巫女を訪ねて一粒300m

好評(?)の
ノンフィクション第二談。
今回は所長がちょっと不幸です…。
(;_;)


 我輩は犬畜生である。名前はたちゃな。 …と、冗談はさて置き。

 我輩の生息地から南西300mばかり離れたところに、「婚礼貸衣装屋」なるものがあり、そこのショーウィンドゥには、花嫁の心をときめかせるであろう、「婚礼衣装」が飾られていたりする。
 もっとも、「貸衣装屋」といっても、時代を感じさせるような貧乏臭い店舗ではなく、(それほど大きくはないのだが、)小奇麗なビルが一軒建っているほどなので、それなりに繁盛してはいるらしい。(*1)

 ブライダルにあまり興味の無い我輩にとって、さほど心惹かれる店ではないのだが、しかし、我輩の心を捕らえて離さぬアイテムがそこには存在する。それは、"巫女のポスター" である。


 そのポスターは、

「神社の娘でなくとも、
結婚式は神式で挙げようと思っていました。」

と、"既婚の巫女が神社での結婚を奨める" という、少々解りづらい内容のものであり、また、当の巫女モデルもそれほど超絶美麗というふうではない。が、それでも「巫女のポスター」など、そう多く目にする機会は無い。存在するということだけで、既に価値がある という種類のものなのだ。

 街角に溢れんばかりのポスター。しかしそれらのうち、女性モデルの出ているものの多くは、破廉恥極まりない水着姿などのセックスアピールを前面に出した下劣なポスターばかりではないか。哀しき哉!現代日本文化の低俗に墜した姿であることよ。何故麗しき巫女モデルを登用せぬのか。我輩は理解に苦しむ。


(*1)「貸衣装屋」といっても…
ちなみに我輩の生息地は「学生アパート」なる建造物であるが、こちらは名前通りに貧乏臭く、加えて、業者の手抜き工事のため建物の基礎まで傾いてきている。ついこのあいだなど、そうしたボロチックさが原因か否かは知らぬが、羽蟻が大量発生するという大惨事まで惹き起こしてくれた。 (後日、巫研による独自調査の結果、その原因は我輩の部屋に設置した祓札の位置が悪かった為であるらしいことが判明した。大家さんスマヌ。)

 まぁとにかく、お目にかかる機会の少ない、幻の "巫女ポスター" なのである。たとえ雅の心を知り得ぬ一般大衆であれども、そのポスターを前にすれば、十数秒間は釘付けにならざるを得ないであろう。もちろん我輩も例外ではなく、そのまま十数分間はショーウィンドゥの前を離れることが出来なかった。

 …ここで読者諸賢に誤解を与えぬよう言い添えておきたいのだが、我輩は断じて

「うへぇ〜巫女だぁ〜 :D~~~

といった低俗なる心理で眺めていたのではない。そのような心理は、浅学かつ忌むべき存在である巫女フリーカー(*2)にのみ固有のものであり、我輩や他の上流巫女フェティシストとは一線を画するものであることに留意されたい。上流巫女フェティシストの行動原理は、純粋かつ過剰なまでの知的探求心により統率されているものでなければならないのだ。


(*2)浅学かつ忌むべき存在である巫女フリーカー
少し知っているよりは全く知らないでいるほうが、害がなくてよい。うん。

 我輩がその巫女ポスターを、絵画評論家もさもありなんというかたちで審美・評価していると、いきなり背後から

「まぁ、綺麗な花嫁衣裳やねぇ。」

 なにぃっ! 我輩としたことが、背後を取られたかっ!!!

 …不覚にも、そこには自転車に乗った近所のオバチャン&オッチャンが、(彼らの言うところには "もの欲しそうな顔で")ショーウィンドゥを覗き込んでいた我輩に声をかけているのである。

 いわゆる絶体絶命の境地、「前門の巫女後門のジジババ」である。我輩は振り向けなくなってしまった。なぜなら、振り向いた瞬間、我輩を "花嫁衣裳に見とれているピュアでロマンティックで可愛い女の子" と錯覚(*3)している近所のオバチャンの健全な精神を害してしまうおそれがあるからだ。我輩が如何に "フェミニストで知的で優しげなナイスガイ" であれど、その二者間の差異は甚だ大であり、精神的なショックを与えぬわけが無い。誰とも知れぬオバチャンではあるが、他者に対して不用意にダメージを与えてやりたくはないというのが人の心、仏の道でいうところの「慈悲心」というものであろう。勿論我輩自身もダメージを受けたくなど無いのである。

 それゆえ、我輩はそのまま動かず、これらジジ&ババをやり過ごすのが良かろうという結論に達したわけである。…が、そうこうするうちに時のみ過ぎれども、ジジ&ババは一向にその場を去ろうとしない。なんという想像を絶する暇人!それどころか、あぁ、これはいったい、ありうべきことだろうか?!ジジ&ババは自転車を降り、我輩の隣で一緒に花嫁衣裳を見ようと、近寄ってきているのではないか?

「とっ、年甲斐もなく、こんなの見るんぢゃねぇ!
我輩はこの脇にある、"巫女ポスター" を眺めておるのだ。
ひかえおろう。」

と思えども、クールでシャイな我輩には、そんな荒れたセリフを口にすることなどできない。そのうちにも、ジジ&ババは段々と近づいてきている。あぁ、もう駄目だ。駄目なんだったら。(;_;)


(*3)ピュアでロマンティックで可愛い女の子と錯覚
我輩は一般的な女性よりも髪が長く、変にウェーブのかかっていることも無いので、背後から見れば超絶美麗な女性にみえないことも無い。(実際、背後からナンパされたことがある) 蛇足ながら、化粧をすれば正面から見ても超絶美麗(?)な女性にみえないことも無い。(実際、女の子に化粧され、オモチャにされたことがある)

 ジジ&ババ、そして "フェミニストで知的で優しげなナイスガイ" の行方は、誰も知らない。
 南無阿弥陀仏ゝゝゝゝゝゝ。

− 後日談 −

 今でも時々、我輩はその店へ巫女ポスターを眺めにいくのだが、あまり人目につかないようにと配慮することは忘れない。我輩も少しは成長したのだ。

 そして、もしあなたが街で、"巫女ポスター" の前に佇む "フェミニストで知的で優しげなナイスガイ" を見かけたら、そのときには、そっと一人にしておいてはくれぬだろうか。我輩からささやかな愉しみまで奪うこともあるまい。




 おしまい.


(執筆日/1996年6月 初出/巫女装束研究所ホームページ)


研究所へ戻る