久安百首 花園左大臣家小大進
1301
あふさかの せきよりはるの とくなれは ふもとのしみつ けさそこほらぬ
1302
やほよろつ まつのちとせに ひきそへて きみかよはひを ねのひなりけり
1303
さほやまに かすみのころも そめかけて よものこのめも はるにやあるらむ
1304
うめかえに やなきのいとの かたよるは はなかさぬひに うぐひすやくる
1305
おひそめし そとものわかな けさみえす よのまにゆきの つみてけるかな
1306
よそめには ともとやみゆる しらたつの あしまのとこに のこるあはゆき
1307
うつりかに あたなたちえの 梅花 なほこりすまに そてやふれまし
1308
はるくれは みとりのいとの すちことに つらぬきかくる たまやなきかな
1309
やまふしの いしよりいてぬ さわらひも うてはそもゆる ほとはしらるる
1310
はるをへて いくへさくらの はななれは としにかさねて にほひますらむ
1311
ほそくふる やよひのあめや いとならむ みつにあやおる ひろさはのいけ
1312
はるふかき ゆるきのもりの したくさの しけみにはむや あをさきのこま
1313
みやこにて としもこしちの かりかねは かへるとこよや たくひなるらむ
1314
あしひきの やまのやまひこ こたへすは ともよふことり たれとなかまし
1315
かとたには いさらをかはを まかせつつ みつもやすらの たねまきてけり
1316
もものはな ものいはすとは ききしかは たれすきあふと たはれしもせし
1317
かきつはた へたてなはてそ むらさきの ねすりのころも いろもむつまし
1318
くちなしに かはせのなみの かくれはや ぬれいろにさく やまふきのはな
1319
むらさきの はるひのさすや はひならむ けさいろふかし ふちなみのはな
1320
うらやまし いかにいりあひの かねなれは このくれにしも はるのつくらむ
1321
あかさりし はないろころも いかにせむ ぬきかふるこそ ものうつきなれ
1322
うのはなの あをはましりに さきぬれは かきねもをみの ころもきてけり
1323
うらやまし いりひのかけの さそふには にしへもなひく あふひくさかな
1324
かたらへは えそすきやらぬ ほととぎす こゑにはせきも すゑしとおもふに
1325
ねみせつる よとのわするな あやめくさ たたかりそめの まくらなりとも
1326
さみたれの ふるやのいたま ひまをあらみ もりしめてけり とこくつるまて
1327
やとにほふ はなたちはなを しるへにて さつきのやみも たとらてそくる
1328
ふたつなき みのりのはなは さきにけり はすのたちはの たたひとすちに
1329
ましみつに あふきもなつも わすられて ややはたさむし せみのはころも
1330
さまたくる かみもやきくと みなつきの みそかとしつる なつはらへかな
1331
ふきそむる かせのけしきや つらからむ けさうらみたる のへのくすはら
1332
たなはたの あまのかはもり こころあらは かへさわたすな かささきのはし
1333
さきにほふ をののいとはき てにもふれし しかたちよらは みたれもそする
1334
しのひかね つみしらするそ をみなへし たよりにをると おもひうとむな
1335
あきかせは にしよりふくを いかなれは こちとすすきの まねくなるらむ
1336
さらぬたに しとろにみたる かるかやの をれそにすかる ささかにのいと
1337
ゆふつゆに そのしたひもや とけぬらむ またれてにほふ ふちはかまかな
1338
かせのおとに のきはのをきの こたへすは あきのあはれを たれといはまし
1339
こまこまと かくたまつさに ことよせて くるはつかりの かすそみたるる
1340
あらしやま はとふくあきの おとすれは こゑをあはせて をしかなくなり
1341 崇德院に百首歌奉りける時、秋歌とて詠める
矛花生し 小野芝生の 朝露を 貫散したる 玉かとぞ見る
1342
きりこめて たつきもみえぬ そまやまに をのはかりこそ おともかくれね
1343
いかにして おもひすてまし あさかほの きのふのはなの ありかたきよを
1344
ちとせまて よにあふさかの きみかよを ためしにひける つるふちのこま
1345
あまつかせ ふけゆくままに そらさえて よすからすめる ありあけのつき
1346
からころも さゆるしもよに うちわひて まとろむまにや おとたゆるらむ
1347
うきよには あきはてかたに よわりゆく わかみににたる むしのこゑかな
1348
あきはゆく おのかにほひは つきせねは ふゆにうつろふ しらきくのはな
1349
ははそはら ちれるみなとに かせふけは なみさへあきは もみちしにけり
1350 百首歌奉りける時、九月盡之心を詠める
今宵迄 秋は限れと 定めける 神代も更に 恨めしき哉
1351 百首歌召しける時、初冬之心を詠ませ賜うける
我妹子が 上裳裾の 水波に 今朝こそ冬は 立始めけれ
1352
ねさめする とこにしくれは もりこねと おとにもそての ぬれにけるかな
1353
ひさしなき いたやのあられ いへことや おちさたまらて よにふりぬらむ
1354
きえぬまに ゑにかきとむる ひともかな ゆきふるやとの けさのけしきを
1355
きさかたや しはのとほその あけかたに こゑうらかれて ちとりなくなり
1356
ふゆのいけに をしのつかひの はなれぬは いかにむすへる こほりなるらむ
1357
をとめこか そてをりかへす そのこまは とよのにはひも おもしろきかな
1358
をのやまの こころほそくも かすむかな たれすみかまに けふりたつらむ
1359
あすはさは こそのよはひや なからまし としたちかへる こよひときくに
1361
けふこそは こころにくちて としふれと よわらぬこひを ひとにしらるれ
1362
わかこひは やましたみつに しつくいしの ここらぬるるも しるひとそなき
1363
たつねゆく ふなちにとしの おふるまて あはぬくすりに にたるこひかな
1364
われこそは いひはしめしか こむらさき あらぬかたにや あひそめにけむ
1365
もかみかは こころくたくる わかこひや いなふるふねの のほるなるらむ
1366
こふれとも ささめのみのの すけなさに あめのしたさへ うらめしきかな
1367
きてかへる ものともしらて なつきぬの ひとへこころは すかされにけり
1368
ふしぬとて こころのいとも よわりせは へたつるきぬは ほころひなまし
1369
そことたに またしらすけの すかまくら くちぬとつけむ ひとつてもかな
1370
むつことも またありあけの つきぬまに とりのねさして かへれとやさは
1371
かさねてし よはのころもの なれぬれは しなへうらふれ ひとそまたるる
1372
しのふまに あふよなみたの こほれつつ めよりほかにも ちりぬへきかな
1373
ねたくわれ なにとしかまの あひそめて かちかほにする ひとをこふらむ
1374
しらせはや うらみこしちの ふねならは おしかへしたる こひにこかるる
1375
やまたもる こころはすこの ひとりゐに こひはかりこそ みにもはなれね
1376
しつしつと しつはたいとの おりおりに きりにきりたる こひもするかな
1377
わかことや いとひすてたる いとくつの もすそにつきて きみをはなれぬ
1378
ねかひうる にしをおもはて なそもかく かなはぬこひに よをつくすらむ
1379
あひみむと はけしきやまへ のほるかな なのめならぬは こをおもふみち
1380
けさきつる こころにこりぬ しののめの そらしらすして あけはかへらし
1381
あまてらす かみのめくみは ますかかみ くもらぬかけを まもるなりけり
1382
いはしみつ なかれのすゑも はるはると のとかなるよに すむそうれしき
1383
きみかよは ひかりつきせぬ ひのもとに あさたつちりの かすもしられす
1384
よそねして こけむすいはほ きみかよに ちたひそなてむ あまのはころも
1385
いつかたも こころにかなふ くすりあらは にしをそつひの すみかにはせむ
1386
ひのひかり てらさはなとか くらからむ かくやみふかき つみのみなりと
1387
もろひとの みよのつみをし くたかすは ほたいのたねに なにをうゑまし
1388
ちかひありて ほとけののりも きみかよも ひさしくまもる すかたとそなる
1389
たちさらぬ ちかひたのめは おのつから はなのうてなに のほらさらめや
1390百首歌奉りける時、無常之心を詠める
明日知らぬ 三室岸の 根無草 何徒世に 生始めけむ
1391
いかにせむ かかれるくさの つゆのよを つきのねすみは ねにさわくなり
1392
あふことは いつとなくなく ゆくみちに ゆかねはしぬる ここちこそすれ
1393
みちみえぬ このくれやまの そまかたに ましるもしらす いもかまつらむ
1394
たましきに たちもかへらは みやことり たひにまとふと やとにつけこせ
1395
あやむまて みねよりくたる しはくるま のりにこころや そみかくたなる
1396
ゆきとけは われもけぬへき たひなから はたとせさらす ふるそかなしき
1397
しもさゆる ふゆのにさぬる このたひは くさひきむすふ まくらたになし
1398
しもふれは なへてかれぬる ふゆくさも いはほかかけの はこそしられね
1399
せこはたゆ するつきくさの はなころも たれかためにか ぬひもおくへき
1400
きみかよは ゆくすゑまつに はなさきて とかへりいろを みつかきの ひさしかるへき しるしには ときはのやまに なみたてる しらたまつはき やちかへり はかへするまて みとりなる さかきのえたの たちさかえ しきみかはらを つみはやし いのるいのりの しるしあれは ねかふねかひの みつしほに のふるいのちは なかはまの まさこをちよの ありかすに とれともたえす おほゐかは よろつよをへて すむかめの よはひゆつると むれたりし あしまのたつの さしなから ともはくもゐに たちのほり われはさはへに ひとりゐて なくこゑそらに きこえねは つもるうれへの おほかれと こころのうちに うちしのひ おもひなけきて すくるまに かかるおほせの かしこさを わかみのはるに いはひつつ よよをふれとも いろかへぬ たけのこともの すゑのよを みかきのうちに うつしうゑて にほふときくの はなならは しもをいたたく おいのみに ときにあひたる ここちこそせめ
1401
しるしけり よろつのとしの ちちのあき たのしみいまた なかはならすと