源氏物語

藤壺宮前行物語競繪之段

 方藤壺母后參內中宮之頃,因思難捨所觀之繪,遂怠修道之御行,且為鑑覽。即招仕旁女房等人,命其各抒論見,即分左右二列。
 左以梅壺女御,並平典侍、侍從內侍、少將命婦等。右以弘徽殿女御,並大貳典侍、中將命婦、兵衛命婦等。此等,咸為當世博覽之人,相互爭論,各有其理,藤壺聽之,甚感雅趣。即命:「首先,欲以物語肇成之祖《竹取物語》老翁之繪,配以《宇津保物語》俊蔭之繪。汝等各論其優劣,以為辯戰。」
 左列齋宮女御等奏曰:「嫩竹之言,乃世世古傳之語,雖無耳目一新之風趣,然輝夜姬不染俗世之垢,懷抱清高之志,終得升入月宮。視其不改志願,履前世之約者,足見宿緣匪淺,蓋神代之事矣。 故,世俗之女,寔當望塵莫及也。」
 右列弘徽殿女御等駁曰:「輝夜姬升天雲居,乃不可及之事,是以探悉寔難,誰人可知?。論其委世之時,生於竹中,可見乃低微之人。其輝夜姬雖映一家之內,然終究未能為妃,無以照耀九重宮闕。安倍捨千金以購火鼠裘之思慕,瞬時煙滅,終不得成,乏味之至。車持親王,既知蓬萊深邃,不可到達,乃偽造玉枝,終為敗露。亦是乏善可陳。」
 此《竹取物語》繪卷,乃巨勢相覽所翰,加以紀貫之題書。紙以紙屋紙,且鑲唐綺以飾。裱紙赤紫,軸為紫檀。此,當世常裝也。



【原文】
 中宮も參らせ給へる頃にて,方方,御覽じ捨て難く思ほすことなれば,御行ひも怠りつつ御覽ず。この人人のとりどりに論ずるを聞こし召して,左右と方分かたせ給ふ。
 梅壷の御方には,平典侍、侍從の內侍、少將の命婦。右には,大貳の典侍、中將の命婦、兵衛の命婦を,ただ今は心にくき有職どもにて,心心に争ふ口つきどもを,をかしと聞こし召して。先づ,物語の出で来始めの祖なる竹取の翁に宇津保の俊蔭を合はせて争ふ。
 「なよ竹の世世に古りにけること,をかしき節もなけれど,かくや姫のこの世の濁りにも穢れず,遥かに思ひ昇れる契り高く,神代のことなめれば,あさはかなる女,目及ばぬならむかし。」と言ふ。
 右は「かくや姫の昇りけむ雲居は,げに,及ばぬことなれば,誰も知りがたし。この世の契りは竹の中に結びければ,下れる人のこととこそは見ゆめれ。一つ家の內は照らしけめど,百敷の賢き御光には並ばずなりにけり。阿倍のおほしが千千の金を捨てて,火鼠の思ひ片時に消えたるも,いとあへなし。車持の親王の,真の蓬莱の深き心も知りながら,いつはりて玉の枝に疵をつけたるを過ちとなす。」
 繪は巨勢の相覽,手は紀の貫之書けり。紙屋紙に唐の綺を陪して,赤紫の表紙,紫檀の軸,世の常の裝ひ也。

[久遠の絆] [再臨ノ詔]