日本書紀私記 【乙本。自第一至第二。】

卷一


     神代(かみよ) 上
       天地未剖(あめつちいまだわかれず) 陰陽未分(めのこをのこわかれぬとき) 渾沌(まろかれたることあかたらにして) 如雞子(とりのこのごとし) 溟涬(ほのかにしてたたよひて) 含芽(きざしをふくめりあしかひをふくめり) 清陽者(いさぎよくあからかなるは) 薄靡(かすみたなびきて) 為天(あめとなり) 重濁者(をもくにごれるは) 淹滯而(つつきとどこほりて) 為地(つちとなる) 精妙之合(くはしくたへなるかあべる) 摶易(あふきやすく) 重濁之凝(をもくにこれるかこりたるは) 竭難(かたまりかたし) 開闢之初(あまつちのひらくるはじめ) 洲壤(くにつち) 游魚(あそぶいを) 葦芽(あしかび) 常立尊(とこたちのみこと) 狹槌尊(さつちのみこと) 豐斟渟尊(とよくむぬのみこと) 三神(みはしらのかみます) 漂蕩(たたよへり) 葉木國(はこくに) 可美(うまし) 成此純男(このをとこのかぎりをなせり) 狀貌(かたち) 有化生之神(なりいづるかみいます) 浮經(うきき) 混成之(まろかれなる) (ときに) 彥舅(ひこぢ) 有神人(かみます) (あま)【漢音。】 天御中主(あまのみなかぬし)【天訓あめ(阿女)。】 無所根係(ねかかることなきか) 因此化神(これによりてなるかみを) 埿土煑(うひぢに)【平聲輕下者太。太字去聲。】 沙土煑(すひぢに) 大苫邊(おほとまべ) 大戶之道(おほとのぢ) 面足(おもだる) 大富道(おほとみぢ) 惶根(かしこね) 伊奘諾(いざなぎ) 伊奘冉(いざなみ) 天鏡(あまのかがみ) 沫蕩(あわなぎ) 耦生之神(たぐひなるかみ) 角樴(つのくひ) 活樴(いくくひ) 立於天浮橋之上(あまのうきはしのうへにたちまして) 底下(そこつした) 無國歟(くになからむな) 天之瓊矛(あまのぬぼこ) 指下而探之(さしをろしてかきざくる) 是獲滄溟(ここにあをうなはら) 矛鋒(ほこのさきより) 滴瀝(しただる) 降居(あまくだりまき) 磤馭慮嶋(おのごろしま) 國中之柱(くになかのみはしら) 陽神(をかみ)男神(をかみ)。】 陰神(めかみ)女神(めかみ)。】 會一面(しににあひて) 憙哉(あなうれしゑや) 少男(をとこ) 男子(をのこ) 婦人(たわやめ) 先言乎(ことさきたつや) 不祥(さかなし) 是行(このたびは) 少女(をとめ) 有一雌元之處(ひとつのみはしめのところあり)【下推準此。】 思欲(おもふ) 始遘合為夫婦(はじめてみとのまくはひす) 所不快(よろこびざるところ) (ふたご) 或有雙生者(あるひはふたごうむことあるは) 投戈(ほこをなげくだして) 求地(くにをもとむるときみ) 畫滄海而引舉之(あをうなはらをしほころをにかきなして) 垂落(したたる) 結而(こりて) 降居彼嶋(そのしまにあもくだります) 化作八尋之殿(やひろのとのならみたつ) 化豎天柱(あまのみはしらみたつ) 具成(なりなりて) 約束(てむきてしきりて) 後和(のちにあはす)【答也。】 為夫婦(ちひとめして) 流之(ながしやりて) 淡洲(あはしま) 不以充兒數(このかずにあてず) 還復(かへりて) 上詣於天(あめにのぼりまして) 卜合(うらなふ) 揚乎(あげたれはか) (みづ) 妍哉(あなうれしゑや) 太占(ふとまに) 還去(かへりとのたまふ) (いづみみゑて) 立于天霧之中(あまつさぎりのなかにたたしめて) 指垂(さしくだす) 拔矛(ほこをぬきあげて) 美哉(あなにゑや) 善少男(えをとこ) 遂將合交(つひにみあはよしむとす) 其術(そのみちも) 鶺鴒(とつぎまなをひとり)【又云とつぎしへとり。】 搖其首尾(そのかしらををうごかす) 得交道(とつぎのみちををしへたり)

       大日孁貴(おほひるめのむち)【一書云,天照太神。】 光華(ひかりめでる) 明彩(うるはしくして) 六合之內(あめのしたのうち) 雖多(さはなれども) 靈異(くすびにあやしき) 自當早送于天(みづからはやくあめにおくりあげむとして) 以天上之事(あまのはらのことをもちてす) 舉於天上(あまのはらにをくりあげつ) 其光彩(そのひかりうるはし) 天磐櫲樟船(あまのいはくすぶね) 有勇悍以安忍(もたみたけくしてもふりなることあり) 哭泣(なきもたつるをもてす) 人民(おほみいろからひとくさ) 夭折(わかじに) 青山變枯(あをやまもからやまになりぬ) 無道(あぢきなし) 君臨宇宙(あめのしたにきみたり) 逐之(やらひやりつ) 御寓之珍子(あめのしたをしめむうづのこ) 白銅鏡(ますみのかがみ) 質性(ひととなる) 明麗(てりうるはし) (ひととなる) 滿三歲(みとせになるまで) 順流(みづのままに) 終矣(かみさりましぬ) 罔象(みつは) 五榖(いつくさのたなつもの) 天吉葛(あまのよさづら) 悶熱懊惱(あつかひなやみ) 為吐(たくりす) 小便(ゆまり) 大便(くそまり) 退去(かみさりましぬ) 土俗(くにびと) 薰滿之哉(かむりみちたること) 級長(しなが) 戶邊(とべ) 海神等(うみのかみたち) 其母(そのいろおも) 倉稻魂(うかのみたま) 少童(わたつみ) 化去(かみさりましぬ) 唯以一兒(ただひとつこをもてかへつとのたひて) 替我愛之妹者乎(あがうつくしきないものみことたまふ) (おかみ) 匍匐(はらばひ) 頭邊(まくらべ) 腳邊(あとへ) 哭泣(かなしびます) 流涕(かなしふ) 畝丘樹下(うねをのこのもと) 所居(まします) 啼澤女命(なきさはめのみこと) 斬軻遇突智為三段(かぐつちをみきたにきる) 河邊所在(かはへにある) 磐石(いはむら) 劍鐔(つるぎのつみはより) 激越(そそぎで) 磐裂(いはさく) (たかみより) 釰鋒(つるぎのさきより) 何來之晚(をそくいましつる) 飡泉之竈矣(よもつへぐひ) 吾當(あれ) 寢息(ねやすまも) 請勿視之(こふなみましぞ) 爪櫛(つまぐし) 牽折其雄柱(そのほとりまでひきかして) 為秉炬而(たひて) 膿沸蟲流(うけわきてうじたかる) 一片之火(ひとつひともす) 不意(おもはずき) 不須也凶目污穢(いなしこめききたなき) 走迴歸(はしりかへりたまふ) 何不用要言(などかちぎりしことをもしなずして) 令吾恥辱(あれましれはづかしむるともひて) 泉津日狹女(よもるひさめ) 背揮(しりへてにふくつつ) 化成蒲陶(かしてえびかづらとなりぬ) 採噉(とりてはむ) 成筍(たかむなとなる) 拔噉(ぬいはむ) 來追(おひもてます) 放𣭼(ゆまり) 千人所引磐石(ちびきのいしを) 遂建(うつわたす) 吾夫君言如(あがなせのかくのたまはは) 如此者吾當縊殺汝所治國民日將千頭(あれなむしかをさむるくにのおほむたからをひとひにちかむへくひりころさむ) 報之曰吾妹言如此者吾則(あかないものみことししかしのおちひ)當產日將千五百頭(にちこうへあまりいほうぶやたてむ) 自此莫過(これよりなすぎぞ) 長道磐(ながちは) 煩神(わづらひのかみ) 道敷神(みちしきのかみ) 所謂泉門(よみなとに) 滌去(あらひてむ) 濁穢(けがれはしきもの) 盪滌(すすぎうてむ) 祓除(みそぎす) 所污(けがらはしきものを) 興言(ことあげ) 太疾(はなはだはやし) 太弱(はなはだゆるし) 八十枉津日神(やそまがつひのかみ) 將矯(なをさむとして) 敕任(ことよさせて) 滄海原(あをうなはら) 表津(うはつ) 潮八百重(しほのやほへ) 已長(すでにおいになり) 啼泣恚恨(なきいかる) 只為泣耳(ただになくのみ) 任情(こころのまにまに) 乃逐之(やらひやりつ) 河中所在五百箇磐石(かはらにあるいほついはむらに) 泉津平坂(よもつひらさか) 絕妻之誓(ことど) 岐神(ふなとのかみ) 正勝(まさか) 身中(むくろ) 石礫(いしむら) 其妹(そのいろも) 殯殮之處(もがりのところに) 如生平(いきたりしどきのごとくにして) 請勿視吾(あれをなみたまひぞ) 䨄山祇(しぎやまつみ) 舉一片之火(ひとつのひともして) 脹滿太高(はれたたへり) 八色雷公(やくさのいかづち) 擲雷者(いかづちになげしかば) 避鬼(おにをふせく) 雷不敢來(いかづちなこぞ) 祖神(おほぢ) 在背(せなかにあるをば) 山雷(やまづち) 野雷(のづち) 所在處(あるところまします) 悲汝故來(あむぢをかなしとおもうがゆゑにきき) 族也(うがらや) 勿看吾矣(あれをなみましぞ) 族離(うがらはなれなむ) 不負於族(うがらまけじ) 所唾之神(つばくかみ) 事解之男(ことさかのを) 與妹(いもひとと) 始為族悲及思哀者(はしめうがらなしひかなしとおもひけることは) 泉守道者(よもつちもりひと) 有言(ことあり) 菊理媛神(くくりひめのかみ) 善之(よろこびたまふ) 散去矣(あがれいぬ) 穢惡(けがらばしきもの) 太急(はなはだはやし) 還向(かへりいたりて) 磐立命(いはたちのみこと) 天上(あまはら) 就候(ゆきてみよ) 鰭廣(はたひれきもの) 鰭狹(ひれせはきもの) 口吐之物(くちよりとやるもの) 不須相見(あひふべからず) 顱上(ひたひのうへに) 天熊人(あめくまひと) 陸田種子(はたけつもののたね) 保食神(うけもちのかみ) 天邑君(あまのむらきみ) 其秋垂穎八握(そのあきのほのたるることやつほにして) 莫莫然(たくまし) 甚快(はなはだこころよし) 請曰(まうして) 奉教(あことをうけたまはる) 將就(ましむなむとす) 向高天原(たかまのはらにいたりて) 退矣(まからむ) 敕許之(ゆるすとのたまふ) 神功(かみこと) 靈運當遷(かみあがりましなむす) 構幽宮(かくれみやつくる) 寂然長隱者(しづかにかくれましにき) (いきほひ) 報命(かへりことまをし) 留宅(とどまりすみき) 少宮(わかみや) 溟渤以之鼓盪(おほきうみとどろきただよひ) 山岳為之鳴呴(やまなりをかほえき) 神性雄健(かむさがたけくして) 來詣(まうでいたる) 勃然而驚(さかりにおどろきて) 吾弟(あがなしか) 謂當有奪國之志歟(おもはくにおおむとするこころさしあるらむか) 任諸子(もろもろみこたちにことよさして) 棄置當就之國(ゆかむとするくにおうすてをしき) 窺窬此處乎(このところをうかかふか) 結髮為髻(みくしをあげてみづらとし) 縛裳為袴(もをひきまづいてはかまとして) 纏其髻鬘(そのみづらまかす) 八坂瓊之五百箇御統(やさかにのいほづみすまる) 背負千箭之靫(そひらにはちのりのゆき) 稜威之高鞆(いつのたかとも) 振起弓彇(ふきおこしゆはず) 急握釰柄(たかみをとりしばり) 陷股(むかももにふみぬき) 沫雪(あはゆき) 蹴散(くゑはららかす) 嘖讓(ころひ) 吾元無黑心(やつかれはじめよりきたなきこころなし) 但父已有嚴敕(ただしかぞのみいつくしきみことありて) 將永就根國(ひたぶるにねのくにへまかりなむとす) 如不與姊相見吾何能敢去(もしあねのみこととあひみすしてはあれいかにぞよくあへてまからむ) 遠自來參(とほくよりまうきつ) 不意阿姊翻起嚴顏(おもはずあねのかほかへていかりたまはむといふことをば) 赤心也(きよきこころをば) 誓約之中(うけひのみなか) 如吾所生(もしあがなさむところ) 可以為有濁心(きたなきこころありとおもほせ) 索取(もとめとらし) 為三段(みきだになす) 濯於天真名井(あまのまなゐにふりすすぎて) 𪗾然咀嚼(さがみにかむ) 所生神(なれるかみ) 田心姬(たこりひめ)【此神名也。以上聲。】 湍津姬(たぎつひめ)【此神名也。且以上聲。】 市杵嶋姬(いちきしまひめ) 凡三女矣(すべてみたりのめかみなり) 乞取(こひとり)【申取也。】 髻鬘及腕所纏(みみづらおよびたふさにましたまふる) 吹棄氣噴之狹霧(ふきうづるいぶきのさぎり) 正哉(まさか) 吾勝(あかつ) 物根(ものざね) 男神(ひこかみ) 武健凌物(たけくしものしのぐ) 設大夫武備(ますらをのたけきそなへをまうけて) 迎防禦(みづからむかへてふせき) 只為暫來耳(ただしばのましてきづらきくのみ) 頸所嬰(そのくびにうなげる) 所祭(いははれよ) 羽明玉(はあかるたま) 瓊玉(たま) 到之於天上也(あめにいたる) 汝言虛實(なむぢがことのいつはりまことも) 當奉汝(なむぢにまつらむ) 所持(もたる) 可以授予矣(あれにさづけよき)【又あれにさずくれよ。】 齧斷瓊端(にのはしくひたちて) 氣噴(いふき) 化生神(なれるかみ) 居于遠瀛者也(おきつみやにますものなり) 中瀛(なかつみや) 居于海濱者(へつみやにまするもの) 不有姧賊之心(かたましくやふらむといふこころあらず)【又あたなむこころ。】 左髻所纏(ひだりのみみづらにまける)【又云ひだりのもととりにまかしる。】 著於左手掌中(ひだりのたなうらにおきて)【著字下同。】 稱之曰(ことあげていふ) 右髻之瓊(みぎのみみづらのにを) 為行(しわざ) 無狀(あづきなし) 天狹長田(あまのさたなかた) 為御田時(みたとしたまふとき) 重播種子(しきまき) 且毀其畔(あはなちす)【毀訓あはなつ。】 天斑駒(あまのふちこま) 當新嘗時(にひのあひするとき)【又云にひなへきこのとき。】 使伏田中(たのなかにふせしむ) 陰放屎新宮(ひそかににひのみやにくそまる) 神衣(みそ) 剝天斑駒(あまのふちこまをさかはぎにろきて) 投納(なげいる) 驚動(おどろきて) 發慍(いかりまして) 閉磐戶而(いはとをさして)【又云いはやとをとぢて。】 幽居(かくれましぬ) 常闇(とこやみ)而 會合於天安河邊(あまのやすのかはらにかみつどひにつとひて) 可禱之方(いのるべきわざを) 使互長鳴(たかひにながなかしむ) 立磐戶之側而(いはとのとちきのかくしたてて) (ねこしにこして) 思兼(おもひかね) 常世(とこよ) 八咫鏡(やたかがみ)【一云,真經津鏡。】 (とりかけて) 和幣(にきて) 致其祈禱(そのみいのりまうす) 天鈿女(あまのうずめ) 茅纏之矟(ちまきのほこ) 立於天石窟戶之前(あまのいはやとのまへにあらはにたちて) (ひかげ) 為手繦而火處燒覆槽置(たすきとしてほとろやきうけふしてふみととろかす) 顯神明之憑談(かむがかり) 為長夜(なかよゆくらむ) 閉居(かくれをり) 㖸樂如此(かくわらひさかゆること) 者乎(のことしや)【又云,かくゑくのと云。】 細開磐戶(ほそとにいはやとをひらきて) 奉出(いたしまつりき) 界以端出之繩(しりくめなはをひきわたして) 勿復還幸(またなかへりいりましそ) 罪過(つみとが) 千座置戶(ちくらおきと) 促徵(せめはたる) 逐降(やらひつかはして)【又云かみやらひにやらひき。】 稚日女尊(わかひるめのみこと) 齋服殿(いみはたどの) 不欲與汝相見(なむぢとあひまみえむとおもはず)【如字。】 閉著(とぢつさしと) 恒闇(とこやみ) 晝夜之殊(ひるよるのわきもなし) 圖造(つくりまつりてあらはしまつりて) 奉招祈禱(ねぎたてまつりて) 石凝姥(いしこりどめ) 全剝(うつはぎ) 填渠毀畔(みそうみあはなちす) 羽韛(はぶき) (あきほ)【秋穗。】 (はふるに) 絡繩(あぜなは) 日神恩親之意(ひのかみのむつましきみこころ) 不慍(いかりたまはず) 容焉(ゆるしたまふ) 送糞(くそまる) 不平(やくさみ) 織殿(はたどの) 生剝(いけはぎ) 御席之下(みましのした) 天糠戶(あまのあらと) 使山雷者(やまつちのては) 玉籤(たまくし)【玉串。】 野薦(すすき) 來聚集時(きたりあつまりぬるどきに) 入其石窟(そのいはやにいれしかば) 觸戶小瑕(とにふりてすこしくきずつけり) 崇秘(いつきまつる) 責其祓具(そのはらへつものをはたる) 足端(あなすゑ) (はな) 手端吉棄(たなすゑのよしきらひ) 神祝祝之(かむほさきほさきき) 天邑并田(あまのむらあはせだ) 雖經霖旱(つもりひでりあふといへども) 無所損傷(そこなはるることもなし) 樴田(くひだ) 口銳田(くちとだ) 捶籤(くしざし) 伏馬(うまふせ) 濁惡(けがらはしく) 辛苦(たしなみつつ) 廢渠槽(ひはがつ) 平恕(ひらかなるめぐみ) 閉居(こもりいたまふかくれいます) 興台產靈(こごとむすひ) 使祈焉(いのりまをさしむ)【令申。】 石凝戶邊(いしこりとべ) 所作(つくれる)【下同。】 天日鷲所作(あまのひわしがつくれる) 執取(ささげもたしめて) 廣厚稱辭(たたへごとおへ) 祈啟矣(いのりまうさしむ) 頃者人雖多請(このころひとおほくまをすといへども) 未有若此言之麗美者也(またかくのことくいふことのうるわしきはあらすとのたまひてらすとのたまひて) 侍磐戶側(いはやとのわきにさもらひ) 手爪為吉爪棄物(あしのつめをもちてあしききよしきらひものとして) 掌其解除之太諄辭(そのはらへのふとのりとをつかかさとりつ) 宣之焉(のらしむ) 所行(しわざ) 無賴(たのもしげなし)【又云たのみけなし,又云さいはいなし。】 逐降去(やらひやりき) 結束青草(あをぐさをゆひつかねて) 躬行(みのわざ) 見逐謫者(やらひせめらるるひとなり) 風雨雖甚(かぜあめはなはだふるおいへども) 不得留休(とどまりやむことえずして) 辛苦降矣(たしなみくるしみつつくふる) 世諱著笠蓑以入他人屋內(よるかさみのをきてひとのやのうちにいることをいむ) 負束草(つかくさをおひて) 必債解除(かならすはらへおほす) 太古之(いにしへの) 扇天扇國(あめをうこかしくにをうこかして) 告言(まをすに) 懷不善(よからぬことをおもひて) 當為女(をみなのこならむ) 轠轤然(をもくるるに) (ひきときて) 瓊響瑲瑲(ぬなともゆらに)【師說云作者所誤也。】 大角命(おほすみのみこと) 所以更昇來者(さらにのぼりまうでこしゆゑは) 處我以根國(あれうおくにをもはす)【又云あれをねのくににおく。】 今當就去(いまいなむとす) 照臨天國(あまつくにをてらしのぞみたまはむこと)

       啼哭(ねなく) 老公(おきな) 老婆(おうな) 中間(なかに) 置一少女(ひとりのをとめををく)【云八稚女(やつをとめ)。】 被吞(またのみれなむとす) 無由脫免(まぬかれむによしなし) 以女(このむすめおもちて) 奉吾耶(あれにまつらむや) 隨敕奉(みことのりのまにまにたてまつる) 立化奇稻田姬為湯津爪櫛而(たちどころにくしないひめをかしてゆつつまくしになして)【又說,たちどころにくしなたひめをゆつつまくしにとりなして。】 插於御髻(みみづらにさして) 釀八醞酒也(しほをりのさけをかまへしみ) 假庪(さずき) 盛酒(いりさけ) 赤酸醬(あかかがち) 一槽(ひとつさかふね) (つだつだ)【斬其蛇也。】 割裂(さきさきてさきて) 草薙劔(くさなぎのつるぎ)【一書云,今名天叢雲劍。蓋大蛇所居之上,常有靈氣,故以名歟。至日本武皇子(日本武尊),改曰くさなぎのつるぎ(草薙劍)。】 私以安乎(わたくしにもちておかむや) 將婚之處(みあはしせむところを) 清地(すが) 於彼處建宮(そこにみやをつくる) 武素戔嗚尊歌曰(たけすさのをのみことうたにいふ)八雲立(やくもた)つ,出雲八重垣(いづもやへかき)妻籠(つまこも)に,八重垣作(やへかきつく)る,其八重垣(そのやへかき)を。】 遘合(みとのまぐはひ) 宮首者(みやのつかさ)【或云,みやのおびと。】 於奇御戶為起而(くみどにおこしてくしみとたたして) 狹漏(さもる) 繫名(かけな) (しの) 在妊身(はらめり) 每生(うむたびきとに) 敕蛇(をろちにかたりて)【又,へみにかたりて。】 可畏之神(かしこきかみなり) 每口沃入(くちごとにいる) 麤正(あらまさ) 為妃(めとして) 欲幸(めさむとして) 宜也(よけむ) 何以殺之(いかにしてかころしたまはむ) 韓鋤劔(からさひのつるぎ) 所行無狀(しわざあぢきなし) 河上所在(かはかみにある) 以天蠅斫之劍(あまのはばきりのつるぎをもちて) (つむさして) 上奉於天(あめのたしまつりあく) 天降之時(あめよりくだるとき) 將樹種(こだねをもちて) 韓地(からくに)【唐國。】 播殖(まきおほし) 韓鄉之嶋(からくにのしま) 是有金銀(ここにはくがねしろかねあるしまなり) 未是佳也(これよからむのたまて) 可以為顯見蒼生奧津棄戶將臥之具(うつしきあをひとくさのおつきすたへものふすそなへとすべし) 須噉(くらふべき) 播生(まきおほしき) 枛津姬(つまつひめ) 分布(まきほどこす) 戮力(ちからあはせ) 經營天下(あめのしたをつくる) 療病之方(やまひををさむるのり) 昆蟲(はふむし) 災異(わざはひ) 禁厭(まじなひ) 咸蒙恩賴(みなみたまのふゆをかかふれり) 謂善成乎(よくなしりといふらむや) 是談也(これはものかたらひことなり) 蓋有幽深之致(かだしふかきむねはあるあむ) 適於常世鄉矣(とこよのくににいにき) 緣粟莖者(あはがらに) 自後(これよりのち) 荒芒(あらびたり) 強暴(あしかりき) 吾已摧伏莫不和順(あれすでにくだきふせまつろはずといふことなし) 神光照海(かみうみにてりて) 平此國乎(このくにをひらけましや) 大造之績(おほよそのいさをしを) 唯然(ゐちしかなり) 就而(ゆきて) 幸魂(さきみたま) 奇魂(くしみたま) 蹈韛(たたら) 頃時(しばらくありて) 白蘞(かがみ) 教養(をしふるに)





卷二


     神代(かみよ) 下
        高皇產靈尊之女(たかみむすひのみことのみむすめ) 栲幡千千姬(たくはたちぢひめ) 生天津彥(あまつひこあれます) 皇祖(みおや)【御祖。】 特鍾憐愛(ことにうつくしびをあつめて) 以崇養焉(かたてひたしまつりたまふ) 中國之主(なかつくにのあるじ)(きみ)。】 螢火光神(ほたるびのかかやくかみ) 蠅聲(さばへなす) 邪神(あしきかみ) 言語(ものいふ) 召集(めしつどへて) 令撥平(はらひひらけしめむ) 邪鬼(あしきもの)【惡神。】 惟爾(ねがはくはいまし) 勿隱所知(しれるところなかくしませぞ) 神之傑(かみのすぐれたるなり) 俯順眾言(もろごとにふししたがひ) 不報聞(かへりことまをさず) 故仍(かるかゆへにしきりな) 大背飯三熊之大人(おほせひみくまのうし) 更會諸神(さらにもろかみをつどへて) 壯士(たけきひと)盛人(さかりなるひと)。】 宜試(こころみたまへ) 天鹿兒弓(あまのかこゆみ) 來到(いたる) 女子(むすめ) 下照姬(したでるひめ) 不復命(かへりことまをさず) 不來報(かへりごとまをしにあまだあらざることを) 無名雉(ななしきぎし) 門前所植(かどにたてる) 杜木(かつら) 天探女(あまのさぐめ) 奇鳥來居杜杪(あやしきとりしたてかつらのすゑをる) 所賜(たまひし) 射雉斃之(きじをいてころしつ) 洞達雉胸(きじのむねよりとほりて) 國神(くにつかみ) 胷上(たかむなさかに) 新嘗休臥之時也(にいなひしてねぶせるとき) 返矢可畏之緣也(かへしやいむべしといふえになり) 哭泣悲哀(とくなきかなしぶ) 達于天(あめにいたる) 夫天稚彥(それあめわかひこ)【又(その)。】 疾風(はやち) 為持傾頭者(きさりもちとす)【死人之食持。】 持帚者(ははきもち)【死人持立ば、後其臥處掃清也。】 為舂女(つきめとす)【死人持立稻舂人。】 以鴗為尸者(そにをもちてものまさとす)【死人にかばりてものくらふ人也。】 為哭者(なくめと)【死人持立畤辭といふ。】 以鵄為造綿者(とびをわたつくりとす)【死人令沐浴人也。】 為宍人者(ししひととす)【死人食物設具人也。】 啼哭(をらふ) 悲歌(しのふか) 味耜(あぢすき) 善友(よきともなりしうるはしかりき) 正類(まらににたり) 天稚彥平生之儀(あめわかひこいけりしときのよそほひ) 親屬(うがら) 吾君(わがきみ)【如字。】 猶在(はきなすなしましけりといひて) 攀牽衣帶(ころもをひきかかけて) 且慟(かつはまとふ) 忿然作色(いかりおもほてり) 朋友(ともがらs) 不憚污穢(けがらばしきことをもはばからずして) 遠自赴哀(とほくよりなきか) 斫仆喪屋(もやをきりふす) 亡者(うせにしひと)【死人。】 大葉刈(おほはがり) 磐裂(いはさく) 根裂(ねさく) 經津(ふつ) 將佳也(よけむ) 所住(すむ) 氣慷慨(いきざしはげし) 倒植於地(さがしまにつちにつきたてて) 踞其鋒端(そのさきにしりうたけて)【又うちあげみにゐて。】 君臨此地(このくににきみきたらしめむとす) 驅除平定(はらひしつめしむ) 當須避不(さりまつらむやいなや) 遊行(ゆきて) 三穗(みほ) 以釣魚(つりするをもちて) 遊鳥(とりのあそびを) 稻背脛(いなせはぎ) 且問(かつとはしむ) 借問(とひたまふ) 宜當奉避(さりたまふべくなり) 不可違(たがひまつらし) 八重蒼柴籬(やへのあをふしかき) 船枻(ふなのへ) 報命(かへりことまをす) 所杖之廣矛(つけりきひろほこを) 當平安(たひらけけむ) 百不足之八十隈將隱去(ももたらずやそくまてにかくれまかなむ) (ころす) 鬼神(かみ) 倭文神(しとりがみ) 天磐座(あまのいはくら) 所不服者(うべなはざるは) 故加(また) 真床追衾(まとこおふふすま) 遊行之狀也者(いでますかたちは) 立於浮渚在平處(うきじまりたひらでたたし) 膂宍之空國(そししのむなくに) 頓丘(ひたを) 覓國(くにまき) 行去(とほる) 任意(まにまに) 美人(かほよしをむな) 幸之(めしつみとあたはしついています) 有娠(はらみぬ) 未之信(いつはりならむとおほして)【又云,ことならむとして。】 一夜之間所懷(ひとよのあひだにはらめる) 無戶室(うつむろ) 非天孫之胤(あめのかみのみこにあらずは) 當𤓪滅(やけほろびなむ) 不能(やけそこなふことあたはずといひて) 火闌降(ほのすそり) 山陵(みさざき) 可王之地(きみたるべきくになり) 殘賊強暴(ちはやぶる) 橫惡之神者(よこしまなあしきかみ) 經八年(やとせになるまで) 無以報命(かへりごとまをしことなし) 不來(まゐこざる) 候之(うかかはしめたまふ)【令見、令伺。】 杜樹(かつらのき) 八年之間(やとせのあひだ) 未有復命(かへりごととまいざる) 鳴聲惡鳥(ねなきあしきとり) 何故來(なんのゆへにきつるとのたまひて) 惡心(きたなきこころ) 當遭害(ましこれなむ) 平心(きよきこころ) 當無恙(つつみなけむ) 還投(かへしすつ) 上去(のぼりゆきて) 善友(よきとも) 大臨(大哭) 洽然(ひとしく) 攀持(よちかかる)【つかみかかる。】 排離(おしはなつ) 朋友喪亡(ともうせにたり) 光儀(よそほひ) 歌曰(うたにいはく)(あめ)なるや,弟織女(おとたなばた)の,(うな)がせる,玉御統(たまのみすまる)の,穴玉(あなたま)はや,御谷(みたに)二渡(ふたわた)らす,味耜高彥根(あぢすきたかひこね)。又曰,天離(あまさか)る,夷女(ひなつめ)の,い(わた)らす迫門(せと)石川片淵(いしかはかたふち)片淵(かたふち)に,網張渡(あみはりわた)し,()()しに,寄寄來(よしよりこ)ね,石川片淵(いしかはかたふち) 兩首歌辭(ふたうた) 號夷曲(ひなぶりとなづく) (あはして) 為妃(みめとす) 彼地未平矣(そのくにはさやげり) 不須(いな) 頗傾(かぶし) 凶目杵之國歟(しこめきのくにか) 驅除(ことむけしむ)【又云,はらはしむ。】 射鳥遨遊(とりのあそび) 所求(こひらまふところを) 當降吾兒(あがこをあめくだりこしまつらむ) 且將降間(あまくだりまさむとするあひだに) 已生(すてにあれましぬ) 上祖(とほつおや) 令配侍(そへてはむへらしむ) 行矣(さきくませ) 寶祚之隆(あまつひつぎのさかえ) 天壤(あめつち) 先驅(さきばらひ) 八達之衢(やちまたに) 赩然(てりかかやける) 從神(みとものかみ) 目勝(まかち) 露其胸乳(そのむなちをあらはにかきいてて) 抑裳帶(もひもをおしたれて) 咲噱(あざわらひ) 為之(かくすることは) 所幸道路(いでますみちに) 有如此居者(かくのごとくしてをるは) 當降行(いでますべし) 將我(はたあれや) 啟行(みちひらきゆらむ) 發顯(あらはしつる) 脫離(おしはなれ) 先期(さきのちぎり) 所乞(ねがふまにまに) 待送(あひおくる) 姓氏(かばねうぢと) 使平定(ことむけしむしつめしむ) 誅此神(このかみをつみなひ) 高胷(たかむなはか) 頗傾(かぶし) 報告(かへりごとまをす) 聞汝所言(いましがまうすところをきくに) 今當供造(いまつくりまつらむ) (かたしは) 為百八十紐(ももやそむすびにせむ) 將田供佃(みたつくりますらむ) 供造百八十縫之白楯(ももやそぬひのしらたてをつくらむ) 敕教(のたまふみこと) 奉從(まつりしたかふ) 為鄉導(くにのみちびきとして) 周流削平(めぐりあるきつつたひらく) 有逆命者(したがはぬひとをば) 加斬戮(ころす) 歸順者(まつろふもの) 加褒美(はほむ) 歸順之首渠(したがふひとのかみ) 乃合(すなはちつとふ) 誠款(まことのいたれることを) 配汝(いましにあはせて) 宜領(ひきゐて) 為作笠者(かさぬひなす)【為笠縫。】 彥狹知神(ひこさしりのかみ) 為作盾者(たてぬひとなす)【作盾縫。】 天目一箇神(あまのめひとつのかみ) 為作金者(かなだくみとす) 天日鷲神(あまのひわしのかみ) 為作木綿者(ゆふつくりとす) 弱肩被太手襁而(よわかたにふとたたすきをかけて) 代御手(みてしろとして) 宗源者(もとたるものなり) 起樹天津神籬及天津磐境(あまつひろろきおよびあまついはさかをこしたてて) 陪從(したかへて) 祝之(ほきて) 共殿(おなじどのもはべて) 同侍殿內(おなじどのもはべて) 所御(しろしめす) 當御於吾兒(あがこにまかせたてまつるべし) 虛天(おほぞら) 代父而(ちちのみことにかへてあまくだらしを) 服御之物(みそのもの) 復還於天(あめにかへりのほり) 胸副(むなそふ) 取捨隨敕(ともかくもとりたまはむみことのまにまに) 宮殿(みや) 是焉遊息(ここやすにたまふ) 遊幸海濱(うみへたにあそびいてますとき) 木花開耶(このはなさくや) 垂問(とひたまへ) 百机飲食奉進(ももとりのつくえものたてまつる) 不御而罷(めさずしてまちたまふ) 妹有國色(いろとかほよし) 引而幸之(めしてみとあとはす) 有身(はらみぬ) 詛之(とごひて) 不斥(しりそけずして) 永壽(いのちながき) 磐石之常存(いはほのときは) 移落(ちりおちなむ) 恥恨(はぢて) 唾泣(つばきなき) 俄遷轉(にはかにうつろひ) 當衰去矣(おとろへなむ) 短折(いのちみじかき) 天孫之子(あめまこのみこ) 不幸(ねなけむ) 共生(なりいづる)【下同之。】 齋主(いはひ) 顯露(あらはに) 火進(ほのすすみ) 竹刀(あをひゑ) 齋庭(ゆには) 截其兒臍(そのみこのほそのををきる) 竹林(たかはら) 釀天甜酒(あまのたむさけにかみて) (おほひし) 副持八目鳴鏑(やつめのなりかぶらをとりそへて) 天孫幸(あめみまこいでまし) 光彥(てるひこ) 來進(まうできすすむ) 告狀知聞(かたちまうししらしむ) 聞喜而生之歟(ききよくもめしませるかな) 躡誥(ふみたけび) 火炎(ほのほ) 火勢(ほとほり) 自火燼中(もえくしのなかより) (はじゆみ) 頭槌(かぶつちじ) 火難(ひのわざはひ) 靈異之威子等(ほしひにあやしきうづのこども)【又下二字かしこきこ。】 超倫之氣(ひとにすぐれたるいき) 木株(このたち) 火戶燔(ほのとはた) 草葉(かやのは) 若熛火而(ほのほのもことにして) 喧響之(をとなひし) 如五月蠅而(さばへなすさま) 沸騰(わきあがる) 有強禦(こまみむせく) 之者(しくやとるとのたまひて) 粟田(あはた) 大豆田(まめた) 不返(かへりごとまをさず)【不申返事。】 頓使(ひたつかひ) 遊行(いでます) 竹嶋(たかしま) 巡覽其地者(そのところをみめぐらしたましかば) 所住(すむ) 秀起(さきだつる) 手玉玲瓏(てたまもゆらに) 織紝之少女者(はたをるをとめは) 子女耶(むすめぞや) 大號(あねをまをし)【姉。】 少號(おとをまをし)【弟。】 母誓已驗(いろはのみことのちかひことするにいちしろし) 不與共言(あひいひまつらず) 為歌曰(うたなすいはく)沖藻(おきつも)は,()には()れども,小寢床(さねどこ)も,(あた)はぬかもよ,濱千鳥(はまつちどり)よ。】 添山(そほりのやま) 丹舄(にくつ) 火夜織(ほのより) 有海幸(うみのさちまします) 二人(ふたはしら) 其利(そのさち) 己釣鉤(をのがちを) 責其故鉤(そのもとのちをはたる) 橫刀(たち) 盛一箕(ひとみいれて) 急責(せめはたる) 在此(こkにましまして) 本末(もとすゑ) 勿復憂(またなうれへましぞ) 無目籠(まなしかたま) 可怜(うまし) 小汀(をはま) 海神(わたつみ) 雉堞(たかかきひめかき) 整頓(ととのほり) 臺宇(うでな) 玲瓏(てりかかやけり) 扶疏(はれりしきもし) 徙倚(よろほひ) 彷徨(たたずみ) 排闥而出(とびらをおしひらきていてたり) 舉目(あふぎて) 希客者(めづらしきまらひと) 蓆薦(たたみ) 延內(ゐている) 坐定(ゐしづまり) 來意(いでませるみこころ) 情之委曲(あるかたち) 大小之(はたのひろものはたのさもの) (いをとも) 赤女(あかめ)(たい)。】 經三年(みとせになりぬ) 安樂(やすらかに) (おもふ) (くに)(くに)。】 太息(はなはだなげく) 悽然(いたみて) 憂乎(うれへあればか) 從容(おもぶるに) 自伏(したがひなむ) 及將歸去(かへりおひなむとするにをよひて) 當產(こうみて) 急峻(とくさがしき) 產室(うぶや) 被厄困(なやまされて) 俳優之民(わざをきのひと) 施恩活(いこへたまへ) 隨其所乞(ながひのまにまに) 前期(さきのちぎり) 女弟(いも) 冒風波(かざなみをかをふりて) 臨產時(こうまむとするときにのぞみて) 幸勿以看之(こふなみたまひぞ) 覘之(うたがふ) 方產(みさかりにこうむとき) 海陸(うみのくがうみぢを) 親昵(むつましき) 裹兒(みこをつつみて) 波瀲(なぎさ) 草葺不合(かやふきあへず) 乾跡(からと) 長老(おきな) 大目麤籠(おほまあらこ) 無目(まなし) 堅間(かたま) 為浮木(うけきして) 尋汀而進(はまのまにまにいでます) 崇華(たかくかざり) 樓臺(たかどのうでなす)【合屋也。】 侍者(まかたち) 群從(おほくしたかへり) 貴客(たふときまらひと)【吉客。】 骨法(かたち)【色形。】 非常(ただひとにあらず) 當有天垢(まさにあめのかほ) 妙美之(まぐはし) 虛空彥者歟(そらつひこといふものか) 井中(ゐのそこ) 倒映人咲之顏(さかさまにひとのゑめるそもててれり) 客是(まらひとこれ) 奉慰(つかまつる) 故鄉(もとのくに) 意望欲還上國(うはつくににかへらむとおもほせり) 可詛言(とごひいはまく) 疑是之吞乎(うたがはしこれかのめるか) 貧窮(まぢ) 困苦(くるしび) 迅風(はやち) 洪濤(おほなみ) 沒溺(おぼほれ) 大鰐(わに) 勿臨之(ないでましぞ)【なみましぞ。】 燃火(ともしびにして) 大熊鰐(くまわに) 逶虵(もごよふ) 為恨(やらみとす)【如字。】 海鄉(わたのくに) 持養兒焉(みこをひたしまつらしむ) 全用(もぱら) 未合時(まだふきあはせざるときに) 好井(しみづ) 破碎(われくたけぬるをも) 顏色(みかほ) 且閑(またまれらなり) 非常之人者也(ただひとにはあらず) 臨吾處(あがもとにいでませり) 八重席(やへだたみ) 所失(うしなひてし) (いさめて) (つり) 中心欣慶(こころのよろこび) 八重之隈(やへくま) 勿棄置也(なすてたまひぞ) 後手(しりへで) 落薄(おとろへ) 賊害之心(そこなふこころ) 危苦(なやむ) 求愍(めぐめといはば) 當臣伏(したがひなむ) 垂救活(いけたまふ) 平復(たひらきぬ) 出潮溢瓊(しほみちのたまをいだししかば) 沒山(やまをいる) 緣高樹(たかきにのぼる) 窮途(きはまりせまる) 逃去(にげむ) 俳人(わざひと) 哀之(ゆるしたまへ) 涸瓊(しほふるたま)【潮干玉乎。】 神德(あやしきほひ) 伏事(したがひぬ) 苗裔(はつこ) 天皇宮墻之傍(すべらきのみかきのもとに) 代吠狗(ほゆるいぬしろ) 許諾(ゆるして) 獵獸(ししをかる) 來歸(かへれり) 數千(ちぢ) 低佪(うなだれ) 嬰羂(わなにかかり) 解而放去(ときてはなちやりき) 可怜御路(うましみち) 尋路(みちのまにまに) 海驢(みち) 設饌百机(ももとりのつくゑものをそなへて) 憂居海濱(うみべたにてうれへませりといふ) 未審虛實(いまだいつはりまこともあきらならず) 申事本末(とのたまふ) 纏綿(むつましく) 可稱曰(のたまはて ) 踉䠙(ますすのみち) 痴騃鉤(うるけぢ) 高田(あげた) 洿田(くぼた) 襤褸(やつれて) 歸伏(したがふ) 就君處(きみがもとにまうでむ) 造屋(やつくり)產屋(うぶや)。】 孕月(うみづき) 產期(こうむとき) 視其私屏(かきまみたまふ)【又云,そのひそかなることを。】 當可乎(よからむや) 徑去(ただにいぬ) 歌曰(うたひたまふ)沖鳥(おきつとり)鴨著島(かもづくしま)に,()率寢(ゐね)し,(いも)(わす)らじ,()(ことごと)も。】 乳母(ちおも) 備行(そなはり) 他婦(あたしをみな) 端正(きらぎらし) 奉報歌曰(かへしうたいはく)赤玉(あかだま)の,(ひかり)()りと,(ひと)()へど,(きみ)(よそひ)し,(たふと)くありけり。】 井水遠勝(みづおほくまされり) 請入(いれとこふ) 兩足(ふたのみあし) 寬坐(うちやそみにいたまひぬ) 益加(ますます) 鯔魚(なよし) 當言(のたまはく) 三下唾(みたびつはき) 作風招風(かざをきせよ) 嘯也(うそぶき) 瀛風(おきつかぜ) 邊風(へつかぜ) 居濱(うみべたにをきて) 無由可生(いかむよしなし) 善術(ときわざ) 欲自伏辜(したがひなむとす) 不與共言(あひいはず) 著犢鼻(たふさき) 潮漬足時(うしほのあしにつくときに) 為足占(あしうらす) 捫腰(こしをもちふ) 無廢絕(やむことなし) 飄掌(たひろかす) 令我屈辱(あれにはぢみよつ) 妾奴婢(やつこつかひをと) 勿復放還(またなかへしおひぞ) 既切(すでにひたぶなり) 別去(わかるる) 稻飯命(いなひのみこと) 四男(よはしらのみこ) 西洲(にしのくに) 所稱(いふところ) 八十連(やそつつぎ) 年少(としわかく) 時之號(ましますみな) 奄有(しろしめす)


       日本書紀第二【以上神代。】 皇帝一 神武天皇

[久遠の絆] [再臨ノ詔]