古事記 上卷 並序


序文

序、古事記序

 (やつこ)安萬侶(やすまろ)(まをす)(それ)混元(ひたたけたるもの)(こり)氣象(けはひかたち)未效(いまだあらはれず)無名(なもなく)無為(しわざもなく),誰知其形(そのかたち)(しかれども)乾坤(あめつち)初分,參神(みはしらのかみ)造化之首(よろづもののはじめ)陰陽(めを)斯開(ここにひらけ)二靈(ふたはしらのかみ)群品之祖(もろもろのもののおや)所以(そこゆゑ),出入(よもつくに)(うつしくに)(ひのかみ)(つきのかみ)(あらはれ)(あらふ)目。浮沉(うきしづみ)海水(うしほ)(あまつかみ)(くにつかみ)(あらはれ)(すすぐ)身。(かれ)太素(もと)杳冥(くらけ),因本教(もとつをしへ)(しれり)孕土(くにをはらみ)產島(しまをうみ)之時,元始(はじめ)綿邈(とほく)(より)先聖(さきのひじり)(さとれり)生神(かみをうみ)立人(ひとをたて)之世。寔知(まことにしりぬ)(かけ)(はき)珠,而百王(もものきみ)相續(あひづき)(かみ)(きり)(へみ),以萬神(よろづのかみ)蕃息(うまはりし)與。(はかり)安河(やすのかは)(たひらげ)天下(あめのした)(あげつらひ)小濱(をはま)(きよめ)國土(くに)

 是以(ここをもちて)番仁岐命(ほのににぎのみこと),初(くだり)高千嶺(たかちほのみね)【○瓊瓊杵尊。】神倭天皇(かむやまとのすめらみこと)經歷(へましき)秋津島(あきづしま)(なれるもの)(くま)(いだし)(つめ)天劍(あめのつるぎ)(えたまひき)高倉(たかくら)生尾(をおひたるひと)(さへ)(みち)大烏(おほきからす)(みちびき)吉野(よしの)列儛(まひをつらね)攘賊(あたをはらひ),聞歌伏(あた)【○神武。】(すなはち)覺夢(いめをさとり)(いやまひ)(あまつかみ)(くにつかみ)所以(そこゆゑ)(たたへ)賢后(さかしききみ)【○崇神。】(けぶり)(なで)黎元(おほみたから),於今(つたへ)聖帝(ひじりのみかど)【○仁德。】(さかひ)(くに)(をさめ)近淡海(ちかつあふみ)【○成務。】(ただし)(かばね)(えらひ)(うぢ)(をさめ)遠飛鳥(とほつあすか)【○允恭。】步驟(あゆむとうぐつく)各異(おのおのこと)(かざれる)(すなほ)不同。(なし)稽古(いにしへをかむがへ)(ただし)風猷(をしへ)既頽(すでにおとろへたる)照今(いまをてらし)(おきぬひ)典教(のり)欲絕(たえむとする)

 (いたり)飛鳥清原大宮(あすかのきよみはらのおほみや)(をさめ)大八洲(おほやしま)天皇(天武)御世(みよ)潛龍(かづけるたつ)體元(のりにかなひ)洊雷(しきれるいかづち)應期(ときにこたへき)。聞夢歌(いめのうた)(うらなひ)纂業(わざをつがむ)(いたり)夜水(よるのかは)而知承基(もとゐをうけむ)。然天時(あめのとき)未臻(いまだいたらず)蟬蛻(せみのごとくもぬけましき)南山(みなみのやま)人事(ひとのわざ)共洽(そなはり)虎步(とらのごとくあゆみ)東國(ひむかしのくに)皇輿(すめらみことのこし)忽駕(たちまちいでまし)凌渡(こえわたりき)山川(やまかは)六師(すめらみいくさ)雷震(いかづちのごとくふるひ)三軍(おほきいくさ)電逝(いなづまのごとくゆきき)杖矛(ほこをつゑつき)擧威(いきほひをふるひ)猛士(たけしきをのこ)烟起(けぶりのごとくおこりき)絳旗(はたをあかく)耀兵(つはものをかかやかし)凶徒(あしきともがら)瓦解(かはらのごとくとけき)。未移浹辰(いくばくのとき)氣沴(わざはひ)自清(おのづからしづまりぬ)。乃(はなち)(いこへ)馬,愷悌(よろこびやすまり)歸於華夏(みやこ)卷旌(はたをまき)戢戈(ほこををさめ)儛詠(まひうたひ)(とどまり)都邑(みやこ)(ほし)(やどり)大梁(とり)(つき)(あたり)俠鍾(きさらぎ)清原大宮(飛鳥淨御原宮)(のぼり)天位(あまつくらゐ)(みち)(すぎ)軒后(黃帝)(うつくしび)(あふづくみ)周王(周文王)(とり)乾符(あまつしるし)(すべ)六合(あめのした),得天統(あまつひつぎ)(かねたまひ)八荒(やものきはみ)。乘二氣(ふたつのけはひ)(ただしき)(ととのへ)五行(いつつのめぐり)(つぎて)。設神理(あやしきことわり)奬俗(よにすすめ)(しき)英風(すぐれたるをしへ)弘國(くににひろめたまひき)重加(しかのみにあらず)智海(さとりのうみ)浩瀚(おぎろ)潭探(ふかくさぐり)上古(いにしへ)心鏡(こころのかがみ)煒煌(あきらけく)明覩(あきらけくみ)先代(さきつよ)

 於是(ここに)天皇(天武)詔之(のりたまひし):「(あれ)諸家(もろもろのいへ)所齎(もてる)帝紀(すめろきのふみ)本辭(さきつよのことば),既(たがひ)正實(まこと),多加虛偽(いつはり)當今之時(いまのときにあたり),不改其失(そのあやまり)未經(たたず)幾年(いくばくのとし)其旨(そのむね)欲滅(ほろびなむとす)斯乃(これすなはち)邦家(みかど)經緯(たてぬき)王化(おもぶけ)鴻基(おほきもとゐ)焉。故惟(かれおもひ)撰錄(えらひしるし)帝紀,討覈(たづねきはめ)舊辭(ふること)削偽(いつはりをけずり)定實(まことをさだめ),欲(つたへむ)後葉(のちのよ)。」時有舍人(とねり)(うぢ)稗田(ひえだ)()阿禮(あれ)(よはひ)廿八(はたちあまりやつ)為人(ひととなり)聰明(とくさとく)度目(めをわたれば)誦口(くちによみ)拂耳(みみにふれば)勒心(こころにしるす)。即勅語(みことのり)阿禮,令誦習(よみならはしめ)帝皇日繼(すめろきのひつぎ),及先代舊辭(さきつよのふること)。然運移(ときうつり)世異(よかはり)未行其事矣(いまだそのことをおこなひはまはず)

 伏惟(ふしておもひ)皇帝(すめらみこと)陛下(元明)得一(ひとつをえ)光宅(みちをり)通三(みつにわたり)亭育(やしなひ)。御紫宸(おほみや)(うつくしび)(おほひ)馬蹄(うまのつめ)之所(きはまる)(いまし)玄扈(みあらか)(おもぶけ)船頭(ふなのへ)之所(およぶ)。日(うかび)重暉(ひかりをかさね)雲散(くもちり)非烟(けぶりにあらず)連柯(えだをつらね)并穗(ほをあはす)(しるし)(ふみひと)不絕(たたず)(しるす)列烽(とびひをつらね)重譯(をさをかさぬ)(みつき)(みくら)空月(むなしきつき)可謂(いひつべし)名高文命(夏禹),德(まされり)天乙(商湯)矣。

 於焉(ここに)(をしみ)舊辭(ふること)誤忤(あやまりたがへる),正先紀(さきつよのふみ)謬錯(あやまりたがへる)。以和銅(わどう)四年(しねに)九月(なかつき)十八日(とほあまりやのか),詔臣安萬侶(やすまろ):「撰錄(えらひしるし)稗田阿禮(ひえたのあれ)所誦(よめる)勅語(みことのり)舊辭(ふること),以獻上(たてまつれ)。」者。(つつしみ)(まにまに)詔旨(みことのり)子細(こまやかに)採摭(とりひりしつ)。然上古之時(いにしへのとき)言意(こととこころ)並朴(ともにすなほ)敷文(ふみをしき)構句(ことばをかまふる),於(もじ)(がたし)(すでに)因訓(よみにより)(のべる)者,(ことば)不逮(およばず)心。(またく)(こゑ)連者(つらねたるは)事趣(ことのおもぶき)更長(さらにながし)。是以今,(あるは)一句(ひとことば)(うち)交用(まじへもちゐつ)音訓(こゑとよみ)。或一事(ひとこと)之内,全以訓(しるしつ)。即辭理(ことばのすぢ)叵見(みえがたき)(しるべ)(あかし)意況(こころのかたち)易解(さとりやすき)非注(しるべせず)。亦於(うぢ)日下(くさか)くさか(玖沙訶),於()(たらす)(もじ)たらす(多羅斯)如此之類(かくあるたぐひ)隨本(もとのまにまに)不改(あらためず)
 大抵(おほかた)所記(しるせつところ)者,自天地開闢(あめつちのひらけし)(はじめ),以(をはる)小治田(をはりだ)御世(推古)(かれ)天御中主神(あめのみなかぬしのかみ)以下(よりしも)日子(ひこ)波限建鵜草葺不合尊(なぎさたけうかやふきあへずのみこと)以前(さき),為上卷(かみつまき)神倭伊波禮毘古(かむやまといはれびこ)天皇(神武)以下,品陀(ほむだ)御世(應神)以前,為中卷(なかつまき)大雀(おほさざき)皇帝(仁德)以下,小治田大宮(をはりだのおほみや)以前,為下卷(しもつまき)(あはせて)三卷(みまき)(つつしみ)獻上(たてまつる)(やつこ)安萬侶,誠惶(まことにおそり)(かしこみ)頓首頓首(ぬかつきまをす)

和銅(わどう)五年正月(むつき)廿八日 正五位上(おほきいつのかみのくらゐ)(いさを)五等(いつのしな) 太朝臣(おほのあそみ)安萬侶(やすまろ)


天御柱 上立神岩
伊邪那岐、伊邪那美聖婚淤能碁呂島,生國、生神,以為群品之祖。


黃泉平坂 伊賦夜坂 千引之石
伊邪那岐入黃泉,歸顯國,禊祓而生諸神與三貴子。


高千穗峽 真名井之瀧
須佐之男、天照誓於真名井,喫劍吐珠而續皇胤。後斬大蛇於出雲。


高千穗 天安之河原
天照大神幽居,天下常闇。眾神神議於天安河原,計可禱之方。


稻佐濱 辨天島
天神地祇,論出雲讓國於稻佐濱。


熊野 天磐楯 神倉神社
神武東征,皇軍遇毒氣於熊野,幸獲神劍於高倉下,遂得救。


天武天皇 天渟中原瀛真人天皇
大海人皇子,坐飛鳥淨御原宮,治天下。是為天武天皇。


日本根子天津御代豐國成姬天皇
元明天皇,即阿閇皇女,天智帝皇女,而草壁皇子正妃。生文武、元正帝。詔敕撰風土記、古事記。


太安萬侶墓


天地創造


高天原 高天原遙拜所


天地初闢洲壤浮漂
五別天神者,天御之中主神、高御產巢日神、神產巢日神、宇摩志訶備比古遲神、天之常立神。

國之常立神御面


國之常立神、豐雲野神


伊佐奈岐宮、伊佐奈彌宮
月讀宮境內。伊勢皇大神宮別宮,祀伊邪那岐神、伊邪那美神。

一、天地開闢

 方天地(あめつち)初發之時(はじめてあらはれしとき),於高天原(たかあまのはら)成一神。其名,天之御中主神(あめのみなかぬしのかみ)【高下天,訓あま(阿麻)。下(ならふ)此。】
 次,高御產巢日神(たかみむすひのかみ)
 次,神產巢日神(かむむすひのかみ)。此三柱(みはらし)神者,皆獨神(ひとりがみ)成坐(なりまし)隱身也(みをかくしき)【○(ともに)稱,造化三神。】

 次,國稚(くにわかく)浮脂(うけるあぶら),而譬猶水母(くらげ)浮水上(ただよへる)者。于時成神,狀如葦芽(あしかひ)萌騰(もえあがれる)。其名,可美葦芽(宇摩志阿斯訶備)彥遲神(比古遲のかみ)可美葦芽彥遲(うましあしかびひこぢ)原文うましあしかびひこぢ(宇摩志阿斯訶備比古遲)以音。】
 次,天之常立神(あめのとこたちのかみ)
 此二柱(ふたはしら)神,(ともに)獨神成坐而隱身也。又,上件(かみのくだり)五柱(いつはしら)神,所謂別天神(ことあまつかみ)是也。


 次成神(なりしかみ),名,國之常立神(くにのとこたちのかみ)(よみ)常立亦如上。】
 次,豐雲野神(とよくもののかみ)。此二神,亦獨神成坐而隱身也。

 次,男神,埿土煮神(宇比地邇のかみ)【○埿土煮(うひぢに)原文うひぢに(宇比地邇)以音。】
 次,(いも)沙土煮神(須比智邇のかみ)【○沙土煮(すひぢに)原文すひぢに(須比智邇)以音。與兄神埿土煮尊並為一世,下傚此。】
 次,男神,角杙神(つのぐいのかみ).
 次,妹,活杙神(いくぐいのかみ)【兄妹二柱。】
 次,男神,大戶道神(意富斗能地のかみ)【○大戶道(おほとのぢ)原文おほとのぢ(意富斗能地)以音。】
 次,妹,大戶邊神(大斗乃辨のかみ)大戶邊(おおとのべ)原文おおとのべ(大斗乃辨)以音。兄妹二柱。】
 次,男神,面足神(淤母陀流のかみ)【○面足(おもだる)原文おもだる(淤母陀流)以音。】
 次,妹,惶根神(阿夜訶志古泥のかみ)惶根(あやかしこね)原文あやかしこね(阿夜訶志古泥)以音。兄妹二柱。】
 次,男神,伊邪那岐神(いざなきのかみ)
 次,妹,伊邪那美神(いざなみのかみ)【此兄妹二神之名以音。○別為男誘神、女誘神,書紀作伊弉諾尊(いざなぎのみこと)伊弉冉尊(いざなみのみこと)上自國之常立神(くにのとこたちのかみ)以下(よりしも)伊邪那美神(いざなみのかみ)以前(よりさき),并稱神世七代(かみよななよ)【所以為七代者,二柱獨神(ひとりがみ)各云一代,次(ならべる)十神(とはしらのかみ)(あはせ)二柱計為一代(ひとよ)也。】

二、二靈聖婚與生國生神

 於是,天神(あまつかみ)諸命(もろもろのみこと),詔伊邪那岐(いざなぎ)伊邪那美(いざなみ)二柱神曰:「是飄流(多陀用弊流)之國者,汝等宜修理固成(つくろひかためなせ)。」遂依言(ことよし)(たまひ)天沼矛(あめのぬほこ)(かれ)二柱神,(たたし)天浮橋(あめのうきはし)【立,訓たたし(多多志)。】指下(さしおろし)沼矛(ぬほこ)攪之(かきし),則滄溟(しほ)汩汩(こをろこをろ)畫鳴(かきなし)【訓鳴云なし(那志)也。】引上(ひきあげ)沼矛時,矛末(ほこのすゑ)垂落(しただりおちし)(しほ)【○滄溟(しほ)(しほ),底本作(しほ)。】(こり)累積(かさなりつもり)成島,是淤能碁呂島(おのごろしま)【島名以音。自凝島(おのごろしま)是也。
 二神天降(あまくだり)其島,覓得(みたて)天之御柱(あめのみはしら)、復八尋殿(やひろどの)於是(ここに),陽神問其妹(そのいも)伊邪那美命曰:「汝身(なむぢがみ)者,如何(いかにか)成也(なれる)?」答申(こたへてまをす):「吾身(あがみ)層層鑄成(なりてなりて),然有一成闕處(なりあはぬところ)。」爾伊邪那岐(のりたまひ):「吾身者亦層層鑄而,有一成餘處(なりあまれるところ)(かれ)(もち)此吾身成餘處,刺塞(さしふさぎ)汝身所闕處,以為(おもふ)生成(うみなさむ)國土(くに)奈何(いかに)【訓生云うむ(宇牟),下效此。】」伊邪那美答曰:「(しか)(よし)。」(しかく)伊邪那岐命詔:「然者(しからば)(あれ)與汝行迴逢(ゆきめぐりあひ)天之御柱(あめのみはしら),而為洞房之媾合(美斗能麻具波比)【○洞房原文みと(美斗),寢所也。媾合原文まぐはひ(麻具波比),男女交合之意,或引申作結婚。】
 如此之期(かくちぎり)(すなはち)詔:「汝者,(より)迴逢(めぐりあへ)。我者,自(ひだり)迴逢。」約竟(ちぎりをはり)以迴時,伊邪那美命先言(まづいはく):「妍哉(阿那邇夜志)俊俏壯士焉(え袁登古を)!」(のちに)伊邪那岐命言:「妍哉(阿那邇夜志)可愛美少女焉(え袁登賣を)【○妍哉,感動詞,此云あなにやし(阿那邇夜志)。】(おのおの)言盡之後(いひをはりしのち),陽神(のらし)其妹曰:「女人(をみな)先言(まづいひつる)不良(よくあらず)。」雖然(しかれども),仍(おこし)夫婦之道於組所(久美度)【○組所原文くみど(久美度),夫婦之閨房也。】
  生子,水蛭子(ひるこ)。此子者,入葦船(あしぶね)流去(ながしさりき)
  (つぎ)生,淡島(あはしま)。是亦不入(いれず)子之列(このつら)

 於是,二柱神(はかり)云:「今吾所生之子(あがうめるこ),不良。(なほ)宜白(まをすべし)天神之御所(みもと)。」即共參上(まゐのぼり)(こひき)天神之命。爾天神之命(あまつかみのみこと)太占(布斗麻邇)卜相(うらなひ)詔之(のりたまひし):「(よりて)女先言而不良。(また)還降(かへりくだり)改言(あらためいへ)!」【○太占原文ふとまに(布斗麻邇),燒鹿之肩胛骨,觀其裂痕之狀以卜占也。】故爾(かれしかく)返降(かへりくだり),更往迴(ゆきめぐる)其天之御柱如先(さきのごとく)
 於是,伊邪那岐命先言(まづいはく):「妍哉(あなにやし)可愛美少女焉(えをとめを)!」後妹伊邪那美命言:「妍哉(あなにやし)俊俏壯士焉(えをとこを)!」如此(かく)言竟(いひをはり)御合(みあひ)

  生子,淡道之穗之狹別島(あはぢのほのさわけのしま)
  次生,伊豫之二名島(いよのふたなのしま)。此島者,身(ひとつ)而有(おもて)四,每面(おもてごと)()(かれ)伊豫國(いよのくに)愛媛(え比賣)讚岐國(さぬきのくに)飯依彥(いひより比古)粟國(あはのくに)大宜都姬(おほげつ比賣)土左國(とさのくに)建依別(たけよりわけ)
  次生,隱伎之三子島(おきのみづごのしま)。亦名天之忍許呂別(あめのおしことわけ)
  次生,筑紫島(つくしのしま)。此島亦()一而有面(よつ),每面有名。故筑紫國(つくしのくに)白日別(しらひわけ)豐國(とよくに)豐日別(とよひわけ)肥國(ひのくに)建日向日豐久士比泥別(たけひむかひとよくじひねわけ)【自至泥以音。○意未詳。熊曾國(くまそのくに)建日別(たけひわけ)【曾字以音。】
  次生,伊岐島(いきのしま)。亦名謂天一柱(あま比登都はしら)【自比至都以音。()天如天。】
  次生,津島(つしま)亦名(またのな)天之狹手依姬(あめのさでよりひめ)
  次生,佐度島(さどのしま)
  次生,大倭豐秋津島(おほやまととよあきしまづ)。亦名謂天御虛空豐秋津根別(あめのみそらとよあきづねわけ)。故,因此八島(やつのしま)先所生(まづうめる),故謂大八島國(おほやしまくに)

 然後,二神還坐之時(かへりまししとき),復生子。
  先生,吉備兒島(きびのこしま)。亦名謂建日方別(たけひかたわけ)
  次生,小豆島(あづきしま)。亦名謂大野手姬(おほのて比賣)
  次生,大島(おほしま)。亦名謂大溜別(おほ多麻流わけ)多麻流(たまる)以音。】<
  次生,女島(をみなしま)。亦名謂天一根(あまひとつね)【訓天如(あま)。】
  次生,知訶島(ちかのしま)。亦名謂天之忍男(あめのおしを)
  次生,兩兒島(ふたごのしま)。亦名謂天兩屋(あめのふたや)(より)吉備兒島,(いたるまで)天兩屋島,并六島(むつのしま)○二神於茲產竟日本諸島。


以天瓊探滄海圖
伊邪那岐、伊邪那美坐天浮橋,以天瓊矛探獲滄溟。矛鋒垂落之潮,凝而成島,即淤能碁呂島。


天御柱 上立神岩
伊邪那岐、伊邪那美於淤能碁呂島尋得天御柱、八尋殿,於茲迴柱誓言,婚合產子。然以婦女先言不善,遂返降改璇而得生國、生神。


大八島國 令制國地圖
淡道穗狹別島,淡路島。伊豫二名島,四國。隱伎三子島,隱岐島。筑紫島,九州。伊岐島,壹岐島。津島,對馬。佐度島,佐渡島。大倭豐秋津島,本州。日本書紀則以大日本豐秋津洲、伊豫二名洲、筑紫洲、億岐洲、佐度洲、越洲、大洲、吉備子洲為大八州國。


生國諸島 令制國地圖
吉備兒島,兒島半島。小豆島,小豆島。大島,周防大島。女島,大分姬島。知訶島,五島列島。兩兒島,男女群島。亦有他說。


伊邪那美命 伊奘冉尊


海神 大綿津見神


宇太水分神社
祭速秋津日子神、天之水分神、國水分神。即陰神所生水戶神,及水戶二神分治河海而生水分神矣。


皇大神宮所管社 大山祇神社
亦名山神社。祭大山津見神。


豐受大神宮攝社 清野井庭神社
祭神草野姬,即鹿屋野姬神是也。


金刀比羅大鷲神社
祭鳥之石楠船神,亦名天鳥船命。


花窟神社 軻遇突智尊神籬
祭神,火之迦具土神。花窟神社神體為巨大磐座,稱女陰穴。自古以為伊邪那美陵墓候補地。


黃金神社 金瓜石神社遺跡
祭金山彥、大國主、猿田彥。本為神明造,現僅存拜殿社柱爾。


比婆山 久米神社
伊邪那美命,葬出雲、伯耆國堺比婆山。有伊邪那美大神御神陵柱。


天安河原 湯津石村
湯津石村,神聖之石群。按日本書紀云,天安河邊所在五百箇磐石。是知,齋石叢者,蓋在天安河原。


鹿島神宮 奧宮
祭神武御雷之男神,亦名武甕槌。


貴船神社 奧宮
祭神闇龗神,或云與高龗同神。


賀久留神社
祭神闇罔象、闇龗、玉依姬等。


磯部神社
祭神天之尾羽張神、天忍穗耳尊、天穗日命、天津彥根等并卌九柱。

三、伊邪那美殞命

 二神既生國(をはり)復更(さらに)生神。
  故生神,名大事忍男神(おほことおしをのかみ)
  次生,石土彥神(いはつち毘古のかみ)
  次生,石巢姬神(いはす比賣のかみ)
  次生,大戶日別神(おほとひわけのかみ)
  次生,天之吹男神(あめのふきをのかみ)
  次生,大屋彥神(おほや毘古のかみ)
  次生,風木津別之忍男神(かざもくつわけのおしをのかみ)
  次生,海神(わたのかみ),名大綿津見神(おほわたつみのかみ)
  次生,水戶神(みなとのかみ),名速秋津日子神(はやあきつひこのかみ)
  次生,(いも)速秋津姬神(はやあきつ比賣のかみ)【自大事忍男神,至秋津姬神,并十神(とはしらのかみ)。】

  此速秋津日子(はやあきつひこ)速秋津姬(はやあきつひめ)二神,因分治(もちわけ)河海(かはわた),而生神。
   名,沫那藝神(あわなぎのかみ)【那藝以音,下效此。男沫神(あわなぎのかみ)。或云沫凪神(あわなぎのかみ)
   次,沫那美神(あわなみのかみ)【那美以音,下效此。女沫神(あわなみのかみ)。或云沫波神(あわなみのかみ)
   次,頰那藝神(つらなぎのかみ)【○男頰神(つらなぎのかみ)(つら)字表水面。或云頰凪神(つらなぎのかみ)。】
   次,頰那美神(つらなみのかみ)【○女頰神(つらなみのかみ)。或云頰浪神(つらなみのかみ)。】
   次,天之水分神(あめのみくまりのかみ)【訓分云くまり(久麻理),下效此。】
   次,國之水分神(くにのみくまりのかみ)
   次,天之汲瓢持神(あめの久比奢母智のかみ)汲瓢持(くひざもち),原文云くひざもち(久比奢母智),下效此。】
   次,國之汲瓢持神(くにの久比奢母智のかみ)【自沫那藝神,至國之汲瓢神(くにのくひざもちのかみ),并八神(やはしらのかみ)。】

  次生,風神(かぜのかみ),名志那都彥神(しなつ比古のかみ)【此神名以音。○書紀作級長津彥(しなつひこ)
  次生,木神(きのかみ),名久久能智神(くくのちのかみ)【此神名以音。○書紀作句句迺馳(くくのち)
  次生,山神(やまのかみ),名大山津見神(おほやまつみのかみ)
  次生,野神(ののかみ),名鹿屋野姬神(かやの比賣のかみ),亦名謂野椎神(のづちのかみ)【自志那都彥神(しなつひこのかみ),至野椎,(あはせ)四神。】

  此大山津見神(おほやまつみのかみ)野椎神(のづちのかみ)二神,因分治(もちわけ)山野(やまの)而生神。
   名,天之狹土神(あめのさづちのかみ)【訓土云づち(豆知),下效此。】
   次,國之狹土神(くにのさづちのかみ)
   次,天之狹霧神(あめのさぎりのかみ)
   次,國之狹霧神(くにのさぎりのかみ)
   次,天之闇戶神(あめのくらとのかみ)
   次,國之闇戶神(くにのくらとのかみ)
   次,大戶惑子神(おほとまとひこのかみ)【訓惑云まとひ(麻刀比),下效此。】
   次,大戶惑女神(おほとまとひめのかみ)【自天之狹土神,(いたる)大戶惑女神,并八神(やはしらのかみ)也。】

  次生神,名鳥之石楠船神(とりのいはくすふねのかみ),亦名謂天鳥船(あめのとりふね)
  次生,大饌津姬神(おほ宜都比賣のかみ)【此神名(おほげつひめ)以音。】
  次生,火之夜藝速男神(ひのやぎはやをのかみ),亦名謂火之炫彥神(ひのかか毘古のかみ),亦名火之迦具土神(ひのかぐつちのかみ)【夜藝、迦具以音。夜藝(やぎ)(やぎ)也。迦具(かぐ)陽炎(かぎろひ)之かぎ相通,書紀作軻遇突智(かぐつち)

  因生此子(火神),伊邪那美命女陰(美蕃登)見炙(やかえ)病臥(やみふし)【○女陰(みほと)みほと(美蕃登)。】
   嘔吐(多具理)成神,金山彥神(かなやま毘古のかみ)金山姬神(かなやま毘賣のかみ)嘔吐(たぐり)たぐり(多具理)。訓(かな)かな(加那),下效此。】
   於(くそ)成神。名埴安彥神(波邇夜須毘古のかみ)埴安姬神(波邇夜須毘賣のかみ)
   於尿(ゆまり)成神。名水波女神(彌都波能賣のかみ)稚產巢日神(和久むすひのかみ)
    此神(稚產巢日)之子,謂豐受姬神(とよ宇氣毘賣のかみ)

 故,伊邪那美神(いざなみのかみ)者,因生火神(ひのかみ),遂神避坐(かむさりましき)也。【自天鳥船至豐受姬神,并八神也。神避坐(かむさりましき),謂死也。
 (おほよそ)伊邪那岐、伊邪那美二神所共生(ともにうめる)島,壹拾肆島(とをあまりよつのしま)。又神,參拾伍神(みそはしらあまりいつはしらのかみ)【是伊邪那美,未(神避)以前(さき)所生。(ただ)淤能碁呂島(意のごろしま)者,非所生(うめるにあらず)。亦蛭子(ひるこ)淡島(あはしま),不入子之例(このつら)也。】

 故爾(かれしか),伊邪那岐命詔之(のりたまはく):「愛也(うつくしき)我汝妹(あが那邇も)(みこと)乎,(いふ)(かはらむ)子之一木(このひとつき)乎?【○汝妹(なにも),訓なに(那邇)も,夫婦親暱之乎稱。可愛吾妹,豈以汝命以易一子乎?】(すなはち)匍匐(はらばひ)於亡妻御枕方(みまくらへ),匍匐御足方(みあとへ)(なき)
  時於御淚(みなみた)所成神,(います)香山(かぐやま)畝尾(うねを)木本(このもと)。名,泣澤女神(なきさはめのかみ)
 故其所神避之(かむされる)伊邪那美命者,(はぶりき)出雲國(いつものくに)伯耆國(ははきのくに)(さかひ)比婆之山(ひばのやま)也。

 於是,伊邪那岐命(いざなぎのみこと)悲愴忿恨,(ぬき)所御配(みはかしせる)十拳劍(とつかのつるぎ)(きりき)其子迦具土神(かぐつちのかみ)(くび)(しかくし)(つける)劍鋒(御刀前)之血噴濺,走就(はしりつき)齋石叢(湯津石村)【○劍(さき),原文御刀前(みはかしのさき),配劍先鋒。齋石叢(ゆついはむら),原文湯津石村(ゆついはむら),神聖之石群。()()同。】
  所成神,名石析神(いはさくのかみ)
  次,根析神(ねさくのかみ)
  次,石箇之男神。【三神。】
 次,著劍鍔(御刀本)()亦噴濺,走就(はしりつき)齋石叢(湯津石村)【○劍鍔(つるぎのつば),原文書御刀本(みはかしのもと),配劍之鍔。】
  所成神,名甕速日神(みかはやひのかみ)
  次,樋速日神(ひはやひのかみ)
  次,武御雷之男神(建みかづちのをのかみ)。亦名武韴神(建布都のかみ),亦名豐韴神(とよ布都のかみ)【三神。(たけ),原文書(たけ),勇猛之意。(ふつ),刀劍斷物之音,原文書布都(ふつ)以音。下效此。
 次,(あつまれる)劍柄(御刀之手上)血垂落,自手俣(たなまた)漏出(くきいで)【訓(くき)くき(久伎)劍柄(つるぎのつか),原文御刀之手上(みはかしのたかみ),配劍之握把。
  所成神,名闇靇神(くら淤加美のかみ)【○原文淤加美(おかみ)以音,龍神,書紀作(おかみ)。】
  次,闇水波神(やみ御津羽のかみ)【○書紀作闇罔象(くらみつは)。】
  上件(かみのくだり),自石析神以下(しも)闇水波神(やみ御津羽のかみ)以前,(あはせ)八神者,因御刀(みはかし)所生之神也。

  所殺(ころさえし)迦具土神(かぐつちのかみ)(かしら)成神,名正鹿山津見神(まさかやまつみのかみ)
  次,於(むね)所成神,名淤滕山津見神(おどやまつみのかみ)
  次,於(はら)所成神,名奧山津見神(おくやまつみのかみ)
  次,於(はぜ)所成神,名闇山津見神(くらやまつみのかみ)
  次,於左手(ひだりのて)所成神,名志藝山津見神(しぎやまつみのかみ)
  次,於右手(みぎのて)所成神,名羽山津見神(はやまつみのかみ)
  次,於左足(ひだりのあし)所成神,名原山津見神(はらやまつみのかみ)
  次,於右足(みぎのあし)所成神,名戶山津見神(とやまつみのかみ)【自正鹿山津見神,至戶山津見神,并八神。正鹿(まさか)淤滕(おど),意未詳。(おく)乃深山處,(くら)指峽谷。志藝(しぎ)(しげ)通,繁茂之狀。()()通,山麓。(はら)乃山裾遼闊之狀。()(おく)相反,近於人里之處。

 (かれ)所斬(きれる)火神(迦具土)(十拳劍),名天之尾羽張(あめのをはばり),亦名嚴之尾羽張(伊都のをはばり)【○(いつ)原文伊都(いつ)以音,稜威(いつ)。】

陰陽永隔

一、黃泉神話

 於是(ここに)陽神(伊邪那岐)(おもひ)其妹(そのいも)伊邪那美命(いざなみのみこと),遂追往(おひゆきき)黃泉國(よもつくに)。爾陰神(伊邪那美)殿(との)(とぢ)出向之時(いでむかへしとき)伊邪那岐命(いざなぎのみこと)語詔之(かたりてのりたまひし):「愛也(うつくしき)汝妹命(那邇ものみこと)(あれ)(なむぢ)所作之國(つくれるくに)未作竟(いまだつくりをはらず)(かれ)可還(かへるべし)!」爾伊邪那美命答白(こたへまをさく):「悔哉(くやしきかも),君不速來(はやくこねば)!吾既為(しつ)黃泉戶喫(よもつへぐひ)(しかれども)以,愛也(うつくしき)汝兄命(那勢のみこと)入來坐之事(いりきませること),欣喜惶恐(かしこき)(ゆゑ)欲還(かへらむとおもふ)(しまらく)黃泉神(よもつかみ)相論(あひあげつらはむ)。冀莫視我(あれをみることなかれ)汝兄(なせ),原文那勢(なせ)以音,下效此。○女性對親暱男性之呼稱,夫君。如此白(かくまをし)而,還入(かへりいる)殿內(とののうち)

 陰神(伊邪那美)還入相談之間(あひだ)甚久(いとひさしく)難待(まつことかたし)(かれ)陽神(伊邪那岐)()左御髻(ひだりのみ美豆良)齋爪櫛(湯津津間くし)攀折(取闕)(男柱)(ともし)一火(ひとつひ)入見(いりまし)(みづら),原文美豆良(みづら)以音,下效此。○或書角髮(みづら)總角(みづら)蛆虫(宇士)群集(多加禮)攢動(許呂呂岐弖)【○蛆虫(うじ)群集(たかれ)攢動(ころろき),原文以音,訓うじたかれころろきて(宇士多加禮許呂呂岐弖)。】
  居於(かしら)者,大雷(おほいかづち)
  居於(むね)者,火雷(ほのいかづち)
  居於(はら)者,黑雷(くろいかづち)
  居於(ほと)者,析雷(さくいかづち)
  居左手(ひだりのて)者,若雷(わかいかづち)
  居右手(みぎのて)者,土雷(つちいかづち)
  居左足(ひだりのあし)者,鳴雷(なるいかづち)
  居右足(みぎのあし)者,伏雷(ふすいかづち)。併八雷神(やくさのいかづち)成居(なりをりき)

 於是,伊邪那岐命(いざなぎのみこと)見畏(みかしこみ)逃還(にげかへり)。時其妹(そのいも)伊邪那美命(いざなみのみこと)怒言:「令見辱吾!」即遣黃泉醜女(予母都志許賣)令追(おはしめき)【○黃泉醜女(よもつしこめ)よもつしこめ(予母都志許賣),原文以音。】
 (しかくし)伊邪那岐命,取黑御縵(くろきみかづら)投棄(なげうつる),乃生蒲子(山葡萄)。是醜女摭食之間(ひりはむあひだ)逃行(にげゆきき)
 醜女猶追(なほおひき)陽神(伊邪那岐)亦取(させる)右御髻(みぎのみ美豆良)齋爪櫛(湯津津間くし)攀折(取闕)投棄(なげうつる),乃生()。是醜女拔食之間(ぬきはむあひだ),逃行。

 且後(またのち)者, 陰神(伊邪那美)於其八雷神(やくさのいかづち)(そへ)千五百(ちいほ)黃泉軍(よもついくさ)令追(おはしめき)。爾陽神(伊邪那岐)所御配之(みはかしせる)十拳劍(とつかのつるぎ),而於後手(しりへで)振舞(布伎都都)逃來(にげきつ)【○振舞(ふきつつ),原文ふきつつ(布伎都都)以音,()きつつ。】醜女猶追(なほおひき),到黃泉平坂(よもつ比良さか)坂本(さかもと)時,陽神(伊邪那岐)取在其坂本桃子(もものみ)三箇(みつ)待擊(まちうち)者,(ことごとく)去坂而返也(かへりき)(しかくし)伊邪那岐命(のらさく)桃子:「(なむぢ)如助(たすけしがごとく)吾,於葦原中國(あしはらのなかつくに)所有(あらゆる)現世(宇都志伎)青人草(あをひとくさ)(おち)苦瀨(くるしきせ)患惚(うれへなやむ)時,可助(たすくべし)【○現世(宇都志伎),原文うつしき(宇都志伎)以音,(うつ)しき。青人草(あをひとくさ),日本書紀書蒼生(あをひとくさ)。】(のらし)賜名(なをたまひ)(なづけき)大神祇命(意富加牟豆美のみこと)【○原文意富加牟豆美(おほかむつみ)以音。】
 最後(もとものち)其妹(そのいも)伊邪那美命躬自(みづから)追來焉(おひきつ)。爾陽神(伊邪那岐)千引之石(ちびきのいは)封塞(ひきふさぎ)黃泉平坂(よもつのひらさか)。其石置中,(おのおの)對立(むきたち)而為絕緣之誓(度事戶)【○原文(わたる)事戶(ことど),未詳。或云離別之語。】

 時伊邪那美命(いざなみのみこと)言:「愛也(うつくしき)汝兄(那勢)命,為如此者(かくせば)汝國(なむぢがくに)人草(ひとくさ)一日(ひとひ)絞殺(くびりころさむ)千頭(ちかしら)!」爾伊邪那岐命詔:「愛也(うつくしき)汝妹(那邇も)命,汝為然者(しかせば),吾一日(たてむ)千五百(ちいほ)產屋(うぶや)!」是以(ここをもち)葦原中國一日(かならず)千人(ちたり)死,一日必千五百人(うまるる)也。
 (かれ)(なづけ)伊邪那美神命(いざなみのかみのみこと),謂黃泉津大神(よもつおほかみ)亦云(またいはく),以(陰神)追及(おひ斯伎斯),而號道敷大神(ちしきのおほかみ)【○追及(おひしきし),原文追しきし(おひ斯伎斯)以音,追及(おひし)きし。】所塞(ふさげる)黃泉坂(よもつさか)(いは)者,號道反之大神(ちがへしのおほかみ),亦謂塞坐黃泉戶大神(ふさがりますよもつのおほかみ)。故其所謂(いはゆる)黃泉平坂(よもつの比良さか)者,今謂出雲國(いづものくに)伊賦夜坂(いふやさか)是也。


黃泉戶 黃泉之穴
按出雲國風土記,夢至此窟者必死。土俗謂黃泉之坂、黃泉之穴。


黃泉國之伊邪那美命
陰神肢體腐爛,蛆蟲爬滿全身,身纏八雷神。陽神見之,恐荒而逃。


伊邪那美命與所纏身之八雷神
頭、胸、腹、陰、雙手、雙腳,有大雷、火雷、黑雷、拆雷、稚雷、土雷、鳴雷、伏雷等雷神纏身。


黃泉醜女與伊邪那岐命


神蹟黃泉平坂伊賦夜坂傳說地
夫婦於茲絕緣,自後日日各有千人死、千五百人生。青人草即蒼生。


黃泉平坂 千引之石
陽神以千引之石塞黃泉戶,陰陽兩界自是不復相通。


揖夜神社


橘小戶檍原 江田神社禊池


息栖神社 祀岐神
衝立船戶神,日本書紀作岐神。


古事記繪詞 陽神禊祓生子


攝津國一宮 住吉大社
底筒男、中筒男、上筒男,並稱墨江三座大神,祀於住吉大社。


穗高神社奧宮 明神池
祭神穗高見命,綿津見神之子顯日金拆命,而安曇連等遠祖。


伊勢神宮 內宮
皇大神宮正宮,祀天照大神。


熊野本宮大社 大齋原
家津美御子大神,即須佐之男。


多賀大社 伊弉諾尊幽宮

二、小戶檍原之禊祓生神

 (ここ)以,伊邪那岐大神(のりたまはく):「(あれ)者,(いたり)不須(伊那)凶目(志許米)醜陋(志許米岐)污穢之國(きたなきくに)在矣(あり祁理)。故,吾者,當為御身之禊(みみのみそぎ)!」而到筑紫(つくし)日向(ひむか)橘小門(たちばなのをど)檍原(阿波岐はら)禊祓(みそぎしき)也。【○不須凶目醜陋(いなしこめしこめき),原文いなしこめしこめき(伊那志許米志許米岐)以音。(あはき),原文あはき(阿波岐)以音。】
  (かれ)所投棄(なげうつる)御杖(みつゑ)成神。其名,衝立船戶神(つきたつふなとのかみ)
  次,所投棄御帶(みおび)成神。其名,道之長乳齒神(みちのながちはのかみ)
  次,所投棄御囊(みふくろ)成神。其名,時量師神(ときはからしのかみ)
  次,所投棄御衣(みけし)成神。其名,災主神(和豆良比能宇斯能かみ)【○原文わづらひのうしの(和豆良比能宇斯能)神以音。】
  次,所投棄御褌(みはかま)成神。其名,道岐神(ちまたのかみ)
  次,所投棄御冠(みかがふり)成神。其名,飽咋之主神(あきぐひの宇斯能かみ)
  次,所投棄左御手(ひだりのみて)手纏(たまき)成三神。奧疏神(おきざかるのかみ)奧津波限彥神(おきつ那藝佐毘古のかみ)奧津甲裴弁羅神(おきつかひべらのかみ)
  次,所投棄(みぎ)御手之手纏(たまき)成三神。邊疏神(へざかるのかみ)邊津波限彥神(へつ那藝佐毘古のかみ)邊津甲裴弁羅神(へつかひべらのかみ)右件(みぎのくだり),自船戶神以下(しも),邊津甲裴弁羅神以前(さき)十二神(とはしらあまりふたはしらのかみ)者,因(ぬきし)著身之物(みにつけたるもの)所生(うめる)神也。】

 於是,陽神(伊邪那岐)詔之:「上瀨(かみつせ)瀨速(せはやし)下瀨(しもつせ)瀨弱(せよわし)。」而(はじめ)中瀨(なかつせ)墮潛(おち迦豆伎)滌之(すすぎ)
  所成神,名八十禍津日神(やそまがつひのかみ)(かづき),訓かづき(迦豆伎)。】
  次,大禍津日神(おほまがつひのかみ)。此二神(ふたはしらのかみ)者,所到其穢繁國(けがれしげきくに)時,因污垢(けがれし)所成禍神(まがつかみ)也。
  次,為(なほさむ)其禍而成神,神直毘神(かむなほびのかみ)
  次,大直毘神(おほなほびのかみ)
  次,嚴女(伊豆能賣)【并三神也。○直,治也。嚴女(いづのめ),蓋巫女之神格化。
  次,(すすぎ)水底(みなそこ)時成神。底津綿津見神(そこつわたつみのかみ)底筒之男命(そこつつのをのみこと)
  次,滌於(なか)時成神。中津綿津見神(なかつわたつみのかみ)中筒之男命(なかつつのをのみこと)
  次,滌水上(みづのうへ)時成神。上津綿津見神(かみつわたつみのかみ)上筒之男命(うはつつのをのみこと)【訓上云うへ(宇閉)。】三柱(みはしら)綿津見神者,阿曇連(あづみのむらじ)等所齋祭(伊都久)祖神(おやがみ)也。(かれ)阿曇連等者,綿津見神之子顯日金拆命(宇都志ひかなさくのみこと)子孫(あなすゑ)也。其底筒之男命、中筒之男命、上筒之男命三柱神者,墨江之三前大神(すみのえのみまへのかみ)也。(うつし),原文うつし(宇都志)以音。○墨江即住吉(すみのえ)。顯日金拆命,亦名穗高見命(ほだかみのみこと)

  於是,陽神(伊邪那岐)左御目(ひだりのみめ)時成神。天照大御神(あまてらすのおほみかみ)
  次,(あらひし)右御目(みぎのみめ)時成神。月讀命(つくよみのみこと)
  次,洗御鼻(みはな)之時成神。建速須佐之男命(たけはやすさのみこと)右件(みぎのくだり)八十禍津日神以下(しも),建速須佐之男命以前(さき)十柱(とはしら)神者,因滌御身(みみ)所生(うめる)者也。須佐(すさ)二字以音,(すさ)。武勇狂暴之神。

 此時,伊邪那岐命(いざなぎのみこと)大歡喜(おほきによろこび)詔:「吾生子眾(こをうみうみ),而(うみをへ)得此三貴子(みはしらのうづのみこ)。」即取其御頸珠(みくびのたま)玉緒(たまのを)玲瓏玉響(母由良邇)振之搖曳(由良迦志)(たまひ)天照大御神(あまてらすのおほみかみ)詔之(のりたまひし):「汝命(ながみこと)者,所治(しらせ)高天原(たかあまのはら)矣。」依()而賜也。故,其御頸珠(),謂御倉板舉之神(みくらたなのかみ)【訓板舉(たな)たな(多那)(たな)也。玲瓏玉響(もゆら)振之搖曳(ゆらかし),原文もゆらに(母由良邇)ゆらかし(由良迦志)以音,下效此。(),原文書以()字。次,詔月讀命(つくよみのみこと):「汝命者,所治夜之食國(よるのをすくに)矣。」依言也(ことよしき)【訓(をす)をす(袁須)。】次,詔建速須佐之男命(たけはやすさのをのみこと):「汝命者,所治海原(うなはら)矣。」依言也。
 故,天照、月讀(おのおの)(まにまに)依賜之命(よしたまひしみこと)治看(しらしめせる)所任之國。唯速須佐之男命,不治(をさめず)所命之國(おほせらえしくに)終日哭啼(なき伊佐知伎),令八拳鬚(やつかひげ)垂至胸前(こころさき)也。其泣狀(なくかたち)者,令青山(あをやま)枯山(からやま)泣枯(なきからし)河海(かはうみ)者亦(ことごとく)泣乾(なきほしき)。是以惡神之音(あしきかみのこゑ),如狹蠅(さばへ)皆滿(みなみち)萬物之妖(よろづのもののわざはひ)(おこりき)
 故伊邪那岐大御神(のりたまひしく)問速須佐之男命:「汝以何由(なにのゆゑ),不治所託(事依)之國,而終日哭泣(哭伊佐知流)?」(しかくして)答白(こたへまをし):「(やつかれ)(おもふ)(まからむ)妣國(ははがくに)根之堅洲國(ねのかたすくに)(ゆゑ)哭。」爾伊邪那岐大御神,大忿怒(おほきにいかり)詔:「然者(しからば)(なむぢ)不可住(すむべくあらず)此國(葦原中國)!」乃神逐而逐賜(かみ夜良比爾夜良比はまひ)也。逐而逐(やらひにやらひ),原文やらひにやらひ(夜良比爾夜良比)以音。○須佐之男遭父神放逐。故其伊邪那岐大神者,(います)淡海(あふみ)多賀(たが)也。

高天原

一、誓約生神與天津罪

 故於是(かれここに)速須佐之男命(はやすさのをのみこと)言:「然者(しからば),先(まをし)天照大御神,而將罷(まからむ)根堅洲國。」乃參上(まゐのぼる)高天原。時山川(やまかは)悉動(ことごとくとよみ)國土(くにつち)皆震(みなふるひき)。爾天照大御神(あまてらすおほみかみ)聞驚(ききおどろき)(のりたまはく):「我汝弟命(那勢命)上來由(のぼりくるゆゑ)者,(かならず)不存善心(よきこころならじ)(おもへ)(うばはむ)我國(高天原)爾!」(すなはち)(とき)御髮(みかみ)(まき)(御美豆羅)(すなはち)左右(ひだりみぎ)(みづら)上又飾御蔓(みかづら)(また)於左右御手(みて)(おのおの)纏持(まきもち)八尺勾璁(やさかのまがたま)五百箇御統(いほ津の美須麻流)(おひ)千入之靫(ちのりのゆき)背鎧之平(曾毗良)(つけ)五百入之靫(いほのりのゆき)鎧平(毗良)。亦所取佩(とりはかし)稜威之竹鞆(伊都のたかとも)振起(ふりたて)弓腹(ゆばら), 踐踏堅庭(かたには)向股(むかもも)蹈潦(ふみ那豆美),如沫雪(あわゆき)蹶散(くゑちちし)。奮稜威(伊都)雄誥(男建)【訓()たけぶ(多祁夫)。】蹈嘖(ふみたけぶ)待問(まちとひ):「何故(なにのゆゑ)上來(のぼりきたる)?」
 (しかくし)速須佐之男命答白(こたへまをす):「(やつかれ)者無邪心(あしきこころ)。唯以大御神(伊弉諾尊)(みこと)(とひたまふ)終日哭泣(哭伊佐知流)之事。(ゆゑ)白狀(まをし都良久):『僕欲(ゆかむ)妣國(ははがくに)(なく)。』大御神(伊弉諾尊)詔:『(なむち)者,不可在(あるべからず)此國(葦原中國)!』乃神逐而逐賜(かむ夜良比夜良比たまふ)。故以為(おもひ)(まをさむ)將罷往之狀(まかりゆかむかたち)參上爾(まゐのぼれらくのみ)。必無異心(けしきこころ)。」爾,天照大御神詔:「然者,吾何以(いかに)知汝心之清明(きよくあかき)?」於是(ここに),速須佐之男命答曰:「(おのおの)誓約(宇氣比)生子(こをうまむ)可驗。」誓約(うけひ),此云うけひ(宇氣比)。】

 故爾(かれしかく),二神各中置(なかにおき)天安河(あめのやすのかは)誓約(宇氣比)。時天照大御神,(まづ)乞度(こひわたし)建速須佐之男命所佩(はける)十拳劍(とつかのつるぎ)打折(うちをり)三段(みきだ)令瓊音玉響而(奴那登母母由良邇)振滌(ふりすすぎ)天之真名井(あめのまなゐ)𪗾然咀嚼(佐賀美邇迦美),於吹棄(ふきうつる)氣吹之狹霧(いふきのさぎり)所成神。
  御名(みな)田霧姬命(多紀理毘賣のみこと)【○原文多紀理毘賣(たきりびめ)以音。】亦名(またのみな)奧津島姬命(おきつしま比賣のみこと)
  次,市寸島姬命(いちきしま比賣のみこと)。亦名狹依姬命(さより毘賣のみこと)
  次,湍津姬命(多岐都比賣のみこと)【三柱。○原文多岐都比賣(たきつひめ)以音。令瓊音玉響而(ぬなとももゆらに),原文瓊音も玉響に(奴那登母母由良邇)

 速須佐男命(はやすさのをのみこと)乞度(こひわたる)天照大御神所纏(まける)左御髻(ひだりのみ美豆良)八尺勾璁(やさかのまがたま)五百箇御統珠(いほ津の美須麻流たま)令瓊音玉響而(奴那登母母由良邇)振滌(ふりすすぎ)天之真名井(あめのまなゐ)𪗾然咀嚼(佐賀美邇迦美),於吹棄(ふきうつる)氣吹之狹霧(いふきのさぎり)所成神。【○八尺勾璁(やさかのまがたま),即八尺瓊勾玉(やさかにのまがたま)。】
  御名,正勝吾勝勝速日天之忍穗耳命(まさかつあかつかちはやひあめのおしほみみのみこと)
  亦,乞度(こひわたる)所纏右御髻(みぎのみ美豆良)之珠,𪗾然咀嚼(佐賀美邇迦美),於吹棄(ふきうつる)氣吹之狹霧(いふきのさぎり)所成神。御名,天之菩卑能命(あめのほひのみこと)【自()下三字以音。()()通,()蓋靈力之意。
  亦,乞度(こひわたる)所纏御蔓(みかづら)(たま)𪗾然咀嚼(さがみにかみ),於吹棄(ふきうつる)氣吹之狹霧(いふきのさぎり)所成神。御名,天津彥根命(あまつ日子ねのみこと)
  又,乞度(こひわたる)所纏左御手(ひだりのみて)之珠而𪗾然咀嚼(さがみにかみ),於吹棄(ふきうつる)氣吹之狹霧(いふきのさぎり)所成神。御名,活津彥根命(いくつ日子ねのみこと)
  亦,乞度(こひわたる)所纏右御手之珠而𪗾然咀嚼(さがみにかみ),於吹棄(ふきうつる)氣吹之狹霧(いふきのさぎり)所成神。御名,熊野奇靈命(くまの久須毘のみこと)【○熊野奇靈命(くまのくすびのみこと),原文久須毘(くすび)以音。】(あはせ)五柱(いつはしら)

 於是,天照大御神(のらし)速須佐之男命:「是後(こののち)所生(うまめる)五柱(いつはしら)男子(をのこ)者,物實(ものざね)因我物所成,(ゆゑ)(おのづから)吾子(あがこ)也。(まづ)所生之三柱(みはしら)女子(めのこ)者,物實(ものざね)汝物(なむちがもの)所成,故(すなはち)汝子也。」如此詔別也(かくのりわきき)
  (かれ)其先所生之神,田霧姬命(多紀理毘賣のみこと)者,坐胸形(宗像)奧津宮(おきつみや)【○宗像大社(むなかたのおほやしろ)沖津宮。】
  次,市寸島姬命(いちきしま比賣のみこと)者,坐胸形(むなかた)中津宮(なかつみや)【○宗像大社中津宮。】
  次,湍津姬命(田寸津比賣のみこと)者,胸形(宗像)邊津宮(へつみや)【○宗像大社邊津宮。】此三柱神者,胸形君(むなかたのきみ)等之以(伊都久)三前大神(みまへのおほかみ)者也。【○宗像三神,亦為安藝國(あぎのくに)嚴島神社(いつくしまのかむやしろ)所祀。】
  故此後(こののち)所生五柱子之中,天之菩比命(あめのほひのみこと)。其子,建比良鳥命(たけひらとりのみこと)【此,出雲國造(いづものくにのみやつこ)武藏(無耶志)國造、上菟上(かみつうなかみ)國造、下菟上(しもつうなかみ)國造、伊甚(伊自牟)國造、津嶋(對馬)縣直(あがたのあたひ)遠江(とほつあふみ)國造等之(おや)也。武藏(むざし)むざし(無耶志)上菟上(かみつうなかみ)下菟上(しもつうなかみ)各為上總(かづさ)下總(しもふさ)之一部。伊甚(いじむ)いじむ(伊自牟)津嶋(つしま)對馬(つしま)
  天津彥根命(あまつ日子ねのみこと)凡河內(凡川內)國造、額田部湯座連(ぬかたべのゆゑのむらじ)茨城(茨木)國造、倭田中直(やまとのたなかのあたひ)山城(山代)國造、馬來田(うまぐた)國造、陸奧岐閉(道尻きへ)國造、諏訪(周方)國造、倭淹知造(やまとのあむちのみやつこ)高市縣祖(たけちのあがたぬし)蒲生(かまふ)稻置(稻寸)三枝部造(さきくさべのみやつこ)等之祖也。凡川內(おほしかふち)河內(かふち)茨城(うばらき)常陸(ひたち)田中(たなか)在大和。山代(やましろ)或云山背(やましろ),今京都。馬來田(うまぐた)上總(かづさ)道尻岐閉(みちのしりきへ)在陸奧而岐閉未詳。周方(すは)諏訪(すは)淹知(あむち)高市(たけち)大和(やまと)蒲生(かまふ)近江(あふみ)稻寸(いなき)稻置(いなき)

 爾速須佐之男命,(まをさく)於天照大御神:「我心清明故(きよくあかきがゆゑ),所生之子,得手弱女(たわやめ)因此(これにより)言者(いはば)(おのづから)我勝(あれかちぬ)!」云而,乘勝(勝佐備)(はなち)天照大御神營田(つくりた)()(うみ)(みぞ)。亦放屎(屎麻理)於其聞看(きこしめす)大嘗(おほにへ)殿(との)【○乘勝,原文勝さび(かち佐備))(はなち),原文)(はなち)(),原文()放屎(くそまり),原文屎まり(くそ麻理)。 】故雖然為(かれしかすれども),天照大御神未咎(登賀米受)而告: 「如屎(くそのごとき)(ゑひ)吐散之矣(はきちらすとこそ)。故我汝弟(那勢)命,為如此(かくしつらめ)。又,()田之()、埋溝渠(みぞ)者,(阿多良斯)之故矣(とこそ)。我汝弟(なせ)命,為如此。」詔雖直(なほせども)(なほ)惡態(あしきわざ)不止(やまず)(うたたあり)。天照大御神,(いまし)忌服屋(いみはたや),而令織(おらしめし)神御衣(かむみそ)之時,弟神(須佐之男)穿(うかち)服屋(はたや)(いただき)逆剝(さかはぎ)天斑馬(あめのふちうま)皮,而投棄墮入(おとしいれ)天服織女(あめのはとりめ)見驚(みおどろき),以()(つき)(ほと)(しにき)【○ (あたらし),訓あたらし(阿多良斯),可惜土地未善盡利用。(なほせ),此云辯護。(うたたあり),此云變本加厲。(ほと),原文陰上(ほと)。凡畔放(あはなち)溝埋(みぞうめ)樋放(ひはなち)頻播(しきまき)串刺(くしさし)生剝(いきはぎ)逆剝(さかはぎ)糞戶(くそへ)者,所謂天津罪(あまつつみ)是也。】


天照大神、須佐之男 誓約之圖
天照大神見須佐之男參上,以為有奪國之志,遂著男裝詰問之。


天真名井之瀧
天照大神、須佐之男隔天安河而誓約,取天真名井之水,互濯彼此所持劍、勾玉,吐霧成神。


天之真名井
於茲,須佐之男生三女神:田霧姬命、市寸嶋姬命、湍津姬命。天照大神產五男神:正勝吾勝勝速日天忍穗耳命、天菩比命、天津彥根命、活津彥根命、熊野奇靈命。


宗像大社 邊津宮
湍津姬命,坐宗像大社邊津宮。


宗像大社 中津宮
市寸島姬命,坐宗像大社中津宮。


天岩戶神社 天照大御神像

須佐之男之暴行、天津罪
須佐之男鑿忌服屋頂,逆剝天斑馬投墬,機織女驚惶,以梭撞陰死。


天岩戶神社 天岩戶合成示意圖
天照大神驚動,入天石窟而幽居。遂六合常闇,不知晝夜相代。


天岩戶神社 天安河原


天安河原 仰慕窟 天安河原宮
天安河原宮,祀思兼命。


天安河原 仰慕窟 天安河原宮
八百萬神聚天安河原仰慕窟。思兼命有叡智,獻計令日神出天岩戶。


高千穗道之驛 天鈿女命像
天鈿女命飾以蘿、鬘、篠,舞蹈神懸。露出胸乳,褪裳於陰。高天原動而八百萬神共咲。天照大神恠之,遂細開天石屋戶。


天岩戶神社 天手力男命像
天手力男侍磐戶側,引日神而奉出。所擲岩戶,化信洲戶隱山也。


岩戶神樂之起顯
天照大御神,自岩戶出而臨坐。時高天原及葦原中國,自得照明。

二、日蝕常闇與五穀起源

 (かれ)於是,天照大御神(あまてらすのおほみかみ)見畏(みかしこみ)(ひらき)天石屋戶(あめのいはやのと)幽居(刺許母理)也。【○幽居(さしこもり),原文云刺籠坐(さしこもりま)しき。】高天原(たかあまのはら)皆暗(みなくらく)葦原中國(あしはらのなかつくに)悉闇(ことごとくくらし)因此(これにより)常夜(とこよ)(ゆきき),無復晝夜之殊。於是,萬神(よろのづかみ)(こゑ)者,(那須)蠅聲(さばへ)盈滿(みち)萬妖(よろづのはざはひ)(おこりき)【○猶蠅聲(さばへ)盈滿,原文云狹蠅なす滿(さばへ那須みち)。】

 是以(ここをもちて)八百萬神(やほよろづのかみがみ)神集集(かむつどひつどひ)天安之河原(あめのやすのかはら)而計可禱之方。【○訓(つどひ)つどひ(都度比)。】高御產巢日神(たかみむすひのかみ)思金神(おもひかねのかみ)慮之。遂集常世(とこよ)長啼鳥(ながきどり)令鳴(なかしめ)()天安河(あめのやすのかは)河上(かはかみ)天堅石(あめのかたしは)()天金山(あめのかなやま)(くろかね)而,(もとめ)鍛人(かぬち)天津麻羅(あまつまら)(おほせ)石凝姥命(伊斯許理度賣のみこと),令作(八咫鏡)石凝姥命(いしこりどめ),原文いしこりどめ(伊斯許理度賣)以音。】玉祖命(たまのおやのみこと)者,令作八尺勾璁(八尺瓊勾玉)五百箇御統珠(いほ津御須麻流のたま)(めし)天兒屋命(あめのこやのみこと)太玉命(布刀たまのみこと)內拔(うつぬき)天香山(あめのかぐやま)真男鹿(まをしか)(かた)骨,()天香山之天朱櫻(あめの波波迦)燔之,以為太占(占合)(麻迦那波)矣。【○太玉命(ふとたまのみこと),原文(ふと)布刀(ふと)以音。朱櫻(ははか),原文ははか(波波迦)以音。以為太占(占合)(麻迦那波),原文令占合(うらなひ)まかなは(麻迦那波)(まかな)ひ乃準備之意。】
 復根掘(ね許士爾許士)天香山之五百()真賢木(まさかき)而,於上枝(かみつえ)(取著)八尺勾璁(八尺瓊勾玉)五百箇御統之玉(いほつみすまるのたま),於中枝(なかつえ)懸繫(とりかけ)八咫鏡(やあたのかがみ),於下枝(しもつえ)懸垂(とりしで)白幣帛(しら丹寸手)青幣帛(あを丹寸手)【訓八咫(やあた)八阿多(やあた),訓(しで)しで(志殿)○根掘原文根こじにこじ(ね許士爾許士)以音。幣帛(にきて)原文にきて(丹寸手)以音。太玉命(布刀たまのみこと)奉持(とりもちて)種種(くさぐさ)物,以為大御幣(布刀みでくら)天兒屋命(あめのこやのみこと)言禱(ごとほき)祝詞(詔戶)奏上()天手力男神(あめのたぢからをのかみ)隱立(かくりたち)天岩戶掖(とのわき)天鈿女命(あめの宇受賣のみこと)(かけ)天香山(あめのかぐやま)(日影)(手次),以天真折蔓(あめのまさき)()(ゆひ)天香山(小竹)(手草),置覆槽(伏汙氣)於天石屋戶而蹈轟(ふみ登杼呂許志)以為神懸(かむがかり)【○(ひかげ),原文日影(ひかげ)(たすき),原文手次(たすき),或云手繦(たすき)(かづら),原文(かづら)。訓小竹(ささ)ささ(佐佐)覆槽(ふせうけ)原文伏うけ(ふせ汙氣)以音。轟,原文とどろこし(登杼呂許志)以音。】其姿,露出(掛いだし)胸乳(むなち)裳緒(ものを)褪垂(忍たれき)(番登)也。【○露出,原文掛出(かけいだし)褪垂(おしたれき),原文忍垂(おしたれき)(),原文番登(ほと)以音。】(しかくして)高天原(とよみ)而八百萬神共咲(ともにわらひき)

 於是,天照大御神以為(おもひ)(あやし)細開(ほそくひらき)天石屋戶(あめのいはやのと),居(うち)(のらし):「朕以為(おもふに),因吾隱坐(こもります),而天原(あまのはら)自闇(おのづからくらく),亦葦原中國(あしはらのなかつくに)皆闇(みなくらけむ)矣。何由(なにのゆゑ)天鈿女(あめの宇受賣)者為(あそび),亦八百萬神(やほよろづのかみかみ)諸咲(もろもろわらふ)?」
 爾,天鈿女(あめの宇受賣)白言(まをしていはく):「以(まし)汝命(ながみこと)貴神(たふときかみ)坐故(いますがゆゑ)歡喜(よろこび)咲樂(わらひあそぶ)。」如此言之間(かくいふあひだ),天兒屋命、太玉命(布刀たまのみこと)指出(さしいだし)其鏡(八咫鏡)示奉(しめしまつる)天照大御神。天照大御神(あまてらすおほみかみ)(いよよ)奇之(あやし)(やをやく)自戶出而臨坐(のぞみます)。時其所隱立(かくりたてる)戶掖之天手力男神(あめのたぢからをのかみ),取(天照)御手(みて)引出(ひきいだす)。即太玉命(ふとたまのみこと),以端出之繩(尻久米なは)控度(ひきわたし)(天照)御後方(みしりへ),白言:「從此(これより)以內(うち)不得(えじ)還入(かへりいる)。」【○(あそび),此即神遊(かむあそび)端出之繩(しりくめなは),原文しりくめ繩(尻久米なは)注連繩(しめなは)是也。】故,天照大御神出坐之時(いでまししとき),高天原()葦原中國,自得(おのづからえたり)照明(てりあかること)

 於是(ここに)八百萬神(やほよろづのかみかみ)共議(ともにはかり)()速須佐之男命(はやすさのをのみこと)千位置戶(ちくらのおきと)【○(おほせ),原文作(おほせ)千位置戶(ちくらのおきと),科以眾多祓物,(くら)乃置臺,書紀作千座置戶(ちくらのおきと)。】(きり)(ひげ)手足爪(てあしのつめ)贖之,令祓(はらへしめ)神逐而逐矣(かむ夜良比夜良比岐)

 又,須佐之男(こひき)食物(くらひもの)大饌津姬神(おほ氣都比賣のかみ)。爾大饌津姬,自(はな)(くち)(しり)取出(とりいだし)種種(くさぐさ)味物(うましもの)作具(つくりそなへ)種種珍饈而進之(たてまつる)。時速須佐之男命,立伺(たちうかかひ)其態(そのわざ)者,以為(おもひ)穢污(けがし)奉進(たてまつる)(すなはち)(ころしき)大饌津姬神(おほ宜つ比賣のかみ)
 故,所殺之(ころさえし)(大饌津姬)()生物(なりしもの)
  於(かしら)(なり)()
  於二目(ふたつのめ),生稻種(いなだね)
  於二耳(ふたつのみみ),生(あは)
  於(はな),生小豆(あづき)
  於(ほと),生(むぎ)
  於(しり),生大豆(まめ)
 故是(かれここに)神產巢日御祖命(かむむすひのみおやのみこと)令取(とらしめき)茲成種(このなれるたね)

八岐大蛇

一、驅除大蛇與八重垣神詠

 (かれ)須佐之男為高天原所避逐(さりおはえ),遂(くだりき)出雲國(いづものくに)肥河上(ひのかはかみ)鳥髮(とりかみ)(ところ)此時(このとき)(はし)從其河流下(ながれくだりき)於是(ここに)須佐之男命以為(おもひ):「人()河上(かはかみ)。」而尋覓(たづねもとめ)溯往者(のぼりゆけば),有老夫(おきな)老女(おみな)二人(ふたり),以童女(をとめ)置中(なかにおき)(なけり)(しかくし)須佐之男問賜之(とひたまひし):「汝等(なむちら)(たれぞ)?」其老夫答言(こたへていひし):「(やつかれ)國神(くにつかみ)大山津見神(おほやまつみのかみ)之子焉。僕名謂足名椎(あしなづち)妻名謂(めがな)手名椎(てなづち)(むすめ)(いふ)櫛名田姬(くしなだ比賣)。」亦問(またとひし):「汝哭由(なくゆゑ)(なにぞ)?」答白(こたへまをし)言:「我之女(あがむすめ)者,(もとより)八稚女(やたりのをとめ)。是高志(こし)八岐大蛇(八俣遠呂知)每年(としごと)來喫(きてくひき)【○八岐大蛇(やまたをろち),原文八俣のをろち(やまた遠呂知)。】今逢其當來時矣(くべきときぞ)(かれ)(なく)。」爾問:「其形(そのかたち)如何(いかに)?」答白:「彼目(そのめ)赤酸醬(あか加賀智),身一而有八頭(やつのかしら)八尾(やつのを)。亦其身(おひ)(ひかけ)()(すぎ)。其長(わたり)谿八谷(たにやたに)峽八尾(をやを)而,見其(はら)者,(ことごとく)(つねに)血爛也(ちあえただれたり)。」【此謂赤かがち(あか加賀智)者,今酸醬(ほほづき)者也。】

 爾,速須佐之男命(はやすさのをのみこと)詔其老夫(おきな):「(この)汝之女(なむちがむすめ)者,奉於吾哉(あれにまつらむや)?」答白:「(かしこし)(また)不覺(さとらず)御名(みな)。」爾須佐之男答(のりたまひし):「吾者,天照大御神(あまてらすおほみかみ)胞弟(伊呂せ)者也。故,今自天降坐也(あめよりくだりましぬ)。」爾足名椎(あしなづち)手名椎(てなづち)白:「然者(しかいまさば)惶恐(かしこし)立奉(たてまつらむ)。」爾,速須佐之男命,(すなはち)(取成)童女(をとめ)齋爪櫛(湯津つまくし)(さし)御髻(み美豆良)(のらし)其足名椎、手名椎神:「汝等(なむちら)(かみ)八鹽折之酒(やしほをりのさけ),亦作迴(つくりめぐらし)(かき)。於其垣作八門(やつのかど)每門(かどごと)(ゆひ)八假庪(やつの佐受岐)。每其假庪(やずき)酒船(さかぶね),各(もり)八鹽折酒(やしほをりのさけ)(まて)。」【○假庪(さずき),訓さずき(佐受岐)以音。權設之棚,棧敷(さぢき)之疇也。酒船(さかぶね)酒槽(さかふね)之謂也。八鹽折酒(やしほをりのさけ),書紀作八醞酒(やしほをりのさけ)。】隨告(のらししまにまに)如此設備(かくまうけそなへ)相待之間(まつとき)八岐大蛇(八俣遠呂知)(まこと)如言(ことのごとく)(きぬ)

 八岐大蛇(すなはち)每船(ふなごと)垂入(たれいれ)己頭(おのがかしら)(のみき)其酒。於是,飲醉(のみゑひ)(とどまり)伏寢(ふしいねき)。爾速須佐之男命,(ぬき)所御佩(みはかしせる)十拳劍(とつかのつるぎ)斬散(きりちらし)其蛇。肥河(ひのかは)之水,變血(ちにかはり)(ながれき)。故,(きり)中尾(なかつを)時,御刀之刃(みはかしのは)(こほれき)。爾須佐之男思(あやし),以御刀(みはかし)()刺割(さしさき)而見者,有都牟羽之大刀(つむはのたち)。故取此大刀,思其異物(あやしきもの),不可私有,而白上(まをしあげき)天照大神(あまてらすおほみかみ)也。(これ)者,草薙之大刀(くさ那藝のたち)也。【○草薙劍(くさなぎのつるぎ),或謂天叢雲劍(あまのむらくものつるぎ),傳大蛇(をろち)頭上常有雲氣(くものけ),故云。都牟羽大刀(つむはのたち),或本書都牟刈大刀(つむがりのたち),今隨真福寺本。其所以斷蛇之十握劍(とつかのつるぎ),或云蛇之麤正(をろちのあらまさ)蛇韓鋤劍(をろちのからさひのつるぎ)天蠅斫劍(あまのははきりのつるぎ)天羽羽斬(あめのはばきり)布都斯魂劍(ふつしみたまのつるぎ)也。】

  故是以(ここをもち),其速須佐之男命,(もとめき)可造宮之地(みやをつくるべきところ)出雲國(いづものくに)。爾到清地(須賀)詔之(のりたまはく):「(あれ)此地(ここ)我御心(あがみこころ)清清之(須賀須賀斯)。」遂()其地(そこ)鎮座(いましき)(かれ)其地者,於今云須賀(すが)也。清清之(すがすがし),原文すがすがし(須賀須賀斯)以音。】
 (この)大神(須佐之男)(はじめ)須賀宮(すがのみや)之時,八雲自其地立騰(たちのぼりき)。爾作御歌(みうた)。其歌曰:

 於是,(めし)足名鈇神(あしなづちのかみ),告言:「汝者,(まけむ)我宮之(おびと)。」且負名(なをおほせ)(なづけき)稻田宮主(いなだのみやぬし)須賀之八耳神(すがのやつみみのかみ)【○足名鈇神(あしなづちのかみ),即足名椎(あしなづち)(づち)(をの)(まさかり)之意,『名義抄』訓以つち。】

 (かれ)須佐之男與其櫛名田姬(くしなだ比賣)組所(久美度)【○組所(くみと)即閨房,此云婚合。】
  所生神,名謂八島士奴美神(やしまじぬみのかみ)じぬみ(士奴美)以音。或云八島治主靈神(やしま士奴美のかみ)。】
 又(めとり)大山津見神(おほやまつみのかみ)之女神大市姬(かむおほいち比賣)
  生子,大年神(おほとしのかみ)
  次,宇迦之御魂神(うかのみたまのかみ)【○宇迦(うか)(うけ)同源,食物之古形而特指稻靈。】
  ()八島士奴美神,娶大山津見神之女木花知流姬(このはなちる比賣)
   生子,莟貴國栖主神(布波能母遲久奴須奴のかみ)【○原文ふはのもぢくぬすぬのかみ(布波能母遲久奴須奴神)以音。】
   此莟貴國栖主神(ふはのもぢくぬすぬのかみ),娶靇神(淤迦美のかみ)之女日河姬(ひかは比賣)
    生子,深淵之水夜禮花神(ふかふちのみづやれはなのかみ)
    此水夜禮花神(みづやれはなのかみ),娶天之集道泥神(あめの都度閉知ねのかみ)【○按原文天之(あめの)或云水源,つどへち(都度閉知)以音,()為親稱。】
     生子,大水主神(淤美豆奴のかみ)【原文おみづぬ(淤美豆奴)以音。】
     此大水主神(おみづぬのかみ),娶布怒豆怒神(ふのづののかみ)之女布帝耳神(ふてみみのかみ)
      生子,天之冬衣神(あめのふゆきぬのかみ)
      此天之冬衣神,娶刺國大神(さしくにおほかみ)之女刺國若姬(さしくにわか比賣)
       生子,大國主神(おほくにぬしのかみ)亦名(またのな)大穴牟遲神(おほあなむぢのかみ),亦名(いひ)葦原醜男神(あしはら色許をのかみ),亦名謂八千矛神(やちほこのかみ),亦名謂顯國玉神(宇都志くにたまのかみ)(あはせ)五名(いつつのな)【○(しか),強壯之意,原文しこ(色許)以音,下效此。(うつし),原文うつし(宇都志)以音。】


肥河 斐伊川
八岐大蛇傳說,在裴伊川流域。


八重垣神社 櫛名田姬復原障壁畫


天之淵
斐伊川上游,傳八岐大蛇居所。


八岐大蛇
出雲之舊支配者,不順鬼神代表。


傳八岐大蛇首塚 八本杉


日本初之宮 須我神社 神詠歌碑
八重垣神詠:「八雲層湧立 出雲清地八重垣 欲籠妻在此 遂造出雲八重垣 其八重垣可怜矣


意宇六社 八重垣神社
須佐之男築宮須賀,【須我神社。】後移佐草【八重垣神社。】。奧院佐久佐女森鏡池,傳稻田姬隱居梳妝處。


腳摩乳神社、手摩乳神社
八重垣神社攝社。須佐之男命稻田姬父神足名椎神,為稻田宮主。


八重垣神社 素戔嗚尊復原障壁畫
須佐之男築須賀宮,籠妻八重垣,始作卅一字之詠,短歌之肇也。

出雲神話


八上神社 八上姬像
稻羽國國色八上姬,眾神欲婚之。


氣多崎 白兔海岸 白兔神社
大穴牟遲等遇稻羽素菟於氣多崎。


出雲大社 御慈愛之御神像
大穴牟遲神以善心救因幡白兔,遂得八上姬之青睞。


沙像 大國主命與八上姬
大穴牟持神、八上姬以白兔結緣。


神魂伊能知奴志神社 命主社
出雲大社攝社,祀神產巢日命。


大穴牟遲神與𧏛貝姬、蛤貝姬
大穴牟遲陷八十神計為石燒著死。神產靈遣𧏛貝姬、蛤貝姬令活之。


神魂伊能知比賣神社【右】
俗稱天前社。祭𧏛貝姬、蛤貝姬。


出雲大社攝社 素鵞社
祭須佐之男命。須佐之男往妣國,為根堅洲國之主。


武州里神樂 須勢理姬命
須佐之男之女,而與大國主一見鍾情,助其通過父神所予之試練。


建速須佐之男遙封大國主命
大穴牟遲、須勢理姬竊生大刀、生弓矢、天沼琴而逃。須佐之男於黃泉平坂遙封大穴牟遲為大國主命。


大神大后神社 御向社【中】
祭神,大國主命正妻須勢理姬命。


高志國 沼河姬
大國主與沼河姬應答歌三首,併與須勢理姬相問歌二首,是為神語。

神語,其一:「顯國八千矛 大國主神大汝命 大八島國中 欲娶妻兮卻難尋 遙遙而遠赴 聽聞高智越國間 有賢女在兮 窈窕淑女麗孃子 君子自好逑 聽聞佳人在此故 故今來求婚 蟻立居於此 故今來求婚 蟻通訪於此 大刀飾緒者 至今未解佇於茲 襲裳衣著者 至今未解佇於茲 窈窕孃子之 所寢香閨板戶矣 今押搖振之 吾立於此求婚者 引晃喚娘子 吾居於此求婚者 巍峨青山間 鵺鳥發聲鳴 小野間鳥者 雉鳥啼聲響野中 庭院間鳥者 長鳴雞宏唳 鳥鳴聲忌忌 鳴鳥啼聲亂心緒 願將此鳥等 打叩止鳴致寂靜 慕訟神語兮 天際傳詠天馳使 冀將此事矣 願將吾述言語者 流傳延末世其二:「顯國八千矛 大國主神大汝命 陰柔弱萎草 手弱女人吾是者 我心甚游移 其若浦渚沙濱鳥 雖在今日時 彼為我鳥屬吾身 但在此後者 當作汝鳥為汝物 還冀聞我願 莫殺彼鳥勿害命 慕訟神語兮 天際傳詠天馳使 冀將此事矣 願將吾述言語者 流傳延末世 蒼鬱青山中 大陽日隱其間者 濡烏射干玉 闇夜至矣世黑漆 滿面猶朝日 笑顏綻兮榮來而 栲綱皎如月 白皙細腕為汝執 沫雪猶泡沫 稚嫩酥胸為汝撫 輕悄微叩兮 輕叩愛翫幸吾身 高貴真玉手 相交玉手為手枕 股腳伸而長 纏綿交寢渡春宵 無由方寸焦 戀慕如此情亂麻 顯國八千矛 大國主神大汝命 冀將此事矣 願將吾述言語者 流傳延末世 其三:「烏黑射干玉 漆黑真闇尊御衣 恭謹具呈之 取兮慎裝冶容儀 若猶沖鳥鴨 露胸展膛時搏羽 茲不適合宜 故如邊津波 悄悄褪棄黑御衣 墨綠鴗鳥之 蒼翠碧青尊御衣 恭謹具呈之 取兮慎裝冶容儀 若猶沖鳥鴨 露胸展膛時搏羽 茲不適合宜 故如邊津波 悄悄褪棄青御衣 今以山方所蒔茜 舂彼茜兮而 以彼染草染木汁 所染也御衣 恭謹具呈之 取兮慎裝冶容儀 若猶沖鳥鴨 露胸展膛時搏羽 是也甚合宜 親親愛子矣 愛也吾妻妹命者 翩翩群鳥之 我倆成伴同去者 退引群鳥之 若吾如鳥退去者 汝蓋啜泣乎 雖汝強言不泣啼 蜻蛉大和國 孤零一本丁薄芒 猶彼項垂傾 吾度汝當闇泣歟 歎猶朝方天 朝霧起兮情陰鬱 若草稚卉之 所愛親親吾妻命 冀將此事矣 願將吾述言語者 流傳延末世其四:「顯國八千矛 大己貴大汝命耶 我妾身之大國主 汝以男神者 巡迴遍國中 諸島諸岬御崎崎 探迴遍國中 所巡礒邊崎無落 若草稚卉之 可憐少妻汝娶歟 然顧妾身者 妾身為女心不安 除汝命之外 莫無他男可倚恃 除汝命之外 莫無他夫可倚恃 綾織帳垣兮 輕柔飄盪垂敷下 絹絲蠶衾兮 和柔輕軟彼襖下 楮絲栲衾兮 衣擦騷聲彼襖下 沫雪猶泡沫 稚嫩酥胸為汝撫 栲綱皎如月 白皙細腕為汝執 輕悄微叩兮 輕叩愛翫幸吾身 高貴真玉手 相交玉手為手枕 股腳伸而長 纏綿交寢渡春宵 今舉豐御酒 貢獻美酒敬吾夫


大國主命、須勢理姬命結納圖
神語既迄,結盞交頸鎮坐至今。


神魂御子神社 筑紫社【左】
祭神宗像大社奧津宮田霧姬命。大國主命與之結婚,生下光姬命。


一宮牛頭天王 片埜神社
配祀八嶋士奴美神者,非大國主命之子。須佐之男、櫛名田姬所生。


惠比壽總本宮 美保神社
神屋楯姬命,生事代主神。祀於美保神社本殿內末社大后社。


大神神社末社 久延彥神社
久延彥,足不能行而能知天下事。


少彥名神像
少彥名神,侏儒神,乘天羅摩船來而與大國主命共造葦原中國。


出雲大社 幸魂奇魂結緣御神像
少彥名神渡常世國。大國主神愁無神與之建國。時大物主神光海依來,是為大國主之幸魂奇魂也。


大和國一宮 大神神社 三輪山
大物主神,坐大和國御諸三輪山。


大和國一宮 大神神社 拜殿
大神神社以神奈備之三輪山為神體,僅有三輪鳥居,無本殿。


大和神社 右殿
祀御年大神者,須佐之男、大山津見神之女大市姬之子。


大和神社 拜殿
大國御魂神或云與倭大國魂神同神,則大和神社主祭神。


松尾大社
大山咋神,亦名山末之大主神。坐近江日枝山、葛野松尾。

一、大國主命之歷練與出雲建國

  伏惟大國主神(おほくにぬしのかみ)兄弟(はらから),有八十神(やそかみ)(しかれども)(みな)以其國,()於大國主神。【○(さりき),原文(さりき)。離於己身,拱手他人。下效此。】所以(ゆゑ)(さりし)者何?八十眾神,(おのおの)欲婚(あはむとおもふ)稻羽(いなば)八上姬(やかみ比賣)(こころ),遂共(いきし)稻羽。時命大穴牟遲神(おほなむぢのかみ)從者(ともびと)(おほせ)(ふくろ)率往(ゐてゆきき)【○(ふくろ),行囊。】
 於是(ここに)(いたりし)氣多之崎(けたの前)時,有一裸兔(あかはだのうさぎ)伏也(ふせりき)(しかくし)八十神(いひ)其菟云:「(なむち)將為(せまく)癒者,宜(あみ)海潮(海鹽)(あたり)風吹(かぜのふく)(ふせれ)高山(たかきやま)峰上(尾のへ)【○(さき)原文(さき)海潮(このうしほ)原文海鹽(このうしほ)峰上(をのへ)原文尾上(をのへ),下效此。】」故其菟,(したがひ)八十神之(をしへ)(ふせりき)。爾其身皮,(ことごとく)(まにまに)潮乾(しほのかはく)而為風吹裂(ふき析)【○吹裂(ふきさかりき)原文吹析(ふきさかりき)。】故愈痛苦(いたみくるしび),泣伏不已。時大穴牟遲神最後(もっとものち)(こし),見其(うさぎ)言:「汝以何由(なにのゆゑ)泣伏(なきふせる)於茲?」

 白菟(こたへ)言:「(やつかれ)隱岐嶋(淤岐のしま)雖欲(おもひしかども)(わたらむ)此地(ここ),苦(なかりき)渡由(わたむよし)【○隱岐(おき)原文淤岐(おき),當非沖嶋(おきつしま)矣。渡由(わたむよし),渡海之方。】(あざむき)海鰐(わたの和邇)言:『吾與汝(あれとなむち)(くらべ),欲(はからむ)族之多少(うがらのおほさすくなさ)(かれ)汝當悉率(ことごとくゐて)()(より)此島起,皆列伏度(なみふしわたれ)至於(いたるまで)氣多崎(けたの前)矣。爾吾(ふみ)其上(そのうへ)走乍(はしりつつ)數渡(讀みわたらむ)於是(ここに)(しらむ),汝與吾族(いづれか)多。』【○(わに)鰐鮫(わにさめ),原文和邇(わに)以音。(よみ)原文(よみ),計數。】如此言者(かくいひしかば),鰐為吾(あざむかえ),舉族列伏(なみふす)。時吾蹈其上,讀數渡來(わたりき)。然將接岸(下地)時,失言語之:『汝等,為我所欺(あれにあざむかえぬ)!』言畢(いひ竟)(すなはち)最端(もともはし)鰐鮫(和邇),倏然(とらへ)吾,悉(はぎき)毛皮(衣服)因此(これにより)泣患(なきうれへ)【○接岸(つちにおりむ)原文下地(つちにおりむ),降至地面。言畢(いひをはるに)原文言竟(いひをはるに)毛皮(こもろ)原文衣服(こもろ)。】先行(まづゆき)八十神等,誨告(をしへてのらし):『宜浴 海潮(うしほ)(あたり)風而伏。』(かれ)隨其教者,我身(あがみ)悉傷(ことごとくやぶれぬ)。」
 於是大穴牟遲神(おほなむぢのかみ)教告(をしえてのらし)(うさぎ):「今(すむやけく)往此水門(みなと),以水()身。復取其水門之蒲黃(かまのはな)敷散(しきちらし)輾轉(こいまろば)其上者,汝身(なむちがみ)(かならず)癒,(いえむ)本膚(もとのはだ)。」【○(いえむ),痊癒。】故菟(まにまに)其教,而其身(そのみ)如本(もとのごとし)也。此者,稻羽之素菟(いなばのしろうさぎ),於今所謂菟神(うさぎがみ)是也。故其菟(まをし)大穴牟遲神:「此八十神(やそがみ)(かならず)不得(えじ)八上姬(やかみ比賣)。汝雖負(おへども)(ふくろ),終將獲之(えむ)。」

 於是,八上姬(やかみ比賣)答八十神而言:「(あれ)者,不聞(きかじ)汝等之言(いましたちのこと)將嫁(あはむ)大穴牟遲神。」故爾(かれしかく),八十神忿(いかり),欲(ころさむ)大穴牟遲神。乃共議(ともにはかり)而,至伯岐國(ははきのくに)手間山(てまのやま)(),謂大穴牟遲云:「赤豬(あかきゐ)在此山,我等(和禮)(ともに)追下(おひくだり)而,汝命待取(まちとれ)!若不待取(まちとらず)者,必將(ころさむ)汝!」【○伯岐(ははき)伯耆(ははき)(ふもと)原文(もと)我等(われ),原文われ(和禮)以音。】八十神云而,以火(ひをもち)(やき)(にたる)大石(おほきいし)轉落(まろばしおとしき)。爾八十神追下(おひくだり),大穴牟遲將取之時(とるとき)(すなはち)其石(そのいし)燒著(やきつけらえ)(しにき)

 爾其御祖命(みおやのみこと)刺國若姬(さしくにわか比賣)哭患(なきうれへ)參上(まゐのぼり)(あめ)(まをし)神產巢日之命(かむむすひのみこと)時。御祖命(みおやのみこと),此云母神。】神產巢日命(すなはち)(つかはし)𧏛貝姬(さきかひ比賣)蛤貝姬(うむかひ比賣)令作活(つくりいけしめき)。爾𧏛貝姬(さきかひ比賣)刮削(岐佐宜)(あつめ)而,蛤貝姬(うむかひ比賣)待承(まちうけ)(ぬり)母乳汁(ははのち)者,大穴牟遲忽然復生,(なり)麗壯夫(うるはしきをとこ)出遊行(いであそびあるきき)刮削(きさげ),原文きさげ(岐佐宜)以音。訓壯夫(をとこ)をとこ(袁等古)。】
 於是,八十神 (みて)(また)(あざむき)率入(ゐていり)山,切伏(きりふせ)大樹(おほきき),復以(はめ)()打立(うちたて)其木(そのき),令大穴牟遲(いらしめ)其中(そのうち),即打離(うちはなち)(冰目矢)拷殺也(うちころしき)【○(ひめや),原文冰目矢(ひめや)()即空隙,()乃裂痕,()則弓矢矣。】(みた)御祖命(刺國若姬)哭乍求(なきつつもとめ)者,得見(みることをえて),即(さき)其木而取出(とりいだし)(いけ)
 刺國若姬(さしくにわか比賣)遂告其子(大穴牟遲)言:「(なむち)命,若(あり)此間(ここ)者,必(つひに)(ならむ)八十神(やそがみ)所滅(ほろぼすところ)!」乃避人目,違遣(たかへやりき)紀國(木のくに)大屋彥神(おほや毘古のかみ)御所(みもと)。爾,八十神(もとめ)追臻(おひいたり)矢射乞(や刺こふ)時,大屋彥神(おほや毘古のかみ)令大穴牟遲自木岐(きのたま)漏逃(くけにがし)而云:「可參向(まゐむかふべし)須佐之男命(すさのをのみこと)所坐(いませる)根堅洲國(ねのかたすくに)。必與其大神(須佐之男)議也(はからむ)!」【○矢射乞(やさしてこふ)原文矢刺乞(やさしてこふ),構弓指之,威脅要求大屋彥神交出大穴牟遲之狀。木岐(きのたま)原文木俣(きのたま)。】

 (かれ)大穴牟遲(まにまに)詔命(みことのり)參到(まゐいたり)根堅洲國須佐之男命(すさのをのみこと)御所(みもと)。其(むすめ)須勢理姬(すせり毘賣)出見(いでみ),遂一見傾心(為目合)相婚(あひあひき)【○一見傾心,原文為目合(めくはせし)。】須勢理姬(すせりびめ)還入(かへりいり)(まをし)其父(須佐之男)言:「甚麗神(いとうるはしきかみ)(きたり)。」(しかくし)其大神(須佐之男)出見而(のらし):「此者(これは)謂之(いふぞ)葦原醜男命(あしはら色許をのみこと)。」即喚入(めしいれ)令寢(いねしめき)蛇室(へみのむろ)於是(ここに)其妻(そのめ)須勢理姬(すせり毘賣)蛇領巾(へみの比禮)(さづけ)其夫(そのを)云:「若其蛇將咋(くはむ),以此領巾(比禮)三舉(みたびふり)打撥(うちはらへ)。」故如教(をしへのごとく)者,蛇自靜(おのづからしづまりき)。故平寢(たひらけくいね)出之(いでき)(また)來日夜(こしひのよ)者,入蜈蚣(吳公)(はち)室。亦其妻授蜈蚣(むかで)、蜂之領巾(比禮),教如先(さきのごとし)(かれ)安然()出之。【○領巾(ひれ),原文ひれ(比禮)以音。安然(ひらけく),原文(ひらけく)也。】

 (また),須佐之男執鳴鏑(かぶち)射入(いい)大野之中(おほきののなか)令採(とらしめき)()。故大穴牟遲(いりし)其野時,大神(須佐之男)(すなはち)()迴燒(めぐりやきき)其野。於是,大穴牟遲不知(しらず)所出(いでむどころ)之間(ありしあひだ)(ねずみ)來云:「(うち)空洞(富良富良),外者狹隘(須夫須夫)空洞(ほらほら)狹隘(すぶすぶ),原文ほらほら(富良富良)ほらほら(須夫須夫)以音。(ほら)(ほら)同源。狹隘(すぶすぶ)或云洞口狹窄,其內仍有洞天。或云地上路窄,無處可去。如此言(かくいひき)故,(ふみ)其處(そこ)者,(おち)隱入之間(こもりいりしあひだ),火者燒過(もえすぎにき)(しかくし)其鼠,咋持(くひもち)其鳴鏑,出來(いでき)奉也(まつりき)。其矢羽(やのは)者,(みな)鼠子等(ねずみのこら)喫也(くへり)
 於是,其妻(そのめ)須勢理姬(すせり毘賣)者,持喪具(ものそなへ)哭來(なきくる)。其父大神(須佐之男)者思大穴牟遲已死訖(すでにしにをはりぬ)出立(いでたて)其野(そのの)
 爾,大穴牟遲(もち)其矢以奉之時(まつりしとき)率入(ゐていり)(いへ),而喚入(めしいれ)八田間大室(やたまのおほむろ),令取其頭(そのかしら)(しらみ)故爾(かれしかくし),見其頭者,蜈蚣(吳公)多在(あまたあり)。於是,其妻(須勢理姬)椋木實(牟久のこのみ)赤土(あかきつち)(さづけき)其夫(大穴牟遲)【○(むく),原文むく(牟久)以音。】咋破(くひやぶり)木實(このみ)(ふふみ)赤土而唾出(はきいだし)其大神(須佐之男)以為(おもひ)大穴牟遲咋破蜈蚣(むかで)唾吐,故於(こころに)(おもひ)(うつくし)寢矣(いねき)

 爾大穴牟遲握其神(須佐之男)(かみ)結著(ゆひつけ)其室之每椽(たりきごと),亦取五百引石(いほぼきのいは)(ふさぎ)室戶(むろのと)(おひ)其妻須勢理姬(すせり毘賣)(すなはち)取持(とりもち)其神(須佐之男)生大刀(いくたち)生弓矢(いくゆみや),及其天沼琴(あめのぬこと)逃出(にげいでし)。時其天沼琴,不慎(ふれ)樹,而(つち)動鳴(とよみなりき)
 故其所寢(いねたる)大神(須佐之男)聞驚(ききおどろき)引仆(ひきたふしき)其室,然大神(須佐之男)(とく)結椽(たりきにゆへる)(かみ)之間,大穴牟遲等既遠逃(とほくにげき)
 故爾,大神(須佐之男)追至(おひいたり)黃泉平坂(よもつの比良さか)遙望(はるかにのぞみ)(さけび)大穴牟遲神(おほあなむぢのかみ)曰:「(その)(もちて)(なむち)所持之(もてる)生大刀(いくたち)生弓矢(いくゆみや),放逐汝庶兄弟(ままはらから)追伏(おひふせ)坂之稜(さかの御尾)追撥(おひはらひ)河之瀨(かはのせ)矣。如此為而(意禮)大國主神(おほくにぬしのかみ),亦為顯國玉神(宇都志くにたまのかみ)。其後,當以我之女(あがむすめ)須勢理姬(すせり毘賣)嫡妻(適妻),構宮宇迦山(うかのやま)山麓(山本)太豎(布刀斯理)宮柱(みやばしら)底津石根(そこついはね)高築(多迦斯理)冰椽(ひぎ)高天之原(たかあまのはら)(をれ)是奴也(このやつこや)!」【○(みを)原文御尾(みを),山、坡之稜線。坂稜、河瀨,指地之端,水之盡。(おれ)原文おれ(意禮)以音,懷有親愛之情的第二人稱代名詞。嫡妻(むかひめ),原文適妻(むかひめ)山麓(ふもと)原文山本(やまもと)太豎(ふとしり)原文ふとしり(布刀斯理)以音,()り本意治理而此引申為豎立。底津石根(そこついはね)乃地底之磐石。高築(たかしり)原文たかしり(多迦斯理)以音。冰椽(ひぎ)千木(ちぎ)同,神社屋頂之裝飾。】
 故大穴牟遲持其大刀、弓矢,追避(おひさりし)其兄八十神(やそがみ)追伏(おひふせ)每坂(さかごと)(御尾)追撥(おひはらひ)每河(かはごと)()。如是放逐,而(はじめて)作國也(くにつくりき)

 故其八上姬(やかみ比賣)者,大國主(八千矛)先期(さきのちぎり)迎娶(美刀阿多波志都)迎娶(みとあたはしつ),原文みとあたはしつ(美刀阿多波志都)以音。寢所與(みとあた)はしつ也。故其八上姬(やかみ比賣)者,雖率來(ゐてきつれども)出雲,然(かしこみ)嫡妻(むかひめ)須勢理姬(すせり毘賣),遂將其所生子(うめるこ)刺挾(さしはさみ)木岐(木俣)(かへりき)
  故(なづけ)其子云,木俣神(きまたのかみ)亦名(またのな),謂御井神(みゐのかみ)也。

 此八千矛神(やちほこのかみ)將婚(あはむ)高志國(こしのくに)沼河姬(ぬなかは比賣)幸行之時(いでまししとき)。到其沼河姬(ぬなかは比賣)(いへ)歌曰(うたひていはく)

 爾,其沼河姬(ぬなかは比賣)未開戶(いまだとをひらかず)自內(うちより)歌曰:

 故,其夜者未合(あはず),而明日夜(あくるひのよ)為御合也(みあひしき)【○御合(みあひ),結婚也。八千矛神、大穴牟遲神,並大國主異名也。】

 又,其神(大國主)嫡后(適后)須勢理姬命(すせり毘賣のみこと),性(はなはだ)嫉妒(うはなりねたみ)。故其彥遲神(大國主)侘而(和備弖),自出雲(いづも)(上坐)倭國(やまとのくに)束裝()發向()之時,一手(片御手)(かけ)御馬(みうま)()一足(片御足)蹈入(ふみいれ)御鐙(みあぶみ)而歌曰:【○彥遲神(ひこぢのかみ),原文日子遲神(ひこぢのかみ)(ひこ)()皆男性敬稱。侘而(わびて)原文わびて(和備弖)以音。(ゆき)原文上坐(のぼりまさむ),意為上京,乃以大和(やまと)為中心之用詞。發向(たちむかひ)原文(たちし)一手(かたつみて)一足(かたつみあし)原文片御手(かたつみて)片御足(かたつみあし)。】

 爾其后(須勢理姬)大御酒坏(おほみさかづき)依偎(立依)奉觴(指舉)而歌:【○依偎(たちより)原文立依(たちより)奉觴(さかづきあげ)原文指舉(さしあげ)。】

 二神如此歌(かくうたひ)(すなはち)結盞(宇伎由比)交頸(宇那賀氣理弖)鎮坐(しづまります)至今(いまにいたるまで)也。此謂之神語(かむがたり)也。【○結盞(うきゆひ)原文うきゆひ(宇伎由比)以音,可書盞結(うきゆひ),則交杯酒也。交頸(うながけりて)原文うながけりて(宇那賀氣理弖)以音,可書項掛(うながけ)りて,鴛鴦交頸之狀也。以上神語(かむがたり),計五首。】

 故,此大國主神(おほくにぬしのかみ)(もとり)胸形(宗像)奧津宮(おくつみや)田霧姬命(多紀理毘賣のみこと)
  生子(うみしこ)阿遲鉏高彥根神(あぢすきたか日子ねのかみ)あぢ(阿遲)二字以音。】
  次(いも)高姬命(たか比賣のみこと)。亦名下光姬命(したでる比賣のみこと)。此阿遲鉏高彥根神(あぢすきたか日子ねのかみ)者,今謂賀茂大御神(迦毛のおほみかみ)也。【○賀茂(かも)かも(迦毛)。】
 大國主命亦娶神屋楯姬命(かむやたて比賣のみこと)
  生子,事代主神(ことしろぬしのかみ)
 大國主亦娶八嶋牟遲能神(やしまむぢのかみ)之女鳥取神(ととりのかみ)
  生子,鳥鳴海神(とりなるみのかみ)【訓(なる)なる(那留)。】

  此鳥鳴海神(とりなるみのかみ),娶日名照額田毘道男伊許知邇神(ひなてりぬかたびちをいこちにのかみ)【○名義不詳。或云男字以前乃父神之名。】
   生子,國忍富神(くにおしとみのかみ)
   此國忍富神,娶葦那陀迦神(あしなだかのかみ),亦名八河江姬(やがはえ比賣)
    生子,速甕之多氣佐波夜遲奴美神(はやみかのたけさはやぢぬみのかみ)
    此速甕之多氣佐波夜遲奴美神,娶天之甕主神(あめのみかぬしのかみ)之女前玉姬(さきたま比賣)
     生子,甕主彥神(みかぬし日子のかみ)
     此甕主日子神,娶靇神(淤加美のかみ)之女靈平志姬(比那良し毘賣)【○靈平志姬(ひならしひめ)原文比那良志毘賣(ひならしひめ)以音。藉靈力使海面平和之女神。】
      生子,多比理岐志麻流美神(たひりきしまるみのかみ)【此神名以音。】
      此多比理岐志麻流美神,娶柊之其花待靈神(比比羅木のそのはな麻豆美のかみ)之女活玉前玉姬神(いくたまさきたま比賣のかみ)【○柊之其花(ひひらぎのそのはな)待靈神(まづみのかみ),義未詳。或云づみ(豆美)(つみ)也,或云まづ(麻豆)(まつ)也。】
       生子,美呂浪神(みろなみのかみ)みろ(美呂)二字以音。】
       此美呂浪神,娶敷山主神(しきやまぬしのかみ)之女青沼馬沼押姬(あをぬうまぬおし比賣)
        生子,布忍富鳥鳴海神(ぬのおしとみとりなるみのかみ)
        此布忍富鳥鳴海神,娶若盡女神(わかつくしめのかみ)
         生子,天日腹大風處靈神(あめのひはらおほ科度美のかみ)しなど(科度)以音。】
         此天日腹大風處靈神(あめのひはらおほしなどのかみ),娶天狹霧神(あめのさぎりのかみ)之女遠津待根神(とほつまちねのかみ)【○或云(まち)真靈(まち)之意。。】
          生子,遠津山岬足神(とほつやまさき多良斯のかみ)【○(たらし)原文たらし(多良斯)以音。】

 右件(みぎのくだり),自八島士奴美神(やしまじぬみのかみ)以下(よりしも)遠津山岬足神(とほつやまさき帶のかみ)以前(よりさき),稱十七世神(とをよあまりななよのかみ)

 故,大國主神(おほくにぬしのかみ)出雲(いづも)美保埼(御大之御前)時,有歸來神(かへりくるかみ)內剝(うつはぎ)鵝皮(かりのかは)(はぎ)衣服(ころも),自波穗(なみのほ)天之羅摩船(あめのかがみのふね),汎海而至。爾大國主雖問(とへども)其名,不答(こたへず)(また)雖問所從(したがへる)諸神(もろもろのかみ),皆(まをしき):「不知(しらず)。」爾,蟾蜍(多邇具久)白言:「此者(これは)久延彥(くえ毘古)(かならず)知之(しりたらむ)。」【○美保埼(みほのみさき)原文御大之御前(みほのみさき)(かり)蓋家畜化之(かり)。或云(ひむし)之訛,然與(かは)字矛盾,不採。羅摩(かがみ)鏡芋(ががいも)古名,形似舟船。蟾蜍(たにぐく)原文たにぐく(多邇具久)以音,谷潛(たにぐく)也。】即召久延彥(くえ毘古)以問。答白:「此者,神產巢日神(かむむすひのかみ)御子(みこ)少彥名神(すく名毘古那のかみ)也。」
 故爾(かれしかくし),大國主白上(まをしあげ)於神產巢日御祖命(みおやのみこと)者,答告(こたへてのらし):「此者,(まことに)我子也(あがこぞ)。於子之中(このなか),自吾指間(手俣)漏出(久岐斯)子也。故與(なむち)葦原醜男命(あしはらの色許をのみこと)兄弟(はらから)也。汝等當戮力一心,作堅(つくりかためむ)其國(そのくに)。」
 故自爾(かれそれより)大穴牟遲(おほあなむぢ)少彥名(すく名毘古那)二柱神(ふたはしらのかみ)相並(あひとも)作堅(つくりかためき)此國。(しかし)(のち)者,其少彥名神(すく名毘古那のかみ)者,(わたりき)常世國(とこよのくに)也。故,顯白(あらはしまをし)少彥名神(すく名毘古那のかみ)所謂(いはゆる)久延彥(くえ毘古)者,於今(いまに)山田(やまだ)芻人(曾富騰)者也。此神者,(あし)雖不行(いかねども)(ことごとく)(しれる)天下之事(あめのしたのこと)也。【○芻人(そほど)原文そほど(曾富騰),則濡人(そほど)也。案山子(かかし)、稻草人之古語也。】

 於是,大國主神(うれへ)而告:「吾獨(あれひとり)何能(いかにかよく)得作(つくれる)此國?孰神(いづれのかみか)與吾(よく)相作(あひつくらむ)此國耶?」是時(このとき),有光海(うみをてらし)依來(よりくる)之神。其神曰:「能治(よくをさめ)我前(あがまへ)者,(あれ)共與(ともに)相作成。若不然(もししからず)者,國難成(なることかたけむ)。」(しかくし)大國主曰:「然者(しからば)治奉之狀(をさめまつるかたち)奈何(いかに)?」答言:「吾者,齋奉(伊都岐まつれ)(やまと)青垣(あをかき)東山上(ひむかしのやまのうへ)!」此者,(います)御諸山(みもろのやま)大物主神(おほものぬしのかみ)也。【○(をさめ)(しづめ)矣,祭祀安撫也。(まへ)乃指稱神祇之避忌表現。(いつき)原文いつき(伊都岐),祭祀。御諸山(みもろのやま)三輪山(みわのやま)也。】

 故,其大年神(おほとしのかみ)(めとり)神活須毘神(かむいくすびのかみ)之女伊怒姬(いの比賣)
  生子,大國御魂神(おほくにみたまのかみ)
  次,韓神(からのかみ)
  次,王都神(曾富理のかみ)【○王都(そほり)原文そほり(曾富理)以音。古朝鮮語以黃金()村落(ほり)王都(そほり)。】
  次,白日神(しらひのかみ)
  次,聖神(ひじりのかみ)【五神。(ひじり)者語源日知(ひじ)り。能識農事曆法之神哉。
 大年神又娶香用姬(かぐよ比賣)【此神名以音。(かぐ)乃光輝,()()之轉矣。
  生子,大香山戶臣神(おほかぐやまとおみのかみ)
  次子,御年神(みとしのかみ)【二柱。】
 大年神又娶天近瑞姬(あま知迦流美豆比賣)【訓天如天,ちかるみづひめ(知迦流美豆比賣)以音。】
  生子,奧津彥神(おくつ日子のかみ)
  次,奧津姬命(おくつ比賣のみこと)。亦名,大戶姬神(おほへ比賣のかみ)。此者,諸人(もろひと)(をろがむ)竈神(かまのかみ)者也。
  次,大山咋神(おほやまくひのかみ),亦名山末之大主神(やますゑのおほぬしのかみ)。此神者,坐近淡海國(ちかつあふみのくに)日枝山(ひえのやま),亦坐葛野(かづの)松尾(まづを)(もちゐる)鳴鏑(かぶら)神者也。【○近淡海(ちかつあふみ)近江(あふみ)也。】
  次,庭津日神(にはつひのかみ)
  次,阿須波神(あすはのかみ)【此神名以音。】
  次,波比岐神(はひきのかみ)【此神名以音。】
  次,香山戶臣神(かぐやまとおみのかみ)
  次,羽山戶神(はやまとのかみ)
  次,庭高津日神(にはたかつひのかみ)
  次,大土神(おほつちのかみ),亦名土之御祖神(つちのみおやのかみ)九神(ここのはしらのかみ)。】

 上件(かみのくだり)大年神(おほとしのかみ)之子,自大國御魂神(おほくにみたまのかみ)以下,大土神(おほつちのかみ)以前,(あはせ)十六神(とはしらあまりむはしらのかみ)
  其中,羽山戶神(はやまとのかみ),娶大饌津姬神(おほ氣都比賣のかみ)
   生子,若山咋神(わかやまくひのかみ)
   次,若年神(わかとしのかみ)
   次(いも)若實女神(わか沙那賣のかみ)實女(さなめ)原文さなめ(沙那賣)以音。】
   次,瑞蒔神(彌豆麻岐のかみ)瑞蒔(みづまき)原文みづまき(彌豆麻岐)以音。】
   次,夏高津日神(なつたかつひのかみ)。亦名,夏之女神(なつの賣のかみ)
   次,秋姬神(あき毘賣のかみ)
   次,久久年神(くくとしのかみ)【○久久(くく)(くき)之交替形,立莖。】
   次,久久紀若室葛根神(くくきわかむろつなねのかみ)【○久久紀(くくき)乃立莖之樹。】
   上件(かみのくだり)羽山(はやま)之子以下(よりしも)若室葛根(わかむろつなね)以前(よりさき)(あはせ)八神(やはしらのかみ)

二、出雲讓國

 天照大御神(あまてらすおほみかみ)(みこと):「以豐葦原之千秋長五百秋之瑞穗國(とよあしはらのちあきのながいほあきの水づほのくに)者,【○瑞穗(みづほ),原文水穗(みづほ),下效此。】當為我御子(あがみこ)正勝吾勝勝速日(まさかつあかつかちはやひ)天忍穗耳命(あめのおしほみみのみこと)所治國(しらさむくに)。」【○(しる),原文(しる)。】天忍穗耳命,(よし)(こと)賜而天降矣(あまくだしき)於是(ここに),天忍穗耳命(多多志)天浮橋(あめのうきはし)而詔之:「豐葦原之千秋長五百秋之瑞穗國者,(伊多久)喧騷(佐夜藝弖)(那理)。」告斯而更還上(さらにかへりのぼり)天,(まをしき)于天照大御神。【○(たたし)原文たたし(多多志)甚喧騷(いたくさやぎて)原文いたくさやぎて(伊多久佐夜藝弖)(なり)原文なり(那理),以音。】
 爾(もち)高御產巢日神(たかみむすひのかみ)天照大御神(あまてらすおほみかみ)之命,()八百萬神(やほよろづのかみがみ)神集(かむつどへ)天安河之河原(あめのやすのかはのかはら),令思金神(おもひかねのかみ)思而詔:「此葦原中國(あしはらのなかつくに)者,當為我御子所治(しらさむ)依言(ことよし)所賜之國(たまへるくに)也。故,以為(おもふに)於此國千磐破(道速振)荒振(あらぶる)國神(くにつかみ)多在(あまたある)。是當使(つかはし)何神(いづれのかみ),而將言趣(ことむけ)?」【○千磐破(ちはやぶる),原文道速振(ちはやぶる)或云千早振(ちはやぶる)稜威之意。荒振(あらぶる),荒暴。言趣(ことむけ),令其宣示服屬之意。】爾思金神()八百萬神,議白之(はかりまをし):「天菩比神(あめのほひのかみ)(これ)可遣(つかはすべし)。」
 然所遣天菩比神者,(すなはち)媚附(こびつき)大國主神(おほくにぬしのかみ)至於(いたるまで)三年(みとせ)不復奏(かへりことまをさず)

 是以(ここをもちて),高御產巢日神、天照大御神,亦問諸神等(もろもろのかみたち):「所遣(つかはせる)葦原中國(あしはらのなかつくに)天菩比神(あめのほひのかみ)(ひさしく)不復奏(かへりことまをさず)。亦使何神(いづれのかみ)者為(よけむ)?」(しかくし)思金神(おもひかねのかみ)答白(こたへてまをし):「可遣(つかはすべき)天津國玉神(あまつくにたまのかみ)之子,天若彥(あめわか日子)。」故爾,以天之真鹿兒弓(あめの麻迦古ゆみ)天之羽羽矢(あめの波波や)(たまひ)天若彥(あめわか日子)(つかはしき)【○真鹿兒(まかこ)羽羽(はは),原文まかこ(麻迦古)はは(波波)以音。】
 於是(ここに)天若彥(あめわか日子)降到(くだりいたり)其國,(すなはち)(めとり)大國主神(おほくにぬしのかみ)之女下照姬(したでる比賣),亦(おもひはかり)(えむ)其國。至於八年(やとせ)不復奏(かへりことまをさず)

 故爾(かれしかくし)天照大御神(あまてらすおほみかみ)高御產巢日神(たかみむすひのかみ)(とひ)諸神(もろもろのかみたち)等:「天若彥(あめわか日子),久不復奏。又遣曷神(いづれのかみ)以問天若彥(あめわか日子)()(とどまれる)所由(ゆゑ)【○(とどこほる),原文作(ひさしく)。】」於是,諸神及思金神答白(こたへてまをさく):「可遣(きぎし),名鳴女(なきめ)。」時天照大神(のりたまひ)此雉曰:「汝行(なむちいき),問天若彥(あめわかひこ)(かたち)者:『汝所以(ゆゑ)使(つかはせる)葦原中國(あしはらのなかつくに)者,言趣和(ことむけやはせ)其國之荒振神等(あらぶるかみども)之者也。(なにとかも)至于八年,不復奏(かへりことまをさぬ)?』」
 故爾(かれしかくし)鳴女(なきめ)自天(あめより)降到(くだりいたり),居天若彥(あめわか日子)(かど)齋楓上(湯津かつらのうへ),悉言委曲(ことのつばひら)(ごとし)天神(あまつかみ)詔命(みことのり)。爾,天探女(あめの佐具賣)聞此鳥(こと)(かたり)天若彥(あめわか日子)云:「此鳥者,其鳴音(なくおと)甚惡(いとあし)。故可射殺(いころすべし)!」【○()原文書()探女(さぐめ),原文さぐめ(佐具賣)以音。】如是進言(云進),即天若彥(あめわか日子)持天神所賜(たまへる)天之梔弓(あめの波士ゆみ)天之輝矢(あめの加久や),射殺其(きぎし)【○進言原文云進(いひすすむる)天之梔弓(あめのはじゆみ)天之輝矢(あめのかくや),蓋與天羽羽矢(あめのはじや)天真鹿兒弓(あめのまかこゆみ)同而語型稍異。】爾其矢,自雉(むね)貫通(とほり)逆射(さかしまにい)(あがり)(いたりき)天安河原(あまのやすかはら)天照大御神(あまてらすおほみかみ)高木神(たかぎのかみ)御所(みもと)(この)高木神者,高御產巢日神(たかみむすひのかみ)別名(ことな)
 (かれ)高木神,取其矢見者,血(つけり)矢羽(やのは)於是(ここに),高木神告之(のらさく):「此矢者,所賜天若彥(あめわか日子)之矢。」即(しめし)諸神等(もろもろのかみたち)詔者:「(もし)天若彥(あめわか日子)不誤(あやまたず)(みこと)為射(いむとする)惡神(あしきかみ)之矢之至者(いたれらば)不中(あたらず)天若彥(あめわか日子)。或有邪心(あしきこころ)者,天若彥(あめわか日子)(麻賀禮)於此矢!(まがれ),原文まがれ(麻賀禮)以音,斃也。】」云而取其矢,自其矢穴(やのあな)衝返下(つきかへりくだし)者,中天若彥(あめわか日子)(いねたる)朝床(あさとこ)高胸前(たかむなさか坂)以死(しにき)(これ),「還矢(かへりや)可畏」之(もと)也。(さか),原文借字書(さか)亦其(きぎし)不還(かへらず),故於今(ことわざ)曰「雉之頓使(ひたつかひ)」本是也(これぞ)

 故天若彥(あめわか日子)()下照姬(したでる比賣)哭聲(なくこゑ)()(ひびき)徹天際。於是,在天天若彥(あめわか日子)之父天津國玉神(あまつくにたまのかみ)及其妻子(めこ),聞而降來(くだりき)哭悲(なきかなしび)不已。乃於其處(そこ)喪屋(もや)而殯之。即命河鴈(かはかり)持傾頭者(岐佐理もち)(さぎ)持掃者(掃持)【○持傾頭者(きさりもち),原文きさり持(岐佐理もち),蓋送葬時持死者食物者,未詳。掃持(ははきもち),持掃帚者。】翠鳥(そにどり)御食人(みけびと)(すずめ)碓女(うすめ)(きぎし)哭女(なきめ)如此(かく)行定(おこなひさだめ)而,日八日(ひやうか)夜八夜(よやよ),弔遊也(あそびき)

 此時(このとき)味鉏高彥根神(阿遲志貴たか日子ねのかみ)()(とぶらひ)天若彥(あめわか日子)(),而自天降到(くだりいたれる)天若彥(あめわか日子)(ちち),亦其妻(下照姬)哭云(なきていはく):「我子未死!我君未死!【○原文我子(あがこ)不死(しなず)有けり(あり祁理)我君(あがきみ)不死(しなず)有けり(あり祁理)!】取懸(とりかかり)手足(てあし)哭悲也(なきかなしびき)。其()所以(ゆゑ)者,此二柱神(ふたはしらのかみ)容姿(かたち)甚能(いとよく)相似(あひにたり)。故是以(ここをもち)(あやまち)也。
 於是,味鉏高彥根神(阿遲志貴たか日子ねのかみ)大怒(おほきにいかり)曰:「(あれ)愛友(うるはしきとも)(ゆゑ)弔來耳(とぶらひきつらくのみ)(なにとかも)(きたなき)死人(しにびと)(なそふる)(あれ)?」遂(ぬき)所佩(みはかしせる)十掬劍(とつかのつるぎ)切伏(きりふせ)喪屋(もや),以(あし)蹶離遣(くゑはなちやりき)。此者,在美濃國(みののくに)藍見河(あゐみのかは)川上(かはかみ)喪山(もやま)也。其味鉏高彥根(あぢしたきたかひこね)所持切(もちてきれる)大刀(たち)(いひ)大量(おほはかり),亦名神銳劍(かむ度のつるぎ)【○神銳劍(かむどのつるぎ),原文神度劍(かむどのつるぎ)。】

 故味鉏高彥根神(阿遲志貴たか日子ねのかみ)忿(いかり)飛去之時(とびさりしとき),其胞妹(伊呂も)高姬命(たか比賣のみこと)(おもひき)(あらはさむ)其兄御名(みな),故歌曰(うたひていはく)

 此歌(このうた)者,夷振(ひなぶり)也。

夜神樂 菩比上使
思金神、八百萬神議遣天菩比神為使。而其神媚附大國主,不復命。

出雲大社 千家國造館
天菩比神或云天穗日命,其子孫代代祀大國主命為出雲國造。


安孫子神社
祭神天稚彥,即天若彥矣。


伯耆國一宮 倭文神社 經塚
倭文神社經塚,傳為下照姬命墓。


平間神社
祭神天探女,或云天邪鬼。民間承傳,以好惡戲為性。


地神五代記 天若彥射殺雉鳴女
天若彥聞天探女進言,持天之梔弓、天之輝矢,射殺其雉。


喪山天神社 喪山跡
味鉏高彥根神怒人誤己為死人,拔劍切伏天若彥喪屋,蹴至美濃國藍見河上,是為喪山。


高鴨神社
鴨神社總本社,祭味鉏高彥根神。

夷振:「其猶久方天 年稚棚機織機女 頸間所繫項 麗美連珠玉御統 其御統之間 妍矣穴玉足玉者 猶其連珠兮 輝煌似能渡二谷 阿治鋤高日子根 神命高名矣

 於是,天照大御神(あまてらすおほみかみ)詔之:「亦(つかはし)曷神(いづれのかみ)(よけむ)?」爾思金神(おもひかねのかみ)及諸神白之(まをし):「鎮坐(います)天安河(あまのやすかは)河上(かはかみ)天石屋(あめのいはや),名嚴之尾羽張神(伊都のをはばりのかみ),是可遣(つかはすべし)若亦(もしまた)非此神者,其神之子武御雷之男神(建みかづちのをのかみ)(これ)應遣。且其天尾羽張神(あめのをはばりのかみ)者,(さかしま)塞上(せきあげ)天安河之(みづ)塞道(みちをふさぎ)(をる)(ゆゑ)他神(あたしかみ)不得行(ゆくことえず)。故,(ことに)天迦久神(あめのかくのかみ)可問(とふべし)。」故爾(かれしかくし)使(つかはし)天迦久神問天尾羽張神。其神(こたへ)白:「恐之(かしこし)仕奉(つかへまつらむ)(しかれども)此道(このみち)者,僕子(やつかれがこ)武御雷神(建みかづちのかみ)可遣。」乃貢進(たてまつりき)。爾天鳥船神(あめのとりふねのかみ)(そへ)武御雷神(建みかづちのかみ)而遣。

 是以,此二神降到(くだりいたり)出雲國(いづものくに)五十狹狹之小濱(伊耶佐のをはま)而拔十掬劍(とつかのつるぎ)逆刺(さかしまにさし)浪穗(なみのほ)趺坐(あぐみゐ)劍鋒(つるぎの前)【○五十狹狹(いざさ),原文いざさ(伊耶佐)以音。書紀作稻佐濱(いなさのはま)。】問其大國主神(おほくにぬしのかみ)言:「以天照大御神、高木神(たかぎのかみ)(みこと),問使之(つかはせり):『(なむち)統領(宇志波祁流)葦原中國(あしはらのなかつくに)者,當為我御子(あがみこ)所治國(知らさむくに)【○統領(うしはける)原文うしはける(宇志波祁流)主著(うしは)ける也。()原文()。】依其言賜(ことよしたまひき)(かれ)汝心(なむちがこころ)奈何(いかに)?」爾大國主答白之:「(やつかれ)不得白(まをすことえず)我子(あがこ)八重言代主神(やへことしろぬしのかみ)(これ)可白(まをすべし)。然(ため)鳥遊(とりのあそび)取魚(すなどり),而往美保埼(御大之前)未還來(いまだかへりこず)【○鳥遊(とりのあそび),獵鳥。(あそび)之字義甚廣,凡超脫日常之行為皆可稱之。取魚(すなどり),漁獵。美保埼(みほのさき)原文御大之前(みほのさき)。】
 故爾,遣天鳥船神(あめのとりふねのかみ)徵來(めしき)八重事代主神(やへことしろぬしのかみ)問賜(とひたまひ)。時事代主神(かたり)父大神(大國主)言:「恐之(かしこし)此國(葦原中國)者,立奉(たてまつらむ)天神(あまつかみ)御子(みこ)。」即蹈傾(ふみかたぶけ)其船,以天逆手(あめのさかて)打成(うちなし)青柴垣(あをふしかき)隱也(かくりき)【訓(ふし)ふし(布斯)○天逆手,別於一般以手掌拍手(かしはで),而以手背為之之呪術用法。

 故爾(かれしかくし)武御雷神(たけみかづちのかみ)復問其大國主神:「今,汝子事代主神,如此白訖(かくまをしをはりぬ)。亦有可()之子乎?」於是(また)白之:「亦我子尚有武御名方神(建みなかたのかみ)(おき)此者無也(なし)。」如此白之間(まをすあひだ),其武御名方神(建みなかたのかみ)手末(たなすゑ)(ささげ)千引石(ちびきのいは)而來,言:「誰來我國而忍忍(しのぶしのぶ)如此物言(ものいふ)(しからば)(おもふ)(せむ)力競(ちからくらべ)。故(あれ)(まづ)(とらむ)御手(みて)!」故令取(とらしむ)(武御雷)御手者,(すなはち)(とりなし)立冰(たつひ)【○冰柱(つらら)也。】又化劍刃(つるぎのは)。故爾,武御名方神(たけみなかたのかみ)(をぢ)退居(しりぞきをりき)
 爾武御雷神(たけみかづちのかみ)欲取其武御名方神(建みなかたのかみ)之手。乞歸(こひよせ)而取者,如取稚葦(若あし)搤批(とりひだき)投離(なげはなち)武御名方神(たけみなかたのかみ)倏即逃去(にげさりき)。故武御雷神(たけみかづちのかみ)追往(おひゆき)而到科野國(信濃のくに)洲羽海(諏訪のうみ)將殺之(ころさむ)【○稚葦(わかあし)幼嫩之葦。搤批(とりひだき),捉拿押潰。科野國(しなののくに)洲羽海(すわのうみ)信濃國(しなののくに)諏訪湖(すわのみづうみ)。則武御名方神者,坐諏訪大社。】武御名方神(建みなかたのかみ)白:「(かしこし)(なかれ)殺我(あれをころすこと)(おき)此地(ここ)者,吾不行(ゆかじ)他處(あたしところ)。亦不違(たがはじ)我父(あがちち)大國主神(おほくにぬしのかみ)(みこと),不違八重事代主神(やへことしろぬしのかみ)(こと)。此葦原中國(あしはらのなかつくに)者,(まにまに)天神御子之命(たてまつらむ)!」

 故武御雷神(たけみかづちのかみ)(さらに)且還來(またかへりき)(とひ)大國主神(おほくにぬしのかみ):「汝子等(なむちがこら)事代主神(ことしろぬしのかみ)武御名方神(建みなかたのかみ)二神(ふたはしらのかみ)者,皆白訖(まをしをはりぬ):『(まにまに)天神(あまつかみ)御子(みこ)之命,勿違(たがはじ)。』故,汝心奈何(いかに)?」爾大國主答白之:「隨(やつかれ)子等(こども)二神之(まをす),僕亦不違。此葦原中國(あしはらのなかつく)者,隨命(みことのまにまに)(すでに)獻也(たてまつらむ)(ただに)住所(すみか)天日隅宮者,當如天神御子之天津日繼(あまつひづき)()十足(登陀流)天之御巢(あめのみす)以奉造。太豎(布斗斯理)宮柱(みやばしら)底津石根(そこついはね)高築(多迦斯理)冰木(ひぎ)高天之原(たかあまのはら)治賜者(をさめたまはば),僕者當於百不足(ももたらず)八十坰手(やそくまで),將奉避隱侍矣(かくりはべらむ)【○十足(とだる)原文とだる(登陀流)以音,十分滿足之狀。八十坰手(やそくまで),書紀作八十隈(やそくま),僻地矣。隱侍(かくりはべらむ),書紀作隱去(かくりさりぬ),奉避矣。】亦僕子等(こら)百八十神(ももやそのかみ)者,即八重事代主神(やへことしろぬしのかみ),為神之御尾前(みをさき)仕奉者(つかへまつらば),誰敢不順,無復違神(たがふかみ)也。」如此之白(かくまをし)而,於出雲國(いづものくに)多藝志之小濱(たぎしのをはま),造天之御舍(あめのみあらか)【○御尾前(みをさき),立於天津諸神前鋒或尾端侍奉者。天之御舍(あめのみあらか)出雲大社(いづものおほやしろ)。】

 水戶神(みなとのかみ)(うまご)櫛八玉神(くしやたまのかみ)膳夫(かしはて)(たてまつり)天御饗(あめのみあへ)。時櫛八玉神禱白(ほきまをし)(なり)()(いり)海底(わたのそこ)咋出(くひいだs)底埴(そこ之波邇)天八十平瓮(あめのやそ毘良迦),復(かり)海布之柄(めのから)燧臼(ひきりうす),以海蓴之柄(こものから)燧杵(ひきりきね)攅出(きりいだし)()云:

     (この)我所燧(あがきれる)(),爨於高天之原(たかまのはら)者,所燒舉(たきあげ)之狀,神產巢日御祖命(かむむすひのみおやのみこと)十足(登陀流)天之新巢(あめのにひす)之,令其凝烟(すす)(たる)八拳(やつか)。復爨地下(つちのした)根國者,所燒凝(たきこらし)之狀,底津石根(そこついはね)為燔固。打莚(うちはへ)栲繩(たくなは)兮,以為千尋綱繩(ちへろなは)長,漁釣(つりする)海人(あま)之,大口(くちおほ)大鰭尾翼鱸(をはたすずき)騷騷而(佐和佐和邇)控依騰(ひきよせあげ)而,打竹(うちたけ)曲撓復曲撓(登遠遠登遠遠邇),所(たてまつる)天真魚咋(あめのまなぐひ)也!【○凝烟(すす),烟煤。此云燧火旺盛,令高天原之新居亦垂烟煤。騷騷而(さわさわに),原文さわさわに(佐和佐和邇)以音。曲撓復曲撓(とををとををに),原文とををとををに(登遠遠登遠遠邇)以音,竹棒(打竹)撓曲之狀。】

 (かれ)武御雷神(建みかづちのかみ)(かへり)高天原,參上(まゐのぼり)復奏(かへりことまをしき)降服(言向)和平(やはしたひらげつる)葦原中國(あしはらのなかつくに)(かたち)【○降服(ことむけ)原文言向(ことむけ),前文作言趣(ことむけ)。】


天安河河上
天尾羽張神,坐天安河河上天石屋,逆塞河水與道,諸神不得行。天迦久神者,迦久蓋水手之意。


五十狹狹之小濱 稻佐濱
武御雷神、天鳥船神,降到出雲國五十狹狹小濱,質問讓國之事。


御大之御前 美保關
八重事代主神,則美保神社祭神。


因佐神社 出雲讓國圖
武御雷神拔劍逆刺浪穗,趺劍鋒。


諏訪大社上社本宮
武御名方神敗走信濃,自此不出。


稻佐濱 屏風岩 讓國交涉之地


古代出雲大社本殿復原模型
大國主命讓國於天神御子,但須築天之御舍祀之,出雲大社是也。造宮之制,柱則高大,板則廣厚,遂有雲太、和二、京三之諺。


常陸國一宮 鹿島神宮
武御雷之男神,遂平定葦原中國。

天孫降臨


高千穗 國見丘 雲海
天孫撥排天八重雲,擇稜威之正道,降高千穗以治葦原中國。


尾張國一宮 真清田神社
祭神天火明命,天忍穗耳命長子。


猿田彥神立居天八衢圖
天孫降臨之際,猿田彥神居天之八衢,諸神不能進。以天鈿女能目勝神,遣之顯申其名。


天照大神授三神器與齋庭之穗
大神賜八尺瓊勾玉、八咫鏡、草薙劍,詔以其鏡為天照大神御魂。


狩野探道繪 天孫降臨
五伴緒隨天孫降臨,各掌其職,而為古代諸氏族之祖。


槵觸神社 參道
天孫降臨筑紫日向高千穗槵觸峰。


霧島神宮古宮址
霧島神宮天孫降臨神籬齋場。


猿田彥與天鈿女命
天鈿女命之裔,為猿女君。

一、天降穗峰與木花咲耶姬

 葦原中國既平,(しかくし)天照大御神(あまてらすおほみかみ)高木神(たかぎのかみ)(みこと)(のりたまひし)太子(おほみこ)正勝吾勝勝速日天忍穗耳命(まさかつあかつかちはやひあめのおしほみみのみこと):「(いま)平訖(たひらげをはりぬ)葦原中國(あしはらのなかつくに)()。故(まにまに)言依賜(ことよしたまひし),當降坐(くだりまし)治之(知らせ)。」其太子正勝吾勝勝速日天忍穗耳命答白(こたへてまをし):「(やつかれ)將降(くだらむ)裝束之間(よそへるあひだ),吾子生出(うまれいでぬ)()天饒國饒天津日高日子番能邇邇藝命(あめ邇岐志くに邇岐志あまつひたかひこほのににぎのみこと)。此子應降也(くだすべし)【○(にぎし)原文邇岐志(にぎし)以音。】
 此御子(みこ)者,天忍穗耳命婚與(御合)高木神之女萬幡豐秋津師姬命(よろづはたとよあきつし比賣のみこと)
  生子(うみしこ)天火明命(あめのほあかりのみこと)
  (つぎ)日子番能邇邇藝命(ひこほのににぎのみこと)二柱也(ふたはしらぞ)
 是以(ここをもち),天照大神隨白之(まをししまにまに)科詔(おほせのりたまひ)日子番能邇邇藝命:「此豐葦原瑞穗國(とよあしはらの水ほのくに)者,(なむち)將治(知らさむ)國。隨言依賜(ことよしたまひ)。故汝隨命(みことのまにまに)可以天降(あまくだるべし)。」

 爾日子番能邇邇藝命(ひこほのににぎのみこと)將天降(あまくだらむ)之時,於是(ここに)有神,立()天之八衢(あめのちまた)而,(かみ)(てらし)高天原(たかあまのはら),下()葦原中國(あしはらのなかつくに)
 故爾(かれしかくし),以天照大御神(あまてらすおほみかみ)高木神(たかぎのかみ)之命,詔天鈿女神(あめの宇受賣のかみ):「(なむち)者雖手弱女人(たわやめ),與相向(伊牟迦布)神而可面勝神(おもかつかみ)也。【○相向(いむかふ)原文伊牟迦布(いむかふ)以音,い(むか)ふ,對峙。】(もはら)往將問(ゆきてとはまく)者:『此吾御子(わがみこ)(する)天降之(みち)(たれぞ)如此(かく)(をる)?』」
 故天鈿女問賜之時(とひたまひしとき),答白:「(やつかれ)國神(くにつかみ),名猿田彥神(さるた毘古のかみ)也。所以(ゆゑ)出居(いでをる)者,聞天神御子(あまつかみみこ)天降坐(あまくだります),故欲仕奉(つかへまつらむ)御前(みさき)而為參向(まゐむかへ)(はべり)。」
 爾天兒屋命(あめのこやのみこと)太玉命(布刀たまのみこと)天鈿女命(あめの宇受賣のみこと)石凝姥命(伊斯許理度賣のみこと)玉祖命(たまのおやのみこと)(あはせ)五伴緒(いつりのとものを)矣。各隨(支加)邇邇藝命而天降也(あまくだりき)【○各隨(わかちくはへ)原文支加(わかちくはへ)。】

 於是,天照大御神副賜(そへたまひ)所召(遠岐斯)八尺勾璁(やさかのまがたま)八咫之鏡(やたのかがみ),及草薙劍(くさ那藝のつるぎ)於邇邇藝命,並遣思金神(おもひかねのかみ)手力男神(たぢからをのかみ)天石戶別神(あめのいは門わけのかみ)(のりたまひ)者:「吾兒,此之鏡(このかかみ)者,(もはら)(として)我御魂(あがみたま)。視此寶鏡,(ごとく)(をろがむ)吾前(あがまへ),當齋奉矣(伊都岐まつれ)!」次:「思金神者,取持(とりもち)前事(さきのこと),輔之為政(まつりごとせよ)!」此二柱神者,拜祭(をろがみまつりき)伊勢榮釧(佐久久斯梠)五十鈴宮(伊須受能みや)【○邇邇藝命、思金神,伊勢神宮內宮。○榮釧(さくくしろ)原文さくくしろ(佐久久斯梠)以音,五十之枕詞。】
 次,豐受姬神(登由宇氣のかみ)。此者,坐外宮(とつみや)度會(わた相)神者也。【○度會(わたらひ),伊勢神宮外宮。】
 次,天石戶別神(あめのいはとわけのかみ)亦名(またのな)櫛石窗神(くしいはまとのかみ),亦名謂豐石窗神(とよいはまとのかみ)。此神者,御門之神(みかどのかみ)也。
 次,手力男神(たぢからをのかみ)者,坐佐那那縣(さななあがた)也。【○佐那那縣,伊勢國多氣(たけ)一帶之古名。】
 (かれ)天兒屋命(あめのこやのみこと)者,中臣連(なかとみのむらじ)等之(おや)太玉命(布刀たまのみこと)者,忌部首(いみべのおびと)等之祖。天鈿女命(あめの宇受賣のみこと)者,猿女君(さるめのきみ)等之祖。石凝姥命(伊斯許理度賣のみこと)者,作鏡連(かがみつくりのむらじ)等之祖。玉祖命(たまのおやのみこと)者,玉祖連(たまのおやのむらじ)等之祖。

 故爾,詔天津日子番能邇邇藝命(あまつひこほのににぎのみこと)(はなれ)天之石位(あめのいはくら)押分(おしわけ)天之八重棚雲(あめのやへの多那ぐも)稜威之道別道別而(伊都能知和岐知和岐弖)【○押分(おしわけ)或云排分(おしわけ),撥開。稜威(いつ)乃莊嚴之意。道別道別(ちわきちわき)意指慎重地選別行進之道路。】天浮橋(あめのうきはし),經浮島漂壤(宇岐士摩理)聳立發向而(蘇理多多斯弖)【○原文うきじまり(宇岐士摩理)そりたたし(蘇理多多斯弖)以音,難解。本居宣長援引日本書紀,以為浮島(うきじま)り則州壤標浮之狀。聳立(そりたた)し蓋高聳身姿出發之狀。】天降(あまくだり)筑紫(つくし)日向(ひむか)高千穗(たかちほ)槵觸嶽(久士布流多氣)【○槵觸嶽(くしふるたけ),原文くしふるたけ(久士布流多氣)以音。】
 故爾,天忍日命(あめのおしひのみこと)天津久米命(あまつくめのみこと)二人(ふたり)取負(とりおひ)天之石靫(あめのいはゆき)取佩(とりはき)頭椎之大刀(かぶつちのたち)取持(とりもち)天之梔弓(あめの波士ゆみ)手挾(たばさみ)天之真鹿兒矢(あめのまかこや)(たち)邇邇藝命御前(みさき)仕奉(つかへまつりき)
 故,其天忍日命者,大伴連(おほとものむらじ)等之祖。天津久米命者,久米直(くめのあたひ)等之祖也。

 於是(ここに),邇邇藝命詔之(のりたまはく):「此地(ここ)者,對向(むかひ)韓國(からくに)真來通(まきとほり)笠沙岬(かささ之御前)朝日(あさひ)直射國(ただ刺しくに)夕日(ゆふひ)日照國(ひでるくに)也。(かれ),此地甚吉地(いとよきところ)也,」遂太豎(布斗斯理)宮柱(みやばしら)底津石根(そこついはね)高築(多迦斯理)冰椽(ひぎ)高天之原(たかあまのはら)坐也(いましき)

 故爾(かれしかくし)邇邇藝命詔天鈿女命(あめの宇受賣のみこと):「此立御前(みさき)所仕奉猿田彥大神(さるた毘古のおほかみ)者,其名(もはら)汝可所顯申(あらはしまをせる)。故遣(なむち)奉送(おくりまつれ)。亦其神御名(みな)者,汝(おひ)仕奉(つかへまつれ)。」是以猿女君(さるめのきみ)等,負其猿田彥(さるた毘古)男神(をのかみ)名,而(をみな)(よぶ)猿女君之事,是也(これなり)
 故其猿田彥神(さるた毘古のかみ)阿邪訶(あざか)【此三字以音,地名。】為漁(すなとり)之時,其手以比良夫貝(ひらぶのかひ)咋合(くひあはさえ),而沉溺(いづみおぼほれき)海潮(う鹽)而斃去。【○海潮(うしほ),原文海鹽(うしほ)。】故其沉居(しづみゐる)(そこ)之時名,謂底著御魂(そこ度久みたま)(どく)原文どく(度久)以音。】海水(うしほ)冒泡(都夫多都)時名,謂粒立御魂(都夫多都のみたま)冒泡(つぶたつ)原文つぶたる(都夫多都)以音,粒立(つぶたつ)。】泡裂(阿合佐久)時名,泡裂御魂(阿合佐久のみたま)
 於是,天鈿女命(あめのうずめのみこと)猿田彥神(さるた毘古のかみ)還到(かへりいたり),乃(ことごとく)追聚(おひあつめ)鰭廣物(はたのひろもの)鰭狹物(はたのさおの)以問言:「汝者,仕奉(つかへまつらむ)天神(あまつかみ)御子(みこ)耶?」時諸魚(もろもろのうを)皆白:「仕奉。」其(なか)海鼠()不白(まをさず)。爾天鈿女命(あめの宇受賣のみこと)謂海鼠云:「此口乎(このくちや)不答之口(こたへぬくち)!」而以紐小刀(ひもかたな)(さきき)其口。故於今海鼠口,拆也(さけたるぞ)。是以代代天皇御世(みよ)志摩()速贄(はやにへ)之時,必(たまふ)猿女君等(さるめのきみら)也。


邇邇藝命、木花咲耶姬相會初逢川


木花咲耶姬像


木花咲耶燔無戶八尋殿出產

 於是,天津日高日子番能邇邇藝命(あまつひたかひこほのににぎ能みこと),於笠沙岬(かささの御前)(あひき)麗美人(うるはしきをとめ)。爾問:「誰女(だがむすめ)耶?」答白:「大山津見神(おほやまつみのかみ)(むすめ),名神吾田津姬(かむ阿多都比賣),亦名木花咲耶姬(このはな之佐久夜毘賣)。」天孫(邇邇藝命)又問:「汝有兄弟(はらから)乎?」答白:「有(あね)石長姬(いはなが比賣)也。」爾天孫(のりたまひ):「吾欲(目合)汝。【○(あひあはむ),原文目合(あひあはむ),或訓まぐはひ(目合)。】奈何(いかに)?」答曰:「()不得(えず)()()父大山津見神,將白(まをさむ)。」(かれ)天孫(やり)使(こひ)其父大山津見神。時父神大歡喜(おほきによろこび),而(そへ)其姉石長姬(いはなが比賣)令持(もたしめ)百取机代之物(ももとりのつくえしろのもの)【○百取机代之物(ももとりのつくえしろのもの),眾多嫁妝。】奉出(まつりいだしき)
 故爾(かれしかくし)(より)其姉石長姬者,貌甚凶醜(いとみにくき)故,天孫見畏(みかしこみ)返送(かへしおくり)(ただ)(とどめ)()木花咲耶姬(このはな之佐久夜毘賣),以一宿(ひとよ)為婚(あひをしき)【○(おと)原文(おと),年幼之意。】
 爾,大山津見神(おほやまつみのかみ)因天孫(かへしし)石長姬(いはなが比賣)大恥(おほきにはぢ),遣使(おくり)言:「我以二女(むすめふたり)(ともに)立奉之由(たてまつりしゆゑ):『使(つかはば)石長姬(いはなが比賣)者,天神(あまつかみ)御子之(いのち),雖雪零(ゆきふり)風吹(かぜふく)(つねに)如石(いしのごとく)常堅(ときはにかちはに)不動(うごかず)。亦使木花咲耶姬(このはな之佐久夜比賣)者,如木花(このはな)(さかゆる)(さかえ)。』誓約而(宇氣比弖)貢進(たてまつりき)如此(かく)令返(かへらしめ)石長姬(いはなが比賣)(ひとり)木花咲耶姬(このはな之佐久夜毘賣)(ゆゑ),天神御子(みこ)御壽(みいのち), 將猶木花之須臾爾(阿摩比能微)【○須臾爾(阿摩比能微)あまひ(阿摩比)義未詳,蓋短暫之間。(のみ)乃而已之意。】(かれ)是以(ここをもちて),時至于今(いまにいたるまで)天皇命(すめらみこと)等之御命(みいのち),皆不長(ながくあらぬ)也。

 時頃,木花咲耶姬(このはな之佐久夜毘賣)參出(まゐいで)白天孫云:「(あれ)妊身(はらみぬ),今(のぞみ)產時(うむとき)(この)天神之御子,不可(べくあらぬ)(わたくし)(うむ)(ゆゑに)(まをす)。」爾天孫不信之,詔曰:「咲耶姬(佐久夜毘賣)一宿哉(ひとよにや)(はらみぬる)?是(あらず)我子(あがこ)(かならず)國神(くにつかみ)之子!」爾答白:「吾妊之子(はらめるこ)(もし)國神之子者,產時(うむとき)不幸(さきくあらじ)!若天神之御子(ならば)(さきくあらむ)產!」(すなはち)無戶八尋殿(となきやしろどの),入其殿內(とののうち),以(つち)塗塞(ぬりふさぎ)。復(まさに)產時,以火(つけ)其殿而產也(うみき)
  故,其火盛燒(さかりにもゆる)時所生之子,名火照命(ほでりのみこと)此者(こは)隼人(はやと)阿多君(あたのきみ)(おや)。】
  次生子,名火須勢理命(ほすせりのみこと)【○すせり(須勢理)三字以音,乘勢前進之狀。按書紀或云火進命(ほのすすみのみこと)。】
  次生子,御名(みな)火遠理命(ほをりのみこと),亦名天津日高日子穗穗手見命(あまつひたかひこほほでみのみこと)三柱(みはしら)。】

日向三代

一、山海易幸

 (かれ)火照命(ほでりのみこと)者,為海幸彥(うみ佐知毘古)(とり)鰭廣物(はたのひろもの)鰭狹物(はたのさもの)【○此云,漁獲大小諸魚為業。幸彥(さちびこ),原文さちびこ(佐知毘古)以音,下效此。(さち)則獲物之義,亦引伸為狩獵之具。】火遠理命(ほをりのみこと)者,為山幸彥(やま佐知毘古)而取毛麤物(けのあらもの)毛柔物(けのにこもの)【○此云,狩獵大小走獸為業。】(しかくし)火遠理命(いはく)其兄火照命:「(おもふ)相易(あひかへ)(佐知)(もちゐむ)。」雖乞(こへども)三度(みたび)不許(ゆるさず)(しかれども)(つひに)(かづかに)(えたり)相易(あひかふる)
 爾火遠理命(山幸彥),以海幸(うみ佐知)釣魚(うををつる)(かつて)不得一魚(ひとつのうを),亦(うしなひき)()(うみ)於是(ここに)其兄(そのえ)火照命(こひ)其勾曰:「或狩山珍(やまさち)者,當以己幸(おのがさち)獵之(さち)或漁海味(うみさち)者,宜以己幸(おのがさち)獲之(さち)【○原文山幸(やまさち)己之(おのがさち)幸幸(さちさち)海幸(うみさち)己之(おのが)幸幸(さちさち)(さち)字依序為獵物、獵具、獲得。蓋意指無論山獵、海漁,不以己具則難獲之俗諺。】(おのおの)(おもふ)(かへさむ)(佐知)。」時其(おと)火遠理命(こたへ)曰:「汝鉤(なむちがち)者,釣魚不得(えず)一魚,(つひに)失海。」然其兄(海幸彥)(あながち)乞徵(こひはたりき)。故其弟(山幸彥),搗(やぶり)御佩之(みはかしせる)十拳劍(とつかのつるぎ)(つくり)五百鉤(いほのち)。雖(つくのへ)不取(とらず)。亦作一千鉤(ちのち)雖償(つくのへども)不受(うけず)。海幸彥云:「(なほ)(おもふ)(えむ)正本鉤(まさしきもとのち)。」

 於是(ここに)其弟(山幸彥)(をり)海邊(うみへ)泣患之時,鹽椎神(しほつちのかみ)來問曰:「虛空津日高(そらつひたか)泣患(なきうれへ)所由(ゆゑ)(なにぞ)?」【○日高(ひたか)意指如仰望高空中明日般高貴。】答言:「(あれ)()()(うしなひき)其鉤。(ここに)(こふ)其鉤(ゆゑ)雖償(つくのへども)多鉤(あまたのち)不受(うけず)(いひつらく):『(なほ)欲得其本鉤(もとのち)!』(かれ)泣患之。」
 爾,鹽椎神云:「我為汝命(ながみこと)(なさむ)善議(よきはかりこと)。」(すなはち)以竹編無間籠(まなし勝間)小船(をぶね)(のせ)其船以(をしへ)曰:「吾押流(をしなが)其船者,汝差暫往(ややしまらくゆけ),將有可怜御路(味みち)【○(かつま),原文勝間(かつま)可怜(うまし)原文(うまし),美好之意。】(すなはち)乘其道往者(ゆかば),必有(ごとく)(いろこ)所造之宮室(つくれるみや),則綿津見神(わたつみのかみ)(みっや)也。到其神御門(みかど)者,(かたはら)井上(ゐのへ)齋香木(湯津かつら)。故坐其木上(きのうへ),其海神(うみのかみ)(むすめ),見汝而可與相議(あひはからむ)也。」
 (かれ),山幸彥隨教(をしへのまにまに)少行(すこしゆく)(つぶさに)(ごとし)其言(そのこと)。即(のぼり)香木(かつら)(いまし)【訓香木云かつら(加都良),下效此。齋香木(ゆつかつら)原文湯津香木(ゆつかつら)齋桂(ゆつかつら)

 爾海神(うみのかみ)之女豐玉姬(とよたま毘賣)從婢(つかひめ),持玉器(たまもひ)將酌(くまむ)水時,於()(ひかり)仰見者(あふぎみれば),有麗壯夫(うるはしきをとこ)【訓壯夫云をとこ(袁登古),下效此。】以為(おもひき)甚異奇(いとあやし)火遠理命(ほをりのみこと)見其(つかひめ)(こひ):「(おもふ)(みづ)。」婢(すなはち)酌水(みづをくみ)(いれ)玉器(たまもひ)貢進(たてまつりき)
 爾山幸彥(火遠理命)不飲(のまず)其水,(とき)御頸(みくび)(たま)(ふふみ)口,唾入(はきいれき)玉器(たまもひ)。於是其璵(つき)(もひ),婢不得離(はなつことをえず)璵。故(ながら)(つけ)(たてまつりき)豐玉姬命(とよたま毘賣のみこと)
 爾豐玉姬(とよたまびめ)見其(たま),問(つかひめ)曰:「(もし)有人居門外(かどのと)哉?」答曰:「有人,坐我井上(わがゐのへ)香木(かつら)之上。甚麗(いとうるはしき)壯夫(をとこ)也。(まし)我王(わがきみ)甚貴(いとたふとし)。其人乞水(みづをこひつる),故(まつれ)水者,不飲水而唾入(はきいれつ)(たま)。是不得離,(かれ)任璵入,將來(もちき)(たてまつりき)。」
 豐玉姬命(とよたま毘賣のみこと),思(あやしき)出見(いでみ)(すなはち)見感(みめで)一目傾心(目合)(まをし)其父(海神)曰:「吾門(わがかど)麗人(うるはしきひと)。」爾海神(うみのかみ)(みづから)出見,云:「此人(このひと)者,天津日高(あまつひたか)御子(みこ)虛空津日高(そらつひたか)矣!」即率入(ゐていり)(うち),先以海驢皮(美知のかは)(たたみ)八重(やへ),亦以絁疊(きぬたたみ)八重(しき)其上(そのうへ)令坐(いませ)其上而(そなへ)百取机代物(ももとりのつくえしろのもの)()御饗(みあへ)。即令婚(あはしめき)其女豐玉姬(とよたま毘賣)
 (かれ),山幸彥(いたる)三年(みとせ)(すみき)其海神之(くに)

 於是(ここに)火遠理命(ほ袁りのみこと)思其初事(はじめのこと)大一歎(おほきにひとたびなげきき)。故,豐玉姬命(とよたま毘賣のみこと)聞其歎以白其父(海神)言:「雖住(すめども)三年(みとせ)(つねに)無所歎(なげきことなき)今夜(こよひ)為大一歎(ひとつのなげき)(もし)何由(なにのゆゑ)?」故其父大神(おほかみ)(とひ)婿(聟夫)曰:「今旦(けさ)(きく)我女(あがむすめ)(かたる)云:『雖坐(いませども)三年,恒無所歎。今夜(しつ)大歎。』若有由()(また)(いたれる)此間(ここ)(ゆゑ)奈何(いかに)?」爾山幸彥語其大神,(つぶさに)(ごとし)其兄(そのえ)(はたり)失鉤(うせたるち)(かたち)【○婿(むこ),原文聟夫(むこ)。】
 (ここ)以,海神(ことごとく)召集(めしあつめ)海之大小魚(おほきちひさきうを),問曰:「若有(とれる)此鉤(このち)魚乎?」故(もろもろ)魚白之:「(このころ)者,赤海鯽魚(たひ)愁言(うれへいへり):『(のぎたち)(のみと)故,(もの)不得(くふ)。』故,(かならず)(これ)所取(とりつらむ)。」於是(さぐる)赤海鯽魚(たひ)(のみと)者,有鉤。即取出(とりだし)清洗(きよめあらひ)(まつり)火遠理命。
 時其綿津見大神(わたつみのおほかみ)誨之(をしへ)曰:「(もち)此鉤給其兄(そのえ)時,當言狀(いはむかたち)如此:『此鉤者,淤煩鉤(おぼち)荒鉤(須須ち)貧鉤(まづち)愚鉤(宇流ち)。』如是云而(いひて),於後手(しりへで)(たまへ)【○淤煩(おぼ),恍惚之狀。(すす),原文すす(須須)以音。(うる)(おろ)同根,原文うる(宇流)以音。後手(しりへで),反手,具呪詛之意。】然而(しかくして)其兄(海幸彥)高田(たかた)者,汝命(ながみこと)(つくれ)下田。其兄作下田(ひきた)者,汝命營高田。為然者(しかせば),以吾(つかさどる)(みづ)(ゆゑ)三年之間(みとせのあひだ)其兄(海幸彥)貧窮(まづし)。若汝兄(海幸彥)悵怨(うらみ)為然之事(しかすること)攻戰者(せめたたかはば)(いだし)潮盈珠(鹽みちのたま)(おぼほせよ)。若(それ)愁請者(うれへこはば),出潮乾珠(鹽ひのたま)(いけよ)如此(かく)令惚苦(なやみくるしびしめよ)。」即(さづけ)潮盈珠(しほみちのたま)潮乾珠(しほひのたま)(あはせ)兩箇(ふたつ)

 復(ことごとく)召集鰐鮫(和邇魚)問曰:「(いま)天津日高(あまつひたか)御子(みこ)虛空津日高(そらつひたか)將出幸(いでまさむ)上國(うはつくに)誰者(たれか)幾日(いくか)送奉(おくりまつり)覆奏(かへりことまをす)?」【○鰐鮫(わに)原文わに(和邇)(わに)也。然日本無鱷,蓋鰐鮫之疇也。】
 故鮫(おのおの)(まにまに)己身(おのがみ)尋長(ひろたけ)限日(ひをかぎり)(まをす)其中(なかに)一尋鰐鮫(ひとひろ和邇)白:「(やつかれ)者,一日(ひとひ)(おくり)還來(かへりこむ)。」故爾,海神(のらさく)其一尋鰐鮫(和邇):「然者(しからば)(なむち)送奉(おくりまつれ)(もし)(わたらむ)海中(うみなか)時,無令(なかれ)惶畏(おそりかしこまらしむる)。」(すなはち)載其鰐鮫(和邇)(くび)送出(おくりいだしき)。果如期(ちぎりしがごとく),一日之(うち)送奉也。其鰐鮫(和邇)將返(かへらむ)之時,山幸彥(とき)所佩(はける)紐小刀(ひもかたな)(つけ)(くび)(かへしき)。故其一尋鰐鮫(和邇)者,今謂刀持神(佐比もちのかみ)也。【○さひ(佐比)(かたな)之意,或云刀持神(佐比もちのかみ)雙髻鯊(撞木鮫)。】

 是以(ここをもちて)山幸彥(つぶさに)海神(うみのかみ)教言(をしへしこと),歸(あたへき)其鉤(そのち)。故自爾以後(それよりのち),兄神稍俞(やをやくいよよ)(まづし)(さらに)(おこし)荒心(あらきこころ)迫來(せめきたり)兄神(海幸彥)將攻之時(せめむとせしとき)弟神(山幸彥)潮盈珠(鹽みちのたま)令溺(おぼほれしめき)。其愁請者(うれへこへば),出潮乾珠(鹽ひのたま)(すくひ)如此(かく)惚苦(なやびくるしび)之時,兄神稽首(ぬかつき)白:「(やつかれ)者,自今以後(いまよりのち),為汝命(ながみこと)晝夜(ひるよる)守護人(まもりびと)仕奉(つかへまつらむ)。」故至今(いまにいたるまで),隼人歌儛以其溺時(おぼほれしとき)種種之態(くさぐさのわざ)不絕(たえずして)仕奉也(つかへまつるぞ)


青島神社鳥居 鬼之洗濯板
傳山海易幸之地。其隆起海床與奇形波蝕痕被稱作鬼之洗濯板。


山海易幸 山幸彥與海幸彥
幸者本幸獲獵物之情,引申作獲物之具也。山幸為弓,海幸為鉤。則山幸彥則獵人,海幸彥即漁夫。


鮮齋畫譜 鹽椎神議於山幸彥


豐玉姬從婢見井中有光
山幸彥居海神御門旁井齋香木上。


豐玉姬、山幸彥一見鍾情
豐玉姬思奇出見,遂而見感。


山幸彥抱懷土之憂
火遠理命思其初事而大一歎。


綿津見神自赤海鯽魚取鉤
海神探赤海鯽魚之喉,取出其鉤。


山幸彥揮別海神宮
海神以一尋鰐鮫送奉山幸彥。


刀持神 鎚頭鯊
山幸彥繫紐小刀於鮫頸,謂刀持神。亦傳為海神參伊雜宮之使。


潮盈珠與潮乾珠
山幸彥以海神所贈潮盈珠、潮乾珠責其兄海幸彥,令之折服,後裔為俳優之民,吠狗奉事。

 於是(ここに)海神(うみのかみ)(むすめ)豐玉姬命(とよたま毘賣のみこと)(みづから)參出(まゐいで)白之:「(あれ)(すでに)妊身(はらみぬ),今(のぞみ)產時(うむとき)此念(これをおもふに)天神(あまつかみ)御子(みこ)不可生(うむべくあらず)海原(うなはら)。故參出到也(いたれり)。」
 爾,(すなはち)於其海邊(うみへ)(波限),以鵜羽(うのは)葺草(かや)(つくりき)產殿(うぶや)【○(なぎさ),原文波限(なぎさ)。】於是,其產殿未葺合(いまだふきあへぬ)不忍(たへず)御腹之急(みはらのにはかなる)。故入坐(いりましき)產殿。
 爾將(あたり)產之時,豐玉姬命(まをし)日子(ひこ)火遠理命言:「(おほよそ)他國人(あたしくにのひと)者,臨產之時,以本國(もとつくに)(かたち)產生(うむ)。故(あれ)(いま)本身(もとのみ)為產。(ねがふ)勿見(みることなかれ)妾。」
 然於是,火遠理命思(あやし)其言(このこと)(ひそかに)(うかかへ)其方(うまむ)者,則見其妻化八尋鰐鮫(やしろ和邇)匍匐(はらばひ)委虵(もごよひき)。火遠理命即見驚畏(おどろきかしこみ)遁退(にげそきき)。爾豐玉姬命(とよたま毘賣のみこと)知其夫伺見(うかかひみる)之事,以為(おもひ)心恥(こころはづかし)。乃生置(うみおき)御子(みこ)而白:「(あれ)(つねに)(とほり)海道(うみつち)往來(かよはむ)。然夫君伺見(うかかひみつる)吾形(あがかたち)(これ)甚怍之(いとはづかし)。」即(ふさぎ)海坂(うなさか)返入(かへりいりき)
  是以(ここをもち)(なづけ)所產之御子(うめるみこ),謂天津日高日子(あまつひたかひこ)波限建鵜葺草葺不合命(なぎさたけうかやあへずのみこと)【訓波限(なぎさ)なぎさ(那藝佐)(なぎさ)之意。訓葺草(かや)かや(加夜)○鵜羽葺草殿之未葺合時所生故。

 然後(しかしくのち)者,雖恨(うらむれど)窺伺之情(うかかひしこころ)不忍(たへず)戀心(こふるこころ)(より)治養(ひたす)其御子之(よし)(つけ)()玉依姬(たまより毘賣)(たてまつりき)歌之。其(うた)曰:

 爾,其(比古遲)火遠理命答歌(こたふるうた)曰:(ひこぢ)原文ひこぢ(比古遲)以音。】

 (かれ)日子穗穗手見命(ひこほほでみのみこと)者,【○火遠理命。】高千穗宮(たかちほのみや)伍佰捌拾歲(いほとせあまりやそとせ)御陵(みさざき)者,在高千穗山(たかちほのやま)西(にし)也。【○高屋山上陵(たかやのやまのへのみさざき)。】

 (この)天津日高日子(あまつひたかひこ)波限建鵜葺草葺不合命(なぎさたけうかやあへずのみこと)(めとり)(をば)玉依姬命(たまより毘賣のみこと)而生御子。
  名,五瀨命(いつせのみこと)【○五瀨(いつ)嚴苑(いつそ)通。】
  次,稻冰命(いなひのみこと)【○稻冰(いなひ)稻靈(いなひ)。】
  次,御毛沼命(みけぬのみこと)【○御毛沼(みけぬ)御饌野(みけぬ)通。】
  次,若御毛沼命(わかみけぬのみこと。)亦名(またのな)豐御毛沼命(とよみけぬのみこと。),亦名神倭磐余彥命(かむやまと伊波禮の毘古のみこと)【四柱。神倭磐余彥命(かむやまといはれびこのみこと),日本書紀作神日本磐余彥尊(かむやまといはれびこのみこと),是則神武天皇(じんむてんわう)
  (かれ),御毛沼命者。()浪穗(なみのほ)(わたり)常世國(とこよのくに)。稻冰命者,入坐(いりましき)妣國(ははがくに)海原(うなはら)也。【○(ふみ)原文作(ふみ)。按日本書紀,稻飯命(いなひのみこと)隨神武帝東征至熊野,海中遇暴風,歎曰:「吾祖則天神,母則海神。何厄我於陸,復厄我於海?」乃拔劍入海,化為鋤持神。三毛入野命(みけいりののみこと)亦曰:「我母及姨並是海神。何起波瀾以灌溺乎?」則蹈浪秀(なみのほ)而往乎常世鄉(とこよのくに)矣。】


鴨就宮 青島神社 元宮
火遠理命歸自海原後,構宮青島。所以名鴨就宮者,依火遠理命與豐玉姬贈答之曲而然。


豐玉姬與鵜葺草葺不合命
豐玉姬托不合命於其妹玉依姬。


鵜戶神宮
祭日子波限瀲武鸕鶿草葺不合尊

豐玉姬命託子歌:「琥珀明赤玉 其玉輝兮緒亦耀 真珠白玉矣 夫君汝命形姿貴 更勝赤玉耀麗美火遠理命答歌:「譬猶沖津鳥 沖鳥群鴨所寄島 吾與汝率寢 相枕妹妻吾不忘 此生此世悉永銘

日子波限建鵜葺草葺不合命


若御毛沼命 神武天皇御東征之圖

【古事記上卷 始天地肇造,萬神初始。迄神武帝降誕,後人代先聲。 終】

[古事記中卷] [久遠の絆] [再臨詔]