真字萬葉集 卷十八 雜歌、大伴家持作歌


雜歌、大伴家持作歌

4032 天平廿年春三月廿三日,左大臣橘家(諸兄)之使者造酒司令史田邊福麻呂,饗于守大伴宿禰家持館。爰作新歌,并便誦古詠,各述心緒 【四首第一。】

     奈吾乃宇美爾 布禰之麻志可勢 於伎爾伊泥弖 奈美多知久夜等 見底可敝利許牟

     奈吾海(なごのうみ)に 舟暫貸(ふねしましか)せ (おき)(いで)て 波立來(なみたちく)やと ()歸來(かへりこ)

       射水奈吾海 冀暫貸舟於我身 吾欲赴沖瀛 眺望波滔駭浪之 變化萬千以歸來

      田邊福麻呂 4032


4033 【承前,四首第二。】

     奈美多底波 奈吾能宇良未爾 余流可比乃 末奈伎孤悲爾曾 等之波倍爾家流

     波立(なみた)てば 奈吾浦迴(なごのうらみ)に ()(かひ)の 間無(まな)(こひ)にそ (とし)()にける

       每逢浪滔湧 寄岸奈吾浦迴邊 緣貝之所如 吾人相思慕無間 不覺歷月既經年

      田邊福麻呂 4033


4034 【承前,四首第三。】

     奈吾能宇美爾 之保能波夜非波 安佐里之爾 伊泥牟等多豆波 伊麻曾奈久奈流

     奈吾海(なごのうみ)に 潮早干(しほのはやひ)ば (あさり)しに (いで)むと(たづ)は (いま)()くなる

       射水奈吾海 一旦水落潮退者 速出來漁獵 飛來覓食鸛鶴者 高亢鳴啼聲可聞

      田邊福麻呂 4034


4035 【承前,四首第四。1955重出。】



4036 于時,期之明日將遊覽布勢水海,仍述懷,各作歌 【八首第一。】

     伊可爾安流 布勢能宇良曾毛 許己太久爾 吉民我彌世武等 和禮乎等登牟流

     如何(いか)にある 布勢浦(ふせのうら)そも 幾許(ここだく)に (きみ)()せむと (われ)(とど)むる

       絕景美如何 湖潟布勢水海哉 傾心至幾許 君欲令吾翫見而 留我於茲同遊覽

      田邊福麻呂 4036

         右一首,田邊史福麻呂。



4037 【承前,八首第二。】

     乎敷乃佐吉 許藝多母等保里 比禰毛須爾 美等母安久倍伎 宇良爾安良奈久爾【一云,伎美我等波須母。】

     乎布崎(をふのさき) 漕徘迴(こぎたもとほ)り 終日(ひねもす)に ()とも()くべき (うら)()()くに一云(またにいふ)(きみ)()はすも。】

       冰見乎布崎 漕船流連總徘迴 不覺度終日 見之百遍未嘗厭 如是衷美此浦哉【一云,君所問者此由也。】

      大伴家持 4037

         右一首,守大伴宿禰家持。



4038 【承前,八首第三。】

     多麻久之氣 伊都之可安氣牟 布勢能宇美能 宇良乎由伎都追 多麻母比利波牟

     玉櫛笥(たまくしげ) 何時(いつ)しか()けむ 布勢海(ふせのうみ)の (うら)()きつつ (たま)(ひり)はむ

       珠匣玉櫛笥 何時破曉天明哉 吾欲赴布勢 觀其水海浦美景 拾得珠玉而來矣

      田邊福麻呂 4038


4039 【承前,八首第四。】

     於等能未爾 伎吉底目爾見奴 布勢能宇良乎 見受波能保良自 等之波倍奴等母

     (おと)のみに ()きて()()ぬ 布勢浦(ふせのうら)を ()ずは(のぼ)らじ (とし)()ぬとも

       久仰其高名 唯聞其音未眼見 布勢水海浦 未見之前豈歸京 縱令歷月復經年

      田邊福麻呂 4039


4040 【承前,八首第五。】

     布勢能宇良乎 由吉底之見弖婆 毛母之綺能 於保美夜比等爾 可多利都藝氐牟

     布勢浦(ふせのうら)を ()きてし()てば 百敷(ももしき)の 大宮人(おほみやひと)に 語繼(かたりつ)ぎてむ

       布勢水海矣 若得行徃翫浦者 百敷宮闈間 高雅殿上大宮人 口耳相傳語繼哉

      田邊福麻呂 4040


4041 【承前,八首第六。1900重出。】
4042 【承前,八首第七。】

     敷治奈美能 佐伎由久見禮婆 保等登藝須 奈久倍吉登伎爾 知可豆伎爾家里

     藤波(ふぢなみ)の 咲行見(さきゆくみ)れば 霍公鳥(ほととぎす) ()くべき(とき)に 近付(ちかづ)きにけり

       藤浪咲一面 觀彼綻放繁茂者 知其霍公鳥 可當來鳴卯月頃 所去不遠將至矣

      田邊福麻呂 4042

         右五首,田邊史福麻呂。



4043 【承前,八首第八。】

     安須能比能 敷勢能宇良未能 布治奈美爾 氣太之伎奈可受 知良之底牟可母【一頭云,保等登藝須。】

     明日日(あすのひ)の 布勢浦迴(ふせのうらみ)の 藤波(ふぢなみ)に (けだ)來鳴(きな)かず ()らしてむかも一頭云(またにかみにいふ)霍公鳥(ほととぎす)。】

       吾度明日日 布勢水海此浦迴 滿咲藤浪間 蓋不識相來鳴而 徒令凋零散落哉【一頭云,嗚呼霍公鳥。】

      大伴家持 4043

         右一首,大伴宿禰家持和之。

         前件十首歌者,廿四日宴作之。【○實八首見在。】



4044 廿五日,徃布勢水海,道中馬上口號二首

     波萬部余里 和我宇知由可波 宇美邊欲里 牟可倍母許奴可 安麻能都里夫禰

     濱邊(はまへ)より ()打行(うちゆ)かば 海邊(うみへ)より (むか)へも()ぬか 海人釣舟(あまのつりぶね)

       奔馳濱邊而 吾人策馬以徃者 可自有磯海 滄溟邊津來迎哉 越中海人釣舟矣

      大伴家持 4044


4045 【承前。】

     於伎敝欲里 美知久流之保能 伊也麻之爾 安我毛布支見我 彌不根可母加禮

     沖邊(おきへ)より 滿來(みちく)(しほ)の 彌增(いやま)しに ()思君(もふきみ)が 御舟(みふね)かも(かれ)

       自於遠沖瀛 滿來潮汐之所如 思慕徒彌增 蓋是來迎吾心懸 君之御舟也矣哉

      大伴家持 4045


4046 至水海遊覽之時,各述懷作歌 【承前,六首第一。】

     可牟佐夫流 多流比女能佐吉 許支米具利 見禮登毛安可受 伊加爾和禮世牟

     神古(かむさぶ)る 垂姬崎(たるひめのさき) 漕巡(こぎめぐ)り ()れども()かず 如何(いか)我為(われせ)

       神古蘊稜威 嚴然布勢垂姬崎 榜船巡迴者 雖望百遍未嘗厭 意猶未盡當何如

      田邊福麻呂 4046

         右一首,田邊史福麻呂。



4047 【承前,六首第二。】

     多流比賣野 宇良乎許藝都追 介敷乃日波 多努之久安曾敝 移比都支爾勢牟

     垂姬(たるひめ)の (うら)()ぎつつ 今日日(けふのひ)は (たの)しく(あそ)べ 言繼(いひつ)ぎに()

       神古蘊稜威 榜船布勢垂姬浦 今日一日間 爾當盡情任遊興 口耳相傳至後葉

      遊行女婦土師 4047

         右一首,遊行女婦土師。



4048 【承前,六首第三。】

     多流比女能 宇良乎許具不禰 可治末爾母 奈良野和藝弊乎 和須禮氐於毛倍也

     垂姬(たるひめ)の (うら)漕舟(こぐふね) 梶間(かぢま)にも 奈良我家(ならのわぎへ)を (わす)れて(おも)へや

       遊興垂姬浦 榜船漂泊泛水海 縱令取梶間 愛也奈良吾家鄉 片刻豈有暫忘時

      大伴家持 4048

         右一首,大伴家持。



4049 【承前,六首第四。】

     於呂可爾曾 和禮波於母比之 乎不乃宇良能 安利蘇野米具利 見禮度安可須介利

     (おろか)にそ (われ)(おも)ひし 乎布浦(をふのうら)の 荒礒巡(ありそのめぐ)り ()れど()かずけり

       平凡無奇哉 吾人元念不識趣 躬來乎布浦 巡迴荒礒絕景者 流連忘返望不厭

      田邊福麻呂 4049

         右一首,田邊史福麻呂。



4050 【承前,六首第五。】

     米豆良之伎 吉美我伎麻佐婆 奈家等伊比之 夜麻保登等藝須 奈爾加伎奈可奴

     (めづら)しき (きみ)來坐(きま)さば ()けと()ひし 山霍公鳥(やまほととぎす) (なに)來鳴(きな)かぬ

       難得稀客之 吾君遠來臨此地 嘗言將鳴囀 嗚呼山霍公鳥者 何以至今不來鳴

      久米廣繩 4050

         右一首,掾久米朝臣廣繩。



4051 【承前,六首第六。】

     多胡乃佐伎 許能久禮之氣爾 保登等藝須 伎奈伎等余米婆 波太古非米夜母

     多怙崎(たこのさき) 木暗茂(このくれしげ)に 霍公鳥(ほととぎす) 來鳴響(きなきとよ)めば 甚戀(はだこ)ひめやも

       布勢多怙崎 木蔭叢草暗茂間 每逢霍公鳥 飛來鳴響啼囀者 必催相思慕情哉

      大伴家持 4051

         右一首,大伴宿禰家持。

         前件十五首歌者,廿五日作之。【○實八首見在。】



4052 掾久米朝臣廣繩之館,饗田邊史福麻呂宴歌四首 【四首第一。】

     保登等藝須 伊麻奈可受之弖 安須古要牟 夜麻爾奈久等母 之流思安良米夜母

     霍公鳥(ほととぎす) 今鳴(いまな)かずして 明日越(あすこ)えむ (やま)()くとも (しるし)あらめやも

       杜鵑霍公鳥 汝今饗時不來鳴 待至明日後 啟程還京越山時 縱令啼囀有驗哉

      田邊福麻呂 4052

         右一首,田邊史福麻呂。



4053 【承前,四首第二。】

     許能久禮爾 奈里奴流母能乎 保等登藝須 奈爾加伎奈可奴 伎美爾安敝流等吉

     木暗(このくれ)に (なり)ぬる(もの)を 霍公鳥(ほととぎす) (なに)來鳴(きな)かぬ (きみ)()へる(とき)

       木蔭下闇之 暗成如是初夏際 杜鵑霍公鳥 汝命何以不來鳴 當與吾君逢頃時

      久米廣繩 4053

         右一首,久米朝臣廣繩。



4054 【承前,四首第三。】

     保等登藝須 許欲奈枳和多禮 登毛之備乎 都久欲爾奈蘇倍 曾能可氣母見牟

     霍公鳥(ほととぎす) ()鳴渡(なきわた)れ 燈火(ともしび)を 月夜(つくよ)(なそ)へ 其影(そのかげ)()

       杜鵑霍公鳥 冀汝來此鳴渡矣 松明燈火矣 以其篝火擬月夜 還願來茲見光儀

      大伴家持 4054


4055 【承前,四首第四。】

     可敝流未能 美知由可牟日波 伊都波多野 佐可爾蘇泥布禮 和禮乎事於毛波婆

     可敝流迴(かへるみ)の 道行(みちゆ)かむ()は 五幡(いつはた)の (さか)袖振(そでふ)れ (われ)をし(おも)はば

       當汝所行至 可敝流山麓迴日 願於歸山下 五幡坂間揮袖振 懸心念吾莫忘矣

      大伴家持 4055

         右二首,大伴宿禰家持。

         前件歌者廿六日作之。



     太上皇御在於難波宮之時,歌七首 【清足姬(元正)天皇也。】

4056 左大臣橘宿禰歌一首 【七首第一。】

     保里江爾波 多麻之可麻之乎 大皇乎 美敷禰許我牟登 可年弖之里勢婆

     堀江(ほりえ)には 玉敷(たまし)かましを 大君(おほきみ)を 御船漕(みふねこ)がむと 預知(かねてし)りせば

       難波崛江畔 實當敷以珠玉矣 早知吾大君 太上天皇清足姬 乘坐御船來訪者

      橘諸兄 4056


4057 御製歌一首 【和。○承前,七首第二。

     多萬之賀受 伎美我久伊弖伊布 保里江爾波 多麻之伎美弖弖 都藝弖可欲波牟【或云,多麻古伎之伎弖。】

     玉敷(たまし)かず (きみ)()いて()ふ 堀江(ほりえ)には 玉敷滿(たましきみ)てて (つぎ)(かよ)はむ或云(あるはいふ)玉扱敷(たまこきし)きて。】

       未能敷珠玉 大臣言其甚悔者 不若令難波 崛江之畔敷玉滿 如是行幸訪不絕【或云,扱解諸玉敷江畔。】

      元正天皇 4057

         右二首件歌者,御船泝江遊宴之日,左大臣奏并御製。



4058 御製歌一首 【承前,七首第三。】

     多知婆奈能 登乎能多知婆奈 夜都代爾母 安禮波和須禮自 許乃多知婆奈乎

     (たちばな)の 撓橘(とをのたちばな) 八代(やつよ)にも (あれ)(わす)れじ 此橘(このたちばな)

       非時香菓兮 結實纍纍撓橘矣 縱令八代後 千秋萬世無忘朕 股肱忠臣此橘也

      元正天皇 4058


4059 河內女王歌一首 【承前,七首第四。】

     多知婆奈能 之多泥流爾波爾 等能多弖天 佐可彌豆伎伊麻須 和我於保伎美可母

     (たちばな)の 下照(したで)(には)に 殿建(とのた)てて 酒酣晏坐(さかみづきいま)す ()大君哉(おほきみかも)

       非時香菓兮 橘木蔭下輝庭間 造營建御殿 酒酣宴飲為遊興 偉哉吾皇大君矣

      河內女王 4059


4060 粟田女王歌一首 【承前,七首第五。】

     都奇麻知弖 伊敝爾波由可牟 和我佐世流 安加良多知婆奈 可氣爾見要都追

     月待(つきま)ちて (いへ)には()かむ ()()せる (あか)(たちばな) (かげ)()えつつ

       待月出之後 肆宴盡歡歸吾家 我之所髻首 鮮豔朱紅橘實者 映照月影綻輝光

      粟田女王 4060

         右件歌者,在於左大臣橘卿之宅,肆宴御歌并奏歌也。



4061 【承前,七首第六。】

     保里江欲里 水乎妣吉之都追 美布禰左須 之津乎能登母波 加波能瀨麻宇勢

     堀江(ほりえ)より 水脈引(みをび)きしつつ 御船指(みふねさ)す 賤男伴(しつをのとも)は 川瀨申(かはのせまう)

       發船自堀江 依循水脈順澪而 領航率御船 下部賤男伴緒等 傾注川瀨申水象

      田邊福麻呂 4061


4062 【承前,七首第七。】

     奈都乃欲波 美知多豆多都之 布禰爾能里 可波乃瀨其等爾 佐乎左指能保禮

     夏夜(なつのよ)は 道辿辿(みちたづたづ)し (ふね)()り 川瀨每(かはのせごと)に 棹差溯(さをさしのぼ)

       仄黯夏夜間 川邊之道實難辨 乘船行舟上 在於處處川瀨間 指棹溯溪逆勢上

      田邊福麻呂 4062

         右件歌者,御船以綱手泝江,遊宴之日作也。傳誦之人,田邊史福麻呂是也。



4063 後追和橘歌二首

     等許余物能 己能多知婆奈能 伊夜弖里爾 和期大皇波 伊麻毛見流其登

     常世物(とこよもの) 此橘(このたちばな)の 彌照(いやて)りに ()大君(おほきみ)は (いま)()(ごと)

       常世木實兮 非時香菓此橘矣 彌照之所如 願吾大君永榮盛 輝耀常磐猶今見

      大伴家持 4063


4064 【承前。】

     大皇波 等吉波爾麻佐牟 多知婆奈能 等能乃多知婆奈 比多底里爾之弖

     大君(おほきみ)は 常磐(ときは)()さむ (たちばな)の 殿橘(とののたちばな) 直照(ひたて)りにして

       吾皇大君矣 必然榮盛耀常磐 橘家庭院間 非時香菓殿橘者 其亦輝耀照一面

      大伴家持 4064

         右二首,大伴宿禰家持作之。



4065 射水郡驛館之屋柱題著歌一首

     安佐妣良伎 伊里江許具奈流 可治能於登乃 都波良都婆良爾 吾家之於母保由

     朝開(あさびら)き 入江漕(いりえこ)ぐなる 梶音(かぢのおと)の 委曲委曲(つばらつばら)に 我家(わぎへ)(おも)ほゆ

       朝早離岸去 榜船泛水漕入江 梶音之所如 詳細委曲積幾重 思慕懷土念吾家

      山上臣 4065

         右一首,山上臣作,不審名。或云:「憶良大夫之男。」但其正名未詳也。



4066 四月一日,掾久米朝臣廣繩之館宴歌四首 【四首第一。】

     宇能花乃 佐久都奇多知奴 保等登藝須 伎奈吉等與米余 敷布美多里登母

     卯花(うのはな)の ()月立(つきた)ちぬ 霍公鳥(ほととぎす) 來鳴響(きなきとよ)めよ (ふふ)みたりとも

       空木卯花者 綻放咲月既臨矣 杜鵑霍公鳥 汝當來鳴啼囀響 縱令含苞仍未放

      大伴家持 4066

         右一首,守大伴宿禰家持作之。



4067 【承前,四首第二。】

     敷多我美能 夜麻爾許母禮流 保等登藝須 伊麻母奈加奴香 伎美爾伎可勢牟

     二上(ふたがみ)の (やま)(こも)れる 霍公鳥(ほととぎす) (いま)()かぬか (きみ)()かせむ

       潛藏匿二上 歸隱深邃奧山間 杜鵑霍公鳥 冀汝傾聽納我訴 出谷來鳴令君聞

      遊行女婦土師 4067

         右一首,遊行女婦土師作之。



4068 【承前,四首第三。】

     乎里安加之母 許余比波能麻牟 保等登藝須 安氣牟安之多波 奈伎和多良牟曾 【二日應立夏節,故謂之明旦將喧也。】

     居明(をりあ)かしも 今夜(こよひ)()まむ 霍公鳥(ほととぎす) ()けむ(あした)は 鳴渡(なきわた)らむそ 【二日(ふつか)立夏節(りふかのふし)(あた)る。故謂(ゆゑにいふ)明旦將喧也(あけむあしたになかむなり)。】

       縱令天將曉 今宵不妨盡飲歡 杜鵑霍公鳥 翌日明旦立夏節 必然來鳴喧渡矣 【二日應立夏節,故謂之明旦將喧也。】

      大伴家持 4068

         右一首,守大伴宿禰家持作之。



4069 【承前,四首第四。】

     安須欲里波 都藝弖伎許要牟 保登等藝須 比登欲能可良爾 古非和多流加母

     明日(あす)よりは (つぎ)()こえむ 霍公鳥(ほととぎす) 一夜(ひとよ)のからに 戀渡(こひわた)るかも

       自於明日後 必當再來喧鳴矣 然而霍公鳥 一夜未聞汝鳥囀 竟然戀慕至如此

      能登乙美 4069

         右一首,羽咋郡擬主帳能登臣乙美作。



4070 詠庭中牛麥花歌一首

     比登母等乃 奈泥之故宇惠之 曾能許己呂 多禮爾見世牟等 於母比曾米家牟

     一本(ひともと)の 撫子植(なでしこう)ゑし 其心(そのこころ) (たれ)()せむと 思始(おもひそ)めけむ

       手執奉一本 植株石竹撫子花 其心當何如 蓋欲令誰所賞翫 因而始有此念哉

      大伴家持 4070

         右,先國師從僧清見可入京師,因設飲饌饗宴,于時,主人大伴宿禰家持作此歌詞,送酒清見也。



4071 【大伴家持重作歌二首。】

     之奈射可流 故之能吉美良等 可久之許曾 楊奈疑可豆良枳 多努之久安蘇婆米

     繁離(しなざか)る 越君等(こしのきみら)と 如是(かく)しこそ 柳縵(やなぎかづら)き (たの)しく(あそ)ばめ

       遠離隔繁山 越中豪傑諸君等 如是集此會 相繫楊柳結為蘰 飲酒遊樂酣盡歡

      大伴家持 4071

         右,郡司已下,子弟已上,諸人多集此會。因守大伴宿禰家持作此歌也。



4072 【承前。】

     奴婆多麻能 欲和多流都奇乎 伊久欲布等 余美都追伊毛波 和禮麻都良牟曾

     烏玉(ぬばたま)の 夜渡(よわた)(つき)を 幾夜經(いくよふ)と ()みつつ(いも)は 我待(われま)つらむそ

       漆黑烏玉兮 仰望夜空渡月而 既經幾宵哉 如是計數吾妹者 苦守空閨待我歸

      大伴家持 4072

         右,此夕,月光遲流,和風稍扇。即因屬目,聊作此歌也。



4073 越前國掾大伴宿禰池主來贈歌三首
4074 一、屬物發思 【承前,三首之二。】

     櫻花 今曾盛等 雖人云 我佐不之毛 支美止之不在者

     櫻花(さくらばな) (いま)(さか)りと (ひと)()へど (われ)(さぶ)しも (きみ)とし()らねば

       雖然人稱道 妍哉櫻花今正盛 良辰美景者 然我寡歡心寂寞 以君不在此身邊

      大伴池主 4074


4075 一、所心歌 【承前,三首之三。】

     安必意毛波受 安流良牟伎美乎 安夜思苦毛 奈氣伎和多流香 比登能等布麻泥

     相思(あひおも)はず あるらむ(きみ)を (あや)しくも 嘆渡(なげきわた)るか 人問(ひとのと)(まで)

       落花雖有意 流水無情吾君矣 恠也莫名兮 唏噓戀慕度終日 至人思異來探問

      大伴池主 4075


4076 越中國守大伴家持報贈歌四首 【四首第一。】

     一、答古人云

     安之比奇能 夜麻波奈久毛我 都奇見禮婆 於奈自伎佐刀乎 許己呂敝太底都

     足引(あしひき)の (やま)()欲得(もが) 月見(つきみ)れば (おな)じき(さと)を 心隔(こころへだ)てつ

       足曳勢險峻 還願此山不嘗在 仰首望明月 我倆雖似處同國 然彼山阻殆隔心

      大伴家持 4076


4077 一、答屬目發思,兼詠云遷任舊宅西北隅櫻樹 【承前,四首第二。】

     和我勢故我 布流伎可吉都能 佐久良婆奈 伊麻太敷布賣利 比等目見爾許禰

     ()背子(せこ)が 古垣內(ふるきかきつ)の 櫻花(さくらばな) (いま)(ふふ)めり 一目見(ひとめみ)()

       愛也吾兄子 昔日舊宅古垣內 所植櫻花者 依舊含苞而未放 還願躬至來一瞥

      大伴家持 4077


4078 一、答所心,即以古人之跡,代今日之意 【承前,四首第三。】

     故敷等伊布波 衣毛名豆氣多理 伊布須敝能 多豆伎母奈吉波 安我未奈里家利

     ()ふと()ふは ()名付(なづ)けたり 言術(いふすべ)の 方便(たづき)()きは ()身也(みなり)けり

       所謂戀苦者 理實灼然負此名 雖欲述其狀 無以名之不知方 憂愁如是我身也

      大伴家持 4078


4079 一、更矚目 【承前,四首第四。】

     美之麻野爾 可須美多奈妣伎 之可須我爾 伎乃敷毛家布毛 由伎波敷里都追

     三島野(みしまの)に 霞棚引(かすみたなびき) (しか)すがに 昨日(きのふ)今日(けふ)も (ゆき)()りつつ

       遙望三島野 春霞霞棚引盪霏霺 然顧此地者 無論昨日或今日 殘雪降紛冬未去

      大伴家持 4079

         三月十六日。



4080 姑大伴氏坂上郎女來贈越中守大伴宿禰家持歌二首

     都禰比等能 故布登伊敷欲利波 安麻里爾弖 和禮波之奴倍久 奈里爾多良受也

     常人(つねひと)の ()ふと()ふよりは (あま)りにて (われ)()ぬべく ()りにたらずや

       相較俗世間 常人所以戀慕者 吾人情更勝 我今苦於相思念 哀傷憂愁殆將死

      坂上郎女 4080


4081 【承前。】

     可多於毛比遠 宇萬爾布都麻爾 於保世母天 故事部爾夜良波 比登加多波牟可母

     片思(かたおも)ひを (うま)(ふつ)まに ()ほせ()て 越邊(こしへ)()らば 人傾(ひとかた)はむかも

       單戀片思者 若得寄於馬荷上 使之負持而 送遣至於越邊者 願汝亦能稍傾心

      坂上郎女 4081


4082 越中守大伴宿禰家持報歌并所心三首

     安萬射可流 比奈能夜都故爾 安米比度之 可久古非須良波 伊家流思留事安里

     天離(あまざか)る 鄙奴(ひなのやつこ)に 天人(あめひと)し 如是戀(かくこひ)すらば ()ける驗有(しるしあり)

       天離日已遠 吾身鄙夷賤奴矣 竟得天上人 懸心戀慕如是者 此生有驗無憾也

      大伴家持 4082


4083 【承前。】

     都禰乃孤悲 伊麻太夜麻奴爾 美夜古欲里 宇麻爾古非許婆 爾奈比安倍牟可母

     常戀(つねのこひ) 未止(いまだや)まぬに (みやこ)より (うま)戀來(こひこ)ば 荷堪(になひあ)へむかも

        日頃常戀者 泉湧不斷未嘗止 若又自京闕 隨馬負持而來者 其重誠可堪荷哉

      大伴家持 4083


4084 別所心一首 【承前。】

     安可登吉爾 名能里奈久奈流 保登等藝須 伊夜米豆良之久 於毛保由流香母

     (あかとき)に 名告鳴(なのりな)くなる 霍公鳥(ほととぎす) 彌珍(いやめづ)らしく (おも)ほゆるかも

       晨曦拂曉時 喧聲告名囀啼泣 郭公之所如 相思之情彌日增 泉湧不斷此憂思

      大伴家持 4084

         右,四日,附使贈上京師。



4085 天平感寶元年五月五日,饗東大寺之占墾地使僧平榮等。于時,守大伴宿禰家持送酒僧歌一首

     夜伎多知乎 刀奈美能勢伎爾 安須欲里波 毛利敝夜里蘇倍 伎美乎等登米牟

     燒太刀(やきたち)を 礪波關(となみのせき)に 明日(あす)よりは 守部遣添(もりへやりそ)へ (きみ)(とど)めむ

       千錘燒太刀 研磨鍛鍊礪波關 自於明日起 不妨派遣添守部 更增戍人以留君

      大伴家持 4085


4086 同月九日,諸僚會少目秦伊美吉(忌寸)石竹之館飲宴。於時主人造白合花縵三枚,疊置豆器,捧贈賓客。各賦此縵作三首

     安夫良火乃 比可里爾見由流 和我可豆良 佐由利能波奈能 惠麻波之伎香母

     油火(あぶらひ)の (ひかり)りに()ゆる ()(かづら) 小百合花(さゆりのはな)の ()まはしき(かも)

       油火灯照耀 幢幢火影微光中 可見吾縵矣 小百合花映眼簾 不覺莞爾微笑矣

      大伴家持 4086

         右一首,守大伴宿禰家持。



4087 【承前。】

     等毛之火能 比可里爾見由流 左由理婆奈 由利毛安波牟等 於母比曾米弖伎

     燈火(ともしび)の (ひか)りに()ゆる 小百合花(さゆりばな) (ゆり)()はむと 思始(おもひそ)めてき

       幢幢燈火之 照映光中今可見 小百合花矣 名負其後此百合 始念後會必有期

      內藏繩麻呂 4087

         右一首,介內藏伊美吉繩麻呂。



4088 【承前。】

     左由理婆奈 由里毛安波牟等 於毛倍許曾 伊末能麻左可母 宇流波之美須禮

     小百合花(さゆりばな) (ゆり)()はむと (おも)へこそ 今目前(いまのまさか)も (うるは)しみすれ

       小百合花矣 吾欲後日能相逢 正因有此念 自於今日此時起 懸心親近愛憐之

      大伴家持 4088

         右一首,大伴宿禰家持和。



4089 獨居幄裏,遙聞霍公鳥喧作歌一首 【并短歌。】

     高御座 安麻乃日繼登 須賣呂伎能 可未能美許登能 伎己之乎須 久爾能麻保良爾 山乎之毛 佐波爾於保美等 百鳥能 來居弖奈久許惠 春佐禮婆 伎吉乃可奈之母 伊豆禮乎可 和枳弖之努波无 宇能花乃 佐久月多弖婆 米都良之久 鳴保等登藝須 安夜女具佐 珠奴久麻泥爾 比流久良之 欲和多之伎氣騰 伎久其等爾 許己呂都吾枳弖 宇知奈氣伎 安波禮能登里等 伊波奴登枳奈思

     高御座(たかみくら) 天日繼(あまのひつぎ)と 皇祖(すめろき)の 神命(かみのみこと)の 聞食(きこしを)す 國真秀(くにのまほ)らに (やま)をしも (さは)(おほ)みと 百鳥(ももとり)の 來居(きゐ)鳴聲(なくこゑ) 春去(はるさ)れば 聞悲(ききのかな)しも (いづ)れをか (わき)(しの)はむ 卯花(うのはな)の 咲月立(さくつきた)てば (めづ)らしく ()霍公鳥(ほととぎす) 菖蒲草(あやめぐさ) 玉貫迄(たまぬくまで)に 晝暮(ひるく)らし 夜渡(よわた)()けど 聞每(きくごと)に 心悸(こころつごき)て 打嘆(うちなげ)き 憐鳥(あはれのとり)と ()はぬ時無(ときな)

       威嚴高御座 天津日繼所領有 皇祖列皇宗 天孫顯人神命之 臨照治賜矣 大和國美誠真秀 山巒綿延而 目不暇給勢極眾 無數百千鳥 紛紛來居啼鳴聲 每逢春臨者 聞彼喧囀觸心悲 不知孰何音 一一難辨陷偲罔 又逢卯花之 憂草綻放四月者 由衷懷念之 來鳴霍公鳥也矣 手執菖蒲草 貫於玉緒五月節 縱令渡終日 亦然徹夜囀其聲 每聞彼音者 心悸忐忑胸高鳴 欷歔復嘆息 讚彼可憐妍鳥矣 無時無刻不頌之

      大伴家持 4089


4090 反歌 【承前,反歌。】

     由久敝奈久 安里和多流登毛 保等登藝須 奈枳之和多良婆 可久夜思努波牟

     行方無(ゆくへな)く 在渡(ありわた)るとも 霍公鳥(ほととぎす) ()きし(わた)らば 如是(かく)(しの)はむ

       雖然生漫然 苟活空蟬憂世間 每逢霍公鳥 飛來鳴渡此頃時 不覺懷偲賞嘆矣

      大伴家持 4090


4091 【承前。】

     宇乃花能 登聞爾之奈氣婆 保等登藝須 伊夜米豆良之毛 名能里奈久奈倍

     卯花(うのはな)の (とも)にし()けば 霍公鳥(ほととぎす) 彌珍(いやめづら)しも 名告鳴(なのりな)(なへ)

       每逢卯花之 綻放四月共鳴者 恰似與爭豔 可憐彌珍霍公鳥 必然同來啼告名

      大伴家持 4091


4092 別所心一首 【承前。】

     保登等藝須 伊登禰多家口波 橘乃 播奈治流等吉爾 伎奈吉登余牟流

     霍公鳥(ほととぎす) 甚妬(いとねた)けくは (たちばな)の 花散(はなぢ)(とき)に 來鳴響(きなきとよ)むる

       杜鵑霍公鳥 汝令吾甚怨者何 不識相至此 花橘正盛不同鳴 待其凋零方來響

      大伴家持 4092

         右四首,十日大伴宿禰家持作之。



4093 行英遠浦之日作歌一首

     安乎能宇良爾 餘須流之良奈美 伊夜末之爾 多知之伎與世久 安由乎伊多美可聞

     英遠浦(あをのうら)に ()する白波(しらなみ) 彌增(いやま)しに 立頻寄(たちしきよ)() 東風(あゆ)(いた)みかも

       阿尾英遠浦 所寄拍岸白浪者 其勢彌更增 頻頻湧起寄來者 蓋是東風疾故矣

      大伴家持 4093

         右一首,大伴宿禰家持作之。



4094 賀陸奧國出金詔書歌一首 【并短歌。】

     葦原能 美豆保國乎 安麻久太利 之良志賣之家流 須賣呂伎能 神乃美許等能 御代可佐禰 天乃日嗣等 之良志久流 伎美能御代御代 之伎麻世流 四方國爾波 山河乎 比呂美安都美等 多弖麻都流 御調寶波 可蘇倍衣受 都久之毛可禰都 之加禮騰母 吾大王乃 毛呂比登乎 伊射奈比多麻比 善事乎 波自米多麻比弖 久我禰可毛 多之氣久安良牟登 於母保之弖 之多奈夜麻須爾 雞鳴 東國乃 美知能久乃 小田在山爾 金有等 麻宇之多麻敝禮 御心乎 安吉良米多麻比 天地乃 神安比宇豆奈比 皇御祖乃 御靈多須氣弖 遠代爾 可可里之許登乎 朕御世爾 安良波之弖安禮婆 御食國波 左可延牟物能等 可牟奈我良 於毛保之賣之弖 毛能乃布能 八十伴雄乎 麻都呂倍乃 牟氣乃麻爾麻爾 老人毛 女童兒毛 之我願 心太良比爾 撫賜 治賜婆 許己乎之母 安夜爾多敷刀美 宇禮之家久 伊余與於母比弖 大伴乃 遠都神祖乃 其名乎婆 大來目主等 於比母知弖 都加倍之官 海行者 美都久屍 山行者 草牟須屍 大皇乃 敝爾許曾死米 可敝里見波 勢自等許等太弖 大夫乃 伎欲吉彼名乎 伊爾之敝欲 伊麻乃乎追通爾 奈我佐敝流 於夜乃子等毛曾 大伴等 佐伯乃氏者 人祖乃 立流辭立 人子者 祖名不絕 大君爾 麻都呂布物能等 伊比都雅流 許等能都可左曾 梓弓 手爾等里母知弖 劍大刀 許之爾等里波伎 安佐麻毛利 由布能麻毛利爾 大王乃 三門乃麻毛利 和禮乎於吉弖 比等波安良自等 伊夜多氐 於毛比之麻左流 大皇乃 御言能左吉乃【一云,乎。】 聞者貴美【一云,貴久之安禮婆。】

     葦原(あしはら)の 瑞穗國(みづほのくに)を 天下(あまくだ)り 知召(しらしめ)しける 皇祖(すめろき)の 神命(かみのみこと)の 御代重(みよかさ)ね 天日繼(あまのひつぎ)と ()らし()る 君御代御代(きみのみよみよ,) 敷坐(しきま)せる 四方國(よものくに)には 山川(やまかは)を 廣厚(ひろみあつ)みと (たてまつ)る 御調寶(みつきたから)は 數得(かぞへえ)ず ()くしも()ねつ (しか)れども ()大君(おほきみ)の 諸人(もろひと)を 誘賜(いざなひたま)ひ 良事(よきこと)を 始賜(はじめたま)ひて (くがね)かも (たし)けくあらむと (おも)ほして 下惱(したなや)ますに (とり)()く 東國(あづまのくに)の 陸奧(みちのく)の 小田(をだ)なる(やま)に 黃金有(くがねあり)と 申賜(まうしたま)へれ 御心(みこころ)を (あき)らめ(たま)ひ 天地(あめつち)の 神相諾(かみあひうづな)ひ 皇祖(すめろき)の 御靈助(みたまたす)けて 遠代(とほきよ)に (かか)りし(こと)を ()御代(みよ)に (あら)はしてあれば 食國(をすくに)は (さか)えむ(もの)と 惟神(かむながら) (おもほしめ)して 文武百官(もののふ) 八十伴緒(やそとものを)を (まつろ)への 向隨(むけのまにま)に 老人(おいひと)も 女童(をみなわらは)も しが(ねが)ふ 心足(こころだ)らひに 撫賜(なでたま)ひ 治賜(をさめたま)へば 此處(ここ)をしも (あや)(たふと)み (うれ)しけく 愈思(いよよおもひ)て 大伴(おほとも)の 遠神祖(とほつかむおや)の 其名(そのな)をば 大久米主(おほくめぬし)と 負持(おひも)ちて (つか)へし(つかさ) 海行(うみゆ)かば 水漬(みづ)(しかばね) 山行(やまゆ)かば 草生(くさむ)(しかばね) 大君(おほきみ)の ()にこそ()なめ 顧見(かへりみ)は せじと言立(ことだ)て 大夫(ますらを)の 清其名(きよきそのな)を (いにしへ)よ 今現(いまのをつつ)に (なが)さへる 祖子供(おやのこども)そ 大伴(おほとも)と 佐伯氏(さへきのうぢ)は 人祖(ひとのおや)の ()つる言立(ことだ)て 人子(ひとのこ)は 祖名絕(おやのなた)たず 大君(おほきみ)に (まつろ)(もの)と 言繼(いひつ)げる 言官(ことのつかさ)そ 梓弓(あづさゆみ) ()取持(とりも)ちて 劍大刀(つるぎたち) (こし)取佩(とりは)き 朝守(あさまも)り 夕守(ゆふのまも)りに 大君(おほきみ)の 御門守(みかどのまも)り (われ)()きて (ひと)はあらじと 彌立(いやた)て (おも)ひし()さる 大君(おほきみ)の 命幸(みことのさき)一云(またにいふ)、を。】 ()けば(たふと)一云(またにいふ)(たふと)くしあれば。】

       千秋五百長 豐葦原之瑞穗國 自天降坐而 君臨御宇治六合 皇祖皇宗之 顯人神命天皇尊 重重累御代 天津日繼承皇嗣 治領而來矣 大君千秋御萬世 每每敷坐而 八紘四方諸國者 無論山與川 盡皆廣厚盛壯麗 所以朝供奉 珍饈御調瑰寶等 數之不得盡 縱欲列舉無絕時 雖然如此者 經綸恢弘我大君 誘賜眾諸人 發心導向習內教 良事佛法矣 奉造賜始盧舍那 大佛金銅像 所需金貨確有哉 聖慮思如是 心痛懊惱忖量時 拂曉雞鳴兮 吾嬬者耶東國之 道盡陸奧國 小田山上礦脈間 發掘現黃金 如是奏上來報喜 吾皇大御心 豁然開朗解愁眉 天神與地祇 八百萬神來共賞 皇祖并列宗 御靈加護賜冥貺 曩昔遠代前 如斯掘得金礦事 在於朕御代 奇也異也再顯者 所治此食國 必當彌榮繁盛哉 惟神大宸慮 吾皇御心作此念 文武百官之 八十伴緒股肱臣 齊心戮力而 無私隨向從宸旨 無論耆老人 抑或年幼女童等 銘銘各自而 心滿意足意無憾 慰勞撫賜而 歌舞昇平治賜者 觀夫論此處 莫名尊貴當讚嘆 歡愉嬉喜而 感恩之思彌更盛 臣等大伴氏 曩昔稜威遠神祖 其名所謂何 來目大久米主也 負持冠彼號 所以奉仕官職故 泛海渡滄溟 縱為水漬浮沉屍 翻山越高嶺 縱為草生曝晒屍 所求死所者 吾皇大君身畔矣 無怨無悔矣 義不容辭舉誓言 大夫壯士之 清冽無垢彼英名 自於曩古時 至於今日此現世 源遠而流傳 如斯世家末裔也 吾祖大伴氏 同族末流佐伯氏 昔日先祖之 所立不渝誓言者 身為其子孫 必承祖名不令絕 恭奉仕吾皇 鞠躬盡瘁事大君 口耳相言繼 世世名譽官家矣 振弦嚴梓弓 取持手上不令弛 韴威劍大刀 取佩腰間不離身 無論朝與夕 常時戍守堅警固 能善衛吾皇 聖明大君御門者 除卻我以外 必無他人得勝任 此誓彌更立 忠心赤誠念更增 八隅治天下 大君宸旨命之幸【一云,大君宸旨命幸者。】 得恭聞者甚貴矣【一云,誠惶誠恐貴極矣。】

      大伴家持 4094


4095 反歌三首 【承前,反歌。】

     大夫能 許己呂於毛保由 於保伎美能 美許登乃佐吉乎【一云,能。】 聞者多布刀美【一云,貴久之安禮婆。】

     大夫(ますらを)の 心思(こころおも)ほゆ 大君(おほきみ)の 御言幸(みことのさき)一云(またにいふ)、の。】 ()けば(たふと)一云(またにいふ)(たふと)くしあれば。】

       大夫壯士之 心思所至可明察 八隅治天下 大君宸旨命之幸【一云,大君宸旨命幸者。】 得恭聞者甚貴矣【一云,誠惶誠恐貴極矣。】

      大伴家持 4095


4096 【承前。】

     大伴乃 等保追可牟於夜能 於久都奇波 之流久之米多弖 比等能之流倍久

     大伴(おほとも)の 遠神祖(とほつかむおや)の 奧津城(おくつき)は 著標立(しるくしめた)て 人知(ひとのし)るべく

       臣等大伴氏 曩昔稜威遠神祖 靈廟奧津城 當立標識顯灼然 令天下人應皆知

      大伴家持 4096


4097 【承前。】

     須賣呂伎能 御代佐可延牟等 阿頭麻奈流 美知乃久夜麻爾 金花佐久

     天皇(すめろき)の 御代榮(みよさか)えむと (あづま)なる 陸奧山(みちのくやま)に 黃金花咲(くがねはなさ)

       奉祝顯人神 天皇御代永榮盛 吾嬬東國之 陸奧國間小田山 黃金花開咲一面

      大伴家持 4097

         天平感寶元年五月十二日,於越中國守館大伴宿禰家持作之。



4098 為幸行芳野離宮之時,儲作歌一首 【并短歌。】

     多可美久良 安麻乃日嗣等 天下 志良之賣師家類 須賣呂伎乃 可未能美許等能 可之古久母 波自米多麻比弖 多不刀久母 左太米多麻敝流 美與之努能 許乃於保美夜爾 安里我欲比 賣之多麻布良之 毛能乃敷能 夜蘇等母能乎毛 於能我於弊流 於能我名負弖 大王乃 麻氣能麻爾麻爾 此河能 多由流許等奈久 此山能 伊夜都藝都藝爾 可久之許曾 都可倍麻都良米 伊夜等保奈我爾

     高御座(たかみくら) 天日繼(あまのひつぎ)と 天下(あめのした) 知召(しらしめ)しける 天皇(すめろき)の 神命(かみのみこと)の (かしこ)くも 始賜(はじめたま)ひて (たふと)くも 定賜(さだめたま)へる 御吉野(みよしの)の 此大宮(このおほみや)に 蟻通(ありがよ)ひ ()(たま)ふらし 文武百官(もののふ) 八十伴緒(やそとものを)も (おの)()へる (おの)名負(なお)ひて 大君(おほきみ)の ()けの(まにま)に 此川(このかは)の ()ゆる事無(ことな)く 此山(このやま)の 彌繼繼(いやつぎつ)ぎに 如是(かく)しこそ 仕奉(つかへまつ)らめ 彌遠長(いやとほなが)

       威嚴高御座 天津日繼所領有 六合天之下 照臨御宇大八洲 皇祖皇宗之 代代天皇顯神命 誠惶復誠恐 始賜肇造營此宮 誠貴誠難得 慧眼定治標此地 三芳御吉野 美輪美奐此大宮 絡繹不嘗絕 蟻通之狀宜觀覽 文武百官之 八十伴緒股肱臣 鞠躬盡其瘁 不愧身負彼家名 隨向從宸旨 遵吾大君之所命 洽猶此川河 源源不絕之所如 又似此群山 連綿不斷之所如 吾人有所念 必當仕奉永如斯 彌遠彌長至萬代

      大伴家持 4098


4099 反歌 【承前,反歌。】

     伊爾之敝乎 於母保須良之母 和期於保伎美 余思努乃美夜乎 安里我欲比賣須

     (いにしへ)を (おも)ほすらしも ()大君(おほきみ) 吉野宮(よしののみや)を 蟻通(ありがよ)()

       蓋思千早振 悠遠曩古昔時哉 八隅治天下 經綸恢弘我大君 蟻通不絕吉野宮

      大伴家持 4099


4100 【承前。】

     物能乃布能 夜蘇氏人毛 與之努河波 多由流許等奈久 都可倍追通見牟

     文武百官(もののふ)の 八十氏人(やそうぢひと)も 吉野川(よしのがは) ()ゆる事無(ことな)く (つか)へつつ()

       文武百官之 八十伴緒股肱臣 洽猶吉野川 源源不絕之所如 永仕吉野此離宮

      大伴家持 4101


4101 為贈京家願真珠歌一首 【并短歌。】

     珠洲乃安麻能 於伎都美可未爾 伊和多利弖 可都伎等流登伊布 安波妣多麻 伊保知毛我母 波之吉餘之 都麻乃美許登能 許呂毛泥乃 和可禮之等吉欲 奴婆玉乃 夜床加多左里 安佐禰我美 可伎母氣頭良受 伊泥氐許之 月日余美都追 奈氣久良牟 心奈具佐爾 保登等藝須 伎奈久五月能 安夜女具佐 波奈多知婆奈爾 奴吉麻自倍 可頭良爾世餘等 都追美氐夜良牟

     珠洲海人(すすのあま)の 沖御神(おきつみかみ)に い(わた)りて 潛取(かづきと)ると()ふ 鰒玉(あはびたま) 五百箇欲得(いほちもがも) ()しき()し 妻命(つまのみこと)の 衣手(ころもで)の (わか)れし(とき)よ 烏玉(ぬばたま)の 夜床片去(よとこかたさ)り 朝寢髮(あさねがみ) ()きも(けづ)らず (いで)()し 月日數(つきひよ)みつつ (なげ)くらむ 心慰(こころなぐさ)に 霍公鳥(ほととぎす) 來鳴(きな)五月(さつき)の 菖蒲草(あやめぐさ) 花橘(はなたちばな)に 貫交(ぬきまじ)へ (かづら)()よと (つつ)みて()らむ

       珠洲海人之 齋神鎮坐沖津島 渡海航行而 入水潛取方可得 鰒玉珍珠矣 數五百箇欲得也 愛也慕懷兮 可憐吾妻大孃命 離家發向而 揮別衣手時以來 漆黑烏玉兮 夜夜寢時屈半床 朝朝寤覺時 寢髮紊亂不搔梳 自於吾出行 晝夜無闕數月日 嘆息終日哉 為慰愛也吾妻心 杜鵑霍公鳥 所以來鳴五月節 願以菖蒲草 混諸花橘交相貫 串為藥玉而 編織為縵寄依情 謹裹珍珠以贈之

      大伴家持 4101


4102 【承前,反歌第一。】

     白玉乎 都都美氐夜良婆 安夜女具佐 波奈多知婆奈爾 安倍母奴久我禰

     白玉(しらたま)を (つつ)みて()らば 菖蒲草(あやめぐさ) 花橘(はなたちばな)に ()へも()くがね

       白玉珍珠矣 裹諸寄情贈之者 願與菖蒲草 以及花橘交相貫 串為五月藥玉也

      大伴家持 4102


4103 【承前,反歌第二。】

     於伎都之麻 伊由伎和多里弖 可豆久知布 安波妣多麻母我 都都美弖夜良牟

     沖島(おきつしま) い行渡(ゆきわた)りて 潛云(かづくち)ふ 鰒玉欲得(あはびたまもが) (つつ)みて()らむ

       嚴神沖津島 所謂珠洲海人等 行渡潛獲之 鰒玉珍珠欲得矣 冀謹包裹以餽贈

      大伴家持 4103


4104 【承前,反歌第三。】

     和伎母故我 許己呂奈具左爾 夜良無多米 於伎都之麻奈流 之良多麻母我毛

     我妹子(わぎもこ)が 心慰(こころなぐさ)に ()らむ(ため) 沖島(おきつしま)なる 白玉欲得(しらたまもがも)

       可憐慕懷兮 為慰愛也吾妻心 將遣使贈故 欲得嚴神沖津島 所獲鰒玉珍珠也

      大伴家持 4104


4105 【承前,反歌第四。】

     思良多麻能 伊保都追度比乎 手爾牟須妣 於許世牟安麻波 牟賀思久母安流香【一云,我家牟伎波母。】

     白玉(しらたま)の 五百(いほ)(つど)ひを ()(むす)び (おこ)せむ海人(あま)は (むが)しくもあるか一云(またにいふ)我家牟伎波母(未詳)。】

       鰒玉珍珠矣 吾欲餽贈與我妻 若有海人者 可以手汲五百箇 與我不勝感激也【一云,此誠輝耀稜嚴也(輝むきむはも)。】

      大伴家持 4105

         右,五月十四日,大伴宿禰家持依興作。



4106 教喻史生尾張少咋歌一首 【并短歌。】

       七出例云:「但犯一條,即合出之。無七出輙棄者,徒一年半。」
       三不去云:「雖犯七出,不合棄之。違者杖一百,唯犯奸惡疾得棄之。」
       兩妻例云:「有妻更娶者,徒一年。女家杖一百離之。」
       詔書云:「愍賜義夫節婦。」

       謹案,先件數條,建法之基,化道之源也。然則義夫之道,情存無別。一家同財,豈有忘舊愛新之志哉。所以綴作數行之歌,令悔棄舊之惑。其詞云。

     於保奈牟知 須久奈比古奈野 神代欲里 伊比都藝家良久 父母乎 見波多布刀久 妻子見波 可奈之久米具之 宇都世美能 余乃許等和利止 可久佐末爾 伊比家流物能乎 世人能 多都流許等太弖 知左能花 佐家流沙加利爾 波之吉余之 曾能都末能古等 安沙余比爾 惠美美惠末須毛 宇知奈氣支 可多里家末久波 等己之部爾 可久之母安良米也 天地能 可未許等余勢天 春花能 佐可里裳安良牟等 末多之家牟 等吉能沙加利曾 波奈禮居弖 奈介可須移母我 何時可毛 都可比能許牟等 末多須良无 心左夫之苦 南吹 雪消益而 射水河 流水沫能 余留弊奈美 左夫流其兒爾 比毛能緒能 移都我利安比弖 爾保騰里能 布多理雙坐 那吾能宇美能 於支乎布可米天 左度波世流 支美我許己呂能 須敝母須敝奈佐【言佐夫流者,遊行女婦之字也。】

     大己貴(おほなむち) 少彥名(すくなびこな)の 神代(かむよ)より 言繼(いひつ)ぎけらく 父母(ちちはは)を ()れば(たふと)く 妻子見(めこみ)れば (かな)しく(めぐ)し 空蟬(うつせみ)の 世理(よのことわり)と 如是樣(かくさま)に ()ひける(もの)を 世人(よのひと)の ()つる言立(ことだ)て 萵苣花(ちさのはな) ()ける(さか)りに ()しき()し 其妻兒(そのつまのこ)と 朝夕(あさよひ)に ()みみ()まずも 打嘆(うちなげ)き (かた)りけまくは 永久(とこしへ)に 如是(かく)しもあらめや 天地(あめつち)の 神言寄(かみことよ)せて 春花(はるはな)の (さか)りもあらむと ()たしけむ 時盛(ときのさか)りそ 離居(はなれゐ)て (なげ)かす(いも)が 何時(いつ)しかも 使來(つかひのこ)むと ()たすらむ 心寂(こころさぶ)しく 南風吹(みなみふ)き 雪消溢(ゆきげはふ)りて 射水川(いみづかは) (なが)水沫(みなわ)の 寄邊無(よるべな)み 左夫流其兒(さぶるそのこ)に 紐緒(ひものを)の い縋合(つがりあ)ひて 鳰鳥(にほどり)の 二人並居(ふたりならびゐ) 奈吾海(なごのうみ)の (おき)(ふか)めて (さど)はせる (きみ)(こころ)の (すべ)術無(すべ)佐夫流(さぶる)()ふは、遊行女婦(あそびめ)字也(あざななり)。】

       遠自大己貴 與少彥名共戮力 遠古神代起 口耳相傳言繼矣 仰見父母者 尊敬之情生泉湧 俯瞰妻兒者 悲淒之情慈愛湧 空蟬憂世間 諸行常理當如是 雖然述如此 縱然所言若此般 其雖為世人 理當所守約束而 菊黃萵苣花 滿開一面盛咲時 愛也慕懷兮 與其愛妻與稚兒 朝朝夕夕間 時或歡笑時沉默 唏噓復喟嘆 所以相互語者何 所願常相在 海枯石爛永如是 願得六合間 天神地祇所加護 春花之所如 繁茂盛時可有哉 如是久相待 得逢康哉此盛時 卻遭離而居 哀嘆終日汝妹妻 應待至何時 盼得使來告消息 獨自守空閨 心中寂寥沉憂思 晚春南風吹 冰雪消解水滿溢 滔滔射水川 逐流水沫之所如 無處可托根 今與娘子左夫流 紐緒相絡兮 依偎縋合互纏眠 二寶鳰鳥兮 雙人攜手而並居 千尋奈吾海 內心深邃奧底處 意亂情惘迷 神魂顛倒吾君心 不知其當可奈何【言佐夫流者,遊行女婦之字也。】

      大伴家持 4106


4107 反歌三首 【承前,反歌。】

     安乎爾與之 奈良爾安流伊毛我 多可多可爾 麻都良牟許己呂 之可爾波安良司可

     青丹良(あをによ)し 奈良(なら)()(いも)が 高高(たかたか)に ()つらむ(こころ) (しか)には(あら)じか

       青丹良且秀 獨守空閨居奈良京 憐也妹妻者 引頸徒俟令人悲 汝命豈當待如是

      大伴家持 4107


4108 【承前。】

     左刀妣等能 見流目波豆可之 左夫流兒爾 佐度波須伎美我 美夜泥之理夫利

     里人(さとびと)の ()目恥(めはづ)かし 左夫流兒(さぶるこ)に (さど)はす(きみ)が 宮出後姿(みやでしりぶり)

       里人所窺視 眾目睽睽令吾恥 意亂情惘迷 耽溺拜倒左夫流 翌朝出仕汝後姿

      大伴家持 4108


4109 【承前。】

     久禮奈為波 宇都呂布母能曾 都流波美能 奈禮爾之伎奴爾 奈保之可米夜母

     (くれなゐ)は (うつろ)(もの)そ (つるはみ)の ()れにし(きぬ)に 尚及(なほし)かめやも

       縱令胭脂紅 有朝一日色必褪 迷戀一時爾 終究不敵著馴衣 當惜橡染糟糠妻

      大伴家持 4109

         右,五月十五日,守大伴宿禰家持作之。



4110 先妻不待夫君之喚使自來時作歌一首

     左夫流兒我 伊都伎之等乃爾 須受可氣奴 波由麻久太禮利 佐刀毛等騰呂爾

     左夫流兒(さぶるこ)が (いつき)殿(との)に 鈴掛(すずか)けぬ 驛馬下(はゆまくだ)れり (さと)(とどろ)

       左夫流娘子 所以謹仕舍殿前 未掛官鈴之 驛馬驅來忽至者 府內騷動聲隆隆

      大伴家持 4110

         同月十七日,大伴宿禰家持作之。



4111 橘歌一首 【并短歌。】

     可氣麻久母 安夜爾加之古思 皇神祖乃 可見能大御世爾 田道間守 常世爾和多利 夜保許毛知 麻為泥許之登吉 時士久能 香久乃菓子乎 可之古久母 能許之多麻敝禮 國毛勢爾 於非多知左加延 波流左禮婆 孫枝毛伊都追 保登等藝須 奈久五月爾波 波都波奈乎 延太爾多乎理弖 乎登女良爾 都刀爾母夜里美 之路多倍能 蘇泥爾毛古伎禮 香具播之美 於枳弖可良之美 安由流實波 多麻爾奴伎都追 手爾麻吉弖 見禮騰毛安加受 秋豆氣婆 之具禮乃雨零 阿之比奇能 夜麻能許奴禮波 久禮奈為爾 仁保比知禮止毛 多知波奈乃 成流其實者 比太照爾 伊夜見我保之久 美由伎布流 冬爾伊多禮婆 霜於氣騰母 其葉毛可禮受 常磐奈須 伊夜佐加波延爾 之可禮許曾 神乃御代欲理 與呂之奈倍 此橘乎 等伎自久能 可久能木實等 名附家良之母

     掛幕(かけまく)も (あや)(かしこ)し 天皇(すめろき)の 神大御代(かみのおほみよ)に 田道間守(たぢまもり) 常世(とこよ)(わた)り 八矛持(やほこも)ち 參出來(まゐでこ)(とき) 非時(ときじく)の 香菓(かくのこのみ)を (かしこ)くも (のこ)(たま)へれ (くに)()に 生立榮(おひたちさか)え 春去(はるさ)れば 孫枝萌出(ひこえもいつ)つ 霍公鳥(ほととぎす) ()五月(さつき)には 初花(はつはな)を (えだ)手折(たを)りて 娘子等(をとめら)に (つと)にも()りみ 白栲(しろたへ)の (そで)にも扱入(こき)れ 香美(かぐは)しみ ()きて()らしみ ()ゆる()は (たま)()きつつ ()()きて ()れども()かず 秋付(あきづ)けば 時雨雨降(しぐれのあめふ)り 足引(あしひき)の 山木末(やまのこぬれ)は (くれなゐ)に 匂散(にほひち)れども (たちばな)の ()れる其實(そのみ)は 直照(ひたて)りに 彌見(いやみ)()しく 御雪降(みゆきふ)る (ふゆ)(いた)れば 霜置(しもお)けども 其葉(そのは)()れず 常磐為(ときはな)す 彌榮映(いやさかは)えに (しか)れこそ 神御代(かみのみよ)より (よろ)(なへ) 此橘(このたちばな)を 非時(ときじく)の 香菓(かくのこのみ)と 名付(なづ)けけらしも

       僭述掛尊諱 忌懼誠惶復誠恐 古賢天皇之 垂仁聖世大御代 命田道間守 使渡滄溟赴常世 手持竿八矛 復命參詣歸朝時 不畏寒暑兮 非時香菓橘實矣 誠惶復誠恐 代代天皇留其餘 植滿此國中 處處生立發榮茂 每逢春來者 萌出孫枝展新芽 杜鵑霍公鳥 所以來鳴五月天 觀翫賞初花 舉手攀折取其枝 細心裹藏而 遣贈窈窕娘子等 白妙敷栲兮 丁寧扱入置袖中 以其匂い香美 不覺久置迄枯萎 零落其實者 拾為之玉以貫串 卷手纏腕上 見之百遍未嘗厭 每逢秋臨者 時雨驟降零紛紛 足曳勢險峻 嚴山木梢枝頭上 大塊織錦紅 茜色輝耀凋零散 非時香菓兮 橘樹成熟結實者 鮮豔照一面 翫之無盡還欲見 御雪降紛紛 臘月嚴冬來至者 露霜雖置之 其葉不枯永長青 萬世常磐矣 彌榮更盛映興旺 正因此然也 自於亙古神御代 理宜良有以 人稱此橘實者何 四季永長青兮 非時香菓橘實矣 如是號之讚訟也

      大伴家持 4111


4112 反歌一首 【承前。】

     橘波 花爾毛實爾母 美都禮騰母 移夜時自久爾 奈保之見我保之

     (たちばな)は (はな)にも()にも ()つれども 彌非時(いやときじく)に (なほ)()()

       非時香菓兮 無論橘花或橘實 縱然常觀之 不嘗飽厭意未盡 彌欲時時更見之

      大伴家持 4112

         閏五月廿三日,大伴宿禰家持作之。



4113 庭中花作歌一首 【并短歌。】

     於保支見能 等保能美可等等 末支太末不 官乃末爾末 美由支布流 古之爾久多利來 安良多末能 等之乃五年 之吉多倍乃 手枕末可受 比毛等可須 末呂宿乎須禮波 移夫勢美等 情奈具左爾 奈泥之故乎 屋戶爾末枳於保之 夏能能 佐由利比伎宇惠天 開花乎 移弖見流其等爾 那泥之古我 曾乃波奈豆末爾 左由理花 由利母安波無等 奈具佐無流 許己呂之奈久波 安末射可流 比奈爾一日毛 安流部久母安禮也

     大君(おほきみ)の 遠朝廷(とほのみかど)と 任賜(まきたま)ふ 官隨(つかさのまにま) 御雪降(みゆきふ)る (こし)下來(くだりき) (あらたま)まの 年五年(としのいつとせ) 敷栲(しきたへ)の 手枕卷(たまくらま)かず 紐解(ひもと)かず 丸寢(まろね)をすれば 欝悒(いぶせみ)と 心慰(こころなぐさ)に 撫子(なでしこ)を 宿(やど)蒔生(まきおほ)し 夏野(なつのの)の 小百合引植(さゆりひきう)ゑて 咲花(さくはな)を 出見(いでみ)(ごと)に 撫子(なでしこ)が 其花妻(そのはなづま)に 小百合花(さゆりばな) (ゆり)()はむと (なぐさ)むる (こころ)()くは 天離(あまざか)る (ひな)一日(ひとひ)も ()るべくも()れや

       吾皇大君之 遙遙天邊遠朝庭 奉命為公吏 任賜隨官從所命 御雪降紛紛 到來北陸此越中 一元復始新 任期年限五年間 白妙敷栲兮 不得同寢枕妻手 下紐繫不解 客在他鄉丸寢時 欝悒意不快 雖欲聊慰舒此心 妍哉撫子花 蒔而令生庭苑間 繁茂夏野間 引植強瞿小百合 每見咲花之 群起爭艷綻放時 撫子花所如 石竹花妻大孃矣 百合花負名 誓言其後必相逢 如是慰悒情 若非期盼懷此心 天離日已遠 遙遙鄙夷此國中 縱令一日可耐哉

      大伴家持 4113


4114 反歌二首 【承前。】

     奈泥之故我 花見流其等爾 乎登女良我 惠末比能爾保比 於母保由流可母

     撫子(なでしこ)が 花見(はなみ)(ごと)に 娘子等(をとめら)が ()まひの(にほ)ひ (おも)ほゆるかも

       妍哉撫子花 每見石竹花咲者 坂上大孃之 回眸一笑百媚生 必然浮現映眼簾

      大伴家持 4114


4115 【承前。】

     佐由利花 由利母相等 之多波布流 許己呂之奈久波 今日母倍米夜母

     小百合花(さゆりばな) (ゆり)()はむと 下延(したは)ふる (こころ)()くは 今日(けふ)()めやも

       百合花負名 誓言其後必相逢 如是慰悒情 若吾內心無此許 縱令一日豈耐哉

      大伴家持 4115

         同閏五月廿六日,大伴宿禰家持作。



4116 國掾久米朝臣廣繩,以天平廿年附朝集使入京。其事畢而,天平感寶元年閏五月廿七日,還到本任。仍長官之館,設詩酒宴樂飲。於時主人守大伴宿禰家持作歌一首 【并短歌。】

     於保支見能 末支能末爾末爾 等里毛知氐 都可布流久爾能 年內能 許登可多禰母知 多末保許能 美知爾伊天多知 伊波禰布美 也末古衣野由支 彌夜故敝爾 末為之和我世乎 安良多末乃 等之由吉我弊理 月可佐禰 美奴日佐末禰美 故敷流曾良 夜須久之安良禰波 保止止支須 支奈久五月能 安夜女具佐 余母疑可豆良伎 左加美都伎 安蘇比奈具禮止 射水河 雪消溢而 逝水乃 伊夜末思爾乃未 多豆我奈久 奈吾江能須氣能 根毛己呂爾 於母比牟須保禮 奈介伎都都 安我末川君我 許登乎波里 可敝利末可利天 夏野乃 佐由里能波奈能 花咲爾 爾布夫爾惠美天 阿波之多流 今日乎波自米氐 鏡奈須 可久之都禰見牟 於毛我波利世須

     大君(おほきみ)の 任隨(まきのまにま)に 取持(とりも)ちて (つか)ふる(くに)の 年內(としのうち)の 事結持(ことかたねも)ち 玉桙(たまほこ)の (みち)出立(いでた)ち 岩根踏(いはねふ)み 山越(やまこ)野行(のゆ)き 都邊(みやこへ)に ()ゐし()()を (あらたま)の 年行返(としゆきがへ)り 月重(つきかさ)ね ()日度重(ひさまね)み ()ふる(そら) (やす)くしあらねば 霍公鳥(ほととぎす) 來鳴(きな)五月(さつき)の 菖蒲草(あやめぐさ) 蓬蘰(よもぎかづら)き 酒酣(さかみづ)き 遊和(あそびな)ぐれど 射水川(いみづかは) 雪消溢(ゆきげはふ)りて 逝水(ゆくみづ)の 彌增(いやま)しにのみ (たづ)()く 奈吾江菅(く,なごえのすげ)の (ねもころ)に 思結(おもひむす)ぼれ (なげ)きつつ ()()(きみ)が 事終(ことをは)り 歸罷(かへりまか)りて 夏野(なつのの)の 小百合花(さゆりのはな)の 花笑(はなゑ)みに 囅然(にふぶ)()みて ()はしたる 今日(けふ)(はじ)めて 鏡為(かがみな)す 如是(かく)常見(つねみ)む 面變(おもがは)りせず

       吾皇大君之 隨其宸旨之所任 肩負承政務 所以仕奉遠國中 寒暑一年間 總括國政奉奏矣 玉桙大道兮 出立旅路赴京師 踏破岩磐而 翻越山嶺度野行 跋涉至都邊 參上奏覽吾兄君 日新月異兮 春去秋來年緒改 朔望累月兮 不得相見積日久 戀慕此胸懷 忐忑不安無寧者 杜鵑霍公鳥 所以來鳴五月天 手摘菖蒲草 復以蓬艾以為蘰 飲酒酣醉而 遊興解憂慰鬱情 月中射水川 冰雪消融河水溢 逝水之所如 戀慕不止更彌增 鶴鳴啼哀淒 奈吾江畔菅根兮 慇懃而懇切 憂思萬絮結紊亂 悲嘆愁終日 所以苦待吾君矣 遂命終其事 千里迢迢歸罷而 繁茂夏野間 強瞿小百合花之 綻放之所如 囅然笑歡愉 如是再會而 自於相逢今日始 無曇明鏡兮 願得如是總常見 相安無恙勿變貌

      大伴家持 4116


4117 反歌二首 【承前。】

     許序能秋 安比見之末爾末 今日見波 於毛夜目都良之 美夜古可多比等

     去年秋(こぞのあき) 相見(あひみ)(まにま) 今日見(けふみ)れば (おも)(めづ)らし 都方人(みやこかたひと)

       自於去年秋 相互餞別去以來 今日復相見 神貌一變刮目看 仿如京城仕紳也

      大伴家持 4117


4118 【承前。】

     可久之天母 安比見流毛乃乎 須久奈久母 年月經禮波 古非之家禮夜母

     如是(かく)しても 相見(あひみ)(もの)を (すく)なくも 年月經(としつきふ)れば ()ひしけれやも

       雖然相別後 依然如是能相見 然而隨年月 身處異地經日久 戀慕憂情仍難抑

      大伴家持 4118


4119 聞霍公鳥喧作歌一首

     伊爾之敝欲 之怒比爾家禮婆 保等登藝須 奈久許惠伎吉弖 古非之吉物乃乎

     (いにしへ)よ (しの)ひにければ 霍公鳥(ほととぎす) 鳴聲聞(なくこゑき)きて (こひ)しき(もの)

       雖是自往昔 長相思慕而來故 杜鵑霍公鳥 每逢聽聞鳴泣聲 不覺懷念憂情湧

      大伴家持 4119


4120 為向京之時,見貴人及相美人飲宴之日,述懷儲作歌二首

     見麻久保里 於毛比之奈倍爾 賀都良賀氣 香具波之君乎 安比見都流賀母

     ()まく()り (おも)ひし(なへ)に 蘰蔭(かづらかげ) 馨君(かぐはしきみ)を 相見(あひみ)つるかも

       每念欲逢晤 胸懷相思情泉湧 蘰蔭之所如 花容月貌貴人君 得以拜眉翫光儀

      大伴家持 4120


4121 【承前。】

     朝參乃 伎美我須我多乎 美受比左爾 比奈爾之須米婆 安禮故非爾家里【一云,波之吉與思,伊毛我須我多乎。】

     朝參(てうさむ)の (きみ)姿(すがた)を ()(ひさ)に (ひな)にし()めば 我戀(あれこ)ひにけり一云(またにいふ)()しき()し、(いも)姿(すがた)を。】

       花容月貌之 不見貴人朝參姿 時日已久也 身居鄙夷遠國故 吾人戀慕情泉湧【一云,閉月羞花兮,不見愛憐吾妹姿。】

      大伴家持 4121

         同閏五月廿八日,大伴宿禰家持作之。



4122 天平感寶元年閏五月六日以來,起小旱,百姓田畝稍有凋色也。至于六月朔日,忽見雨雲之氣。仍作雲歌一首 【短歌一絕。】

     須賣呂伎乃 之伎麻須久爾能 安米能之多 四方乃美知爾波 宇麻乃都米 伊都久須伎波美 布奈乃倍能 伊波都流麻泥爾 伊爾之敝欲 伊麻乃乎都頭爾 萬調 麻都流都可佐等 都久里多流 曾能奈里波比乎 安米布良受 日能可左奈禮婆 宇惠之田毛 麻吉之波多氣毛 安佐其登爾 之保美可禮由苦 曾乎見禮婆 許己呂乎伊多美 彌騰里兒乃 知許布我其登久 安麻都美豆 安布藝弖曾麻都 安之比奇能 夜麻能多乎理爾 許乃見油流 安麻能之良久母 和多都美乃 於枳都美夜敝爾 多知和多里 等能具毛利安比弖 安米母多麻波禰

     天皇(すめろき)の 敷坐國(しきますくに)の 天下(あめのした) 四方道(よものみち)には 馬爪(うまのつめ) い()くす(きは)み 船舳(ふなのへ)の い()つる(まで)に (いにしへ)よ 今現(いまのをつづ)に 萬調(よろづつき) (まつ)(つかさ)と (つく)りたる 其生業(そのなりはひ)を 雨降(あめふ)らず 日重(ひのかさ)なれば ()ゑし()も ()きし(はたけ)も 朝每(あさごと)に 凋枯行(しぼみかれゆ)く ()()れば (こころ)(いた)み 稚子(みどりこ)の 乳乞(ちこ)ふが(ごと)く 天水(あまつみづ) (あふ)ぎてそ()つ 足引(あしひき)の 山鞍(やまのたをり)に 此見(このみ)ゆる 天白雲(あまのしらくも) 海神(わたつみ)の 沖宮邊(おきつみやへ)に 立渡(たちわた)り 殿曇合(とのぐもりあ)ひて (あめ)(たま)はね

       吾皇大君之 天皇御宇而敷坐 六合天之下 四方諸國與諸道 至於駿馬爪 其蹄磨盡極遠國 至於船舳之 所到海表迄彼岸 遠自神代兮 太古昔日至今現 謹供奉萬調 以為獻物之最而 精心竭力作 全力務農雖如是 久旱雨不降 烈日當空重日久 所植田野者 以及所蒔畑埂間 朝朝復日日 凋零枯萎轉俄去 親眼見其景 心痛惻隱懷愁悵 洽猶稚子之 嗷嗷乞乳之所如 久方天上水 引頸仰望待甘霖 足曳勢險峻 還願在此山鞍部 所以得見之 翔渡虛空天白雲 可以至海神 所治沖瀛龍宮邊 令其聽我訴 招來烏曇蔽此空 御賜甘霖濟眾生

      大伴家持 4122


4123 反歌一首 【承前。】

     許能美由流 久毛保妣許里弖 等能具毛理 安米毛布良奴可 己許呂太良比爾

     此見(このみ)ゆる 雲連綿(くもほびこ)りて 殿曇(とのくも)り (あめ)()らぬか 心足(こころだ)らひに

       只願此所見 天雲得以續連綿 為烏雲蔽空 降賜甘霖潤蒼生 不吝滂沱至心足

      大伴家持 4123

         右二首,六月一日晚頭,守大伴宿禰家持作之。



4124 賀雨落歌一首

     和我保里之 安米波布里伎奴 可久之安良婆 許登安氣世受杼母 登思波佐可延牟

     ()()りし (あめ)降來(ふりき)ぬ 如是(かく)しあらば 言舉(ことあ)げせずとも (とし)(さか)えむ

       吾人之所欲 望眼欲穿雨降來 若是如此者 縱令不須暢揚言 今年必當豐稔矣

      大伴家持 4124

         右一首,同月四日,大伴宿禰家持作。



4125 七夕歌一首 【并短歌。】

     安麻泥良須 可未能御代欲里 夜洲能河波 奈加爾敝太弖弖 牟可比太知 蘇泥布利可波之 伊吉能乎爾 奈氣加須古良 和多里母理 布禰毛麻宇氣受 波之太爾母 和多之弖安良波 曾乃倍由母 伊由伎和多良之 多豆佐波利 宇奈我既里為弖 於毛保之吉 許登母加多良比 奈具左牟流 許己呂波安良牟乎 奈爾之可母 安吉爾之安良禰波 許等騰比能 等毛之伎古良 宇都世美能 代人和禮毛 許己乎之母 安夜爾久須之彌 徃更 年乃波其登爾 安麻乃波良 布里左氣見都追 伊比都藝爾須禮

     天照(あまでら)す 神御代(かみのみよ)より 安川(やすのかは) (なか)(へだ)てて 向立(むかひた)ち 袖振交(そでふりかは)し 息緒(いきのを)に (なげ)かす子等(こら) 渡守(わたりもり) (ふね)(まう)けず (はし)だにも (わた)してあらば 其上(そのへ)ゆも い行渡(ゆきわた)らし (たづさ)はり 項掛居(うながけりゐ)て (おも)ほしき (こと)(かた)らひ (なぐさ)むる (こころ)はあらむを (なに)しかも (あき)にしあらねば 言問(ことど)ひの (とも)しき子等(こら) 空蟬(うつせみ)の 世人我(よのひとわれ)も 此處(ここ)をしも (あや)(くす)しみ 行變(ゆきかは)る 年端每(としのはごと)に 天原(あまのはら) 振放見(ふりさけみ)つつ 言繼(いひつ)ぎにすれ

       遠自天照臨 亙古稜威神代起 相對天安河 分居兩岸面相覷 向立而互望 振交揮袖道慕情 哀嘆賭命緒 嗚呼牛郎織女矣 川瀨渡守者 未設舟船不得越 若使有假橋 得以跨岸越渡者 必然經其上 迫不及待渡行矣 相攜執子手 依偎交頸長廝守 胸懷念如斯 連綿絮語述不絕 抒發慰鬱情 雖然赤心祈如此 其是何理哉 不至秋日莫得逢 縱令欲言問 稀罕難得佳人等 空蟬憂世間 凡俗世人汝我等 觀夫聞此事 惻隱不可思其議 巡行而變易 每逢年端復始時 久方高天原 振放昂首仰見者  口耳相傳繼萬世

      大伴家持 4125


4126 反歌二首 【承前。】

     安麻能我波 波志和多世良波 曾能倍由母 伊和多良佐牟乎 安吉爾安良受得物

     天川(あまのがは) 橋渡(はしわた)せらば 其上(そのへ)ゆも い(わた)らさむを (あき)(あら)ずとも

       銀漢天之川 若有架橋得渡者 吾必越其上 迫不及待渡行矣 縱令未值七夕秋

      大伴家持 4126


4127 【承前。】

     夜須能河波 許牟可比太知弖 等之乃古非 氣奈我伎古良河 都麻度比能欲曾

     安川(やすのかは)こ 向立(こむかひた)ちて 年戀(としのこひ) 日長(けなが)子等(こら)が 妻問夜(つまどひのよ)

       相對天安河 分居兩岸面相覷 年間懷戀慕 相思日久佳人等 逢瀨妻問此夜矣

      大伴家持 4127

         右,七月七日,仰見天漢,大伴宿禰家持作。



4128 越前國掾大伴宿禰池主來贈戲歌四首 【四首第一。】

       忽辱恩賜,驚欣已深。心中含咲,獨座稍開,表裏不同,相違何異。推量所由,率爾作策歟。明知加言,豈有他意乎。
       凡賀易本物,其罪不輕。正贓倍贓,宣急并滿。今勒風雲,發遣徵使。早速返報,不須延迴。

         勝寶元年十一月十二日 物所貿易下吏

          謹訴 貿易人斷官司 廳下

         別白:「可怜之意,不能默止。聊述四詠,准擬睡覺。」

     久佐麻久良 多比乃於伎奈等 於母保之天 波里曾多麻敝流 奴波牟物能毛賀

     草枕(くさまくら) 旅翁(たびのおきな)と (おも)ほして (はり)(たま)へる ()はむ物欲得(ものもが)

       汝蓋思我命 以為草枕旅異地 他鄉老翁哉 既然以針賜我者 還願能得逢物矣

      大伴池主 4128


4129 【承前,四首第二。】

     芳理夫久路 等利安宜麻敝爾於吉 可邊佐倍波 於能等母於能夜 宇良毛都藝多利

     針袋(はりぶくろ) 取上(とりあげ)(へに)()き (かへ)さへば (おの)とも(おの)や (うら)()ぎたり

       取持彼針袋 置於目前詳觀之 飜開而見者 吁哉瞠目令結舌 其裏亦施華餝矣

      大伴池主 4129


4130 【承前,四首第三。】

     波利夫久路 應婢都都氣奈我良 佐刀其等邇 天良佐比安流氣騰 比等毛登賀米授

     針袋(はりぶくろ) 帶續(おびつつ)けながら 里每(さとごと)に ()らさひ(ある)けど (ひと)(とが)めず

       手攜其針袋 以帶懸於腰間而 至於里里間 光天化日行步者 莫有人咎思異者

      大伴池主 4130


4131 【承前,四首第四。】

     等里我奈久 安豆麻乎佐之天 布佐倍之爾 由可牟等於毛倍騰 與之母佐禰奈之

     (とり)()く (あづま)()して 相應(ふさ)へしに ()かむと(おも)へど (よし)もさね()

       雄雞啼報曉 指向吾妻東國去 理當合宜矣 雖欲躬身赴以往 然而無奈苦無方

      大伴池主 4131

         右歌之返報歌者,脫漏不得探求也。



4132 更來贈歌二首

       依迎驛使事,今月十五日,到來部下加賀郡境。面蔭見射水之鄉,戀緒結深海之村。身異胡馬,心悲北風。乘月徘徊,曾無所為。稍開來封,其辭云云者,先所奉書,返畏度疑歟。僕作囑羅,且惱使君。夫乞水得酒,從來能口。論時合理,何題強吏乎。尋誦針袋詠,詞泉酌不渴。抱膝獨咲,能蠲旅愁。陶然遣日,何慮何思。短筆不宣。

         勝寶元年十二月十五日 徵物下司

        謹上 不伏使君 【記室。】

         別奉【云云。】歌二首

     多多佐爾毛 可爾母與己佐母 夜都故等曾 安禮波安利家流 奴之能等乃度爾

     (たた)さにも ()にも(よこ)さも (やつこ)とそ (あれ)はありける 主殿門(ぬしのとのど)

       縱令橫或豎 無論如何審視者 吾身奴僕矣 我命所侍奉者何 吾君家持主殿門

      大伴池主 4132


4133 【承前。】

     波里夫久路 己禮波多婆利奴 須理夫久路 伊麻波衣天之可 於吉奈佐備勢牟

     針袋(はりぶくろ) (これ)(たば)りぬ 摺袋(すりぶくろ) (いま)()てしか (おきな)さびせむ

       美哉針袋矣 今日獲贈此良物 吾人有所思 改日亦欲得摺袋 以為耆老翁形也

      大伴池主 4133


4134 宴席詠雪月梅花歌一首

     由吉乃宇倍爾 天禮流都久欲爾 烏梅能播奈 乎理天於久良牟 波之伎故毛我母

     雪上(ゆきのうへ)に ()れる月夜(つくよ)に 梅花(うめのはな) ()りて(おく)らむ ()しき兒欲得(こもがも)

       積置皓雪上 所以照臨月夜間 吾手折梅花 寄心餽贈獻慇懃 欲得如是佳人矣

      大伴家持 4134

         右一首,十二月大伴宿禰家持作。



4135 【少目秦忌寸石竹館宴,守大伴家持作歌。】

     和我勢故我 許登等流奈倍爾 都禰比登乃 伊布奈宜吉思毛 伊夜之伎麻須毛

     ()背子(せこ)が 琴取(ことと)(なへ)に 常人(つねひと)の ()(なげ)きしも 彌頻增(いやしきま)すも

       每逢吾兄子 手取和琴撫之者 世人俗諺云 嘆息先立之所如 徒增唏噓道憂愁

      大伴家持 4135

         右一首,少目秦伊美吉石竹館宴守大伴宿禰家持作。



4136 天平勝寶二年正月二日,於國廳給饗諸郡司等宴歌一首

     安之比奇能 夜麻能許奴禮能 保與等理天 可射之都良久波 知等世保久等曾

     足引(あしひき)の 山木末(やまのこぬれ)の 宿木取(ほよと)て 髻首(かざ)しつらくは 千年壽(ちとせほ)くとそ

       足曳勢險峻 手執山林末梢上 寄生宿木而 插頭髻首以為飾 祈禱長壽臻千年

      大伴家持 4136

         右一首,守大伴宿禰家持作。



4137 判官久米朝臣廣繩之館宴歌一首

     牟都奇多都 波流能波自米爾 可久之都追 安比之惠美天婆 等枳自家米也母

     正月立(むつきた)つ 春初(はるのはじ)めに 如是(かく)しつつ (あひ)()みてば (とき)じけめやも

       萬象悉復始 每逢正月初春時 若得群聚首 如是相笑盡歡愉 無論何時皆良辰

      大伴家持 4137

         同月五日,守大伴宿禰家持作之。



4138 緣檢察墾田地事,宿礪波郡主帳多治比部北里之家。于時,忽起風雨,不得辭去作歌一首

     夜夫奈美能 佐刀爾夜度可里 波流佐米爾 許母理都追牟等 伊母爾都宜都夜

     荊波(やぶなみ)の (さと)宿借(やどか)り 春雨(はるさめ)に 隱障(こもりつつ)むと (いも)()げつや

       越中礪波郡 借宿荊波之里間 以避春雨降 如是籠居雨障者 還願傳言告吾妻

      大伴家持 4138

         二月十八日,守大伴宿禰家持作。




真字萬葉集 卷十八 雜歌、大伴家持作歌 終