中臣清麻呂朝臣。



    4498 【承前,十五第三。】

       波之伎余之 家布能安路自波 伊蘇麻都能 都禰爾伊麻佐禰 伊麻母美流其等

       ()しき()し 今日主人(けふのあろじ)は 礒松(いそまつ)の (つね)(いま)さね (いま)()(ごと)

         慕也愛憐兮 今日酣宴主人者 願能猶礒松 壽比南山恆長久 健朗永如今所見

        大伴家持 4498

           右一首,右中辨大伴宿禰家持。



    4499 【承前,十五第四。】

       和我勢故之 可久志伎許散婆 安米都知乃 可未乎許比能美 奈我久等曾於毛布

       ()背子(せこ)し 如是(かく)()こさば 天地(あめつち)の (かみ)乞禱(こひの)み (なが)くとそ(おも)

         愛也吾兄子 汝命如是所述者 吾欲潔齋而 恭祈天神與地祇 祝禱萬壽恆無疆

        中臣清麻呂 4499

           右一首,主人中臣清麻呂朝臣。



    4500 【承前,十五第五。】

       宇梅能波奈 香乎加具波之美 等保家杼母 己許呂母之努爾 伎美乎之曾於毛布

       梅花(うめのはな) ()(かぐは)しみ (とほ)けども (こころ)(しの)に (きみ)をしそ(おも)

         以彼梅花之 暗香浮動令人慕 雖處在遠方 此心神往無絕時 朝思暮想念吾君

        市原王 4500

           右一首,治部大輔市原王。



    4501 【承前,十五第六。】

       夜知久佐能 波奈波宇都呂布 等伎波奈流 麻都能左要太乎 和禮波牟須婆奈

       八千種(やちくさ)の (はな)(うつろ)ふ 常磐(ときは)なる 松小枝(まつのさえだ)を (われ)(むす)ばな

         雖然八千種 花草易移早凋零 此獨恒久遠 常磐彌盛松小枝 吾等手結祈冥貺

        大伴家持 4501

           右一首,右中辨大伴宿禰家持。



    4502 【承前,十五第七。】

       烏梅能波奈 左伎知流波流能 奈我伎比乎 美禮杼母安加奴 伊蘇爾母安流香母

       梅花(うめのはな) 咲散(さきち)(はる)の 長日(ながきひ)を ()れども()かぬ (いそ)にもあるかも

         清香白梅咲 花開花落陽春之 和煦長日間 一再觀翫未嘗厭 美哉勝景此庭磯

        甘南備伊香 4502

           右一首,大藏大輔甘南備伊香真人。



    4503 【承前,十五第八。】

       伎美我伊敝能 伊氣乃之良奈美 伊蘇爾與世 之婆之婆美等母 安加無伎彌加毛

       (きみ)(いへ)の 池白浪(いけのしらなみ) (いそ)()せ 屢見(しばしばみ)とも ()かむ(きみ)かも

         參來君宅宴 苑池白波寄庭磯 頻浪之所如 雖然屢見未嘗厭 朝思暮想吾君矣

        大伴家持 4503

           右一首,右中辨大伴宿禰家持。



    4504 【承前,十五第九。】

       宇流波之等 阿我毛布伎美波 伊也比家爾 伎末勢和我世古 多由流日奈之爾

       (うるは)しと ()思君(もふきみ)は 彌日異(いやひけ)に 來坐(きま)()背子(せこ) ()ゆる日無(ひな)しに

         景仰敬愛兮 朝思暮想吾念君 願汝能日日 臨來寒舍我兄子 不斷相訪無絕日

        中臣清麻呂 4504

           右一首,主人中臣清麻呂朝臣。



    4505 【承前,十五第十。】

       伊蘇能宇良爾 都禰欲比伎須牟 乎之杼里能 乎之伎安我未波 伎美我末仁麻爾

       礒裏(いそのうら)に 常夜日來住(つねよびきす)む 鴛鴦(をしどり)の ()しき()()は (きみ)(まにま)

         荒磯礁陰處 晝夜繁來常棲息 鴛鴦之所如 嗚呼哉我此身 隨君任意無所懼

        大原今城 4505

           右一首,治部少輔大原今城真人。



    4506 依興,各思高圓離宮處作歌五首 【十五十一。】

       多加麻刀能 努乃宇倍能美也波 安禮爾家里 多多志志伎美能 美與等保曾氣婆

       高圓(たかまと)の 野上宮(ののうへのみや)は ()れにけり ()たしし(きみ)の 御代遠(みよとほ)そけば

         足曳勢險峻 高圓野上離宮者 荒煙漫草溢 離於先帝常遊幸 聖武御世既遠矣

        大伴家持 4506

           右一首,右中辨大伴宿禰家持。



    4507 【承前,十五十二。】

       多加麻刀能 乎能宇倍乃美也波 安禮奴等母 多多志志伎美能 美奈和須禮米也

       高圓(たかまと)の 峰上宮(をのうへのみや)は ()れぬとも ()たしし(きみ)の 御名忘(みなわす)れめや

         足曳勢險峻 雖然高圓峰上宮 荒煙漫草溢 然而常蒞遊幸之 先帝御名豈忘哉

        大原今城 4507

           右一首,治部少輔大原今城真人。



    4508 【承前,十五十三。】

       多可麻刀能 努敝波布久受乃 須惠都比爾 知與爾和須禮牟 和我於保伎美加母

       高圓(たかまと)の 野邊延葛(のへはふくず)の 末遂(すゑつひ)に 千代(ちよ)(わす)れむ ()大君(おほきみ)かも

         洽猶高圓峰 野邊延葛之所如 蔓延末無絕 縱令千代萬世後 豈將忘哉吾聖帝

        中臣清麻呂 4508

           右一首,主人中臣清麻呂朝臣。



    4509 【承前,十五十四。】

       波布久受能 多要受之努波牟 於保吉美乃 賣之思野邊爾波 之米由布倍之母

       延葛(はふくず)の ()えず(しの)はむ 大君(おほきみ)の ()しし野邊(のへ)には 標結(しめゆ)ふべしも

         延葛之所如 常念心頭無絕時 仰慕先帝之 所幸觀覽此野邊 應予結繩標誌矣

        大伴家持 4509

           右一首,右中辨大伴宿禰家持。



    4510 【承前,十五十五。】

       於保吉美乃 都藝弖賣須良之 多加麻刀能 努敝美流其等爾 禰能未之奈加由

       大君(おほきみ)の (つぎ)()すらし 高圓(たかまと)の 野邊見(のへみ)(ごと)に ()のみし()かゆ

         先帝聖靈者 必然至今仍照覽 每見高圓山 離宮野邊此勝景 不覺哭啼號泣矣

        甘南備伊香 4510

           右一首,大藏大輔甘南備伊香真人。



    4511 屬目山齋作歌三首

       乎之能須牟 伎美我許乃之麻 家布美禮婆 安之婢乃波奈毛 左伎爾家流可母

       鴛鴦棲(をしのす)む (きみ)此山齋(このしま) 今日見(けふみ)れば 馬醉木花(あしびのはな)も ()きにけるかも

         鴛鴦之所棲 君苑庭園此山齋 今日見之者 梫木馬醉木花者 滿開爭豔盛咲也

        三形王 4511

           右一首,大監物三形王。



    4512 【承前。】

       伊氣美豆爾 可氣左倍見要氐 佐伎爾保布 安之婢乃波奈乎 蘇弖爾古伎禮奈

       池水(いけみづ)に (かげ)さへ()えて 咲匂(さきにほ)ふ 馬醉木花(あしびのはな)を (そで)扱入(こき)れな

         縱令池水間 所以映照倒影者 咲匂絢麗矣 當取其馬醉木花 扱入袖中以詳翫

        大伴家持 4512

           右一首,右中辨大伴宿禰家持。



    4513 【承前。】

       伊蘇可氣乃 美由流伊氣美豆 氐流麻埿爾 左家流安之婢乃 知良麻久乎思母

       礒影(いそかげ)の ()ゆる池水(いけみづ) ()(まで)に ()ける馬醉木(あしび)の ()らまく()しも

         庭苑山齋間 礒影所映池水面 其姿照絢爛 如是盛咲馬醉木 其花散華甚可惜

        甘南備伊香 4513

           右一首,大藏大輔甘南備伊香真人。



    4514 二月十日,於內相宅餞渤海大使小野田守朝臣等宴歌一首

       阿乎宇奈波良 加是奈美奈妣伎 由久左久佐 都都牟許等奈久 布禰波波夜家無

       青海原(あをうなはら) 風波靡(かぜなみなび)き ()くさ()さ 障事無(つつむことな)く (ふね)(はや)けむ

         還願青海原 風平浪靜波濤穩 好去復好來 平安無恙不為障 船速如飛順滿帆

        大伴家持 4514

           右一首,右中辨大伴宿禰家持。【未誦之。】



    4515 七月五日,於治部少輔大原今城真人宅,餞因幡守大伴宿禰家持宴歌一首

       秋風乃 須惠布伎奈婢久 波疑能花 登毛爾加射左受 安比加和可禮牟

       秋風(あきかぜ)の 末吹靡(すゑふきなび)く 萩花(はぎのはな) (とも)髻首(かざ)さず (あひ)(わか)れむ

         蕭瑟秋風之 吹其末梢靡偃矣 秋荻芽子花 不得相共髻首而 汝今別去遠行矣

        大伴家持 4515

           右一首,大伴宿禰家持作之。



    4516 三年春正月一日,於因幡國廳,賜饗國郡司等之宴歌一首

       新 年乃始乃 波都波流能 家布敷流由伎能 伊夜之家餘其騰

       (あらた)しき 年初(としのはじめ)の 初春(はつはる)の 今日降雪(けふふるゆき)の 彌頻(いやし)吉事(よごと)

         萬象更新兮 一元復始年之肇 洽猶初春時 今日瑞雪降紛紛 冀祝吉事彌更甚

        大伴家持 4516

           右一首,守大伴宿禰家持作之。



    真字萬葉集 卷二十 防人歌、大伴家持錄歌 終