久安百首 藤原實清
0701
かすめとも ゆきそふりくる けふはなほ くもちにふゆや たちとまるらむ
0702
くれぬとて をしみしはるの ほともなく はしめにもまた なりにけるかな
0703
あつさゆみ はるののへなる ひめこまつ きみかちとせに ひきそくらふる
0704
をやまたは ゆきけのみつし ふかけれは あせつたひにそ ねせりつみける
0705
はるののの わかなはかりと おもひしに としをそへても つみてけるかな
0706
ゆきふりて こそにかはらぬ やまさとに はるめくものは うぐひすのこゑ
0707
かすみたち うらわもみえす あまひとの あこととのふる こゑのみそする
0708
さきぬとも いはぬはかりそ 梅花 にほふはひとに つくるなりけり
0709
梅花 こすゑをわたる はるかせの かをるかをのみ ちらさましかは
0710
さほひめの やなきのえたに ひくいとを ふきくるかせに まかせてそみる
0711
しつのめか をたのつつみに さすやなき しけくもことし はえにけるかな
0712
かへるかり いまいくほとも なきものを はなのさかりを すくしやはせむ
0713
はるかせも はなまつほとは ふかはふけ さきなむのちの かからすもかな
0714
くもならは さのみはれすや あるへきと おもひわくにそ さくらなりける
0715
みつのおもに うつろふかけを しらなみの をるさへをしき はなさくらかな
0716
さくらはな かせにちるたに あるものを いかなるひとの たをるなるらむ
0717
あすかかは なみのはなこそ さきにけれ たかまのやまに さくらちるらし
0718
まつにしも なにかかるらむ ふちのはな さてもときはに あらぬものゆゑ
0719
おくやまの いはねのつつし さきぬれは こけのみとりも いろはえにけり
0720
ゆくはるを こゑふりたてて よふことり よふにとまらは われおとらめや
0721 崇德院に百首歌奉りける時、夏始之歌とて詠める
飽かで行く 春別に 古の 人や憂月と 言始めけむ
0722
やまかつの さらせるぬのは うのはなの ちらぬかきりの ものにそありける
0723
なにしかも ひとにかたらむ ほととぎす たたしのひねは われにきかせよ
0724
ほととぎす くもゐのこゑの ほのほのと よもあけかたに なきわたるかな
0725
ほととぎす きなくやまたの さなへこそ とるとはすれと とりもやられね
0726
さみたれに あしまのふねは あらはれて みえしすゑはの かくれゆくかな
0727
さはにふす しかはほたるに おもなれて ともしにめをや あはせさるらむ
0728
こほりゐて ひむろにふゆは とまりけり すきにしはるも かからましかは
0729
おぼつかな たかとこなつの はななれは みるあさことに つゆけかるらむ
0730
はちすはの したにやうをの あそふらむ うへなるつゆの たまそこほるる
0731
いつしかと けさはかせこそ うれしけれ こころにあきの たつとおもへは
0732
むくらはふ やとにしもこそ しらつゆの たまもてかさる あきはきにけれ
0733
ひこほしの かへさのふねを をしむとや たなはたつめは あまのひれふる
0734
たをりつる こはきかえたの つゆしけみ しつくにそての ぬれにけるかな
0735
しなかとり ゐなのささはら はるはると こころのままに おけるしらつゆ
0736
あききりの よつまかのへの をみなへし わかみにくれは たちかくすらむ
0737
ふちはかま ぬしやたれそと おもひしに あききてのちそ ほころひにける
0738
のへみれと いつかはおける あきもなし こゑにてむしの はかるなりけり
0739
さをしかの つまにこよひや あはさらむ まちかねやまの かひになくらむ
0740
つまこふる なみたなりけり さをしかの しからむはきに おけるしらつゆ
0741
あまのとを のとかにわたる つきのふね こよひはくもの なみなかりけり
0742
てるつきに ひとのこころの みゆるかな あはれしれるも あはれしらぬも
0743
ひさかたの つきのさかりに なりにけり あまのかはきり たたすもあらなむ
0744
くののあき つきはこよひの せきなれは こころととめて たれかみさらむ
0745
ころもうつ きぬたのおとに ことよせて ねさめかちなる あきのよなよな
0746
うつろふに かさへもきくの かはりせは ありしはなとも いかてしらまし
0747
あきふかき あたのおほのの つゆしもに かやかうらはも うつろひにけり
0748
けさみれは しつはたやまの こすゑより もみちのにしき おりてそめつる
0749
くれなゐの ころもかけたる さほやまと みゆるはみねの もみちなりけり
0750
はなすすき まねくかひこそ なかりけれ しらすかほにて あきのくるれは
0751
やまさとは あらしふくよの むらしくれ まとうつおとに めをさますかな
0752
おちつもる もみちのいろは ふかけれと あさくなりゆく やまのゐのみつ
0753
まはらなる しつかしのやは よをさむみ ひとこそあらめ かせもとまらす
0754
さえさえて かせのわたせる うきはしは かはせにむすふ こほりなりけり
0755
あなしかは こほりゐにけり まきもくの ひはらのそまき いかかくたさむ
0756
けさみれは うきねのをしは あくかれて こほりそゐたる まののいけみつ
0757
はまかせや ふけゆくままに さむからむ なこのいりえに ちとりつまとふ
0758
ゆきふれは くめのさらやま いまさらに みちふみわけて ひとそこえける
0759
みよしのの あをねかみねを しらくもの たちこめたりと みゆるゆきかな
0760
くれてゆく としのすかたは みえねとも みにつもりてそ あらはれにける
0761
もみちはの いろにかはらす そめてけり なみたやそての しくれなるらむ
0762
あはすとも なさけはかけよ おのつから むくひにかかる こひもこそすれ
0763
こころには わかこころたに まかせねは ことわりなりや ひとのつらさは
0764
いかにせむ あふよりほかの くすりなき こひのやまひに しつむわかみを
0765
つれもなき ひとこそあらめ なそもかく めもあはてのみ よをあかすらむ
0766
なかくしも あるへしものを よのなかに いとかくものを おもはすもかな
0767
あさましや なみたのかはに うきなから いかなるこひの きえせさるらむ
0768
これをみよ あさなゆふなに あさりする あまのころもと われかしをれと
0769
いのちこそ あるはあたなれ ありえすは かかるこひちに あはさらましを
0770
あらくまの すむといふなる みやまにも いもたにあると きかはいりなむ
0771
ひをへつつ こひはまさりて わきもこか つらさしもなそ おもひけたるる
0772
ゆふされは そよとおとする をきのはの つれなきひとの こころなりせは
0773
あしかもと なにおもひけむ こひわひて われもなみたに うきねをそする
0774
かせをいたみ うらわによする しきなみの しきしきひとに あひみてしかな
0775
こひわひて こころことはも つきにしを いかにたえせぬ なみたなるらむ
0776
ゆめにたに つらくみえすは おのつから まとろむほとは なけかさらまし
0777
いつくにも わかみにそへる かけのこと こひしきひとの はなれさりせは
0778
よそにのみ みやまかすその さねかつら さねすてすきむ ことそくるしき
0779
つれなさを なけきしよりも なかなかに あひみてそなほ わりなかりける
0780
わきもこは くもかくれする つきなれや しはしみぬにも ゆかしかりけり
0781
いさなきの ますみのかかみ てにとりて うみしもしるく てらすつきよみ
0782
ちきりたに たかへさりせは わたつみの そこにもひとや ゆきかよはまし
0783
やほかゆく はまのまさこに くらふとも なほきみかよの かすやまさらむ
0784
きみかよに みちよへてなる もものえた いくかへりまて さかむとすらむ
0785
いそのあまよ そこのかつきに おもひしれ さこそはつみも ふかくなるらめ
0786
はななれと ぬしにいはてはと おもふまに をらまほしきも をられさりけり
0478
いもならぬ ひとにこころや つくさまし こひわすれかひ たもたさりせは
0788
なににかは いつはりはせむ ふたつなき まことののりを たもつみなれは
0789
さかつきの かけをたにみす かくはかり うきよにまたは いてしとおもへは
0790
いのちとて あるはあるかは をしめとも をしまれぬみを なにおもふらむ
0791
かせそよく あさちかすゑの つゆよりも あたなるものは うきよなりけり
0792
あさたちて わかれしひとは いまもかも ひなのあらのに くさむすふらむ
0793
いそちかき あまのとまやの たひねには まくらのしたに なみそおとする
0794
やまたかみ いしふむみちの はるけきに たつのうまをも いまえてしかな
0795
いもかふる なみたもかかる たひころも のはらのつゆに ぬるるのみかは
0796
はりまかた あかしのとなみ さわくめり しはしないてそ かこのふなひと
0797
なそもかく みやここひしく おもふらむ いつくもかりの やととしらすや
0798
すまのうらの あまのもしほの いとからく しけきおもひに こころをややく
0799
しつのをよ なれやかかみの はこのおもに しはしかさなむ いもかやとまて
0800
うはたまの くろかみやまに ふるゆきの しろしくろしも しらすとて わかのうらわの もろひとと ひとなみなみに たちましり むなしきなのみ おとはかは おとはかりには きこゆとも まことはさらに なつこたち ことのはしまり かきつめて ももくさまても なりにけり そのあさけりも ははかりの せきやりかたく おもへとも きみかみことの すゑなれは いなはのつゆも いなひけと おもひあまりに つのくにの なにはのことも わすられて よきふしもなき しをれあしの したにはよとむ みつのあわの もらしてのちも よとともに なほきえかへり はつとしらすや