記紀朗詠 風土記
常陸國風土記
fd0001
葦穗山俗歌
言痛
こちた
けば
小泊瀨山
をはつせやま
の
石城
いはき
にも
率籠
ゐてこ
もらなむ
勿戀
なこ
ひそ
我妹
わぎも
世間蜚語繁 不令流言傷伊人 欲率籠藏嬌 小泊瀨山石城內 故莫戀苦吾妹矣
許智多祁波 乎婆頭勢夜麻能 伊波歸爾母 為弖許母郎奈牟 奈古非敘和支母
佚名
fd0002
筑波岳歌垣之曲 其一
筑波嶺
つくはね
に
逢
あ
はむと
言
い
ひし
子
こ
は
誰
た
が
言聞
ことき
けばか
嶺逢
みねあ
はずけむ
相約筑波岳 登臨嶺上欲逢之 親愛伊人矣 汝蓋聞誰誑語哉 不與吾晤其峰上
都久波尼爾 阿波牟等 伊比志古波 多賀己等岐氣波加 彌尼阿波須氣牟
佚名
fd0003
筑波岳歌垣之曲 其二
筑波嶺
つくはね
に
廬
いほ
りて
妻無
つまな
しに
我
わ
が
寢
ね
む
夜
よ
ろは
早
はや
も
明
あ
けぬ
哉
かも
結廬筑波嶺 欲度春宵歌垣夜 然苦無人伴 孤寢難眠心寂詫 只願此夜速天明
都久波尼爾 伊保利氐 都麻奈志爾 和我尼牟欲呂波 波夜母阿氣奴賀母
佚名
fd0004
高濱詠歌 其一
高濱
たかはま
に
來寄
きよ
する
浪
なみ
の
沖浪
おきつなみ
寄
よ
すとも
寄
よ
らじ
子等
こら
にし
寄
よ
らば
其猶高濱之 頻頻來寄浪所如 沖津浪者耶 其縱緣來吾不靡 既已鐘情在汝故
多賀波麻爾 支與須留奈彌乃 意支都奈彌 與須止毛與良志 古良爾志與良波
佚名
fd0005
高濱詠歌 其二
高濱
たかはま
の
下風喧
したかぜさや
ぐ
妹
いも
を
戀
こ
ひ
妻
つま
と
言
い
はばや
醜
しこ
と
召
め
しつも
隨其高濱之 吹風喧囂盪不止 戀妻心騷甚 欲得喚汝作妻耶 冀為壯士獲青睞
多賀波麻乃 志多賀是佐夜久 伊毛乎古比 川麻止伊波波夜 志古止賣志川毛
佚名
fd0006
設祭灌酒歌
新盛
あらさか
の
神御酒
かみのみさけ
を
食
た
げ
食
た
げと
言
い
ひけば
哉
かも
よ
吾
あ
が
醉
よ
ひにけむ
新盛向榮兮 神之御酒甚甘醇 飲之飲之而 汝命勸進如此許 吾亦不覺酣為醉
安良佐賀乃 賀味能彌佐氣乎 多義多義止 伊比祁婆賀母輿 和我惠比爾祁牟
佚名
fd0007
僮子邂逅郎子歌
彌著
いやぜる
の
阿是小松
あぜのこまつ
に
木棉垂
ゆふし
でて
吾
わ
を
振見
ふりみ
ゆも
阿是小島
あぜこしま
はも
彌著益顯兮 阿是小松末梢間 木棉垂枝頭 向吾揮振今可見 阿是小島少女矣
伊夜是留乃 阿是乃古麻都爾 由布悉弖弖 和乎布利彌由母 阿是古志麻波母
僮子
fd0008
孃子報歌
潮
うしを
には
立
た
たむと
言
い
へど
奈西子
なせのこ
が
八十島隱
やそしまがく
り
吾
わ
を
見際走
みさばし
り
雖與海潮言 夜將並佇歌垣者 然奈西子羞 隱身匿於八十島 君仍察吾走而來
宇志乎爾波 多多牟止伊閇止 奈西乃古何 夜蘇志麻加久理 和乎彌佐婆志理
孃子
fd0009
白鳥堤歌
白鳥
しろとり
の
羽
は
が
堤
つつみ
を
築
つつ
むとも
洗
あら
ふま□□□ □□うき
羽越
はこ
え
嗚呼白鳥矣 以其鵠羽築斯堤 雖然造百遍 築之壞之不得成 徒然羽越白鳥堤
志漏止利乃 芳我都都彌乎 都都牟止母 安良布麻目□□ □□右疑波古叡
孃子
播磨國風土記
fd0010
詠小目野笹歌
美
うつく
しき
小目笹葉
をめのささば
に
霰降
あられふ
り
霜降
しもふ
るとも
勿枯
なか
れそね
小目笹葉
をめのささば
美也伶麗哉 小目野間笹葉矣 縱令霰零而 縱使霜降積其上 還願勿枯矣 美哉小目笹葉矣
宇都久志伎 侯米乃佐佐波爾 阿良禮布理 志毛布留等毛 奈加禮曾禰 袁米乃佐佐波
佚名
fd0011
弘計皇子顯宗歌
垂乳
たらち
し
吉備鐵
きびのまかね
の
狹鍬持
さぐはも
ち
田打如
たうつな
す
手拍子等
たうてこら
吾
あれ
は
儛為
まひせ
む
呵護垂乳兮 真金吉備精鐵製 狹鍬手持之 洽猶耕田矣 手舞足蹈而 手拍憀亮吾將儛
多良知志 吉備鐵 狹鍬持 如田打 手拍子等 吾將為儛
顯宗帝
fd0012
弘計皇子顯宗歌
淡海
あふみ
は
水渟國
みづとどむくに
大和
やまと
は
青垣青垣
あをがきあをがき
の
山投
やまと
に
坐
ま
しし
市邊之天皇
いちのべのすめらみこと
が
御足末
みあなすゑ
奴僕
やつこ
らまは
淡海近江者 汪洋水渟國是也 蜻蛉大和者 青垣層層籠國矣 坐於山跡彼國間 天萬國萬押磐尊 市邊天皇苗裔者 無非他人僕是也
淡海者 水渟國 倭者 青垣青垣 山投坐 市邊之天皇 御足末 奴僕良麻者
顯宗帝
肥前國風土記
fd0013
蛇人語弟日姬子歌
篠原
しのはら
の
弟姬子
おとひめのこ
そ
小一宵
さひとゆ
も
率寢
ゐね
てむ
時
した
や
家
いへ
に
下
くだ
さむ
松浦篠原之 佐用弟日姬子矣 至於能率寢 纏綿共度良宵時 方令汝歸返家去
志怒波羅能 意登比賣能古素 佐比登由母 為禰弖牟志太夜 伊幣爾 久太佐牟也
蛇人
逸文
fd0014
持統上皇的形浦歌
【
萬葉集
。】
丈夫
ますらを
の
得物矢手挾
さつやたばさ
み
向立
むかひた
ち
射
い
るや
的形
まとかた
濱清
はまのさや
けさ
丈夫益荒男 手挾幸矢插其指 立向蓄勢發 所射鵠的的形濱 此濱浦實清清然
麻須良遠能 佐都夜多波佐美 牟加比多知 伊流夜麻度加多 波麼乃佐夜氣佐
持統帝
fd0015
浦嶋子拭淚歌
常世邊
とこよべ
に
雲立渡
くもたちわた
る
水江
みづのえ
の
浦嶋子
うらしまのこ
が
言持渡
こともちわた
る
仙都常世邊 浮雲霏霺立渡矣 丹後水江之 筒川嶼子吾是也 願啣我言渡蓬山
等許余弊爾 久母多智和多留 美頭能睿能 宇良志麻能古賀 許等母知和多留
浦嶋子
fd0016
龜姬遙飛報歌
倭邊
やまとべ
に
風吹上
かぜふきあ
げて
雲離
くもはな
れ
退居共
そきをりとも
よ
我
わ
を
忘
わす
らす
莫
な
蜻蛉大和邊 勁風吹拂令雲離 雖然隨其雲 吾夫與共並退居 還願莫忘此妾身
夜麻等弊爾 加是布棄阿義天 久母婆奈禮 所企遠理等母與 和遠和須良須奈
龜姬
fd0017
浦嶋子不勝悲望歌
子等
こら
に
戀
こひ
朝戶
あさと
を
開
ひら
き
我
わ
が
居
を
れば
常世濱
とこよのはま
の
波音聞
なみのとき
こゆ
吾命戀伊人 每逢天明開朝戶 立居屋前者 渺遠仙堺常世濱 滄溟波音似可聞
古良爾古非 阿佐刀遠比良企 和我遠禮波 等許與能波麻能 奈美能等企許由
浦嶋子
fd0018
後人追詠浦嶋子歌 其一
水江
みづのえ
の
浦嶋子
うらしまのこ
が
玉匣
たまくしげ
開
あ
けず
有
あ
りせば
復
また
も
會
あ
はましを
嗚呼水江之 筒川嶼子浦島子 玉匣麗櫛笥 若慎前期勿開者 或許有朝能復逢
美頭能睿能 宇良志麻能古我 多麻久志義 阿氣受阿理世波 麻多母阿波麻志遠
後人
fd0019
後人追詠浦嶋子歌 其二
常世邊
とこよべ
に
雲立渡
くもたちわた
る
多由女
未詳
雲
くも
は
繼
つ
がめど
我
われ
そ
悲
かな
しき
仙都常世邊 浮雲霏霺立渡矣 窈窕手弱女 雖然天雲可繼渡 不能逢之我傷悲
等許與弊爾 久母多智和多留 多由女 久母波都賀米等 和禮曾加奈志企
後人
fd0020
天女仰天嗟歎歌
天原
あまのはら
振放見
ふりさけみ
れば
霞立
かすみた
ち
家路惑
いへぢまど
ひて
行方知
ゆくへし
らずも
久方高天原 翹首遙望思故里 雲霞湧瀰漫 惑於家路無歸宿 不知當去徃何方
阿麻能波良 布理佐兼美禮婆 加須美多智 伊幣治麻土比夫 由久幣志良受母
天女
fd0021
仁德帝不堪御食歌
住吉
すみのえの
大倉向
おほくらむ
きて
飛
と
ばばこそ
速鳥
はやとり
と
云
い
はめ
何
なに
そ
速鳥
はやとり
若能指住吉 飛向墨江大倉地 得以翔越者 方得堪稱速鳥矣 何以名之速鳥哉
住吉之 大倉向而 飛者許曾 速鳥云目 何速鳥
仁德帝
fd0022
後岡本天皇御歌
熟田津
みぎたづ
に
泊
は
てて
見
み
れば
【云云。】
今于熟田津 寄岸稍息泊船者
【云云。】
美枳多頭爾 波弖丁美禮婆
齊明帝
fd0023
神功皇后御歌
【
萬葉集 1315
。】
橘
たちばな
の
嶋
しま
にし
居
を
れば
川遠
かはとほ
み
曝
さら
さず
縫
ぬ
ひし
吾
あ
が
下衣
したごろも
以吾居寧樂 飛鳥橘地島之中 此去河甚遠 無以洗濯復日曝 輕率縫之我下衣
橘之 嶋爾之居者 河遠 不曝縫之 吾下衣
神功皇后
fd0024
杵嶋曲
【
萬葉集 0385
。】
霰降
あられふ
る
杵嶋岳
きしまのたけ
を
險
さが
しみと
草取兼
くさとりか
ねて
妹手
いもがて
を
取
と
る
霰降雹亂零 杵嶋岳者路艱險 以彼勢險峻 吾欲取草摘不成 取執妹手握不離
婀邏禮符縷 耆資麼能多塏塢 嵯峨紫彌台 區縒刀理我泥底 伊母我提塢刀縷
鄉閭士女
逸文參考
fd0025
難波堀江歌
津國
つのくに
の
難波堀江
なにはほりえ
の
一橋
ひとつばし
君渡
きみわた
らせば
傍目勿
あからめな
せぞ
畿內攝津國 難波堀江浪濤上 所立一橋矣 吾君今之為渡者 切莫傍目分神矣
都能久邇乃 那邇波裒利哀能 悲等都婆之 伎美和多良散婆 阿加羅米那世所
佚名
fd0026
手兒呼坂歌 其一
【
萬葉集 3442
。】
東道
あづまぢ
の
手兒呼坂
てこのよびさか
越兼
こえかね
て
山
やま
にか
寢
ね
むも
宿
やどり
は
無
な
しに
吾嬬東道之 磐城手兒呼坂矣 其坂險難越 縱欲稍歇寢山間 苦於無宿莫得息
東路の てこのよびさか こえ兼て 山にかねんも やどりはなしに
男神
fd0027
手兒呼坂歌 其二
【
萬葉集 3477
。】
東道
あづまぢ
の
手兒呼坂
てこのよびさか
越
こ
えて
去
い
なば
我
あれ
は
戀
こ
ひなむ
後
のち
は
逢
あひ
ぬとも
吾嬬東道之 磐城手兒呼坂矣 越而去之者 我將心憂苦相思 縱令有朝能相逢
あづまぢの てこのよび坂 越ていなば あれは戀んな 後は相ぬとも
男神
fd0028
手兒呼坂歌 其三
【
萬葉集 3195
。】
岩木山
いはきやま
直越來
ただこえき
ませ
庵崎
いほさき
の
不來見濱
こぬみのはま
に
我立待
あれたちま
たむ
巖城岩木山 還願吾君速越來 庵原礒崎之 不來見濱待汝至 妾守空閨總難耐
岩木山 ただ越きませ いほさきの こぬみの濱に 我たちまたん
女神
fd0029
菊水曲
雲上
くものうへ
に
菊掘植
きくほりう
ゑて
甲斐國
かひのくに
鶴郡
つるのこほり
を
映
うつ
してぞ
見
み
る
登高攀雲上 掘植菊花濯流水 生弓甲斐國 菊水仙壽鶴郡者 映照眼簾今可見
雲のうへに きくほりうゑて かひのくに つるのこほりを うつしてぞみる
佚名
【
卷首
】