後拾遺和歌集 卷第七 賀
0425 天曆御時賀御屏風歌、立春日
今日解くる 冰に代へて 結ぶらし 千歲春に 合はむ契を
源順
0426 入道攝政の賀侍ける屏風に、長柄橋形描きたる所を詠める
朽も為ぬ 長柄橋の 橋柱 久しき程の 見えもする哉
平兼盛
0427 同屏風に武藏野象描きて侍けるを詠める
武藏野を 霧絕間に 見渡せば 行末遠き 心地こそすれ
平兼盛
0428 東三條院卌賀侍けるに、屏風に子日して男女、車より降りて小松引く所を詠める
霞さへ 棚引野邊の 松為れば 空にぞ君が 千代は知らるる
源兼隆
0429 前僧正明尊、ここのそぢのがし侍けるに、宇治前太政大臣、竹杖遣はしける返事に詠侍ける
君を祈る 年久しく 成りぬれば 老坂行く 杖ぞ嬉しき
前律師慶暹
0430 內裏御屏風に、命長き人家に、松鶴在る所を
春秋も 知らで年經る 我が身哉 松と鶴との 年を數へて
平兼盛
0431 屏風繪に、海畔に松一本有る所を
一本の 松驗ぞ 賴もしき 二心無き 千世と見つれば
源兼隆
0432 題知らず 【○拾遺集0277。】
君が代を 何に譬へむ 常磐為る 松綠も 千代をこそ經れ
佚名
0433 後一條院生れさせ給ひて、七夜に人人參合ひて、盃出せと侍ければ
珍しき 光射添ふ 盃は 持ちながらこそ 千世も巡らめ
紫式部
0434 後朱雀院生まれさせ給ひて七日夜、詠侍ける
稚き 衣袖は 狹くとも 劫上をば 撫盡してむ
前大納言 藤原公任
0435 題知らず
君が代は 限りも有らじ 濱椿 二度色は 改まるとも
或人云、此歌七夜に中納言定賴が詠める。
佚名
0436 故第一親王給ひて、打續き前齋宮生まれさせ給ひて、內裏より產養等遣はして、人人歌詠侍けるに詠める
是も亦 千代景色の 灼然き哉 生添ふ松の 二葉ながらに
右大臣 源顯房
0437 少將敦敏、子生ませて侍ける七夜に詠める
姫小松 大原山の 種為れば 千歲は唯に 任せてを見む
清原元輔
0438 匡房朝臣まれて侍けるに產衣縫て遣はすとて詠める
雲上に 昇らむ迄も 見てしがな 鶴毛衣 年經と為らば
赤染衛門
0439 同七夜に詠侍ける
千代を祈る 心中の 凉しきは 絕えせぬ家の 風にぞ有ける
赤染衛門
0440 故第一親王の五十日參らせけるに、關白前太政大臣障事有りて內裏にも參侍らざりければ、內大臣下臈に侍ける時、抱奉りて侍けるを見て詠侍ける
千歲經る 二葉松に 掛けてこそ 藤若枝は 春日榮えめ
右大臣 源顯房
0441 御子逹を冷泉院親王に作して後、詠ませ給ひける
思事 今は無哉 撫子の 花咲く許 成りぬと思へば
花山院御製
0442 後三條院、親王宮と申しける時、今上幼く御坐しけるに、緣有る事有りて、見參らせければ、「鏡を見よ。」とて給はせたりけるに、詠侍ける
君見れば 塵も曇らで 萬代の 齡をのみも 真澄鏡哉
伊勢大輔
0443 返し
曇無き 鏡光 益益も 照らさむ影に 隱れざらめや
閑院贈太政大臣 藤原能信
0444 孫幼きを、周防內侍見侍て後、鶴子の千代景色を思出る由、言ひに遣せて侍ける返しに遣はしける
思遣れ 未だ鶴子の 生先を 千世許撫づる 袖狹さを
藤三位 藤原親子
0445 紀伊守為光、幼子を抱して、「茲祝ひて歌詠め。」と言侍ければ詠める 【○拾遺集1162。】
萬代を 數へむ物は 紀國の 千尋濱の 真砂也けり
清原元輔
0446 人の裳著侍けるに詠める
住吉の 浦玉藻を 結上げて 渚松の 影をこそ見め
清原元輔
0447 人の幼き腹腹の子供に、裳著せ、冠せさせ、袴著せ等し侍けるに、土器取りて
色色に 數多千歲の 見ゆる哉 小松原に 鶴や群居る
源重之
0448 大中臣輔長、袴著侍ける夜、內外戚の祖父にて、輔親・公資侍けるを見て詠める
方方の 親の親共 祝ふめり 子の子の千代を 思ひこそ遣れ
藤原保昌朝臣
0449 三條院、親王宮と申しける時、帶刀陣歌合に詠める
君が代は 千代に一度 居る塵の 白雲懸る 山と成迄
大江嘉言
0450 承曆二年內裏歌合に詠侍ける
君が代は 盡きじとぞ思ふ 神風や 御裳濯河の 澄まむ限は
民部卿 源經信
0451 宇治前太政大臣家に卅講後、歌合し侍けるに詠める
思遣れ 八十氏人の 君が為 一心に 祈る禱りを
藤原為盛女
0452 永承四年內裏歌合に松を詠める
春日山 岩根松は 君が為 千歲のみかは 萬代ぞ經む
能因法師
0453 同歌合に詠める
君が代は 白玉椿 八千代とも 何に數へむ 限無ければ
式部大輔 藤原資業
0454 冷泉院始めて造らせ給ひて、水等堰入れたるを御覧じて詠ませ給ひける
岩潛る 瀧白絲 絕えせでぞ 久しく世世に 經つつ見るべき
後冷泉院御製
0455 東三條院に東宮度給ひて、池浮草等拂はせ給ひけるに
君住めば 濁れる水も 無かりけり 汀鶴も 心して居よ
小大君
0456 關白前大臣六條家に度始侍ける時、池水永澄と云ふ心を人人詠侍けるに
今年だに 鏡と見ゆる 池水の 千代經て澄まむ 影ぞゆかしき
藤原範永朝臣
0457 俊綱朝臣、丹波守にて侍ける時、彼國臨時祭の使にて、藤花を髻首して侍けるを見て
千歲經む 君が髻首せる 藤花 松に懸れる 心地こそすれ
良暹法師
0458 後冷泉院御時大嘗會御屏風、近江國龜山松樹多生たり
萬代に 千代重ねて 見ゆる哉 龜岡為る 松綠に
式部大輔 藤原資業
0459 同御屏風に大倉山を詠める
動無き 大倉山を 建てたれば 治まれる世ぞ 久しかるべき
式部大輔 藤原資業
0460 陽明門院、初めて后に立たせ給ひけるを聞きて
紫の 雲之餘所なる 身為れども 立つと聞くこそ 嬉しかりけれ
江侍從 大江匡衡女