真字萬葉集 卷十九 孝謙朝作雜歌、大伴家持作歌


孝謙朝作雜歌、大伴家持作歌

4139 天平勝寶二年三月一日之暮,眺矚春苑桃李花作二首

     春苑 紅爾保布 桃花 下照道爾 出立妗嬬

     春苑(はるのその) 紅匂(くれなゐにほ)ふ 桃花(もものはな) 下照(したで)(みち)に 出立(いでた)娘子(をとめ)

       欣然春苑間 鮮豔絢爛耀朱紅 妍哉桃李花 所以照臨此道上 嫣然佇立娘子矣

      大伴家持 4139


4140 【承前。】

     吾園之 李花可 庭爾落 波太禮能未 遣在可母

     ()(その)の 李花(すもものはな)か (には)()る (はだれ)(いま)だ (のこ)りたるかも

       吾苑添皓白 蓋是庭中桃李花 零落所致哉 抑或斑駁殘雪之 時至今日尚存哉

      大伴家持 4140


4141 見飜翔鴫作歌一首

     春儲而 物悲爾 三更而 羽振鳴志藝 誰田爾加須牟

     春設(はるま)けて 物悲(ものがな)しきに 小夜更(さよふ)けて 羽振鳴(はぶきな)(しぎ) ()()にか()

       每逢春日臨 身陷物哀此時節 暗夜既已深 振羽鳴泣鴫鳥者 所棲暫宿誰田哉

      大伴家持 4141


4142 二日,攀柳黛,思京師歌一首

     春日爾 張流柳乎 取持而 見者京之 大路所念

     春日(はるのひ)に ()れる(やなぎ)を 取持(とりも)ちて ()れば(みやこ)の 大道(おほち)(おも)ほゆ

       和煦春日間 楊柳萌發枝招展 手折攀柳黛 添於此路擬見者 可偲京師大道矣

      大伴家持 4142


4143 攀折堅香子草花歌一首

     物部乃 八十妗嬬等之 挹亂 寺井之於乃 堅香子之花

     文武百官(もののふ)の 八十娘子等(やそをとめら)が 汲亂(くみまが)ふ 寺井上(てらゐのうへ)の 堅香子花(かたかごのはな)

       文武百官兮 八十伴緒娘子等 成群汲亂之 寺井邊畔所叢生 妍哉堅香子草花

      大伴家持 4143


4144 見歸鴈歌二首

     燕來 時爾成奴等 鴈之鳴者 本鄉思都追 雲隱喧

     燕來(つばめく)る (とき)(なり)ぬと (かり)()は 國偲(くにしの)ひつつ 雲隱鳴(くもがくりな)

       每值旅鴈之 成群飛來此時節 嗚呼雁音矣 偲國懷鄉寄憂情 雲隱啼泣聲可聞

      大伴家持 4144


4145 【承前。】

     春設而 如此歸等母 秋風爾 黃葉山乎 不超來有米也【一云,春去者,歸此鴈。】

     春設(はるま)けて 如此歸(かくかへ)るとも 秋風(あきかぜ)に 黃葉(もみ)たむ(やま)を 越來(こえこ)ざらめや一云(またにいふ)春去(はるさ)れば、(かへ)此雁(このかり)。】

       一旦春日臨 歸雁雖北返如此 但至秋風催 黃葉織錦楓紅時 豈曾層不復越來哉【一云,一旦春臨者,必然歸去此鴈矣。】

      大伴家持 4145


4146 夜裏聞千鳥喧歌二首

     夜具多知爾 寐覺而居者 河瀨尋 情毛之努爾 鳴知等理賀毛

     夜降(よぐた)ちに 寢覺(ねざ)めて()れば 川瀨尋(かはせと)め (こころ)(しの)に ()千鳥(ちどり)かも

       夜裏近拂曉 徒然醒寤寢覺時 遠覓自川瀨 令人百感交集者 喧音迴盪千鳥矣

      大伴家持 4146


4147 【承前。】

     夜降而 鳴河波知登里 宇倍之許曾 昔人母 之努比來爾家禮

     夜降(よくた)ちて ()川千鳥(かはちどり) (うべ)しこそ (むかし)(ひと)も 偲來(しのひき)にけれ

       夜裏近拂曉 喧音迴盪千鳥矣 理宜如此哉 遠自太古曩昔時 故人翫之偲來也

      大伴家持 4147


4148 聞曉鳴雉歌二首

     椙野爾 左乎騰流雉 灼然 啼爾之毛將哭 己母利豆麻可母

     杉野(すぎのの)に 小躍(さをど)(きぎし) 灼然(いちしろ)く ()にしも()かむ 隱妻(こもりづま)かも

       杉野丘陵間 舞踏小躍雉鳥矣 灼然引人目 堂堂放聲鳴泣者 蓋非草蔭隱妻哉

      大伴家持 4148


4149 【承前。】

     足引之 八峯之雉 鳴響 朝開之霞 見者可奈之母

     足引(あしひき)の 八峰雉(やつをのきぎし) 鳴響(なきとよ)む 朝明霞(あさけのかすみ) ()れば(かな)しも

       足曳勢險峻 重巒八峰之雉鳥 啼泣而鳴響 餘音迴盪朝明間 見彼彩霞我心悲

      大伴家持 4149


4150 遙聞泝江船人之唱歌一首

     朝床爾 聞者遙之 射水河 朝己藝思都追 唱船人

     朝床(あさとこ)に ()けば(はる)けし 射水川(いみづかは) 朝漕(あさこぎ)ぎしつつ 唱舟人(うたふふなびと)

       拂曉朝床間 依稀可聞聲遼遠 射水川之間 清晨漕船泛河上 悠然自適唱舟人

      大伴家持 4150


4151 三日,守大伴宿禰家持之館宴歌三首

     今日之為等 思標之 足引乃 峯上之櫻 如此開爾家里

     今日(けふ)(ため)と (おも)ひて(しめ)し 足引(あしひき)の 峰上櫻(をのへのさくら) 如此咲(かくさ)きにけり

       曩昔有所念 奉為今日而標結 足曳勢險峻 巍峨二上峰頂櫻 煙花絢爛咲如是

      大伴家持 4151


4152 【承前。】

     奧山之 八峯乃海石榴 都婆良可爾 今日者久良佐禰 大夫之徒

     奧山(おくやま)の 八峰椿(やつをのつばき) (つば)らかに 今日(けふ)()らさね 大夫伴(ますらをのとも)

       重巒奧山之 八峰海石榴椿花 詳翫觀賞之 今日盡情暮歡愉 大夫壯士伴緒矣

      大伴家持 4152


4153 【承前。○新古今0151。】
4154 八日,詠白大鷹歌一首 【并短歌。】

     安志比奇乃 山坂超而 去更 年緒奈我久 科坂在 故志爾之須米婆 大王之 敷座國者 京師乎母 此間毛於夜自等 心爾波 念毛能可良 語左氣 見左久流人眼 乏等 於毛比志繁 曾己由惠爾 情奈具也等 秋附婆 芽子開爾保布 石瀨野爾 馬太伎由吉氐 乎知許知爾 鳥布美立 白塗之 小鈴毛由良爾 安波勢也理 布里左氣見都追 伊伎騰保流 許己呂能宇知乎 思延 宇禮之備奈我良 枕附 都麻屋之內爾 鳥座由比 須惠弖曾我飼 真白部乃多可

     足引(あしひき)の 山坂越(やまさかこ)えて 行變(ゆきかは)る 年緒長(としのをなが)く 繁離(しなざか)る (こし)にし()めば 大君(おほきみ)の 敷坐國(しきますくに)は (みやこ)をも 此處(ここ)(おや)じと (こころ)には 思物(おもふもの)から 語放(かたりさ)け 見放(みさ)くる人目(ひとめ) (とも)しみと (おも)ひし(しげ)し 其處故(そこゆゑ)に 心和(こころな)ぐやと 秋付(あきづ)けば 萩咲匂(はぎさきにほ)ふ 石瀨野(いはせの)に 馬綰行(うまだきゆ)きて 遠近(をちこち)に 鳥踏立(とりふみた)て 白塗(しらぬり)の 小鈴(をすず)玉響(ゆら)に ()はせ()り 振放見(ふりさけみ)つつ (いきどほ)る 心中(こころのうち)を 思延(おもひの)べ (うれ)しびながら 枕付(まくらづ)く 妻屋中(つまやのうち)に 鳥座結(とぐらゆ)ひ ()ゑてそ()()ふ 真白斑鷹(ましらふのたか)

       足曳勢險峻 翻山越坂跋涉來 物換星移兮 日新月異年緒長 遠離隔繁山 住在北陸越中者 吾皇大君之 所以御宇敷坐國 無論在京師 或在此處亦同矣 雖然方寸間 內心思懷如此者 然苦可相語 又愁可以相慰之 知心人乏少 不絕懷土憂思繁 正因其故而 欲撫此情和此心 每逢秋日至 指彼秋萩所咲匂 遼曠石瀨野 策馬飛馳奔行去 遠近彼此間 蹴散排擊眾驚鳥出 銀飾白塗之 鈴鐸搖盪發玉響 相遣競追獵 翹首振放仰見者 憤悶懷抑鬱 意所不樂此心中 可以解憂愁 恣意遊興盡歡愉 纏綿相枕兮 端傍離僻妻屋中 豎設据鳥座 令居止木我所飼 矢形真白斑鷹矣

      大伴家持 4154


4155 【承前,反歌。】

     矢形尾乃 麻之路能鷹乎 屋戶爾須惠 可伎奈泥見都追 飼久之余志毛

     矢形尾(やかたを)の 真白鷹(ましろのたか)を 宿(やど)()ゑ 搔撫見(かきなでみ)つつ ()はくし()しも

       矢形尾羽兮 愛也真白斑鷹矣 令据於吾宿 柔情撫翫有所思 得以飼之甚幸也

      大伴家持 4155


4156 潛鸕歌一首 【并短歌。】

     荒玉乃 年徃更 春去者 花耳爾保布 安之比奇能 山下響 墮多藝知 流辟田乃 河瀨爾 年魚兒狹走 嶋津鳥 鸕養等母奈倍 可我理左之 奈頭佐比由氣婆 吾妹子我 可多見我氐良等 紅之 八鹽爾染而 於己勢多流 服之襴毛 等寶利氐濃禮奴

     (あらた)まの 年行變(としゆきかは)り 春去(はるさ)れば (はな)のみ(にほ)ふ 足引(あしひき)の 山下響(やましたとよ)み 落激(おちたぎ)ち (なが)辟田(さきた)の 川瀨(かはのせ)に 鮎子小走(あゆこさばし)る 島鳥(しまつとり) 鵜養伴(うかひとも)なへ 篝射(かがりさ)し 漂行(なづさひゆ)けば 我妹子(わぎもこ)が 形見(かたみ)がてらと (くれなゐ)の 八入(やしほ)()めて (おこ)せたる 衣裾(ころものすそ)も (とほ)りて()れぬ

       物換星移兮 日新月異年復始 佐保春來者 妍花滿開咲一面 足曳勢險峻 山麓轟轟發鳴響 落激貫千丈 逝水源遠更流長 辟田川瀨間 鮎子蹦躍飛而泳 島嶼禽鳥兮 鵜養伴緒鸕鶿匠 燔焚燃篝火 漬水溯溪登行者 愛也吾妹妻 贈於我命為形見 赤朱胭脂紅 八鹽折染工序繁 片刻不離身 光彩鮮豔此衣裾 為水通濡沾漬濕

      大伴家持 4156


4157 【承前,反歌。】

     紅乃 衣爾保波之 辟田河 絕己等奈久 吾等眷牟

     (くれなゐ)の 衣匂(ころもにほ)はし 辟田川(さきたかは) ()ゆる事無(ことな)く 我返見(われかへりみ)

       赤朱胭脂紅 此衣光彩發豔色 源遠辟田川 逝水不斷之所如 我亦頻訪無絕時

      大伴家持 4157


4158 【承前。】

     每年爾 鮎之走婆 左伎多河 鵜八頭可頭氣氐 河瀨多頭禰牟

     年每(としのは)に (あゆ)(はし)らば 辟田川(さきたかは) 鵜八潛(うやつかづ)けて 川瀨尋(かはせたづね)ねむ

       每年復始新 稚鮎躍泳此頃時 源遠辟田川 領彼鸕鶿鵜八潛 覓遍川瀨為漁獵

      大伴家持 4158


4159 季春三月九日,擬出舉之政,行於舊江村。道上屬目物花之詠,并興中所作之歌

    過澀谿埼,見巖上樹歌一首
     【樹名(都萬麻)。】

     礒上之 都萬麻乎見者 根乎延而 年深有之 神左備爾家里

     礒上(いそのうへ)の (つまま)()れば ()()へて 年深(としふか)からし 神古(かむさび)にけり

       人過澀谿埼 望見礒上椨樹者 盤根長延而 歷歲深邃年月久 莊嚴神古蘊稜威

      大伴家持 4159


4160 悲世間無常歌一首 【并短歌。】

     天地之 遠始欲 俗中波 常無毛能等 語續 奈我良倍伎多禮 天原 振左氣見婆 照月毛 盈ち之家里 安之比奇能 山之木末毛 春去婆 花開爾保比 秋都氣婆 露霜負而 風交 毛美知落家利 宇都勢美母 如是能未奈良之 紅乃 伊呂母宇都呂比 奴婆多麻能 黑髮變 朝之咲 暮加波良比 吹風乃 見要奴我其登久 逝水乃 登麻良奴其等久 常毛奈久 宇都呂布見者 爾波多豆美 流渧 等騰米可禰都母

     天地(あめつち)の 遠初(とほきはじ)めよ 世中(よのなか)は 常無(つねな)(もの)と 語繼(かたりつ)ぎ (なが)らへ(きた)れ 天原(あまのはら) 振放見(ふりさけみ)れば 照月(てるつき)も 滿闕(みちかけ)けしけり 足引(あしひき)の 山木末(やまのこぬれ)も 春去(はるさ)れば 花咲匂(はなさきにほ)ひ 秋付(あきづ)けば 露霜負(つゆしもお)ひて 風交(かぜまじ)り 黃葉散(もみちち)りけり 空蟬(うつせみ)も 如是(かく)のみならし (くれなゐ)の (いろ)(うつろ)ひ 烏玉(ぬばたま)の 黑髮變(くろかみかは)り 朝笑(あさのゑ)み 夕變(ゆふへかは)らひ 吹風(ふくかぜ)の ()えぬが(ごと)く 逝水(ゆくみづ)の ()まらぬ(ごと)く (つね)()く 移見(うつろふみ)れば 庭潦(にはたづみ) (なが)るる(なみた) 止兼(とどめか)ねつも

       遠自太古之 天地初判開闢時 悠悠此世間 諸行無常攝理也 口耳互相傳 語繼流傳述來矣 久方高天原 振放昂首仰見者 明亮照月者 有其陰晴與滿闕 足曳勢險峻 嚴山木末樹梢上 每逢春臨者 花開滿面咲爭艷 每至秋來者 負露淩霜耐天寒 混於金風間 黃葉零落飄散亂 空蟬憂世間 萬象凡人盡如是 濃郁朱紅兮 艷色失褪消黯然 漆黑烏玉兮 黑髮變白化斑駁 早朝展笑顏 夕暮倏然化愁容 洽猶吹風之 舉目無以能得見 又似逝水之 不捨晝夜無止時 見諸行無常 森羅萬象易移者 庭潦泛溢兮 所流落淚下滂沱 源源不絕誠難抑

      大伴家持 4160


4161 【承前,反歌。】

     言等波奴 木尚春開 秋都氣婆 毛美知遲良久波 常乎奈美許曾【一云,常无牟等曾。】

     言問(ことと)はぬ ()すら春咲(はるさ)き 秋付(あきづ)けば 黃葉散(もみちぢ)らくは (つね)()みこそ一云(またにいふ)常無(つねな)けむとそ。】

       雖不能言語 草木遇春咲招展 每逢秋日臨 紅葉織錦飄零者 諸行無常所以也【一云,皆示諸行律無常。】

      大伴家持 4161


4162 【承前。】

     宇都世美能 常无見者 世間爾 情都氣受弖 念日曾於保伎【一云,嘆日曾於保吉。】

     空蟬(うつせみ)の 常無(つねな)()れば 世中(よのなか)に 心付(こころつ)けずて (おも)()(おほ)一云(またにいふ)(なげ)()(おほ)き。】

       空蟬浮生兮 平凡此命無常者 娑婆俗世間 渾渾噩噩心不在 憂思斷腸日苦多【一云,噓唏悲嘆日苦多。】

      大伴家持 4162


4163 豫作七夕歌一首

     妹之袖 我禮枕可牟 河湍爾 霧多知和多禮 左欲布氣奴刀爾

     (いも)(そで) 我枕(われまくら)かむ 川瀨(かはのせ)に 霧立渡(きりたちわた)れ 小夜更(さよふ)けぬとに

       愛也吾妹妻 欲以汝袖以為枕 潺潺川瀨間 冀其霧湧遮人目 在彼小夜未更時

      大伴家持 4163


4164 慕振勇士之名歌一首 【并短歌。】

     知智乃實乃 父能美許等 波播蘇葉乃 母能美己等 於保呂可爾 情盡而 念良牟 其子奈禮夜母 大夫夜 无奈之久可在 梓弓 須惠布理於許之 投矢毛知 千尋射和多之 劔刀 許思爾等理波伎 安之比奇能 八峯布美越 左之麻久流 情不障 後代乃 可多利都具倍久 名乎多都倍志母

     乳實(ちちのみ)の 父命(ちちのみこと) 柞葉(ははそば)の 母命(ははのみこと) (おほ)ろかに 心盡(こころつ)して (おも)ふらむ 其子為(そのこな)れやも 大夫(ますらを)や (むな)しくあるべき 梓弓(あづさゆみ) 末振起(すゑふりおこ)し 投矢持(なげやも)ち 千尋射渡(ちひろいわた)し 劍大刀(つるぎたち) (こし)取佩(とりは)き 足引(あしひき)の 八峰踏越(やつをふみこ)え 差罷(さしま)くる 心障(こころさや)らず 後世(のちのよ)の 語繼(かたりつ)ぐべく ()()つべしも

       威嚴乳實兮 明道宏倫父君命 祥和柞葉兮 慧慈賢淑母君命 大凡無所遺 盡心盡力傾其情 懸心念恆常 所以養育其子哉 大夫壯士矣 豈當徒然庸碌哉 梓弓引弩張 振起末梢顫其絃 手持投矢而 射渡飛箭盪千尋 韴稜劍太刀 取佩腰間不離身 足曳勢險峻 踏越八峰跨嚴嶺 差罷銜宸命 此心堅毅無所障 迄千秋後世 口耳相傳當語繼 可以立名留青史

      大伴家持 4164


4165 【承前,反歌。】

     大夫者 名乎之立倍之 後代爾 聞繼人毛 可多里都具我禰

     大夫(ますらを)は ()をし()つべし 後世(のちのよ)に 聞繼(ききつ)(ひと)も 語繼(かたりつ)ぐがね

       大夫壯士矣 理應立名留青史 千秋萬世後 所聞其事其蹟人 亦當語繼傳後葉

      大伴家持 4165

         右二首,追和山上憶良臣作歌。



4166 詠霍公鳥并時花歌一首 【并短歌。】

     每時爾 伊夜目都良之久 八千種爾 草木花左伎 喧鳥乃 音毛更布 耳爾聞 眼爾視其等爾 宇知嘆 之奈要宇良夫禮 之努比都追 有爭波之爾 許能久禮能 四月之立者 欲其母理爾 鳴霍公鳥 從古昔 可多里都藝都流 鸎之 宇都之真子可母 菖蒲 花橘乎 妗嬬良我 珠貫麻泥爾 赤根刺 晝波之賣良爾 安之比奇乃 八丘飛超 夜干玉乃 夜者須我良爾 曉 月爾向而 徃還 喧等余牟禮杼 何如將飽足

     時每(ときごと)に 彌珍(いやめづら)らしく 八千種(やちくさ)に 草木花咲(くさきはなさ)き 鳴鳥(なくとり)の (こゑ)(かは)らふ (みみ)()き ()()(ごと)に 打嘆(うちなげ)き 萎衷振(しなえうらぶ)れ (しの)ひつつ (あらそ)(はし)に 木暗(このくれ)の 四月(うづき)()てば 夜隱(よごも)りに ()霍公鳥(ほととぎす) (いにしへ)ゆ 語繼(かたりつ)ぎつる (うぐひす)の (うつ)真子(まこ)かも 菖蒲草(あやめぐさ) 花橘(はなたちばな)を 娘子等(をとめら)が 玉貫(たまぬ)(まで)に 茜射(あかねさ)す (ひる)()めらに 足引(あしひき)の 八峰飛越(やつをとびこ)え 烏玉(ぬばたま)の (よる)(すがら)に (あかとき)の (つき)(むか)ひて 行歸(ゆきがへ)り 鳴響(なきとよ)むれど (なに)飽足(あきだ)らむ

       四季每時節 更顯彌珍耳目新 多彩八千種 萬葉草木皆花咲 嚶囀鳴鳥之 其聲百變萬籟繁 每逢耳所聞 以及每適目見者 感嘆長唏噓 不覺垂萎感此情 賞翫馳偲而 孰優孰劣難決頃 木蔭下闇之 憂草綻放四月節 夜闌隱更深 鳴也郭公霍公鳥 遠自曩昔時 口耳相傳語繼來 托卵鶯鳥兮 現矣真愛子也哉 直至菖蒲草 以及花橘結朱實 窈窕娘子等 貫為藥玉五月節 斜暉茜日射 晝間無休渡終日 足曳勢險峻 飛越八峰翔千嶺 漆黑烏玉兮 徹夜盡宵至天明 拂曉晨曦時 指向月讀壯士而 行歸雖幾度 來回鳴響盪虛空 然又豈曾飽足哉

      大伴家持 4166


4167 反歌二首 【承前。】

     每時 彌米頭良之久 咲花乎 折毛不折毛 見良久之余志母

     時每(ときごと)に 彌珍(いやめづら)しく 咲花(さくはな)を ()りも()らずも ()らくし()しも

       四季每時節 更顯彌珍耳目新 妍哉咲花矣 無論折枝不折枝 翫之賞心亦悅目

      大伴家持 4167


4168 【承前。】

     每年爾 來喧毛能由惠 霍公鳥 聞婆之努波久 不相日乎於保美【每年,謂之等之乃波。】

     每年(としのは)に 來鳴(きな)物故(ものゆゑ) 霍公鳥(ほととぎす) ()けば(しの)はく (あは)はぬ()(おほ)每年(としのは)(これ)トシノハ(等之乃波)()ふ。】

       雖然其鳥者 每年此時必來鳴 杜鵑霍公鳥 聞其聲者誘思情 別去不逢日苦多【每年,謂玆年之端(としのは)。】

      大伴家持 4168

         右,廿日,雖未及時,依興預作也。



4169 為家婦贈在京尊母,所誂作歌一首 【并短歌。】

     霍公鳥 來喧五月爾 咲爾保布 花橘乃 香吉 於夜能御言 朝暮爾 不聞日麻禰久 安麻射可流 夷爾之居者 安之比奇乃 山乃多乎里爾 立雲乎 余曾能未見都追 嘆蘇良 夜須家奈久爾 念蘇良 苦伎毛能乎 奈吳乃海部之 潛取云 真珠乃 見我保之御面 多太向 將見時麻泥波 松栢乃 佐賀延伊麻佐禰 尊安我吉美【御面,謂之美於毛和。】

     霍公鳥(ほととぎす) 來鳴(きな)五月(さつき)に 咲匂(さきにほ)ふ 花橘(はなたちばな)の 貴人(かぐは)しき 親御言(おやのみこと) 朝夕(あさよひ)に ()かぬ日數多(ひまね)く 天離(あまざか)る (ひな)にし()れば 足引(あしひき)の 山鞍(やまのたをり)に 立雲(たつくも)を 餘所(よそ)のみ()つつ 嘆空(なげくそら) (やす)()くに 思空(おもふそら) (くる)しき(もの)を 奈吳海人(なごのあま)の 潛取(かづきと)ると()ふ 白玉(しらたま)の ()()御面(みおもわ) 直向(ただむか)ひ ()時迄(ときまで)は 松柏(まつかへ)の 榮坐(さかえいま)さね (たふと)()(きみ)御面(みおもわ)(これ)ミオモワ(美於毛和)()ふ。】

       杜鵑霍公鳥 所以來鳴五月間 盛咲薰芬芳 妍哉花橘之所如 尊貴令感懷 賢淑母君御親言 朝朝夕夕間 不聞之日數苦多 天離日已遠 身居鄙夷越洲地 足曳勢險峻 佇立埡口山鞍部 久方天上雲 遠自餘所望見而 方寸嘆欷歔 忐忑不安無寧日 胸中所想念 憂愁苦痛無計施 奈吳海人之 所以潛取採獲者 珍珠之所如 百見不厭汝尊顏 直至相對面 得以拜眉逢時迄 願如松柏之 長青不衰永榮盛 尊華高貴吾君矣【御面,謂之面輪(みおもわ)。】

      大伴家持 4169


4170 反歌一首 【承前。】

     白玉之 見我保之君乎 不見久爾 夷爾之乎禮婆 伊家流等毛奈之

     白玉(しらたま)の ()()(きみ)を ()(ひさ)に (ひな)にし()れば ()けるとも()

       珍珠之所如 百見不厭母尊顏 不視日已久 身居鄙夷越中洲 渾渾噩噩不知生

      大伴家持 4170


4171 廿四日,應立夏四月節也。因此廿三日之暮,忽思霍公鳥曉喧聲作歌二首

     常人毛 起都追聞曾 霍公鳥 此曉爾 來喧始音

     常人(つねひと)も ()きつつ()くそ 霍公鳥(ほととぎす) 此曉(このあかとき)に 來鳴(きな)初聲(はつこゑ)

       無論是誰何 常人當寤以聽聞 杜鵑霍公鳥 在於清晨此曉間 喧囀來鳴初聲矣

      大伴家持 4171


4172 【承前。】

     霍公鳥 來喧響者 草等良牟 花橘乎 屋戶爾波不殖而

     霍公鳥(ほととぎす) 來鳴響(きなきとよ)めば 草取(くさと)らむ 花橘(はなたちばな)を 宿(やど)には()ゑずて

       杜鵑霍公鳥 晨曉來此喧響者 摘草手執之 反顧花橘雖芬芳 不須植我庭苑間

      大伴家持 4172


4173 贈京丹比家歌一首

     妹乎不見 越國敝爾 經年婆 吾情度乃 奈具流日毛無

     (いも)()ず 越國邊(こしのくにへ)に 年經(としふ)れば ()心利(こころど)の ()ぐる()()

       不得與妹逢 身居北陸越國邊 累月經年者 吾心忐忑難自已 哀傷憂愁無寧日

      大伴家持 4173


4174 追和筑紫大宰之時春苑梅歌一首

     春裏之 樂終者 梅花 手折乎伎都追 遊爾可有

     春中(はるのうち)の (たの)しき(をへ)は 梅花(うめのはな) 手折招(たをりを)きつつ (あそ)ぶにあるべし

       和煦春日間 興樂之最極意者 闇香白梅花 手折招梅迎新春 志同盡歡遊宴矣

      大伴家持 4174

         右一首,廿七日依興作之。



4175 詠霍公鳥二首

     霍公鳥 今來喧曾无 菖蒲 可都良久麻泥爾 加流流日安良米也【毛、能、波,三箇辭闕之。】

     霍公鳥(ほととぎす) 今來鳴初(いまきなきそ)む 菖蒲草(あやめぐさ) (かづら)(まで)に ()るる()あらめや()()()三箇辭(みつのこと)()く。】

       杜鵑霍公鳥 始自今日來鳴矣 至於菖蒲草 結以為縵五月節 不喧之日豈有哉【避()()()三箇辭以作。】

      大伴家持 4175


4176 【承前。】

     我門從 喧過度 霍公鳥 伊夜奈都可之久 雖聞飽不足【毛、能、波、氐、爾、乎,六箇辭闕之。】

     ()(かど)ゆ 鳴過渡(なきすぎわた)る 霍公鳥(ほととぎす) 彌懷(いやなつか)しく ()けど飽足(あきた)らず()()()()()()六箇辭(むつのこと)()く。】

       自於吾家門 喧囀鳴渡飛越之 杜鵑霍公鳥 其聲令人甚感念 聞之百遍未嘗倦【避()()()()()()六箇辭以作。】

      大伴家持 4176


4177 四月三日,贈越前判官大伴宿禰池主霍公鳥歌,不勝感舊之意述懷一首 【并短歌。】

     和我勢故等 手攜而 曉來者 出立向 暮去者 授放見都追 念暢 見奈疑之山爾 八峯爾波 霞多奈婢伎 谿敝爾波 海石榴花咲 宇良悲 春之過者 霍公鳥 伊也之伎喧奴 獨耳 聞婆不怜毛 君與吾 隔而戀流 利波山 飛超去而 明立者 松之狹枝爾 暮去者 向月而 菖蒲 玉貫麻泥爾 鳴等余米 安寐不令宿 君乎奈夜麻勢

     ()背子(せこ)と 手攜(てたづさは)りて 明來(あけく)れば 出立向(いでたちむか)ひ 夕去(ゆふさ)れば 振放見(ふりさけみ)つつ 思延(おもひの)べ 見和(みな)ぎし(やま)に 八峰(やつを)には 霞棚引(かすみたなび)き 谷邊(たにへ)には 椿花咲(つばきはなさ)き 衷悲(うらがな)し (はる)()ぐれば 霍公鳥(ほととぎす) 彌頻鳴(いやしきな)きぬ (ひとり)のみ ()けば(さぶ)しも (きみ)(あれ)と (へだ)てて()ふる 礪波山(となみやま) 飛越行(とびこえゆ)きて 明立(あけた)たば 松小枝(まつのさえだ)に 夕去(ゆふさ)らば (つき)(むか)ひて 菖蒲草(あやめぐさ) 玉貫迄(たまぬくまで)に 鳴響(なきとよ)め 安寐寢(やすいね)しめず (きみ)(なや)ませ

       愛也吾兄子 執子之手相攜而 拂曉明旦時 出外向立遠眺矣 黃昏夕暮時 振放昂首仰見矣 神清氣爽而 和情慰藉此山間 足曳八峰上 雲霞棚引飄霏霺 溪豁河谷邊 椿花綻放咲盛繁 由衷感物哀 徒然春日逝去者 杜鵑霍公鳥 喧囀來鳴彌泣啼 吾形單影孤 聞其聲者心寂寥 吾君與吾命 異地兩隔苦相思 黑坂礪波山 飛越其嶺巔峰上 清晨朝明時 駐足彼松小枝梢 傍晚垂暮時 指月翔去翱大虛 直至菖蒲草 貫為藥玉五月節 鳴響泣不斷 夜寐不令得安寢 亦惱吾君而可矣

      大伴家持 4177


4178 【承前,反歌第一。】

     吾耳 聞婆不怜毛 霍公鳥 丹生之山邊爾 伊去鳴爾毛

     (われ)のみし ()けば(さぶ)しも 霍公鳥(ほととぎす) 丹生山邊(にふのやまへ)に い行鳴(ゆきな)かにも

       形單而影孤 獨吾聞聲心寂寥 杜鵑霍公鳥 願汝飛去丹生嶺 行鳴山邊使共聞

      大伴家持 4178


4179 【承前,反歌第二。】

     霍公鳥 夜喧乎為管 和我世兒乎 安宿勿令寐 由米情在

     霍公鳥(ほととぎす) 夜鳴(よな)きをしつつ ()背子(せこ)を 安寐勿寢(やすいなね)しめ 努心(ゆめこころ)あれ

       杜鵑霍公鳥 汝當夜鳴至拂曉 愛也吾兄子 莫令夜寢得安眠 慎之勿怠當努心

      大伴家持 4179


4180 不飽感霍公鳥之情,述懷作歌一首 【并短歌。】

     春過而 夏來向者 足檜木乃 山呼等余米 左夜中爾 鳴霍公鳥 始音乎 聞婆奈都可之 菖蒲 花橘乎 貫交 可頭良久麻泥爾 里響 喧渡禮騰母 尚之努波由

     春過(はるす)ぎて 夏來向(なつきむか)へば 足引(あしひき)の 山呼響(やまよびとよ)め 小夜中(さよなか)に ()霍公鳥(ほととぎす) 初聲(はつこゑ)を ()けば(なつ)かし 菖蒲草(あやめぐさ) 花橘(はなたちばな)を 貫交(ぬきまじ)へ (かづら)(まで)に 里響(さととよ)め 鳴渡(なきわた)れども (なほ)(しの)はゆ

       佐保春既過 驕陽初夏來向者 足曳勢險峻 呼響山中音不絕 月渡小夜中 鳴啼喧至霍公鳥 聞其初聲者 不覺感懷心神往 至於菖蒲草 以及花橘之疇等 手持而貫交 皆為蘰玉五月節 雖然徹里間 鳴響飛渡聲不絕 尚猶偲之令人怡

      大伴家持 4180


4181 反歌三首 【承前。】

     左夜深而 曉月爾 影所見而 鳴霍公鳥 聞者夏借

     小夜更(さよふ)けて 曉月(あかときつき)に 影見(かげみ)えて ()霍公鳥(ほととぎす) ()けば(なつ)かし

       小夜深而更 晨曦曉月照臨下 薄闇見已影 鳴泣啼喧霍公鳥 聞其聲者我神怡

      大伴家持 4181


4182 【承前。】

     霍公鳥 雖聞不足 網取爾 獲而奈都氣奈 可禮受鳴金

     霍公鳥(ほととぎす) ()けども()かず 網捕(あみと)りに ()りて(なつ)けな ()れず()くがね

       杜鵑霍公鳥 愛憐鳴聲聞不厭 願張網捕之 飼以親昵伴身邊 可不致離聞其囀

      大伴家持 4182


4183 【承前。】

     霍公鳥 飼通良婆 今年經而 來向夏波 麻豆將喧乎

     霍公鳥(ほととぎす) 飼通(かひとほ)せらば 今年經(ことしへ)て 來向(きむか)(なつ)は 先鳴(まづな)きなむを

       杜鵑霍公鳥 若得久飼伴身邊 待至今年過 明年來向夏頃時 蓋可先聞其囀哉

      大伴家持 4183


4184 從京師贈來歌一首

     山吹乃 花執持而 都禮毛奈久 可禮爾之妹乎 之努比都流可毛

     山吹(やまぶき)の 花取持(はなとりも)ちて 由緣(つれ)()く ()れにし(いも)を (しの)ひつるかも

       棣棠山吹花 折枝手持為何哉 薄情不流連 倏然別去我妹矣 以為緣物寄情哉

      留女女郎 4184

         右,四月五日,從留女之女郎所送也。



4185 詠山振花歌一首 【并短歌。】

     宇都世美波 戀乎繁美登 春麻氣氐 念繁波 引攀而 折毛不折毛 每見 情奈疑牟等 繁山之 谿敝爾生流 山振乎 屋戶爾引殖而 朝露爾 仁保敝流花乎 每見 念者不止 戀志繁母

     空蟬(うつせみ)は (こひ)(しげ)みと 春設(はるま)けて 思繁(おもひしげ)けば 引攀(ひきよ)ぢて ()りも()らずも ()(ごと)に 心和(こころな)ぎむと 茂山(しげやま)の 谷邊(たにへ)()ふる 山吹(やまぶき)を 宿(やど)引植(ひきう)ゑて 朝露(あさつゆ)に (にほ)へる(はな)を ()(ごと)に (おも)ひは()まず (こひ)(しげ)しも

       空蟬憂世間 浮身戀繁情不絕 每逢春日臨 千頭萬緒情緒亂 引攀執枝葉 無論折之或不折 每每見之者 平和此心以為慰 茂盛繁山間 幽谷壑邊所叢生 棣棠山吹花 引之植在吾宿庭 每見為朝露 霑濡增艷妍花矣 此目不轉睛 此情踟躅不能止 徒增相思戀更繁

      大伴家持 4185


4186 【承前,反歌。】

     山吹乎 屋戶爾殖弖波 見其等爾 念者不止 戀己曾益禮

     山吹(やまぶき)を 宿(やど)()ゑては ()(ごと)に (おも)ひは()まず (こひ)こそ()され

       棣棠山吹花 植之育在吾宿庭 每見妍花者 憂情踟躅不能止 徒增相思戀更繁

      大伴家持 4186


4187 六日,遊覽布勢水海作歌一首 【并短歌。】

     念度知 大夫能 許能久禮乃 繁思乎 見明良米 情也良牟等 布勢乃海爾 小船都良奈米 真可伊可氣 伊許藝米具禮婆 乎布能浦爾 霞多奈妣伎 垂姬爾 藤浪咲而 濱淨久 白波左和伎 及及爾 戀波末佐禮杼 今日耳 飽足米夜母 如是己曾 禰年乃波爾 春花之 繁盛爾 秋葉能 黃色時爾 安里我欲比 見都追思努波米 此布勢能海乎

     思共(おもふどち) 大夫(ますらをのこ)の 木暗(このくれ)の 繁思(しげきおも)ひを 見明(みあき)らめ 心遣(こころや)らむと 布勢海(ふせのうみ)に 小舟列並(をぶねつらな)め 真櫂掛(まかいか)け い漕迴(こぎめぐ)れば 乎布浦(をふのうら)に 霞棚引(かすみたなび)き 垂姬(たるひめ)に 藤波咲(ふぢなみさき)て 濱清(はまきよ)く 白波騷(しらなみさわ)き 頻頻(しくしく)に (こひ)()されど 今日(けふ)のみに 飽足(あきだ)らめやも 如是(かく)しこそ 彌年每(いやとしのは)に 春花(はるはな)の 繁盛(しげきさか)りに 秋葉(あきのは)の 黃葉(もみ)たむ(とき)に 蟻通(ありがよ)ひ ()つつ(しの)はめ 此布勢海(このふせのうみ)

       志同道合兮 大夫壯士益荒男 木蔭下暗間 欲慰亂紊此憂情 眼望使心曠 冀以抒發致神怡 布勢水海間 並列小舟陳其陣 真櫂掛繁貫 戮力榜舟漕迴者 乎布浦之上 雲霞棚引飄霏霺 垂姬崎之間 藤浪盛咲綻一面 汀濱水清冽 白浪騷湧捲狂瀾 頻頻起不斷 憂思此戀彌徒增 若僅唯今日 豈得心飽意足哉 誠然如是矣 年年彌增徒更盛 每逢春花之 枝葉茂盛咲盛時 每逢秋葉之 黃葉火紅織錦時 蟻通未嘗斷 絡繹不絕觀此景 偲翫寄情布勢海

      大伴家持 4187


4188 【承前,反歌。】

     藤奈美能 花盛爾 如此許曾 浦己藝迴都追 年爾之努波米

     藤浪(ふぢなみ)の 花盛(はなのさかり)りに 如此(かく)こそ 浦漕迴(うらこぎみ)つつ (とし)(しの)はめ

       每逢藤浪之 花咲滿開綻放時 往往當如此 榜舟漕迴布勢海 年年來賞翫勝景

      大伴家持 4188


4189 贈水烏越前判官大伴宿禰池主歌一首 【并短歌。】

     天離 夷爾之在者 彼所此間毛 同許 己呂曾 離家 等之乃經去者 宇都勢美波 物念之氣思 曾許由惠爾 情奈具左爾 霍公鳥 喧始音乎 橘 珠爾安倍貫 可頭良伎氐 遊波之母 麻須良乎乎 等毛奈倍立而 叔羅河 奈頭左比泝 平瀨爾波 左泥刺渡 早湍爾 水烏乎潛都追 月爾日爾 之可志安蘇婆禰 波之伎和我勢故

     天離(あまざか)る (ひな)にしあれば 彼所此間(そこここ)も 同心(おなじこころ)そ 家離(いへざか)り 年經行(としのへゆ)けば 空蟬(うつせみ)は 物思繁(ものもひしげ)し 其故(そこゆゑ)に 心和(こころな)ぐさに 霍公鳥(ほととぎす) ()初聲(はつこゑ)を (たちばな)の (たま)合貫(あへぬ)き (かづら)きて (あそ)ばむ(はし)も 大夫(ますらを)を (とも)なへ()てて 叔羅川(しくらがは) 漂上(なづさひのぼ)り 平瀨(ひらせ)には 小網刺(さでさ)(わた)し 速瀨(はやきせ)に ()(かづ)けつつ (つき)()に (しか)(あそ)ばね ()しき()背子(せこ)

       天離日已遠 身居鄙夷遠國者 無論汝或吾 皆是同心道合也 離家去故土 已然歷月經年矣 空蟬憂世間 憂思念繁情難斷 誠然因其故 欲慰此心令平和 杜鵑霍公鳥 所鳴啼泣初聲矣 混與花橘而 貫為五月藥玉矣 結蘰織環而 遊興端午此時節 大夫伴緒等 結伴相率以出遊 日野叔羅川 漬濡此身溯溪上 安穩平瀨間 張羅小網渡一面 湍急速瀨間 放諸鸕鶿令鵜潛 幾月復幾日 如斯遊興盡歡愉 憙哉愛也吾兄子

      大伴家持 4189


4190 【承前,反歌第一。】

     叔羅河 湍乎尋都追 和我勢故波 宇可波多多佐禰 情奈具左爾

     叔羅川(しくらがは) ()(たづ)ねつつ ()背子(せこ)は 鵜川立(うかはた)たさね 心和(こころな)ぐさに

       日野叔羅川 漬身速瀨溯溪上 愛也吾兄子 當放鸕鶿以鵜漁 遊興盡歡慰此情

      大伴家持 4190


4191 【承前,反歌第二。】

     鸕河立 取左牟安由能 之我波多波 吾等爾可伎无氣 念之念婆

     鵜川立(うかはた)ち ()らさむ(あゆ)の 然鰭(しがはた)は (われ)搔向(かきむ)け (おも)ひし(おも)はば

       鵜漁川瀨間 所以捕獲鮎魚矣 冀可將彼鰭 贈予我身為緣物 若汝意之所向者

      大伴家持 4191

         右,九日附使贈之。



4192 詠霍公鳥并藤花一首 【并短歌。】

     桃花 紅色爾 爾保比多流 面輪乃宇知爾 青柳乃 細眉根乎 咲麻我理 朝影見都追 妗嬬良我 手爾取持有 真鏡 盖上山爾 許能久禮乃 繁谿邊乎 呼等余米 旦飛渡 暮月夜 可蘇氣伎野邊 遙遙爾 喧霍公鳥 立久久等 羽觸爾知良須 藤浪乃 花奈都可之美 引攀而 袖爾古伎禮都 染婆染等母

     桃花(もものはな) 紅色(くれなゐいろ)に (にほ)ひたる 面輪中(おもわのうち)に 青柳(あをやぎ)の 細眉根(ほそきまよね)を 笑曲(ゑみまが)り 朝影見(あさかげみ)つつ 娘子等(をとめら)が ()取持(とりも)てる 真十鏡(まそかがみ) 二上山(ふたがみやま)に 木暗(このくれ)の 茂谷邊(しげきたにへ)を 呼響(よびとよ)め 朝飛渡(あさとびわた)り 夕月夜(ゆふづくよ) 幽野邊(かそけきのへ)に 遙遙(はろはろ)に ()霍公鳥(ほととぎす) 立潛(たちく)くと 羽觸(はぶれ)()らす 藤波(ふぢなみ)の 花懷(はななつ)かしみ 引攀(ひきよ)ぢて (そで)扱入(こきれ)つ ()まば()むとも

       錦簇桃花之 艷麗鮮紅曳生姿 容光甚煥發 花顏品貌面輪中 青柳之所如 纖秀長眉根矣 曲垂展笑顏 觀見所映朝影而 婀娜娘子等 執而取持在手中 無曇真十鏡 負名匣蓋二上山 木蔭下暗間 花葉繁茂溪谷邊 啼囀呼鳴響 朝日飛渡越大虛 亦於夕月夜 微光幽渺野邊間 遙遙悠遠兮 鳴囀啼喚霍公鳥 穿梭飛潛而 觸羽一振散零落 澎湃藤浪之 紫花盛咲惹人愛 引攀折其枝 扱入衣袖納懷中 縱為所染不足惜

      大伴家持 4192


4193 【承前,反歌。】

     霍公鳥 鳴羽觸爾毛 落爾家利 盛過良志 藤奈美能花【一云:「落奴倍美,袖爾古伎納都,藤浪乃花也。」】

     霍公鳥(ほととぎす) ()羽觸(はぶ)れにも ()りにけり 盛過(さかりす)ぐらし 藤波花(ふぢなみのはな)一云(またにいふ):「()りぬべみ、(そで)扱入(こきれ)れつ、藤波花(ふぢなみのはな)。」(なり)。】

       縱為霍公鳥 鳴啼振羽稍觸者 即倏凋零落 嗚呼咲盛時已過 妍哉藤浪花也矣【一云:「殆要凋零矣,惜也折枝扱袖中,妍哉藤浪花也矣。」】

      大伴家持 4193

         同九日作之。



4194 更怨霍公鳥哢晚歌三首

     霍公鳥 喧渡奴等 告禮騰毛 吾聞都我受 花波須疑都追

     霍公鳥(ほととぎす) 鳴渡(なきわた)りぬと ()ぐれども 我聞繼(われききつ)がず (はな)()ぎつつ

       雖然人相告 杜鵑霍公鳥也者 已鳴渡過者 然而我未嘗聞間 藤花咲盛時已過

      大伴家持 4194


4195 【承前。】

     吾幾許 斯努波久不知爾 霍公鳥 伊頭敝能山乎 鳴可將超

     ()幾許(ここだ) (しの)はく()らに 霍公鳥(ほととぎす) 何邊山(いづへのやま)を ()きか()ゆらむ

       蓋不知我身 苦待戀慕至幾許 霍公鳥哢晚 究竟是自何山邊 翱翔飛越鳴渡哉

      大伴家持 4195


4196 【承前。】

     月立之 日欲里乎伎都追 敲自努比 麻泥騰伎奈可奴 霍公鳥可母

     月立(つきた)ちし ()より()きつつ 打偲(うちしの)ひ ()てど來鳴(きな)かぬ 霍公鳥(ほととぎす)かも

       自於卯月立 日日無闕招其至 如是苦戀慕 引領期盼未來鳴 嗚呼薄情霍公鳥

      大伴家持 4196


4197 贈京人歌二首

     妹爾似 草等見之欲里 吾標之 野邊之山吹 誰可手乎里之

     (いも)()る (くさ)()しより ()(しめ)し 野邊山吹(のへのやまぶき) (たれ)手折(たを)りし

       自吾見彼草 其姿形似妹光儀 故我標結之 野邊山吹尚稚嫩 還冀他人莫手折

      大伴家持 4197


4198 【承前。】

     都禮母奈久 可禮爾之毛能登 人者雖云 不相日麻禰美 念曾吾為流

     由緣(つれ)()く ()れにし(もの)と (ひと)()へど ()はぬ日數多(ひまね)み (おも)ひそ()がする

       雖然他人云 我身薄情不流連 倏然別去者 然而不逢日苦多 實則朝暮憂戀慕

      大伴家持 4198

         右,為贈留女之女郎,所誂家婦作也。【女郎者,即大伴家持之妹。】



4199 十二日,遊覽布勢水海,船泊於多毗灣,望見藤花,各述懷作歌四首 【第一。】

     藤奈美乃 影成海之 底清美 之都久石乎毛 珠等曾吾見流

     藤波(ふぢなみ)の 影成(かげな)(うみ)の 底清(そこきよ)み (しづ)(いし)をも (たま)とそ()()

       藤浪咲一面 映照倒影水海之 清澄見底故 眼見沉水卵石者 洽似寶玉能混珠

      大伴家持 4199

         守大伴宿禰家持。



4200 【承前,第二。】

     多祜乃浦能 底左倍爾保布 藤奈美乎 加射之氐將去 不見人之為

     多祜浦(たこのうら)の (そこ)さへ(にほ)ふ 藤浪(ふぢなみ)を 髻首(かざ)して()かむ ()(ひと)(ため)

       布勢多祜浦 映照水底增豔色 絢麗藤浪矣 折枝髻首而歸者 奉為未得見人也

      內藏繩麻呂 4200

         次官內藏忌寸繩麻呂。



4201 【承前,第三。】

     伊佐左可爾 念而來之乎 多祜乃浦爾 開流藤見而 一夜可經

     (いささか)に (おも)ひて()しを 多祜浦(たこのうら)に ()ける藤見(ふぢみ)て 一夜經(ひとよへ)ぬべし

       聞彼花已凋 愁念稍晚不逢時 來此多祜浦 見其藤浪咲一面 流連忘返可經夜

      久米廣繩 4201

         判官久米朝臣廣繩。



4202 【承前,第四。】

     藤奈美乎 借廬爾造 灣迴為流 人等波不知爾 海部等可見良牟

     藤浪(ふぢなみ)を 假廬(かりいほ)(つく)り 浦迴(うらみ)する (ひと)とは()らに 海人(あま)とか()らむ

       手折藤浪而 花餝假廬屋形舟 巡迴多祜浦 人不知我來遊興 以為海人白水郎

      久米繼麻呂 4202

         久米朝臣繼麻呂。



4203 恨霍公鳥不喧歌一首

     家爾去而 奈爾乎將語 安之比奇能 山霍公鳥 一音毛奈家

     (いへ)()きて (なに)(かた)らむ 足引(あしひき)の 山霍公鳥(やまほととぎす) 一聲(ひとこゑ)()

       一旦返家時 當與親人語何哉 足曳勢險峻 山嶺霍公鳥也者 冀汝一喧為言草

      久米廣繩 4203

         判官久米朝臣廣繩。



4204 見攀折保寶葉歌二首

     吾勢故我 捧而持流 保寶我之婆 安多可毛似加 青盖

     ()背子(せこ)が (ささ)げて()てる 保寶葉(ほほがしは) (あたか)()るか 青蓋(あをききぬがさ)

       愛也吾兄子 所以攀折而捧持 保寶葉枝矣 其貌姿形神似也 貴人儀仗青傘蓋

      惠行 4204

         講師僧惠行。



4205 【承前。】

     皇神祖之 遠御代三世波 射布折 酒飲等伊布曾 此保寶我之波

     皇祖(すめろき)の 遠御代御代(とほみよみよ)は い敷折(しきを)り 酒飲(さけの)むと()ふそ 此保寶葉(このほほがしは)

       皇祖皇宗之 曩古源遠諸御世 敷折作酒盞 以暢杜康盡酣飲 是茲保寶葉也矣

      大伴家持 4205

         守大伴宿禰家持。



4206 還時,濱上仰見月光歌一首

     之夫多爾乎 指而吾行 此濱爾 月夜安伎氐牟 馬之末時停息

     澀谿(しぶたに)を ()して()()く 此濱(このはま)に 月夜飽(つくよあ)きてむ 馬暫(うましま)()

       指其澀谿而 長趨直入我行去 還時在此濱 吾欲滿喫此月夜 還願停馬暫流連

      大伴家持 4206

         守大伴宿禰家持。



4207 廿二日,贈判官久米朝臣廣繩霍公鳥怨恨歌一首 【并短歌。】

     此間爾之氐 曾我比爾所見 和我勢故我 垣都能谿爾 安氣左禮婆 榛之狹枝爾 暮左禮婆 藤之繁美爾 遙遙爾 鳴霍公鳥 吾屋戶能 殖木橘 花爾知流 時乎麻太之美 伎奈加奈久 曾許波不怨 之可禮杼毛 谷可多頭伎氐 家居有 君之聞都都 追氣奈久毛宇之

     此間(ここ)にして 背向(そがひ)()ゆる ()背子(せこ)が 垣內谷(かきつのたに)に ()けされば 榛小枝(はりのさえだ)に 夕去(ゆふさ)れば 藤繁(ふぢのしげ)みに 遙遙(はろはろ)に 鳴霍公鳥(なくほととぎす) ()宿(やど)の 植木橘(うゑきたちばな) (はな)()る (とき)()だしみ 來鳴(きな)()く 其處(そこ)(うら)みず (しか)れども 谷片付(たにかたづ)きて 家居(いへゐ)せる (きみ)()きつつ ()()くも()

       身居在此間 背向遠望而可見 愛也吾兄子 宅邸垣內坐谷間 拂曉夜明者 在其榛梢小枝上 日落夕暮者 藤浪錦簇繁茂中 遙遙悠遠兮 鳴囀啼喚霍公鳥 以我庭宿間 所植香菓木橘之 轉俄散其華 凋零時節未至故 杜鵑不來鳴 其處理宜無所恨 雖然如此者 構室造屋在谷傍 家居而生息 君既常聞彼鳥喧 卻不相告甚可憎

      大伴家持 4207


4208 反歌一首 【承前。】

     吾幾許 麻氐騰來不鳴 霍公鳥 比等里聞都追 不告君可母

     ()幾許(ここだ) ()てど來鳴(どきな)かぬ 霍公鳥(ほととぎす) 一人聞(ひとりき)きつつ ()げぬ(きみ)かも

       吾人待幾許 卻總吝嗇不來喧 山霍公鳥矣 汝命獨自賞其囀 卻不來告甚可憎

      大伴家持 4208


4209 詠霍公鳥歌一首 【并短歌。】

     多爾知可久 伊敝波乎禮騰母 許太加久氐 佐刀波安禮騰母 保登等藝須 伊麻太伎奈加受 奈久許惠乎 伎可麻久保理登 安志多爾波 可度爾伊氐多知 由布敝爾波 多爾乎美和多之 古布禮騰毛 比等己惠太爾母 伊麻太伎己要受

     谷近(たにちか)く (いへ)()れども 木高(こだかく)くて (さと)()れども 霍公鳥(ほととぎす) 未來鳴(いまだきな)かず 鳴聲(なくこゑ)を ()かまく()りと (あした)には (かど)出立(いでた)ち (ゆふへ)には (たに)見渡(みわた)し ()ふれども 一聲(ひとこゑ)だにも 未聞(いまだき)こえず

       雖然吾構室 垣內所居近谷邊 雖然吾處鄉 木高葱鬱山里間 然彼霍公鳥 時至今日未來鳴 欲得其鳴聲 欲聞郭公鳥囀喧 晨曦朝日昇 出立門戶放眼望 黃昏夕日降 見渡谷隘覽不止 雖然戀幾許 至今久俟待徒然 縱令一聲未得聞

      久米廣繩 4209


4210 【承前,反歌。】

     敷治奈美乃 志氣里波須疑奴 安志比紀乃 夜麻保登等藝須 奈騰可伎奈賀奴

     藤浪(ふぢなみ)の (しげ)りは()ぎぬ 足引(あしひき)の 山霍公鳥(やまほととぎす) ()どか來鳴(かきな)かぬ

       錦簇藤浪之 繁茂盛咲時已過 足曳勢險峻 嗚呼山霍公鳥矣 汝何至今不來鳴

      久米廣繩 4210

         右,廿三日,掾久米朝臣廣繩和。



4211 追同處女墓歌一首 【并短歌。】

     古爾 有家流和射乃 久須婆之伎 事跡言繼 知努乎登古 宇奈比壯子乃 宇都勢美能 名乎競爭登 玉剋 壽毛須氐弖 相爭爾 嬬問為家留 妗嬬等之 聞者悲左 春花乃 爾太要盛而 秋葉之 爾保比爾照有 惜 身之壯尚 大夫之 語勞美 父母爾 啟別而 離家 海邊爾出立 朝暮爾 滿來潮之 八隔浪爾 靡珠藻乃 節間毛 惜命乎 露霜之 過麻之爾家禮 奧墓乎 此間定而 後代之 聞繼人毛 伊也遠爾 思努比爾勢餘等 黃楊小櫛 之賀左志家良之 生而靡有

     (いにしへ)に (あり)ける(わざ)の (くす)ばしき (こと)言繼(いひつ)ぐ 千沼壯士(ちぬをとこ) 菟原壯士(うなひをとこ)の 空蟬(うつせみ)の ()(あらそ)ふと 玉剋(たまきは)る (いのち)()てて (あらそひ)に 妻問(つまど)ひしける 處女等(をとめら)が ()けば(かな)しさ 春花(はるはな)の 匂榮(にほえさか)えて 秋葉(あきのは)の (にほ)ひに()れる (あたら)しき 身盛(みのさか)りすら 大夫(ますらを)の 言勞(こといたは)しみ 父母(ちちはは)に 申別(まをしわか)れて 家離(いへざか)り 海邊(うみへ)出立(いでた)ち 朝夕(あさよひ)に 滿來(みちく)(しほ)の 八重波(やへなみ)に (なび)玉藻(たまも)の 節間(ふしのま)も ()しき(いのち)を 露霜(つゆしも)の ()ぎましにけれ 奧津城(おくつき)を 此間(ここ)(さだ)めて 後世(のちのよ)の 聞繼(ききつ)(ひと)も 彌遠(いやとほ)に (しの)ひに()よと 黃楊小櫛(つげをぐし) 然刺(しかさ)しけらし ()ひて(なび)けり

       曩古往昔時 口耳相傳有此事 以其珍且奇 存而不忘流今世 千沼壯士與 菟原壯士益荒男 空蟬憂世間 爭賭名譽相各競 玉剋魂極矣 毅然捨命不顧身 決鬥爭拚死 窈窕淑女君好逑 菟原娘子等 吾聞其事己心悲 春花之所如 爭妍鬥豔欣向榮 秋葉之所如 赤光映照織錦紅 惜也惻隱哉 年華雖花樣 不忍二狀士 難堪絮絮其愛語 遂與垂乳根 父母告別離家去 杳無人煙兮 隻身出立佇海邊 朝夕徘徊而 滿來擊岸潮與汐 頻頻八重波 漂蕩逐浪靡玉藻 節間之所如 火石光間可惜命 露霜不久長 香消玉殞撒手去 故造奧津城 定娘子墓在此間 欲令萬世後 口耳相傳聞繼人 奉為彌遠後 可以相念追偲而 執黃楊小櫛 然刺插枝植茲哉 生意盎然繁茂矣

      大伴家持 4211


4212 【承前,反歌。】

     乎等女等之 後乃表跡 黃楊小櫛 生更生而 靡家良思母

     娘子等(をとめら)が 後標(のちのしるし)と 黃楊小櫛(つげをぐし) 生代生(おひかはりお)ひて (なび)きけらしも

       欲令娘子等 事蹟可為後世知 標誌黃楊之 小櫛更生為嚴木 代代靡生枝展矣

      大伴家持 4212

         右,五月六日,依興大伴宿禰家持作之。



4213 【贈京丹比家歌。】

     安由乎疾 奈吳乃浦迴爾 與須流浪 伊夜千重之伎爾 戀度可母

     東風(あゆ)(いた)み 奈吳浦迴(なごのうらみ)に ()する(なみ) 彌千重頻(いやちへしき)に 戀渡(こひわた)るかも

       東風吹勁疾 洽猶奈吳浦迴間 歸浪之所如 頻頻千重彌萬重 終日憂愁戀慕哉

      大伴家持 4213

         右一首,贈京丹比家。



4214 挽歌一首 【并短歌。】

     天地之 初時從 宇都曾美能 八十伴男者 大王爾 麻都呂布物跡 定有 官爾之在者 天皇之 命恐 夷放 國乎治等 足日木 山河阻 風雲爾 言者雖通 正不遇 日之累者 思戀 氣衝居爾 玉桙之 道來人之 傳言爾 吾爾語良久 波之伎餘之 君者比來 宇良佐備弖 嘆息伊麻須 世間之 猒家口都良家苦 開花毛 時爾宇都呂布 宇都勢美毛 无常阿里家利 足千根之 御母之命 何如可毛 時之波將有乎 真鏡 見禮杼母不飽 珠緒之 惜盛爾 立霧之 失去如久 置露之 消去之如 玉藻成 靡許伊臥 逝水之 留不得常 枉言哉 人之云都流 逆言乎 人之告都流 梓弓 爪弦夜音之 遠音爾毛 聞者悲彌 庭多豆水 流涕 留可禰都母

     天地(あめつち)の (はじ)めの(とき)ゆ 現身(うつそみ)の 八十伴緒(やそとものを)は 大君(おほきみ)に (まつろ)(もの)と (さだ)まれる (つかさ)にしあれば 大君(おほきみ)の 命恐(みことかしこ)み 鄙離(ひなざか)る (くに)(をさ)むと 足引(あしひき)の 山川隔(やまかはへな)り 風雲(かぜくも)に (こと)(かよ)へど (ただ)()はず 日重為(ひのかさな)れば 思戀(おもひこ)ひ 息衝居(いきづきを)るに 玉桙(たまほこ)の 道來(みちく)(ひと)の ()(こと)に (われ)(かた)らく ()しき()し (きみ)此頃(このころ) 衷寂(うらさび)て (なげ)かひ(いま)す 世中(よのなか)の ()けく(つら)けく 咲花(さくはな)も (とき)(うつろ)ふ 空蟬(うつせみ)も 常無(つねな)(あり)けり 垂乳根(たらちね)の 御母命(みははのみこと) 何然(なにしか)も (とき)しはあらむを 真十鏡(まそかがみ) ()れども()かず 玉緒(たまのを)の ()しき(さか)りに 立霧(たつきり)の ()せぬる(ごと)く 置露(おくつゆ)の ()ぬるが(ごと)く 玉藻如(たまもな)す 靡臥伏(なびきこいふ)し 逝水(ゆくみづ)の 留兼(とどめか)ねつと 狂言(たはこと)か 人言(ひとのい)ひつる 逆言(およづれ)か 人告(ひとのつ)げつる 梓弓(あづさゆみ) 爪引(つまび)夜音(よおと)の 遠音(とほおと)にも ()けば(かな)しみ 庭潦(にはたづみ) (なが)るる(なみた) 留兼(とどめか)ねつも

       自於遠神代 天地初判時以來 空蟬憂世間 八十伴緒諸人臣 大君顯人神 順從宸旨乘輿命 以曩古所定 世世相襲官職故 大君敕命重 誠惶誠恐遵聖慮 拜官在鄙離 隨任離京治偏國 足曳勢險峻 隔以山峰阻河川 雖然任風雲 仍有魚雁可通言 然不得直逢 相別積時累日久 憂思苦戀慕 唏噓愁嘆度日時 玉桙石柱兮 康莊大道往來人 所傳消息者 語於我身言如是 愛也哀憐兮 汝之思君此頃時 衷心寂不樂 總以悲哀嘆為行 悠悠此世間 憂忡艱辛之甚者 縱令咲花美 時移遷異不久長 空蟬浮世人 諸行無常攝理也 恩育垂乳根 慈愛賢淑御母命 其思何然哉 不識時務至如此 無曇真十鏡 見之百變不飽厭 魂絲玉緒兮 可惜惋惱盛繁間 瀰漫湧霧之 煙消雲散之所如 晶瑩置露之 消逝無蹤之所如 洽猶玉藻之 逐波漂蕩靡臥伏 逝水如斯夫 不捨晝夜難留滯 蓋是誑語哉 其人所述豈為真 抑或逆言歟 其人所告豈為實 梓弓振弦兮 張弓夜音之所如 雖為遠噂音 聞者心哀悲難耐 庭潦之所如 潸然淚下哭斷腸 泪雨滂沱不能抑

      大伴家持 4214


4215 反歌二首 【承前。】

     遠音毛 君之痛念跡 聞都禮婆 哭耳所泣 相念吾者

     遠音(とほと)にも (きみ)(なげ)くと ()きつれば ()のみし()かゆ 相思(あひおも)(われ)

       雖為遠噂音 聽聞汝嘆千里外 我亦情泉湧 愴然號泣淚涕下 相思相念吾倆矣

      大伴家持 4215


4216 【承前。】

     世間之 无常事者 知良牟乎 情盡莫 大夫爾之氐

     世中(よのなか)の 常無(つねな)(こと)は ()るらむを 心盡(こころつ)くす() 大夫(ますらを)にして

       空蟬憂世間 汝知諸行總無常 既然如是者 莫任哀悔情無涯 御身大夫壯士矣

      大伴家持 4216

         右,大伴宿禰家持弔聟南右大臣家藤原二郎之喪慈母患也。五月廿七日。



4217 霖雨霽日作歌一首

     宇能花乎 令腐霖雨之 始水邇 緣木積成 將因兒毛我母

     卯花(うのはな)を (くた)霖雨(ながめ)の 始水(みづはな)に ()木屑如(こつみな)す ()らむ兒欲得(こもがも)

       可令憂卯花 破敗腐朽霖雨之 庭潦始水間 所寄木屑之所如 欲得佳人依來伴

      大伴家持 4217


4218 見漁夫火光歌一首 【承前。】

     鮪衝等 海人之燭有 伊射里火之 保爾可將出 吾之下念乎

     鮪突(しびつ)くと 海人燭(あまのとも)せる 漁火(いざりひ)の ()にか(いだ)さむ ()下思(したもひ)

       突銛刺鮪兮 海人白水郎所燭 漁火之所如 其當露顯秀外哉 吾人胸懷密情者

      大伴家持 4218

         右二首,五月。



4219 【芽子早花歌。】

     吾屋戶之 芽子開爾家理 秋風之 將吹乎待者 伊等遠彌可母

     ()宿(やど)の 萩咲(はぎさ)きにけり 秋風(あきかぜ)の ()かむを()たば 甚遠(いととほ)みかも

       吾宿庭院間 秋萩已綻咲一片 時節雖未至 蓋俟秋風拂日遠 迫不及待先咲哉

      大伴家持 4219

         右一首,六月十五日,見芽子早花作之。



4220 從京師來贈歌一首 【并短歌。】

     和多都民能 可味能美許等乃 美久之宜爾 多久波比於伎氐 伊都久等布 多麻爾末佐里氐 於毛敝里之 安我故爾波安禮騰 宇都世美乃 與能許等和利等 麻須良乎能 比伎能麻爾麻仁 之奈謝可流 古之地乎左之氐 波布都多能 和可禮爾之欲理 於吉都奈美 等乎牟麻欲妣伎 於保夫禰能 由久良由久良耳 於毛可宜爾 毛得奈民延都都 可久古非婆 意伊豆久安我未 氣太志安倍牟可母

     海神(わたつみ)の 神命(かみのみこと)の 御櫛笥(みくしげ)に 貯置(たくはひお)きて (いつ)くとふ (たま)()さりて (おも)へりし ()()にはあれど 空蟬(うつせみ)の 世理(よのことわり)と 大夫(ますらを)の 引隨(ひきのまにま)に 繁離(しなざか)る 越路(こしぢ)()して 延蔦(はふつた)の (わか)れにしより 沖波(おきつなみ) 撓眉引(とをむまよび)き 大船(おほぶね)の ()くら()くらに 面影(おもかげ)に 元無見(もとなみ)えつつ 如斯戀(かくこ)ひば 老附(おいづ)()() (けだ)()へむ(かも)

       海若綿津見 嚴神尊命所擁持 御櫛笥之中 珍藏貯置納妥善 嚴齋護玉矣 呵護愛憐甚彼玉 掛念懸心頭 如是我之愛子者 空蟬憂世間 夫唱婦隨實攝理 隨大夫壯士 應其所邀招請而 遠離隔繁山 背都指徃越路去 延蔦枝岐兮 相訣別去日以來 瀛浪沖津波 曲撓柳眉引細長 猶乘大船兮 晃蕩搖曳影幢幢 俤影汝光儀 其幻無由映眼簾 如斯戀慕者 我身垂暮增羸老 蓋猶風中殘燭哉

      坂上郎女 4220


4221 反歌一首 【承前。】

     可久婆可里 古非之久志安良婆 末蘇可我美 彌奴比等吉奈久 安良麻之母能乎

     如此許(かくばかり) (こひ)しくしあらば 真十鏡(まそかがみ) ()日時無(ひときな)く ()益物(ましもの)

        諸事誠難料 早知戀慕如此許 無曇真十鏡 應當珍惜別去前 朝暮端看無闕時

      坂上郎女 4221

         右二首,大伴氏坂上郎女賜女子大孃也。



4222 九月三日宴歌二首

     許能之具禮 伊多久奈布里曾 和藝毛故爾 美勢牟我多米爾 母美知等里氐牟

     此時雨(このしぐれ) 甚莫降(いたくなふ)りそ 我妹子(わぎもこ)に ()せむが(ため)に 黃葉取(もみちと)りてむ

       嗟呼此時雨 汝莫甚零降如斯 愛也吾妹子 為使其觀茲秋意 手折黃葉留袖中

      久米廣繩 4222

         右一首,掾久米朝臣廣繩作之。



4223 【承前。】

     安乎爾與之 奈良比等美牟登 和我世故我 之米家牟毛美知 都知爾於知米也毛

     青丹良(あをによ)し 奈良人見(ならひとみ)むと ()背子(せこ)が (しめ)けむ黃葉(もみち) (つち)()ちめやも

       青丹良且秀 欲令奈良京人見 愛也吾兄子 所以標結山黃葉 凋零舞落散一地

      大伴家持 4223

         右一首,守大伴宿禰家持作之。



4224 【幸芳野宮時藤原皇后御作。】

     朝霧之 多奈引田為爾 鳴鴈乎 留得哉 吾屋戶能波義

     朝霧(あさぎり)の 棚引(たなび)田居(たゐ)に 鳴雁(なくかり)を 留得(とどめえ)(かも) ()宿萩(やどのはぎ)

       拂曉朝霧之 霏霺棚引田居間 經此鳴雁者 可否令彼駐足哉 吾宿所咲秋萩矣

      光明皇后 4224

         右一首歌者,幸於芳野離宮之時,藤原皇后御作。但年月未審詳。

         十月五日,河邊朝臣東人傳誦云爾。



4225 【大伴家持餞朝集使秦石竹作歌。】

     足日木之 山黃葉爾 四頭久相而 將落山道乎 公之超麻久

     足引(あしひき)の 山黃葉(やまのもみち)に 雫合(しづくあ)ひて ()らむ山路(やまぢ)を (きみ)()えまく

       足曳勢險峻 深山黃葉織錦紅 其與時雨雫 交混零落彼山路 汝今啟程將越哉

      大伴家持 4225

         右一首,同月十六日,餞之朝集使少目秦伊美吉石竹時,守大伴宿禰家持作之。



4226 雪日作歌一首

     此雪之 消遺時爾 去來歸奈 山橘之 實光毛將見

     此雪(このゆき)の 消殘(けのこ)(とき)に 去來行(いざゆ)かな 山橘(やまたちばな)の 實照(みのて)るも()

       當趁此雪之 尚未消融仍殘時 去來赴彼處 觀望朱紅山橘之 結實輝耀映皓雪

      大伴家持 4226

         右一首,十二月大伴宿禰家持作之。



4227 【三形沙彌贈左大臣歌。】

     大殿之 此迴之 雪莫踏禰 數毛 不零雪曾 山耳爾 零之雪曾 由米緣勿 人哉 莫履禰 雪者

     大殿(おほとの)の 此迴(このもとほり)の 雪莫踏(ゆきなふ)みそね (しばしば)も ()らぬ(ゆき)そ (やま)のみに ()りし(ゆき)そ 努寄(ゆめよ)() (ひと)や 莫踏(なふ)みそね (ゆき)

       北卿大殿之 緣際周遭此迴間 所以積雪願莫踏 其雪非常有 亦非屢屢可降也 為在深山中 方得易遇零雪也 願人切莫輙近之 願勿輙踏此雪矣

      三形沙彌 4227


4228 反歌一首 【承前。】

     有都都毛 御見多麻波牟曾 大殿乃 此母等保里能 雪奈布美曾禰

     (あり)つつも ()(たま)はむそ 大殿(おほとの)の 此迴(このもとほり)の 雪莫踏(ゆきなふ)みそね

       願能留此景 得以久觀常翫矣 由衷有所願 北卿大殿此迴間 積降零雪莫踏之

      三形沙彌 4228

         右二首歌者,三形沙彌承贈左大臣藤原北卿之語作誦之也。聞之傳者,笠朝臣子君。復後傳讀者,越中國掾久米朝臣廣繩是也。



4229 天平勝寶三年

     新 年之初者 彌年爾 雪踏平之 常如此爾毛我

     (あらた)しき 年初(としのはじめ)は 彌年(いやとし)に 雪踏平(ゆきふみなら)し 常如是(つねかく)欲得(もが)

       一元更復始 紫氣東來萬象新 每逢新年初 踏平積雪迎春暖 欲得歲歲常如是

      大伴家持 4229

         右一首歌者,正月二日,守館集宴。於時,零雪殊多,積有四尺焉。即主人大伴宿禰家持作此歌也。



4230 【介內藏忌寸繩麻呂館宴樂時,大伴家持作歌。】

     落雪乎 腰爾奈都美弖 參來之 印毛有香 年之初爾

     降雪(ふるゆき)を (こし)(なづ)みて (まゐ)()し (しるし)(ある)か 年初(としのはじ)めに

       降雪積幾重 曳足滯腰礙跋涉 仍不遠千里 參來拜禮有驗矣 在茲新禧年初時

      大伴家持 4230

         右一首,三日會集介內藏忌寸繩麻呂之館宴樂時,大伴宿禰家持作之。



4231 于時,積雪彫成重巖之起,奇巧綵發草樹之花。屬此,掾久米朝臣廣繩作歌一首

     奈泥之故波 秋咲物乎 君宅之 雪巖爾 左家理家流可母

     撫子(なでしこ)は 秋咲(あきさ)(もの)を (きみ)(いへ)の 雪巖(ゆきのいはほ)に ()けりける(かも)

       石竹撫子花 本當逢秋盛咲者 然在君苑間 縱然積雪彫重巖 非時綻放常絢爛

      久米廣繩 4231


4232 遊行女婦蒲生娘子歌一首

     雪嶋 巖爾殖有 奈泥之故波 千世爾開奴可 君之插頭爾

     雪山齋(ゆきのしま) (いはほ)()ゑたる 撫子(なでしこ)は 千代(ちよ)()かぬか (きみ)髻首(かざ)しに

       積雪飾山齋 重巖所植綵奇巧 石竹撫子花 願汝常咲綻千代 永為吾君髻首矣

      遊行女婦蒲生 4232


4233 于是,諸人酒酣,更深雞鳴。因此,主人內藏伊美吉繩麻呂作歌一首

     打羽振 雞者鳴等母 如此許 零敷雪爾 君伊麻左米也母

     打羽振(うちはふ)き (とり)()くとも 如此許(かくばか)り 降敷(ふりし)(ゆき)に 君坐(きみいま)さめやも

       雖然雞振羽 搏翼高啼報曉至 然在如此許 降敷八重積雪間 實在不得令君歸

      內藏繩麻呂 4233


4234 守大伴宿禰家持和歌一首

     鳴雞者 彌及鳴杼 落雪之 千重爾積許曾 吾等立可氐禰

     鳴雞(なくとり)は 彌頻鳴(いやしきな)けど 降雪(ふるゆき)の 千重(ちへ)()めこそ ()立難(たちかて)

       雖然雄雞者 頻頻報曉告歸時 然以零雪之 層層降敷積千重 留吾在此不得發

      大伴家持 4234


4235 太政大臣藤原家之縣犬養命婦奉天皇歌一首

     天雲乎 富呂爾布美安太之 鳴神毛 今日爾益而 可之古家米也母

     天雲(あまくも)を ほろに()みあだし 鳴神(なるかみ)も 今日(けふ)(まさ)りて (かし)けめやも

       縱為劈天闕 蹴散踏破碎雲路 霹靂鳴神者 稜威豈能勝今日 誠惶誠恐可畏哉

      縣犬養三千代 4235

         右一首,傳誦掾久米朝臣廣繩也。



4236 悲傷死妻歌一首 并短歌。【作主未詳】

     天地之 神者无可禮也 愛 吾妻離流 光神 鳴波多妗嬬 攜手 共將有等 念之爾 情違奴 將言為便 將作為便不知爾 木綿手次 肩爾取挂 倭文幣乎 手爾取持氐 勿令離等 和禮波雖禱 卷而寐之 妹之手本者 雲爾多奈妣久

     天地(あめつち)の (かみ)()かれや (うつく)しき ()妻離(つまさか)る 光神(ひかるかみ) ()りはた娘子(をとめ) (たづさは)り (とも)()らむと (おも)ひしに 心違(こころたが)ひぬ ()はむ(すべ) 為術知(せむすべし)らに 木綿襷(ゆふたすき) (かた)取懸(とりか)け 倭文幣(しつぬさ)を ()取持(とりも)ちて 勿放(なさ)けそと (われ)(いの)れど ()きて()し (いも)手本(たもと)は (くも)棚引(たなびく)

       蓋是六合間 天神地祇無存哉 愛也哀憐哉 吾妻物化辭世去 雷霆萬鈞兮 光神鳴動娘子矣 願執子之手 與汝同在共偕老 雖然誓此念 無奈天不從人願 無語問蒼天 一籌莫展手無措 恭持木綿襷 惶恐取懸披肩上 敬執倭文幣 雙手取持齋仕奉 願得常相在 雖禱熱切烈如此 嗚呼共纏綿 依偎所枕吾妻腕 倏化煙雲飄霏霺

      佚名 4236


4237 反歌一首 【承前。】

     寤爾等 念氐之可毛 夢耳爾 手本卷寐等 見者須便奈之

     (うつつ)にと (おも)ひてしかも (いめ)のみに 手本卷寢(たもとまきぬ)と ()れば術無(すべな)

       縱雖有所思 願得相伴在現世 嗚呼哀哉矣 唯於夜夢得共枕 此外無由會伊人

      佚名 4237

         右二首,傳誦遊行女婦蒲生是也。



4238 二月二日,會集于守館宴作歌一首

     君之徃 若久爾有婆 梅柳 誰與共可 吾縵可牟

     (きみ)()き もし(ひさ)()らば 梅柳(うめやなぎ) (たれ)(とも)にか ()(かづら)かむ

       君此之徃京 相去別離日久者 梅花柳絮者 孰人可以與共賞 誰得共遊與冠縵

      大伴家持 4238

         右,判官久米朝臣廣繩以正稅帳,應入京師。仍守大伴宿禰家持作此歌也。但越中風土,梅花柳絮三月初咲耳。



4239 詠霍公鳥歌一首

     二上之 峯於乃繁爾 許毛里爾之 彼霍公鳥 待騰來奈賀受

     二上(ふたがみ)の 峰上繁(をのうへのしげ)に (こも)りにし 彼霍公鳥(そのほととぎす) ()てど來鳴(きな)かず

       潛藏匿二上 山峰之巔繁茂間 杜鵑霍公鳥 冀汝出谷以喧歌 無奈久待不來鳴

      大伴家持 4239

         右四月十六日,大伴宿禰家持作之。



4240 春日祭神之日,藤原太后御作歌一首

    即賜入唐大使藤原朝臣清河 【參議從四位下遣唐使。】

     大船爾 真梶繁貫 此吾子乎 韓國邊遣 伊波敝神多智

     大船(おほぶね)に 真楫繁貫(まかぢしじぬ)き 此我子(このあご)を 唐國(からくに)()る (いは)神達(かみたち)

       雄偉大船間 真楫繁貫滿軸艫 愛也此吾子 將令渡海遣唐國 敬齋神祇祈冥貺

      光明皇后 藤原安宿媛 4240


4241 大使藤原朝臣清河歌一首

     春日野爾 伊都久三諸乃 梅花 榮而在待 還來麻泥

     春日野(かすがの)に (いつ)三諸(みもろ)の 梅花(うめのはな) (さか)えてあり()て 歸來(かへりく)(まで)

       寧樂春日野 齋祭三諸神奈備 社間梅花矣 冀汝長榮咲不絕 直至有朝歸來時

      藤原清河 4241


4242 大納言藤原家餞之入唐使等宴日歌一首 【即主人卿作之。】

     天雲乃 去還奈牟 毛能由惠爾 念曾吾為流 別悲美

     天雲(あまくも)の 行歸(ゆきかへ)りなむ 物故(ものゆゑ)に (おも)ひそ()がする 別悲(わかれかな)しみ

       自在天雲兮 縱雖此次行去者 不久當歸矣 然我此心情意亂 哀傷悲別不能抑

      藤原仲麻呂 4242


4243 民部少輔丹治比真人土作歌一首

     住吉爾 伊都久祝之 神言等 行得毛來等毛 舶波早家无

     住吉(すみのえ)に 齋祝(いつくはふり)が 神言(かむごと)と (ゆく)とも()とも (ふね)(はや)けむ

       墨江住吉社 祭神奉齋祝覡之 所告神言者 無論行去或歸來 此船往復皆疾迅

      丹比土作 4243


4244 大使藤原朝臣清河歌一首

     荒玉之 年緒長 吾念有 兒等爾可戀 月近附奴

     (あらたま)の 年緒長(としのをなが)く ()()へる 兒等(こら)()ふべき 月近付(つきちかづ)きぬ

       物換星移兮 日夜相伴年緒長 今雖似膠漆 其後吾妻必可戀 相別期月餘無幾

      藤原清河 4244


4245 天平五年,贈入唐使歌一首 并短歌。【作主未詳。】

     虛見都 山跡乃國 青丹與之 平城京師由 忍照 難波爾久太里 住吉乃 三津爾舶能利 直渡 日入國爾 所遣 和我勢能君乎 懸麻久乃 由由志恐伎 墨吉乃 吾大御神 舶乃倍爾 宇之波伎座 船騰毛爾 御立座而 佐之與良牟 礒乃埼埼 許藝波底牟 泊泊爾 荒風 浪爾安波世受 平久 率而可敝理麻世 毛等能國家爾

     虛空見(そらみ)つ 大和國(やまとのくに) 青丹良(あをによ)し 奈良都(ならのみやこ)ゆ 押照(おして)る 難波(なには)(くだ)り 住吉(すみのえ)の 御津(みつ)船乘(ふなの)り 直渡(ただわた)り 日入國(ひのいるくに)に (つか)はさる ()背君(せのきみ)を 掛幕(かけまく)の 忌忌(ゆゆ)(かしこ)き 住吉(すみのえ)の ()大御神(おほみかみ) 船舳(ふなのへ)に 領坐(うしはきいま)し 船艫(ふなとも)に 御立(みた)たしまして 指寄(さしよ)らむ 礒崎崎(いそのさきざき) 漕泊(こぎは)てむ 泊泊(とまりとま)りに 荒風(あらきかぜ) (なみ)()はせず (たひら)けく 率歸坐(ゐてかへりま)せ 元朝廷(もとのみかど)

       虛空見日本 磯輪秀真大和國 青丹良且秀 自於寧樂奈良京 日光押照兮 下向攝津難波崎 墨江住吉兮 乘船御津濱邊湊 長驅直渡而 泛海遠赴日沒國 銜命遣唐土 親親愛也吾夫子 僭述冒揚言 忌懼誠惶復誠恐 鎮座住吉之 吾所齋祭大御神 願汝居船舳 領坐先鋒導使船 冀汝在船艫 御立護持守安平 船團所指寄 崎崎浦浦岩礒間 軸艫所榜泊 湊湊港港水門間 莫令遭荒風 莫使諸舶遇狂瀾 願貺賜安平 可得無恙以率歸 泰然復命元朝廷

      遣唐使 4245


4246 反歌一首 【承前。】

     奧浪 邊波莫起 君之舶 許藝可敝里來而 津爾泊麻泥

     沖波(おきつなみ) 邊波莫立(へなみなた)ちそ (きみ)(ふね) 漕歸來(こぎかへりき)て ()()つる(まで)

       吾祈自至誠 還願瀛浪與岸浪 皆穩莫湧矣 直至吾君所乘舶 安然漕歸泊津日

      遣唐使 4246


4247 阿倍朝臣老人遣唐時,奉母悲別歌一首

     天雲能 曾伎敝能伎波美 吾念有 伎美爾將別 日近成奴

     天雲(あまくも)の 退方極(そきへのきは)み ()()へる (きみ)(わか)れむ 日近(ひちか)(なり)

       恰猶天雲之 依地極堺遠離處 我念無際限 將與親愛慈母之 相別日近我愴然

      阿倍老人 4247

         右件歌者,傳誦之人越中大目高安倉人種麻呂是也。但年月次者,隨聞之時載於此焉。



4248 以七月十七日,遷任少納言。仍作悲別之歌,贈貽朝集使掾久米朝臣廣繩之館二首

       既滿六載之期,忽值遷替之運。於是別舊之悽,心中欝結,拭涕之袖,何以能旱。因作悲歌二首,式遺莫忘之志。其詞曰。

     荒玉乃 年緒長久 相見氐之 彼心引 將忘也毛

     (あらたま)の 年緒長(としのをなが)く 相見(あひみ)てし 彼心引(そのこころひ)き (わす)らえめやも

       物換星移兮 日新月異年緒長 相見昵親交 友好溫厚彼盛情 縱令別去豈能忘

      大伴家持 4248


4249 【承前。】

     伊波世野爾 秋芽子之努藝 馬並 始鷹獦太爾 不為哉將別

     石瀨野(いはせ)に 秋萩凌(あきはぎしの)ぎ 馬並(うまな)めて 初鷹獵(はつとがり)だに ()ずや(わか)れむ

       越洲石瀨野 來回踏靡凌秋萩 並馬共驅馳 今年還未初鷹獵 竟然倏忽將別哉

      大伴家持 4249

         右,八月四日贈之。



4250 便附大帳使,取八月五日應入京師。因此,以四日,設國廚之饌於介內藏伊美吉繩麻呂館餞之。于時,大伴宿禰家持作歌一首

     之奈謝可流 越爾五箇年 住住而 立別麻久 惜初夜可毛

     繁離(しなざか)る (こし)五年(いつとせ) 住住(すみす)みて 立別(たちわか)れまく ()しき宵哉(よひかも)

       遠離隔繁山 住居北陸越中洲 春秋歷五載 今日別去應還京 寂悵悲惜此宵哉

      大伴家持 4250


4251 五日平旦上道。仍國司、次官已下諸僚,皆共視送。於時,射水郡大領安努君廣嶋,門前之林中預設餞饌之宴。于此,大帳使大伴宿禰家持和內藏伊美吉繩麻呂捧盞之歌一首

     玉桙之 道爾出立 徃吾者 公之事跡乎 負而之將去

     玉桙(たまほこ)の (みち)出立(いでた)ち ()(われ)は (きみ)事跡(ことと)を ()ひてし()かむ

       玉桙石柱兮 啟程歸途康莊道 我命所負何 身攬公之事績而 覆奏治勛徃京師

      大伴家持 4251


4252 正稅帳使掾久米朝臣廣繩事畢退任。適遇於越前國掾大伴宿禰池主之館,仍共飲樂也。于時,久米朝臣廣繩矚芽子花作歌一首

     君之家爾 殖有芽子之 始花乎 折而插頭奈 客別度知

     (きみ)(いへ)に ()ゑたる(はぎ)の 初花(はつはな)を (をり)髻首(かざ)さな 旅別(たびわか)(どち)

       君家庭院間 所植秋萩芽子花 可憐初華咲 不如折枝髻首餝 即將旅別同志矣

      久米廣繩 4252


4253 大伴宿禰家持和歌一首

     立而居而 待登待可禰 伊泥氐來之 君爾於是相 插頭都流波疑

     ()ちて()て ()てど待兼(まちか)ね (いで)()し (きみ)於是(ここ)()ひ 髻首(かざ)しつる(はぎ)

       坐立皆難安 雖欲俟汝誠難待 出戶步來者 意外於茲逢汝命 折枝髻首秋萩矣

      大伴家持 4253


4254 向京路上,依興預作侍宴應詔歌一首 【并短歌。】

     蜻嶋 山跡國乎 天雲爾 磐船浮 等母爾倍爾 真可伊繁貫 伊許藝都追 國看之勢志氐 安母里麻之 掃平 千代累 彌嗣繼爾 所知來流 天之日繼等 神奈我良 吾皇乃 天下 治賜者 物乃布能 八十友之雄乎 撫賜 等登能倍賜 食國毛 四方之人乎母 安夫左波受 怋賜者 從古昔 無利之瑞 多婢末禰久 申多麻比奴 手拱而 事無御代等 天地 日月等登聞仁 萬世爾 記續牟曾 八隅知之 吾大皇 秋花 之我色色爾 見賜 明米多麻比 酒見附 榮流今日之 安夜爾貴左

     蜻蛉島(あきづしま) 大和國(やまとのくに)を 天雲(あまくも)に 磐船浮(いはふねうか)べ (とも)()に 真櫂繁貫(まかいしじぬ)き い()ぎつつ 國見(くにみ)しせして 天降(あも)りまし 拂平(はらひたひら)げ 千代重(ちよかさ)ね 彌繼繼(いやつぎつ)ぎに ()らし()る 天日繼(あまのひつぎ)と 惟神(かむながら) ()大君(おほきみ)の 天下(あめのした) 治賜(をさめたま)へば 文武百官(もののふ)の 八十伴緒(やそとものを)を 撫賜(なでたま)ひ 整賜(ととのへたま)ひ 食國(をすくに)も 四方人(よものひと)をも (あぶ)さはず 惠賜(めぐみたま)へば (いにしへ)ゆ ()かりし(しるし) 度數多(たびまね)く 申賜(まをしたま)ひぬ 手抱(たむだ)きて 事無(ことな)御代(みよ)と 天地(あめつち) 日月(ひつき)(とも)に 萬代(よろづよ)に 記繼(しるしつ)がむぞ 八隅治(やすみし)し ()大君(おほきみ) 秋花(あきのはな) 然色色(しがいろいろ)に 見賜(めしたま)ひ (あき)らめ(たま)ひ 酒酣晏(さかみづき) (さか)ゆる今日(けふ)の (あや)(たふと)

       秋津蜻蛉島 細戈千足大和國 翔行天雲上 泛浮所乘天磐船 船艫與船舳 真楫繁貫櫂重重 撑篙漕橹而 虛空望見覽國中 自天降臨而 弭平荒神伐逆賊 重重累千代 世世彌繼承萬葉 御宇治來矣 皇嗣儲君天日繼 惟神隨御心 經綸恢弘我大君 六合天之下 治賜八紘一宇者 文武百官之 八十伴緒股肱臣 撫賜霑恩澤 有條不紊齊整賜 天下食國之 顯見蒼生四方人 莫闕無遺漏 咸賜慈惠施恩故 遠自曩昔時 亙古自今未嘗有 祥瑞泉湧現 申賜不絕度數多 垂拱無為而 天下平治御代矣 其與天地長 更與日月共永久 千秋而萬代 當誌聖事傳後繼 八隅治天下 經綸恢弘我大君 秋花咲一面 色彩絢麗群爭豔 陛下當見覽 以為浦安心澄明 酒酣晏盡歡 熱鬧榮盛今日者 此誠難得可貴也

      大伴家持 4254


4255 反歌一首 【承前。】

     秋時花 種爾有等 色別爾 見之明良牟流 今日之貴左

     秋花(あきのはな) (くさぐさ)()れど 色每(いろごと)に ()(あき)らむる 今日貴(けふのたふと)

       秋時所盛咲 妍花艷色雖種種 端詳翫諸彩 聖上見覽心澄明 今日難得可貴也

      大伴家持 4255


4256 為壽左大臣橘卿預作歌一首

     古昔爾 君之三代經 仕家利 吾大主波 七世申禰

     (いにしへ)に (きみ)三代經(みよへ)て (つか)へけり ()大主(おほぬし)は 七代申(ななよまを)さね

       遠古曩昔時 棟樑賢臣仕朝廷 輔帝亙三代 仍願今日吾大主 長壽健朗仕七世

      大伴家持 4256


4257 十月廿二日,於左大辨紀飯麻呂朝臣家宴歌三首

     手束弓 手爾取持而 朝獦爾 君者立之奴 多奈久良能野爾

     手束弓(たつかゆみ) ()取持(とりも)ちて 朝狩(あさがり)に (きみ)()たしぬ 棚倉野(たなくらの)

       強弩手束弓 執而取持整以暇 朝獵狩場矣 吾君驅馳將發向 山城恭仁棚倉野

      佚名 4257

         右一首,治部卿船王傳誦之,久邇京都時歌。【未詳作主也。】



4258 【承前。】

     明日香河 河戶乎清美 後居而 戀者京 彌遠曾伎奴

     明日香川(あすかがは) 川門(かはと)(きよ)み 後居(おくれゐ)て ()ふれば(みやこ) 彌遠(いやとほ)そきぬ

       寧樂飛鳥川 明日香河門清故 留居舊都而 寂寞戀慕舊識間 京師更遷彌遠矣

      佚名 4258

         右一首,左中辨中臣朝臣清麻呂傳誦,古京時歌也。



4259 【承前。】

     十月 之具禮能常可 吾世古河 屋戶乃黃葉 可落所見

     十月(かむなづき) 時雨常(しぐれのつね)か ()背子(せこ)が 宿(やど)黃葉(もみちば) ()りぬべく()

       初冬神無月 時雨紛降常習哉 愛也吾兄子 其邸屋戶庭院間 黃葉舞落殆可見

      佚名 4259

         右一首,少納言大伴宿禰家持,當時矚梨黃葉作此歌也。



4260 壬申年之亂平定以後歌二首

     皇者 神爾之座者 赤駒之 腹婆布田為乎 京師跡奈之都

     大君(おほきみ)は (かみ)にし()せば 赤駒(あかごま)の 腹這田居(はらばふたゐ)を (みやこ)()しつ

       吾皇大君之 顯見世間人神故 縱令在栗毛 赤駒腹這此田居 儼然成都可安居

      大伴御行 4260

         右一首,大將軍贈右大臣大伴卿作。



4261 【承前。】

     大王者 神爾之座者 水鳥乃 須太久水奴麻乎 皇都常成通 【作者未詳。】

     大君(おほきみ)は (かみ)にし()せば 水鳥(みづとり)の (すだ)水沼(みぬま)を (みやこ)()しつ 【作者未詳(よみひとしらず)。】

       吾皇大君之 顯見世間人神故 縱令在水鳥 群集棲息此水沼 儼然成都可安居

      佚名 4261

         右件二首,天平勝寶四年二月二日聞之,即載於茲也。



4262 閏三月,於衛門督大伴古慈悲宿禰家,餞之入唐副使同胡麻呂宿禰等歌二首

     韓國爾 由伎多良波之氐 可敝里許牟 麻須良多家乎爾 美伎多弖麻都流

     唐國(からくに)に 行足(ゆきた)らはして 歸來(かへりこ)む 壯健男(ますらたけを)に 御酒奉(みきたてまつ)

       其蓋於唐國 鞠躬盡瘁竭己任 覆命歸來哉 今為益荒壯健男 恭奉御酒獻羽觴

      丹比鷹主 4262

         右一首,多治比真人鷹主壽副使大伴胡麻呂宿禰也。



4263 【承前。】

     梳毛見自 屋中毛波可自 久左麻久良 多婢由久伎美乎 伊波布等毛比氐 【作者未詳。】

     (くし)()じ 屋內(やぬち)()かじ 草枕(くさまくら) 旅行君(たびゆくきみ)を (いは)ふと()ひて 【作者未詳(よみひとしらず)。】

       不持櫛梳頭 不掃屋內以持衰 草枕異地兮 奉為旅去吾君而 戒慎齋祭祈冥貺

      佚名 4263

         右件歌,傳誦大伴宿禰村上同清繼等是也。



4264 敕從四位上高麗朝臣福信遣於難波,賜酒肴入唐使藤原朝臣清河等御歌一首 【并短歌。】

     虛見都 山跡乃國波 水上波 地徃如久 船上波 床座如 大神乃 鎮在國曾 四舶 舶能倍奈良倍 平安 早渡來而 還事 奏日爾 相飲酒曾 斯豐御酒者

     虛空見(そらみ)つ 大和國(やまとのくに)は 水上(みづのうへ)は 地行(つちゆ)(ごと)く 船上(ふねのうへ)は (とこ)()(ごと) 大神(おほかみ)の (いは)へる(くに)そ ()つの(ふね) 船舳並(ふなのへなら)べ (たひら)けく 早渡來(はやわたりき)て 返言(かへりこと) (まを)さむ()に 相飲(あひのま)(さけ)そ 此豐御酒(このとよみき)

        虛空見日本 豐秋津洲大和國 縱然泛水上 猶如踏地之所如 縱然乘船上 恰似居床之所如 墨江住吉之 大神所鎮齋此國 遣唐四使船 列陣相並陳船舳 切願得無恙 可以好去早渡來 返言來覆奏 相逢申食所業日 可以相飲此酒矣 香醇此豐御酒也

      孝謙天皇 4264


4265 反歌一首 【承前。】

     四舶 早還來等 白香著 朕裳裙爾 鎮而將待

     ()つの(ふね) 早歸來(はやかへりこ)と (しら)()け ()裳裾(ものすそ)に (いは)ひて()たむ

       遣唐四使船 切願無恙早歸來 執以白木綿 繫朕裳裾求冥貺 戒慎齋祭而將待

      孝謙天皇 4265

         右,發遣敕使并賜酒。樂宴之日月,未得詳審也。



4266 為應詔儲作歌一首 【并短歌。】

     安之比奇能 八峯能宇倍能 都我能木能 伊也繼繼爾 松根能 絕事奈久 青丹余志 奈良能京師爾 萬代爾 國所知等 安美知之 吾大皇乃 神奈我良 於母保之賣志弖 豐宴 見為今日者 毛能乃布能 八十伴雄能 嶋山爾 安可流橘 宇受爾指 紐解放而 千年保伎 保吉等餘毛之 惠良惠良爾 仕奉乎 見之貴者

     足引(あしひき)の 八峰上(やつをのうへ)の 栂木(つがのき)の 彌繼繼(いやつぎつ)ぎに 松根(まつがね)の ()ゆる事無(ことな)く 青丹良(あをによ)し 奈良都(ならのみやこ)に 萬代(よろづよ)に 國知(くにし)らさむと 八隅治(やすみし)し ()大君(おほきみ)の 惟神(かむながら) 思召(おもほ)しめして 豐宴(とよのあかり) ()今日日(けふのひ)は 文武百官(もののふ) 八十伴緒(やそとものを)の 島山(しまやま)に (あか)(たちばな) 髻花(うず)()し 紐解放(ひもときさ)けて 千年壽(ちとせほ)き 壽響(ほきとよ)もし 咲咲(ゑらゑら)に 仕奉(つかへまつ)るを ()るが(たふと)

       足曳勢險峻 連綿不絕八峰上 屹立栂木之 彌益繼繼之所如 蒼鬱松根之 後凋無絕之所如 青丹良且秀 寧樂平城奈良京 千秋復萬代 願得治國馭六合 八隅治天下 經綸恢弘我大君 惟神隨御心 淵默宸慮有所思 酒酣豐樂宴 召覽盡歡此今日 文武百官之 八十伴緒股肱臣 林泉島山間 非時香菓赤橘矣 取刺為髻花 寬衣解帶褪衣紐 祝賀千年壽 頌願萬歲響繚繞 喧囂鼎沸而 歡咲仕奉不止狀 有緣瞻仰可貴矣

      大伴家持 4266


4267 反歌一首 【承前。】

     須賣呂伎能 御代萬代爾 如是許曾 見為安伎良目米 立年之葉爾

     天皇(すめろき)の 御代萬代(みよよろづよ)に 如是(かく)しこそ ()(あき)らめめ 立年端(たつとしのは)

       冀吾天皇之 御世萬代八千代 彌榮常如是 酒酣豐宴能盡歡 每逢年端歲改時

      大伴家持 4267

         右二首,大伴宿禰家持作之。



4268 天皇太后共幸於大納言藤原家之日,黃葉澤蘭一株拔取,令持內侍佐佐貴山君,遣賜大納言藤原卿并陪從大夫等御歌一首。命婦誦曰

     此里者 繼而霜哉置 夏野爾 吾見之草波 毛美知多里家利

     此里(このさと)は (つぎ)(しも)()く 夏野(なつのの)に ()()(くさ)は 黃變(もみ)ちたりけり

       蓋是此里者 冰霜常置不消哉 炎炎夏野間 吾所覓見澤蘭草 竟然褪色黃葉矣

      孝謙天皇 4268


4269 十一月八日,在於左大臣橘朝臣宅肆宴歌四首 【第一。】

     余曾能未爾 見者有之乎 今日見者 年爾不忘 所念可母

     (よそ)のみに ()れば(あり)しを 今日見(けふみ)ては (とし)(わす)れず (おも)ほえむかも

       雖不論過往 唯得遠觀曩昔時 自今日得見 以後年年不能忘 必然懷念有所思

      聖武天皇 4269

         右一首,太上天皇御歌。



4200 【承前,第二。類歌2824。】



4201 【承前,第三。】

     松影乃 清濱邊爾 玉敷者 君伎麻佐牟可 清濱邊爾

     松蔭(まつかげ)の 清濱邊(きよきはまへ)に 玉敷(たまし)かば 君來坐(きみきま)さむか 清濱邊(きよきはまへ)

       若得於松柏 木蔭所庇清濱邊 敷以玉石者 吾君復將幸臨哉 庇蔭清爽此濱邊

      藤原八束 4201

         右一首,右大辨藤原八束朝臣。



4202 【承前,第四。】

     天地爾 足之照而 吾大皇 之伎座婆可母 樂伎小里

     天地(あめつち)に ()らはし()りて ()大君(おほきみ) 敷坐(しきま)せば(かも) (たの)しき小里(をさと)

       六合天地間 皇澤普照無餘處 吾君陛下之 必當光臨此故哉 歡愉可樂小里也

      大伴家持 4202

         右一首,少納言大伴宿禰家持。【未奏。】



4273 廿五日新嘗會肆宴應詔歌六首 【六首第一。】

     天地與 相左可延牟等 大宮乎 都可倍麻都禮婆 貴久宇禮之伎

     天地(あめつち)と 相榮(あひさか)えむと 大宮(おほみや)を 仕奉(つかへまつ)れば (たふと)(うれ)しき

       願得與天地 相榮興盛共長久 可於百敷兮 輪奐大宮仕奉者 可貴歡愉幾許哉

      巨勢奈弖麻呂 4273

         右一首,大納言巨勢朝臣。【未奏。】



4274 【承前,六首第二。】

     天爾波母 五百都綱波布 萬代爾 國所知牟等 五百都都奈波布 【似古歌而未詳。】

     (あめ)にはも 五百綱延(いほつつなは)ふ 萬代(よろづよ)に 國知(くにし)らさむと 五百綱延(いほつつなは)ふ 古歌(ふるうた)()たれども未詳也(しらずなり)。】

       遙遙久方天 所張五百綱延矣 冀君治此國 千秋萬代無極時 如是五百綱延矣 【似古歌而未詳。】

      石川年足 4274

         右一首,式部卿石川年足朝臣。



4275 【承前,六首第三。】

     天地與 久萬弖爾 萬代爾 都可倍麻都良牟 黑酒白酒乎

     天地(あめつち)と (ひさ)しき(まで)に 萬代(よろづよ)に 仕奉(つかへまつ)らむ 黑酒白酒(くろきしろき)

       但願與天地 橫越古今共長久 冀可仕奉者 遍歷千秋迄萬代 所釀黑酒白酒矣

      文屋真人 4275

         右一首,從三位文屋智努真人。



4276 【承前,六首第四。】

     嶋山爾 照在橘 宇受爾左之 仕奉者 卿大夫等

     島山(しまやま)に ()れる(たちばな) 髻花(うず)()し 仕奉(つかへまつ)るは 卿大夫等(まへつきみたち)

       林泉島山間 非時香菓耀橘矣 取刺為髻花 盡歡仕奉豐樂者 群卿大夫諸臣矣

      藤原八束 4276

         右一首,右大辨藤原八束朝臣。



4277 【承前,六首第五。】

     袖垂而 伊射吾苑爾 鶯乃 木傳令落 梅花見爾

     袖垂(そでた)れて 去來我(いざわ)(その)に (うぐひす)の 木傳散(こづたひち)らす 梅花見(うめのはなみ)

       醉步垂袖而 去來聚首我庭苑 其處何可翫 黃鶯傳木以蹴散 飄零梅花可賞見

      藤原永手 4277

         右一首,大和國守藤原永手朝臣。



4278 【承前,六首第六。】

     足日木乃 夜麻之多日影 可豆良家流 宇倍爾也左良爾 梅乎之努波牟

     足引(あしひき)の 山下日蔭(やましたひかげ) (かづら)ける (うへ)にや(さら)に (うめ)(しの)はむ

       足曳勢險峻 摘取山下日蔭葛 為蘰以餝髮 如是盡歡不飽足 豈更欲將翫梅哉

      大伴家持 4278

         右一首,少納言大伴宿禰家持。



4279 廿七日,林王宅,餞之但馬按察使橘奈良麻呂朝臣宴歌三首

     能登河乃 後者相牟 之麻之久母 別等伊倍婆 可奈之久母在香

     能登川(のとがは)の (のち)には()はむ (しまし)くも (わか)ると()へば (かな)しくもあるか

       能登川也矣 雖期後日再相逢 縱是須臾間 一旦別離不相見 悲哀愁惱催憂情

      船王 4279

         右一首,治部卿船王。



4280 【承前。】

     立別 君我伊麻左婆 之奇嶋能 人者和禮自久 伊波比弖麻多牟

     立別(たちわか)ちれ (きみ)(いま)さば 磯城島(しきしま)の (ひと)(われ)じく (いは)ひて()たむ

       餞之將別去 君此啟程不在者 大和磯城島 後居人無分彼此 齋祈無恙待早歸

      大伴黑麻呂 4280

         右一首,右京少進大伴宿禰黑麻呂。



4281 【承前。】

     白雪能 布里之久山乎 越由加牟 君乎曾母等奈 伊吉能乎爾念

     白雪(しらゆき)の 降敷(ふりし)(やま)を 越行(こえゆ)かむ (きみ)をそ元無(もとな) 息緒(いきのを)(おも)

       皓皓白雪之 紛紛零落敷此山 君越嶺而去 我身無由懸此命 相思熱念莫能止

      大伴家持 4281

         左大臣換尾云:「伊伎能乎爾須流。」然猶喻曰:「如前誦之。」也。

         左大臣(ひだりのおほいまうちぎみ)()(かへ)(いふ):「(いき)()にする。」(しか)れども(なほ)喻曰(さとしていはく):「(まへ)如誦(ごとくよ)め。」(なり)

           左大臣換尾云:「不覺視之為身命。」然猶喻曰:「如前誦之。」也。

           右一首,少納言大伴宿禰家持。



4282 五年正月四日,於治部少輔石上朝臣宅嗣家宴歌三首

     辭繁 不相問爾 梅花 雪爾之乎禮氐 宇都呂波牟可母

     言繁(ことしげ)み 相問(あひと)()くに 梅花(うめのはな) (ゆき)(しを)れて (うつろ)はむ(かも)

       流言蜚語故 久久不來相問間 邸上梅花者 莫非遭逢寒雪摧 枯萎凋零散落哉

      石上宅嗣 4282

         右一首,主人石上朝臣宅嗣。



4283 【承前。】

     梅花 開有之中爾 布敷賣流波 戀哉許母禮留 雪乎持等可

     梅花(うめのはな) ()けるが(なか)に (ふふ)めるは (こひ)(こも)れる (ゆき)()つとか

       庭前梅花之 一面爭豔盛咲間 含苞待放者 蓋是黯惱憂戀哉 抑或凌霜待雪哉

      茨田王 4283

         右一首,中務大輔茨田王。



4284 【承前。】

     新 年始爾 思共 伊牟禮氐乎禮婆 宇禮之久母安流可

     (あらた)しき 年初(としのはじめ)に 思共(おもふどち) い()れて()れば (うれ)しくもあるか

       萬象復始兮 在此新年之初肇 得與諸志同 道合之士群居者 盡情嬉樂可歡矣

      道祖王 4284

         右一首,大膳大夫道祖王。



4285 十一日,大雪落積,尺有二寸。因述拙懷歌三首

     大宮能 內爾毛外爾母 米都良之久 布禮留大雪 莫踏禰乎之

     大宮(おほみや)の (うち)にも()にも (めづら)しく ()れる大雪(おほゆき) 莫踏(なふ)みそね()

       百敷禁闈間 無論大宮內與外 罕見稀可貴 落積降置大雪矣 冀莫踏之可惜矣

      大伴家持 4285


4286 【承前。】

     御苑布能 竹林爾 鶯波 之伎奈吉爾之乎 雪波布利都都

     御苑生(みそのふ)の 竹林(たけのはやし)に (うぐひす)は 繁鳴(しばな)きにしを (ゆき)()りつつ

       宮中御苑間 所生茂密竹林中 雖然黃鶯者 喧囂繁鳴報春至 皓雪依舊降不止

      大伴家持 4286


4287 【承前。】

     鶯能 鳴之可伎都爾 爾保敝理之 梅此雪爾 宇都呂布良牟可

     (うぐひす)の ()きし垣內(かきつ)に (にほ)へりし 梅此雪(うめこのゆき)に (うつろ)ふらむか

       遊弋黃鶯矣 所以來鳴茲垣內 暗香盛咲之 梅花蓋因此雪故 移落凋零舞散哉

      大伴家持 4287


4288 十二日,侍於內裏,聞千鳥喧作歌一首

     河渚爾母 雪波布禮禮之 宮裏 智杼利鳴良之 為牟等己呂奈美

     川洲(かはす)にも (ゆき)()れれし 宮內(みやのうち)に 千鳥鳴(ちどりな)くらし ()所無(ところな)

       縱令河洲間 白雪紛零降幾許 吾度宮闈內 千鳥蓋喧鳴渡哉 以其無處容身故

      大伴家持 4288


4289 二月十九日,於左大臣橘家宴,見攀折柳條歌一首

     青柳乃 保都枝與治等理 可豆良久波 君之屋戶爾之 千年保久等曾

     青柳(あをやぎ)の 上枝攀取(ほつえよぢと)り (かづら)くは (きみ)宿(やど)にし 千年壽(ちとせほ)くとそ

       楊柳葉青青 攀取上枝折其梢 以為縵餝者 奉祝吾君此庭苑 禱其繁盛逾千年

      大伴家持 4289


4290 廿三日,依興作歌二首

     春野爾 霞多奈毗伎 宇良悲 許能暮影爾 鶯奈久母

     春野(はるのの)に 霞棚引(かすみたなび)き 衷悲(うらがな)し 此夕影(このゆふかげ)に 鶯鳴(うぐひすな)くも

       新綠春野間 雲霞棚引飄霏霺 由衷傷悲矣 薄暗夕影日暮中 黃鶯哀啼聲迴盪

      大伴家持 4290


4291 【承前。】

     和我屋度能 伊佐左村竹 布久風能 於等能可蘇氣伎 許能由布敝可母

     ()宿(やど)の 些群竹(いささむらたけ) 吹風(ふくかぜ)の 音幽(おとのかそけ)き 此夕哉(このゆふへかも)

       吾戶庭院間 叢生些許群笹之 委於吹風而 微音簌簌響幽聲 隱約竹鳴此夕哉

      大伴家持 4291


4292 廿五日,作歌一首

     宇良宇良爾 照流春日爾 比婆理安我里 情悲毛 比登里志於母倍婆

     遲遲(うらうら)に ()れる春日(はるひ)に 雲雀上(ひばりあ)がり 心悲(こころかな)しも (ひとり)(おも)へば

       鶬鶊正啼而 春日遲遲照長閑 雲雀舞大空 吾心悽惆方寸哀 念此獨身孤悲矣

      大伴家持 4292

         春日遲遲,鶬鶊正啼。悽惆之意,非歌難撥耳。仍作此歌,式展締緒。但此卷中不稱作者名字,徒錄年月所處緣起者,皆大伴宿禰家持裁作歌詞也。



真字萬葉集 卷十九 孝謙朝作雜歌、大伴家持作歌 終