金葉和歌集三奏本 卷第三 秋百十一首
0148 大江為基、攝津任果て昇侍ける後、初秋日言遣はしける 【○詞花集0083。】
君住まば 問は益物を 津國の 生田森の 秋初風
僧都清胤
0149 百首歌中に、立秋之心を詠める 【○二度本0156。】
常永久に 吹く夕暮の 風為れど 秋立つ日こそ 凉しかりけれ
春宮大夫 藤原公實
0150 野草帶露と言へる事を詠める 【○二度本0157。】
真葛延ふ 阿陀大野の 白露を 吹莫亂りそ 秋初風
大宰大貳 藤原長實
0151 後冷泉院御時、皇后宮春秋歌合に、七夕之心を詠める 【○二度本0158。】
萬代に 君ぞ見るべき 七夕の 行逢空を 雲上にて
土佐內侍
0152 七夕之心を詠める 【○二度本0159。】
七夕の 苔衣を 厭はずば 人並並に 訪ひもしてまし
能因法師
0153 七月七日、父服にて侍ける年、詠める 【○二度本0160。】
藤衣 忌もやすると 七夕に 貸さぬに付けて 濡るる袖哉
橘元任
0154 七夕之心を詠める 【○二度本0161。】
戀戀て 今宵許や 七夕の 枕に塵の 積らざるらむ
前齋宮河內
0155 【○承前。詠七夕之趣。○二度本0162。】
天川 別に胸の 焦がるれば 歸途之舟は 梶も執られず
三宮 輔仁親王
0156 【○承前。詠七夕之趣。○二度本0163。】
七夕に 貸せる衣の 露けさに 飽かぬ景色を 空に知る哉
中納言 源國信
0157 題不知 【○千載集0784。】
七夕に 貸しつと思ひし 逢事を 其夜無き名の 立ちにける哉
小大君
0158 【○承前。無題。詠七夕後朝之趣。○二度本0165。】
七夕の 飽かぬ別の 淚にや 花蘰も 露懸るらむ
皇后宮權大夫 源師時
0159 【○承前。無題。詠七夕後朝之趣。○二度本0166。】
天川 歸途之舟に 浪掛けて 乘煩はば 程も經許
內大臣家越後
0160 宇治へ罷りけるに、道に田子の水引きけるを見て、「如是なむ。」と申しければ、入道前太政大臣見に罷りたりけるに、水も見えざりければ、如何にと尋ねけるに、七月七日に當りたりければ詠める
引水も 今日七夕に 貸してけり 天之河瀨に 船居す莫とて
菅野為言
0161 七夕を詠める 【○續古今1565。】
契けむ 程は知らねと 七夕の 絕えせぬ今日の 天川風
宇治入道前太政大臣 藤原賴通
0162 八日之心を詠める
稀に逢ふ 我七夕の 身也為は 今日之別を 生きてせましや
高階俊平
0163 草花告秋と云へる事を詠める 【○二度本0169。】
咲きにけり 梔子色の 女郎花 言はねど著し 秋景色は
源緣法師
0164 師賢朝臣の梅津に人人罷りて、田家秋風と言へる事を詠める 【○二度本0173、百人一首0071。】
夕去れば 門田稻葉 音づれて 葦丸屋に 秋風ぞ吹く
夕暮黃昏刻 門田稻葉聲作響 一猶人來訪 秋風吹拂蘆丸屋 稻葉作響猶喚人
大納言 源經信
0165 長恨歌之心を詠める 【○詞花集0337。】
思兼ね 別れし野邊を 來て見れば 淺茅原に 秋風ぞ吹く
源道濟
0166 夕月夜之心を詠める 【○二度本0174。】
山端に 飽かず入りぬる 夕月夜 何時有明に 成らむとすらむ
大江公資朝臣
0167 遍照寺にて晚秋之心を詠める 【○後拾遺0258。】
住む人も 無き山里の 秋夜は 月光も 寂しかりけり
藤原範永朝臣
0168 寛和二年內裏歌合に詠ませ賜へる 【○詞花集0106。】
秋夜の 月に心の 在所離れて 雲居に物を 思頃哉
花山院御製
0169 題不知 【○詞花集0305。】
月にこそ 昔事は 覺えけれ 我を忘るる 人に見せばや
中原長國
0170 閒見月と言へる事を詠める 【○二度本0177。】
諸共に 草葉露の 置居ずは 獨や見まし 秋夜月
源顯仲卿女
0171 寛治八年八月十五夜、鳥羽殿にて翫池上月と言へる事を詠ませ給ひける 【○二度本0180。】
池水に 今宵月を 映以て 心儘に 我物と見る
白河院御製
0172 【○承前。寛治八年八月十五夜,於鳥羽殿詠池上翫月。○二度本0181。】
照月の 岩間水に 宿らずば 玉居る數を 如何で知らまし
大納言 源經信
0173 八月十五夜を詠める
秋は未だ 過ぎぬる許 有物を 月は今宵を 君と見る哉
高階俊平
0174 翫明月と云ふ事を詠める 【○二度本0182。】
何處にも 今宵月を 見る人の 心や同じ 空に澄むらむ
民部卿 藤原忠教
0175 後冷泉院御時皇后宮歌合に、駒迎を詠める 【○二度本0183。】
引駒の 數より外に 見えつるは 關清水の 影にぞ有ける
藤原隆經朝臣
0176 屏風繪に、逢坂關描ける所を詠める
人も越え 駒も止まらぬ 逢坂の 關は清水の 漏る名也けり
小式部內侍
0177 駒迎之心を詠める 【○二度本0184。】
東路を 遙かに出る 望月の 駒に今宵や 逢坂關
源仲正
0178 八月十五夜之心を詠める 【○二度本0185。】
清けさは 思做しかと 月影を 今宵と知らぬ 人に問はばや
源親房
0179 百首歌中に月を詠める 【○千載集0276。】
木枯の 雲吹拂ふ 高嶺より 冴えても月の 澄昇る哉
源俊賴朝臣
0180 閏九月有る年の八月十五夜に、俊賴朝臣許に遣はしける 【○二度本0186。】
秋は猶 殘多かる 年為れど 今宵月の 名こそ惜けれ
春宮大夫 藤原公實
0181 禁中月を見て詠める
九重の 內さへ照す 月影に 荒れたる宿を 思ひこそ遣れ
大江為政
0182 清涼殿にて月を御覧じて詠ませ賜へる 【○詞花集0300。】
試みに 他月をも 見てしがな 我宿からの 哀為るかと
花山院御製
0183 水上月を詠める 【○二度本0187。】
雲浪 掛からぬ小夜の 月影を 清瀧川に 映してぞ見る
前齋院六條 待賢門院堀河
0184 月を詠める 【○二度本0189。】
月を見て 思心の 儘為らば 行方も知らず 在所離れなまし
皇后宮肥後
0185 人許に罷りて物語しける程に、月入るを見て詠める 【○二度本0190。】
如何にして 柵懸けむ 天川 流るる月や 暫淀むと
源師俊朝臣
0186 大納言經長卿の桂山里にて、人人月を詠みけるに詠める 【○二度本0191。】
今宵我が 桂里の 月を見て 思殘せる 事無哉
大納言 源經信
0187 承曆二年內裏歌合に詠める 【○二度本0192。】
曇無き 影を留めば 山川に 入るとも月を 惜まざらまし
春宮大夫 藤原公實
0188 宇治前太政大臣家歌合に、月を詠める 【○二度本0193。】
照月の 光冴行く 宿為れば 秋水にも 冰柱居にけり
皇后宮攝津
0189 【○承前。於宇治前太政大臣家歌合,詠月。○二度本0194。】
山端に 雲衣を 脫捨て 一人も月の 立昇る哉
源俊賴朝臣
0190 水上月を詠める 【○二度本0195。】
蘆根延ひ 勝見も茂き 沼水に 理無く宿る 夜半月哉
攝政左大臣 藤原忠通
0191 宇治前太政大臣家歌合に詠める 【○二度本0196。】
鏡山 峯より出る 月為れば 曇る夜も無き 影をこそ見れ
一宮紀伊 祐子內親王家紀伊
0192 秋、難波方へ罷りて詠める 【○二度本0197。】
古の 難波事を 思出て 高津宮に 月澄むらむ
參議 源師賴
0193 題不知 【○二度本0199。】
餘波無く 夜半嵐に 雲晴れて 心儘に 澄める月哉
源行宗朝臣
0194 八月十五夜に、人人歌詠みけるに詠める 【○二度本0200。】
三笠山 光を射して 出しより 曇らで明けぬ 秋夜月
平師季
0195 宇治入道前太政大臣三十講次に、歌合侍けるに詠める 【○二度本0201。】
宿からぞ 月光も 增さりける 夜曇無く 澄めば也けり
赤染
0196 太皇太后宮の扇合に詠める 【○二度本0204。】
三笠山 峯より出る 月影は 佐保川瀨の 冰也けり
大納言 源經信
0197 山月を詠める 【○詞花集0287。】
思出も 無くてや我身 闇憖 姥捨山の 月見ざりせば
律師濟慶
0198 顯季卿家にて九月十三夜之心を詠みけるに 【○二度本0205。】
暈も無き 鏡と見ゆる 月影に 心移らぬ 人は有らじな
大宰大貳 藤原長實
0199 【○承前。於顯季卿家詠九月十三夜之趣。○二度本0206。】
叢雲や 月暈をば 拭ふらむ 晴行く度に 照增る哉
源俊賴朝臣
0200 月照古橋と言へる事を詠ませ給へる 【○二度本0207。】
途絕えして 人も通はぬ 棚橋に 月許こそ 澄渡りけれ
三宮 輔仁親王
0201 水上月を詠める 【○二度本0208。】
月影の 射すに任せて 行舟は 明石浦や 泊為るらむ
藤原實光朝臣
0202 一條院隱れさせ賜ひける年秋、月を見て詠侍ける 【○千載集0560。】
大方に 清けからぬか 月影は 淚曇らぬ 人に見せばや
承香殿女御
0203 大炊院に御坐しましける頃、殿上人御前にて歌仕奉けるに
然らぬだに 玉に紛ひて 置露を 甚磨ける 秋夜月
大宰大貳 藤原長實
0204 九月十三夜、閑見月と言へる事を詠める 【○二度本0188。】
澄登る 心や空を 拂ふらむ 雲塵居ぬ 秋夜月
源俊賴朝臣
0205 永承四年殿上歌合に詠める 【○二度本0210。】
夜と共に 曇らぬ雲の 上為れば 思事無く 月を見る哉
藤原家經朝臣
0206 月夜に罷りたりける人人の遲出來ければ、歸りける務めて遣はしける 【○詞花集0301。】
恨めしく 歸りける哉 月夜には 來ぬ人をだに 待つとこそ聞け
中務卿具平親王
0207 行路曉月と言へる事を詠める 【○二度本0213。】
諸共に 出とは無しに 有明の 月見送る 山路をぞ行く
權僧正永緣
0208 對山待月と言へる事を詠める 【○二度本0214。】
有明の 月待つ程の 轉寢は 山端のみぞ 夢に見えける
土御門右大臣 源師房
0209 有明月を見て詠める
有明の 月見遊びに 置きて行く 人之名殘を 眺めし物を
和泉式部
0210 山家曉月と言へる事を詠める 【○二度本0215。】
山里の 門田稻の 仄仄と 明くるも知らず 月を見る哉
權中納言 藤原顯隆
0211 宇治前太政大臣白河家にて、關路曉月と言へる事を詠める 【○千載集0498。】
有明の 月も清水に 宿けり 今宵は越えじ 逢坂關
藤原範永朝臣
0212 月明かりける夜、明石に罷りて月を見て登るに、都人人、「月は如何?」等尋ねければ詠める 【○二度本0216。】
有明の 月も明石の 浦風に 波許こそ 寄ると見えしか
平忠盛朝臣
0213 八月廿日頃に蟲聲を聞きて
有明の 月は袂に 無かれつつ 悲しき頃の 蟲聲哉
赤染衛門
0214 蟋蟀を詠める 【○二度本0218。】
露繁き 野邊に傚ひて 蟋蟀 我が手枕の 下に鳴く也
前齋院六條
0215 機織を詠める 【○二度本0219。】
小蟹の 絲引掛くる 草叢に 機織蟲の 聲ぞ聞ゆる
源顯仲卿母
0216 蟲を詠める
覺束無 何處鳴るらむ 蟲音を 尋ねば花の 露や零れむ
藤原長能
0217 題不知
玉章は 掛けて來つれど 雁音の 上空にも 見渡る哉
佚名
0218 歌合に雁を 【○二度本0221。】
妹背山 峯嵐や 寒からむ 衣雁音 空に鳴く也
春宮大夫 藤原公實
0219 鹿を詠める 【○二度本0222。】
妻戀ふる 鹿ぞ鳴くなる 獨寢の 鳥籠山風 身にや沁むらむ
三宮大進
0220 【○承前。詠鹿。○新古今0441。】
高砂の 尾上に立てる 鹿音に 殊外にも 濡るる袖哉
惠慶法師
0221 曉聞鹿と言へる事を詠める 【○二度本0223。】
思事 有明方の 月影に 哀を添ふる 小壯鹿聲
皇后宮右衛門佐
0222 夜聞鹿聲と云へる事を詠める 【○二度本0224。】
夜半に鳴く 聲に心ぞ 在所離るる 我が身は鹿の 妻と為らねど
內大臣家越後
0223 攝政左大臣家にて、旅宿鹿と言へる事を詠める 【○二度本0225。】
然もこそは 都戀しき 旅為らめ 鹿音にさへ 濡るる袖哉
源雅光
0224 旅宿鹿と言へる事を詠める 【○詞花集0125。】
秋萩を 草枕に 結夜は 近くも鹿の 聲を聞哉
藤原伊家
0225 野亭聞鹿と言へる事を詠める
小壯鹿の 鳴音は野邊に 聞ゆれど 淚は床の 物にざりける
源俊賴朝臣
0226 鹿歌とて詠める 【○二度本0226。】
世中を 秋果ぬとや 小壯鹿の 今は嵐の 山に鳴くらむ
藤原顯仲朝臣
0227 萩を詠める 【○二度本0229。】
白菅の 真野萩原 露ながら 折つる袖ぞ 人莫咎めそ
大宰大貳 藤原長實
0228 顯隆卿家歌合に詠める 【○二度本0231。】
白露の 手枕にして 女郎花 野原風に 折れやしぬらむ
權中納言 藤原俊忠
0229 女郎花を詠める 【○二度本0232。】
心故 心置くらむ 女郎花 色めく野邊に 人通ふとて
藤原顯輔朝臣
0230 攝政左大臣家にて、蘭を詠める 【○二度本0234。】
佐保川の 汀に咲ける 藤袴 浪折りてや 掛けむとすらむ
源忠季
0231 蘭を詠める 【○二度本0235。】
狩に來る 人も著よとや 藤袴 秋野每に 鹿立らむ
右兵衞督 藤原伊通
0232 【○承前。詠蘭。○二度本0236。。】
細蟹の 絲縫目や 徒ならむ 綻渡る 藤袴哉
神祇伯 源顯仲
0233 堀河院御時、御前にて花草を探て人人歌仕奉けるに、薄を取りて仕奉れる 【○二度本0239。】
鶉鳴く 真野入江の 濱風に 尾花浪皈る 秋夕暮
源俊賴朝臣
0234 鳥羽殿前栽合に、女郎花之心を詠める 【○二度本0237。】
化野の 露吹亂る 秋風に 靡きも堪へぬ 女郎花哉
春宮大夫 藤原公實
0235 房前に女郎花を植ゑたりけるを見て、院源座主、聖房前に女郎花を植ゑたりけるぞと戲ければ詠める
何為らむと 思ふ思ふぞ 掘植ゑし 女郎花とは 今日ぞ知りぬる
明圓聖人
0236 雨中思花と言へる事を詠める
濡濡も 明けば待つみむ 宮城野の 本荒小萩 萎死ぬらむ
藤原長能
0237 萩を詠める 【○拾遺集0840。】
移ふは 下葉許と 見し程に 軈ても秋に 成りにける哉
馬內侍
0238 屏風繪に、霧立渡る所に馬離れたる形描ける所を
取繫げ 美豆野原の 離れ駒 淀川霧 秋は晴せじ
藤原長能
0239 河霧を詠める 【○二度本0240。】
宇治川の 河瀨も見えぬ 夕霧に 槙島人 舟喚ばふ也
藤原基光
0240 【○承前,詠河霧。】
河霧の 立籠めつれば 高瀨舟 別行く棹の 音のみぞする
藤原行家朝臣
0241 郁芳門院根合に、菊を詠める 【○二度本0241。】
盛為る 籬菊を 今朝見れば 未空冴えぬ 雪ぞ積れる
中納言 藤原通俊
0242 鳥羽殿前栽合に詠める 【○二度本0242。】
千歲迄 君が積むべき 菊為れば 露も仇には 置かじとぞ思ふ
修理大夫 藤原顯季
0243 攝政左大臣家にて、紅葉隔牆と言へる心を詠める 【○二度本0243。】
百舌鳥居る 櫨立枝の 薄紅葉 誰我宿の 物と見るらむ
藤原仲實朝臣
0244 宇治前太政大臣、白河にて、見行客と云へる事を詠める 【○詞花集0130。】
關越ゆる 人に尋はばや 陸奥の 安達檀 紅葉しにきや
堀河右大臣 藤原賴宗
0245 甲斐國に罷ける道に、二村山紅葉を見て詠める 【○詞花集0131。】
幾らとも 見えぬ紅葉の 錦哉 誰兩村の 山と云ひけむ
橘能元
0246 深山紅葉と言へる事を詠める 【○二度本0249。】
山守よ 斧音高く 響く也 峯紅葉は 避きて切らせよ
大納言 源經信
0247 題不知 【○拾遺集0203。】
水海に 秋山邊を 映しては 端張廣き 錦とぞ見る
權大僧都法橋觀教
0248 物へ罷ける道に紅葉散掛りければ詠める
紅葉を 尋ぬる旅に 非ねども 錦をのみも 滿來る哉
江侍從
0249 深山落葉と言へる事を詠める 【○二度本0247。】
谷川に 柵懸けよ 龍田姫 峯紅葉に 嵐吹く也
藤原伊家
0250 院御時、大堰川逍遙に水上落葉と言へる事を詠める 【○二度本0251。】
柞散る 岩間を潛く 鴨鳥は 己が青羽も 紅葉しにけり
藤原伊家
0251 公實卿、中將にて侍ける時、人人具して北野渡に紅葉見有りきけるに、折りて侍ける
山里の 秋景色も 見ぬ人に 來てだに語れ 露も落さず
前皇后宮美作
0252 物へ罷ける道に紅葉を見て詠める
何處にか 駒を留めむ 紅葉の 色為る物は 心也けり
藤原長能
0253 宇治前太政太臣、大堰に罷れりける共に、罷りて詠める 【○二度本0245。】
大堰川 岩浪高し 筏士よ 岸紅葉に 傍目莫為そ
大納言 源經信
0254 落葉埋橋と言へる事を詠める 【○二度本0252。】
小倉山 峯嵐の 吹くからに 谷掛橋 紅葉しにけり
修理大夫 藤原顯季
0255 太皇太后宮扇合に紅葉を詠める 【○二度本0246。】
音羽山 紅葉散るらし 逢坂の 關小川に 錦織掛く
源俊賴朝臣
0256 九月盡之心を詠める 【○二度本0254。】
明日よりは 四方山邊の 秋霧の 面影にのみ 立たむとすらむ
中原經則
0257 【○承前。詠九月晦之情。○二度本0255。】
草葉に 儚消ゆる 露霜を 形見に置きて 秋行くらむ
源俊賴朝臣
0258 雨中秋盡と言へる事を詠める
何方に 秋行くらむ 我宿に 今宵許の 雨宿為よ
藤原公任