小倉百人一首

051 ()くとだに えやは伊吹(いぶき)の (さしもぐさ) さしも()らじな ()ゆる思火(おもひ)


052 ()けぬれば ()るる(もの)とは ()りながら 猶恨(なほうら)めしき 朝朗(あさぼら)(かな)


053 (なげき)つつ 獨寢(ひとりぬ)()の (あく)()は 如何(いか)(ひさ)しき (もの)とかは()


054 (わす)れじの 行末迄(ゆくすえまで)は (かた)ければ 今日(けふ)(かぎり)の (いのち)欲得(もがな)


055 瀧音(たきのおと)は ()えて(ひさ)しく (なり)ぬれど ()こそ(なが)れて 猶聞(なほきこ)えけれ


056 ()らざらむ 此世外(このよのほか)の 思出(おもひで)に 今一度(いまひとたび)の 逢事欲得(あふこともがな)


057 巡逢(めぐりあ)ひて ()しや(それ)とも (わか)()に (くも)(くれ)にし 夜半月哉(よはのつきかな)


058 有馬山(ありまやま) 豬名笹原(ゐなのささはら) 風吹(かぜふ)けば いで()(ひと)を (わす)れやはする


059 (やす)らはで ()益物(ましもの)を 小夜更(さよふ)けて (かたぶ)(まで)の (つき)()(かな)


060 大江山(おほえやま) 野道(いくののみち)の (とほ)ければ ()()()ず 天橋立(あまのはしだて)


061 (いにしへ)の 奈良都(ならのみやこ)の 八重櫻(やへさくら) 今日九重(けふここのへ)に (にほ)ひぬる(かな)


062 ()()めて (とり)空音(そらね)は (はか)るとも ()逢坂(あふさか)の (せき)(ゆる)さじ


063 (いま)(ただ) 思絕(おもひた)えなむ とばかりを 人傳(ひとづ)()らで 言由(いふよし)もがな


064 朝朗(あさぼらけ) 宇治川霧(うぢのかはぎり) 絕絕(たえだえ)に 現渡(あらはれわた)る 瀨瀨網代木(せぜのあじろぎ)


065 恨侘(うらみわび) ()さぬ(そで)だに 有物(あるもの)を (こひ)()ちなむ ()こそ(をし)けれ


066 諸共(もろとも)に (あは)れと(おも)へ 山櫻(やまざくら) (はな)より(ほか)に 知人(しるひと)()


067 春夜(はるのよ)の 夢許(ゆめばかり)なる 手枕(たまくら)に 甲斐無(かひな)()たむ ()こそ(をし)けれ


068 (こころ)にも (あら)憂世(うきよ)に (なが)らへば (こひ)しかるべき 夜半(とは)月哉(つきかな)


069 嵐吹(あらしふ)く 三室山(みむろのやま)の 紅葉(もみぢば)は 龍田川(たつたのかは)の 錦也(にしきなり)けり


070 (さび)しさに 宿(やど)立出(たちいで)て (なが)むれば 何處(いづこ)(おな)じ 秋夕暮(あきのゆふぐれ)


071 夕去(ゆふさ)れば 門田稻葉(かどたのいなば) (おとづ)れて 蘆丸屋(あしのまろや)に 秋風(あきかぜ)()


072 (おと)()く 高師(たかしのはま)の 徒波(あだなみ)は ()けじや(そで)の ()れもこそすれ


073 高砂(たかさご)の 尾上櫻(をのへのさくら) ()きにけり 外山霞(とやまのかすみ) ()たずも()らなむ


074 ()かりける (ひと)初瀨(はつせ)の 山下(やまおろ)しよ (はげ)しかれとは (いの)らぬ(もの)


075 契置(ちぎりお)きし 蓬艾(させも)(つゆ)を (いのち)にて (あは)今年(ことし)の (あき)()ぬめり


076 海原(わたのはら) 漕出(こぎいで)()れば 久方(ひさかた)の 雲居(くもゐ)(まが)ふ (おき)白波(しらなみ)


077 ()(はや)み (いは)()かるる 瀧川(たきがは)の ()れても(すゑ)に ()はむとぞ(おも)


078 淡路島(あはぢしま) (かよ)千鳥(ちどり)の 鳴聲(なくこゑ)に 幾夜寢覺(いくよねざ)めぬ 須磨關守(すまのせきもり)


079 秋風(あきかぜ)に 棚引(たなび)(くも)の 絕間(たえま)より 漏出(もれいづ)(つき)の (かげ)(さや)けさ


080 (なが)からむ (こころ)()らず 黑髮(くろかみ)の (みだれ)今朝(けさ)は (もの)をこそ(おも)


081 郭公(ほととぎす) ()きつる(かた)を (なが)むれば 唯有明(ただありあけ)の (つき)(のこ)れる


082 思侘(おもひわ)び ()ても(いのち)は 有物(あるもの)を ()きに()へぬは 淚也(なみだなり)けり


083 世中(よのなか)よ (みち)こそ()けれ (おもひい)る 山奥(やまのおく)にも 鹿(しか)()くなる


084 (なが)らへば 復此頃(またこのころ)や (しの)ばれむ ()しと()()ぞ (いま)(こひ)しき


085 ()(すがら) 物思頃(ものおもふころ)は ()けやらで (ねや)(ひま)さへ 由緣無(つれな)かりけり


086 (なげ)けとて (つき)やは(もの)を (おも)はする 託顏(かこちがほ)なる 我淚(わがなみだかな)


087 村雨(むらさめ)の (つゆ)()()ぬ 真木葉(まきのは)に 霧立昇(きりたちのぼ)る 秋夕暮(あきのゆふぐれ)


088 難波江(なにはえ)の 苅根(あしのかりね)の (ひとよゆゑ) 澪標(みをつくし)てや 戀渡(こひわた)るべき


089 玉緒(たまのお)よ ()えなば()えね (なが)らへば (しの)ぶる(こと)の (よわ)りもぞする


090 ()せばやな 雄島海人(をじまのあま)の (そで)だにも ()れにぞ()れし (いろ)(かは)らず


091 蟋蟀(きりぎりす) ()くや霜夜(しもよ)の 狹蓆(さむしろ)に 衣片敷(ころもかたし)き 一人(ひとり)かも()


092 我袖(わがそで)は 潮乾(しほひ)()えぬ 沖石(おきのいし)の (ひと)こそ()らね (かわ)()()


093 世中(よのなか)は (つね)にもがもな 渚漕(なぎさこ)ぐ 天小舟(あまのこぶね)の 綱手愛(つなでかな)しも


094 御吉野(みよしの)の 山秋風(やまのあきかぜ) 小夜更(さよふ)けて 舊里寒(ふるさとさむ)く 衣打(ころもう)(なり)


095 おほけ()く 憂世(うきよ)(たみ)に (おほ)(かな) ()立杣(たつそま)に 墨染袖(すみぞめのそで)


096 花誘(はなさそ)ふ (あらし)(には)の (ゆき)ならで (ふりゆ)(もの)は 我身也(わがみなり)けり


097 ()(ひと)を 松帆(まつほのうら)の 夕凪(ゆふなぎ)に ()くや藻鹽(もしほ)の ()(こが)れつつ


098 風戰(かぜそよ)ぐ (なら)小川(をがは)の 夕暮(ゆふぐ)れは (みそぎ)(なつ)の 徵也(しるしなり)ける


099 (ひと)()し (ひと)(うら)めし 味色無(あぢきな)く ()思故(おもふゆえ)に 物思(ものおも)()


100 百敷(ももしき)や (ふる)軒端(のきば)の (しの)にも 猶餘有(なほあまりあ)る 昔也(むかしなり)けり