記紀朗詠 日本書紀
卷十五
【清寧/顯宗/仁賢紀】
s0083
弘計王顯宗歌
稻蓆
(
いなむしろ
)
川副楊
(
かはそひやなぎ
)
水行
(
みづゆ
)
けば
靡起立
(
なびきおきた
)
ち
其根
(
そのね
)
は
失
(
う
)
せず
稻蓆寢筵兮 川邊沿岸楊柳生 彼楊雖順水 靡薄起揚蕩飄泊 然其根兮未嘗失
伊儺武斯廬 哿簸泝比野儺擬 寐逗愈凱麼 儺弭企於己陀智 曾能泥播宇世儒
顯宗帝
s0084
詞人稱飯豐青尊歌
倭邊
(
やまとへ
)
に
見
(
み
)
が
欲物
(
ほしもの
)
は
忍海
(
おしぬみ
)
の
此高城
(
このたかき
)
なる
角刺宮
(
つのさしのみや
)
繼峰經倭邊 蒼生所欲見之物 葛城忍海處 巍峨聳立此高城 飯豐忍海角刺宮
野麻登陛儞 瀰我保指母能婆 於尸農瀰能 莒能拖哿紀儺屢 都奴娑之能瀰野
詞人
s0085
顯宗帝遙聞鐸聲歌
淺茅原
(
あさぢはら
)
小确
(
をそね
)
を
過
(
す
)
ぎ
百傳
(
ももづた
)
ふ
鐸鏗鏘
(
ぬてゆら
)
くもよ
置目來
(
おきめく
)
らしも
荒蔓淺茅原 小确瘠地亦過兮 百傳驛鈴遠 鐸聲鏗鏘遙可聞 置目來歟吾心欣
阿佐膩簸囉 嗚贈禰嗚須擬 謨謀逗拖甫 奴底喩羅俱慕與 於岐每俱羅之慕
顯宗帝
s0086
顯宗帝悲置目還歌
置目
(
おきめ
)
もよ
近江置目
(
あふみのおきめ
)
明日
(
あす
)
よりは
御山隱
(
みやまがく
)
りて
見
(
み
)
えずかもあらむ
倭帒置目兮 近江置目老嫗婦 明日過之後 致仕歸隱還深山 不得復見吾心悲
於岐每慕與 阿甫彌能於岐每 阿須用利簸 彌野磨我俱利底 彌曳孺哿謨阿羅牟
顯宗帝
卷十六
【武烈紀】
s0087
武烈帝質鮪歌
其一 【
古事記。
】
潮瀨
(
しほせ
)
の
波折
(
なをり
)
を
見
(
み
)
れば
泳來
(
あそびく
)
る
鮪
(
しび
)
が
鰭手
(
はたで
)
に
妻立
(
つまた
)
てり
見
(
み
)
ゆ
【一本,以「
潮瀨
(
しほせ
)
」易「
水門
(
みなと
)
」。】
潮瀨流且速 今見波折重幾重 游遊潮瀨間 鮪之鰭手鰭傍處 竟見吾契妻立兮
【一本,以潮瀨易水門。】
之裒世能 儺鳴理鳴彌黎麼 阿蘇寐俱屢 思寐我簸多泥儞 都摩陀氐理彌喻【一本,以之裒世,易彌儺斗。】
武烈帝
s0088
鮪臣答歌
其一 【
古事記。
】
臣子
(
おみのこ
)
の
八重
(
やへ
)
や
韓垣
(
からかき
)
緩
(
ゆる
)
せとや
御子
(
みこ
)
人臣子弟宅 八重韓垣層層圍 何以緩之出影媛 吾君御子矣
飫瀰能古能 耶陛耶哿羅哿枳 瑜屢世登耶瀰古
平群鮪
s0089
武烈帝質鮪歌
其二
大太刀
(
おほたち
)
を
垂佩立
(
たれはきた
)
ちて
拔
(
ぬ
)
かずとも
末果
(
すゑはた
)
しても
會
(
あ
)
はむとぞ
思
(
おも
)
ふ
銳意大太刀 其刃立垂配腰間 今雖未出鋒 末果必當拔其刃 排除萬難會影媛
飫裒陀㨖鳴 多黎播枳多㨖氐 農哿儒登慕 須衞婆陀志氐謀 阿波夢登茹於謀賦
武烈帝
s0090
鮪臣答歌
其二
大君
(
おほきみ
)
の
八重組垣
(
やへのくみかき
)
懸
(
か
)
かめども
汝
(
な
)
を
編
(
あ
)
ましじみ
懸
(
か
)
かぬ
組垣
(
くみかき
)
雖冀為大君 營宅懸組垣八重 以籠女仕之 然汝必不欲他媛 故不得為懸組垣
飫裒枳瀰能 耶陛能矩瀰哿枳 哿哿梅騰謀 儺嗚阿摩之耳彌 哿哿農倶彌柯枳
平群鮪
s0091
武烈帝質鮪歌
其三 【
古事記。
】
臣子
(
おみのこ
)
の
八節柴垣
(
やふのしばかき
)
下動
(
したとよ
)
み
地震
(
なゐ
)
が
搖來
(
よりこ
)
ば
破
(
や
)
れむ
柴垣
(
しばかき
)
【一本,以「
八節柴垣
(
やふのしばかき
)
」易「
八重韓垣
(
やへからかき
)
」。】
人臣子之宅 雖以八節柴垣編 一旦土下動 地震襲兮搖來者 八節柴垣將盡破
【一本以八節柴垣易八重韓垣。】
於彌能姑能 耶賦能之魔柯枳 始陀騰余瀰 那為我與釐據魔 耶黎夢之魔柯枳【一本,以耶賦能之魔柯枳,易耶陛哿羅哿枳。】
武烈帝
s0092
武烈帝贈影媛歌
琴頭
(
ことがみ
)
に
來居影媛
(
きゐるかげひめ
)
玉是
(
たまな
)
らば
我
(
あ
)
が
欲
(
ほ
)
る
玉
(
たま
)
の
鰒白玉
(
あはびしらたま
)
琴頭奏神懸 憑談來居影媛矣 汝若為玉者 洽為我所欲美玉 華貴珍珠鰒白玉
舉騰我瀰儞 枳謂屢箇皚比謎 拖摩儺羅磨 婀我裒屢柂摩能 婀波寐之羅陀魔
武烈帝
s0093
鮪臣為影媛答歌
大君
(
おほきみ
)
の
御帶
(
みおび
)
の
倭文織
(
しつはた
)
結垂
(
むすびた
)
れ
誰
(
たれ
)
やし
人
(
ひと
)
も
相思
(
あひおも
)
は
無
(
な
)
くに
八隅治天下 大君御帶倭文織 其雖結垂者 誰人僉不為吾念 所相思者唯鮪臣
於裒枳瀰能 瀰於寐能之都波柂 夢須寐陀黎 陀黎耶始比登謀 阿避於謀婆儺俱儞
平群鮪
s0094
影媛悲鯁歌
其一
石上
(
いすのかみ
)
布瑠
(
ふる
)
を
過
(
す
)
ぎて
薦枕
(
こもまくら
)
高橋過
(
たかはしす
)
ぎ
物多
(
ものさは
)
に
大宅過
(
おほやけす
)
ぎ
春日
(
はるひ
)
の
春日
(
かすが
)
を
過
(
す
)
ぎ
妻隱
(
つまごも
)
る
小佐保
(
をさほ
)
を
過
(
す
)
ぎ
玉笥
(
たまけ
)
には
飯
(
いひ
)
さへ
盛
(
も
)
り
玉盌
(
たまもひ
)
に
水
(
みづ
)
さへ
盛
(
も
)
り
泣沾
(
なきそほ
)
ち
行
(
ゆ
)
くも
影媛哀
(
かげひめあは
)
れ
韴靈石上兮 布瑠靈地已過之 菰枕薦枕兮 高橋之鄉亦過之 數眾物多兮 大宅之所且過之 春和晴日兮 春日之域今過之 籠妻妻隱兮 小佐保者亦過矣 手持玉笥器 盛飯華皿在其間 捧執玉盌椀 汲汲盛水彼器中 啼泣盈淚沾襟行 物部影媛甚哀憐
伊須能箇瀰 賦屢嗚須擬底 舉慕摩矩羅 拖箇播志須擬 慕能娑幡儞 於裒野該須擬 播屢比能 箇須我嗚須擬 逗摩御暮屢 嗚佐裒嗚須擬 拖摩該儞播 伊比佐倍母理 柂摩慕比儞 瀰逗佐倍母理 儺岐曾裒遲喻俱謀 柯㝵比謎阿婆例
影媛
s0095
影媛悲鯁歌
其二
青丹良
(
あをによ
)
し
乃樂谷
(
ならのはさま
)
に
豬鹿
(
しし
)
じ
物
(
もの
)
水漬
(
みづ
)
く
邊隱
(
へごも
)
り
水灌
(
みなそそ
)
く
鮪若子
(
しびのわくご
)
を
漁出勿豬子
(
あさりづなゐのこ
)
青丹良且秀 奈良乃樂山谷間 非豬亦非鹿 埋隱水漬邊隅矣 水灌激飛散 鮪之若子藏於此 願豬莫漁出鮪子
婀嗚儞與志 乃樂能婆娑摩儞 斯斯貳暮能 瀰逗矩陛御暮梨 瀰儺曾曾矩 思寐能和俱吾嗚 阿娑理逗那偉能古
影媛
卷十七
【繼體紀】
s0096
勾大兄聘春日皇女歌
八洲國
(
やしまくに
)
妻枕兼
(
つままきか
)
ねて
春日
(
はるひ
)
の
春日國
(
かすがのくに
)
に
麗女
(
くはしめ
)
を
有
(
あり
)
と
聞
(
き
)
きて
宜女
(
よろしめ
)
を
有
(
あり
)
と
聞
(
き
)
きて
真木割
(
まきさ
)
く
檜板戶
(
ひのいたと
)
を
押開
(
おしひら
)
き
我入坐
(
われいりま
)
し
腳取
(
あとと
)
り
端取
(
つまと
)
りして
枕取
(
まくらと
)
り
端取
(
つまと
)
りして
妹
(
いも
)
が
手
(
て
)
を
我
(
われ
)
に
纏
(
ま
)
かしめ
我
(
わ
)
が
手
(
て
)
をば
妹
(
いも
)
に
纏
(
ま
)
かしめ
真柝葛
(
まさきづら
)
抱交
(
たたきあざ
)
はり
宍串
(
ししくし
)
ろ
味寢寢
(
うまいね
)
し
間
(
と
)
に
庭鳥
(
にはつとり
)
雞
(
かけ
)
は
鳴
(
な
)
くなり
野鳥
(
のつとり
)
鴙
(
きぎし
)
は
響
(
とよ
)
む
愛
(
は
)
しけむく
未
(
いま
)
だ
言
(
い
)
はずて
明
(
あ
)
けにけり
我妹
(
わぎも
)
大和八洲國 國中難娶妻枕兮 何以如此者 春和晴日春日國 吾聞其國間 有麗女兮是天香 吾聞其國間 有宜女兮甚賢淑 真木割裂目 檜板戶兮今押開 推開其戶者 我今入戶坐室中 取腳足之方 端取夜器執寢具 取寢枕之方 端取夜器執寢具 親親吾妹手 執子之手纏我身 再舉吾之手 懇情懷抱纏妹身 纏繞真柝葛 懷抱相交轉纏綿 獸宍串味美 味寢雲雨共寢間 庭間之鳥兮 雄雞高鳴告夜終 野間之鳥兮 鴙鳥騷響訴曉來 愛矣戀慕矣 尚未及言夜已盡 春宵既明吾妹矣
野絁磨俱儞 都磨磨祁哿泥底 播屢比能 哿須我能俱儞儞 俱婆絁謎嗚 阿唎等枳枳底 與慮志謎嗚 阿唎等枳枳底 莽紀佐俱 避能伊陀圖嗚 飫斯毘羅枳 倭例以梨魔志 阿都圖唎 都磨怒唎底 魔俱囉圖唎 都磨怒唎絁底 伊慕我堤嗚 倭例儞魔柯斯每 倭我堤嗚麼 伊慕儞魔柯絁美每 磨左棄逗囉 多多企阿藏播梨 矢洎矩矢慮 于魔伊禰矢度儞 儞播都等唎 柯稽播儺俱儺梨 奴都等唎 枳蟻矢播等余武 婆絁稽矩謨 伊麻娜以幡孺底 阿開儞啓梨倭蟻慕
安閑帝
s0097
春日皇女和唱
隱國
(
こもりく
)
の
泊瀨川
(
はつせのかは
)
ゆ
流來
(
ながれく
)
る
竹
(
たけ
)
の
茂竹吉竹
(
いくみだけよだけ
)
本邊
(
もとへ
)
をば
琴
(
こと
)
に
作
(
つく
)
り
末邊
(
すゑへ
)
をば
笛
(
ふえ
)
に
作
(
つく
)
り
吹鳴
(
ふきな
)
す
御諸
(
みもろ
)
が
上
(
うへ
)
に
登立
(
のぼりた
)
ち
我
(
わ
)
が
見
(
み
)
せば
蔓多
(
つのさは
)
ふ
磐余池
(
いはれのいけ
)
の
水下經
(
みなしたふ
)
魚
(
うを
)
を
上
(
うへ
)
に
出歎
(
でてなげ
)
く
八隅治
(
やすみし
)
し
我
(
わ
)
が
大君
(
おほきみ
)
の
帶
(
お
)
ばせる
細
(
ささら
)
の
御帶
(
みおび
)
の
結垂
(
むすびた
)
れ
誰
(
たれ
)
やし
人
(
ひと
)
も
上
(
うへ
)
に
出歎
(
でてなげ
)
く
隱所隱國兮 磐余初瀨泊瀨川 沿川流來者 美竹矣 茂竹繁竹吉竹矣 取竹根本處 造作美琴音鏗鏘 以竹末梢處 造作秀笛聲玲瓏 吹鳴琴與笛 登立三輪御諸山 登山望顧靦 映入眼簾我所見 蔓多生盎然 浦安百傳磐余池 池水下經兮 游魚者 浮上出水讚歎矣 八隅治天下 經綸恢弘我大君 汝所佩帶之 玲瓏細紋御帶者 結垂御身上 無論孰人見 安得噤聲不贊歎
莒母唎矩能 簸都細能哿婆庾 那峨例俱屢 駄開能 以矩美娜開余嚢開 謨等陛嗚麼 莒等儞都俱唎 須衞陛嗚麼 府曳儞都俱唎 府企儺須 美母盧我紆陪儞 能朋梨陀致 倭我彌細麼 都奴娑播符 以簸例能伊開能 美儺矢駄府 紆嗚謨 紆陪儞堤堤那皚矩 野須美矢矢 倭我於朋枳美能 於魔細屢 娑佐羅能美於寐能 武須彌陀例 駄例夜矢比等母 紆陪儞泥堤那皚矩
春日皇女
s0098
毛野臣妻偲夫歌
枚方
(
ひらかた
)
ゆ
笛吹上
(
ふえふきのぼ
)
る
近江
(
あふみ
)
のや
毛野若子
(
けなのわくご
)
い
笛吹上
(
ふえふきのぼ
)
る
發自枚方行 吹笛朔之沿川上 近江本貫處 毛野之臣若君矣 吹笛朔行沿川上
比攞哿駄喻 輔曳輔枳能朋樓 阿苻美能野 愷那能倭俱吾伊 輔曳府枳能朋樓
毛野臣妻
s0099
目頰子赴任那歌
韓國
(
からくに
)
を
如何
(
いか
)
に
言事
(
ふこと
)
そ
目頰子來
(
めづらこきた
)
る
向離來
(
むかさく
)
る
壹岐濟
(
いきのわたり
)
を
目頰子來
(
めづらこきた
)
る
海表蕃韓國 彼國如何以言事 目頰子矣今來之 向離海路遠 目頰子渡壹岐濟 彼目頰子今來之
柯羅屨儞嗚 以柯儞輔居等所 梅豆羅古枳駄樓 武哿左屨樓 以祇能和駄唎嗚 梅豆羅古枳駄樓
目頰子鄉人
卷十九
【欽明紀】
s0100
大葉子愴然悲歌
韓國
(
からくに
)
の
城上
(
きのへ
)
に
立
(
たち
)
て
大葉子
(
おほばこ
)
は
領巾振
(
ひれふ
)
らすも
日本
(
やまと
)
へ
向
(
む
)
きて
海西蕃韓國 佇立韓城居其上 調妻大葉子 揮振領巾思故土 面向日本馳思慕
柯羅俱爾能 基能陪儞陀致底 於譜磨故幡 比例甫囉須母 耶魔等陛武岐底
大葉子
s0101
或人和大葉子歌
韓國
(
からくに
)
の
城上
(
きのへ
)
に
立
(
たた
)
し
大葉子
(
おほばこ
)
は
領巾振
(
ひれふ
)
らす
見
(
み
)
ゆ
難波
(
なには
)
へ
向
(
む
)
きて
海西蕃韓國 佇立韓城居其上 吾見大葉子 揮振領巾思故土 面向難波馳思慕
柯羅俱爾能 基能陪儞陀陀志 於譜磨故幡 比禮甫羅須彌喻 那儞婆陛武岐底
或人
卷廿二
【推古紀】
s0102
蘇我馬子大臣上壽天皇歌
我
(
わ
)
が
大君
(
おほきみ
)
の
隱坐
(
かくりま
)
す
天八十蔭
(
あまのやそかげ
)
出立
(
いでたた
)
す
御空
(
みそら
)
を
見
(
み
)
れば
萬代
(
よろづよ
)
に
斯
(
か
)
くしもがも
千代
(
ちよ
)
にも
斯
(
か
)
くしもがも
畏
(
かしこ
)
みて
仕奉
(
つかへまつ
)
らむ
拜
(
をろが
)
みて
仕奉
(
つかへまつ
)
らむ
歌付奉
(
うたづきまつ
)
る
八隅治天下 吾之大君炊屋姬 聖君所隱坐 天八十蔭崴峨宮 今自殿出幸 翹首仰望虛空者 縱過萬代矣 壯麗如斯恒永久 縱過千代矣 壯麗如斯恒永久 誠惶且誠恐 奉仕吾皇獻赤誠 頓首復再拜 奉仕吾皇獻赤誠 今獻上壽歌奉之
夜須瀰志斯 和餓於朋耆彌能 訶句理摩須 阿摩能椰蘇訶礙 異泥多多須 彌蘇羅烏彌禮麼 豫呂豆余珥 訶勾志茂餓茂 知余珥茂 訶句志茂餓茂 訶之胡彌弖 菟伽陪摩都羅武 烏呂餓彌弖 菟伽陪摩都羅武 宇多豆紀摩都流
蘇我馬子
s0103
天皇和蘇我馬子上壽歌
真蘇我
(
まそが
)
よ
蘇我
(
そが
)
の
子等
(
こら
)
は
馬是
(
うまな
)
らば
日向駒
(
ひむかのこま
)
太刀是
(
たちな
)
らば
吳真刀
(
くれのまさひ
)
諾
(
うべ
)
しかも
蘇我
(
そが
)
の
子等
(
こら
)
を
大君
(
おほきみ
)
の
使
(
つか
)
はすらしき
賢也真蘇我 蘇我子等族裔矣 汝若為馬者 必為日向駿馬歟 汝若為太刀 必為吳國真刀乎 諾也誠如此 蘇我子等族裔者 代代為所用 綿延大君天皇使
摩蘇餓豫 蘇餓能古羅破 宇摩奈羅麼 譬武伽能古摩 多智奈羅麼 句禮能摩差比 宇倍之訶茂 蘇餓能古羅烏 於朋枳彌能 菟伽破須羅志枳
推古帝
s0104
聖德太子嘆飢者歌
級照
(
しなて
)
る
片岡山
(
かたをかやま
)
に
飯
(
いひ
)
に
飢
(
ゑ
)
て
臥
(
こや
)
せる
其田人憐
(
そのたひとあは
)
れ
親無
(
おやな
)
しに
汝生
(
なれな
)
りけめや
刺竹
(
さすたけ
)
の
君
(
きみ
)
はや
無
(
な
)
き
飯
(
いひ
)
に
飢
(
ゑ
)
て
臥
(
こや
)
せる
其田人憐
(
そのたひとあは
)
れ
級照坂暉矣 肩岡傍岡片岡山 田夫飢於飯 伏臥彼山間 其田夫者可憐矣 誰無父母乎 汝生於世當有親 刺竹枝繁茂 明君何處在以不 田夫飢於飯 伏臥彼山間 其田夫者可憐矣
斯那提流 箇多烏箇夜摩爾 伊比爾惠弖 許夜勢屢 諸能多比等阿波禮 於夜那斯爾 那禮奈理雞迷夜 佐須陀氣能 枳彌波夜那祗 伊比爾惠弖 許夜勢留 諸能多比等阿波禮
聖德太子
卷廿三
【舒明紀】
s0105
時人嘆毛津死歌
畝傍山
(
うねびやま
)
木立薄
(
こたちうす
)
けど
賴
(
たの
)
みかも
毛津若子
(
けつのわくご
)
の
籠
(
こも
)
らせりけむ
奈良畝傍山 山上斑駁木疏稀 疏木豈可侍 毛津若子賴彼處 籠於其間無所入
于泥備椰摩 虛多智于須家苔 多能彌介茂 氣菟能和區吳能 虛茂邏勢利祁牟
時人
卷廿四
【皇極紀】
s0106
蘇我蝦夷於葛城高宮為八佾儛歌
大和
(
やまと
)
の
忍廣瀨
(
おしのひろせ
)
を
渡
(
わた
)
らむと
足結手作
(
あよひたづく
)
り
腰作
(
こしづく
)
らふも
磯輪大和國 忍海葛城川廣瀨 今欲渡彼處 手作腳帶調足結 整裝腰帶繫佩刀
野麻騰能 飫斯能毘稜栖鳴 倭拖羅務騰 阿庸比拖豆矩梨 舉始豆矩羅符母
蘇我蝦夷
s0107
蘇我入鹿謀廢上宮王時童謠
岩上
(
いはのへ
)
に
小猿米燒
(
こさるこめや
)
く
米
(
こめ
)
だにも
食
(
た
)
げて
通
(
とほ
)
らせ
山羊小父
(
かまししのをぢ
)
上宮岩之上 林臣小猿炊米燒 山羊小父矣 務食其米通彼道 噫乎山羊小父矣
伊波能杯儞 古佐屢渠梅野俱 渠梅多儞母 多礙底騰裒囉栖 歌麻之之能烏膩
時人
s0108
三輪山眠猿謠歌
向峰
(
むかつを
)
に
立
(
た
)
てる
夫等
(
せら
)
が
柔手
(
にこで
)
こそ
我
(
わ
)
が
手
(
て
)
を
取
(
と
)
らめ
誰
(
た
)
が
裂手
(
さきで
)
裂手
(
さきで
)
そもや
我
(
わ
)
が
手取
(
てと
)
らすもや
)
向峰山巔上 所立貴人夫等矣 唯彼柔手者 得取我手執我臂 然誰裂手歟 竟以彼裂糙手者 欲執我手取我臂
武舸都烏爾 陀底屢制羅我 儞古泥舉曾 倭我底嗚騰羅每 拖我佐基泥 佐基泥曾母野 倭我底騰羅須謀野
三輪山猿
s0109
蘇我蝦夷渡橋時謠歌
其一
遙遙
(
はろはろ
)
に
言
(
こと
)
そ
聞
(
きこ
)
ゆる
島藪原
(
しまのやぶはら
)
遙遙渺遠處 議言之聲幽可聞 島之藪原茂林間
波魯波魯儞 渠騰曾枳舉喻屢 之麻能野父播羅
時人
s0110
蘇我蝦夷渡橋時謠歌
其二
遠方
(
をちかた
)
の
淺野雉
(
あさののきぎし
)
響
(
とよも
)
さず
我
(
われ
)
は
寢
(
ね
)
しかど
人
(
ひと
)
そ
響
(
とよも
)
す
迢迢遠方之 淺野所居雉飛鳴 吾雖不發響 寢眠不欲他人知 然他人鳴告眾悉
烏智可拕能 阿娑努能枳枳始 騰余謀作儒 倭例播禰始柯騰 比騰曾騰余謀須
時人
s0111
蘇我蝦夷渡橋時謠歌
其三
小林
(
をばやし
)
に
我
(
われ
)
を
引入
(
ひき
)
れて
姧人
(
せしひと
)
の
面
(
おもて
)
も
知
(
し
)
らず
家
(
いへ
)
も
知
(
し
)
らずも
野外小林中 誘吾引入彼林間 犯我姧人者 吾懵懵不識其面 吾惘惘不知其家
烏麼野始儞 倭例烏比岐例底 制始比騰能 於謀提母始羅孺 伊弊母始羅孺母
時人
s0112
時人褒美秦河勝歌
太秦
(
うづまさ
)
は
神
(
かみ
)
とも
神
(
かみ
)
と
聞來
(
きこえく
)
る
常世神
(
とこよのかみ
)
を
打懲
(
うちきた
)
ますも
太秦造河勝 縱聞此為神中神 偉哉河勝矣 惡民所惑於佞詐 太秦打懲常世神
禹都麻佐波 柯微騰母柯微騰 枳舉曳俱屢 騰舉預能柯微乎 宇智岐多麻須母
時人
卷廿五
【孝德紀】
s0113
野中川原史滿奉歌
其一
山川
(
やまがは
)
に
鴛鴦二
(
をしふた
)
つ
居
(
ゐ
)
て
偶良
(
たぐひよ
)
く
偶
(
たぐ
)
へる
妹
(
いも
)
を
誰
(
たれ
)
か
率
(
ゐ
)
にけむ
山川河之洲 鴛鴦二羽居相睦 雙偶成雙對 欲為佳偶吾妹妻 誰人率去不復返
耶麻鵝播爾 烏志賦拖都威底 陀虞毘預俱 陀虞陛屢伊慕乎 多例柯威爾雞武
野中川原史滿
s0114
野中川原史滿奉歌
其二
本每
(
もとごと
)
に
花
(
はな
)
は
咲
(
さ
)
けども
何
(
なに
)
とかも
愛妹
(
うつくしいも
)
が
復咲
(
またさ
)
き
出來
(
でこ
)
ぬ
參差株株每 妍花綻放處處咲 何以我心懸 可人怜愛吾妹妻 不得復咲莫再綻
模騰渠等爾 婆那播左該騰摸 那爾騰柯母 于都俱之伊母我 磨陀左枳涅渠農
野中川原史滿
s0115
孝德天皇送間人皇后歌
金木著
(
かなきつ
)
け
吾
(
あ
)
が
飼駒
(
かふこま
)
は
引出
(
ひきで
)
せず
吾
(
あ
)
が
飼駒
(
かふこま
)
を
人見
(
ひとみ
)
つらむか
鉗著堅金木 吾繫飼駒金木上 不令人引出 何以吾密飼駒者 為人所覓為人獲
舸娜紀都該 阿我柯賦古麻播 比枳涅世儒 阿我柯賦古麻乎 比騰瀰都羅武箇
孝德帝
卷廿六
【齊明紀】
s0116
齊明天皇殯建王哀歌
其一
今城
(
いまき
)
なる
小丘
(
をむれ
)
が
上
(
うへ
)
に
雲
(
くも
)
だにも
著
(
しる
)
くし
立
(
た
)
たば
何
(
なに
)
か
歎
(
なげ
)
かむ
嗚呼今城谷 今城谷兮小丘上 觀其大虛空 如雲著立得顯見 何須愴嘆至如此
伊磨紀那屢 乎武例我禹杯爾 俱謨娜尼母 旨屢俱之多多婆 那爾柯那皚柯武
齊明帝
s0117
齊明天皇殯建王哀歌
其二
射
(
い
)
ゆ
鹿豬
(
しし
)
を
認
(
つな
)
ぐ
川上
(
かはへ
)
の
若草
(
わかくさ
)
の
若
(
わか
)
く
在
(
あり
)
きと
吾
(
あ
)
が
思
(
おも
)
は
無
(
な
)
くに
射彼豬鹿獸 識認彼獸追其跡 川上稚草青 吾不思彼猶稚草 不思彼年猶弱冠
伊喻之之乎 都那遇舸播杯能 倭柯矩娑能 倭柯倶阿利岐騰 阿我謨婆儺俱爾
齊明帝
s0118
齊明天皇殯建王哀歌
其三
飛鳥川
(
あすかがは
)
漲
(
みなぎ
)
らひつつ
行水
(
ゆくみづ
)
の
間
(
あひだ
)
も
無
(
な
)
くも
思
(
おも
)
ほゆるかも
大和飛鳥川 飛鳥川急流滿溢 逝水如斯夫 不捨晝夜不曾絕 思憶慟情莫有息
阿須箇我播 瀰儺蟻羅毘都都 喻矩瀰都能 阿比娜謨儺俱母 於母保喻屢柯母
齊明帝
s0119
齊明天皇憶建王哀歌
其一
山越
(
やまこ
)
えて
海渡
(
うみわた
)
るとも
面白
(
おもしろ
)
き
今城內
(
いまきのうち
)
は
忘
(
わす
)
らゆましじ
雖越千仞山 縱渡汪洋大海原 愉悅欣樂兮 今城谷內出來事 一一銘心無以忘
耶麻古曳底 于瀰倭柁留騰母 於母之樓枳 伊麻紀能禹知播 倭須羅庾麻旨珥
齊明帝
s0120
齊明天皇憶建王哀歌
其二
水門
(
みなと
)
の
潮下
(
うしほのくだ
)
り
海下
(
うなくだ
)
り
後
(
うしろ
)
も
暗
(
くれ
)
に
置
(
お
)
きてか
行
(
ゆ
)
かむ
川口水門湊 乘潮渡兮隨潮下 渡循海路下 然念其後心沉黯 只得置之行而去
瀰儺度能 于之裒能矩娜利 于那俱娜梨 于之廬母俱例尼 飫岐底舸庾舸武
齊明帝
s0121
齊明天皇憶建王哀歌
其三
愛
(
うつく
)
しき
吾
(
あ
)
が
若子
(
わかきこ
)
を
置
(
お
)
きて
行
(
ゆ
)
かむ
親親吾所愛 我若子兮建王矣 今置汝兮行而去
于都俱之枳 阿餓倭柯枳古弘 飫岐底舸庾舸武
齊明帝
s0122
將伐新羅時童謠
まひらくつのくれつれ
(
摩比邏矩都能俱例豆例
)
をのへたをらふくのりかりが
(
於能幣陀乎邏賦倶能理歌理鵝
)
みわたとのりかみ
(
美和陀騰能理歌美
)
をのへたをらふくのりかりが
(
烏能陛陀烏邏賦倶能理歌理鵝
)
甲子
とわよとみ
(
騰和與騰美
)
をのへたをらふくのりかりが
(
烏能陛陀烏邏賦俱能理歌理鵝
)
未詳
摩比邏矩都能俱例豆例於能幣陀乎邏賦倶能理歌理鵝 美和陀騰能理歌美烏能陛陀烏邏賦倶能理歌理鵝 甲子騰和與騰美烏能陛陀烏邏賦俱能理歌理鵝
時人
s0123
中大兄皇子哀慕齊明帝獻歌
君
(
きみ
)
が
目
(
め
)
の
戀
(
こほ
)
しきからに
泊
(
は
)
てて
居
(
ゐ
)
て
斯
(
か
)
くや
戀
(
こ
)
ひむも
君
(
きみ
)
が
目
(
め
)
を
欲
(
ほ
)
り
欲會與君晤 吾戀汝目欲相見 雖泊雖共居 思慕之情仍難耐 欲會君面晤君顏
枳瀰我梅能 姑裒之枳舸羅儞 婆底底威底 舸矩野姑悲武謀 枳瀰我梅弘報梨
天智帝
卷廿七
【天智紀】
s0124
言法隆寺燒失童謠
打橋
(
うちはし
)
の
頭
(
つめ
)
の
遊
(
あそび
)
に
出
(
い
)
でませ
子
(
こ
)
玉手家
(
たまでのいへ
)
の
八重子刀自
(
やへこのとじ
)
出
(
い
)
でましたの
悔
(
くい
)
は
有
(
あ
)
らじぞ
出
(
い
)
でませ
子
(
こ
)
玉手家
(
たまでのいへ
)
の
八重子刀自
(
やへこのとじ
)
假設板打橋 橋頭袂處歌垣遊 子兮出其遊 乃樂玉手家中在 八重子之刀自矣 縱參歌垣出其遊 無有追悔莫口惜 子兮出其遊 乃樂玉手家中在 八重子之刀自矣
于知波志能 都梅能阿素弭爾 伊堤麻栖古 多麻提能伊鞞能 野鞞古能度珥 伊提麻志能 俱伊播阿羅珥茹 伊提麻西古 多麻提能鞞能 野鞞古能度珥
時人
s0125
言渡來人授爵童謠
橘
(
たちばな
)
は
己
(
おの
)
が
枝枝
(
えだえだ
)
生
(
な
)
れれども
玉
(
たま
)
に
貫
(
ぬ
)
く
時
(
とき
)
同緒
(
おやじを
)
に
貫
(
ぬ
)
く
非時香菓兮 橘結實際各枝生 橘實生兮雖異枝 然在貫玉時 殊枝相繫貫同緒
多致播那播 於能我曳多曳多 那例例騰母 陀麻爾農矩騰岐 於野兒弘爾農俱
時人
s0126
喻大海人皇子童謠
其一
御吉野
(
みえしの
)
の
吉野鮎
(
えしののあゆ
)
鮎
(
あゆ
)
こそは
島傍
(
しまへ
)
も
良
(
え
)
き え
苦
(
くる
)
しゑ
水蔥下
(
なぎのもと
)
芹下
(
せりのもと
)
吾
(
あれ
)
は
苦
(
くる
)
しゑ
偉哉御吉野 吉野川鮎得其宿 汝鮎獲所歸 立身安居川島傍 反觀吾身苦 委身水蔥下 復屈身芹下 吾身苦兮難安居
美曳之弩能 曳之弩能阿喻 阿喻舉曾播 施麻倍母曳岐 愛俱流之衛 奈疑能母縢 制利能母縢 阿例播俱流之衛
時人
s0127
喻大海人皇子童謠
其二
臣子
(
おみのこ
)
の
八重紐解
(
やへのひもと
)
く
一重
(
ひとへ
)
だに
未
(
いま
)
だ
解
(
と
)
かねば
御子
(
みこ
)
の
紐解
(
ひもと
)
く
近江庭臣子 欲解八重層層紐 一紐未能解 然見海人御子矣 鎧袖一觸迎刃解
於彌能古能 野陛能比母騰俱 比騰陛多爾 伊麻柂藤柯禰波 美古能比母騰矩
時人
s0128
喻大海人皇子童謠
其三
赤駒
(
あかごま
)
の い
行
(
ゆ
)
き
憚
(
はばか
)
る
真葛原
(
まくずはら
)
何
(
なに
)
の
傳言
(
つてこと
)
直
(
ただ
)
にし
良
(
え
)
けむ
縱赤駒良馬 憚於行兮真葛原 何以憚如是 何須憚恐借傳言 直來相會豈不善
阿箇悟馬能 以喻企波波箇屢 麻矩儒播羅 奈爾能都底舉騰 多柂尼之曳雞武
時人
【
卷首
】【
其一
】