金葉和歌集三奏本 卷第六 別離廿五首
0337 兼房朝臣、丹後守に成りて下りけるに遣はしける 【○二度本0334。】
君憂しや 花都の 花を見て 苗代水に 急心は
大納言 源經長
0338 返し 【○二度本0335。】
餘所に見し 苗代水に 哀れ我が 下立つ名をも 流しつる哉
藤原兼房朝臣
0339 陸奧守信明、京へ歸上る時、鹿角杖遣はすとて
此頃は 宮城野にこそ 混りつれ 君を雄鹿の 角求むとて
源重之
0340 道貞朝臣、陸奥國にて下る時 【○詞花集0173。】
諸共に 立た益物を 陸奥の 衣關を 餘所に聞哉
和泉式部
0341 煩ふ頃、參河入道、唐へ罷ると聞きて遣はしける 【○續後拾遺1298。】
長夜の 闇に迷へる 我を置きて 雲隱れぬる 空月哉
小大君
0342 帥重尹卿、下侍る時、人人餞し侍けるに詠める 【○二度本0336。】
歸るべき 旅別と 慰むる 心に類ふ 淚也けり
堀河右大臣 藤原賴宗
0343 物へ罷りける人許、扇遣はすとて 【○拾遺集0311。】
別道を 隔つる雲の 上にこそ 扇風を 遣ら真欲けれ
大中臣能宣
0344 參河入道、唐土へ罷るべしと聞えけるが、又泊りにけりと聞えければ、人尋ねたりける返事に遣はしける 【○詞花集0181。】
留らむ 留らじとも 思ほえず 何處も遂の 住處為らねば
入道 寂照法師
0345 陸奥守則光朝臣下りけるに、人人餞侍けるに詠める 【○詞花集0175。】
留居て 待つべき身こそ 老いにけれ 哀別は 人の為かは
菅原資忠
0346 經輔卿、大宰帥にて下侍ける時に、道より上東門院に侍ける人許へ遣はしける 【○二度本0338。】
片敷の 袖に獨は 明かせども 落つる淚ぞ 夜を重ねける
前大宰大貳 藤原長房朝臣
0347 是は御覽じて傍に書付けさせ賜ける 【○二度本0339。】
別路を 實に如何許 歎くらむ 聞人さへぞ 袖は濡れける
上東門院 藤原彰子
0348 源公定、大隅守にて下りける時、月明かりける頃、別を惜みて 【○二度本0340、拾遺集0347。】
遙なる 旅空にも 後れねば 羨ましきは 秋夜月
源為成
0349 資業、伊豫へ下りける時詠める 【○詞花集0172。】
都にて 覺束無さを 習はずば 旅寢を如何に 思遣らまし
民部內侍
0350 保昌に忘られて後、兼房が訪侍ければ 【○詞花集0312。】
人知れず 物思ふ事は 馴ひにき 花に別れぬ 春し無ければ
和泉式部
0351 一條院皇后宮に侍ける女房の日向國へ下侍けるに、餞賜とて詠賜ける 【○詞花集0178。】
茜射す 日に向ひても 思出よ 都は偲ぶ 眺めすらむと
一條院皇后宮 藤原定子
0352 大隅守小槻明道が下りける時、遣はしける 【○拾遺集0487、二度本0341。】
瀛島 雲居岸を 行歸り 文通はさむ 幻欲得
藤原為政朝臣妻
0353 源俊賴朝臣、伊勢へ罷る事有りて出立ける時、人人餞し侍けるに詠める 【○二度本0342。】
伊勢海の 小野古江に 朽果で 都方へ 歸れとぞ思ふ
參議 源師賴
0354 【○承前。俊賴朝臣罷伊勢,啟程之際,眾人餞別而詠。○金葉集三奏本0343。】
待付けむ 我が身也為ば 歸るべき 程を幾度 君に問はまし
源行宗朝臣
0355 百首歌中に別之心を 【○二度本0344。】
今日は然は 立別るとも 便有らば 有や無やの 情忘る莫
權中納言 源國信
0356 實方朝臣陸奧國へ下ける時、下鞍遣はすとて詠める 【○拾遺集0340。】
東道の 木下暗く 成行かば 都月を 戀ひざらめやは
右衛門督 藤原公任
0357 為仲朝臣、陸奧守にて下りける時、人人餞侍けるに詠める 【○二度本0346。】
人はいさ 我が身は末に 成りぬれば 復逢坂も 如何待つべき
藤原實綱朝臣
0358 【○承前。橘為仲朝臣罷下陸奧之際,眾人餞別所詠。○二度本0347。】
戀しさは 其人數に 非ずとも 都を偲ぶ 數に入れなむ
藤原有定
0359 經平、大貳にて下る時、具して罷りける日、公實許へ遣はしける 【○二度本0348。】
射昇る 朝日に君を 思出む 傾く月に 我を忘る莫
中納言 藤原通俊
0360 陸奧へ罷りける時、逢坂關より都へ遣はしける 【○二度本0349。】
我獨 急ぐと思ひし 東路に 垣根梅は 先立にけり
橘則光朝臣
0361 相語らひける人の、陸奧國へ罷りければ遣はしける 【○拾遺集0460。】
如何で猶 我が身に換て 武隈の 松とも成らむ 行末の為
大中臣能宣