神字日文傳 屋代弘賢 漢文序
     我道者,道之所以為道之道,而四方之洲,萬有之嶼,所以為道者不與焉。乃吾友氣吹舍平篤胤,既能論之矣。蓋此翁也,其人中之神,學林之聖乎。其奇說經考,沸沸涌出,一採比則萬言如流,讀其所著,古史徵與傳而可知也。此道也,嚮者有縣居鈴屋兩夫子,而高唱遠攷,使人蹈其轍焉。其功其偉哉。雖然比諸吾翁,則猶未免乎漏真遺粹也。豈不可畏乎。
     翁邇者著神字日文傳,需序於余。余受而讀之,不堪愉快,㤿㥂之至。昔嘗有志於斯,而未成焉。然而吾友之有此舉,使余嘆美其為先鋒,而能破其疑陳焉。其功亦偉哉。蓋其為書也,據古書舊說,而知必當有神字;據太兆之有驗體,而知神製之所由;據字原之存,而知有五十韻;據多集廣考,而知神字之無比於四洲萬嶼之字。據正體而知譌字,據彼而知此。乃不取古賢先正所論,幽討深索之未盡者。不取諺文疑似之論 ,不取偽經妄書之亂真奪粹者,不取數量甲子之字、跋文題言之說,似可取而不可取者,是皆瞭瞭有可徵者焉。其他確論定說之多,一讀而可知耳。翁既著開題記,而有論此事者。此書蓋雖有棄舊執新者,而大意之所在,猶崑崙泰山,塊然一定而不復革焉。故彼記與此書,表裡實相須。則讀者當參考其異同也。
     於戲,翁其何人?而能如是也。蓋其志以為:「吾之所颺言者,苟忠於神,於皇、於國,則此書當不朽於千載之下矣。苟否,則有如秦人坑焚之災。」其誓於神祗也如是。是以其書,往往慷慨憤愴,洗濯天下之耳目,而不復顧前後焉。然而,世狗奴鼠輩之多,嫉之妬之,將㗊㗊以其微力,而輙動乎萬 斤之論。其不能然者,亦將一言一默,謗誹於其陰翳之地。可憐哉!噫其蓋知世唯有縣居鈴屋兩夫子,而知此翁之所以為此翁也。
     夫友友其心,心之所合,苟非所謂道,則孰若無友之為愈也。今余之與翁,即心友也。是故余之所言,翁採而記之。翁之所說,余讀而信之。此書之成,亦經余之手者居多。則吾豈得敢為虎豹貓鼬,而不驅彼狗奴鼠輩哉。然則天下獨有吾,而能知此翁之所以為此翁矣。請遂言之。蓋此人也,窺天神地祇之德,察現世冥府之道,為和魂漢才之人,成古傳事實之學矣。其謂之人中之神,學林之聖者,不亦宜乎。是為序,以應其需。

      文政七年七月 屋代弘賢撰【曾我常昌書】


 
神字日文傳 岩崎長世 序
     奧津浪おきつなみ邊津浪へつなみ立返へり,吾が氣吹舍大人うし正香ただかを思へば,神にしましけりひじりましけり,神は知らず,ひじりは知らねど,劔太刀うるぎだちさや拔出ぬけで現身うつそみ世人よのひとなみにはましまさざりけり,如斯思かくおもひつつあるに,或時あるとき此神字日文傳これのかむなひふみのつたへ寫本うつしまきたび開見ひらきみれば,神嚴かみいつ屋代翁やしろのちぢはや言舉ことあげせられてかみひじりただへられしはうめ,屋代翁なりけりや宇斯が真盛みさかりに古學いにしへまないそしみたまへりしころは,おのれ甚肝若いときもわかくて其御悟書そのみさとしぶみをも見御前みまへ御教受賜みをしへうけたまはりてもふかみるの深くも辿たどらず,股海松まあみる復見またみむ物ともおもへらずてゐたらとし,月行水つきゆくみづの過ぎにしこと今更いまさら玉帚取替たまははきとりかへざるる物習ものまなませばとくいかなしむも甲斐無かひなしやさるを,には古學いにしへまな彌彌益益開行いよいよますますひらけゆきて,此御書このみふみ寫卷うつしまきをうちうちたばれる御教子みをしへこさらなりさらぬ,かたへのすき人迄ひとまで風のとの程に聞傳ききつたへ,十寸見鏡ますみのかがみ近く見傳みつたへて大人うし學問之神まなびのかみ御號みな御押みおしでやなにやとものたまへるにならはひつつ神祭かみまつ御前みまへ御旗みはたをさへに神字かむな書奉しるしまつるも,此所ここ彼所かしこありそ,波有なみありとなも聞來きこえくるは萬古よろづいにしへかへらひゆくめでたき御代みよしるしにこそ,しかはあれど,片山櫻かたやまさくら咲撓さきををれば非時ときじく事のごとく,月影つきかげさやけき,そらには雲霧立迷くもきりたちまよことの如く。其後そののちなん本末もとすゑとかふなるふみ若狹海わかさのうみける昆布廣ひろめひろまれるを見れば,神字たばりし蕃國みやつこぐにはるかにのちにさかしらせし所謂いはゆる諺文と云へる物をかしこきや神字のおやごとあげつらへるは,嚴矛いかしほこ本末取違もとすゑとりたがへ,くつかむぶりかかぶらむ癡わざ假令たとへに似たれど,たまさかまどはし,神にまじこられむ人もぞあるとうれたくて如何いかでこれの日文傳ひふみのつたへと五十音義訣とを印本すりまきにして,ひろくせばやさもらば,まどはし神禍かみのまがはらひで,いとたふとき神字の愈世いよよよ潮干之石しほひのいしあらはれなましをといそがれわたをりしもあれ,馬蹄うまのつめ筑紫道つくしのみちくちに相田饒穗と云へる人い宇斯が御許みもと申乞まをしこひて,これ上卷かみつまきをし,るときてひれひもの同心おなじこころ思負おもひまけたるももしぬ美濃國人みぬのくにびと外垣重護,久保網根等にはからひて下卷しもつまき,附錄をも濱千鳥はまつちどりの友共に櫻木板さくらきのいたらせて四方八方よもやも學問まなび同胞はらからにも他人あだしひとにもこへらむにはには氣吹舍の御庫みくらより頒給あかちたばらむ物となもする此人人之道このひとびとのみちためつとめしこころのまめまめしさに尚得非なほえあらずて噞喁あぎとふは神遊かみのあそび笛作笛吹ふえつくりふえふ手人てびと岩崎長世。




 
神字日文傳 上巻