真字萬葉集 卷第五 雜歌


雜歌

0793 大宰帥大伴卿報凶問歌一首

       禍故重疊,凶問累集。永懷崩心之悲,獨流斷腸之泣。但依兩君大助,傾命纔繼耳。 【筆不盡言,古今所歎。】

     余能奈可波 牟奈之伎母乃等 志流等伎子 伊與余麻須萬須 加奈之可利家理

     世間(よのなか)は (むな)しき(もの)と ()(とき)し 彌彌益益(いよよますます) (かな)しかりけり

       空蟬憂世間 一切無常盡虛假 切身知悉時 彌彌益益更添悲 哀愁崩心獨斷腸

      大伴旅人 0793


0794 筑前守山上臣憶良挽歌一首 【并短歌。】

       蓋聞,四生起滅,方夢皆空,三界漂流,喻環不息。所以維摩大士在乎方丈,有懷染疾之患;釋迦能仁坐於雙林,無免泥洹之苦。故知,二聖至極,不能拂力負之尋至;三千世界,誰能逃黑闇之搜來。二鼠競走,而度目之鳥旦飛;四蛇爭侵,而過隙之駒夕走。嗟乎痛哉!紅顏共三從長逝,素質與四德永滅。何圖,偕老違於要期,獨飛生於半路。蘭室屏風徒張,斷腸之哀彌痛;枕頭明鏡空懸,染筠之淚逾落。泉門一掩,無由再見。嗚呼哀哉。

        愛河波浪已先滅 苦海煩惱亦無結 從來厭離此穢土 本願託生彼淨剎

    日本挽歌一首

     大王能 等保乃朝廷等 斯良農比 筑紫國爾 泣子那須 斯多比枳摩斯提 伊企陀爾母 伊摩陀夜周米受 年月母 伊摩他阿良禰婆 許許呂由母 於母波奴阿比陀爾 宇知那毗枳 許夜斯努禮 伊波牟須弊 世武須弊斯良爾 石木乎母 刀比佐氣斯良受 伊弊那良婆 迦多知波阿良牟乎 宇良賣斯企 伊毛乃美許等能 阿禮乎婆母 伊可爾世與等可 爾保鳥能 布多利那良毗為 加多良比斯 許許呂曾牟企弖 伊弊社可利伊摩須

     大君(おほきみ)の 遠朝廷(とほのみかど)と ()らぬ() 筑紫國(つくしのくに)に 泣子為(なくこな)す 慕來(したひき)まして (いき)だにも 未休(いまだやす)めず 年月(としつき)も 未有(いまだあ)らねば (こころ)ゆも (おも)はぬ(あひだ)に 打靡(うちなび)き ()やしぬれ ()はむ(すべ) ()術知(すべし)らに 岩木(いはき)をも 問放知(とひさけし)らず (いへ)ならば (かたち)()らむを (うら)めしき 妹命(いものみこと)の (あれ)をばも 如何(いか)()よとか 鳰鳥(にほどり)の 二人並居(ふたりならびゐ) (かた)らひし 心背(こころそむ)きて 家離(いへざか)りいます

       聖明大君之 遙遙天邊遠朝庭 化外不領靈 西海筑紫太宰府 汝猶稚泣子 心慕夫君隨至來 路遙道甚遠 片刻未息無稍歇 顧見赴此時 年者未易月未改 怎料凶訊至 吾心難信意難服 如此倉卒間 打靡倒臥沉永眠 不知當何言 茫然不知當何為 石木不言語 無以問之解憂情 若留故家中 或得存命久長青 恨香消玉殞 憐哉愛也吾妹命 汝在幽冥間 吾當奈何所為哉 鴛鴦鳰鳥兮 兩人並居相依偎 絮語誓永久 然今背信離家去 獨赴泉路去世間

      山上憶良 0794


0795 反歌 【承前。】

     伊弊爾由伎弖 伊可爾可阿我世武 摩久良豆久 都摩夜左夫斯久 於母保由倍斯母

     (いへ)()きて 如何(いか)にか()()む 枕付(まくらづ)く 妻屋寂(つまやさぶ)しく (おも)ほゆべしも

       縱令歸吾宿 茫然不知當何為 枕付共衾兮 妻屋之內今清寂 唯有憂思愁自生

      山上憶良 0795


0796 【承前,反歌第二。】

     伴之伎與之 加久乃未可良爾 之多比己之 伊毛我己許呂乃 須別毛須別那左

     ()しきよし 如是(かく)のみからに 慕來(したひこ)し (いも)(こころ)の (すべ)術無(すべな)

       哀也甚憐兮 有生如是短折故 心慕隨至來 妹妻之心令人悲 惆悵不止更淒切

      山上憶良 0796


0797 【承前,反歌第三。】

     久夜斯可母 可久斯良摩世婆 阿乎爾與斯 久奴知許等其等 美世摩斯母乃乎

     (くや)しかも 如是知(かくし)らませば 青丹良(あをによ)し 國內悉(くぬちことごと) ()益物(ましもの)

       追悔總莫及 早知永隔如是者 青丹良且秀 海西筑紫遍國中 踏破令見千百景

      山上憶良 0797


0798 【承前,反歌第四。】

     伊毛何美斯 阿布知乃波那波 知利奴倍斯 和何那久那美多 伊摩陀飛那久爾

     (いも)()し 楝花(あふちのはな)は ()りぬべし ()泣淚(なくなみた) 未乾無(いまだひな)くに

       妹妻昔所見 栴檀楝花已凋零 雖已經幾時 物換星移往事非 然吾泣淚未嘗乾

      山上憶良 0798


0799 【承前,反歌第五。】

     大野山 紀利多知和多流 和何那宜久 於伎蘇乃可是爾 紀利多知和多流

     大野山(おほのやま) 霧立渡(きりたちわた)る ()(なげ)く 息嘯風(おきそのかぜ)に 霧立渡(きりたちわた)

       筑紫大野山 霧湧瀰漫渡山間 吾人哀渡日 悲歎所化息嘯風 摧霧立渡彼山哉

      山上憶良 0799

         神龜五年七月廿一日,筑前國守山上憶良上。



0800 令反惑情歌一首 【并序。】

       或有人,知敬父母,忘於侍養,不顧妻子,輕於脫屣,自稱倍俗先生。意氣雖揚青雲之上,身體猶在塵俗之中。未驗修行得道之聖,蓋是亡命山澤之民。所以指示三綱,更開五教,遺之以歌,令反其惑。歌曰:

     父母乎 美禮婆多布斗斯 妻子美禮婆 米具斯宇都久志 余能奈迦波 加久敘許等和理 母智騰利乃 可可良波志母與 由久弊斯良禰婆 宇既具都遠 奴伎都流其等久 布美奴伎提 由久智布比等波 伊波紀欲利 奈利提志比等迦 奈何名能良佐禰 阿米弊由迦婆 奈何麻爾麻爾 都智奈良婆 大王伊摩周 許能提羅周 日月能斯多波 雨麻久毛能 牟迦夫周伎波美 多爾具久能 佐和多流伎波美 企許斯遠周 久爾能麻保良敘 可爾迦久爾 保志伎麻爾麻爾 斯可爾波阿羅慈迦

     父母(ちちはは)を ()れば(たふと)し 妻子見(めこみ)れば 慈愛(めぐしうつく)し 世間(よのなか)は 如是(かく)(ことわり) 黐鳥(もちどり)の (かか)らはしもよ 行方知(ゆくへし)らねば 穿沓(うけぐつ)を 脫棄(ぬきつ)(ごと)く 踏脫(ふみぬ)きて ()くちふ(ひと)は 石木(いはき)より 生出(なりで)(ひと)か ()名告(なの)らさね (あめ)()かば ()(まにま)に (つち)ならば 大君坐(おほきみいま)す 此照(このて)らす 日月下(ひつきのした)は 天雲(あまくも)の 向伏(むかぶ)(きは)み 谷蟆(たにぐく)の 小渡(さわた)(きは)み 聞食(きこしを)す (くに)真秀(まほら)ぞ 云云(かにかく)に ()しき(まにま)に (しか)には(あら)じか

       仰見父母者 尊敬之情生泉湧 俯瞰妻子者 慈愛之意發油然 天地六合中 理當如是世間典 當猶黐鳥之 相依相繫不離棄 行方不知所以也 或有不倫者 棄捨人倫如敝屣 脫卻穿沓而 逕自擅行不顧者 蓋自石木間 所化生出之人哉 速告汝謂何名矣 若行去高天 隨汝恣意可隨情 然今在地上 其乃大君之所治 於此所照臨 日月星辰之下者 縱為天雲之 遙遙向伏遠極界 或為谷蟆之 四處匍匐遠極境 皆披吾皇澤 御宇真秀之國矣 如此如彼而 縱欲恣情脫倫常 其非人世所容也

      山上憶良 0800


0801 反歌 【承前。】

     比佐迦多能 阿麻遲波等保斯 奈保奈保爾 伊弊爾可弊利提 奈利乎斯麻佐爾

     久方(ひさかた)の 天道(あまぢ)(とほ)し 尚尚(なほなほ)に (いへ)(かへ)りて (なり)()まさに

       遙遙久方兮 天國之路道遠矣 不若識時務 歸至故里居家中 安分守己為生業

      山上憶良 0801


0802 思子等歌一首并序 【并序。承前。

       釋迦如來,金口正説:「等思眾生,如羅睺羅。」又説:「愛無過子。」至極大聖,尚有愛子之心。況乎世間蒼生,誰不愛子乎。

     宇利波米婆 胡藤母意母保由 久利波米婆 麻斯提斯農波由 伊豆久欲利 枳多利斯物能曾 麻奈迦比爾 母等奈可可利提 夜周伊斯奈佐農

     瓜食(うりは)めば 子供思(こどもおも)ほゆ 栗食(くりは)めば (まし)(しぬ)はゆ (いづ)()り (きた)りし(もの)そ 眼界(まなかひ)に 元無掛(もとなかか)りて 安眠(やすい)()さぬ

       食瓜思吾子 食栗更益偲兒等 聖有愛子之心 蒼生孰不愛子乎 是以何因緣 有生於世來此矣 飄忽於眼界 無由閃現瞥面影 心陷思愁難安眠

      山上憶良 0802


0803 反歌 【承前。】

     銀母 金母玉母 奈爾世武爾 麻佐禮留多可良 古爾斯迦米夜母

     (しろかね)も (くがね)(たま)も (なに)せむに (まさ)れる(たから) ()()かめやも

       無論銀或金 抑或珠玉之疇者 何謂優寶乎 此類雖以稀為貴 豈及吾子萬塵哉

      山上憶良 0803


0804 哀世間難住歌一首 【并序。承前。

       易集難排,八大辛苦,難遂易盡,百年賞樂。古人所歎,今亦及之。所以因作一章之歌,以撥二毛之歎。其歌曰:

     世間能 周弊奈伎物能波 年月波 奈何流流其等斯 等利都都伎 意比久留母能波 毛毛久佐爾 勢米余利伎多流 遠等咩良何 遠等咩佐備周等 可羅多麻乎 多母等爾麻可志【或有此句云,之路多倍乃,袖布利可伴之,久禮奈為乃,阿可毛須蘇毗伎。】 余知古良等 手多豆佐波利提 阿蘇比家武 等伎能佐迦利乎 等等尾迦禰 周具斯野利都禮 美奈乃和多 迦具漏伎可美爾 伊都乃麻可 斯毛乃布利家武 久禮奈為能【一云,爾能保奈須。】 意母提乃宇倍爾 伊豆久由可 斯和何伎多利斯【一云,都禰奈利之,惠麻比麻欲毗伎,散久伴奈能,宇都呂比爾家利,余乃奈可伴,可久乃未奈良之。】 麻周羅遠乃 遠刀古佐備周等 都流伎多智 許志爾刀利波枳 佐都由美乎 多爾伎利物知提 阿迦胡麻爾 志都久良宇知意伎 波比能利提 阿蘇比阿留伎斯 余乃奈迦野 都禰爾阿利家留 遠等咩良何 佐那周伊多斗乎 意斯比良伎 伊多度利與利提 摩多麻提乃 多麻提佐斯迦閇 佐禰斯欲能 伊久陀母阿羅禰婆 多都可豆惠 許志爾多何禰提 可由既婆 比等爾伊等波延 可久由既婆 比等爾邇久麻延 意余斯遠波 迦久能尾奈良志 多麻枳波流 伊能知遠志家騰 世武周弊母奈斯

     世間(よのなか)の 術無(すべな)(もの)は 年月(としつき)は (なが)るる(ごと)し 取續(とりつつ)き 追來(おひく)(もの)は 百種(ももくさ)に 迫寄來(せめよりきた)る 娘子等(をとめら)が 娘子(をとめ)さびすと 韓玉(からたま)を 手本(たもと)()かし(ある)此句云(このくありいはく)白妙(しろたへ)の,袖振交(そでふりかは)し,(くれなゐ)の,赤裳裾引(あかもすそび)き。】 齡同子等(よちこら)と 手攜(てたづさ)はりて (あそ)びけむ (とき)(さか)りを 留兼(とどみか)ね ()ぐし()りつれ 蜷腸(みなのわた) 手黑髮(かぐろきかみ)に 何時間(いつのま)か (しも)()りけむ (くれなゐ)一云(またにいふ)丹秀為(にのほな)す。】 面上(おもてのうへ)に 何方(いづく)ゆか (しわ)(きた)りし一云(またにいふ)(つね)なりし,()まひ眉引(まとび)き,咲花(さくはな)の,(うつろ)ひにけり,世間(よのなか)は,()くのみならし。】 丈夫(ますらを)の 壯士(をとこ)さびすと 劍太刀(つるぎたち) (こし)取佩(とりは)き 獵弓(さつゆみ)を 手握持(たにぎりも)ちて 赤駒(あかごま)に 倭文鞍打置(しつくらうちお)き 這乘(はひの)りて 遊步(あそびある)きし 世間(よのなか)や (つね)(あり)ける 娘子等(をとめら)が 小寢(さな)板戶(いたと)を 押開(おしひら)き い辿寄(たどりよ)りて 真玉手(またまで)の 玉手插交(たまでさしか)へ 小寢(さね)()の 幾許(いくだ)()らねば 手束杖(たつかづゑ) (こし)(たが)ねて 彼行(かゆ)けば (ひと)(いと)はえ 此行(かくゆ)けば (ひと)(にく)まえ 老耆(およ)()は 如是(かく)のみならし 玉限(たまきは)る 命惜(いのちを)しけど 為術(せむすべ)()

       空蟬憂世間 舉手無措施無術 歲月猶逝水 流年早去之所如 取續追又生 易集難排八辛苦 百種更迫來 難遂易盡無寧日 年稚娘子等 整妝容儀洽少女 取執韓玉而 纏於手本卷手腕【或有此句云,白妙敷栲兮,揮袖相振姿阿娜,胭脂真紅兮,赤裳裾矣更長引。】 與同儕子等 共相攜手齊遊戲 無憂更無慮 然以年輕若花盛 春春難久留 隨時之過年齒長 蜷腸卷貝兮 青絲烏玉濡黑髮 何時轉瞬間 一如白霜降斑駁 胭脂透紅兮【一云,丹秀之所如。】 姣好妍面容顏上 何方何處至 皺紋隱現悄來矣【一云,昔日常歡笑,百媚容顏秀眉長,其猶盛花之,咲而不久早移落,所謂世間者,如斯無常久必衰。】 威武大丈夫 行狀欲猶狀士者 取配劍太刀 繫於腰間不離身 手執獵弓而 握持不懈振武功 赤駒駿驪馬 打置倭文鞍其背 騎乘更馳騁 遊獵四方步野間 如此人生者 豈得常在亙永遠 稚齡娘子等 小寢香閨之板戶 押開潛入室 隱忍辿寄為逢瀨 纖細真玉手 執子玉手交枕眠 如此相寢夜 竟得幾許有之哉 盛年早流逝 執手束杖綰腰間 行至彼方者 為人所厭受忌避 來至此方者 為人所憎為所嫌 老耆之男者 年邁之後蓋如斯 玉限魂極矣 雖惜身命憐青春 然歎無術莫可為

      山上憶良 0804


0805 反歌 【承前。】

     等伎波奈周 迦久斯母何母等 意母閇騰母 余能許等奈禮婆 等登尾可禰都母

     常磐為(ときはな)す 如斯(かく)しもがもと (おも)へども 世事(よのこと)なれば 留兼(とどみか)ねつも

       雖欲如常磐 永恆久在不改易 然事與願違 諸行無常世常理 年華易逝難留駐

      山上憶良 0805

         神龜五年七月廿一日,於嘉摩郡撰定。筑前國守山上憶良。



0806 大宰帥大伴卿相聞歌二首

       伏辱來書,具承芳旨。忽成隔漢之戀,復傷抱梁之意。唯羨,去留無恙,遂待披雲耳。

    歌詞兩首 【大宰帥大伴卿。】

     多都能馬母 伊麻勿愛弖之可 阿遠爾與志 奈良乃美夜古爾 由吉帝己牟丹米

     龍馬(たつのま)も (いま)()てしか 青丹良(あをによ)し 奈良都(ならのみやこ)に ()きて()(ため)

       神駒龍馬矣 吾冀今日亦能得 青丹良且秀 大和奈良寧樂京 吾欲行來會伊人

      大伴旅人 0806


0807 【承前,其二。】

     宇豆都仁波 安布余志勿奈子 奴婆多麻能 用流能伊昧仁越 都伎提美延許曾

     (うつつ)には 逢由(あふよし)()し 烏玉(ぬばたま)の 夜夢(よるのいめ)にを ()ぎて()えこそ

       空蟬現世中 苦於相思無逢由 漆黑烏玉兮 幽冥夜夢欲相會 還願繼見無歇絕

      大伴旅人 0807


0808 答歌二首 【承前。】

     多都乃麻乎 阿禮波毛等米牟 阿遠爾與志 奈良乃美夜古邇 許牟比等乃多仁

     龍馬(たつのま)を (あれ)(もと)めむ 青丹良(あをによ)し 奈良都(ならのみやこ)に ()(ひと)()

       神駒龍馬者 吾將探尋求來矣 何以求諸乎 奉為欲來青丹秀 奈良京之汝君也

      佚名 0808


0809 【承前,其二。】

     多陀爾阿波須 阿良久毛於保久 志岐多閇乃 麻久良佐良受提 伊米爾之美延牟

     (ただ)()はず ()らくも(おほ)く 敷栲(しきたへ)の 枕去(まくらさ)らずて (いめ)にし()えむ

       不得直相逢 別離日久月積累 柔細敷栲兮 依偎枕邊不欲去 只願入夢常相會

      佚名 0809


0810 大伴淡等(旅人)謹狀

      梧桐日本琴一面 【對馬結石山孫枝。】

        此琴,夢化娘子曰:「余託根遙嶋之崇巒,晞幹九陽之休光。長帶烟霞,逍遙山川之阿,遠望風波,出入鴈木之間。唯恐,百年之後,空朽溝壑。偶遭良匠,剒為小琴。不顧質麤音少,恒希君子左琴。」即歌曰:

     伊可爾安良武 日能等伎爾可母 許惠之良武 比等能比射乃倍 和我摩久良可武

     如何(いか)にあらむ 日時(ひのとき)にかも 音知(こゑし)らむ (ひと)膝上(ひざのうへ) ()(まくら)かむ

       何年復何月 何日何時方可得 伯樂知音者 妾欲以其膝為枕 發聲繞樑奏天籟

      琴娘子 0810


0811 僕報詩詠曰 【承前。】

     許等等波奴 樹爾波安里等母 宇流波之吉 伎美我手奈禮能 許等爾之安流倍志

     言問(ことと)はぬ ()には(あり)とも (うるは)しき (きみ)手馴(たな)れの (こと)にしあるべし

       汝雖不言語 木質之類非靈長 然必美賢聖 明君手馴注恩寵 珍愛絕妙麗琴矣

      大伴旅人 0811

         琴娘子答曰:「敬奉德音,幸甚幸甚。」片事覺,即感於夢言,慨然不得止默。故附公使,聊以進御耳。謹狀不具。天平元年十月七日,附使進上。謹通,中衛高明閤下。謹空。



0812 中衛大將藤原卿報歌一首 【承前。】

       跪承芳音,嘉懽交深。乃知,龍門之恩,復厚蓬身之上。戀望殊念,常心百倍。謹和白雲之什,以奏野鄙之歌。房前謹狀。

     許等騰波奴 紀爾茂安理等毛 和何世古我 多那禮之美巨騰 都地爾意加米移母

     言問(ことと)はぬ ()にもありとも ()背子(せこ)が 手馴(たな)れの御琴(みこと) (つち)()かめやも

       其雖不言語 木質之類非靈長 然是吾兄子 恩寵手馴御琴也 豈可怠慢置地乎

      藤原房前 0812

         十一月八日,復還使大監。謹通,尊門。 【記室。】



0813 山上臣憶良,詠鎮懷石歌一首 【並短歌。】

       筑前國怡土郡深江村子負原,臨海丘上有二石。大者長一尺二寸六分,圍一尺八寸六分,重十八斤五兩,小者長一尺一寸,圍一尺八寸,重十六斤十兩。並皆墮圓,狀如雞子。其美好者,不可勝論。所謂,俓尺璧是也。【或云,此二石者,肥前國彼杵郡平敷之石,當占而取之。】去深江驛家二十許里,近在路頭。公私徃來,莫不下馬跪拜。古老相傳曰:「徃者,息長足日女命,征討新羅國之時,用茲兩石,插著御袖之中,以為鎮懷。【實是御裳中矣。】所以行人敬拜此石。」乃作歌曰:

     可既麻久波 阿夜爾可斯故斯 多良志比咩 可尾能彌許等 可良久爾遠 武氣多比良宜弖 彌許許呂遠 斯豆迷多麻布等 伊刀良斯弖 伊波比多麻比斯 麻多麻奈須 布多都能伊斯乎 世人爾 斯咩斯多麻比弖 余呂豆余爾 伊比都具可禰等 和多能曾許 意枳都布可延乃 宇奈可美乃 故布乃波良爾 美弖豆可良 意可志多麻比弖 可武奈何良 可武佐備伊麻須 久志美多麻 伊麻能遠都豆爾 多布刀伎呂可儛

     掛幕(かけまく)は (あや)(かしこ)し 足日女(たらしひめ) 神尊(かみのみこと) 韓國(からくに)を 向平(むけたひら)げて 御心(みこころ)を 鎮賜(しづめたま)ふと い()らして 齋賜(いはひたま)ひし 真玉為(またまな)す (ふた)つの(いし)を 世人(よのひと)に 示賜(しめしたま)ひて 萬代(よろづよ)に 言繼(いひつ)ぐがねと 海底(わたのそこ) 沖深江(おきつふかえ)の 海上(うなかみ)の 子負原(こふのはら)に 御手(みて)づから ()かし(たま)ひて 惟神(かむながら) (かむ)さび(いま)す 奇御魂(くしみたま) (いま)(をつつ)に (たふと)きろかむ

       僭述掛尊諱 畏慎誠惶復誠恐 氣長足姬尊 神功皇后足日女 渡海征三韓 平伏海西鎮諸蕃 欲鎮荒御心 取石以撫胎中帝 是為鎮懷石 戒慎心誠以奉齋 真玉渾圓兮 此二石者難勝論 以之示蒼生 天下世人令拜觀 欲使繼萬代 口耳相傳續綿延 滄溟海底兮 沖津水底深江之 海上子負原 筑前怡土子負原 御手親置此 安置二石傳永遠 惟神隨神慮 更顯神威為所祀 靈妙奇御魂 二石今亦可眼見 靈蹤現存誠尊貴

      山上憶良 0813


0814 【承前,短歌。】

     阿米都知能 等母爾比佐斯久 伊比都夏等 許能久斯美多麻 志可志家良斯母

     天地(あめつち)の (とも)(ひさ)しく 言繼(いひつ)げと 此奇御魂(このくしみたま) ()かしけらしも

       蓋欲永流傳 天地與共歷久遠 口耳繼相語 故置靈石敷此處 亙古彌新奇御魂

      山上憶良 0814

         右事傳言,那珂郡伊知鄉蓑嶋人建部牛麻呂是也。



0815 梅花歌卅二首 【并序。】

       天平二年正月十三日,萃于帥老(大伴旅人)之宅,申宴會也。于時,初春令月,氣淑風和。梅披鏡前之粉,蘭薰珮後之香。加以,曙嶺移雲,松掛羅而傾蓋,夕岫結霧,鳥封穀而迷林。庭舞新蝶,空歸故鴈。於是,蓋天坐地,促膝飛觴。忘言一室之裏,開衿煙霞之外。淡然自放,快然自足。若非翰苑,何以攄情。請紀落梅之篇,古今夫何異矣。宜賦園梅,聊成短詠。

      大伴旅人、山上憶良

    短詠 【卅二之一。】

     武都紀多知 波流能吉多良婆 可久斯許曾 烏梅乎乎岐都都 多努之岐乎倍米 【大貳紀卿。】

     正月立(むつきた)ち 春來(はるのきた)らば 如是(かく)しこそ (うめ)()きつつ (たの)しき()へめ 【大貳紀卿(だいにききゃう)。】

       每逢正月至 東風解冰春臨者 歲歲復年年 如是招梅迎新春 盡歡宴飲慶復始

      紀男人 0815


0816 【承前,卅二之二。】

     烏梅能波奈 伊麻佐家留期等 知利須義受 和我霸能曾能爾 阿利己世奴加毛 【少貳小野大夫。】

     梅花(うめのはな) 今咲(いまさ)ける(ごと) 散過(ちりす)ぎず ()家園(へのその)に (あり)こせぬかも 【少貳小野大夫(せうにをのだいぶ)。】

       今見此梅花 盛咲之後未散盡 風情洽宜矣 還願吾家庭園間 殘梅如是莫盡落

      小野老 0816


0817 【承前,卅二之三。】

     烏梅能波奈 佐吉多流僧能能 阿遠也疑波 可豆良爾須倍久 奈利爾家良受夜 【少貳粟田大夫。】

     梅花(うめのはな) ()きたる(その)の 青柳(あをやぎ)は (かづら)にすべく (なり)にけらずや 【少貳粟田大夫(せうにあはただいぶ)。】

       今見梅花咲 一片繁開此園間 青柳發新綠 能結為蘰飾首上 芽生更新湧命息

      粟田人上 0817


0818 【承前,卅二之四。】

     波流佐禮婆 麻豆佐久耶登能 烏梅能波奈 比等利美都都夜 波流比久良佐武 【筑前守山上大夫。】

     春去(はるさ)れば 先咲(まづさ)宿(やど)の 梅花(うめのはな) 獨見(ひとりみ)つつや 春日暮(はるひく)らさむ  【筑前守山上大夫(ちくぜんのかみやまのうへだいぶ)。】

       每臨新春至 身居早咲宿庭間 獨見翫春梅 隻身吟味無人擾 終日如此暮春時

      山上憶良 0818


0819 【承前,卅二之五。】

     余能奈可波 古飛斯宜志惠夜 加久之阿良婆 烏梅能波奈爾母 奈良麻之勿能怨 【豐後守大伴大夫。】

     世中(よのなか)は 戀繁(こひしげ)しゑ() 如是(かく)しあらば 梅花(うめのはな)にも ()益物(ましもの) 【豐後守大伴大夫(とよくにのみちのしりのかみおほともだいぶ)。】

       空蟬憂世間 心煩戀苦如是哉 與其處火宅 不若化作梅花者 反得逍遙獲自在

      大伴三依 0819


0820 【承前,卅二之六。】

     烏梅能波奈 伊麻佐可利奈理 意母布度知 加射之爾斯弖奈 伊麻佐可利奈理 【筑後守葛井大夫。】

     梅花(うめのはな) 今盛(いまさか)(なり) (おも)(どち) 髮插(かざ)しにしてな 今盛(いまさか)(なり) 【筑後守葛井大夫(ちくごのかみふぢゐだいぶ)。】

       梅花匂清雅 今時盛開咲一面 志同道合者 速速折枝以髻首 梅今盛咲誠絢爛

      葛井大成 0820


0821 【承前,卅二之七。】

     阿乎夜奈義 烏梅等能波奈乎 遠理可射之 能彌弖能能知波 知利奴得母與斯 【笠沙彌。】

     青柳(あをやなぎ) (うめ)との(はな)を 折餝(をりかざ)し ()みての(のち)は ()りぬ共良(ともよ) 【笠沙彌(かさのさみ)。】

       今摘青柳花 又折白梅花以餝 髻首蔓與枝 盡歡宴飲酒酣後 散華吹雪亦宜矣

      沙彌滿誓 0821


0822 【承前,卅二之八。】

     和何則能爾 宇米能波奈知流 比佐可多能 阿米欲里由吉能 那何列久流加母 【主人。】

     ()(その)に 梅花散(うめのはなち)る 久方(ひさかた)の (あめ)より(ゆき)の 流來(ながれく)(かも) 【主人(あるじ)。】

       梅散吾苑中 落花紛紛添皓白 疑是久方遙 遠自萬丈高天上 飄舞零雪流來哉

      大伴旅人 0822


0823 【承前,卅二之九。】

     烏梅能波奈 知良久波伊豆久 志可須我爾 許能紀能夜麻爾 由企波布理都都 【大監伴氏百代。】

     梅花(うめのはな) ()らくは何方(いづく) (しか)すがに 此城山(このきのやま)に (ゆき)()りつつ 【大監伴氏百代(だいけんばんじのももよ)。】

       汝云梅花落 所謂散華在何方 迴見顧四方 此城山間無花落 唯有零雪降紛紛

      大伴百代 0823


0824 【承前,卅二之十。】

     烏梅乃波奈 知良麻久怨之美 和我曾乃乃 多氣乃波也之爾 于具比須奈久母 【少監阿氏奧嶋。】

     梅花(うめのはな) ()らまく()しみ ()(その)の 竹林(たけのはやし)に 鶯鳴(うぐひすな)くも 【少監阿氏奧嶋(せうけんあじのおきしま)。】

       梅花咲而落 蓋是惜此梅早謝 吾宿庭園間 竹林之中鶯發鳴 啼泣惋惜音不斷

      安倍奧嶋 0824


0825 【承前,卅二十一。】

     烏梅能波奈 佐岐多流曾能能 阿遠夜疑遠 加豆良爾志都都 阿素毗久良佐奈 【少監土氏百村。】

     梅花(うめのはな) ()きたる(その)の 青柳(あをやぎ)を (かづら)にしつつ 遊暮(あそびく)らさな 【少監土氏百村(せうけんとじのももむら)。】

       梅花味清雅 盛咲一面此庭間 手折青柳枝 編織為縵作遊樂 盡歡終日此園中

      土師百村 0825


0826 【承前,卅二十二。】

     有知奈毗久 波流能也奈宜等 和我夜度能 烏梅能波奈等遠 伊可爾可和可武 【大典史氏大原。】

     打靡(うちなび)く 春柳(はるのやなぎ)と ()宿(やど)の 梅花(うめのはな)とを 如何(いか)にか()かむ 【大典史氏大原(だいてんしじのおほはら)。】

       搖曳隨風動 擺盪春柳無限好 其與吾庭間 如雪暗香白梅花 如何分別孰優哉

      史大原 0826


0827 【承前,卅二十三。】

     波流佐禮婆 許奴禮我久利弖 宇具比須曾 奈岐弖伊奴奈流 烏梅我志豆延爾 【小典山氏若麻呂。】

     春去(はるさ)れば 木末隱(こぬれがく)りて (うぐひす)そ ()きて()ぬなる (うめ)下枝(しづえ) 【小典山氏若麻呂(せうてんさんじのわかまろ)。】

       每逢新春至 隱於木末樹梢之 鶲鳥樹鶯兮 發鳴啼春更飛去 移行下枝迎春暖

      山口若麻呂 0827


0828 【承前,卅二十四。】

     比等期等爾 乎理加射之都都 阿蘇倍等母 伊夜米豆良之岐 烏梅能波奈加母 【大判事丹氏麻呂。】

     人每(ひとごと)に 折餝(をりかざ)しつつ (あそ)べども 彌珍(いやめづら)しき 梅花(うめのはな)かも 【大判事丹氏麻呂(だいはんじたんじのまろ)。】

       人每折其枝 插頭髻首以為餝 如此宴遊樂 然見彼花不厭飽 彌珍愛之梅花矣

      丹治比 0828


0829 【承前,卅二十五。】

     烏梅能波奈 佐企弖知理奈波 佐久良婆那 都伎弖佐久倍久 奈利爾弖阿良受也 【藥師張氏福子。】

     梅花(うめのはな) ()きて()りなば 櫻花(さくらばな) ()ぎて()くべく ()りにて(あら)() 【藥師張氏福子(くすりしちゃうじのふくし)。】

       梅花咲清雅 花開花落雖可惜 然見櫻含苞 將繼梅謝再綻放 再添花色報春音

      張福子 0829


0830 【承前,卅二十六。】

     萬世爾 得之波岐布得母 烏梅能波奈 多由流己等奈久 佐吉和多留倍子 【筑前介佐氏子首。】

     萬代(よろづよ)に (とし)來經(きふ)とも 梅花(うめのはな) ()ゆる事無(ことな)く 咲渡(さきわた)るべし 【筑前介佐氏子首(ちくぜんのすけさじのこびと)。】

       縱令千萬代 年歲流逝不復返 然此梅花者 年年常盛無絕時 咲渡古今亙永久

      佐伯子首 0830


0831 【承前,卅二十七。】

     波流奈例婆 宇倍母佐枳多流 烏梅能波奈 岐美乎於母布得 用伊母禰奈久爾 【壹岐守板氏安麻呂。】

     (はる)なれば (うべ)()きたる 梅花(うめのはな) (きみ)(おも)ふと 夜眠(よい)寢無(ねな)くに 【壹岐守板氏安麻呂(いきのかみはんじのやすまろ)。】

       每逢新春臨 理宜綻放咲盎然 清雅梅花矣 吾每念君心浮動 夜間輾轉甚難眠

      板持安麻呂 0831


0832 【承前,卅二十八。】

     烏梅能波奈 乎利弖加射世留 母呂比得波 家布能阿比太波 多努斯久阿流倍斯 【神司荒氏稻布。】

     梅花(うめのはな) ()りて髮插(かざ)せる 諸人(もろひと)は 今日間(けふのあひだ)は (たの)しくあるべし 【神司荒氏稻布(かむづかさくわうじのいなしき)。】

       舉手執梅花 折枝插髮以髻首 諸人今日間 遊樂盡飲渡終日 歡愉快活似無憂

      荒木稻布 0832


0833 【承前,卅二十九。】

     得志能波爾 波流能伎多良婆 可久斯己曾 烏梅乎加射之弖 多努志久能麻米 【大令史野氏宿奈麻呂。】

     每年(としのは)に 春來(はるのきた)らば 如是(かく)しこそ (うめ)髮插(かざ)して (たの)しく()まめ 【大令史野氏宿奈麻呂(だいりょうしやしのすくなまろ)。】

       每年逢春來 如是折梅以插頭 梅枝髻首而 歡飲盡宴以迎春 萬象復始歲更新

      小野宿奈麻呂 0833


0834 【承前,卅二二十。】

     烏梅能波奈 伊麻佐加利奈利 毛毛等利能 己惠能古保志枳 波流岐多流良斯 【小令史田氏肥人。】

     梅花(うめのはな) 今盛(いまさか)(なり) 百鳥(ももとり)の 聲戀(こゑのこほ)しき 春來(はるきた)るらし 【小令史田氏肥人(せうりゃうしでんじのこまひと)。】

       清雅梅花開 暗香浮動今盛也 吾待時已久 百鳥爭鳴令人眷 鳥語聲囀春來矣 

      田口肥人 0834


0835 【承前,卅二廿一。】

     波流佐良婆 阿波武等母比之 烏梅能波奈 家布能阿素毗爾 阿比美都流可母 【藥師高氏義通。】

     春去(はるさ)らば ()はむと()ひし 梅花(うめのはな) 今日(けふ)(あそび)に 相見(あひみ)つるかも 【藥師高氏義通(くすりしかうじのよしみち)。】

       吾思待春至 當得久離後相逢 清雅梅花矣 今日遊興飲宴上 蓋得有幸相見哉

      高丘義通 0835


0836 【承前,卅二廿二。】

     烏梅能波奈 多乎利加射志弖 阿蘇倍等母 阿岐太良奴比波 家布爾志阿利家利 【陰陽師礒氏法麻呂。】

     梅花(うめのはな) 手折髮插(たをりかざ)して (あそ)べども 飽足(あきだ)らぬ()は 今日(けふ)にしありけり 【陰陽師礒氏法麻呂(おんやうじきののりまろ)。】

       梅花咲一面 手折梅枝而髻首 遊宴盡歡飲 終日嬉戲不飽足 其日正為今日矣

      磯部法麻呂 0836


0837 【承前,卅二廿三。】

     波流能努爾 奈久夜汙隅比須 奈都氣牟得 和何弊能曾能爾 汙米何波奈佐久 【笇師志氏大道。】

     春野(はるのの)に ()くや(うぐひす) (なつ)けむと ()家園(へのその)に (うめ)花咲(はなさ) 【筭師志氏大道(さんししじのおほみち)。】

       新綠春野間 鶯鳥詠春發啼鳴 欲與鶯相睦 吾家庭園梅花咲 一面綻開待鶯至

      志紀大道 0837


0838 【承前,卅二廿四。】

     烏梅能波奈 知利麻我比多流 乎加肥爾波 宇具比須奈久母 波流加多麻氣弖 【大隅目榎氏鉢麻呂。】

     梅花(うめのはな) 散紛(ちりまが)ひたる 岡邊(をかび)には 鶯鳴(うぐひすな)くも 春片設(はるかたま)けて 【大隅目榎氏鉢麻呂(おほすみのさくわんかじのはちまろ)。】

       梅花開而謝 零落舞散降紛紛 於彼岡邊者 鶯鳥徘徊發啼鳴 是知時節春至矣

      榎井鉢麻呂 0838


0839 【承前,卅二廿五。】

     波流能努爾 紀理多知和多利 布流由岐得 比得能美流麻提 烏梅能波奈知流 【筑前目田氏真上。】

     春野(はるのの)に 霧立渡(きりたちわた)り 降雪(ふるゆき)と (ひと)()(まで) 梅花散(うめのはなち) 【筑前目田氏真上(ちくぜんのさくわんでんじのまかみ)。】

       新綠春野間 猶似霧湧白一面 人目見之者 疑為皓雪降紛紛 寔是梅花散吹雪

      田中真上 0839


0840 【承前,卅二廿六。】

     波流楊那宜 可豆良爾乎利志 烏梅能波奈 多禮可有可倍志 佐加豆岐能倍爾 【壹岐目村氏彼方。】

     春柳(はるやなぎ) (かづら)()りし 梅花(うめのはな) (たれ)()かべし 酒坏上(さかづきのへ) 【壹岐目村氏彼方(いきのさくわんそんじのをちかた)。】

       春柳現新綠 手折枝芽以為蔓 梅花飄暗香 是其梅兮抑或柳 孰浮酩醴酒盃上

      村君彼方 0840


0841 【承前,卅二廿七。】

     于遇比須能 於登企久奈倍爾 烏梅能波奈 和企弊能曾能爾 佐伎弖知流美由 【對馬目高氏老。】

     (うぐひす)の 音聞(おとき)くなへに 梅花(うめのはな) 我家園(わぎへのその)に ()きて()() 【對馬目高氏老(つしまのさくわんかうじのおゆ)。】

       鶯鳴報初春 聞其音訊不覺間 清雅梅之花 在吾家苑庭園中 既已花開復花落

      高丘老 0841


0842 【承前,卅二廿八。】

     和我夜度能 烏梅能之豆延爾 阿蘇毗都都 宇具比須奈久毛 知良麻久乎之美 【薩摩目高氏海人。】

     ()宿(やど)の 梅下枝(うめのしづえ)に (あそ)びつつ 鶯鳴(うぐひすな)くも ()らまく()しみ 【薩摩目高氏海人(さつまのさくわんかうじのあま)。】

       吾宿庭園間 梅之下枝鶯穿梭 遊興更爭鳴 蓋是惜花不欲散 不佇上枝遊下枝

      高丘海人 0842


0843 【承前,卅二廿九。】

     宇梅能波奈 乎理加射之都都 毛呂比登能 阿蘇夫遠美禮婆 彌夜古之敘毛布 【土師氏御道。】

     梅花(うめのはな) 折髮插(をりかざ)しつつ 諸人(もろひと)の (あそ)ぶを()れば (みやこ)しぞ() 【土師氏御道(はにしうぢのみみち)。】

       今見彼諸人 手折梅花插髻首 以為遊樂者 觀此盛況有所思 心憶昔日在都時

      土師御道 0843


0844 【承前,卅二二十。】

     伊母我陛邇 由岐可母不流登 彌流麻提爾 許許陀母麻我不 烏梅能波奈可毛 【小野氏國堅。】

     (いも)()に (ゆき)かも()ると ()(まで)に 幾許(ここだ)(まが)ふ 梅花(うめのはな)かも 【小野氏國堅(をのうぢのくにかた)。】

       吾妹邸之中 猶似皓雪零一片 人目見之者 幾許紛亂令人惑 寔是舞落梅花矣

      小野國堅 0844


0845 【承前,卅二卅一。】

     宇具比須能 麻知迦弖爾勢斯 宇米我波奈 知良須阿利許曾 意母布故我多米 【筑前拯門氏石足。】

     (うぐひす)の 待難(まちかて)にせし (うめ)(はな) ()らず(あり)こそ 思兒(おもふこ)(ため) 【筑前拯門氏石足(ちくぜんのじょうもんじのいそたり)。】

       吾知鶯難待 欲聞黃鶯報春音 清雅梅花矣 但願為吾所慕人 切莫早謝仍常咲

      門部石足 0845


0846 【承前,卅二卅二。】

     可須美多都 那我岐波流卑乎 可謝勢例杼 伊野那都可子岐 烏梅能波那可毛 【小野氏淡理。】

     霞立(かすみた)つ (なが)春日(はるひ)を 髮插(かざ)せれど 彌懷(いやなつか)しき 梅花(うめのはな)かも 【小野氏淡理(うのうぢのたもり)。】

       春霞雲湧立 日久時長春日間 雖折枝髻首 彌另人懷更愛萬 暗香清雅梅花哉

      小野田守 0846


0847 員外思故鄉歌兩首

     和我佐可理 伊多久久多知奴 久毛爾得夫 久須利波武等母 麻多遠知米也母

     ()(さか)り 甚降(いたくくた)ちぬ (くも)()ぶ 藥食(くすりは)むとも 復變若(またをち)めやも

       青春不復在 吾之盛年過已久 逝者如斯夫 縱飲騰雲不死藥 豈得返老還壯年

      大伴旅人 0847


0848 【承前,其二。】

     久毛爾得夫 久須利波牟用波 美也古彌婆 伊夜之吉阿何微 麻多越知奴倍之

     (くも)()ぶ 藥食(すりは)むよは 都見(みやこみ)ば (いや)しき()() 復變若(またをち)ぬべし

       與其飲仙藥 騰空登仙神丹者 不若望都城 卑賤微薄我之身 當能返老復壯年

      大伴旅人 0848


0849 後追和梅歌四首 【承前。】

     能許利多留 由棄仁末自例留 宇梅能半奈 半也久奈知利曾 由吉波氣奴等勿

     (のこ)りたる (ゆき)(まじ)れる 梅花(うめのはな) (はや)勿散(なち)りそ (ゆき)()ぬとも

       殘雪色斑駁 梅花交雜混其間 清雅梅花矣 縱令殘雪將消熔 切莫隨彼早散去

      大伴旅人 0849


0850 【承前,其二。】

     由吉能伊呂遠 有婆比弖佐家流 有米能波奈 伊麻左加利奈利 彌牟必登母我聞

     雪色(ゆきのいろ)を (うば)ひて()ける 梅花(うめのはな) 今盛(いまさか)(なり) ()(ひと)もがも

       似欲奪雪色 梅花爭咲一面白 清雅白梅花 暗香浮動今盛也 此景欲與人共見

      大伴旅人 0850


0851 【承前,其三。】

     和我夜度爾 左加里爾散家留 宇梅能波奈 知流倍久奈里奴 美牟必登聞我母

     ()宿(やど)に (さか)りに()ける 梅花(うめのはな) ()るべく()りぬ ()(ひと)もがも

       吾宿庭院間 梅花盛開咲一面 清雅梅花者 既知其後將散去 欲與人共見此景

      大伴旅人 0851


0852 【承前,其四。】

     烏梅能波奈 伊米爾加多良久 美也備多流 波奈等阿例母布 左氣爾于可倍許曾【一云,伊多豆良爾,阿例乎知良須奈,左氣爾宇可倍許曾。】

     梅花(うめのはな) (いめ)(かた)らく (みやび)たる (はな)我思(あれも)ふ (さけ)(うか)べこそ一云(またにいふ)(いたづら)に、(あれ)()らす()(さけ)(うか)べこそ。】

       梅花寔清雅 能語夢中堪風流 高尚梅花矣 吾思如此妍花矣 請浮酒上漂盃中【一云,高尚梅花矣,莫徒令吾散虛無,請令浮酒漂盃中。】

      大伴旅人 0852


0853 遊於松浦河序

       余以暫徃松浦之縣逍遙,聊臨玉嶋之潭遊覽,忽值釣魚女子等也。花容無雙,光儀無匹。開柳葉於眉中,發桃花於頰上。意氣凌雲,風流絕世。僕問曰:「誰鄉誰家兒等,若疑神仙者乎?」娘等皆咲答曰:「兒等者,漁夫之舍兒,草菴之微者。無鄉無家,何足稱云。唯性便水,復心樂山。或臨洛浦而徒羨玉魚,乍臥巫峽以空望烟霞。今以邂逅相遇貴客,不勝感應,輙陳欵曲。而今而後,豈可非偕老哉。」下官對曰:「唯唯,敬奉芳命。」于時日落山西,驪馬將去。遂申懷抱,因贈詠歌曰:

     阿佐里須流 阿末能古等母等 比得波伊倍騰 美流爾之良延奴 有麻必等能古等

     (あさ)りする 漁夫(あま)子供(こども)と (ひと)()へど ()るに()らえぬ 貴人(うまひと)()

       汝云己卑賤 捕魚白水郎之子 吾雖聞此言 然寔一目盡了然 必當良家貴人子

      大伴旅人 0853


0854 答詩曰 【承前。】

     多麻之末能 許能可波加美爾 伊返波阿禮騰 吉美乎夜佐之美 阿良波佐受阿利吉

     玉島(たましま)の 此川上(このかはかみ)に (いへ)()れど (きみ)(やさ)しみ (あら)はさずありき

       玉島松浦川 吾家雖在此川上 然以君容儀 形姿優美俊太甚 故不顯之稱卑賤

      女子 0854


0855 蓬客等更贈歌三首 【承前,其一。】

     麻都良河波 可波能世比可利 阿由都流等 多多勢流伊毛何 毛能須蘇奴例奴

     松浦川(まつらがは) 川瀨光(かはのせひか)り 鮎釣(あゆつ)ると ()たせる(いも)が 裳裾濡(ものすそぬ)れぬ

       玉島松浦川 川瀨受光耀繽紛 釣鮎立川畔 吾妹光儀徹衣晃 裳裾水濡增艷色

      大伴旅人 0855


0856 【承前,其二。】

     麻都良奈流 多麻之麻河波爾 阿由都流等 多多世流古良何 伊弊遲遲斯良受毛

     松浦(まつら)なる 玉島川(たましまがは)に 鮎釣(あゆつ)ると ()たせる兒等(こら)が 家道知(いへぢし)らずも

       肥前松浦之 玉島川畔潭之岸 欲釣細鱗魚 立於川邊女子等 汝之家道當何去

      大伴旅人 0856


0857 【承前,其三。】

     等富都比等 末都良能加波爾 和可由都流 伊毛我多毛等乎 和禮許曾末加米

     遠人(とほつひと) 松浦川(まつらのかは)に 若鮎釣(わかゆつ)る (いも)手本(たもと)を (われ)こそ()かめ

       遠人常相待 肥前玉島松浦川 娘子釣稚鮎 吾欲以汝手為枕 枕之好眠渡春宵

      大伴旅人 0857


0858 娘等更報歌三首 【承前,其一。】

     和可由都流 麻都良能可波能 可波奈美能 奈美邇之母波婆 和禮故飛米夜母

     若鮎釣(わかゆつ)る 松浦川(まつらのかは)の 川並(かはなみ)の (なみ)にし()はば 我戀(われこ)ひめやも

       河釣稚鮎魚 肥前玉島松浦川 川並河之道 吾戀若與俗相並 豈得憂愁悔如是

      女子 0858


0859 【承前,其二。】

     波流佐禮婆 和伎霸能佐刀能 加波度爾波 阿由故佐婆斯留 吉美麻知我弖爾

     春去(はるさ)れば 我家里(わぎへのさと)の 川門(かはと)には 鮎子(あゆこ)(ばし)る 君待難(きみまちがて)

       每逢春至來 吾家鄉里川瀨間 鮎子躍川門 繁跳出水迸河上 全因吾君誠難待

      女子 0859


0860 【承前,其三。】

     麻都良我波 奈奈勢能與騰波 與等武等毛 和禮波與騰麻受 吉美遠志麻多武

     松浦川(まつらがは) 七瀨淀(ななせのよど)は (よど)むとも (われ)(よど)まず (きみ)をし()たむ

       肥前松浦川 玉島川瀨七瀨淀 川水雖滯此 吾之慕情無所止 引領待君長相望

      女子 0860


0861 後人追和之詩三首 【帥老。承前,其一。

     麻都良河波 可波能世波夜美 久禮奈為能 母能須蘇奴例弖 阿由可都流良武

     松浦川(まつらがは) 川瀨早(かはのせはや)み (くれなゐ)の 裳裾濡(ものすそぬ)れて (あゆ)()るらむ

       肥前松浦川 川瀨水流急且速 石榴朱赤紅 裳裾為水漬濕濡 娘子等釣細鱗魚

      大伴旅人 0861


0862 【承前,其二。】

     比等未奈能 美良武麻都良能 多麻志末乎 美受弖夜和禮波 故飛都都遠良武

     人皆(ひとみな)の ()らむ松浦(まつら)の 玉島(たましま)を ()ずてや(われ)は ()ひつつ()らむ

       肥前松浦縣 玉島美景美娘子 眾人僉望之 此情此景吾未見 馳騁慕情沉羨戀

      大伴旅人 0862


0863 【承前,其三。】

     麻都良河波 多麻斯麻能有良爾 和可由都流 伊毛良遠美良牟 比等能等母斯佐

     松浦川(まつらがは) 玉島浦(たましまのうら)に 若鮎釣(わかゆつ)る 妹等(いも)()らむ (ひと)(とも)しさ

       肥前松浦川 玉島浦上美娘子 釣鮎美姿儀 眾人望見收眼簾 吾不得見唯稱羨

      大伴旅人 0863


0864 吉田連宜奉和梅花歌一首

       宜啟。伏奉四月六日賜書。跪開封函,拜讀芳藻。心神開朗,似懷泰初之月,鄙懷除卻,若披樂廣之天。至若羈旅邊城,懷古舊而傷志,年矢不停,憶平生而落淚。但達人安排,君子無悶。伏冀,朝宜懷翟之化,暮存放龜之術,架張趙於百代,追松喬於千齡耳。兼奉垂示,梅苑芳席,群英摛藻,松浦玉譚,仙媛贈答,類杏壇各言之作,疑衡皐稅駕之篇。耽讀吟諷,戚謝歡怡。宜戀主之誠,誠逾犬馬,仰德之心,心同葵藿。而碧海分地,白雲隔天。徒積傾延,何慰勞緒。孟秋膺節,伏願萬祐日新。今因相撲部領使,謹付片紙。宜謹啟,不次。

    奉和諸人梅花歌一首

     於久禮為天 那我古飛世殊波 彌曾能不乃 于梅能波奈爾忘 奈良麻之母能乎

     後居(おくれゐ)て 長戀(ながこひ)せずは 御園生(みそのふ)の 梅花(うめのはな)にも ()益物(ましもの)

       後居不逢時 未能與宴和詠梅 與其長戀苦 不若化作御園間 所生梅花佇自得

      吉田宜 0864


0865 和松浦仙媛歌一首

     伎彌乎麻都 麻都良乃于良能 越等賣良波 等己與能久爾能 阿麻越等賣可忘

     (きみ)()つ 松浦浦(まつらのうら) 娘子等(をとめら)は 常世國(とこよのくに)の 海人娘子哉(あまをとめかも)

       揮袖待君來 肥前松浦浦上立 絕色娘子等 其蓋仙界常世國 漁父海人娘子哉

      吉田宜 0865


0866 思君未盡,重題二首

     波漏波漏爾 於忘方由流可母 志良久毛能 智弊仁邊多天留 都久紫能君仁波

     遙遙(はろはろ)に (おも)ほゆるかも 白雲(しらくも)の 千重(ちへ)(へだ)てる 筑紫國(つくしのくに)

       遙遙悠遠兮 唯有思念慕伊人 相離在異地 白雲相隔阻千重 不領靈地筑紫國

      吉田宜 0866


0867 【承前。】

     枳美可由伎 氣那我久奈理奴 奈良遲那留 志滿乃己太知母 可牟佐飛仁家里

     (きみ)()き 日長(けなが)()りぬ 奈良道(ならぢ)なる 山齋(しま)木立(こだち)も (かむ)さびにけり

       自君所發向 旅日既長日已久 奈良寧樂道 山齋庭間樹木者 儼然生苔帶古色

      吉田宜 0867

         天平二年七月十日。



0868 憶良誠惶頓首,謹啟

       憶良聞:「方岳諸侯,都督刺史,並依典法,巡行部下,察其風俗。」意內多端,口外難出。謹以三首之鄙歌,欲寫五藏之欝結。其歌曰:

     麻都良我多 佐欲比賣能故何 比列布利斯 夜麻能名乃尾夜 伎伎都都遠良武

     松浦瀉(まつらがた) 佐用姬兒(さよひめのこ)が 領巾振(ひれふ)りし 山名(やまのな)のみ() ()きつつ()らむ

       肥前松浦瀉 望夫孃子佐用姬 揮袖振領巾 吾唯得聞其山名 尚仍無緣歷彼地

      山上憶良 0868


0869 【承前,其二。】

     多良志比賣 可尾能美許等能 奈都良須等 美多多志世利斯 伊志遠多禮美吉【一云,阿由都流等。】

     足日女(たらしひめ) 神尊(かみのみこと)の 魚釣(なつ)らすと 御立(みた)たしせりし (いし)誰見(たれみ)一云(またにいふ)鮎釣(あゆつ)ると。】

       氣長足姬尊 神功皇后足日女 昔日釣魚時 所立磐石御聖蹟 孰人眼見拜觀哉【一云,昔日釣鮎時。】

      山上憶良 0869


0870 【承前,其三。】

     毛毛可斯母 由加奴麻都良遲 家布由伎弖 阿須波吉奈武遠 奈爾可佐夜禮留

     百日(ももか)しも ()かぬ松浦道(まつらぢ) 今日行(けふゆ)きて 明日(あす)()なむを (なに)(さや)れる

       去此路未遠 松浦道不足百日 若今日發向 明日可以歸來矣 然是何障不成行

      山上憶良 0870

         天平二年七月十一日,筑前國司山上憶良謹上。



0871 領巾麾嶺詠歌一首 【承前。】

       大伴佐提比古郎子,特被朝命,奉使藩國。艤棹言歸,稍赴蒼波。妾也松浦,【佐用嬪面。】 嗟此別易,歎彼會難。即登高山之嶺,遙望離去之船,悵然斷肝,黯然銷魂。遂脫領巾麾之,傍者莫不流涕。因號此山曰領巾麾之嶺也。乃作歌曰:

     得保都必等 麻通良佐用比米 都麻胡非爾 比例布利之用利 於返流夜麻能奈

     遠人(とほつひと) 松浦佐用姬(まつらさよひめ) 夫戀(つまごひ)に 領巾振(ひれふ)りしより ()へる山名(やまのな)

       領巾麾嶺者 遠人松浦佐用姬 以慕其夫婿 苦待望夫麾領巾 其緣遂負山名也

      山上憶良 0871


0872 後人追和 【承前。】

     夜麻能奈等 伊賓都夏等可母 佐用比賣河 許能野麻能閇仁 必例遠布利家牟

     山名(やまのな)と 言繼(いひつ)げとかも 佐用姬(さよひめ)が 此山上(このやまのへ)に 領巾(ひれ)()りけむ

       蓋欲藉山名 口耳相傳流後世 松浦佐用姬 登此山頂揮領巾 身化石歷永劫哉

      山上憶良 0872


0873 最後人追和 【承前。】

     余呂豆余爾 可多利都夏等之 許能多氣仁 比例布利家良之 麻通羅佐用嬪面

     萬代(よろづよ)に 語繼(かたりつ)げとし 此岳(このたけ)に 領巾振(ひれふ)りけらし 松浦佐用姬(まつらさよひめ)

       欲令傳萬代 口耳相繼流此事 故登上此岳 苦待望夫揮領巾 肥前松浦佐用姬

      山上憶良 0873


0874 最最後人追和二首 【承前。】

     宇奈波良能 意吉由久布禰遠 可弊禮等加 比禮布良斯家武 麻都良佐欲比賣

     海原(うなはら)の 沖行(おきゆ)(ふね)を (かへ)れとか 領巾振(ひれふ)らしけむ 松浦佐用姬(まつらさよひめ)

       航行大海原 至於沖津渡滄溟 遇令彼船歸 遂登山頂振領巾 肥前松浦佐用姬

      山上憶良 0874


0875 【承前,第二。】

     由久布禰遠 布利等騰尾加禰 伊加婆加利 故保斯苦阿利家武 麻都良佐欲比賣

     行船(ゆくふね)を 振留兼(ふりとどみか)ね 如何許(いかばか)り (こほ)しくありけむ 松浦佐用姬(まつらさよひめ)

       行船不復返 急揮領巾亦難留 戀慕如此許 心焦如焚苦相思 肥前松浦佐用姬

      山上憶良 0875


0876 書殿餞酒日倭歌四首 【四首第一。】

     阿麻等夫夜 等利爾母賀母夜 美夜故麻提 意久利摩遠志弖 等比可弊流母能

     天飛(あまと)ぶや (とり)にもがもや 都迄(みやこまで) 送申(おくりまを)して 飛歸(とびかへ)(もの)

       欲化此肉身 變作飛天翔空鳥 如此成就者 遂可送君迄都城 再翱大虛歸此地

      山上憶良 0876


0877 【承前,四首第二。】

     比等母禰能 宇良夫禮遠留爾 多都多夜麻 美麻知可豆加婆 和周良志奈牟迦

     人皆(ひともね)の 心荒振居(うらぶれを)るに 龍田山(たつたや) 御馬近付(みまちかづ)かば (わす)らしなむか

       人皆失氣力 胸懷方寸萎不安 然待乘御馬 近於京堺龍田山 當可忘憂解哀愁

      山上憶良 0877


0878 【承前,四首第三。】

     伊比都都母 能知許曾斯良米 等乃斯久母 佐夫志計米夜母 吉美伊麻佐受斯弖

     ()ひつつも (のち)こそ()らめ とのしくも (さぶ)しけめやも 君坐(きみいま)さずして

       餞別告離情 其後更慟感銘心 相思情難解 寂寞更甚非少許 以君不在難復逢

      山上憶良 0878


0879 【承前,四首第四。】

     余呂豆余爾 伊麻志多麻比提 阿米能志多 麻乎志多麻波禰 美加度佐良受弖

     萬代(よろづよ)に 坐賜(いましたま)ひて 天下(あめのした) 奏賜(まをしたま)はね 朝廷去(みかどさ)らずて

       願君別無恙 千年萬代步青雲 肩負六合內 申食國政治天下 不去朝庭在禁中

      山上憶良 0879


0880 敢布私懷歌三首

     阿麻社迦留 比奈爾伊都等世 周麻比都都 美夜故能提夫利 和周良延爾家利

     天離(あまざか)る (ひな)五年(いつとせ) 住居(すま)ひつつ (みやこ)風俗(てぶり) (わす)らえにけり

       天離日已遠 鄙夷遠國筑紫地 住居凡五年 都內風俗習常等 一皆忘去不復憶

      山上憶良 0880


0881 【承前,第二。】

     加久能未夜 伊吉豆伎遠良牟 阿良多麻能 吉倍由久等志乃 可伎利斯良受提

     如是(かく)のみや 息衝居(いきづきを)らむ (あらた)まの 來經行年(きへゆくとし)の (かぎ)()らずて

       如是總嘆息 渾渾噩噩悲渡日 日新月且異 來經行年轉瞬過 不知限堺在何時

      山上憶良 0881


0882 【承前,第三。】

     阿我農斯能 美多麻多麻比弖 波流佐良婆 奈良能美夜故爾 咩佐宜多麻波禰

     ()(ぬし)の 御靈賜(みたまたま)ひて 春去(はるさ)らば 奈良京(ならのみやこ)に 召上賜(めさげたま)はね

       名君吾主矣 誠受恩寵垂慈悲 若待春日至 還願在於奈良京 得蒙召上奉吾力

      山上憶良 0882

         天平二年十二月六日,筑前國守山上憶良謹上。



0883 三嶋王後追和松浦佐用嬪面歌一首 【承前。】

     於登爾吉岐 目爾波伊麻太見受 佐容比賣我 必禮布理伎等敷 吉民萬通良楊滿

     (おと)()き ()には未見(いまだみ)ず 佐用姬(さよひめ)が 領巾振(ひれふ)りきとふ 君松浦山(きみまつらやま)

       耳聞雖已久 此目至今未親見 松浦佐用姬 揮袖別離振領巾 待君之岳松浦山

      三嶋王 0883


0884 大伴君熊凝歌二首 【大典麻田陽春作。】

     國遠伎 路乃長手遠 意保保斯久 計布夜須疑南 己等騰比母奈久

     國遠(くにとほ)き 道長手(みちのながて)を 鬱悒(おほほし)く 今日(けふ)()ぎなむ 言問(ことど)ひも()

       地離故鄉遠 遙途跋涉旅路長 不覺心鬱悒 若今身故在他鄉 無以言問告父母

      麻田陽春 0884


0885 【承前,第二。】

     朝霧乃 既夜須伎我身 比等國爾 須疑加弖奴可母 意夜能目遠保利

     朝霧(あさぎり)の 消易(けやす)()() 他國(ひとくに)に 過難(すぎかて)ぬかも 親目(おやのめ)()

       朝霧虛易散 轉瞬凋零吾身也 身處在異地 縱令欲死亦不得 唯欲再逢見親面

      麻田陽春 0885


0886 筑前國守山上憶良,敬和為熊凝述其志歌六首 【并序。】

       大伴君熊凝者,肥後國益城郡人也。年十八歳,以天平三年六月十七日,為相撲使某國司官位姓名從人,參向京都。為天不幸,在路獲疾,即於安藝國佐伯郡高庭驛家身故也。臨終之時,長歎息曰:「傳聞:『假合之身易滅,泡沫之命難駐。所以千聖已去,百賢不留。況乎凡愚微者,何能逃避。』但我老親,並在菴室。侍我過日,自有傷心之恨,望我違時,必致喪明之泣。哀哉我父,痛哉我母。不患一身向死之途,唯悲二親在生之苦。今日長別,何世得覲。」乃作歌六首而死。其歌曰:

     【六首第一。】

     宇知比佐受 宮弊能保留等 多羅知斯夜 波波何手波奈例 常斯良奴 國乃意久迦袁 百重山 越弖須疑由伎 伊都斯可母 京師乎美武等 意母比都都 迦多良比遠禮騰 意乃何身志 伊多波斯計禮婆 玉桙乃 道乃久麻尾爾 久佐太袁利 志婆刀利志伎提 等許自母能 宇知許伊布志提 意母比都都 奈宜伎布勢良久 國爾阿良婆 父刀利美麻之 家爾阿良婆 母刀利美麻志 世間波 迦久乃尾奈良志 伊奴時母能 道爾布斯弖夜 伊能知周疑南【一云,和何余須疑奈牟。】

     內日射(うちひさ)す (みや)(のぼ)ると 垂乳(たらち)しや (はは)手離(てはな)れ 常知(つねし)らぬ 國奧處(くにのおくか)を 百重山(ももへやま) ()えて過行(すぎゆ)き 何時(いつ)しかも (みやこ)()むと (おも)ひつつ (かた)らひ()れど (おの)()し (いた)はしければ 玉桙(たまほこ)の 道隈迴(みちのくまみ)に 草手折(くさたを)り 柴取敷(しばとりし)きて (とこ)(もの) 打臥伏(うちこいふ)して (おも)ひつつ 嘆伏(なげきふ)せらく (くに)()らば 父取見(ちちとりみ)まし (いへ)()らば 母取見(ははとりみ)まし 世間(よのなか)は 如是(かく)のみならし (いぬ)(もの) (みち)()してや 命過(いのちす)ぎなむ一云(またにいふ)()世過(よす)ぎなむ。】

       內日照臨兮 欲為出仕上京城 育恩垂乳根 離於慈母尊命許 翻山復越嶺 步經未諳國奧處 登降百重山 跋涉長途過行矣 急於刻一刻 欲早見得皇都城 雖抱如此思 雖與同伴共相語 然吾己身疲 勞頓難解更憔悴 玉桙石柱兮 上京道之隈迴處 手折摘野草 拾取柴木敷野地 權以為寢床 倒臥伏兮寢其上 吾人有所念 伏臥嘆息吐悲情 若身在故鄉 嚴父當至看病乎 若身在家居 慈母呵護看取乎 無常此世間 盡皆空虛渺如此 吾猶道野犬 倒臥路徬無人顧 孤零亡此身命哉【一云,孤零亡身別世哉。】

      山上憶良 0886


0887 【承前,六首第二。】

     多良知子能 波波何目美受提 意保保斯久 伊豆知武伎提可 阿我和可留良武

     垂乳(たらち)しの (はは)目見(めみ)ずて 鬱悒(おほほし)く 何方向(いづちむ)きてか ()(わか)るらむ

       育恩垂乳根 慈母之面不得見 鬱悒心暗沉 狐死尚知必首丘 吾今當面何方別

      山上憶良 0887


0888 【承前,六首第三。】

     都禰斯良農 道乃長手袁 久禮久禮等 伊可爾可由迦牟 可利弖波奈斯爾【一云,可例比波奈之爾。】

     常知(つねし)らぬ 道長手(みちのながて)を 黯然(くれくれ)と 如何(いか)にか()かむ (かりて)()しに一云(またにいふ)乾飯(かれひ)()しに。】

       不諳國奧處 道之長遠路途遙 黯然晦不明 是當如何行之耶 糧餉亦無心忐忑【一云,乾飯亦無心忐忑。】

      山上憶良 0888


0889 【承前,六首第四。】

     家爾阿利弖 波波何刀利美婆 奈具佐牟流 許許呂波阿良麻志 斯奈婆斯農等母【一云,能知波志奴等母。】

     (いへ)(あり)て (はは)取見(とりみ)ば (なぐさ)むる (こころ)()らまし ()なば()ぬとも一云(またにいふ)(のち)()ぬとも。】

       若身在家居 慈母呵護看取者 心可得慰藉 寬心舒情獲安寧 如是當死無所憾【一云,其後雖死無所憾。】

      山上憶良 0889


0890 【承前,六首第五。】

     出弖由伎斯 日乎可俗閇都都 家布家布等 阿袁麻多周良武 知知波波良波母【一云,波波我迦奈斯佐。】

     (いで)()きし ()(かぞ)へつつ 今日今日(けふけふ)と ()()たすらむ 父母等(ちちははら)はも一云(またにいふ)(はは)(かな)しさ。】

       顧自發向者 屈指計日數時經 今日今日而 家中引領盼吾歸 吾之嚴父慈母等【一云,吾之慈母可悲也。】

      山上憶良 0890


0891 【承前,六首第六。】

     一世爾波 二遍美延農 知知波波袁 意伎弖夜奈何久 阿我和加禮南【一云,相別南。】

     一世(ひとよ)には 二度見(ふたたびみ)えぬ 父母(ちちはは)を ()きてや(なが)く ()(わか)れなむ一云(またにいふ)相別(あひわか)れなむ。】

       此生一世間 無由二度見親面 嚴父慈母矣 吾置兩親去恒久 今將永別不復逢【一云,今將相別不復逢。】

      山上憶良 0891


0892 貧窮問答歌一首 【并短歌。】

     風雜 雨布流欲乃 雨雜 雪布流欲波 為部母奈久 寒之安禮婆 堅鹽乎 取都豆之呂比 糟湯酒 宇知須須呂比弖 之叵夫可比 鼻毗之毗之爾 志可登阿良農 比宜可伎撫而 安禮乎於伎弖 人者安良自等 富己呂倍騰 寒之安禮婆 麻被 引可賀布利 布可多衣 安里能許等其等 伎曾倍騰毛 寒夜須良乎 和禮欲利母 貧人乃 父母波 飢寒良牟 妻子等波 乞乞泣良牟 此時者 伊可爾之都都可 汝代者和多流 天地者 比呂之等伊倍杼 安我多米波 狹也奈里奴流 日月波 安可之等伊倍騰 安我多米波 照哉多麻波奴 人皆可 吾耳也之可流 和久良婆爾 比等等波安流乎 比等奈美爾 安禮母作乎 綿毛奈伎 布可多衣乃 美留乃其等 和和氣佐我禮流 可可布能尾 肩爾打懸 布勢伊保能 麻宜伊保乃內爾 直土爾 藁解敷而 父母波 枕乃可多爾 妻子等母波 足乃方爾 圍居而 憂吟 可麻度柔播 火氣布伎多弖受 許之伎爾波 久毛能須可伎弖 飯炊 事毛和須禮提 奴延鳥乃 能杼與比居爾 伊等乃伎提 短物乎 端伎流等 云之如 楚取 五十戶良我許惠波 寢屋度麻弖 來立呼比奴 可久婆可里 須部奈伎物能可 世間乃道

     風交(かぜまじ)り 雨降(あめふ)()の 雨交(あめまじ)り 雪降(ゆきふ)()は (すべ)()く (さむ)くし()れば 堅鹽(かたしほ)を 取嘰(とりつづし)ろひ 糟湯酒(かすゆざけ) 打啜(うちすすろ)ひて (しはぶ)かひ (はな)びしびしに (しか)()らぬ 鬚搔撫(ひげかきな)でて (われ)()きて (ひと)(あら)じと (ほこ)ろへど (さむ)くし()れば 麻衾(あさぶすま) 引被(ひきかがふ)り 布肩衣(ぬのかたきぬ) (あり)(ことごと) 著襲(きそ)へども 寒夜(さむきよ)すらを (われ)よりも (まづ)しき(ひと)の 父母(ちちはは)は 飢凍(うゑこ)ゆらむ 妻子共(めこども)は 乞乞泣(こふこふな)くらむ 此時(このとき)は 如何(いか)にしつつか ()()(わた)
     天地(あめつち)は (ひろ)しと()へど ()(ため)は ()くやなりぬる 日月(ひつき)は (あか)しと()へど ()(ため)は ()りや(たま)はぬ 人皆(ひとみな)か ()のみや(しか)る 邂逅(わくらば)に (ひと)とはあるを 人並(ひとなみ)に (あれ)()れるを 綿(わた)()き 布肩衣(ぬのかたぎぬ)の 海松(みる)(ごと) 割分下(わわけさ)がれる (かかふ)のみ (かた)打掛(うちか)け 伏廬(ふせいほ)の 曲廬內(まげいほのうち)に 直土(ひたつち)に 藁解敷(わらときし)きて 父母(ちちはは)は 枕方(まくらのかた)に 妻子共(めこども)は 足方(あとのかた)に 圍居(かくみゐ)て 憂吟(うれへさまよ)ひ (かまど)には 火氣吹立(ほけふきた)てず (こしき)には 蜘蛛巢舁(くものすか)きて 飯炊(いひかし)く (こと)(わす)れて 鵺鳥(ぬえどり)の 呻居(のどよひを)るに 甚除(いとの)きて 短物(みじかきもの)を 端切(はしき)ると ()へるが(ごと)く 楚取(しもとと)る 里長(さとをさ)(こゑ)は 寢屋處迄(ねやどまで) 來立呼(きたちよ)ばひぬ 如此許(かくばか)り 術無(すべな)(もの)か 世間道(よのなかのみち)

       風雨相交雜 亂零紛降黑夜中 雨雪混交降 霙水相雜寒夜間 手足皆無措 以其天寒地凍者 手執麤堅鹽 稍稍嘰之入口內 更取糟湯酒 稍稍嘰之吸吮飲 咳嗽無所止 鼻水濕漉漬面濡 貧困生不堪 搔撫鬚鬍有所思 悠悠此世間 除我之外別無人 氣骨有如斯 又以寒夜凍骨者 取粗妙麻衾 引之被身阻禦涼 更執布肩衣 以所有之麤服類 一皆著襲渡夜長 然以寒夜凍冷冽 貧困潦倒勝吾者 其父母雙親 受凍飢寒苦不堪 其妻兒等者 哭泣求乞令鼻酸 當於此之時 汝當作何如 空蟬憂苦渡世哉
       雖云天地間 六合寬廣甚遼闊 然歎天地大 無處容身於我狹 又雖云日月 普照大地無分別 然吾在卑蔭 幽暗無以獲其光 人皆如此乎 或唯我身如此哉 邂逅偶然兮 有幸為人獲此生 與眾人相並 五根建全無殘闕 然以貧困苦 無綿吾絹布肩衣 殘破如海松 衣衫襤褸裂割分 唯以㡜殘縷 披於肩上以蔽身 豎穴伏廬之 曲廬之內以為居 直於土之上 解藁敷之權作床 安置吾父母 在於枕方上座處 安置吾妻兒 在於足方下座處 圍居處一室 憂吟悲歎道唏噓 徒有空爐灶 炊煙不起無所饗 空有甑瓢類 蜘蛛巢舁無可盛 炊飯烹飪業 年久未行既已忘 虎鶫鵺鳥般 呢喃碎語呻居際 福輙無雙至 愈為短物端更切 俗諺之所如 每知禍總不單行 吾聞取楚之 持鞭促賦里長聲 近至寢屋處 來而呼喊催稅貢 悲涼如此許 舉手無錯失茫然 此蓋世間常理哉

      山上憶良 0892


0893 【承前,短歌。】

     世間乎 宇之等夜佐之等 於母倍杼母 飛立可禰都 鳥爾之安良禰婆

     世間(よのなか)を ()しと()さしと (おも)へども 飛立兼(とびたちか)ねつ (とり)にしあらねば

       空蟬此世間 無處容身不得志 雖欲遁他界 無奈無由翔高天 只因己非禽鳥疇

      山上憶良 0893

         山上憶良頓首謹上。



0894 好去好來歌一首 【反歌二首。】

     神代欲理 云傳久良久 虛見通 倭國者 皇神能 伊都久志吉國 言靈能 佐吉播布國等 加多利繼 伊比都賀比計理 今世能 人母許等期等 目前爾 見在知在 人佐播爾 滿弖播阿禮等母 高光 日御朝庭 神奈我良 愛能盛爾 天下 奏多麻比志 家子等 撰多麻比天 敕旨【反云,大命。】戴持弖 唐能 遠境爾 都加播佐禮 麻加利伊麻勢 宇奈原能 邊爾母奧爾母 神豆麻利 宇志播吉伊麻須 諸能 大御神等 船舳爾【反云,布奈能閇爾。】 道引麻遠志 天地能 大御神等 倭 大國靈 久堅能 阿麻能見虛喻 阿麻賀氣利 見渡多麻比 事畢 還日者 又更 大御神等 船舳爾 御手打掛弖 墨繩袁 播倍多留期等久 阿遲可遠志 智可能岫欲利 大伴 御津濱備爾 多太泊爾 美船播將泊 都都美無久 佐伎久伊麻志弖 速歸坐勢

     神代(かみよ)より 言傳來(いひつてく)らく 虛空見(そらみ)つ 大和國(やまとのくに)は 皇神(すめかみ)の (いつく)しき(くに) 言靈(ことだま)の (さき)はふ(くに)と 語繼(かたりつ)ぎ 言繼(いひつ)がひけり 今世(いまのよ)の (ひと)(ことごと) 目前(めのまへ)に ()たり()りたり 人澤(ひとさは)に 滿()ちてはあれども 高光(たかひか)る 日大朝廷(ひのおほみかど) 惟神(かむながら) ()での(さか)りに 天下(あめのした) 奏賜(まをしたま)ひし 家子(いへのこ)と 選賜(えらひたま)ひて 敕旨(おほみこと)反云(はんにいふ)大命(おほみこと)。】 戴持(いただきも)ちて (もろこし)の 遠境(とほきさかひ)に (つか)はされ 罷坐(まかりいま)せ 海原(うなはら)の ()にも(おき)にも 神留(かむづ)まり 領坐(うしはきいま)す (もろもろ)の 大御神達(おほみかみたち) 船舳(ふなのへ)反云(はんにいふ)舟邊(ふなのへ)に。】 導奏(みちびきまを)し 天地(あめつち)の 大御神達(おほみかみたち) 大和(やまと)の 大國御魂(おほくにみたま) 久方(ひさかた)の 天御空(あまのみそら)ゆ 天翔(あまがけ)り 見渡賜(みわたしたま)ひ 事終(ことをは)り (かへ)らむ()には 復更(またさら)に 大御神達(おほみかみたち) 船舳(ふなのへ)に 御手打掛(みてうちか)けて 墨繩(すみなは)を ()へたる()(ごと) あ(ぢか)をし 值嘉崎(ちかのさき)より 大伴(おほとも)の 御津濱邊(みつのはまび)に 直泊(ただは)てに 御船(みふね)()てむ (つつ)()く 幸坐(さきくいま)して 早歸(はやかへ)りませ

       遠自千早振 亙古神代言傳來 虛空見日本 秀真秋津大和國 皇神國津神 稜威嚴德見在國 真澄言靈之 冥冥真幸所惠國 口耳相流傳 語繼千代傳萬葉 縱令值今世 此類神物靈蹤事 人悉皆見存 觸事有效不謂虛 蒼生續綿延 人滿國中數雖多 空高輝光曜 日繼皇統大朝廷 惟神隨神意 皇澤愛盛此禁中 奏賜報天下 申食國政為股肱 生作名家子 萬中選一負重任 奉持嚴敕旨【敕旨,音大命。】 頂戴尊言聖皇令 遣至震旦國 唐土遠境遙天邊 以為大使而 將罷海西赴異邦 故此祈冥貺 領座蒼溟海原間 近岸遠沖津 神留鎮坐治青渤 八百萬諸諸 神祇大御神者等 願導船舳而【船舳,音舟邊。】 至此行程得風順 天地六合間 八百萬諸大御神 就中大和國 所坐大國御魂矣 遙遙久方兮 天之御空大虛上 自天翱翔而 俯瞰望盡賜加護 待其務終了 衣錦歸國覆命日 復更祈神助 還願諸大御神眾 牽引船舳而 率導航路賜安平 一猶取墨繩 張延玄線之所如 寔遂航筆直 途經阿值值嘉崎 直指大伴之 御津濱邊莫遠迴 直泊著其湊 還冀御船直歸泊 凡事無所障 有幸無恙身硬朗 好去好來早日歸

      山上憶良 0894


0895 反歌 【承前。】

     大伴 御津松原 可吉掃弖 和禮立待 速歸坐勢

     大伴(おほとも)の 三津松原(みつのまつばら) 搔掃(かきは)きて 我立待(われたちま)たむ 早歸(はやかへ)りませ

       難波大伴之 御津松原此地矣 吾今清掃而 引領立待盼汝還 好去好來早日歸

      山上憶良 0895


0896 【承前,反歌第二。】

     難波津爾 美船泊農等 吉許延許婆 紐解佐氣弖 多知婆志利勢武

     難波津(なにはつ)に 御船泊(みふねは)てぬと (きこ)()ば 紐解放(ひもときさ)けて 立走(たちばし)りせむ

       吾聞難波之 大伴三津船著湊 難按心雀躍 衣紐放解不待繫 驅身馳出奔參迎

      山上憶良 0896

         天平五年三月一日,良宅對面,獻三日。山上憶良,謹上大唐大使卿記室。



0897 老身重病,經年辛苦及,思兒等歌七首 【長一首,短六首。】
0898 反歌 【承前,短歌第一。】

     奈具佐牟留 心波奈之爾 雲隱 鳴徃鳥乃 禰能尾志奈可由

     (なぐさ)むる (こころ)()しに 雲隱(くもがく)り 鳴行(なきゆ)(とり)の ()のみし()かゆ

       鬱悶無所解 我心無慰憂莫解 其猶雲隱之 鳴行畫空飛鳥者 發聲啼泣暢哀號

      山上憶良 0898


0899 【承前,短歌第二。】

     周弊母奈久 苦志久阿禮婆 出波之利 伊奈奈等思騰 許良爾佐夜利奴

     (すべ)()く (くる)しくあれば 出走(いではし)り ()ななと(おも)へど 此等(こら)(さや)りぬ

       諸事皆休矣 苦痛無極無術解 雖欲遁出走 前去九泉忘凡塵 此子等者障我行

      山上憶良 0899


0900 【承前,短歌第三。】

     富人能 家能子等能 伎留身奈美 久多志須都良牟 絁綿良波母

     富人(とみひと)の (いへ)子供(こども)の ()身無(みな)み (くた)()つらむ 絁綿(きぬわた)らはも

       富人家之子 服多無身著成餘 絁綿腐朽捨 道是朱門酒肉臭 同時路有凍死骨

      山上憶良 0900


0901 【承前,短歌第四。】

     麤妙能 布衣遠陀爾 伎世難爾 可久夜歎敢 世牟周弊遠奈美

     荒栲(あらたへ)の 布衣(ぬのきぬ)をだに ()(かて)に 如是(かく)(なげ)かむ 為術(せむすべ)()

       麤妙荒栲兮 粗服布衣尚難得 衣不能弊體 縱然終日歎如是 無奈無方萬事窮

      山上憶良 0901


0902 【承前,短歌第五。】

     水沫奈須 微命母 栲繩能 千尋爾母何等 慕久良志都

     水沫為(みなわな)す 脆命(もろきいのち)も 栲繩(たくづな)の 千尋(ちひろ)にもがと 願暮(ねがひく)らしつ

       虛渺如水沫 脆促即逝此命矣 願能如栲繩 延年益壽千尋長 如是發願暮終日

      山上憶良 0902


0903 【承前,短歌第六。】

     倭文手纏 數母不在 身爾波在等 千年爾母何等 意母保由留加母 【去神龜二年作之。但以類故,更載於茲。】

     倭文手纏(しつたまき) (かず)にもあらぬ ()にはあれど 千年(ちとせ)にもがと (おも)ほゆるかも ()にし神龜二年(じんきにねん)(これ)(つく)る。(ただ)し、(るい)(もち)ての(ゆゑ)に、(さら)(ここ)()せたり。】

       倭文布手纏 此身為數不足取 卑微雖如此 仍欲延命渡千年 心懷此願冀久長 【去神龜二年作之。但以類故,更載於茲。】

      山上憶良 0903

         天平五年六月丙申朔三日戊戌作。



0904 戀男子名古日歌三首 【長一首,短二首。】

     世人之 貴慕 七種之 寶毛我波 何為 和我中能 產禮出有 白玉之 吾子古日者 明星之 開朝者 敷多倍乃 登許能邊佐良受 立禮杼毛 居禮杼毛 登母爾戲禮 夕星乃 由布弊爾奈禮婆 伊射禰余登 手乎多豆佐波里 父母毛 表者奈佐我利 三枝之 中爾乎禰牟登 愛久 志我可多良倍婆 何時可毛 比等等奈理伊弖天 安志家口毛 與家久母見武登 大船乃 於毛比多能無爾 於毛波奴爾 橫風乃 爾布敷可爾 覆來禮婆 世武須便乃 多杼伎乎之良爾 志路多倍乃 多須吉乎可氣 麻蘇鏡 弖爾登利毛知弖 天神 阿布藝許比乃美 地祇 布之弖額拜 可加良受毛 可賀利毛 神乃末爾麻爾等 立阿射里 我例乞能米登 須臾毛 余家久波奈之爾 漸漸 可多知都久保里 朝朝 伊布許等夜美 靈剋 伊乃知多延奴禮 立乎杼利 足須里佐家婢 伏仰 武禰宇知奈氣吉 手爾持流 安我古登婆之都 世間之道

     世人(よのひと)の 尊願(たふとびねが)ふ 七種(ななくさ)の (たから)(われ)は 何為(なにせ)むに ()(なか)の 生出(うまれい)でたる 白玉(しらたま)の ()子古日(こふるひ)は 明星(あかぼし)の ()くる(あした)は 敷栲(しきたへ)の 床邊去(とこのへさ)らず ()てれども ()れども (とも)(たはぶ)れ 夕星(ゆふつづ)の (ゆふへ)()れば 去來寢(いざね)よと ()(たづさ)はり 父母(ちちはは)も (うへ)莫離(なさが)り 三枝(さきくさ)の (なか)にを()むと (うつく)しく しが(かた)らへば 何時(いつ)しかも (ひと)成出(なりい)でて ()しけくも ()けくも()むと 大船(おほぶね)の 思賴(おもひたの)むに (おも)はぬに (よこ)しま(かぜ)の (にふふか)に 覆來(おほひきた)れば 為術(せむすべ)の 方便(たどき)()らに 白栲(しろたへ)の (たすき)()け 真十鏡(まそかがみ) ()取持(とりも)ちて 天神(あまつかみ) 仰乞禱(あふぎこひの)み 國神(くにつかみ) ()して額衝(ぬかつ)き ()からずも ()かりも (かみ)(まにま)にと 立亂(たちあざ)り 我乞禱(あれこひの)めど (しま)しくも ()けくは()しに 漸漸(やくやく)に (かたち)つくほり (あさ)()な 言事止(いふことや)み 靈剋(たまきは)る 命絕(いのちた)えぬれ 立躍(たちをど)り 足擦叫(あしすりさけ)び 伏仰(ふしあふ)ぎ 胸打嘆(むねうちなげ)き ()()てる ()子飛(こと)ばしつ 世間道(よのなかのみち)

       世人皆所好 貴慕珍寶七種者 吾豈好之歟 己不能解世人貴 吾等夫婦間 所生來而到此世 無垢白玉兮 吾之愛子古日矣 黎明金星兮 晨曦曙光早朝者 柔細敷栲之 床邊不去更不離 無論立起身 亦或席地坐 相共嬉遊享團鸞 日落大白星 時至誰彼夕暮者 催吾等率寢 攜手牽來如此言 親親父母矣 永遠相依莫離側 三枝梢三分 欲居雙親正中寢 如是令人憐 愛子言語訴如此 迄有朝一日 成人獨立成家業 無論良與惡 吾欲看守至成人 猶乘大船兮 思賴念憑如此時 始料總未及 無常暴風忽急吹 俄然轉瞬間 樯倾楫摧船翻覆 不知何所為 無計可施徒茫然 白妙素栲兮 白襷高掛隨風揚 清澄真十鏡 雙手捧持恭以奉 上對天津神 瞻仰乞禱盡心誠 下對國津神 伏拜叩首示忠敬 無論願不成 亦或願成就 一切盡隨神御意 心焦情慌亂 吾唯乞禱耗心神 然天不從願 病重未嘗稍轉好 否極泰不來 容貌漸漸愈憔悴 每日每朝晨 所言遂止不再發 靈刻魂極兮 其命絕矣下九泉 吾身躍哭踊 擦足叫喚聲淒厲 伏地復仰天 搥胸長歎欲毀滅 掌上明玉矣 吾子羽化罷他界 嗚呼哀哉世間道

      山上憶良 0904


0905 反歌 【承前。】

     和可家禮婆 道行之良士 末比波世武 之多敝乃使 於比弖登保良世

     (わか)ければ 道行(みちゆ)()らじ (まひ)()む 黃泉使(したへのつかひ) ()ひて(とほ)らせ

       吾兒年齒幼 不知泉路將何行 吾不吝為賂 還願地下黃泉使 背負我子通九泉

      山上憶良 0905


0906 【承前,反歌第二。】

     布施於吉弖 吾波許比能武 阿射無加受 多太爾率去弖 阿麻治思良之米

     布施置(ふせお)きて (あれ)乞禱(こひの)む (あざむ)かず (ただ)率行(ゐゆ)きて 天道知(あまぢし)らしめ

       心誠奉布施 吾今乞禱求冥貺 莫欺令遠迴 還冀率其直驅上 令知天道臻仙界

      山上憶良 0906

         右一首,作者未詳。但以裁歌之體似於山上之操,載此次焉。



真字萬葉集 卷第五 雜歌 終