金葉和歌集三奏本 卷第五 賀廿七首
0310 長治二年三月五日、內裏にて竹不改色と言へる事を詠ませ給へる 【○二度本0305。】
年經れど 面變りせぬ 吳竹は 流れての世の 例也けり
堀河院御製
0311 前一條院、京極家に行幸せさせ賜たりけるに 【○詞花集0161。】
君が代に 阿武隈川の 底清み 代代を重て 澄むとぞ思ふ
宇治前太政大臣 藤原賴通
0312 堀河院御時、中宮堀河院造始めて遷御賜ひて、松契遐年と言へる事を仕奉る 【○二度本0307。】
水面に 松下枝の 漬濡れば 千歳は池の 心也けり
權中納言 源俊實
0313 法成寺太政大臣家歌合に水邊松を詠める
君が代の 驗に立てる 松蔭に 幾度水の 澄まむとすらむ
大江嘉言
0314 河原院歌合に松臨池と云へる事を
誰にかと 池心も 思ふらむ 底に宿れる 松千歲を
惠慶法師
0315 禁中にて翫花と言へる事を 【○金葉集三奏本0308。】
九重に 久しく匂へ 八重櫻 長閑春の 風と知らずや
權中納言 藤原實行
0316 橘俊綱家歌合に詠める 【○金葉集三奏本0310。】
自ら 我が身さへこそ 祝はるれ 君が千世にも 逢は真欲さに
藤原國行
0317 題不知 【○金葉集三奏本0312。】
君が代の 程をば知らで 住吉の 松を久しと 思ひける哉
大納言 源經信
0318 堀河院行幸再有けるに詠める 【○詞花集0385。】
水上を 定めてければ 君が代に 再び澄める 堀川之水
曾禰好忠
0319 後朱雀院御時弘徽殿歌合に詠める 【○二度本0313。】
君が代は 末之松山 遙遙と 越す白浪の 數も知られず
永成法師
0320 嘉承二年三月、鳥羽殿行幸に池上花と言へる事を詠ませ賜へる 【○二度本0314。】
池水の 底さへ匂ふ 花櫻 見るとも飽かじ 千世春迄
堀河院御製
0321 大嘗會の主基方、辰日參音聲に、皷山を詠める 【○二度本0315。】
音高き 皷山の 打延へて 樂しき御代と 成るぞ嬉しき
藤原行盛
0322 同大嘗會悠紀方、朝日鄉を詠める 【○二度本0316。】
曇無き 豐樂に 近江為る 朝日里は 光射添ふ
藤原敦光朝臣
0323 巳日樂破に雄琴鄉を詠める 【○二度本0317。】
松風の 雄琴里に 通ふにぞ 治まれる世の 聲は聞ゆる
藤原敦光朝臣
0324 後冷泉院御時、大嘗會主基方、備中國二萬鄉を詠める 【○二度本0318。】
貢物 運ぶ丁を 數ふれば 二萬里人 數添ひにけり
藤原家經朝臣
0325 同國稻井と云ふ所を人に代りて 【○二度本0319。】
苗代の 水は稻井に 任せたり 民康げなる 君が御代哉
高階明賴
0326 花契遐年と言へる事を詠侍りける 【○二度本0321。】
花も咸 君が千年を 待為れば 孰春か 色も變らむ
大宰大貳 藤原長實
0327 攝政左大臣、中將にて侍ける頃、春日祭使に下りけるに、周防內侍女使にて下りけるが、為隆卿行事にて侍けるが許に遣はしける 【○二度本0322。】
如何許 神も憐と 三笠山 二葉松の 千代景色を
周防內侍
0328 祝之心を詠める 【○二度本0323。】
君が代は 幾萬代か 重ぬべき 伊津貫川の 鶴毛衣
藤原道經
0329 宇治前太政大臣家歌合に詠める 【○二度本0324。】
君が代は 天兒屋根の 命より 祝ひぞ初めし 久しかれとは
中納言 藤原通俊
0330 【○承前。於宇治前太政大臣家歌合,詠祝情。○二度本0325。】
君が代は 限りも非じ 三笠山 峯に朝日の 射さむ限は
大藏卿 大江匡房
0331 新院御方にて、藤花懸松と言へる事を詠める 【○二度本0326。】
藤浪は 君が千歲を 松にこそ 掛けて久しく 見るべかりけれ
大夫典待
0332 實行卿家歌合に詠める 【○二度本0328。】
瑞垣の 久しかるべき 君が代を 天照神や 空に知るらむ
藤原為忠
0333 前前中宮始めて內へ參らせ賜ける夜、初雪降りて侍ければ、六條右大臣許へ遣はしける 【○二度本0329。】
雪積る 年驗に 甚しく 千歲松の 花咲くぞ見る
宇治前太政大臣 藤原師實
0334 返し 【○二度本0330。】
積るべし 雪積るべし 君が代は 松花咲く 千度見る迄
六條右大臣 源顯房
0335 天喜四年皇后宮歌合に詠ませ賜ける 【○二度本0331。】
長濱の 真砂數も 何為らず 盡きせず見ゆる 君が御代哉
後冷泉院御製
0336 松上雪を詠める 【○二度本0332。】
萬代の 例と見ゆる 松上に 雪さへ積る 年にも有哉
源賴家朝臣