出雲國造神賀詞(いずもこくそうかむよごと)

八十日(やそかひ)は在(あ)れども,今日(けふ)の生(い)く日 (ひ)の足(た)る日(ひ)に出雲國(いずものくに)の國造姓名(くにのみやつこかばねな),恐(かしこ)み恐(かしこ)みも申(まを)し賜(たま)はく,
掛(か)けまくも恐(かしこ)き明御神(あきつかみ)と大八嶋(おほやしま)の國知(くにし)ろしめす天皇命(すめらみこと)の大御世(おほみよ)を手長(たなが)の大御世(おほみよ)と齋(いは)ふと為(し)て,
出雲國(いずものくに)の青垣山(あをがきやま)の内(うち )に,下(した)つ石根(いはね)に宮柱太知(みやばしらふとし)り立(た)て,
高天原(たかまのはら)に千木高知(ちぎたかし)り坐(いま)す伊射那伎(いざなぎ)の日真名子加夫呂伎熊野大神櫛御氣野命國作(ひまなごかぶろきくまぬのおほかみくしみけぬのみことくにつく)り坐(ま)し,
大穴持命(おほなもちのみこと),二柱(ふたはしら)の神(かみ)を始(はじ)めて,百八十六社(ももやそまりむつのやしろ)に坐(ま)す皇神達(すめかみたち)を,某甲(それがし)が弱肩(よわかた)に太襷取(ふとたすきと)り掛(か)けて,
伊都幣(いつぬさ)の緒結(をむす)び,天(あめ)の美賀秘冠(みかげかがふ)りて,伊豆(いつ)の真屋(まや)に麁草(あらくさ)を伊豆(いつ)の席(むしろ)と苅(か)り敷(し)きて,
伊都閉黒(いつへくろ)まし,天(あめ)の嚴和(みかわ)に齋(い)みこもりて,志都宮(しづみや)に忌(いは)ひ靜(しづ)め仕(つか)へ奉(まつ)りて,
朝日(あさひ)の豐榮登(とよさかのぼり)に伊波比(いはひ)の返事(かへりごと)の神賀吉詞(かむほぎのよごと)を奏(まを)し賜(たま)はくと奏(まを)す.

高天(たかま)の神王高御魂命(かぶろきたかみむすびのみこと)の皇御孫命(すめみまのみこと)に,天下大八嶋國(あめのしたおほやしまのくに)を事避(ことさ)り奉(まつ)りし時(とき),出雲臣等(いずものおみら)が遠祖(とほつおや),
天穗比命(あめのほひのみこと)を國體見(くにかたみ)に遣(つか)はしし時(とき)に,天(あめ)の八重雲(やへぐも)を押(お)し別(わ)けて天翔(あまかけ)り國翔(くにかけ)りて,
天下(あめのした)を見廻(みめぐ)りて返事申(かへごとまを)し給(たま)はく, 豐葦原(とよあしはら)の水穗國(みずほのくに)は,
昼(ひる)は五月蝿如(さばへな)す水沸(みずわ)き夜(よる)は火瓮(ほへ)の如(ごと)く光(かがや)く神在(かみあ )り.石根木立青水沫(いはねこのたちあほみなわ)も事問(ことと)ひて荒(あら)ぶる國(くに)なり.
然(しか)れども鎮(しづ)め平(む)けて皇御孫命(すめみまのみこと)に安國(やすくに)と平(たひら)けく知(し)ろしめし坐(ま)さしめむと申(まを)して,己命(おのれみこと)の児(みこ),
天夷鳥命(あめのひなとりのみこと)に布都怒志命(ふつぬしのみこと)を副(そ)へて天降(あまくだ)し遣(つかは)して荒(あら)ぶる神達(かみども)を撥(はら)ひ平(む)け,
國作治(くにつくらし)し大神(おほかみ)をも媚(まは)ひ鎮(しず)めて,大八嶋國(おほやしまのくに)の現事顯事事避(うつしあらはにごとことさ)らしめき.
乃(すなは)ち大穴持命(おほなもちのみこと)の申(まを)し給(たま)はく,皇御孫命(すめみまのみこと)の靜(しず)まり坐(ま)さむ大倭國(おほやまとのくに)と申(まを)して,
己命(おのれみこと)の和魂(にぎみたま)を八咫鏡(やたかがみ)に取(と)り託(つ)けて倭大物主櫛嚴玉命(やまとのおほものぬしくしみかたまのみこと)と御名(みな)を称(たた)へて大御和(おほみわ)の神奈備(かむなび)に坐(ま)せ,
己命(おのれみこと)の御子(みこ),阿遅須伎高孫根命(あぢすきたかひこねのみこと)の御魂(みたま)を葛木(かつらき)の鴨(かも)の神奈備(かむなび)に坐(ま)せ,
事代主命(ことしろぬしのみこと)の御魂(みたま)を宇奈提(うなで)に坐(ま)せ,賀夜奈流美命(かやなるみのみこと)の御魂(みたま)を飛鳥(あすか)の神奈備(かむなび)に坐(ま)せて,
皇御孫命(すめみまのみこと)の近(ちか)き守神(まもりのかみ)と貢(たてまつ)り置(お)きて,八百丹杵築宮(やほにきづきのみや)に靜(しず)まり坐(ま)しき.是(ここ)に親神魯伎神魯備命(むつかむろぎかむろみのみこと)の宣(のりたま)はく,
汝天穗比命(いましあめのほひのみこと)は天皇命(すめらみこと)の手長(たなが)の大御世(おほみよ)を堅石(かきは)に常石(ときは)に伊波(いは)ひ奉(まつ)り,伊賀志(いかし)の御世(みよ)に幸(さき)はへ奉(まつ)れと仰(おほ)せ賜(たま)ひし,
次(つぎて)の隨(まに)まに供齋仕(いはひごとつか)へ奉(まつ)りて朝日(あさひ)の豐榮登(とよさかのぼり)に神(かみ)の禮白臣(ゐやしろおみ)の禮白(ゐやしろ)と御禱(みほぎ)の神宝献(かむだからたてまつ)らくと奏(まを)す.

白玉(しらたま)の大御白髪在(おほみしらがま)し,赤玉(あかたま)の御阿加良(おほみあから)び坐(ま)し,青玉(あをたま)の水江玉(みずえのたま)の行相(あひゆき)に明御神(あきつみかみ)と大八嶋國知(おほやしまのくにし)ろしめす天皇(すめらみこと)の手長(たなが)の大御世(おほみよ)を,
御橫刀廣(みはかしのひろ)らに誅(う)ち堅(かた)め,白(しろ)き御馬(みうま)の前足(まえのあし)の爪(つめ),後足(しりへ)の爪(つめ)の踏(ふ)み立(た)つる事(こと)は,大宮(おほみや)の内外(うちと)の御門(みかど)の柱(はしら)を上(うは)つ石根(いはね)に踏(ふ)み堅(かた)め,
下(した)つ石根(いはね)に踏凝(ふみこら)し立(た)て,振(ふ)り立(た)つる耳(みみ)の彌高(いやたか)に天下(あめのした)を知(し)ろしめさむ事(こと)の志(しるし)のため,白鵠(しらとり)の生御調(いきみつき)の玩物(もてあそびもの)と倭文(しづ)の大御心(おほみこころ)も多親(たし)に彼方(をち),
の古川岸此(ふるかわきしこち)の古川岸(ふるかわきし)に生(な)ち立(た)てる若水沼間(わかみぬま)の彌若叡(いやわかえ)に御若叡坐(みわかえま)し,須(す)すぎ振(ふる)る遠止(おど)の美(うるはし)の水(みず)の彌乎知(いやをち)に御袁知坐(みをちま)し,
麻蘇比(まそび)の大御鏡(おほみかがみ)の面(おも)をおしはるかして見行(みそなは)す事(こと)のごとく,明御神(あきつみかみ)の大八嶋國(おほやしまのくに)を天地日月(あめつちひつき)と共(とも)に安(やすら)けく平(たひら)けく知(しろ)しめさむ事(こと)の志(しるし)の太米(ため)と,
御禱(みほぎ)の神宝(かむだから)を捧(ささ)げ持(も)ちて神(かみ)の禮白(ゐやしろ),臣(,おみ)の禮白(ゐやしろ)と,恐(かしこ)み恐(かしこ)みも天(あま)つ次(つぎて)の神賀吉詞白(かむほぎのよごとまを)し賜(したま)はくと奏(まを)す.